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悪魔の薬によって精神まで完璧にメス堕ちし、奔放なわがままタレントへと変わり果てた元マネージャー。立場も性別も、愛の形も完全に反転した二人が行き着いた先は……ダークTSF小説

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

1.奇妙な条件

最近の芸能界で、ソロの女性アイドルがブレイクするのは、宝くじを当てるようなものだ。


大人数のアイドルグループが主流の時代に、弱小事務所「ステップ・ワン」に所属する七瀬彩実瑠(ななせ あみる)がソロでヒットチャートを駆け上がったのは、控えめに言っても奇跡に近かった。


その奇跡を守るため、マネージャーの六車黎(むぐるま れい)は睡眠時間を削りながらも、充実した日々を送っていた。


「六車。ギガ・プロモーションの黒崎さんから連絡があったよ」


恩義のある社長が、六車に心底困ったような顔で言ったのは、彩実瑠のサードシングルがヒットチャートトップ10に入った週のことだった。業界最大手からの呼び出し。それが意味することは一つしかなかった。


(引き抜きか……)


ホテルのラウンジで対面した黒崎豪は、高級スーツを着こなし、余裕のある笑みを浮かべていた。


「七瀬彩実瑠をうちに移籍させたい。移籍金は君たちの事務所が数年遊んで暮らせる額を出す」


黒崎は淡々と続けた。


「六車君、君も一緒に来たければ来ればいい。大手のマネジメントを学べるチャンスだぞ」


「いえ、私は……」


黎の中に恩義のある社長を裏切るという選択肢はなかった。しかし、彩実瑠にとっては弱小事務所に留まるより、ギガ・プロに移った方が未来は明るいだろう。二人三脚でここまで歩んできた自負はあったけれど、大手の資本力には敵わない。悔しさはあるが、それが彼女のためになるなら背中を押すべきだ、と黎の理性は告げていた。


「嫌です。六車さんじゃないなら、私、アイドルなんて明日で辞めます」


事務所に戻って話を伝えると、彩実瑠は激しく首を振った。彼女の目は本気だった。黎への信頼は、すでに恋愛感情に近いものになっていたのかもしれない。


そんな彩実瑠の手を強引に振り払うことは、黎には出来なかった。


黎は黒崎に断りの連絡を入れた。


その翌日から、奇跡の終わりが始まった。


彩実瑠が出演予定だった音楽番組は「編成上の都合」で直前にキャンセルされ、内定していた化粧品のCMは別のギガ・プロのアイドルに差し替えられた。地方のラジオ局に至るまで、彩実瑠の曲のオンエアが不自然に止まった。大手の妨害行為は、見事で、そして容赦がなかった。


スケジュール帳が白紙になっていくのを見て、黎が自分の無力さを痛感していた時、再び黒崎から呼び出しの連絡が入った。指定場所はギガ・プロモーションの本社ビル。


「どうしても移籍を断るか……」


役員室で、黒崎は爪を弄びながら言った。


「はい、申し訳ないのですが……」


「なら、代わりの条件を出そう。嫌がらせも止めてやるし、七瀬君には特番の枠をくれてやる。その代わり、六車君が隔週で一週間、我が社に『研修』として出向するのはどうだ?」


「研修……ですか」


あまりに唐突で釣り合わない条件に、黎は眉を寄せた。


「ああ。大手のやり方を教えてやる。それだけだ。嫌なら、七瀬彩実瑠は来月には業界から消える」


「わかりました」


彩実瑠を守るための選択肢は、それしかなかった。


*****


ギガ・プロモーション本社ビルの地下には、一般社員が立ち入れない特別エリアがあった。


そのエリアにある防音処理が施された密室のベッドに、黎は拘束されていた。


「何をするんですか? ……これは」


黎の問いに、白衣を着た男たちは答えなかった。黒崎は部屋の隅で、楽しそうにその様子を眺めている。


男たちの一人が、透明な液体が入った注射器を取り出した。


「染色体変転核酸『アポロン』。ある製薬会社が開発した凄い薬だ。控えめに言っても、これを開発した人間は天才だな」


黒崎が言い終わると同時に、冷たい注射針が腕に刺さり、透明な液体が血管に流れ込んでくる。


直後、黎の身体に「内乱」が起きた。


骨が軋み、筋肉と臓器が蠢くような異様な感覚。激痛というよりは、身体全体の構造が強制的に書き換えられていくようだった。胸の奥が熱く疼き、皮膚が柔らかく変化する。股間の肉が収縮し、別の形へと作り替えられていく。


