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猛薬の禍

元明帝は御書房の奥深く、朱塗りの御座に腰を下ろしていた。窓の外には春の日差しが差し込んでいるというのに、室内には冷たい空気が澱んでいた。彼の目前に立つのは、紫袍を纏った道長・済安である。済安は長い髯を撫でながら、口元に微かな笑みを浮かべ、袖から一つの玉壺を取り出した。


「陛下、この丹薬は臣が十年の歳月をかけて煉り上げたものです。陰を採り陽を補い、精を固めて元を養う。服すれば龍体は若返り、万民を統べる力を再び取り戻されましょう。」


元明帝は痩せ細った指で玉壺を受け取り、蓋を開けた。中の丹薬は血のように真紅で、異様な香りが鼻を衝く。彼は一瞬の躊躇の後、その一粒を口に含み、酒で飲み下した。


その瞬間、体内から灼熱の炎が湧き上がるようだった。元明帝の顔色が一変し、目は血走り、両手は無意識に机の端を掴んだ。強烈な熱が下腹に集まり、龍根がかつてない勢いで怒張した。彼は自分の股間を押さえ、驚きと喜びが入り混じった声を上げた。


「これは……これは!」


済安は深々と頭を下げた。「陛下、この丹薬の効能は三日三晩続きます。三日目にもう一粒を服用されれば、その勢いは衰えを知りませぬ。」


元明帝は声を上げて笑った。その笑い声には長年の鬱屈が溶け込んでいた。彼はすぐに側近の宦官を呼び寄せ、三人の貴女を御書房に連れて来させた。三人の娘たちは皆十五、六歳で、肌は雪のように白く、体つきはほっそりとしていた。彼らが御前にひれ伏すと、元明帝は一人の娘の顎を掴み、無理やり顔を上げさせた。


「今日、朕がお前たちに恩寵を授ける。」


その夜、元明帝の龍根は二十一センチの長さに達し、太さは三・八センチにもなった。彼は三人の娘を次々と抱き、その射精は八分間も続いた。娘たちは泣き叫び、身体を震わせたが、元明帝は構わずに責め立てた。翌朝、三人の娘は幽鬼のように青ざめ、歩くことすらままならなかったが、その顔色は不思議と艶やかで、瞳は潤んでいた。


その後数日、元明帝は狂ったように女を求めた。昼間は御書房の机の上で貴女たちを弄び、夜になると後宮の妃嬪を次々と呼び寄せた。妃嬪たちは皇帝の寵愛を受けることを喜びながらも、その異様な勢いに恐怖した。一人の貴女はわずか一晩で骨と皮ばかりに痩せ細り、もう一人は三日後に血を吐いて倒れた。しかし、どの女も倒れる直前の顔色は異常に美しく、まるで牡丹の花が咲き誇るかのようだった。


ところが、五日目の朝、元明帝が起床しようとした時、突然全身の力が抜けた。布団の中に横たわったまま、手足を動かすことすらできず、口からは泡のような涎が垂れた。宦官たちが慌てて駆け寄り、薬湯を飲ませようとしたが、元明帝はただ目を白黒させて痙攣するばかりだった。


後宮は大騒ぎとなった。皇后が率いる妃嬪たちが病床の前に集まったが、誰一人として布団の中のあの異様に腫れ上がった龍根を見ようとはしなかった。元明帝は必死に女たちに手を伸ばそうとしたが、妃嬪たちは後ずさりし、恐怖の目を向けるだけだった。ある低位の妃は恐怖のあまり失禁し、その場に崩れ落ちた。


その頃、済安はすでに紫袍を脱ぎ捨て、庶民の服装で宮城の北門からこっそりと姿を消していた。彼は振り返りもせず、ただ口元に意味深長な笑みを浮かべたまま、人混みの中に消えていった。


元明帝は昏睡と覚醒を繰り返しながら、身体の奥底から生命力が抜け落ちていくのを感じていた。彼の龍根は萎え縮み、以前の半分にも満たなかった。玉壺の中の丹薬はまだ三粒残っていたが、彼はそれに手を伸ばす勇気すら持ち合わせていなかった。ただ、天井を見上げ、乾いた唇を震わせるだけだった。


「済安……済安め……!」


朝廷の驚変

元明帝はこの数日、ますます体が重くなっているのを感じていた。朝の鍛錬の時間になると、若い頃のように剣を振るう勇気はもうない。それでもなお、張り子の虎を保とうと、無理に気を持ち上げて乾元殿の前に立ち、佩剣を手に八方を睥睨する。しかし、風が吹きつけると、思わず咳き込んでしまう。身にまとった明るい金色の龍袍が、汗でじっとりと濡れていた。


「陛下、風が冷とうございます。どうかご自愛くださいませ。」そばに控える陳内侍が慌てて進み出て、肘を支えた。元明帝は彼を一瞥し、鬱屈したような怒りをこめて手を振り払った。


「朕はまだ衰えてなどいない!引っ込め!」


そう言いながらも、十歩ほど歩いただけで息が切れ、金の冠の下のこめかみに汗が浮かんでいた。陳内侍は口をへの字に結び、二度と口出しする勇気はなかった。元明帝は一歩一歩と丹墀へと歩み寄り、京師を取り巻く遠くの山並みを眺めていたが、ふいに膝の力が抜け、慌てて軒柱に手をかけた。指の関節が音を立てた。


朝廷議は卯の刻に行われた。元明帝は駕籠に乗って金鑾殿に臨んだ。龍椅に腰かけると、視線の下に臣子たちが並んでいる。最前列の陸首輔はすでに白髪が目立ち、束帯も腰にきつく巻かれている。元明帝が口を開く前に、陸首輔が笏板を差し出して一歩前に進み出た。


「陛下、臣が申し上げます。国に元の主なしとあれば、四海は震え動きます。太子の位は空虚のまま久しく、朝廷の内外は心を一つにできません。陛下は万機を親裁されながらも、御体は日に日にやつれておられます。どうか聖裁を仰ぎ、早く国本を定められますよう。」


この言葉を発すると、文武百官はたちまちざわめき始めた。元明帝の顔色は陰鬱で、しばらくだんまりを決め込んだ。手は龍椅の肘掛けを握りしめ、爪はほぼ紫檀にめり込まんばかりだった。しばらくして、やっと口を開いた。


「諸卿の意見は…」


言葉の半分も言わないうちに、彼の眼前が真っ暗になった。金鑾殿の蟠竜の藻井がぐるぐると回り、皇帝の身体がぐらりと揺れた。陳内侍がすぐに駆け寄り、焦りのこもった声が轟いた。


「陛下!陛下が倒れられたぞ!早く太医院を呼べ!」


その場はたちまち混乱に陥った。幾人かの老臣が互いに見つめ合い、陸首輔は慌てて文官の列に引き下がったが、その目には一抹の安堵が走る。若い頃の血気には、もう何の未練もなかった。


元明帝は寝台に運ばれ、昏迷の中にあっても眉は深くしかめられていた。皇后が知らせを聞いて紫宸宮へ急いで向かったが、長年雨露に恵まれなかった彼女は、すでに顔にしわが刻まれている。急ぎ足のあまり、鳳の簪は斜めに傾き、服の裾には泥さえ飛び散っていた。


「陸太医、陛下は一体どうなされたの?」


太医院の院首である陸太医は額に汗を浮かべて跪き、声も震えていた。


「皇后さま、申し上げます。陛下は…誤って妖道・済安の毒丹を服用されました。その丹薬には猛毒が仕込まれており、陽の気を暴走させる一方で、陰の精を消耗させます。陛下は長らく服用されたため、龍体の底がすでに蝕まれております。今後は…今後は決して女色に近づいてはなりませぬ。」


この言葉が耳に入ると、皇后は顔色を青ざめさせ、無意識のうちに一歩後ずさった。袖の中の手が微かに震えたが、すぐに落ち着きを取り戻し、声は冷たく澄んでいた。


「皆、下がりなさい。本宮が陛下をお守りする。」


人々が退出すると、紫宸宮の内殿はひっそりと静まり返った。沈香の香だけが微かに漂っている。皇后は元明帝のそばに歩み寄り、ゆっくりと腰を下ろした。彼女は龍の寝台に横たわる痩せ細った顔を見つめる。それはまるで一枚の干からびた木の皮のようだった。四十歳を過ぎたばかりなのに、まるで十年は老け込んでいた。


