雄竿の杯② ~ガチムチ社員たちが集団乱交するお花見~【猫と杖の章】(23,000文字) (Pixiv Fanbox)
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少しずつ仕事にも慣れてきた、四月。
世はお花見のシーズンである。
時刻は12:00。
「って、お花見?」
オレ、【梅澤孝司(23)】(うめざわ・こうじ)の務めるゲーム会社『メンズカリバー』に、毎年恒例のお花見があると耳にしたのは、窓から入ってくる風が心地よい昼下がりの食堂でのことだった。
「うちの会社、やたら広い中庭があるでしょ? なんか、そこで盛大にやるらしいよ」
オレと新卒で同期入社した【安藤草葉太(22)】(あんどう・そよた)が、そう言いながらA定食のトンカツを口に運ぶ。
その隣で、オレもトンカツを箸でつかまえながら気だるく返事をした。
「はあ~? わざわざ休みに出社してまで花見したいもんかね? それ、楽しいのっておっさんだけじゃね?」
「あはは、しょうがないよ。見ての通りおじさんの多い会社だもん」
他人事みたいに笑うソヨ太に、オレはねぶり箸のまま、鼻から息を吐く。
職場の花見かあ。
別に何が嫌ってわけでもないけど、正直、気が進まない。
休みの日に会社に来るっていうのが普通にめんどくさい。
「強制参加じゃないだろうし、オレは不参加でいいかなー」
オレが気だるく言うと、同じテーブルを囲んでいたもうひとりの同期、【猫柳マル(22)】(ねこやなぎ・まる)がこっちに箸を向けてきた。
「にゃにゃっ!? 梅澤、それ本気? オレは絶対いくよ? そういう場にもちゃんと出席して、すかさず上司にお酌しまくるのがポイント稼ぎの定石っしょ!?」
ぴょんと二つの猫耳みたいな寝癖をつけた猫柳がそんなことを言ってくる。
オレはその言葉を鼻で笑い飛ばした。
「おいおい、休みの日の飲み会で上司にお酌っていつの時代だよ。もう令和なんよ。そんなんアルハラ?なんよ」
ちっちっち、と猫柳が指を振る。
「にゃんとまあ……昇進のチャンスをみすみす逃すとはもったいにゃい。まあでも、これで同期の中でオレが一歩リードしちゃえるってわけだ」
猫柳はオレを嘲(あざけ)るように、しししと猫っぽい笑みを浮かべる。
「花見の出席の有無なんかで昇進が決まってたまるかよ……」
オレがそっけなく言うと、不意に頭上から低くて暖かい声が降ってきた。
「なんだよ。梅澤は花見来ないのか? 寂しいじゃないか」
ハツラツとした声の主は定食のトレイをオレたちと同じテーブルに置いて、目の前の椅子に颯爽と腰掛ける。
年齢よりも若く見える、ハッキリとした顔立ち。
人好きのするオーラを身に纏ってオレたちに笑いかけるのは、我が広報部のトップを突っ走る【桜井徹(さくらい・とおる)】先輩(37)だった。
オレの心臓が、気づかれないように甘く跳ねる。
「さ、桜井先輩! え、えっと、いやあ、まだ考え中っす」
たはは、と頭を掻いてごまかすオレに、桜井先輩は大口を開けてトンカツを咀嚼しながら口角を上げる。
「ま、若いモンからしたら、せっかくの休日を奪われるなんて酷だよなぁ。もちろん無理に来いとは言わないさ。……ただ、俺たちが売ってるようなゲームが好きなヤツなら、花見はそれなりに嬉しい福利厚生かもしれないってだけで」
「福利厚生…?」
普段からぼんやりしているソヨ太が、そのままぼんやりと呟く。
「オレたちが売ってるゲームって、『騎士ビン♂』とか、『蒼きカデンツァ』とかのガチムチ系ってことっすか…?」
オレも併せて呟くと、桜井先輩はガツガツと食事を進めながら頷く。
「そ。まあこれ以上はここでは言えないかな。ゲームとおんなじ、プレイした人だけのお楽しみ。ネタバレは厳禁ってな」
爽やかにおどけた口ぶりで片目を閉じる桜井先輩に、たぶん、ここにいる三人全員がキュンとした。
喋りながらあっという間にトレイの上の定食を空っぽにした桜井先輩は、来たときと同じく素早く立ち上がる。
「そんじゃ、俺、午後一で先方と予定あるから、お先!」
さすが広報部のトップは忙しそうだ。
それでも桜井先輩は明るく、そつなく、周りとコミュニケーションを怠らずに歩いて行く。
同じ部署とは言え、ド新人なオレにまでこうして構ってくれるところに、先輩の人柄と手腕がうかがえる。
(さ、桜井先輩に声かけてもらえた…!)