「あ……っ、う……」喉から漏れた声は、自分でも驚くほど高かった。


一晩かけて、肉体の反転は完了した。


黒崎に促されて鏡の前に立った黎は息を飲んだ。そこにいたのは美しい女だった。


(彩実瑠くらいの年齢か……)


長い髪が、豊かに実った胸の谷間に柔らかく落ちている。瑞々しい肌、くびれた腰、男の欲望を刺激するような顔立ち。そこに、元の黎の面影はほとんど残っていなかった。


「どうだ。それがお前の新しい姿だ」


黒崎が低く笑った。


自分の新しい姿を目にして、黎は震えていた。新たな重心の変化に足元がふらつき、太ももが擦れ合うだけで、ぞわぞわとした甘い痺れが走る。


黒崎は黎の顎を掴み上げ、その顔をじっくり観察した。


「……驚いたよ。元は地味な男だったのに、X染色体に眠っていた母親譲りの遺伝子が開花したわけか。……男ウケするな、これは」


当初は、黎に対する単なる嫌がらせと精神的な屈服が目的だった。しかし、変貌した黎の身体は、見る者の欲情をダイレクトに刺激するような小悪魔的な佇まいを持っていた。


「予定を変更しよう」黒崎の声が響く。


「六車君、いや『レイ』。お前を我が社の秘密兵器としてデビューさせる。七瀬彩実瑠の前に、最強のライバルとしてぶつけてやる。自分を守ったマネージャーが、自分を潰すアイドルだとは、夢にも思うまい。はははは……」


その後一週間、黎が受けたのは「研修」などという生易しいものではなかった。


肉体的、精神的な調教。それは、新しい女性の身体に快感を刷り込み、男に媚びるための振る舞いを脳に焼き付ける作業だった。


ベッドの上で、黒崎やギガ・プロの男性社員たちが、作られたばかりの敏感な乳首や秘部を、指や舌、ありとあらゆるものを使って容赦なく責め立てる。


「あ、うそ、そこ……らめ……っ」


男としての理性は必死に抵抗した。しかし、『アポロン』によって女として最適化された肉体は、与えられる愛撫に敏感に反応し、甘い蜜を溢れさせる。男たちの好む甘えた声、視線の外し方、身体のくねらせ方が、快楽の条件反射として黎の脳に刻まれていった。


*****


一週間が経った、研修最終日――


目の前に座る黎は、調教の成果か、無意識に女のような目つきで黒崎を見ていた。黒崎はそれを確かめると、満足そうな表情を浮かべて1シートの錠剤を差し出した。


「発現阻害安定剤『アルテミス』、特殊な鎮静剤の一種だ。一日一回、これを飲んでいる間だけ、お前は元の冴えない男に戻れる」


黎は黙ったまま、潤んだ目で上目遣いに黒崎を見つめる。


「ただし、一回につき七日分しか渡さない。つまり、男でいたければ、お前は一週間後にまた、この部屋に戻ってこなければならないということだ」


黎は、不思議そうな目で錠剤を眺めると、その一錠を口に放り込んだ。


すぐに、全身に激痛が走り、彼(彼女?)は床に転がって、激しくのたうち回る。


「あっ! うっ……」


数分後、床に倒れていたのは、冷や汗を流し、息を切らせた元の六車黎だった。


「……くそ……」強烈な自己嫌悪が黎を襲う。


ぼんやりとした記憶ながらも、この一週間、自分が淫らなことをされ、それを喜んで受け入れていたことがわかる。しかし、それを思い出そうとすると、頭が割れるような激しい頭痛に襲われ、視界が白くなった。