彼女の指が元明帝の頬をなぞる。あの骨の感触が指先をざらつかせた。彼女は思わず笑みを漏らした。その笑みには哀しみがにじむと同時に、ほのかな喜びも見え隠れしていた。


「陛下、あなた様もこんな日がおありになるのですね。」


声は蚊の羽音のようにかすかで、誰にも聞こえなかった。


暗流のうごめき

暗夜の帳が降りる頃、東宮の外れにある舞姫の離宮に、突然の悲鳴が轟いた。


第二皇子が、舞姫と遊興の最中に暗殺されたのだ。


血は華美な絨毯を濡らし、赭色の染みが徐々に広がっていく。御医が駆けつけた時には、すでに手の施しようがなかった。先ほどまで嬌声を響かせていた舞姫たちは顔面蒼白となり、壁際に縮みあがって震えている。


その知らせが皇后の耳に届いたのは、二刻後だった。


皇后はその場に立ち上がり、青磁の茶碗を床に叩きつけた。砕けた陶片が跳ね、飛沫のように散る。彼女の目は血走り、両手は激しく震えていた。


「誰が…誰が我が子を殺した!」


宮女がおずおずと進み出て、声をひそめて報告する。「殿下は…舞姫を弄んでいた最中、刺客に襲われました。刺客はすでに自害しており、手がかりはつかめておりません」


皇后の指が椅子の肘掛けに深く食い込む。彼女は唇を噛みしめ、鮮血が滲む。第二皇子は彼女のすべてだった。皇帝の寵愛を長年失っていても、息子がいる限り、彼女の立場は揺るがなかった。だが今——。


「皇后様、お気を確かに」


低く穏やかな声が耳元で響く。皇后が顔を上げると、そこに立っていたのは第四皇子・蕭昀だった。彼は一糸乱れぬ青色の長袍をまとい、手に白瓷の茶盞を持ち、優雅に歩み寄る。その眸にはいまだ涙の痕が残り、悲しみを帯びたようでもあった。


「あなた…どうしてここに?」


皇后の声は掠れていた。


「臣、聞きつけて駆けつけました。皇后様のお気持ち、痛いほど察します。臣も幼くして母を亡くし、無念さはよくわかります」


蕭昀はうつむき、両手で茶盞を捧げ持つ。「皇后様、どうかお体をお大事に。兄上の無念を晴らすためにも」


皇后は茶盞を受け取り、一口すすると、その眸にふと警戒の色が走った。「あなたの言いたいことは何?」


蕭昀は周囲を見回し、宮女たちに退出を命じた。部屋に二人だけが残ると、彼は皇后の耳元に近づき、声を潜めた。


「皇后様、兄上を害した者が誰か、心当たりはおありか?」


「あなた…知っているの?」


「五皇子、蕭勉です」


蕭昀の口調は確信に満ちていた。「最近、五兄は東宮の地位を虎視眈々と狙っております。兄上こそ、彼の前に立ちはだかる最大の障害。兄上を除けば、その地位は彼の手中に落ちる」


皇后の指が急に震え始めた。「証拠は?」


「臣が刺客の遺体を調べさせました。その腕には五兄の府の者にのみ許された刺青がありました」


蕭昀は懐から帛の一片を取り出し、皇后の前に広げてみせた。そこには確かに小さな炎の模様が刺繍されていた。


「よくも…よくもやってくれたな…」


皇后の歯がガチガチと鳴る。彼女の両眼からは涙が溢れ、その涙は怒りと憎しみに灼かれていた。「あの小癪な娘の産んだ子め…我が子を殺しただと…」


「皇后様、お力をお貸しください。臣、必ずや兄上の仇を討ってみせます」


蕭昀は突然ひざまずき、両手を組んで皇后を見上げた。その眸には熱い決意が宿っているように見えた。


「臣は幼い頃より母の寵愛を受けることなく、皇后様もまたお心苦しい日々を過ごされてきた。同じ境遇ゆえ、臣は皇后様の心中の苦しみがよくわかります。私たち手を組めば、天下は恐れるに足りません」


皇后はしばし沈黙した。彼女は蕭昀のことをよく知っている。この一見温厚な皇子は、実は巣食う蛇のように冷徹で知恵深い。彼が自ら協力を申し出たのは、何か企みがあるからに違いない。しかし、今の彼女にはそんなことを気にする余裕はなかった。


息子の死の復讐、それだけが必要だった。


「いいだろう」


皇后はようやく口を開いた。「お前が我が子の仇を討つのを助けてくれるなら、私もお前を太子の位に推そう」


「ありがたき幸せ」


蕭昀は深く頭を下げた。その唇の端には、かすかに笑みの影が浮かんでいた。


以降の数日、二人は密かに手を組んだ。皇后は自らの勢力を動かし、五皇子蕭勉の悪評を宮中に流す。蕭昀は側近を使って蕭勉の屋敷を監視し、彼の一挙手一投足を把握しようと図る。


そして、七日目——。


意識を失っていた元明帝が、ついに目を覚ました。


重篤な昏睡から蘇った皇帝は、痩せ衰え頬がこけていた。しかし彼の最初の行動は、最も寵愛する五皇子・蕭勉を太子に冊封することだった。


「朕、第五子・蕭勉を皇太子に封ず。摂政の代行を命ず」


この詔書が発表されると、蕭勉の声望は一気に高まった。彼は颯爽と宮中を歩き、側近の臣従を従え、まさに意気揚々たる様子だった。


その時、蕭昀と皇后は密かに鳳妃の寝宮に一計を案じていた。


「鳳妃は皇帝の寵愛を失い、長く独り身だった。そして蕭勉、お前は年若く血気盛んだ。二人はうまく引き合うだろう」


皇后の目に冷酷な光が宿る。


その夜、蕭勉は酒宴に招かれた。宴半ば、皇后の使いが鳳妃のところへ走り寄り、「陛下が鳳妃娘娘にご用ありとて、ぜひ直にお会いになりたい」と伝えた。鳳妃は少しも疑わず、化粧を整えて使者の後について行った。


一方、酒宴の席で皇后は蕭勉に言った。


「鳳妃娘娘がお前に用があると言っている。何か大事な話があるそうだ。ここで話すのではなく、ぜひ寝宮まで足を運んでほしいと」


蕭勉は酒気を帯び、疑うことを知らず、鳳妃の寝宮へと赴いた。


二人が寝宮の門をくぐると、すぐに数人の小間使いが密室に閉じ込めた。蜜のような香りが部屋中に漂い、鳳妃と蕭勉は知らず知らずのうちに離れがたくなり、深い眠りに落ちていった。


皇后と蕭昀は外で進展を見守っていた。


すぐに動きがあった。


「陛下——!!」


一声の叫びが鳳妃の寝宮の外に響き渡った。元明帝は輿に乗って近づき、老齢の身体を引きずって寝宮の中へ踏み込んだ。


赤い帷が垂れ下がる中、もつれ合う二つの影が目に飛び込んできた。


元明帝の顔は一瞬で変わり果てた。彼は激怒のあまり、傍らの香炉を蹴り倒した。香炉は転がり、炭火が飛び散った。


「よくも…よくも俺を裏切ったな!」


萧勉は酒が覚めて初めて事の重大さに気づき、青くなった顔でベッドの下に転がり落ちた。「父上、聞いてください、これは誤解です、私は——」


「黙れ!」


元明帝が振り返り、御剣を抜き放った。刃は寒々と輝き、冷たい光を放つ。


「お前…鳳妃と密通するとは…なんと都合のいい御曹司だ!この不孝者め!」


「陛下、陛下、違うんです」


鳳妃は衣を整えもせず、地面にひざまずいて懇願した。「皇后様が私を呼んだのです、私は——」


「皇后が?皇后がなぜお前を呼ぶ必要がある?」


元明帝の目がさらに燃え上がった。まるで灼熱の炉のように。


この時、帳の陰から皇后がゆっくりと歩み出た。彼女は恭しく頭を下げた。


「陛下、この者が逆賊の行いをしたことは、臣妾も初めて知りました。臣妾は…臣妾の過ちです。しっかりとお守りできず、陛下にこのような恥辱を与えてしまいました」


「違う…お前たちが共謀しているんだ…」


萧勉は狂ったように首を振った。しかし誰も彼の言葉を信じなかった。元明帝は剣を握る指をギチギチと鳴らし、顔色は土気色になっていた。


「もういい。今日、朕が自らこの逆賊の命を奪ってやる」


「陛下お待ちを」


蕭昀が進み出て、深々と頭を下げた。「父皇、どうか御身を大切に。五兄の罪は死に値しますが、もし父皇が自らの手を血で染められれば、天下の笑いものになりましょう。それならば、正刑に処して、国法を以ってこれを裁くのがよろしいかと」


