体操のお兄さん 第三体操の1 (Pixiv Fanbox)
Published:
2021-01-23 20:02:21
Imported:
2026-06
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Content
第三体操の1 出る杭を打つ者
「……よいな? 奴の動向をくまなく調べ上げ、隙あらば奴を……」
「将軍、みなまで言わずともこのギリィ、重々承知してございます」
「ふふ、さすがだな。我が配下イチの切れ者だけはある。飲み込みが早くて助かる」
「お褒め頂き光栄至極にございます。しかし私など、バーノ様やソリル様などには遠く及びませぬ」
「そのように謙遜するでない。……ただ、敢えて言っておくが、総統閣下にだけは知られぬよう動くのだ。もしも総統閣下の知る所となった場合、お前を助けてやることはできぬ」
「それも十分理解してございます。これは私の勝手な判断、独断で行っていることとして処理なさいますよう」
「……うむ。では行くのだ。吉報を待っておるぞ……」
「ははっ!」
鋼鉄のゼランが日本攻略に出発して2か月後、悪の秘密組織・ルガルム本部のとある一室で、ゼランを陥れようとする謀り事が、ひそやかに進められていた。
フードを目深にかぶり顔を見せずに立っているのは会話の中で聞こえたように、将軍の一人に間違いない。
そして将軍の前で跪いているのは「ギリィ」と言う戦闘員である。
鼻にも耳にもピアスを付け、唇を舐めながら不敵に笑みをこぼし舌なめずりをしているが、ギラリと光る眼底は冷たく冴えて少しも笑ってなどいない。
ギリィは小さくお辞儀をすると、音もたてずにすぅっとその場から消え去った。
「行ったか……、万が一にもゼランなどにこれ以上大きな顔をされてはかなわぬからな。念には念を、というやつじゃ。
しかし、総統閣下はアヤツを甘やかし過ぎる。二月も経っておるのに報告の一つも寄越さぬのに、
『好きにやらせてやれ』としかおっしゃらぬ。
そもそも、日本を最小限の力で手に入れようなどと口からでまかせ、あの場の勢いで言ってしもうただけの戯言に違いないものを……。
だが、それをお認めになってしまった以上こちらも表立ってはアヤツの邪魔はできぬ。
そう……表立っては、な……。
いずれ失敗に終わるのは間違いないじゃろうが、総統閣下に無駄な期待を抱かせた分、重い罰が下されるに違いない。
その日が今から楽しみじゃ……ふっひひひ……」
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このところ、日の出テレビジョンのスタッフや家族まで巻き込む連続失踪事件が発生している。
報道局・副部長の息子、そして衣装スタッフの鯵山まで入れて11人。
俺の勘では何者かによる連続拉致事件としか考えられないのだが、いかんせん詳しい情報が無いため
どこから手を付ければいいのか皆目見当がつかない。
鯵山が行方不明になってから3日後、俺と御門正義がメインで出演する予定だった新番組、「イケてるメンズ浴場」の
ロケが延期になったと河豚野プロデューサーから知らされた。
「……それってマズくないですか? 延期じゃなくてこのまま番組自体の企画がダメになっちゃうんじゃないっすか?」
俺の部屋に居候としてやって来た御門に河豚野の言葉を伝えると、フェイスパックを貼りつけたまま振り返って肩を落としている。
「マズイな……、とてもマズイ。俺にもだが、お前のフトコロに入る筈の金が来なけりゃ、ずっとここに居座らせちまう事になるじゃねぇか」
「いやだなぁゼランさん。僕のことなんか心配しなくたって良いんです。ほんとに狭いながらちゃんと生活できてるんですし。
こちらに住まわせてもらってる以上、今後もお掃除、洗濯、んでもってシモのお世話も全部僕に任せて下さっていいんですよ?
この程度の恩返しくらい、僕にだってちゃんとできるんですから。
って言うか、シモのお世話は僕も楽しんじゃってるから恩返しに入らないっすね!」
違う! そう言うことを言ってんじゃねぇ! って、思わずバトルフォームになりかけちまったが、部屋がぶっ壊れたらまんま日本支部崩壊って事と同義になるんで何とか抑えた。
御門はニコニコ屈託なく笑ってくれているが、そもそもこの部屋は俺が日本を支配するための拠点。ルガルム日本支部なのだが。
そんな部屋に他の秘密組織の戦闘員、と言うか「ヒーロー怪人」などと言うヒーローもどきの怪人野郎を呼び込むなんざ超が付くほどの異常事態なのだ。
挙げ句に日々の生活まで共にするなど、先日までの期間限定「親睦深めて番組作りに役立ててね」的なウィークリーマンション暮らしとは訳が違う。
そう、訳が違うのだが……。
「あらあらあらぁ? 世良っちゃん! 御門ちゃんと一緒に住む事にしたのね! 良い事だわ! とーっても良いわぁ!
やっぱり一週間程度じゃ相手の本音なんて部分まで見えてこないものよねぇ~?
