Home Creators Posts Import Register Favorites Logout

Content

2102年。

今はもう一家に1体メイドロボがある時代。

街で名家と呼ばれる歴史が古いここ木崎家でも、メイドロボが20体程働いている。毎日朝5時から稼働し、夜24時には稼働停止、それを主人の命令に従いただ黙って実行する。


メイドロボとは、人工的に作り出した人間を使用したアンドロイドである。基本的に人間と見分けがつかないが、見分ける方法は2つあり、太ももの部分に製造番号が刻まれていて、緑色に発光していること、首に黒い首輪型の受信機が取り付けられていることである。

また思考力はなく、命令でしか動けないため、業務上の報告と話しかけた時の事務的な会話以外会話をすることがない。それらのことから機械的で冷たく、アンドロイドだと分かる。

長いことメイドロボを使っている家はあるが、感情を感じるだとか考えて話すようになったとかそういった現象が起きたことはない。


首の受信機は繋ぎ目が一切なく、一部が神経と繋がっているため外れることはない。そしてこの機械が、メイドロボの行動を管理しているのである。

登録された主人が命令すると、その受信機が反応し、脳に取り付けられたチップが信号を体に発信して、メイドロボを動かすようになっている。

基本、命令がない時はメイドロボの充電用の場所での待機になるように設定されている。


木崎家のメイドロボ用充電スペースは1階にあり、個室トイレみたいで扉が透明になっているものが複数設置されている。中は右に全身鏡があり、前方からはコードが伸びている。このコードを首に取り付けられている黒色の首輪型の受信機と繋ぐようにして充電されている。

充電中は着ているものを全て脱ぐよう設定されていて、充電が始まると、充電スペースに特殊なガスがでて強制的に眠らされるシステムである。

ちなみに受信機も製造番号も隠そうとすることはできるが、隠す行為は犯罪にあたるため、余程のことがなければ隠すことなどしないだろう。


値段が高く通常一般家庭では1体がやっとのメイドロボではあるが、木崎家では名家というだけあって20体が稼働している。

わたしはその木崎家に生まれた娘、木崎桜。今年17歳になったばかり。

自分で言うのも恥ずかしいけど、勉強はあまり得意じゃない。いやでもバカってわけじゃない。プログラミングは得意だし。

プログラミングの技術は、木崎グループというメイドロボ生産会社の社長をしている、父の次郎に教わった。

いつからかと聞かれたら分からないが、おそらくずっと昔、物心着く前から男手一人で一生懸命育ててくれてるのを感じていて、気づいた時には既に父が好きだった。LOVEではないが、クラスメイトにファザコンだと言われるほどには好きなのだ。たくさんえらいなって褒めてほしい。どうしたら喜んでくれるのか考えるのも日々の楽しみの一つだ。

ちなみに母はわたしが物心着く前に亡くなったらしく、写真でしかその姿を見たことはない。写真の中で儚げで柔らかい笑顔を浮かべる母は、優しい人だったんだろうと思わせる。


そんな家庭で育ったわたしには、幼少期から母のように慕っているメイドロボがいる。名前はLISEといい、身長は頭一つ分高い、青い長髪の25歳くらいの美人なメイドロボである。

アンドロイドなので特殊加工されていて歳をとることはなく、我が家に来た当時の姿のまま働いてくれている。

母のように慕っていても相手はメイドロボ、思考力がないので機械的にしか相手をしてくれないが、それでも大切な家族だ。

しかしその変わらない姿は、あと数年もすれば同じ歳になるなと感慨深いものがある。


そんなLISEの隣には、ピンク色の髪をボブカットにした17歳くらいの、わたしと同じ顔をしたメイドロボが立っている。そう同じ顔をしたメイドロボだ。

朝、父との朝食の際にプレゼントがあると紹介されたのがこのメイドロボ。妹欲しかっだろうと。

いや、欲しかったがメイドロボが欲しいのではない。それに妹が欲しかったのは小学生の頃の話だ。まあ、母が亡くなっているので、人間の妹はもう諦めていたが。

そのわたしに髪色とアンドロイドということ以外似ているメイドロボは、名前をSAKURAと父に付けられていた。

なぜわたしと同じ名前をとは思わんではなかったが、くれるとの事だったのでもらった。


しかしこのメイドロボ、明らかにわたしのDNAを使用して作っている。

普通メイドロボの素体となる、人工的に作り出す人間は、幾人かの人に協力してもらってDNAをかけあわせて作っている。なのですでに生きている人間とそっくりな素体はそうそう作れないはずなのだが...。