「さあ、帰っていいぞ。愛しい七瀬彩実瑠がお前の帰りを待っているんだろ」


黒崎は勝ち誇ったようにそう言った。


ポケットに『アルテミス』を入れ、黎はよろめきながら立ち上がり、重い足取りで役員室を後にした。

2.一石二鳥

事務所に戻った六車黎を待っていたのは、七瀬彩実瑠の泣き腫らした顔だった。


「六車さん! どこに行ってたんですか……連絡も全然つかないし、心配したんですよ!」


彩実瑠は駆け寄るなり、黎の袖を強く掴んだ。その仕草に胸の奥が重くなる。


「すまない。ギガ・プロで急な研修が入ってね。携帯も持ち込めなかったんだ」


黎は極めて普通のトーンで嘘を言った。自分でも驚くほど滑らかに言葉が出た。


しかし、彩実瑠の純粋な瞳を見つめていると、胸の奥から何とも言えない不快な感情がせり上がる。


(俺は、あの場所で何か、とても恥ずべきことをしていた……)


しかし、具体的に何をしていたのかを思い出そうとすると、激しい頭痛が黎を襲う。


「うっ……!」


黎は思わず顔をしかめ、こめかみを押さえた。


「六車さん……大丈夫ですか?」


「大丈夫だ。少し寝不足なだけだから。それより、彩実瑠。明日からまた仕事が入るよ。テレビの特番枠も一つ決まった」


「本当ですか!?」彩実瑠の顔がぱっと明るくなった。


黒崎の言った通り、嫌がらせは完全に止まった。それどころか、弱小事務所では到底手が届かないような好条件の仕事が、向こうから舞い込んでくるようになった。


以前の黎の忙しい日常が戻ってきた。しかし、それは薬によって辛うじて保たれた日常だった。


一日一回、ポケットから『アルテミス』を一錠取り出し、水で飲み干す。そうしなければ、自分が自分でなくなってしまう。


そして、次の二十四時間が近づくと、必ず前兆が訪れた。骨の節々が軋み、皮膚の下がむずむずと痒くなるような感覚。身体が「女」に戻りたがっているようだった。


そのたびに黎は、急いで薬を口に放り込んだ。


*****


一週間はあっという間に過ぎた。


手元の『アルテミス』がなくなった日、黎は再びギガ・プロモーションの本社を訪れていた。


最後に『アルテミス』を飲んで、ちょうど24時間後、最初の時とは違い肉体が作り替えられる激痛が全身を貫いた。黎はベッドの上で身体を丸め、声を殺して耐える。骨が縮み、筋肉が溶け、身体が強制的に女の形へと書き換えられていく。


最初一晩かかった変化が数分で終わると、そこには完全に女の身体になったレイがいた。


「レイ。気分はどうだ?」


部屋に入ってきた黒崎が、ベッドの端に腰を下ろす。


「悪くないわ。頭がすっきりしてる」


男の姿のときとは別人のように、レイは滑らかな声で答えた。黎の時とは違い、レイの頭脳は極めてはっきりと、自分が男の姿の時に何を考え、どう怯えていたかも把握していた。


「男の時の私は、ずいぶん無駄な感傷に浸っているみたいね」


レイはふっと笑い、長い髪をかき上げた。


黒崎の手が腰に伸び、薄い生地越しに撫でられると、すぐに秘部が熱くなり、甘い蜜がじわりと溢れてくる。調教で開発された身体は、男の手に敏感に反応した。


「今週は大きな仕事がある」


黒崎はレイの唇を親指でなぞりながら言った。


「キー局の編成局長との会食だ。次期アニメタイアップの枠がかかっている。お前が上手くやれば、その枠はギガ・プロの新人『レイ』のものになるぞ」


「ふふ、いいわね」レイは小さく微笑んだ。


言外の意味を理解した黎の理性が「やめろ」と叫んでいる。これまで、マネージャーの黎はタレントにそんなことをさせて仕事をとったことはなかった。


だが、レイは黎の声を完全に無視した。


(局長と寝るだけで、デビュー曲と全国ネットのタイアップが手に入るんでしょう?)


