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らは、faultシリーズの二次創作18禁小説です。

キャラの設定には独自の解釈が含まれ、ストーリー展開は公式のものではありません。


セルフィーネは、窓の外を見つめていた。


灰色の雲が低く垂れ込め、昨夜の雨の名残がまだ石畳を濡らしている。

通りを行き交う人の姿もまばらだ。 


そのモノクロな風景の中に、昨夜から戻らないリトナの姿がないかずっと探し続けている。


昨夜、「少し調べたいことがある」とだけ言い残して出て行ったきり——

彼女は朝になっても、帰ってこない。


「……リトナ、どこへいっちゃったの?」


セルフィーネは、膝の上で両手を握りしめた。淡い青色の瞳が、不安に揺れている。


こんなことは、初めてだった。

リトナは、どんなに危険な任務でも、必ずセルフィーネに一言告げてから動く。


私がいてほしい時にはいつだった側にいた。 

ルゼンハイドが災いに見舞われたあの夜だって、彼女は私を守ってくれた。

そして今も流浪の身になった私と苦楽を共にしている。


無断で朝を跨ぐなど、あの子らしくない。


「ルーン、あなたは何か聞いていない? リトナがどこへ行ったか......」


セルフィーネは振り返る。


部屋の隅に、ルーン…いや、サラが立っていた。水色の髪をツインテールに束ねた少女。

朝いちばんに「おはよう!」と元気に手を振りそうな彼女が——今朝は、ずっと黙り込んでいる。


この子もまた昨日から様子がおかしくなっている。


「ごめん、今はサラって呼んだ方がいいんだっけ......? どうしたの? 顔色が悪いわ」


サラの表情は、いつもの無邪気さを失っていた。エメラルドブルーの瞳が、床の一点をじっと見つめている。


昨夜、サラは見てしまった。森の中で。ぐったりとしたリトナを片腕で抱え上げ、闇へ消えていった——自分と同じ顔をした、あの化け物を。


だが、それをセルフィーネにどう伝えればいいのか。

サラには、わからなかった。伝える言葉が、どうしても見つからなかった。


「......セルフィーネ…さん。」


やがて、サラは震える声で口を開いた。


「リトナさんは......、昨日の夜、お墓のある方へ行ったの。

ひとりで。何か、確かめたいことがあるって......」


「お墓......?」


「わたし、心配で......後を追ったの。でも......」


サラの声が、そこで止まった。


続く言葉を、彼女の唇は紡げなかった。ゼヴィッツの——お兄様の身内であるあの存在について。サラは、それを語ることを、自分自身の奥深くで固く禁じられているかのようだった。


「でも、なに......? ねえ、サラ。リトナに、何かあったの......?!」


セルフィーネは、サラの両肩を掴んだ。


サラは答えられなかった。ただ、エメラルドブルーの瞳が、微かに揺れた。


それだけで、セルフィーネには十分だった。


——リトナが、危ない。


胸の奥で、何かが弾けた。じっとしてなんていられない。


「探しに行ってくる」


セルフィーネは立ち上がった。


「だ、だめ......! セルフィーネさん、それはだめ。......!」


「だって、リトナが困ってるかもしれないんでしょう?! だったら、こんなところで待ってなんていられない......!」


セルフィーネは、旅装の外套を羽織った。金色の髪を後ろで括り、震える指で紐を結ぶ。


「ルーン、あなたはアルバスさんを呼んできて。あの人なら、きっと何か知ってる。......お願い」


「で、でも......!」


「大丈夫。私、お墓の方へ行くだけだから。リトナを見つけたらすぐ戻る。約束するわ」


それが、あまりにも軽率な約束だと——この時のセルフィーネはまだ知らなかった。


サラが引き止める間もなく、セルフィーネは宿の扉を開け、灰色の朝の中へ駆け出していった。


金色の髪が風にひるがえる。


その背中をサラは追いかけなければいけないと思っているのに、体はいうことをきかなかった。


機械人形の軛。 ゼヴィッツ家の者に反抗してはならないという根源的なプログラムが彼女を引き留める。


オリジナルのルーンはきっとセルフィーネにもひどいことをする。そして、それを心から楽しむだろうということが片割れである自分にもわかるのだ。


それが理解できるからこそ、セルフィーネを追うという簡単な行動にも制限がかけられてしまう。


「......セルフィーネ」


サラの呟きは、誰にも届かなかった。


「何よ…、やっぱり私はただの機械じゃない……。 友達を守ることもできない。

ただの役立たずの人形じゃない……。」


ルーンは力なく腰を下ろした。 いくら出したいと思ってもその光のないガラスの瞳からは涙は溢れない。 その現実が彼女からますます無機質に表情を奪うのだった。


---

カディア市の郊外。


古い墓地は、朝もやの中に沈んでいた。


苔むした墓標が、傾いだまま列をなしている。人の気配はない。ただ、湿った土と雨に洗われた石の匂いだけが漂っていた。


「リトナ......! どこにいるの......!」


セルフィーネの声が静寂に吸い込まれていく。


返事はない。


彼女は墓地を抜け、その奥に広がる暗い森へと足を踏み入れた。

木々の葉から、昨夜の雨が雫となって落ちてくる。地面はぬかるみ、一歩ごとに靴が沈んだ。


そして——


「......っ!」


足元に、何かがあった。


小動物の死骸。


泥にまみれた、小さな塊。手足が切り取られ、腹が裂かれている。まるで、中身を確かめるように——丁寧に、解体されていた。


セルフィーネは口を押さえた。込み上げるものを、必死に堪える。


「なに、これ......」


セルフィーネの背筋を、冷たいものが這い上がる。


好奇心旺盛で、めったに物おじしない彼女でさえ、本能が告げていた。

ここは、訪れてならない場所だと。


それでも足は止まらなかった。


なぜなら——死骸の間に点々と、見覚えのあるものが落ちていたからだ。


砕けた、硝子の欠片。


リトナが、マナから生成する武器の残骸。雨に濡れて鈍く光るそれは、確かにこの森の奥へと続いていた。 そして、彼女がそれを出したということは何か脅威となるものに対峙したということだ。