自主的に新番組に向けて互いのフィーリングを掴むようアクションを起こしてくれたの、ほんっとに嬉しいわ!」
御門を俺の部屋に住まわせた翌日、早速河豚野にバレちまった。
着ているピンクのスーツを弾かんばかりに満面の笑みで俺と御門の手を強く握り締めブンブン振り回す。
「い、いや、こいつとは一時的に、って、聞いてんですか! プロデューサー!」
「番組終了までは一時的に2人で過ごすのね? さすがだわ世良っちゃんっ! 後輩に対する面倒見の良さ!
そう言うのって今後も芸能界で生き残る上ではとっても大事! 必須のスキルとも言えるわ!
誰にも言われなくともそうやってできるって、やっぱアタシの目に狂いは無かったのねぇ~!
それじゃ、御門ちゃんも世良ちゃんの心意気を汲んでしっかり頑張るのよ!」
「いや、番組終了とかの前に一日も早くこっから出てって欲し――」
「あ、そう言えばプロデューサー。この前言ってた特別手当っていつ入るんです?」
御門が河豚野に尋ねる。
おいおい!
俺の話に割り込むんじゃねぇ! 訂正しとかねぇと勘違いしたまんまで帰るじゃねぇか!
「……それね。上の決済がまだ下りてこないのよ。例の副部長の息子さんの件とかでバタバタしてて、
さすがのアタシも強く言いにくいの~。……あ、っと、ごめんね~、携帯に着信が来ちゃった。――はい、もしもし。河豚野よ……何なのかしら?――」
ポケットから携帯を取り出し話し込む河豚野。
あ~、結局そのまま玄関を出て帰っちまいやがった。畜生。
御門のフトコロ事情が回復したらすぐに出てってもらいます、と言えてないままだぞ。
ただ、さすがに俺でも日の出テレビジョンが表面的にゃ普段通りだが上層部は大混乱中、ってのも理解できる。
理解できるが、御門がバカみたいに契約しちまった数々の習い事の支払いの残りだってそんなに待ってはくれない。
このままじゃまた俺が御門の代わりに立て替えてやることになるんじゃないか?
数日後、鯵山救出について何も方策が思い付かないまま来週分の「楽しいヘルシーライフ」の収録を終えて
ルガルム日本支部(築40年トイレ・風呂あり1k駅歩7分、家賃4万5千円)に戻ると、御門はまだ部屋に戻っていなかった。
「御門の野郎……どこに行ってんだよ、ったく」
まだダンススクールに居残ってんのか? と思ったがどうやら違う。食卓にしているミニテーブルの上にメモが一枚ある。
「ええと? 『ビースレイブ本部から呼び出しを受けちゃったんでちょっと出てきます。日が変わる前には戻りますので心配いらないっす!
夕飯にはクリームシチューを作ってありますので、温め直して食べててください。御門』……か」
居れば窮屈なのに居なければ居ないでちょっと寂しく感じる……って!
「ぶるるる! いいや! 何で寂しい気分になってんだよ俺は! アイツがこのまま戻ってこない事を望めばいいんじゃねぇか!
そうだ、アイツの本部とやらで面倒を見てもらえばいいんだよ!」
台所の鍋の蓋を開ける。
確かにクリームシチューではあるが鶏肉は入っていない。
代わりに特売品の魚肉ウィンナーが蛸さんの形になって白い海の中をぷかぷか浮かんでいる。
「御門……」
変なところに料理の腕を振るってるな。
――ピンポーン♪
「御門か?」
日付が変わるころまでに、とメモに書いてあったが、もう帰って来やがった。
全然早ぇじゃねぇか。
シチューの鍋に蓋を戻し急いで玄関を開けようとする。
が、ふとおかしな点に気づいて手が止まった。
(まて……御門なら合鍵を持っている筈だ。それに、今まで一度も呼び鈴なんて鳴らした事なんか無いぞ……?
まさか、『敵』か!? 敵にここがルガルム日本支部だと嗅ぎつけられたのか!?)
自分の気配を消しドアの覗き穴から外を窺う。
人影は見えるが誰とは判別できない。
開けた瞬間強襲される可能性がある。慎重に行動せねば。
ただし、正体不明であっても敵では無い可能性もある。
「……はい? どちら様で?」
「こんばんわ、ゼランさんのお宅ですか? お届け物の配達です!」
相変わらず穴の向こうの存在は影だけしか見えないが、聞こえた声に俺は安堵した。
この前、御門の奴が『前の部屋から取りあえず必要なものを宅配便で送りましたので、もし僕が出られないときは申し訳ないんですけどゼランさん、受け取っておいて下さい』と言っていたのだ。
きっとそれに違いない。
「すまねぇ、待たせたな。ええとハンコじゃなくてサインでも良いんだろ――」
ドアを開けると黒いツナギを来た男が立っていた。
うん? 荷物はどこだ? ……コイツ、本当に宅配便の者、なのか? 目深にかぶったキャップのせいで表情が見えない。
「迂闊にも程がありますね、ゼラン将軍。こんな簡単に引っかかっちゃ四天王の名が泣きますよ」
ブシュゥゥゥーーーッ!
「うぐぅぅっ!? お、お前、は…………」
吹きつけられたスプレーを避けきれず、もろに吸いこんでしまった。視界が急速に閉じて行く。
思考が保てない。体から力が……抜けて行く。
間もなく世界は暗い闇の中に消え、そうして俺は、
一切の抵抗もできないまま、その場で意識を失っていた。
第三体操の2へ続く
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