肉体は激しい快楽を得られ、芸能界での利権も手に入る。


「それって、一石二鳥じゃない」


レイは黒崎の首に細い腕を絡め、耳元で甘い声を出しながら、媚びた笑みを浮かべた。


その夜、帝都ホテルのスイートルームで、レイの「初仕事」が行われた。


好色な様子を隠そうともしない編集局長は、部屋に入るやいなや、レイの細い身体を抱き寄せた。


「レイちゃん……新人とは思えない風格だね、君は」


局長は濁った目でレイを見つめる。その指は太ももを這い上がり、湿った秘部に沈み込んだ。


「あっ、あぁん……そんなことありません。私、すごく緊張しているんです……」


レイは上目遣いで局長を見つめ、わざと甘えた声を出す。男がどんな仕草を好み、どんな声に弱いのか、調教された彼女の身体は完璧に理解していた。


それからベッドに押し倒されて、自ら脚を開き、局長の大きなペニスを迎え入れるまでに、それほど時間はかからなかった。


「あ、んっ……すごい、おっきい……っ」


黎であれば、吐き気を催すようなシチュエーションだったけれど、熱く硬い感触にレイの子宮は悦び震える。


レイは局長の首にしがみつき、自ら腰を激しく振った。レイの膣壁がペニスをきつく締め付ける。


「もっと奥まで入れてぇ……」


局長が激しく突くたび、レイの豊かな胸が揺れ、甘い喘ぎ声が部屋に響く。


「あんっ! あっ、あっ……! もっと、激しく……壊して……っ」


とろけるような快感が、何度も何度もレイを襲う。絶頂を迎えるたびに、彼女の口からは鈴が鳴るような悲鳴が漏れた。


「いい子だ……もっと声を出せ」


その夜、局長はすっかりレイの虜になり、何度も彼女の身体の中に欲望を吐き出した。


翌朝、ギガ・プロモーションの役員室で、レイは黒崎の前に座っていた。


「よくやった、レイ。これで来月、お前は華々しくデビューだ」


黒崎は満足そうに笑い、アニメタイアップの契約書と、1シートの『アルテミス』をデスクに滑らせた。


レイは、女らしい甘えた目つきで黒崎を見つめる。


「ありがとう、黒崎さん」


レイはそれらを受け取り、男を惑わせる笑みを浮かべた。


今の彼女は男の姿に戻りたいなどとはまったく思っていなかった。しかし、心のどこかにある義務感のようなものが、彼女の指を動かす。


「はぁ……」


レイは小さくため息をつくと、しぶしぶといった様子で『アルテミス』を一錠、口に含んだ。


数分後、黒崎の前にいたのは、呼吸荒く汗だくになった黎だった。


「六車君、もう帰っていいぞ」


黒崎の声に黎がふらつきながら立ち上がる。


「ああ、服を着替えていった方がいいぞ。そんなパツパツのワンピースじゃ、おかしいだろ」


黒崎は、大人の男の身体には小さすぎる服を見つめ、いかにも愉快そうに笑った。


黎は言葉もなく自分の衣服に目を落とし、よろめきながら更衣室へと向かった。


「六車さん。私のために、無理はしないでください」


一週間ぶりに会った彩実瑠は、開口一番、心配そうにそう言った。


「何のこと?」


「私の仕事を取るために、ギガ・プロの言いなりになっているんですよね」


「誰がそんな……」


「社長から聞きました。隔週の研修はそのためだって」


(まったく、あれほど、彩実瑠には言わないでくれと口止めしてあったのに……)