そんなオレは、憧れの先輩に絡んでもらえた喜びで胸がいっぱい超HAPPYなのだった……!
正直、さっきまでは行きたい気持ちなんてほとんどなかった会社のお花見に、今は行ってもいいかなくらいの気持ちにはなっている。
桜井先輩。
広報部の中で、一際目立つ花形社員。
イケメンで頼りがいがあって話し上手な彼は、見た目も物腰もスマートで、まさに人たらしだ。
広報とはかくあるべき、というお手本のような彼に、オレは仕事の面でも、人間としても憧れを抱いていた。
もっとも、それはオレだけに限らなくて、同じ部署の人間はみんな似たようなものだ。
今隣でぼけーっとしているソヨ太だって、桜井先輩のことが好きなのだと思う。
「桜井先輩、今日も、か、かっこよかったね…! 仕事がんばって先輩に褒められたいなあ…」
ほら、オレの肩を叩きながらそんなことを言ってくるくらいだし。
「ま、まあでも、桜井先輩はちょっと高嶺の花すぎるよにゃあ。お近づきになりたいけど、競争率も高そうだし、遠くから眺めてるくらいが分相応な気持ちもするっちゅうか」
猫柳も頬を赤らめながらも、現実的な意見で溜め息をつく。
まあ、オレだって、桜井先輩と付き合いたい、とか、そんな分不相応で見込み無しの願いを抱くほど夢見がちじゃない。
そうだな…オレにとって桜井先輩は、せいぜい職場での「推し」、みたいな存在かな。
────と、冷静を装ってみたものの、胸いっぱいのオレの胃には、目の前のトレイに半分以上残っているトンカツはもう入りそうになかった。
時刻は13:00。
昼休憩を終えたオレたちが広報部のオフィスに戻ると、何やら騒々しい怒鳴り声が響いてきた。
その怒鳴り声の発生源を目で探ると、カッターシャツを腕まくりした大柄な男性が目に入った。
遠目からでも腕に毛がびっしり生え揃ったむさ苦しいその男性は、前に立つ男性へと唾を飛ばして何かを抗議している。
「だぁら、この店も、この店も、先方と接待で使ったんだっつってんだろォが!! 接待なんだから経費で落ちんだろ!!」
そう言って怒り狂うゴリラのような男性は、広報部の【剣持(けんもち)】さん(29)だ。
学生時代をハンドボールに費やしたというツーブロックの彼は、酒と女に目がない、典型的なパワータイプのオスである。
「ほお~~? 領収書確認したけど、接待でラブホテルを使ったというのか? それ以外の店名も……全部風俗だよな? 君は一体、誰とどんな接待をしたんだ?」
その剣持さんの烈火の抗議をさらりと受け流しているのが、メガネをかけた堅物そうな男性だった。
メガネの奥の瞳をひくつかせながら、こめかみに怒りの血管が浮き出ている彼は経理部の【盾石(たていし)】さん(31)だ。
理性的でしっかりした大人の雰囲気を纏(まと)う彼は柔道で黒帯を持っているらしく、図体は剣持さんとほぼ変わらないくらい、四角くてデカい。
そんな盾石さんに、剣持さんは唾を飛ばして大口で荒ぶる。
「ごちゃごちゃうるrrrっせぇなァ! 言わせんなよ、カラダ使って接待したんだよ! 俺のこの鍛えられたカ・ラ・ダ・を・な!! 経理のヤツらと違って、こちとら日々肉弾戦なんでなァ!」
その言葉に、盾石さんも負けずに怒鳴り返す。
「嘘をつくな、たわけぇ! どうせ出張先でストレス解消に風俗開拓してきただけだろう! ただの女遊びが経費で落ちるわけあるかァ!!」
激しく言い合う剣持さんと盾石さんは、くっつきそうなくらいに顔を付き合わせて火花を散らす。
「またやってるね、あの二人……」
そんな二人を眺めていたオレのすぐそばで、ソヨ太があくびまじりに呟いた。
ソヨ太の言うとおり、我が広報部である剣持さんと経理部の盾石さんの衝突は日常茶飯事で見慣れた光景ですらある。
ただ、二人はもともと同期入社で、気心の知れた仲だからこそここまで言い合えるらしい。