「リトナ......、この先にいるのね......」


セルフィーネは震える足でその痕跡を辿った。


森はやがて開け、朽ちた建物が姿を現した。 それは古い教会だった。


尖塔は半ば崩れ落ち、壁は蔦に覆われている。ステンドグラスは砕け、うろのような窓が、暗い内部を覗かせていた。とうの昔に神に見捨てられた、死者たちの家。


その扉が——わずかに、開いていた。


「............」


セルフィーネは、ごくりと唾を飲んだ。

心臓が、痛いほど脈打っている。逃げ出したいと身体のどこかが叫んでいる。


けれど。


その扉の奥に、リトナがいる。


「......リトナを、見つけなきゃ」


セルフィーネが両手で扉を押すと、錆びた蝶番が悲鳴のような音を立てた。


ーー


宿屋から持ってきた燭台に蝋燭を載せ火をともす。


教会の中は、闇に沈んでいた。


崩れた天井の隙間から差し込む、鈍い外の光。埃が、その光の帯の中でゆっくりと舞っている。かつて祭壇があったのだろう場所には、砕けた石の残骸だけが残されていた。


「リトナ......? いるの......?」


セルフィーネの声が、がらんとした空間に反響する。


奥に、下へと続く階段があった。地下——納骨堂へと通じる、暗い口。


そこから、微かに、冷たい空気が流れてくる。


セルフィーネは、一段、また一段と、闇の中へ降りていった。壁に手をつきながら。指先が、ひやりと濡れた石に触れる。


地下室は、広かった。


石造りの壁に、古い骨壺が並んでいる。天井からは水が滴り、床には水たまりができていた。そして、その中央に——


黒い棺が置かれていた。 蓋は、開いている。


「............」


そして、その傍らに誰かが立っていた。


「......リトナ......!」


セルフィーネの顔が、ぱっと輝いた。

安堵が、恐怖を一瞬だけ押しのける。


見慣れた後ろ姿。長いマントを羽織っているのか体のラインは良くは見えないが、あの紫の髪。間違いない。


「リトナ! よかった、無事だったのね......! 私、心配で——」


セルフィーネは、駆け寄ろうとした。

その人影が、ゆっくりと、振り返る。


そして——セルフィーネの足が、凍りついた。


マントからのぞく蒼白な裸体。血のように赤い瞳。


かつての凛とした光は、そこになかった。代わりにあるのは、獲物を見つけた獣の——冷たく、飢えた輝き。


リトナは黒いマントを纏っていた。表地は黒、裏地は血のような赤。

その姿はどこか、ルゼンハイドで自分たちを襲ったあの女、メラノを彷彿とさせた。


「......リト、ナ......?」


セルフィーネの声が、震えた。


「セルフィーネ様、帰りが遅くなってすいません。」


その声は、確かにリトナのものだった。同じ音域、同じ声色。けれど——そこには、セルフィーネを守ることだけに生きてきた、あの温かさが、もうなかった。


「どうして......、そんな目で......。リトナ、なにが......あったの......?」


「なにも」


リトナは、薄く笑った。唇の隙間から、鋭く伸びた白い牙が覗く。


「ただ、目が覚めただけ。......セルフィーネ様を幸せにするために何をすればいいか、完全に理解しただけ…。」


一歩、リトナが近づく。


その瞬間、セルフィーネの全身から、力が抜けた。


「......え......?」


膝が、震える。立っているのがやっとだ。

まるで、身体の中の何かを——芯そのものを、少しずつ抜き取られていくような感覚。


「マナが......、吸われて......」


「ああ、感じる…。 セルフィーネ様のマナは甘く温かい…。」


リトナの赤い瞳が、うっとりと細められる。


「リトナ、やめて......! 目を、覚まして......!」


逃げなければ、と頭ではわかっている。けれど、できなかった。目の前にいるのは、化け物なんかじゃない。世界でいちばん信頼した大事な人。剣を向けることも、背を向けて逃げることも、彼女にはできなかった。