お人好しの社長が、彩実瑠に詰め寄られている様子が目に見えるようで、黎は苦笑いした。


「心配しなくていいよ。それよりも、俺がいないときも仕事がんばってくれよ」


「もちろんです。気持ちはいつも六車さんと一緒ですから」


そう言って、彩実瑠はにっこり笑った。黒崎との約束は守られ、彩実瑠のスケジュールは確実に埋まり始めていた。


数日後、打ち合わせを終えて、黎と彩実瑠がテレビ局の廊下を歩いていると、向こうから、あの編集局長が歩いてきた。局長は黎のことなど一瞥もせず、すれ違っていく。ただそれだけのことだった。


しかし、すれ違った瞬間、黎の身体が異常な熱を帯びた。心臓が激しく脈打ち、顔が火照る。そして信じられないことに、地味なスーツのズボンの下で、自分のペニスが硬く勃起していた。


突然、記憶がフラッシュバックする。


『あ、んっ……局長、そこ、きもちいい……っ』


自分が女の姿で、あの局長にしがみつき、自ら腰を振って歓喜の声を上げていた断片的な記憶が、鮮明な映像として脳裏に蘇る。


黎は激しい眩暈を覚え、近くの壁に思わず手を突いた。割れるような頭痛が視界を白く染めていく。


「六車さん、大丈夫ですか?」


そばにいる彩実瑠の声が遠くから聞こえた。


(俺は男だ。あれは……俺じゃない)


黎は壁を強く掴み、心の中で必死にそう言い聞かせる。


「大丈夫……大丈夫だから」


そう答える黎のズボンの下では、彼の意思を無視して、ペニスがまだ熱く猛り狂っていた。

3.覚醒と焦燥

ギガ・プロモーションからデビューした大型新人・レイの快進撃は、芸能界の勢力図を一気に塗り替えた。


彼女には他のアイドルにはない奇妙で強力な武器があった。


男たちが何を求め、どんな仕草で喜ぶのかを本能的に理解しているような立ち回り。媚びているのにどこか醒めていて、それでいて決定的な瞬間には極上の笑みをくれる。その小悪魔的な魅力に、世の男性たちは一瞬で夢中になった。


当然、その影響を最も受けたのは七瀬彩実瑠だった。


ソロアイドルとしての希少価値はレイに奪われ、ファンはまたたく間に流れていった。タイアップのついたレイのデビュー曲が街に流れるたび、彩実瑠の表情から生気が失われていく。


「六車さん、どうして最近、そんなにギガ・プロに行くんですか? なにをしているんですか?」


理由がわかっているはずの彩実瑠が、床を見つめながら言った。


「研修の一環だよ。向こうの命令で、レイの現場を手伝わされているんだ。大手のやり方を間近で見るのも、彩実瑠のためになるからね」


黎はいつものように、淡々と嘘をついた。あれ以来、嘘をつくのが上手くなった。


彩実瑠が顔を上げ、黎をじっと見つめる。その目には焦燥と、抑えきれない嫉妬が滲んでいた。


「私より、あのレイって子のほうが可愛いからですか? 六車さんも……あの子に夢中なんですか?」


「そんなわけないだろう」


「じゃあ、どうして私を見てくれないんですか!」


彩実瑠の声は震えていた。


黎は返す言葉がなかった。実際、今の黎には彩実瑠をまともに直視する余裕などなかった。黎の肉体と精神は、すでに限界に近づいていた。


『アルテミス』を飲んで男でいる時間は、彼にとってはただの拷問だった。


薬が切れかかると、骨が軋み、皮膚の下がむずむず疼き、身体が女に戻ろうと暴れ出す。しかし、それ以上に苦しいのは、レイから戻った後だった。自分がレイの姿で何をしていたのか、おぼろげな記憶は自己嫌悪を呼び起こし、はっきり思い出そうとするたびに、頭が割れるような頭痛が黎を襲った。


(俺は男だ。六車黎だ。あんな女は俺じゃない)