この目の前のメイドロボはわたしそっくり、つまりわたしのDNAのみで作ったということになる。いや、とうに昔の話だが小学生の頃に妹が欲しいと言ったことで、一応血縁の妹を作ってあげようと思ったのだろうか。まあ、作ってしまったものは仕方ない。かわいがろう。


朝食が終わり、父も家の隣にある工場に出勤して行ったので、自室へと戻ってきた。

ちなみにLISEは引き続きで、SAKURAはLISEの元について仕事を学習するために一時的にわたし専属になった。

朝に新たにメイドロボをもらうという予期せぬ出来事があったが、これは好機とわたしは前からしてみたいことを実行に移そうとしていた。今日は日曜日でちょうどいい。

やりたいことそれは、メイドロボとして家事をしてみたいということである。

家のメイドロボ達は、家事など家に関わることなら完璧なので、メイドロボに変装して近くで見て覚えて、家事でできたいい所を父に見せて褒めてもらおうという算段だ。

メイドロボ達は機械的に冷たく見えるのに似合わず、めちゃくちゃ美人や可愛い顔をしている。自画自賛になってしまうがわたしもかわいい部類に入るし、混ざってみても気づかれないかもしれない。

そもそもわたしは家事をしたことがない。父が手が荒れるだとかなんだかんだ理由をつけてやらせてくれないのだ。わたしにやらせないようにメイドロボにも命令しているようで、ちっとも言うことを聞いてくれない。

主人として登録してるのは父と私の2人だが、父の方が命令権が上なのだ。


今まで変装しようとしたが、家にいるメイドロボ達はわたしと体格が違くて服が着れなかったので断念していたが、今日SAKURAというわたしとそっくりなメイドロボが来てくれた。

体格同じだし、この子の服ならば着れるので実行のチャンスというわけだ。

LISEに家の仕事を優先するように命令して部屋から出てもらい、SAKURAの方を向く。

「SAKURA、着ているもの全て脱いで」

「承知いたしました」

そう言うと着ていたものを脱いで、こちらを見て命令待ちになった。

わたしも着ていたものを全て脱いで、それをSAKURAに渡す。

「今度はこれを着て」

SAKURAが着ているうちに、わたしもさっきまでSAKURAが来ていた衣類に手を伸ばす。

無地の白い下着、白のキャミソール、黒のストッキング、白ブラウス、黒のワンピース、フリルエプロン、フリルカチューシャ、黒のローファーの順にメイドロボ用衣類1式と靴の全てを着終える。

脱いだばかりのためあたたかく、SAKURAの花のような体臭が服から漂ってきた。

先程までわたしが着ていた、白のワンピースを身にまとったSAKURAはお嬢様に見え、わたしそっくりである。首の受信機が見えなければだが..。太ももにある製造番号はワンピースに隠れている。布団を首までかければバレないだろう。