「リトナは......、私のことを、守ってくれるって......。リトナがいれば、どこへだって、一緒に行けるって......!」


涙が、頬を伝う。


「約束、したじゃない......!」


そのとき、リトナ赤い瞳の奥で——ほんの一瞬、何かが揺れた。


金色の髪。青い瞳。涙。


めのまえの人は。大切な、大切な——。


「......っ」


リトナの手が、ぴくりと止まった。喉の奥から、呻きのような声が漏れる。まるで、二つの意志が、その身体の中でせめぎ合っているかのように。


「......に、げ......」


掠れた、別の声だった。


「にげ、ろ......セルフィーネ様......! わたし、は......もう......」


「リトナ......!」


セルフィーネは、力の入らない手を伸ばした。その頬に、触れようとした。


けれど——


「にげろ・・・!!」


リトナは渾身の力を振り絞るように叫ぶ。

そのとき、セルフィーネの体は急に自由になった。


そして、弾かれるようにもと来た道をたどって走り出したのだった。




「————あら、だめじゃない」


甘く、冷たい声が、闇の奥から響いた。

棺の陰。骨壺の並ぶ暗がりから、もう一つの影が、音もなく滑り出てくる。


青い髪のツインテール。エメラルドブルーの瞳。裸の上に纏った、黒と赤のマント。


ルーンだった。本物のルーン。


「せっかくの、初めての獲物でしょう? 途中でお預けなんて......あんまりだわ。ねえ?」


ルーンは、リトナの背後からその肩に手を置き、耳元で囁いた。とろけるような、毒の滴る声で。


「思い出さなくて、いいの。

ぜんぶ、忘れていいのよ。......ただ、お腹を満たすことだけ、考えて」


リトナの赤い瞳から、揺らぎが——消えていく。

わずかに残っていた、あの温かい光が。ゆっくりと、闇に呑まれていく。


「......ぁ......」


「ふふ…、愛しているんでしょう? 私にもわかる。

だったら、逃げないように捕まえないと。 あなたにはその力があるんだから……。」


ルーンはリトナの耳たぶに唇を触れさせとびきり甘く囁いた。


「愛するものは手に入れてめちゃくちゃにしましょう・・・。

私があなたにしたように・・・。


大事に扱う必要なんてない・・・。 外側も中身も、すべて愛する。

それが壊すということ・・・。」


「・・・はい・・・。」


リトナはふらふらと歩みを進め、セルフィーヌを追い始めた。


「うふふ・・・♡」


ルーンはマントで自らの体を包み込み、リトナの姿を見送る。


ーー


「出口は・・・、出口はどこ?!」


どこまでもつづく暗い石の回廊に恐怖が加速し、気が動転する。

日が隠れてしまったのか、短いはずの回廊の出口が見えない。 


リトナという心の支えを失った彼女にとって、もう手に持った蠟燭の光は冷静な判断を下せるだけの安心を与えてくれなかった。


そのうち、後ろの闇から、バサバサと布がはためくような音が聞こえ始める。

彼女が振り向いた瞬間、目の前を真っ赤な輝きが覆う。



「リトナ......、いや......っ、リトナ......!!」


セルフィーネは、叫んだ。

バサァァ、とリトナのマントが触手のように彼女の体を覆っていったのだ。


「いやあぁぁぁ…!!」


けれど、身体は動かない。マナを吸われ、指一本、満足に動かせない。


リトナの——いや、もはやリトナだったものの顔が、ゆっくりと近づいてくる。

その目は暗い興奮に爛々と輝き、およそ理性という物を失った獣のようだった。

白い牙が、セルフィーネの細い首筋に狙いを定める。


冷たい吐息が肌を撫でた。


「......いただきます、姫様」


牙が、沈んだ。


セルフィーネの細い首筋に、白い刃のような牙が、深く突き立てられる。


「——っ、......ぁ......」


痛みは、一瞬だった。


そのあとに訪れたのは、もっと恐ろしいもの。


熱くて、冷たい。リトナの唇から、何かが流れ込んでくる。

マナを吸い取られていくのと引き換えに、身体の奥へ——どろりと暗いものが、注ぎ込まれていく。


邪悪な、甘い快楽。


それは血管を伝い、指の先まで、爪の一枚一枚まで染み渡っていった。セルフィーネは、自分の中の"何か"が、ゆっくりと塗り替えられていくのを感じた。あたたかかったものが、冷たく。清らかだったものが、濁って。


(......いや......)


(こわい......こわいよ、リトナ......)


涙が、止まらなかった。


これで、終わってしまうんだ。ルゼンハイドも救えない、民を守るという誓いも、故郷へ帰る旅も——ぜんぶ終わり。


この冷たい地下で、闇に溶けて消えていく。


絶望が、黒い水のように、セルフィーネの心を満たしていく。


——けれど。


首筋に押し当てられたリトナの唇が、微かに震えているのに、セルフィーネは気づいた。


牙を突き立てながら。血を啜りながら。それでもリトナは——まるで泣いているように、震えていた。


その頬を伝った雫が、ひとつ、セルフィーネの肩に落ちる。


熱い。


リトナの、涙だ。


(......リトナ......。あなたも......苦しいんだね......)