毎日、そう自分に言い聞かせなければ立っていられなかった。


しかし、二週間ごとの「研修」期間、つまり『アルテミス』を断ってレイに戻っている間は、皮肉なほどに快適だった。


激痛もなければ、頭痛もない。自己嫌悪の代わりに感じるのは、男たちを思いのままに操る全能感と、身体に刻み込まれた極上の快楽だけだった。


「男の時の私は、本当に馬鹿ね……」


テレビ局の楽屋で、レイは鏡に向かって口紅を塗りながら小さく笑った。


レイとしての彼女は、黎の時の自分がどれほど苦しみ、怯えているかを全て知っていた。その上で、それをひどく滑稽で、無意味な抵抗だと感じていた。


「あんなに痛くて、毎日怯えて生きるなんて正気じゃないわ。女のままでいれば、こんなに気持ちよくて、何でも手に入るのに」


その日も、レイはテレビ局のプロデューサーとの「仕事」を終えたばかりだった。


身体には、まだ男の熱と精液の感触が残り、下着の奥が甘く疼いていたが、その見返りにゴールデン枠のバラエティ番組へのレギュラー出演が内定した。一石二鳥、これ以上ない合理的な取引だった。


レイは化粧ポーチから『アルテミス』のシートを取り出した。これを飲めば、また地獄のような男の時間が始まる。激痛と頭痛とわけのわからない罪悪感の日々。


彼女はしばらくそれを眺めていたが、やがてシートごとゴミ箱に放り捨てた。


「もう、戻らなくていいや」


鏡の中の美しい女に向かって、レイは満足そうに微笑んだ。六車黎はこの瞬間、自らその存在を放棄した。


*****


それから一週間、六車黎はステップ・ワンの事務所に一度も姿を現さなかった。


携帯も繋がらない。彩実瑠の不安と疑念は、すでに狂気じみた領域に達していた。黎が自分を捨てて、あのレイの元へ行ってしまったという確信だけが、彼女を突き動かしていた。


「六車さん、どこにいるの……」


彩実瑠は帽子を深く被り、ギガ・プロモーションの本社ビルに忍び込んだ。弱小事務所のアイドルとはいえ、顔は知られている。警備員の目を盗み、以前黎から聞いていた研修エリアのあるフロアへと向かう。


静まり返った廊下の奥、一つの部屋から女の声が漏れていた。


(ここにいる……)


彩実瑠は直感を信じ、ドアのノブに手をかけた。


ドアの隙間から見えたのは、高級ソファーの上で、だらしなく身体を預けたレイの姿だった。


彼女の衣服は乱れ、豊かな胸がほとんど露わになっている。そして、その上に、ある局のプロデューサーの男が覆いかぶさっていた。


「あっ……んんっ……そこ、すごく気持ちいい……はあっ」


レイは男の首に細い腕を絡め、甘く高い声で喘ぎながら、自ら腰をくねらせていた。卑猥な音が部屋中に響き、愛液が彼女の太ももを伝って滴り落ちる。


その表情には、嫌悪感などまったくなく、むしろ男を誘惑するような小悪魔的な笑みが浮かんでいた。


彩実瑠はショックで凍りついた。しかし次の瞬間、彼女の目はレイの胸元に釘付けになった。


激しく揺れる白い胸の谷間。そこには、かつて黎が彩実瑠を庇って負った、古い火傷の痕が、そっくりそのまま残されていた。


(同じ形、同じ位置。間違いない……でも、どうして……)


