狂い咲き上司と部下 前編 (Pixiv Fanbox)
Content
1・
縄足五弓。なわたしいゆみ。
みゆいしたわな。美優石汰和菜。
文字の並べ替えでもう一つの名前を手に入れたこの女性は、興奮の中でSNSに動画投稿をし、一部の人間から評判を得ることになる。
その理由は、これらのコメントから推し量ることができるだろう。
“たわなちゃんおっぱいでけー! もっと揺らしてダンスしてぇー!”
“マンコもっとカメラに近づけてくれよぉ~!”
“他人の庭とか犯罪でしょwww”
“変顔すぎて顔バレしないの草”
と、言ったものだ。
そう、彼女の投稿内容は、顔を隠して裸で踊ったり、やはり顔だけを隠して野外に繰り出したり、顔を見せたかと思えば原型を留めぬ変顔で現れたりと、変態趣味のものなのだ。
また五弓は、コメント一つ一つに丁寧な返信を入れている。
“ありがとー! これからも揺らしまくります♪”
“どーしよっかなー? 毛の生え方で身バレするの防いでるからー!”
“バレてませんから大丈夫、そのために気配を〇す技を身につけてますのでw”
“誰もわからない謎の女! 美優石汰和菜見参!!”
強い感謝の気持ちは文面から伝わっていた。だからこそ、初登場よりこれまでの間、賞賛を受け続ける投稿者として居続けられていると分析されているが、彼女の真の活動の原動力は、彼女自身の狂った願望・欲求に他ならない。
昔からの、趣味だ。
正確に言えば、子供のころから変顔が好きだった。芸人に憧れ、自分でも鏡に向かって変顔を練習し、ある日納得のいくものが出来上がり、人に見せようとしたこともある。それが出来なかったのは、その間に別の子供達が幼いながらに可愛さ・格好良さに目覚めていたから。
変顔を見せに友達の家に行った時、余所行きの服を着こなしてはしゃいでいたみんなの姿は忘れられない。以来、今に至るまで秘密の趣味だ。
誰一人として明かしていない。知る由もない。知られるわけがない。
目の前の人間とあの投稿者を、共通して知っている人間がどれだけいるか。
ましてや、わざわざ名前の文字を入れ替えようなんて。
知られるべきでない秘密が守られ続けている安堵感と、誰も知らない秘密に孤独を感じる寂寥感の、二つの星が興奮に勤しむ五弓の心臓を中心に、回り続けているのである。
……その秘密を、共有できる相手が現れるなんて。
ある日、アカウントにダイレクトメールが届いた。
そこには、一人の全裸女性の写真と共に、このような文面があった。
“あなたのファンです”。
2・
ちなみに、本当に他人の庭には入っていない。
公園や山などの風景を利用して、小物を置くなどしてそう見せかけているだけである。
3・
相手は、“ユッキー”と名乗る女性だった。
即座に信じたわけではない。
しかし、これまでの投稿に対し、的確な賞賛の言葉が並べられていることに、悪い気はしなかった。
同時に、“私のも見てください”と言い、ユッキーは自らの写真を次々と送ってきた。
首から上は自分と同じで、すべて隠れていたので何者かは無論わからない。しかし、豊満な体つきとその特徴から、全てが同一人物であることはわかる。
ある時から、五弓はユッキーに対して願いを抱くようになっていた。
“外に出てみて”と。
“動画で踊るところを送って”と。
変顔までは、言えなかった。
しかしそれらのどちらもが、数分後に実行されていた。
マンションのベランダの壁際に横たわり、片脚を外からも見えるように上げてしまうユッキー。
部屋の中で、仁王立ち。両手を上下に振り回しながら上半身を回すことで、豊かな乳房に様々な振動をもたらすユッキー。
そんなユッキーに、信頼など既に通り越して、熱くなっている自分を感じた。身体と衣服の境界が汗ばんだ。
送ってみた。
“すごい、素晴らしいです。私よりすごいです”。
返信もまた、すぐにあった。
“いいえ、あなたの過激さを増す投稿には及びません”。
そこから何巡かの謙遜合戦を繰り広げた後、ユッキーの言葉に五弓は胸に痛みすら伴う高鳴りを感じた。
「“会いませんか”……?」
4・
新庄温子。株式会社宮山商事、営業部第一課課長。
すこしふくよかな外見とは裏腹に、クールかつ厳しいやり手として知られている。