わかって、しまった。


目の前のこの子は、化け物に堕とされてもなお、心のいちばん奥でもがいている。

セルフィーネを喰らう自分自身に抗おうとして——けれど抗いきれずに、声もなく泣いている。


それが、たまらなく、哀しかった。 そして愛しかった。


もう、逃げようとは思わなかった。抗おうとも、思わなかった。

セルフィーネは、力の入らない腕を、ゆっくりと持ち上げた。


そして——自分の血を啜るリトナの背に、そっと、回した。


「......いい、よ......リトナ......」


掠れた声で、囁く。


「あなたが......戻って来られないなら......。私も、行くから......。ひとりに、しない......」


リトナの身体が、びくりと跳ねた。


「あなたがいれば......どこへだって行けるって......言ったもの......。

だから、いっしょ......だよ......」


それは、姫としての誇りでも、勇気でもなかった。ただ、いちばん好きな人を、独りぼっちの闇に置いていけない——幼く、まっすぐな想いだけが、そこにあった。


セルフィーネは、堕ちていく自分を受け入れながら、リトナを、力なく抱きしめた。

いつか転んで泣いた日に、リトナがそうしてくれたように。


リトナの喉から、声にならない嗚咽が漏れた。


やがて、その牙は——首筋をはなれ反対側の首へと突き刺さる。

セルフィーネの体がビクンッと跳ねた。


リトナは積年の想いをぶつけるかのように、幾度か牙を突き立て、血に濡れた唇でそ彼女の頬にキスをするのだった。


やがて、セルフィーネの腕から、力が抜けていく。

視界が、白く霞んでいく。冷たい地下室が、遠ざかっていく。


最後に見えたのは、崩れた天井から落ちる、一滴の水。

それが、まるで星のように光って——


セルフィーネの意識は、闇の底へと、沈んでいった。


ーー


「......ふふ」


ルーンが、満足そうに嗤った。


ぐったりと動かなくなったセルフィーネはそれでも、ビク、ビクと震えている。

体の中に渦巻く甘く邪悪なマナの奔流をいまだに処理しきれていないようだ。


リトナはようやく牙を離した。腕の中の小さな身体を、じっと見下ろしている。その頬には、まだ涙の痕が、乾かずに残っていた。


「泣いているの? リトナ。」


ルーンが、背後からその顔を覗き込む。


「いいのよ、それで。壊すときに心が痛むほど、あとで愉しくなるんだから。......さあ」


ルーンは、開いたままの黒い棺を、指し示した。


「その子を、そこへ。あなたと同じにしてあげなさい。あなたの血を分けて——おそろいの、可愛い子にしてあげて」


ただ、命じられるままに、セルフィーネの身体を、黒い棺の中へと横たえた。壊れやすいものを扱うように、そっと。


(......ごめん......ごめんね、セルフィーネ様......。)


声にならない言葉が、リトナの中で渦を巻いていた。


(わたしは......守れなかった......。罪深いことをしてしまった……。

なのに、なのに……、今あなたが自分の手の中にあることがこんなにも嬉しい…。


こんなにも興奮している……。 私は悪魔に堕ちたんだ……。


それでも、あなたの愛がたまらなく欲しい。何をしてでも…貴女を手に入れたい。

ほんとうに、ごめんなさい。 せめて......ひとりには、しないから......)



リトナは自らの手頸を噛んで血を口に含むと、口移しで彼女に流し込んだ。

血がセルフィーネの唇を濡らし、口の中へと流れ込んでいく。


数秒が、過ぎた。


そして——


棺の中で、セルフィーネの身体が、跳ねた。


背が弓なりに反り、指先が虚空を掻きむしる。細胞のひとつひとつが、内側から作り替えられていく。インナーポールの、王族の——豊かなマナを湛えたその身体は、ルーンやリトナのとき以上に貪欲に、その邪悪な力を呑み込んでいった。


やがて、苦悶が、静けさに変わる。


そして。


セルフィーネの、瞼が、開いた。


——赤い。


夕日よりも、血よりも、なお深いあの赤。淡い青色だった瞳はもうどこにもない。闇の中で、二つの赤い光が、妖しく灯っていた。


「......あ、ぁ......」


掠れた声を漏らし、セルフィーネは、ゆっくりと身を起こす。金色の髪が、肩を滑り落ちた。


その仕草に、もう、あの元気いっぱいの少女の面影は——なかった。


代わりにあったのは、飢え。


「......おなかが......すいた......」


その呟きに、ルーンは恍惚と目を細めた。


「ふふ、ふふふ......! 可愛い。ほんとうに、可愛いわ......」


黒い棺の中に、寄り添う二つの影。そして、それを見下ろす、もう一つの影。


三つの赤い瞳が、地下室の闇の中で、静かに燃えていた。


やがて、ルーンは、朽ちた祭壇の残骸の上へと歩み出た。二人の"眷属"を、従えて。


「さあ——ここからよ」


赤い舌が、そっと唇を舐める。


「まずは、この街。カディア市を味わい尽くしましょう。

それから、アウターポールぜんぶ。マナに飢えたこの世界を、私たちの狩り場に変えるの」


リトナも、セルフィーネも、答えない。ただ、赤い瞳で、静かに主を見上げている。


「でも——その前に」


ルーンの顔に、これまでとは違う、ひときわ濃い愉悦が滲んだ。まるで、恋する乙女のように。


「どうしても、会いに行きたい人がいるの。......私の、いちばん大切な人」


うっとりと、闇の奥を見つめて、彼女は囁いた。


「お兄様に——大人になった私を、見てもらわなくちゃ」


地下室の奥で、三つの赤い光が、ぬらりと揺れた。

滅びの夜の始まりだった。


ーー


ゼヴィッツ・エンタープライズ本社、最上階。


CEO執務室の窓の外を、赤い光が舐めていた。


火事だ。カディア市の、あちこちで。

けれど、ルドは振り返りもしなかった。分厚い執務机に突っ伏し、空になった酒瓶を握りしめている。


床には割れたグラス、散らばった書類、砕けた調度品。この数日の荒廃が、そのまま部屋を埋め尽くしていた。


わかっていた。この日が来ることは、ずっと前から。


「......来たか」


不意に部屋の中に満ちる甘くどこか懐かしい匂いにルドは、顔を上げなかった。


「ふふ。ただいま、お兄様」


甘く、涼やかな声。

いつのまにか、部屋の中央に、彼女は立っていた。

青い髪のツインテール。裸の上に纏った、黒と赤のマント。


エメラルドブルーの瞳が、炎の照り返しの中で、爛々と輝いている。

かつて、十かそこらで死んだはずの妹。それが今は、成熟した女の姿となって——嗤っていた。


「見て。私大きくなったでしょう? 