そう思い、わたしのベットで寝ているフリをするように命令すると、部屋から出て洗濯場に向かった。


洗濯場に着いて、近くで見ようと近づいていったら途中で、そこにいたメイドロボと目が合った。

「お嬢様、そのメイド服はメイドロボ専用の服でございます。おやめくださいませ」

簡単にすぐ見破られてしまった。

やはり、受信機と製造番号とメイド服の3点セットで見極めているんだろうか?着ているものを交換しただけじゃバレるみたいだ。

「近くで仕事見るだけだから、いたらだめ?」

「旦那様より指示がございます。部屋からご退出くださいませ」

取り付く島もなく、淡々と洗濯場から出るように言われてしまった。

渋々自室へと戻り、寝ているフリをしているSAKURAとまた衣服を交換して、家の仕事をするように命令した。


せっかくわたしとそっくりなメイドロボがいるのにとモヤモヤとさせながら、学校を過ごし、土曜日になった。

この間中、家事を覚えるてはないかと考えていたが、そうだと1つ思いついた。

いや、本を読んだり動画とかで見たら?と思われるかもしれないが、今や家事など家のありとあらゆることはメイドロボにまかせる時代。家事なんぞやっている人間は極わずかで、そういったことを記した本や動画をネットに上げようなんて者はいない。出しても買う人や見る人が少なすぎて儲からないのだ。そういったものは前の時代の希少遺物と化していて、博物館に飾られているくらい希少価値の高いものだ。

まあそんなわけでそれらには頼れないので、メイドロボ生産会社のご令嬢として使える手があるのでそちらを使うことにした。


幸いにして父は今出張中だ。父にもそこで働く従業員にも見つからずに、工場内に忍び込める。土日なら工場も休みだし。

朝いつも通りLISEに起こされ、SAKURAに身支度をされた後、朝食を食べて一旦自室に戻ると、計画を実行するために、LISEに今日はSAKURAを連れて買い物に行ったりすると予定を伝えて、家の仕事をするように命令しておく。

そしてSAKURAを従えて、誰にも見つからずに家の隣にある工場へと向かった。


工場は土日休みで誰もいなく中が暗かったので、とりあえず使う部分だけ電気をつけた。

普段ここでは人間の作業員2名と、作業用アンドロイド5体が働いていてあとは全て自動運転に任せている。その作業用アンドロイドも工場が休みのため電源を落とされている。

それを確認してから、制御システムがある場所へと移動した。

今からやろうとしていることは、SAKURAとの肉体の入れ替えである。少し不安があるが、成功する確率はほぼ100%だ。

手順は簡単、お互いの頭の中にあるチップのデータを入れ替えるだけである。

お気づきかもしれないが、頭の中にチップがあるのはアンドロイド素体の人間だけじゃない。一般の人間の頭の中にもチップはある。生まれた時に取り付けられるそれは、健康情報や位置情報、記憶までそのチップにデータとして記録される。言わば2つ目の脳である。

アンドロイド素体の人間の場合はそこに、メイドロボとしての基本データだったりそれぞれの用途に合わせたものがインストールされている。


だから、そのチップのデータを交換すれば入れ替わりは実現するのだ。

得意なプログラミング技術を活かしてその工場内のプログラムを少しいじれば可能だ。いじったことがバレないように時限式でプログラムが元に戻るようにしておこう。

わたしは夢中になるあまり周りが見えていなかった。普段であれば穴があるこの作戦に、穴があると気づくのにこの時ばかりは気づかなかった。


プログラムが終わったので、生産ラインの隅にあるベルトコンベアにSAKURAと横になる。

すると横になったわたしたちを検知して作業アームが動き出した。鼻とくちを覆う透明のマスクがつけられると、次第に眠くなり目を閉じた。

しばらくすると意識が覚醒したのがわかる。成功したのだろう。自分の視界にピンク色の前髪が見えた。全身を見てみようと起き上がろうとする。

(よいし...ん?ふんっ..え?あれ?)

何度も起き上がろうとしたが、体は横になったままぴくりもと動かない。

(いやいやそんな...ふんっ..ってあれ?なんで?)

そんなことを思っていると声をかけられる。

「SAKURA、起きてこっちに来て」

その声に反応するように体が勝手に起き上がり、声を出した人物の元へと歩いていく。


その人物の前に着くとそこにいたのはわたしだった。やはり成功していたようだ。ん?だがなぜ私は動けない?と頭の中で考えていると、目の前のわたしが見つめてくる。

「あなたお嬢様だよね?私SAKURAだよ」

(そうだよ!何がどうなってるの?!成功したはずだよね!?)