元明帝は蕭昀を一瞥した。彼の目にはわずかに驚きが浮かんでいた。普段は目立たないこの四子が、こんな時にひざまずいて進言するとは。


「お前の言う通りだ」


元明帝は剣を収め、疲れ果てた様子で背を向けた。「では、朕はこれを刑部に下す。明日の朝、菜市口で——斬刑に処す」


「陛下——!!」


萧勉の絶望的な叫びが宮殿全体にこだましたが、もう誰も彼のために弁解しようとはしなかった。


その夜、蕭昀は皇后の寝宮に戻った。皇后は一人でぼんやりと椅子に座り、手には冷めた茶碗を握っていた。


「お前、よくやった」


皇后の声には疲労とわずかな快哉が混じっていた。「思い知ったか、あの小癪な娘に産ませた子め。我が子の命を奪っておいて、これが報いだ」


「すべては皇后様のご指導のおかげです」


蕭昀は謙虚に頭を下げた。その眸の奥には、深く読みにくい光がきらめいていた。


「これから後、太子の位はお前のものだ」


皇后は立ち上がり、蕭昀の肩を軽く叩いた。「ただし覚えておけ、私がお前を押し上げたのだ。もし私を裏切るようなことがあれば、その結末は……」


「臣、決して皇后様を裏切りません」


蕭昀は誠実な口調で答えた。しかし心の中では、別の思いが渦巻いていた。


皇后よ、あなたは真実を知らない。二皇兄の暗殺は、確かに私が仕組んだこと。あの舞姫こそ、私が密かに送り込んだ間者だった。あなたの信頼を勝ち取り、蕭勉を罠にかけて太子の座を奪うため、すべては計算ずくの芝居。


しかし今は、笑顔を浮かべて演技を続けるだけだ。


太子の死

夜の更け、鳳藻宮の灯りは幽かに揺らめいている。


蕭勉は酒に酔って足元も覚束なく、宮人の手を振り払って鳳妃の寝殿に足を踏み入れた。紗帷が風に揺れ、かすかに香る蘭麝の香り。彼は目を細めて奥を見つめると、薄紅色の紗帳の後ろに一つの裸身が横たわっていた。


鳳妃だ。


彼女は玉肌を露わにし、半ば臥した姿勢で美しい脚を絡めている。手にした白玉の勢は夜明珠の光を受けて潤んだ輝きを放ち、ゆっくりと自らの秘所に出入りしていた。その動きは緩やかでありながらも淫らで、時折、堪えきれずに細い息が漏れる。


「はあ…はあ…」


その声はか細く、子猫の鳴き声のようでありながら、酔いに浮かされた蕭勉の血を一気に沸き立たせた。


彼は酔いに任せて大笑し、よろめきながら紗帳をかき分け、衣の紐を手荒く引きちぎった。龍袍が足元に滑り落ちる。裸身を晒した蕭勉は火のように熱く、鳳妃の手首を掴んで玉勢を奪い取り、荒々しく地面に投げ捨てた。


「妃よ、随分と退屈しておられるな。俺が相手をしてやろう。」


鳳妃は顔を赤らめ、目の縁には涙が滲んでいたが、その瞳には媚びる色が浮かんでいる。彼女は体を起こし、白魚のような腕を絡めて蕭勉の首に巻きつき、彼の耳元に唇を寄せて息を吐いた。


「太子殿下…妾を置き去りになさって…陛下はもう何ヶ月も妾の宮に足を運ばれませぬ。」


蕭勉の腰に手が触れると、彼女は自ら足を広げ、桃のような割れ目を彼の昂りに押し当てた。湿った熱が衣越しに伝わる。蕭勉はもはや我慢できず、彼女の細腰を抱きしめて褥の上に押し倒した。彼女に上に乗るよう促す。


「自分で動け。」


鳳妃はためらわず、腰を振り動かした。蕭勉の昂りが一気にその潤んだ花心にめり込む。彼女は声を上げて啼き、その嬌声は蕩けるようだ。鳳妃は若く力強い太子の上で縦横無尽に動き、腰を振っては沈み、振っては沈み、肌と肌が打ち合う水音が紗帳の外まで響き渡る。


蕭勉は彼女の腰をしっかりと掴み、時折、衝き上げて彼女の動きに合わせる。鳳妃の長い髪は乱れ、汗が背中を伝い、室内には麝香と汗の匂いが混ざり合う。彼女は必死に腰を振り、長く抑えていた渇きをこの一夜で癒やそうとしているかのようだ。


「殿下…太子殿下…」


「黙れ。母妃と呼べ。」


「は…母妃は…もう駄目…あっ…」


言葉は淫らで乱れ、情欲に陥った二人の耳にはもはや君臣の礼も、父子の倫も届かない。


その時、宮門の外から高らかな声が響いた。


「陛下、駕到——」


二人の体は同時に硬直した。


鳳妃の顔色は瞬時に青ざめ、慌てて身を引こうとしたが、蕭勉は酒に圧されて反応が鈍く、起き上がろうとしたところで、紗帳が勢いよく引き裂かれた。


元明帝が立っていた。


四十を過ぎた皇帝の顔には病色が浮かんでいるが、その目には怒りが燃え盛っている。彼は痩せた手で龍床の柱を握りしめ、指の関節が白くなるほどだった。


「おのれ…おのれら…!」


彼は二歩後退し、激しく咳き込んだ。後ろの宦官が慌てて支えようとしたが、振り払われた。


「よくも…よくも、そんなことを…!」


蕭勉と鳳妃は褥の上に転がり落ち、衣服もまとわず、ただ震えながらひれ伏すことしかできなかった。蕭勉の酒はすっかり醒め、恐怖で言葉も出ない。


「父…父上…」


「黙れ!」


元明帝は机の上の青磁の花瓶を掴み、蕭勉の頭めがけて投げつけた。花瓶は彼の額の端をかすめて割れ、破片が飛び散り、彼の顔に血の筋を幾筋も刻んだ。


「この逆賊め、首をはねよ!すぐに首をはねよ!おい、来い!この親不孝者を縛り上げ、併せてこの淫らな妃も——」


「陛下!陛下お許しを!」


鳳妃は狂ったように平伏し、髪は乱れ、化粧も崩れ、むせび泣きながら蕭勉の足にすがりついたが、彼は冷たく一蹴した。


「引きずり出せ!」


その夜、鳳藻宮の灯火は一晩中消えなかった。


翌朝、聖旨が下った。


第五皇子蕭勉、倫理を乱し、父の妃と密通せしこと、即刻賜死せよ。鳳妃は不貞の罪により、三尺の白綾を賜る。一族の男は皆斬り、女は皆官妓に落とす。


蕭勉は獄中で毒酒を賜り、泣き笑いしながら杯を仰いだ。


「四哥よ…この一手、お前は見事だった…」


そして倒れ、二度と起き上がることはなかった。


同日、元明帝の聖旨により、第四皇子蕭昀を太子に冊立し、国を監することを許すと布告された。


蕭昀は太极殿の前に跪き、三跪九叩の礼をもって聖恩に感謝した。その顔色は穏やかで波立たず、まるでこのすべてが当然のことであるかのようだった。彼が立ち上がるとき、東宮の方向から朝日が昇り、金色の光が彼の全身を照らし出した。


後ろで皇后が静かに唇を引き結び、その目には悲しみとどこか晴れやかな色が浮かんでいた。


東宮の妃迎え

二年の月日は瞬く間に流れ、大啓国の東宮はついに太子妃を迎える日を迎えた。洛玉は十七歳となり、その美貌はますます際立ち、洛将軍家の誇り高い嫡女として、今や太子の正妃となる。