五弓は彼女の部下として、数か月前に配属された新人だ。
最近の汰和菜としての活動が過激化していたのは、彼女の存在によるものが大きかった。
「あれは資料の92ページを参考にすれば解る事よ」
「今度の打ち合わせでは、まず相手の趣味嗜好を調べ、お店を選ぶところから始めてもらうわ」
「勘違いは成長の無い証。今後の成長をも阻害すると知っておきなさい」
「相手が笑ったからと言って許されたと思うことは、単なる自己正当化に他ならないの。小さな人間でい続けるならば、この会社では勤まらないわ」
新人相手とは思えない指示やアドバイス、それに叱責。
五弓は真面目に従っていたが、このように言われることの無い日は無い。確かに言われていることは更なる成長を求められたものであり、的確。実行の末に得られたものは大きいとは思えるが、与えられるストレスも相当に大きい。
そのストレスが活動・投稿の新たなパワーとなっていたことも事実だが。半ばヤケになったことで、ダンスや変顔に勢いと思い切りが付いた気がする。
しかし思えば外見のふくよかさはイコール豊満さであり、これまでなされてきたコメントの正確さは、口調の違いこそあれど、仕事の際に送られてきたアドバイスに通ずるものがあったかもしれない。
指定された“ホテル星が宮”も、宮山商事と同じく宮山大グループの関連企業。ここまでに、そうと思えば思える場面は、実はいくらでもあったのだ。
「まさか……課長が」
「今は、ユッキーよ。美優石汰和菜さん」
呆然とする五弓に、温子は会社では見せることのない満面のにっこり笑顔を見せる。
「ゆ、ユッキー……さん」
未だ緊張が解けずにいた五弓だったが、今が夕方であり、ここがホテル星が宮のフロント、つまり人前であることで一転、慌てて大声を放ち、上司の両肩を左右から掴んでいた。
「って、その名前で呼ぶのはっ!」
温子は、変わらぬ調子だ。
「あら、今、私は何と言ったかしら? 気にすることはないわ。誰も気にしていないようだから」
「いやっ、誰も……誰も?」
辺りを見回す五弓。見えるのは、粛々と仕事をこなしているフロントの男性や直立不動の警備員、楽しげな家族連れや、自分達の世界に浸っているカップル……自分達のことなど一切気にしていない風だ。それもすべて計算ずくで、あの名前を呼んだのだろうか。
再び呆然。温子の笑顔を見上げる五弓。
「いたいわ」
「え……あっす、すみ、すみままっせっ!!」
言われて気づき、上司の両肩から手を離し、大股かつ足早な一歩で下がり、頭を下げる。そんな五弓の後ろ頭に、温子は静かな声をかけた。
「探していたのよ……」
5・
促されるままにエレベーターに乗り、912号室へと訪れた。
手慣れた風にカードキーでドアを開け、部屋の奥へと入っていく温子に、五弓はおずおずと委縮しながらついていき、ドアを閉めた。
すると、まるで挑発するように腰をくねらせながら、温子は服を脱ぎ始める。
「えっ! か、課長っ!」
瞬時に顔を赤くする五弓に、再び笑いかける温子。
「ふふ……ユッキーと呼ぶように言った筈よ……じゃあなかったわね」
するりするり。滑り落ちるように、スーツも下着も体を離れてしまう。
「ユッキーって呼んでくださいよ、汰和菜さん」
「あわっ、だ、だめですよっ、まさか、急に、そんなっ」
全裸になった温子――口調を変えた“ユッキー”となった相手に対し、先程までとは別の意味で動けなくなってしまう五弓。
しかし、しかしだ。
「安心してください……私達、同じものを持った仲間じゃないですかぁ……」
身を屈め、豊乳を垂れ下げ、艶めかしく静かに迫るユッキーに対し、五弓の身体は火照っていた。
「ユッキーさん……あぁあ……ああぁ」
汗ばみを感じる。動画や画像によって呼び覚まされたものが、今この場でリアリティを以って持ち上がっていく。自分の求めていたもの、自分を求めていたものがそこにある。
微かと思い込んでいた傷跡が、癒されるのを感じて――――脱いでいた。
6・
スイッチが入ってからの変わりようは、見事なものだった。
「どうして変顔だけは言ってくれなかったんですかあ? つまらなかったなあー」