4.役割反転

翌日、テレビ局の楽屋で、レイはプロデューサーに買ってもらった新しいブランド物のバッグを眺めていた。


そのとき突然、ノックもなくドアが開いた。入ってきたのは七瀬彩実瑠だった。


レイはバッグを置き、いつものように小悪魔のような笑みを浮かべる。


「あら、七瀬さん。楽屋にノックもなしで入るなんて、マナー違反よ。ところで、何か用かしら? 六車なら、今はいないわよ」


彩実瑠は黙って部屋に入ると、静かにドアの鍵を閉めた。そしてレイの正面に立ち、まっすぐ見つめる。


「昨日の夜、プロデューサーと一緒にいたのはあなたよね?」


彩実瑠の声は、これまで黎が聞いたことのないような硬い声だった。


レイは一瞬目を見開いたが、すぐにくすくすと笑う。


「見てたの? 趣味悪いわね。でも、芸能界なんてそんなものでしょ。私が少し可愛い声をあげて股を開くだけで、仕事なんていくらでも奪えるんだから…」


「どうしてそんなことをするんですか、六車さん……」


彩実瑠が遮るように言った瞬間、楽屋の空気が凍りついた。


レイは笑うのを止め、諦めたように肩をすくめた。


「気づいちゃったんだ。つまらないの。でも、もう遅いわ。あの冴えない男は、もうどこにもいない。私はレイ。男たちに可愛がられて、贅沢して、痛みのない世界で生きるの。その方がずっと気持ちいいもの」


「私を守るために、そんな身体になったの?」


彩実瑠が一歩近づいた。


「最初はそうだったかも。でも、今は違う。この身体が気に入ってるの。男の時の記憶なんてつらいだけで、思い出す価値もないわ」


レイはソファーに深く背を預け、長い脚を組んだ。その仕草は、完全に男を惑わすためのものだった。


「彼女の言う通りだよ、七瀬彩実瑠くん」


いつの間にか、彩実瑠の背後には黒崎が立っていた。


「黒崎……」彩実瑠が睨みつける。


「六車はもう戻らないよ。あいつは遺伝子レベルで女になって、女のままでいる方が気持ちよくて楽だって気付いてしまったみたいだ」


「そんな……そんなことないですよね? 六車さん」


彩実瑠は、縋るような目でレイを見つめる。


「う~ん、黒崎さんの言ってることは大体合ってるのかなぁ。でもね、私はレイだから。その六車さんって男のことは、もうよくわからないんだよね」


レイはネイルを弄りながら、興味なさそうに話す。


「……だそうだよ」


黒崎は勝ち誇ったようににやりとした。


「でも、私は諦めません」


黒崎は彩実瑠の言葉を面白がるように小さく拍手した。


「だったら、面白い場所へ案内してやる。お前のその覚悟が本物かどうか、試してやろう」


*****


一時間後、ギガ・プロモーション本社ビルの地下の特別エリア――かつて六車黎がレイに変えられた部屋に彩実瑠はいた。


「これは六車に使ったのと同じ、染色体変転核酸『アポロン』だ」


黒崎が注射器を持って立っている。


「あいつは、男に戻る苦痛よりも女の快楽を選んだ。お前がいくら縋っても、あの冴えないマネージャーは帰ってこない。だが――」


黒崎が冷たい声で続ける。


「お前が男になって、あのわがままなアイドルのマネージャーになれば、一生あいつの隣にいられるぞ。スケジュールを管理して、尻拭いをして、あいつのすべてを支えてやれる。どうだ?」


彩実瑠は、黒崎の持つ注射器を静かに見つめた。


(私のために、ここであんな姿に……)