お兄様が最後に見たときは、まだ、あんなに小さかったのに」


ルドは、ゆっくりと立ち上がった。そして——


「この、化け物がァッ......!!」


酒瓶を力任せに投げつけた。ルーンは、避けもしなかった。

瓶は白い頬をかすめ、背後の壁で砕け散る。飛んだ破片が、その頬に、赤い一筋を刻んだ。


だが、その傷は——見る間に、塞がっていく。


「ふふ……、ひどいわ、お兄様。久しぶりの再会なのに」


ルーンは、頬を伝う自分の血を指で拭い、うっとりと、それを舐めた。


「でも......いいの。そういう顔が、見たかったんだもの」


ルドの全身が、震えていた。恐怖ではない。いや、恐怖も、ある。


だが、それ以上に——憎悪だった。


「わかってたんだ。俺は、ずっと......! お前がどれだけ邪悪な存在か!


どれだけ悍ましい娘か......! でも、誰も信じてくれなかった......!」


「知ってる。かわいそうなお兄様。

お兄様はずっと正しかった。


だから、ずうっと、独りぼっちだったのよね」


ルーンは、ゆっくりと近づいてくる。


「でもね。もう、いいの。もう、誰にもわかってもらわなくて。」


「......だって、私がお兄様を一番わかっているもの。 これからは、私がずっと、傍にいてあげるんだから。

幼い頃、お兄様がずぅっと私の傍にいてくれた時のように……ね。」


「ふざけるなァッ......!!」


ルドが、殴りかかった。

だが、その拳は、届かなかった。


「......あ......」


膝から、力が抜ける。全身のマナが、みるみる吸い出されていく。

彼女に近づいた、ただ、それだけで。


ルドは床に膝をついた。

ルーンはその前にしゃがみ込むと、兄の顔を両手でそっと包んだ。


壊れ物を扱うように。優しく。


「ねぇ、お兄様。ひとつ告白しても、いい?」


その瞳が、恍惚と潤む。


「私ね......蘇ってから、ようやく感情という物がわかったの。 

足りないマナが身体中に満ちて、ふわっと身体も心も軽くなった。 ずっと心を抑えていた重しがとれたみたいに。」


「驚いたわ。私の中にもこんな湧き上がる思いがあったなんて。 生きてた頃は、わからなかった。

何かを壊すことで感じる喜びも、傷つけることで感じる充実感も、すべてはこの心の震えが欲しくてやったことなんだってようやく理解できたの。」


ルーンは、にんまりと笑ってルドの顔を見る。


「そして、理解したのよ。 どうして、他のなにより——お兄様を困らせることが、いちばん、心が震えたのか…」


「......なにを、言って......」


「兄様。あなたを、誰よりも愛していると言ったら......信じて、くれるかしら?」


ルドの目が、見開かれた。


「この、燃えるみたいな気持ち。憎いのと、愛しいのが、ぜんぶ一緒くたになって......。

それが全部、お兄様に向いてるの。 私が目覚めてから何よりも壊したいと思ったのがお兄様なの……。

こらえきれないわ。その様を想像するだけでこの胸が高鳴るほどに…。」


「や…やめろ…。 お前はなんて悍ましい……。 

お前は…、どれだけ俺を苦しめれば気がすむんだ……。」


「あぁ、そうよねお兄さま……。 やはり認めてくれないわよね。

いいのよ、あなたが絶対にそれを受け入れないってことはわかっていたから。」


ルーンは、ルドの頬から手を離すと、彼を見下ろしながら立ち上がる。


「それで、あなたがもっと、もっと私を厭って、絶望してくれることも......ぜんぶ、たまらないの。

壊したいくらい、好き。壊れるところが見たいくらい、愛してる。......ふふ、変よね。でも、これが、私なの」


バサアァァァァ。


ルーンは、羽織っていたマントを両手で大きく広げる。


成長した自らの、許されざる邪悪な愛を秘めたそのすべてを目の前の男にさらけ出すように。

「お兄様、愛を交わしましょう……。」


「......っ、やめろ......」


ルドは、吐き気を覚えた。目の前の“女”の愛は、あまりに歪で、あまりに純粋で——だからこそ、どこにも逃げ場がなかった。


「いやだ......、来るな......、俺に、触るな......ッ!」


その怯えようを見て、ルーンは、くすりと嗤った。


「......ねぇ。まだ、なんでしょう? お兄様。あれから、ずっと」


「......?」


「私のせいで、女の人が、怖いんでしょう? 誰のことも、ほんとうには愛せないんでしょう? ......その年になっても、お兄様の周りには女の子の気配もない。」


ルーンの目が意地悪に歪む。


「貴方が、目を向けるのは、いつだって私の姿を模したお人形ばかり♡」


ルドの顔から、みるみる血の気が引いていく。

幼い日、妹の本性を知ってしまった、あの日から。ルドの心の奥には、氷の棘が刺さったままだった。


誰かを愛そうとするたび、あの残虐な妹の影がちらつき、身がすくむ。

彼の傲慢さも、すべてはその傷を隠すための、薄っぺらな鎧にすぎなかった。


だが、それは本当に憎悪からだったか? サラに向ける冷たい態度はルーンへの執着の裏返しではなかったか。


「ちがう…、ちがう……俺はお前なんか…。」


「私の秘密を知ってから、ずっと毎日手をつないでくれたことを覚えてる?