ユッキーが、自らの口の両端にフックした左右の指を引っかけて伸ばしながら、眉を吊り下げ悲しがる変顔をして見せながら、ずんずんと足を鳴らして踊る。五弓であれば赤面発汗、後ずさって壁に背をつき、大慌てで上司を止めようとするところだろうが、汰和菜は違う。
「だってぇー、素人さんに顔出させちゃまずいでしょーがあぁーーーー!」
尻を向けていた。横たわり、両肘を床に突っ張らせ、両掌で自らの下半身を支え、尻だけがユッキーのやや下向けられた顔と一直線になるよう仕掛けていた。その上、唇をひん剥き、歯茎とかみ合わせた歯が剥き出しの変顔もして見せている。
「ぶふぁっ」汰和菜。
「くふふっ!」ユッキー。
「ぶはははははははっ!」両方。
互いに吹き出し、大笑い。
何とも愉快な空間だ。
鼻に指を入れたり、拳で両側から挟んだり。
尻の肉を寄せ上げたり、気をつけの姿勢から大の字ジャンプをしたり。
「無様ですよ~汰和菜さんっ!」
「ユッキーこそぉ、笑えるぅうーーーーーーーー!」
まさかの変態仲間との邂逅に歓喜する2人の生配信が繰り広げられていたのだ。
そう、生配信。SNSの、汰和菜のアカウントから、生配信をしているのだ。無論、その視聴者数は、普段の投稿視聴数に比べても破格の上がり様を見せている。汰和菜が機材の機能で目元を常時隠しているとはいえ、これまで見せていなかった素顔を晒しているうえに、新たな変態美女の登場までしているのだから。
“汰和菜ちゃんマジ美人、思った通り!”
“ユッキーさんエロボディすぎる!”
“変態2匹で草”
“笑い合って仲良しかよ”
“知り合いにいるわこの人(嘘、というか願望。嫁にきてくれー!)”
そんな賞賛のコメントが次々送られてくる。
ああ、楽しい。
「ぶーりぶーりぶーりぶーり! ほらっ!」
口を全開、舌出しをしながら汰和菜、尻をユッキーに向けて振り、迫る。
「はいっ! ぶーりぶーりぶーりぶーり!」
ユッキーも促されたことにすぐ気づき、同じ行動をとる。互いに舌を伸ばし、尻同士を並ばせたのだ。
“尻振り祭エロぉお!”
“ユッキーさんぶりっぶりじゃんか”
“たわなちゃんは揺れが小さいなあ~そこがいい!”
“どうなる? どうなる?”
右にぶるん、左にぶるん。ぶるんぶるんと尻が舞う。
空を斬る音、左右の尻肉同士が当たる音が、歌声の合間微かに耳を打つ。
“尻2つ~! いや4つ!?”
“エロケツコラボエロエロ~!”
“挟まれたい”
“スカ効果音で臭(いっそ出せ)”
“そこはどこですか行きたいです”
その淫らな様に、コメント欄もご満悦……と思いきや、別種のコメントも散見されるようになった。もう一つの、注目すべき点が気付かれ始めたのだ。
“顔ぶっさ!”
“だんだん皺が寄ってませんか!?”
“ぶりぶりーってかべろべろーでしょ!?”
“ブス同士のケツ合わせwwww”
そう。2人の舌出し変顔だ。
コメントに言われたように、無理に口を開け続けそれを保っていたことで、少しずつ皺が寄ってどんどん醜さを増していたのだ。
「ぶりぶりぶりぶりぃいーーーーー!」汰和菜。
「びちびちびちびちいいーーーーー!」ユッキー。
打ち合わせも何もなく、台詞を変えていた。汰和菜が、“ぶりぶりびちびち”を“ぶりぶりぶりぶり”に替えたことで、ユッキーが“びちびちびちびち”にすべきと理解――才女・温子の力量を信じての、才女・汰和菜の完璧な誘導であった。
「ぶりぶりぶりぶりいいーーーーーー!」
「びちびちびちびちいいーーーーーー!」
カメラと、横に置いたモニターに映るコメント欄を見つめながら、2人は尻を鳴らし続ける。
気付くまでだ。全員が。
踊りだけでない、尻の打ち鳴らしだけでない、変顔だけではない。
それらすべてが調和していることで、今の自分達が在るのだということに。
振る。振る。振り続ける。
押す。押す。押し込み続ける。
ぶりぶりぶりぶり、びちびちびちびち。
びちびちびちびち、ぶりぶりぶりぶり。
しかし、だ。
ユッキーはそうなる前に、動きを止めてしまっていた。
「え……待って」
一つのコメントに目が行ってしまったためだ。
“どっちが面白い変顔できるのかなー”
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