その日、都中は至る所に錦を飾り、紅燈を高く掲げ、東宮から洛将軍府までの道のりは、真紅の絨毯で敷き詰められた。洛玉は九つの尾を持つ鳳凰の花嫁衣装を身にまとい、金糸で刺繍された鳳凰は生きているかのようで、彼女の一歩一歩に合わせて羽ばたくように動く。輿に揺られながら、洛玉は蓋頭の下からわずかに見える光景を透かして見ていた。周囲の歓声と祝いの言葉が絶え間なく聞こえてくる。


東宮に到着すると、儀礼は複雑で盛大を極めた。まずは宗廟で祭祀を行い、次いで皇帝と皇后に謁見し、最後に東宮の正殿で冊封の儀式が行われた。元明帝は病み上がりで顔色は蒼白だったが、今日は無理に気力を振り絞り、玉座に座ってこの大典を見守っていた。皇后はその横に立ち、表面上は微笑みを浮かべていたが、その目にはかすかな複雑さが宿っていた。太子・蕭昀は赤い礼服をまとい、いつもより一段と精悍な顔つきを見せていた。その口元には終始薄い笑みが浮かび、一見すれば温厚で優しい君子そのものだった。


ようやく儀式がすべて終わり、洛玉は侍女たちに支えられて洞房へと導かれた。真新しい東宮の寝殿は至る所がめでたい紅一色に染まり、龍鳳を象ったろうそくの火が揺らめき、室内にぼんやりとした暖かな光を投げかけていた。洛玉は婚礼の床の端に座り、手は緊張で絹の衣を握りしめていた。蓋頭の下から差し込む光のせいでまぶたが重く、心臓は鼓動を打ち続けて止まなかった。


周りが静かになると、彼女はふと出発前に母がこっそりと渡してくれた小さな錦の箱を思い出した。母はその時、頬を赤らめ、誰もいないのを見計らって彼女の手に押し込み、「そなたの部屋に入ったらよく見るように」とだけ言った。


洛玉は思い切って錦の箱を開けた。中には薄っぺらな本が一冊入っていた。手に取って開くと、たちまちその絵に顔を真っ赤にした。あれは――まさに春宮秘戯図だった。絵の中の男女は組み合い、様態はさまざまで、細部に至るまで細かく描かれていた。彼女は慌てて本を閉じ、胸の鼓動がますます激しくなった。母は普段あんなに厳格なのに、どうしてこんなものを?洛玉は唇を噛みしめ、体温が上昇していくのを感じ、恥ずかしさのあまり穴があったら入りたい気持ちだった。


しばらくして、外から足音が聞こえてきた。行列が戻ってきたのだ。慌てて洛玉は春宮図を枕の下に隠し、姿勢を正して蓋頭をかぶり直した。


部屋の戸が押し開けられ、侍女たちが先導して太子・蕭昀が進み入った。秤の先端で蓋頭をそっと持ち上げると、洛玉の顔が露わになった。頬は桃花のように赤く染まり、瞳は霧のようにうるんでいた。それはまさにたおやかで美しい姿だった。


蕭昀は手に持った秤棒をぎゅっと握りしめ、瞳孔が突然収縮した。


この顔は――この顔はあまりにも見覚えがあった。まるで十年前に突然姿を消したあの娘、蘇玉媱そのものだった。同じような形の眉、同じような口元、そして特にその目尻と眉の間にある、ほんのりとしたうぶな様子が、彼の記憶に深く刻まれたあの面影と寸分違わず重なった。


「媱……」


あと一文字で「媱児」と口にしそうになり、蕭昀は慌てて飲み込み、息を飲み込みながら深く息を吸い込んだ。彼は必死に心の動揺を押さえ込み、平静を装って微笑みを浮かべた。


「太子妃は、本当に美しい方だ」


洛玉は恥ずかしそうにうつむき、声は蚊の泣くようだった。「殿下にお褒めいただき、光栄です」


侍女たちは金杯を取り出し、縁起の良い果物も用意して、交杯酒の儀式を執り行った。洛玉は差し出された杯を受け取り、蕭昀と腕を組み、互いに見つめ合いながら一気に飲み干した。酒の香りが口の中で広がり、彼女の頬をさらに紅潮させた。


儀式が終わると、侍女たちは心得ていて退出し、最後の一人がそっと両開きの扉を閉めた。室内には一対のろうそくの火がパチパチとはじける音だけが残り、二人きりになった。


しかし蕭昀は立ち上がり、洛玉に温和な笑みを向けて言った。「本宮、外に出て客をもてなさねばならない。そなたは先に休んでいてくれ」


洛玉は一瞬驚いたが、すぐにうなずいた。「はい、殿下、お気をつけて」


蕭昀は振り返らずに長衣を翻し、大きな足取りで部屋を出て行った。彼の背中にはほのかに酒の香りが漂い、その姿はすぐに戸の外の闇夜に消えた。室内には洛玉だけが一人残され、ゆらめくろうそくの火が揺れる灯りを彼女の頬に落としていた。


彼女はベッドの縁に座り、自分を落ち着かせようと手をぎゅっと握りしめた。なぜかしら、太子のあの一瞬の目つきに、何か見知らぬ感情が宿っているように感じられたのだ。彼が彼女に向けた笑顔は優しかったが、その奥に隠された距離感は、彼女の心を不意に不安にさせた。


初夜の歓び

洛玉が蕭昀の婚礼の服の帯を解こうとした瞬間、彼の腕が突然彼女の腰を掴み、強く引き寄せた。彼女の体は硬直し、次の瞬間にはすでに彼の胸の中にいた。蕭昀は何も言わず、彼女を抱き上げて深紅の帳の奥へと歩み寄り、重みをかけて錦の褥の上に押し倒した。


「殿下…まだ着替えが…」


洛玉の言葉は中途で遮られた。蕭昀が身をかがめて彼女の唇を覆い、荒々しく深く口づけたのだ。舌は容易に彼女の歯の隙間をこじ開け、中に侵入して絡め取った。彼の息は熱く、一瞬のうちに彼女の意志を奪い去った。洛玉は慌てて彼の肩を押そうとしたが、腕はまったく動かず、逆に彼の胸の前で無力に折りたたまれた。


蕭昀の手は彼女の衣襟を掴み、力を込めて引き裂いた。婚礼の服の布地が裂ける音が閨房に響き、洛玉の白く輝く肩と鎖骨があらわになった。彼はその細く柔らかな首筋に唇を落とし、吸いつき、歯を食い込ませた。洛玉は声を抑えきれず、手は彼の背中を掴んだが、彼の行動を止めることはできなかった。


蕭昀の唇は鎖骨を伝ってさらに下へ、彼女の胸元の桃色の蕾に到達し、口に含んで弄んだ。もう一方の手は彼女のもう一つの柔らかい丘を揉みしだき、親指と人差し指で先の粒を転がした。洛玉の体は麻痺し、吐息はすでに乱れていた。


彼がさらに下へと進み、彼女の腰から腿の間へと唇を這わせると、洛玉は本能から彼の頭を押しのけようとした。しかし蕭昀はその細くしなやかな足を押し開き、顔を彼女の最も秘めたる場所に埋めた。舌が鋭く割れ目を舐め、敏感な核を突くと、洛玉は腰を震わせ、強制的に噛み締めた唇の間から甘やかな声が漏れた。


「やめて…殿下…そんな…」


蕭昀は構わず、指で彼女の花びらを開き、舌で芯に絡みついた。洛玉の体は堪えきれず弓なりに反り、彼女の花芯は彼の激しい愛撫の下で急速に潤い、蜜が滴り落ちた。


絶頂が迫ろうとしたその時、蕭昀は突然動きを止めた。彼は立ち上がり、手早く自分の婚礼の服の帯を解き、衣を脱ぎ捨てた。鍛え抜かれた体が灯りの下に現れ、筋骨はくっきりと浮かび上がり、その股間にはすでに凶兆が天を衝いて立ち、長さは尺の余、太さは握り拳ほどもある。


洛玉は初めて男の体を目の当たりにし、特にその異様に巨大な肉茎を見て、頬が一瞬で燃えるように赤くなった。彼女は慌てて視線をそらそうとしたが、かえって蕭昀の腕に引き寄せられ、その熱く硬いものが彼女の腿の間に押し当てられた。