嬉しかったんだよ、私。 だってお兄様の手から伝わってくるんだもの。

ドキドキと高鳴る鼓動…。」


「やめろ…、やめろ……!!」


「あのときは、お兄様ったら私にべったりだったわよね……。 口では私を叱りながら、お父様よりも私のことを見てた! 誰よりも私のことを想ってた!」


「私はずっと気づいてたよ! お兄様は私に執着しているんだって!

なんて悍ましくて、醜いのかしら…、ふふふ…お兄様。

私達って似た者同士だと思わない?」


ルーンは、囁いた。


「私だけを見ていて。私だけを、憎んでいて。......それで、じゅうぶんでしょう?」


そう言い終えると、ルーンは兄の肩を押し、ゆっくりと床に押し倒した。

抵抗する力など、すでに残っていない。


マナを奪われ、膝をついていた身体は、彼女の細い腕の中で玩具のように軽い。


「......な、にを......っ」


「静かにして。......ずっと、こうしたかったの」


ルーンはルドの上に跨がり、両手首を頭の上で抑えた。

青い髪がカーテンのように落ち、兄の顔を覆う。近い。

近すぎる。甘い匂いと、冷たい吐息が、すぐそこにあった。


「や、めろ......! お前なんかに......触れられる覚えは......ない......ッ!」


ルドは顔を背けようとした。

だが、ルーンは片方の手でその顎を掴み、無理に正面を向かせる。エメラルドブルーの瞳が、至近距離で輝いていた。


美しかった。憎たらしいほどに、恐ろしく、美しかった。


「お兄様のそういう顔......大好き」


次の瞬間、柔らかい唇が、重ねられた。

——っ。冷たくて、甘い。血の匂いが微かに混じった、深いキス。


ルーンは貪るように、しかし丁寧に、兄の唇を押し開き、舌を滑り込ませてくる。

拒絶しようと歯を食いしばっても、マナを奪われた身体は思うように動かない。


ただ、熱だけが、無理やり口の中に流れ込んでくる。


(化け物だ......この女は、化け物だ......!)


頭の中で、そう叫び続けている。なのに。胸の奥が、小さく、蠢いた。


長い間、誰にも許さなかった感触。

柔らかく、熱を持った何かが、強引に境界を越えてくる感覚。


ルーンの長い睫毛、白い肌、落ちてくる青い髪の感触。憎悪しているはずの相手の美しさが、視覚と触覚を通して、否応なく胸に沈んでくる。


(だめだ......、こんなのダメだ......)


ルドは目を閉じ、歯を食いしばった。これは穢れだ。


憎むべき敵に、身体を、そして心の端を、汚されているだけだ。それ以外の何ものでもない。


そう自分に言い聞かせる。言い聞かせ続けなければ、このまま何かが壊れてしまいそうで——怖かった。


それでも、唇の端が、わずかに震えた。ルーンは、その微かな反応を見逃さなかった。


キスを深くしたまま、彼女は目を細め、嬉しそうに喉の奥で笑った。


離れた後も、兄の唇を親指で優しく撫でながら、うっとりと囁く。


「......やっぱり、ときめいちゃったんだね。少しだけど」


「......っ、違う......! そんな......はずが......」


「嘘。目が泳いでるもの…。

憎いのに、きれいだって思ってしまったのでしょう? 

私にキスされて、嫌なのに、熱くなっちゃったのでしょう?」


ルーンは、兄の頰に自分の頰をすり寄せた。まるで大切なおもちゃを確認するように。


「その葛藤が......たまらなく、いとおしいの。お兄様。拒絶しながら、揺れてしまうところ。

憎みながら、私を見てしまうところ。全部、全部、愛しいわ」


彼女はもう一度、軽く唇を重ねた。今度は短く、しかし確かな所有を示すように。


「大丈夫。認めなくてもいいの。 決して認めなくていい…そんなところが好き。

ずっと、拒んでいて……。そのたびに、私が壊して、また拾ってあげるから」


ルドの意識が、遠のいていく。抗おうにも、身体が動かない。奪われていくマナと共に、力が、意志が、薄れていく——。


最後に残ったのは、唇に残る甘い感触と、自分の中で小さく揺れてしまった何かを、必死に否定しようとする残響だけだった。最後に聞こえたのは、闇に溶けるような、妹の、子守唄めいた声だった。


