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「ゆ、許して……縛られるのなんて、初めてなの……」

「俺の気が済んだら解いてやるよ」


 そう言いながら、俺は徐々に自分の指をミズキの脇腹に這わせていった。


「にゃっ!? あひっ、あっはははははははっ! やっ、やめ……やめてえっ、あははははっ!!」


 以前からミズキは俺の脇腹をしつこいほどくすぐりに来ていた。

 体の中でも特定の部位を執拗に狙う理由……他でもないミズキ自身の弱点が脇腹なのではないかと密かに勘繰っていたが、俺の予想は当たっていたようだ。

 指先がほんの少し触れた瞬間からすぐに大笑いを始めて、とても苦しそうによがり狂っている。


「助けてえっ! そこはっ……弱くてえっ……あははははははっ!!」

「弱いから責めるんだろうが。ほれほれ、もっと笑え」

「ごめんなさいっ許してくださいっ! はひっ! はあっ、はあっ、あはははははははっ!!」


 このまま永遠に続けてやろうと思ったが、呼吸する時間くらいは取ってやるとしようか。

 俺はくすぐる手を止めてミズキが呼吸を整える様子をじっと見守る。ミズキは目に涙を浮かべて、俺からの責めに怯えている様子だ。

 もう休憩はいいだろう。第二ラウンドは趣向を変えて、触れるか触れないかのフェザータッチでミズキの脇腹をくすぐってみる。


「っ……ぁ……っ!?」


 どうやらなかなか良い刺激を与えたようで、先ほどの大笑いとは違った反応を見せる。

 さらに優しく指の腹で撫で上げた。


「んうぅっ! こ、これダメ……そこは敏感なのに、コレはぁ……っ!!」

「さっきも言ったが俺の気が済むまでやめてやらないからな」


 腰をクネクネと動かして俺の指から逃れようとしている様子だが、体を縛られているミズキでは徒労に終わるのみだった。


「いっ……、だめだってばぁ……! いっ……ちゃう……からぁ……っ!」


 もはや言葉にならない声を漏らすことしかできないようだ。

 まだまだこれからだ! 体力の限界までいじめ抜いててやる! と息巻く俺の耳にふと、スマホの着信音が届けられた。


「ん?」


 手を止めて画面を見るとメッセージアプリに通知が一件。ヨウコからの連絡だった。


『おつかい早く終わった!』

『妹に会ってさ、買ったもの全部押し付けてきた✌️』

『まだ学校にいるよね?』

『すぐ行くね~』


 その内容を、縛られて自分のスマホをチェックすることができないミズキに伝えてやった。


「ヨウコのやつ、おつかい早く終わったからやっぱりこっちに来るってさ」

「えっ……!?」


 ハァハァと息を切らしながらミズキは目を見開いた。

 ミズキの思うところは手に取るように分かる。今ここにヨウコが現れたら自らの痴態を晒すことになってしまうんだからな。さぞかし焦っていることだろう。


「見せてやろうぜ。縛られて息を荒げているお前の姿をよ……!」

「だ……ダメぇっ!!」


 するとミズキはさっきまで以上の強い抵抗を始めた。


「こんなの見られたら……恥ずかしいよぉ……お願い……解いて、ハルトくん……っ」

「う……」


 今にも切実に泣きそうな表情をするもので、復讐心に燃えていた俺ですら可哀想に思えてしまう。

 仕方ない。今回は終わりにして、また二人きりになったらミズキをいじめてやるとしようか。

 俺はミズキの背中の結び目に手を伸ばした。


「分かった。すぐに解くからな……」


 だがなかなか縄を思うようにいかない。


「あれっ、固結びになってる。解きやすいように結んでたんだけどな……」

「早く! ヨウコちゃん来ちゃうからぁ!!」

「分かってるって。だから大人しく……くそっ、全然解けん……!」


 そうこうしている内に数分が経ち、廊下の方からドタドタと足音が聞こえてきた。


「そんな……見られちゃう……!」

「もう解くのは無理だ! とりあえず隠れてろ!」


 俺はミズキを抱え上げ、教室の隅に鎮座していた掃除用具入れを開ける。空き教室のためか掃除用具の類は入れられておらず、ミズキを隠すのに丁度いい空間だった。


「俺は一旦ヨウコと帰るフリして、後で解きにくるからな。大人しく待ってろよ」


 危機迫る表情をこくりと頷かせるミズキ。俺は蓋を閉じてから離れ、教室の真ん中をうろうろと歩き回ることにする。



 ドタドタという足音が止んだのは教室の扉が開かれる音と同時だった。


「ハルト、ミズキ! お待たせ~……あれ? ミズキは?」


 訝しむようにヨウコが教室を見回すが、まさか掃除用具入れに縛られた姿のミズキが閉じ込められているとは夢にも思うまい。


「ミズキも用事ができたってさっき帰っていったぞ」

「ふーん……? でもすれ違わなかったけど……」


 これ以上ものを考えさせては嘘を見抜かれるかもしれない。

 俺は間髪入れずに次の言葉を放った。


「それよりヨウコ……二人きりだな」


 さっきミズキに言われた言葉を真似してみる。するとヨウコが目を見開いて、明らかに動揺し始めた。


「なっ! ななななに言ってんのよっ!?」


 どうやら思ってもみない意味に受け取られてしまったようだが構うものか。俺の次の復讐対象はとっくにヨウコに定められている!


「今日はいつもと趣向を変えてさ、ヨウコが縛られてみないか? ミズキもいないことだし……いいだろ?」


 ヨウコはミズキと違って運動神経がよく、無理やり抑えて縛り上げるのも難しそうだった。だからダメ元で立場逆転を提案してみたのだが……まあ、断られてしまうだろうな。

 などと思っていたのだが。


「えっ、あ、う……」


 猛反対される展開ばかり予想していたが、ヨウコは頬を赤らめて何か思案するようだった。

 もしかしてヨウコの奴、縛られることにも興味があるのか?

 だとしたら僥倖だ。俺は押しの強いセールスマンになりきったつもりで捲し立てた。


「ヨウコが縛られた姿を見てみたいんだ。もちろん悪いようにはしないし、嫌だったらすぐに解くからさ。な? 頼むよ。今日だけ! お願いしますヨウコ様!」


 少々ナンパ男な物言いをしてしまって俺も恥ずかしいが、どうやら必死に懇願する様子が胸を打ったようで、ヨウコは長考の末にこくりと頷いた。


「しょ、しょうがないわね。そんなに頼むなら……一回だけ、縛ってもいいわよ。ただしっ! 絶対にすぐ解くこと! いいわねっ」


 そう言いながらヨウコはカバンから縄の束をいくつか俺に手渡した。

 バカめ、すぐになんか解くわけないだろう。

 俺は勝利の笑みを隠しつつ縄を受け取り、ヨウコの背後に回った。


「手、後ろに組んで」

「うん…………んっ」


 さあ、楽しい復讐タイムの始まりだ。


(つづく)




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