「どのくらい…大きいのですか…」洛玉は声が震え、消え入りそうだった。


蕭昀の目には一瞬、複雑な光が走ったが、すぐに深い欲望に覆われた。「二寸二寸、太さ一寸二分…そなたを満たすには十分だ。」


その言葉とともに、彼の腰を進めた。巨大な亀頭が彼女の潤った花唇を押し開き、わずかに抵抗を感じた。洛玉は痛みに眉をひそめ、両手で彼の腕を掴んだ。蕭昀は一気に腰を進め、そのまま処女膜を貫き、深く子宮口まで突き進んだ。


「あっ…!」


「ん…!」


二人は同時に声を漏らした。洛玉は下腹部が裂けるような痛みを感じた。蕭昀は彼女の内壁に包み込まれる温かくてきつい感覚に、思わず深く息をついた。


彼がわずかに動くと、洛玉は痛みに唇を噛んだ。蕭昀は少し間を置き、彼女が徐々に慣れるのを待ってから、緩やかに抽送を始めた。彼の腰が進むたびに、洛玉の名器は自然と彼の龍根に絡みつき、吸い付き、まるで無数の柔らかい指が彼を揉みしだくようだった。蕭昀は理性を失いそうになり、速度を上げ、深く突き上げた。


「はあっ…殿下…あっ…んっ…」


洛玉の体は快楽の波に揉まれ、彼女の膣壁は不規則に痙攣し始めた。蕭昀は彼女が達しようとしていることを感じ取り、腰を一層激しく動かし、毎回最も深いところまで突き上げた。洛玉の頭を真っ白にして、初めての絶頂が彼女を飲み込んだ。彼女の内壁が激しく締め付け、蕭昀の背筋に甘い痺れが走った。


しかし彼は止まらなかった。洛玉がまだ絶頂の余韻から醒めないうちに、彼は再び律動を始め、彼女を二度目、三度目の絶頂へと導いた。洛玉は連続する快楽に涙を浮かべ、声もろくに出せなかった。


蕭昀の動きが速まり、彼の呼吸も乱れてきた。彼の意識は欲望の渦に飲み込まれ、目の前の洛玉の姿がもう一人の女性と重なった。彼女の名が喉の奥からこぼれ出た。


「媱児…孤は、射精する…」


その一言が洛玉の耳に矢のように突き刺さった。彼女の全身の血が一瞬で冷たくなったような気がした。媱児…蘇玉媱…彼は自分と交わりながら、別の女の名前を呼んでいるのだ。


洛玉の心は激しく痛み、感情が激しく波立った。彼女の膣壁は無意識のうちに強く収縮し、蕭昀の龍根をぎゅっと締め付けた。その刺激に蕭昀は低く唸り、腰を一層深く打ち付け、精の門を開いた。


熱く濃い精液が奔流のように迸り、洛玉の子宮口に激しく打ちつけられた。その射出は二分以上も続き、洛玉の体はその衝撃に震え、再び絶頂へと押し上げられた。彼女は蕭昀の胸にしがみつき、かすかな嗚咽を漏らした。


蕭昀はようやく意識を取り戻し、息を整えながら体を離した。龍根はまだ半ば硬い状態で、数分の間に再び完全に立ち上がった。彼は洛玉の顔をのぞき込み、彼女の目の端に浮かぶ涙を見て、少し呆けた。


しかし洛玉は何も言わなかった。彼女はただ横向きに伏せ、褥に顔を埋めて、冷えゆく心を隠した。帳の外では、灯芯がはじける音だけが微かに聞こえていた。


2回目の交合

夜も更け、燭台の灯火は揺らめきながら部屋の中を照らしている。先ほどの激しい交合の後、室内には余韻が漂っていた。


洛玉はようやく乱れた呼吸を整えようとしていたが、蕭昀は再び彼女の体を引き寄せた。


「まだ終わっていない」


その声は低く、かすれていた。彼の手は洛玉の細い腰に回され、再び押し倒すように身を重ねた。


「殿下……もう……」


洛玉は抗おうとしたが、その声は震えていた。しかし蕭昀は構わず、彼女の口を塞いだ。舌は荒々しく彼女の口腔を探り、先ほどよりも激しく、より深く。


洛玉の手はシーツを掴み、力を込めたが、やがて指の力が抜けていく。蕭昀の動きに合わせて体が揺れ、彼女の抵抗はかすかに消えていった。


蕭昀は彼女の体を反転させ、うつ伏せの姿勢にした。腰を高く上げさせ、後ろから洛玉の中に再び入り込む。この姿勢は洛玉にとってさらに屈辱的で、顔を枕に埋め、声を押し殺すしかなかった。


しかし蕭昀は許さなかった。彼は洛玉の髪を掴み、顔を少し上げさせた。


「声を出せ」


その命じるような口調に、洛玉の目には涙が浮かんだ。彼女は唇を噛みしめ、声を出さないようにしていたが、蕭昀は腰を深く打ちつけ、洛玉は思わず甘い声を漏らした。


一度目よりも激しい動きが続き、蕭昀の息遣いはますます荒くなる。洛玉は自分の体が言うことをきかず、彼の動きに合わせて波が打ち寄せるように快感が押し寄せるのを感じた。それは一度や二度ではなく、三度も絶頂を迎えた。


しかし絶頂のたびに、蕭昀は彼女の耳元で違う名前を呼んだ。


「媱児……媱児……」


その声は切なく、痛々しく、まるで長年探し求めてきた宝物をようやく手に入れたかのようだった。


洛玉の心は一瞬で冷え切った。体はまだ熱を帯びているのに、心はまるで氷の底に突き落とされたようだった。


蕭昀の動きはますます激しくなり、射精の瞬間、彼の体はわずかに震え、その熱い精を洛玉の奥深くに放った。一度目よりも長く、量も多かった。洛玉はそれをはっきりと感じ、その熱さが逆に彼女の心をさらに冷たくした。


射精が終わると、蕭昀は洛玉の上に覆いかぶさり、荒い息を整えていた。しばらくして、彼はゆっくりと体を起こし、洛玉の傍らに横たわった。


すぐに、規則正しい寝息が聞こえてきた。


洛玉は涙が止まらず、頬を伝って枕に落ちた。彼女はゆっくりと体を起こし、隣で眠る蕭昀を見つめた。


月明かりが彼の横顔を照らし、その彫刻のような輪郭を浮かび上がらせる。この世の誰もが認める美しい顔立ちだが、その表情は冷たく、距離を感じさせた。


なぜなのか。なぜ彼は私の中にいながら、別の女の名前を呼ぶのか。


洛玉は手を伸ばし、彼の顔に触れたい衝動に駆られたが、指先が頬に触れる直前で止まった。やがてその手を引っ込め、自分自身の身体を抱きしめた。


彼女は疲れていた。心も体も。


涙は止まらず、静かに流れ続けた。やがて疲れが彼女を眠りへと誘い、ゆっくりと目を閉じた。


たとえ眠りに落ちても、彼女の心には深くて見えない傷が刻まれている。それはこの夜の記憶とともに、永遠に消えることはなかった。


心の結び目は解き難し

洛玉は朝の光の中で化粧台に向かい、青黛を手に取り眉を描こうとしたが、手が止まった。昨夜の記憶が鮮明に蘇り、蕭昀が最中に漏らした声が耳の奥で反響する。あの名前——「媱児」。唇を噛みしめ、筆を置くと、後ろから近づく足音が聞こえた。


「起きていたのか。」蕭昀の声は穏やかで、昨夜の情事を感じさせない。彼は歩み寄り、洛玉の肩に手を置いた。「今日は顔色が優れないな。何か悩み事か?」


洛玉は振り返り、彼の目をまっすぐに見つめた。その瞳は澄んでいるが、どこか底知れない深さがある。胸の内で葛藤が渦巻くが、言葉を飲み込みかけてはまた勇気を振り絞る。


「殿下。」声が微かに震えた。「一つお尋ねしたいことがございます。昨夜、殿下は…『媱児』とお呼びになりました。あの方はどなたでございますか?」


空気が凍りついた。蕭昀の手が肩から離れ、表情に一瞬の陰りが走る。彼は口元を引き締め、目をそらした。しばしの沈黙の後、低い声で言った。「…すまない。余の過ちだ。お前を傷つけるつもりはなかった。」