「おやすみなさい、お兄様……。 ......目が覚めたら、もっと素敵なものを、見せてあげる。

あなたを絶望に落とすための、いろんなおもてなしを用意しているからね…、ふふふ♡」


ーー


どれくらい、経ったのか。


ルドが目を覚ましたのは、冷たい石の上だった。


朽ちた教会の、地下。骨壺の並ぶ、納骨堂。何度もマナを奪われた身体は、指先ひとつ、まともに動かせない。


「......気がついた? よかった」


正面の、黒い棺に腰かけて、ルーンが微笑んでいた。勝ち誇ったように。心の底から、満ち足りたように。


「ここはね、私が生まれ変わった場所。......お兄様にも、いつか、見せたかったの」


「......殺せ」


ルドは、掠れた声で、絞り出した。


「もう、いい......。好きに、しろ......。どうせこの街も、世界も......お前に、めちゃくちゃにされるんだろう......。」


「あら。そんなに簡単に、終わらせてあげると思う?」


ルーンが、指を鳴らした。


暗がりの奥から、二つの影が音もなく歩み出てくる。


金色の髪の女、そして、その傍らに寄り添う紫色の髪の女。二人とも、黒と赤の長いマントを纏っていた。


ルドの目が、凍りついた。


「......その女は......、あの、よそ者の?!」


「そう。今は私の、可愛い妹たち。」


ルーンは、うっとりと二人の頬を撫でた


「お兄様は、私のせいでいまだに独り身。 私があんまり魅力的だからとはいえ妹としては責任を感じちゃうわ!」


もう無くなるとはいえ、ゼヴィッツ家の当主で会社の代表。

そんな貴方がシスコンなのは格好がつかないわよね? ふふ…、だから私が素敵な子達を用意してあげたの!


女の子と交わる楽しみを知って貰いたいものね! 敬愛するお兄様への、妹からの贈り物よ。」


ルーンは、歌うように言った。


「インナーポールの麗しいお姫様、そして、由緒正しいガーディアンの家の娘。

どちらもお兄様のお相手にふさわしい乙女だと思わない?」


「......やめ、ろ......」


赤い光に照らされた二つの影が、ゆっくりとルドへと歩み寄っていく。


「ふふふ・・・、はじめての獲物ね。 ぞくぞくするわ。 リトナ、一緒に楽しみましょう。」


「セルフィーヌ様、それはいいですがこの男の態度は気に入りません。 少し、手荒に躾けてやることをお許しください。」


「あぁ…、ああぁ……!!」


ーー


暗い石室の空気はすでに甘く、重く淀んでいた。


二人の女の手ですっかり弱らされた青年は、二人に包まれながらなすすべなく身をよじっていた。


正面から覆いかぶさるように迫るのは、セルフィーネの肉感的で艶やかな体躯、背中から腕を回し、耳元で低く嗤うのは、より冷たく知的な笑みを浮かべたリトナ。


「怖がらないで……。 私に身をゆだねていいよ……。」


セルフィーネがゆっくりと顔を寄せる。

金色の髪がルドの頰に触れ、甘い吐息が唇にかかった。


ちゅ…、ちゅっ、 ちゅぷ……はぁ…! んっ、ちゅっ、ちゅぱ…っ!

正面から抱き締められ、豊満な胸に押しつけられながらルドの若い体は熱く疼いていた。


セルフィーネもまた吸血鬼になることで開放された肉体の疼きと、もともとあった年頃の衝動によって、ルドとの交わりに夢中になっているのか、そのキスは執拗で長く、むさぼるようだった。


その背後で、リトナが冷ややかな声を落とす。


「……ふん。最初は随分と反抗的だったくせに」


彼女はルドの背中に密着し、指先でその肩から腰へとゆっくりと撫で下ろす。

ルドは不意にくすぐられてびくびくとわなないた。

リトナは唇をルドの耳殻に寄せ、噛むように言葉を吐き出した。


「今はどうだ? セルフィーネ様にキスで蕩かされて、私の指先で弄ばれて。

腰を勝手に動かし始めているじゃない。こんなに簡単に堕ちるなんて無様だな?」


「ちゅ・・・、ちゅっ  ふふふ、リトナ、あまり意地悪しないの。」


ルドは否定しようと口を開くが、セルフィーヌがさらに深く舌を絡めてくる。甘い蜜のような味が口内に広がり、思考が白く濁る。


体はすでに彼女たちのリズムに従い、快感に震えていた。リトナが背中から腕を回し、青年の胸に手を這わせる。指先で乳首を軽く摘まみながら、嘲るように囁く。


「よくみればハンサムだし。 私、男の人って初めてだけど悪くないわ…。 むしろ気に入ったかも♡」


セルフィーヌが腰を少し浮かし、既に固くなっている彼自身を彼女の熱い内部に導いていく。


「もっともっと気持ちいいことした~い♡」


ヌププ・・・、ヌプヌプ・・・!!


「・・・!! あぁぁ・・・ああぁぁ・・・!!」

沈み込むたびに、彼女の内側が柔らかく締めつけ、快感が波のように押し寄せる。


吸血鬼と化して変化したセルフィーネの股間は、まるで既に幾人もの男を舐め溶かしてきたかのように彼の弱点を嬲り始める。


「ふふふ、その意固地な態度は女の子のやさしさを知らないからでしょう?

可愛そうに……。 そんな子にはたっぷりと優しくしてあげたいな。  ちゅっ、チュッ…。」


彼女はキスを解かず、むしろさらに深く、ねちっこくルドの唇を味わう。

彼女の腰が上下に揺れ、熱い粘膜が彼を締めつけ、引き抜いてはまた深く飲み込む。


ぐちゅ・・・、ぐちゅちゅ・・・、ぬちゅ・・・ぱちゅ・・・


それと呼応するように、彼女の中も、襞のひとつひとつが明確な捕食の意思をもつように波打ちうねり、ルド自信を攻め抜くのだった。


「ふふ……いいのよ。私に全部、吐き出して。」


セルフィーヌの甘い声がに耳を満たす。ルドはついに限界を超え、彼女の中で熱いものを迸らせた。


ドクドク……ドクドクドク……!!