黎が自分を守るために身体を失い、その果てに快楽に溺れてしまった姿を思い浮かべる。


「……わかりました」


彼女はまっすぐに黒崎を見据えた。


「私が黎さんを支えます。男とか、女とか、もうどうでもいいです。黎さんのそばにいられるなら、何にだってなります」


彼女の目的は最初から一つしかなかった。六車黎のそばにいること。そのためなら、自分の性別が変わることにさえ迷いはなかった。


「ああ、そうか」


黒崎は彩実瑠の答えを聞いて、わずかに肩をすくめた。どこか白けたような、そして嘲りが混じった表情だった。


*****


一晩かけて、肉体の反転が完了した翌朝、鏡には、髪は短く、地味ながらも整った顔立ちの男性が映っていた。


「これが……私……」


低く落ち着いた声で呟くと、それが現実だと彩実瑠は実感した。


黒崎は満足げに笑った。


「完璧だ。今日からお前が、あの小悪魔の新しいマネージャーだ。しっかり管理してくれよ」


*****


数ヶ月後。


トップアイドル・レイのわがままは、芸能界での知名度と同じ勢いで拡大していた。


レイの住むタワーマンションの部屋は、男たちに買わせた高級ブランドの靴やバッグが足の踏み場もないほどに散乱していて、甘い香水の匂いが充満していた。


手鏡で自分の完璧な顔を何度も確認しながら、不機嫌そうに唇を尖らせているレイは、デビュー当時よりもさらに奔放で、わがままに磨きがかかっていた。


「レイさん、もう出ないと本当に間に合わなくなります。早く準備をしてください」


声をかけたのは、地味なグレーのスーツを着た男性マネージャーだった。かつて、彼が華やかな芸能界で女性アイドルだったとは、誰も想像できないだろう。


生真面目で几帳面な性格は以前と変わらず、今はレイのわがままに毎日振り回されていた。


「やだ。今日のディレクター、加齢臭がするから嫌い。気が進まないから、今日の収録はパス」


レイはソファーに寝転んだまま、平然とそう言った。


「パスって、そんなことができるわけないですよ。生放送の特番なんですから」


彼は困惑し、必死に説得を試みる。


「え~、まだいいじゃん。面倒くさい」


レイは、長い髪を指でくるくる巻きながら、わざとらしいため息をついた。


「レイさん……お願いします」


レイは面倒くさそうにソファーから起き上がると、マネージャーの安物のネクタイを乱暴に引っ張る。


「本当に地味で、真面目で、つまらない男。……昔の私を見ているみたいで、イライラする」


レイは冷たく、しかし楽しそうに微笑んだ。


レイは、かつての自分がどれほど地味で、どれほど無駄な責任感に縛られて心身をすり減らしていたかを、バカバカしい過去としてすべて記憶していた。


だからこそ、今の自由奔放で、男たちに媚びるだけですべてが手に入る生活が、楽しくてたまらなかった。かつての黎の誠実な面影は、今の彼女からは完全に消えている。


「そんなんだから、彩実瑠はいまいち売れなかったんじゃないの。もっと要領よく、利用できるものは利用しないと」


レイはマネージャーに近づくと、豊かな胸を押し付けるようにして身体を預けた。


「じゃあ、私をちゃんと気持ちよくして。そうしたら、機嫌を直して行ってあげる。……マネージャーの仕事でしょ?」


レイは潤んだ上目遣いで、男を確実に狂わせる小悪魔の笑みを浮かべた。


「ねえ、時間まだあるでしょ? 私、さっきから疼いてるの」


レイは、マネージャーをソファーに押し倒すと、熱くなった秘部を彼の股間にぴったりと押しつける。


マネージャーは、苦い顔をしながらも、レイの柔らかく豊かな胸を鷲掴みにした。


「あんっ……もっと強くして。彩実瑠、意外と乱暴なんだから……ふふっ」


レイは嬉しそうに笑いながら腰を激しくくねらせ、濡れた下着でマネージャーの硬くなったものを擦り上げる。


「レイさん……本当に、あなたは……」


彼は苦笑いを浮かべる。レイの無茶な要求を断りきれずにいる自分が、なんだか滑稽に思えた。


「彩実瑠。私のために男になったんでしょ。じゃあ、もっと、も~っと、私に尽くさないとね」


レイは腰をゆっくりと前後に動かしながら、耳元で甘く囁く。


マネージャーは、自分の上に乗って楽しそうに愛欲を貪っている美しい女を見つめた。かつて自分を必死に守ろうとしてくれて、そして壊れてしまった男の末路。


今、自分の愛情は、この奔放な女の性欲を処理するために消費されている。


けれども、彼は不思議と不幸だとは思わなかった。地味で生真面目なだけの自分には、最初からこれくらい歪んだ形の結末がお似合いだったのかもしれない。


「……ええ、わかっています」


彼はそう低く呟くと、レイの細い腰をしっかりと掴み、彼女が満足するまでその要求に応え続けた。


立場と性別が完全に逆転した二人の、歪んでいながらも、誰にも邪魔できない新たな芸能界生活が、これからも続いていく。

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