「過ち?」洛玉の声には哀しみが滲む。「たった一言の過ちではございません。殿下の心に刻まれたお方なのでしょう。なぜ真実をお教えくださらないのです?」


蕭昀は唇を噛み、拳を握りしめた。彼は数歩後ろに下がり、窓辺に立つ。背を向けて言った。「言えることではない。お前をさらに苦しめるだけだ。余は…ただ、その名を忘れられぬ己を恥じている。」


洛玉は立ち上がり、彼の背中を見つめた。太子殿下でありながら、今の蕭昀はどこか弱々しく見える。けれど、その弱さが彼の罪を許す理由にはならない。「殿下はわたくしを娶りながら、別の女を想っていらっしゃる。それがわたくしにとってどれほどの苦しみか、お分かりになりますか?」


蕭昀は振り返り、苦渋の表情を浮かべた。「分かっている。だが、余もまた…逃れられぬ縛りの中にいる。洛玉、お前に償いたい。どうか、このことを水に流してはくれまいか?」


償い?洛玉は心の中で嘲笑した。閨の寝言は、償いで消えるものではない。けれど、彼女は皇后の姪であり、東宮の主母としての立場を捨てるわけにはいかない。ただ、無言で頭を下げた。


その日、蕭昀は洛玉に寄り添おうと何度も試みた。夕餉の後、彼は書斎から戻り、洛玉の肩に手を回そうとした。洛玉はさりげなく身をかわし、茶を注ぐふりをして距離を取った。


「殿下、お疲れでしょう。お茶をお持ちしました。」


「余はお茶ではなく、お前がほしい。」蕭昀の声には抑えきれない情欲が混じる。彼は洛玉の手首を掴み、引き寄せようとした。


洛玉は一歩下がり、かすかに首を振った。「殿下、わたくしは本日、体調が優れません。どうか、お許しください。」


言葉は丁寧だが、その目には拒絶の色が明確に浮かんでいる。蕭昀は手を離し、唇を噛んだ。彼はずっと女の歓心を買うことに長けてきた。拒まれることに慣れていない。しかし、同時に己の過ちを自覚してもいた。


「…分かった。お前の気持ちを無理には強要しない。」蕭昀はそう言って書斎へと戻って行った。扉が閉まる音が、部屋に虚しく響く。


洛玉は一人残され、椅子に崩れ落ちた。指先が震え、目の縁が熱くなる。蕭昀に気の迷いがあるのは分かっている。けれど、その迷いの中心に自分がいないことも、痛いほど理解していた。彼女は太子妃という座に囚われ、感情の網目に絡め取られている。身を切るような苦しみの中、ひとつの真実が浮かび上がる——自分は、寵愛を得るための道具に過ぎないのかもしれない。


夜の帳が降り、燈火が揺れる。洛玉は窓の外を見つめ、冷たい風が頬を撫でるのを感じた。心の結び目は解けそうになく、ただ時が過ぎるのを待つしかない。彼女はそっと自身の手のひらを握りしめた。この指が掴めるのは、空気だけだと知りながら。


太子の補政

元明帝の龍体は、未だ完全には回復していなかった。昏睡から覚めた後の数日間は、かろうじて床を離れられるようになったものの、四肢は鉛のように重く、朝堂に臨むことさえもが苦痛であった。


「済安の妖道め…」


皇帝は玉座に倚りかかりながら、歯を食いしばって低く呟いた。陰を採り陽を補うという秘薬が、かえって自らの命を削ったことを、今さらながらに痛感していた。だが、後悔は時すでに遅く、ただ目の前の政務を何とか取り仕切るほかなかった。


朝堂には、文武百官が整列している。その中に、第四皇子でありながら新たに太子に冊封された蕭昀が控えていた。彼は表向きには温厚な微笑を絶やさず、礼節をわきまえた態度で臣下たちに接する。しかし、元明帝はその瞳の奥に潜む冷たい光を逃さなかった。


「太子よ、先日の奏上、お前の見解はあまりに稚拙だ。朝廷の大事を、軽々しく扱うでない。」


皇帝はわざと声を張り上げ、蕭昀を諭すように叱責した。周囲の臣下たちは息を潜め、誰もが太子に対する皇帝の不興を感じ取っていた。


蕭昀は一歩前に進み出ると、深く頭を下げた。


「父皇の仰せ、痛み入ります。臣、未熟ゆえ、今後はより一層精励いたす所存にございます。」


その声は実に穏やかで、一切の動揺も見せなかった。しかし、蕭昀の心の中では、怒りと憎悪が渦巻いていた。幼少より母の身分が低いゆえに寵愛を受けず、常に疎まれてきた。今や太子の位に就いたというのに、依然として皇帝は自分を抑えつけようとしている。


「余の目が黒いうちは、お前が好き勝手に振る舞うことは許さぬ。よいか、肝に銘じておけ。」


元明帝は咳き込みながらも、なおも鋭い視線を蕭昀に向けた。しかし、その言葉とは裏腹に、皇帝の体力は急速に衰えつつあった。傍らの宦官が慌てて差し出した茶碗を受け取り、しばらく息を整える。


朝堂が終わると、元明帝は皇后を呼び寄せた。


「余の体は思わしくない。他の皇子たちも、能力の面で太子に及ばぬ…まったく、不本意極まりないことよ。」


皇后は恭しくうつむきながらも、内心では冷ややかな笑みを浮かべていた。第二皇子を失った悲しみはまだ癒えぬが、蕭昀と手を組んで第五皇子の蕭勉を陥れた結果、彼が太子の座に就いた。それだけでも、少しは胸のすく思いだった。


「陛下、太子も若輩ながら、この数日の政務を見るに、確かな手腕がございます。どうかお許しになって、補政をお任せあそばしては…」


元明帝は皇后の言葉に、苦々しげに眉をひそめた。だが、今の自分の体調では、すべての政務を一人でこなすことは不可能だ。他の皇子たちは、年若く経験不足か、あるいは無能で使い物にならない。結局、蕭昀に頼るほか選択肢はなかった。


「…仕方あるまい。明日より、太子に補政を命ずる。ただし、すべての奏上は必ず余の目を通せ。一歩たりとも勝手をするな。」


こうして、蕭昀は正式に補政の任を託された。朝堂でその詔が下された時、臣下たちは一様に息を呑み、蕭昀はただ静かに跪いて拝礼した。


「陛下のご信任、誠に恐れ入ります。臣、身命を賭して朝廷に尽くす所存にございます。」


その声は実に恭しく、臣下たちは太子の落ち着きと才能に感嘆の声を漏らした。しかし、蕭昀の心中は決して平穏ではなかった。


(ついに…この日が来た。だが、これで満足してはならぬ。蘇玉媱…お前をまだ見つけてはいないのだ。)


そう、彼の心の奥底には、今なお蘇玉媱への執念が燃え続けている。幼い頃に出会い、一度だけその手に触れたあの娘を、長年探し続けてきた。そして、洛玉を見つけた時、その面影に驚き、娶ることを決めた。だが、洛玉は蘇玉媱ではなかった。似ているだけの、別人だ。


(洛玉…お前には悪いことをした。だが、どうしても忘れられぬ。蘇玉媱という名を、あの笑顔を…)


蕭昀は政務を執る合間も、しばしば手を止めて遠くを見つめた。机には数多くの奏上が積まれている。その中には、洛家からの書状も混じっていた。洛玉の父、洛将軍が辺境から送った手紙だ。そこには、娘の無事を気遣う優しい言葉が綴られている。


(彼女の父は、真摯に娘を案じている。それに比べて、私は…ただの駒として娶っただけだ。)


罪悪感が胸をかすめる。しかし、それを打ち消すように、蘇玉媱の幻影が再び浮かぶ。蕭昀は首を振り、再び筆を執った。


一方、東宮の奥深くにある一室。洛玉は一人、窓辺に座って外を眺めていた。庭には春の日差しが降り注ぎ、花々が美しく咲き乱れている。しかし、彼女の心は晴れなかった。


(新婚の夜…あの方は、私を抱きながら、別の女の名前を呼んだ。)


あの夜の記憶が、鮮明に蘇る。蕭昀は優しく、熱心に彼女を愛した。その手つきは温かく、瞳は深く、まるで全身全霊で愛されているかのようだった。だが、その口から漏れた一言が、すべてを打ち砕いた。


「玉媱…」


その名を聞いた瞬間、洛玉の体は硬直した。だが、蕭昀は気づかず、さらに激しく彼女を求め続けた。洛玉は唇を噛みしめ、声を殺して耐えた。喜びと苦痛が入り混じり、涙がこぼれ落ちた。


(なぜ…なぜ私を娶ったのに、他の女を想うの?)