「ああぁ~~~、ああぁぁ……!!」


精気が彼女に吸い取られる感覚とともに、体から力が抜けていく。しかし二人は止まらない。


セルフィーヌは正面からルドを包み込むように覆いかぶさったまま、甘い声を紡いだ。


「大丈夫よ……私に任せて。優しく、ゆっくり……全部受け取ってあげるから」


その言葉は蜜のように優しかった。頰を寄せ、額にキスを落とし、唇を優しく重ねる。舌を絡めて甘く吸い上げ、唾液をねっとりと流し込む。


まるで愛を囁く恋人のように、彼の不安を溶かそうとする仕草。


しかし——腰の動きは、その甘い言葉とは全く違っていた。

セルフィーネが腰を持ち上げ、重く柔らかな太ももで彼の腰を挟み込むと、次の瞬間、容赦なく叩きつけた。


肉感的な太ももと尻が彼の下半身に激しく衝突する。

柔らかいのに、その動きは激しく重く、衝撃が骨の芯まで響く。


「ん……っ、あ……!」


青年の喉から、苦しげな吐息が漏れた。

セルフィーネは微笑みを崩さず、再び腰を高く持ち上げる。重くたゆんたゆんと揺れる太ももが、次の一撃を予告するように彼の視界を掠める。


「いい子……もっと、私に預けて」


甘い声と同時に、再び激しく叩きつけられる。


ばちゅ・・・、ばちゅばちゅ・・・、ばちゅ、ばちゅっ!!


「うあぁぁぁぁ……!! あああぁ!!」


女を知らないルドの体に、その甘く激しすぎる攻めを受け止める力はなかった。

少女二人の手で彼はおもちゃのように弄ばれていく。


「お前は、もう権力者でもなんでもない。 これからは、セルフィーネ様と私の所有物であり奴隷だ。 私たちの与えてやる快楽をその身に刻み込め…。」


「セルフィーネ様は、お前の精気の味がお気に召したようだ。 これまでの無礼を詫びて期待を裏切らないように命を注ぎつづけろ。


でも、それだけで済むと思うなよ。 セルフィーネ様に無礼を働こうものなら、私の手でお前を干からびるまで絞り尽くしてやる。 


セルフィーネ様が満足したら、今度は私の中にお前の命を注げ。

たっぷりと調教して礼儀を叩きこんでやるからな。」


「ふふふ…、リトナったら、そんなこといってあなたもこのボウヤを味わいたくてたまらないんでしょう?  


いいんだよ。 この子はもう私たちのものなんだから!」


彼女の内部は熱く、湿り、貪欲に彼を締めつけながら、一気に根元まで飲み込む。


「さぁ、味わわせて!!」


打ち付ける勢いは容赦がなかった。毎回、根元まで深く沈み込み、内部の粘膜が青年のものをねっとりと締め上げ、引き抜くたびに内側を擦り上げる。

まるでポンプのように、精を強制的に押し出そうとする動き。


そして、ルドの精神は決壊した。


どくどく.... ビュルルッ!! ドクドクドク……!!


電気を流されたように痙攣しながらルドは感じた。

命が、根こそぎ搾り取られていく感覚を。下腹部から、体が溶けて吸い出されていくような、生々しい喪失感。


精気がセルフィーネの体内へ流れ込み、自分の存在が少しずつ薄くなっていく恐怖。体が冷えていくような寒気と、意識が遠のきそうな脱力感。


……なのに。その恐怖を、圧倒的な快楽が塗りつぶしていく。

セルフィーネの内部は熱く、柔らかく、執拗に収縮を繰り返す。彼女の重たい太ももに挟まれ、叩きつけられるたびに、快感が脳天まで突き抜ける。甘いキスが続く中で、舌を絡められ、息を奪われ、思考がドロドロにとろけていく。


「はあ……っ、だめ……こんなの……」


青年が喘ぐ声は、すでに懇願に近かった。

リトナとセルフィーネはとろけ切った彼の顔を見ながらくすくすと笑った。

彼女たちは優しく微笑んだまま、さらに激しく腰を打ち付ける。

重くやわらかな太ももが、青年の腰骨に何度も叩きつけられ、淫らな水音が部屋に響いていた。


「ふふふ、お兄さま。 これから少しずつ、時間をかけてあなたを壊してあげる。

すぐに壊れて動かなくなってしまわないように、ちゃんと、気をつけながら」


「殺しはしない。ぜったいに。だって——」


彼女の顔に、これまでのどんな表情よりも、深く、澄んだ悦びが、浮かんだ。


「これから私たちが、この世界を、どんなふうに壊していくのか。お兄様には、ぜんぶ、見ていてほしいんだもの。

最後の、最後まで。


愛してるわ、お兄様。......これから、ずっと、ね」


ルーンの声も、ルドの喉から漏れる弱弱しい悲鳴も、地下の闇に、静かに、呑み込まれていった。


最愛の人を壊すという——ルーンにとって、至上の悦び。


今夜は、そのほんの始まりに、すぎなかった。


(終)



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