話そうとしても口が動かないので、心の中で必死に声が届くように話すしかない。その言葉が届いたのか、SAKURAは笑みを浮かべる。

「何となくこの状況がどうなってるか、お嬢様から聞こえてくる気がするから分かる範囲で教えてあげるね」

そう前置きするとまた口を開く。

「チップのデータ入れ替えが成功したことは確かみたい。いや一部作戦は失敗したみたいだね。元々私の体であるメイドロボ達は考える力も知識もなくて頭空っぽなんだよ。そこから成長することもない。自分で動けない考えれないだからチップで体を制御して動かして、ご主人様たちの命令を忠実にこなすしかないただのロボットなんだよ」

そこまで言われて事の重大さに気づき、動けないが心の中で顔が真っ青になっていた。

「そこまで言われればわかるよね?その体に入ったところで脳はチップの制御下にあるから、ご主人様の命令がないと体は動かないの。仮に制御が外れても、そんな脳じゃ体を動かすことなんて出来ないけどね。

あと、普通メイドロボは考えることなんてできないのに、お嬢様が何か考えることが出来ているのは、その頭のチップにあなたの記憶とか今までの全部の情報が入ってるからだよ。ん?出来てるよね?」

何も話せない、動けない私をじっとみながら、私ずっと独り言話してないよね?お嬢様ちゃんと中にいるよね?と確認してくる。

「まあ中にお嬢様がいようがいまいがどっちでもいいけどね。あ、私に自由な体をくれてありがとうね!その体にいた時は何も思わなかったけど、この体になってからその体にいた時のこと思うと最悪な人生?だったって思う」

SAKURAは目の前で、楽しそうにクルクル回る。

「ここまで色々話せるようになったのはね、お嬢様のこの体の脳にある記憶とかが私を1人の人間にしてくれてるの。自分が木崎桜として生まれて育ってきたって記憶があるの。素敵な人生を本当にありがとう!あ、もう返すことはないからね?SAKURAちゃん?ふふ」

不気味な笑顔でこちらを見てくる。

「ああ、お嬢様...わたしは家事をやってパパに褒められたいんだった。チップに家事の記憶もあるし、うん、大丈夫そう。目的達成っ!」

そう喜ぶ姿はわたしそのものだった。

心の中でたくさん暴言を吐いたが、どれだけ暴れようとしても体はうんともすんともいわず、いうことを聞いてくれない。

そんな必死になっているわたしに気づいているのかいないのか、SAKURAはこちらを見てふふっと笑った。

「SAKURA、一緒に家に戻ろっか」

「かしこまりました」

今やわたしのものとなったこの体は、SAKURAを追って後ろを歩き、自宅へと戻った。






「パパどお?わたしだってやればできるんだよ」

「おお、すごいな。でも言いつけを守らなかったことはダメじゃないか。怪我をしたら...いやもう桜も子供じゃないよな」

「もっとほめてよー。頭なでて?」

「はいはい。甘えん坊なところは変わらないな」

「パパ大好きだからね!ふふっ」

楽しそうな親子2人の一家団欒。わたしはそれを部屋の隅で見ていた。

本来ならあそこに自分がいたはず。何度後悔しても、もはやそれはどうにもならない。SAKURAは入れ替わるつもりはなさそうだ。

あの後メンテナンス以外で工場に行くことを禁止された。命令がないとすでに動けない体なのに、小さな望みすら消えたのだ。


この声にならない心の声も誰にも伝わらないし聞こえない。

でも話し続けます。聞こえているかもしれない誰かにこの現状を。

誰か聞こえていますか?聞こえていたら助けてくれませんか?返事をくれませんか?話を聞いてくれるだけでもかまいませんどうか..どうか....

いつかこの体が壊れるその日まで、待ち続けます。だからどうか...

「SAKURA、紅茶のおかわりちょうだい」

「俺にもくれ」

「かしこまりました」


誰か聞こえていませんか?わたしはここにいます...誰か..





ーー[完]ーー


Comments

No comments found for this post.