それ以来、洛玉は蕭昀の目を見るたびに、その奥にある別の影を感じ取る。彼が自分に向ける優しさは、本当のものなのか、それとも蘇玉媱への執念の裏返しなのか。


侍女が茶を運んできた。


「妃様、お茶をお持ちしました。どうぞお召し上がりください。」


洛玉は微笑んで受け取ったが、その笑顔はどこか寂しげだった。


「ありがとう。あなたは下がって良いわ。」


部屋に一人きりになると、彼女は再び窓の外を見た。遠くで鳥がさえずり、風が庭の花を揺らしている。すべてが平穏で美しいのに、なぜ私の心だけがこんなにも乱れるのだろう。


(私は洛将軍家の嫡女。嫁いだ以上、太子妃としての務めを果たさねばならぬ。しかし…心までは御せない。)


彼女は拳を握りしめ、目の前の虚空を見つめた。蕭昀への想いと、傷つけられた心とが、激しくせめぎ合う。そして、そのどちらもが真実であることに、さらに苦しめられるのだった。


(やはり…私は、このままここにいても、ただの影でしかないのだろうか。)


夕闇が部屋に迫る中、洛玉は泣くこともできず、ただ静かに時が過ぎるのを待っていた。東宮の灯りが次第にともり、夜の帳が降りる。蕭昀はまだ政務の間から戻らず、彼女の孤独はますます深まるばかりだった。


未了の縁

# 第十章 未了の縁


元明帝が病床を離れて十余日、朝廷の政務は太子蕭昀が代行していた。しかし皇帝は龍体が万全でないにもかかわらず、毎朝必ず奏折の山を自ら検め、蕭昀の決裁した政事にことごとく難癖をつけた。


「この刑部の上奏、量刑が軽すぎる。謀反の罪は一族皆殺しが当然だ。太子はどうして仁慈を施した?」元明帝は奏折を投げつけ、その紙が蕭昀の足元に散った。


蕭昀は恭しく拾い上げ、低く答えた。「父王、首謀者はすでに誅され、残りは脅されて従った者たちにすぎません。皇恩を示すためにも寛大な処置が……」


「寛大だと?」元明帝の目に一瞬、鋭い光が走った。「朕がまだ死んでいない。いつからお前が勝手に決めるようになった?下がれ!」


蕭昀は押し黙り、退がるとき足音も立てなかった。回廊に出ると、彼の目には一瞬冷たい光が宿ったが、すぐにそれを抑え込んだ。


東宮へ戻る途中、養心殿の側近がひそかに近づいてきた。


「殿下、蘇姑娘の行方ですが、昨日また一人、名乗り出た者がおります。ただ、調べてみれば偽りで、金目当ての者でした。」


蕭昀の手がわずかに震えた。それから無表情でうなずいた。「引き続き探せ。生死は問わない。必ず人を見つけ出せ。」


「ははっ。」


蕭昀は立ち止まり、遠くの宮闕を見上げた。あの年の春、母妃がまだ在世だった頃、彼は一度だけ蘇家の別荘で一人の少女を見かけた。彼女は海棠の花の下に立ち、振り返って微笑んだ――その笑顔は、彼が十数年もの間忘れられなかったものだ。


後宮の洛玉はますます太子妃としての生活にも慣れてきていた。毎朝、皇后のもとへ挨拶に通り、それから東宮へ戻り、刺繍をしたり書を読んだりして過ごす。しかし心の奥底に、抜くことのできない棘が刺さっていた。


それは蕭昀が何かの拍子に呼ぶ「媱児」という名――彼女は何度も自分に言い聞かせた。それはもう過ぎたことだと。今、太子妃の位に座るのは自分なのだと。


ある夜、蕭昀が珍しく早く戻ってきた。洛玉が彼の朝服を脱がせていると、蕭昀が突然彼女の手首を掴んだ。


「玉児……」


洛玉は顔を上げたが、蕭昀の目は彼女を通して別の人を見ているようだった。彼女はその視線に射抜かれて、全身が凍りつく思いだった。


「殿下は疲れておられます。お休みくださいませ。」洛玉はそっと手を解こうとしたが、蕭昀はますます強く掴んだ。


「お前は……本当に似ている。」蕭昀の声にはほのかな苦さがにじんでいた。「初めて見た時、まるで夢の中にいるような気がした。」


洛玉の心臓は激しく打った。何に似ているのか――顔か、それとも仕草か、それとも彼女も知らない何かだろうか。


「殿下は、何か人を探しておられるのですか?」洛玉は思い切って尋ねた。


蕭昀の手が突然固まった。その目には一瞬、警戒の色が走ったが、すぐに和らいだ。「そんなことはない。ただ長年、昔の一人の旧友を思い出していただけだ。」


「その旧友は、今はどこに?」洛玉の声はわずかに震えていた。


蕭昀は手を放し、背を向けた。「もう戻らぬ人だ。」そう言うと、彼は振り返らずに書斎へと去っていった。


洛玉はその場に立ち尽くした。彼の背中が完全に見えなくなってから、彼女はゆっくりと地面にしゃがみ込んだ。理屈ではわかっている――自分はただの将軍家の娘で、東宮に嫁いだ目的は、蕭昀に外戚の力をつけるためだと。しかし、それでも心が痛むのだ。


この日、洛玉は皇后に請われて養心殿に参内した。元明帝は皇后と対面していたが、洛玉が入ってきたのを見て眉をひそめた。


「太子妃か。近づいて朕に見せよ。」


洛玉はおずおずと近づいた。元明帝はじっと彼女を見つめ、突然、深いため息をついた。


「なるほど……似ている。ああ、確かに似ている。」元明帝の目は複雑な色を帯びていた。「太子は、そなたを何と呼ぶ?」


洛玉は心臓がドキリとした。「殿下は臣妾を『玉児』とお呼びになります。」


「玉児……」元明帝は冷笑した。「玉か。彼は、お前の中に玉があるように見えている。どれだけきれいな玉かは知らぬが。」


皇后が慌てて言葉を挟んだ。「陛下、太子妃はまだ幼く、恐れ多いことです。」


元明帝は手を振った。「よい、下がれ。」


洛玉は退出したが、心の中はますます不安でいっぱいだった。玉……そうか、彼女が探している人は名前に「玉」の字が入っているのだろうか。あるいは、何かもっと特別な意味があるのか?


その夜、洛玉は再びあの呼び声を聞いた。蕭昀は眠りの中で、低く呼び続けた。「媱児……お前はどこにいる……」


洛玉は体を起こし、月光の下で蕭昀の苦しげな寝顔を見つめた。彼女は彼の手を握りしめたが、蕭昀は反射的にそれを振り払った。


「殿下、私は洛玉です。太子妃の洛玉です。」


しかし蕭昀は目を覚まさず、ただ眉をひそめてうめき続けた。洛玉はそうっと彼のそばに横たわった。彼女の心はいくつもの思いが交錯していた。恨みか、それとも同情か――自分でもわからなくなっていた。


数日後、朝議の席で蕭昀は遠征の計画を上奏した。北方の異族がまたも国境を侵犯しているという。元明帝は聞き終えてしばらく考え込んだ。


「太子は自ら出征したいのか?」元明帝の声には疑念が含まれていた。


「父王、それはあまりにも危険です。父王の龍体はまだ万全ではなく、朝廷には太子が必要です。私はただ将軍を派遣すればよろしいかと進言したまでです。」蕭昀は恭しく答えたが、その目には一瞬、闇がよぎった。


「ふん、朕の龍体がどうかしたか?」元明帝は突然咳き込んだ。「お前は朕が倒れるのを待っているのだろう?残念だったな、朕は長生きするつもりだ。」


蕭昀はうつむき、何も言わなかった。大殿には沈黙が流れ、百官が息を殺していた。


「軍のことは後日改めて決める。下がれ。」元明帝は手を振った。


蕭昀は退出する際、皇后が階段の陰から自分を見ているのに気づいた。二人は短く視線を交わし、すぐに逸らした。


その夜、洛玉は蕭昀が書斎で徹夜するのを見た。彼女は茶菓子の盆を持って扉を叩いたが、中からは何の返事もなかった。


「殿下、臣妾です。洛玉です。」


しばらくして、蕭昀の声が響いた。「入ってこい。」


洛玉が入室すると、机の上には密かに送られた手紙が置いてあった。彼女は一瞬、その文字を目にした――「蘇玉媱、未だ行方知れず」という字だった。


洛玉の手が震えた。彼女は盆をそっと机の上に置き、声を震わせずに言った。「殿下、お体をお大事に。臣妾は失礼いたします。」


「待て。」蕭昀が彼女を呼び止めた。


洛玉は立ち止まったが、振り返らなかった。


「お前は……何か見たか?」蕭昀の声は低く、威圧的だった。


「臣妾は何も見ていません。」洛玉の声は澄んでいた。「ただ殿下が疲れていらっしゃるのを案じただけです。」


蕭昀は長い間沈黙していた。やがて軽くため息をついた。「お前は賢い子だ。余計なことを詮索するな。この東宮で、安全に暮らすのが一番だ。」


「臣妾はただ、殿下に一つのお答えを伺いたいのです。」洛玉はようやく振り返った。その目にはかすかに涙が浮かんでいた。「殿下は臣妾と結婚なさいました。それは臣妾がその方に似ているからですか?」


蕭昀の顔色が一瞬で変わった。彼は立ち上がり、洛玉の前に歩み寄った。


「誰がお前にそんなことを言った?」


「誰も言いませんでした。しかし殿下の夢の中の言葉が、殿下の心の内を物語っています。」洛玉は涙をこらえた。「臣妾は自らの身分をわきまえております。ただ、せめて真相を知りたいのです。臣妾は人の代わりでしかないのでしょうか?」


蕭昀は手を上げ、彼女の涙をぬぐおうとしたが、中途で止めた。「今は、そう答える時ではない。」


「ではいつ、お答えいただけますか?」洛玉は一歩前に出た。「もし永遠にその方が見つからなければ、殿下は一生臣妾をその方の影として見るのですか?」


「もう言うな!」蕭昀は突然声を荒げた。彼の目には一瞬、見たことのない狂気が宿った。「お前は何も知らない。朕が何年かけて……何年待ってきたかも知らない。ただ……」


彼は言いかけて止め、力なく机の端に手をついた。「すまない、朕は取り乱した。お前は下がれ。」


洛玉は一礼し、退室した。扉が閉まる音がして、東宮は再び静けさに包まれた。


その夜、洛玉は一人で庭園を歩いた。月は満ち、星はまばらだった。彼女は海棠の木の下に立ち、一片の花びらがはらはらと落ちるのを見上げた。


「僕は人の代わりなのかもしれない。」彼女は独り言ちた。「でも、僕自身の命は僕だけのものだ。誰かの代わりに生きるわけにはいかない。」


一方、蕭昀は書斎で天窓から月を眺めていた。彼の手には一枚の古びた絵がある。その絵の中の少女は笑っていて、彼はその絵を見るたびにやりきれない思いに駆られた。


「媱児、お前はどこにいる……」彼は声を絞り出した。「もしお前を見つけられなければ、俺は一生、一人の人間を愛することができない。それが俺の償いだ。」


彼は絵を大切にしまうと、引き出しから別の手紙を取り出した。それは洛将軍が先日密かに送ってきたものだ。内容は一貫している――国のために尽くし、必ずや成果を挙げて報いるという誓い。しかしその裏には、彼の野心を支える大きな基盤が隠されている。


蕭昀は手紙を灯した火で焼いた。燃え上がる炎の中で、彼の目は深い湖のように静かだった。


「父王は俺を嫌っている。それがわかっている。」彼はひとりごちた。「しかし今、補政の権は俺の手にある。朝廷の勢力も徐々に掌握しつつある。ただ、蘇玉媱……彼女だけが、俺の心に残る唯一の未練だ。」


数日後の早朝、元明帝は突然、群臣を召集して自分の病状を宣言した。


「朕は龍体がますます衰えを感じている。今、ここで明確に定める――太子・蕭昀は引き続き補政を行い、もし朕に万一のことがあれば、太子が位を継ぐ。」


百官は伏して命を受けたが、蕭昀は跪いて辞退した。「父王は万歳をお持ちでいらっしゃいます。どうかそのような不吉な言葉をおやめください。」


「いつまでもそんな虚礼は不要だ。」元明帝は手を振り、目には一瞬、複雑な色が浮かんだ。「朕は確かにお前を好まない。しかし今、朕にはお前以外に頼れる者がいない。これは朕の不運であり、大啓の不運でもある。」


この言葉は百宮の前で公然と告げられ、蕭昀の顔色は一瞬で陰ったが、すぐに平静を取り戻した。


「父王の仰せの通り、臣は必ずや全力を尽くして、父王のご恩に報いる所存です。」


散朝の後、蕭昀が東宮に戻ると、洛玉がわざわざ門のところで出迎えていた。彼女は青磁色の長裙をまとい、髪を結い上げ、一層落ち着いた様子だった。


「殿下がお戻りになりました。」洛玉は彼を迎えて中に入れ、用意していた茶を差し出した。


蕭昀は茶碗を受け取り、一口すすると、ふと尋ねた。「昨日の夜、お前は庭園で海棠の花を見ていたのか?」


洛玉は少し驚いた。彼は確かに自分を見ていたのか。彼女は頷いた。「はい、月がとてもきれいでしたので、少し散歩しただけです。」


「海棠は人を想わせる花だ。」蕭昀は茶碗を置いた。その言葉には深い意味が込められていた。「昔、一人の女の子が海棠の花の下で笑っているのを見た。その笑顔は、まるで海棠の花そのものだった。」


洛玉は黙って聞いていた。彼女には、彼の話している女の子が誰かを知っていた。心が痛んだが、それでも言葉を待った。


「しかし、もうすべて過ぎ去ったことだ。」蕭昀は急に話題を変えた。「お前は、もし朕が政権を握ったら、まず何をしたいと思うか?」


洛玉はこの質問に驚いた。彼女は少し考えてから答えた。「臣妾は深宮にいる身で、国政に口を出すことはできませんが、ただ殿下には民を思いやり、これらの困難な時代に苦しむ民が一日も早く安らかな暮らしを取り戻せるよう願っております。」


蕭昀は彼女を見つめ、その目には何とも言えない輝きがあった。「お前は、本当に蘇……あの女の子とは似ていない。彼女は活発で無邪気だったが、お前は落ち着いていて分別がある。」


「二人はそれぞれ別の人間ですから。」洛玉は静かに答えた。


「そうだ。それぞれ別の人間だ。」蕭昀はうなずいた。その目には初めて、複雑な色ではなく、ほのかな柔らかさが浮かんだ。「今はそう思うことにしよう。」


洛玉の心に暖かい流れが走った。それは決して大きな前進ではなかったが、少なくとも、彼はそのことに気づき始めていた。


その夜、月明かりは庭園に銀色の光を一面に注いだ。洛玉は海棠の木の下に一人立ち、これからの日々を思った。もしかすると、彼女と彼の間には、心の距離がまだ大きい。しかし少なくとも、自分は自分の人生を歩み始めている――本当に人の代わりではなくなっている。


遠くの養心殿で、元明帝が突然激しく咳き込む音が聞こえ、その後、妖道・済安が慌てて参内していく物音がした。蕭昀は東宮の書斎からそのすべてを見つめ、手を背に組んで立っていた。彼の目は相変わらず深く、計り知れなかった。


すべてはまだ決着していない。蘇玉媱はまだ見つからず、元明帝はまだ世を去らず、彼と洛玉の間も、真に解きほぐされてはいない。


しかし、少なくとも今この瞬間、彼は初めて本当の意味で、目前の人を見つめた――彼女はもう、誰かの代わりではなかった。

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