まあほとんどの場合、剣持さんが無茶なことを言っているだけなんだけど。
「とにかくこの領収書は経理ではどうにもできない! 毎度毎度、同じことを言わせるんじゃない、まったく…!」
剣持さんのデスクに風俗店の領収書を置く盾石さん。
そんな彼の左手の薬指には、鈍く光る銀色の指輪が嵌まっている。
その指輪が視界に入ったのか、剣持さんが大袈裟に舌打ちした。
「かーっ! いいよなぁ、家に帰れば可愛い嫁さんがいるヤツはよォ! 俺だって人肌が恋しいときくらいあるってのに、冷てぇやつだよ、お前は。あーあ、同期のよしみで俺の気持ちを汲んでくれたっていいんじゃねぇの?」
ごねても無駄なことを悟った剣持さんが、論点をすり替えて盾石さんを責める。
盾石さんは額に手を当てて大袈裟に溜め息をついた。
「自分のオンナ癖の悪さを棚に上げて何言ってるんだお前は……。そうだな、酒と風俗をやめて、子供みたいな性格と、絶望的な口の悪さと、あとその男臭い見た目をまるごと直せば結婚できるんじゃないか? 知らんけど」
「そんなに直したらもう俺じゃねぇやい! 盾石のボケ! お詫びにスワッピングしてくれよ! 俺、相手いねえけど!」
「するわけないし、お前はいっかい死ね!!」
盾石さんは尻ポケットからスマホを取り出すと、ロック画面にしている綺麗な女性と自分のツーショット写真を剣持さんの鼻先に突きつけた。
「見てみろ! 私と妻はこんなにもラブラブなのだ! 貴様のようなゴリラが入る隙があるかぁ! 私たち夫婦とお前じゃあ、動物園の観客と檻の中のゴリラくらい環境に差があるわ!」
何気にひどいことを捲(まく)し立てる盾石さん。
だけど本当に愛妻家なんだろう、写真の中で奥さんの隣に映る盾石さんは見たことないくらいにデレデレと表情筋を緩ませている。
「うぐぐぐ……! 何回見せんだよその写真! つーか何回見てもお前と嫁さん、釣り合ってねぇやい! ラピュタのシータとロボットみてぇなツーショットじゃねぇか!」
ギリギリと歯噛みして、幸せそうなツーショットにケチをつける剣持さん。
こっちもこっちでだいぶ失礼なことを宣(のたま)っている……。
(やれやれ……)
うるさくも仲の良さそうな二人の邪魔をしないよう、オレは自分のデスクへ戻る。
運が悪いことに、オレのデスクは剣持さんのデスクのそばなのだ。
そんなオレに気がついて、盾石さんが申し訳なさそうに苦笑を向けてくる。
「いやあ、やかましくて申し訳ない。しかし広報部の方々にはいつも尊敬を禁じ得ないよ。このバカゴリラを飼い慣らしてるんだからね。それじゃ、私はこれにて失礼」
「誰がバカゴリラじゃ、誰が! 盾石、お前今度の花見で勝負だからな! 覚えとけよォ!」
言いたいことを言って広報部を後にする盾石さんに、バカゴリラこと剣持さんが中指を立てる。
盾石さんが完全に去ったことを確認すると、剣持さんはつまらなさそうに両手を頭の後ろで組んで、椅子の背もたれにもたれかかった。
「ちくしょう! 盾石のむっつり野郎には毎度ムカムカさせられるぜ…! あ~あ、今度の花見だって、こんな男だらけのむさ苦しい職場じゃ花がねぇしよ。コンパニオンのおねーちゃんでも呼んでくれっなら楽しみもあるんだけどなぁ……チッ!」
眉間にシワを作ってぶつくさと文句を言いながら、ギコギコと椅子の背もたれを巨体で揺らす剣持さん。
女好きの剣持さんにとって、男性社員しかいない我が社の飲み会にはあまり魅力を感じてないみたいだな。
平穏を取り戻した部署の中で、オレはデスクに座って考える。
(お花見には、どうやら今の二人も来るっぽいな……)
うーん……。
剣持さんは近寄りがたいけど、粗暴な兄貴系で実は社員の中で隠れファンが多いんだよな。今も遠巻きに二人のケンカを窺っては、(はあ…はあ…オレもアニキに真正面から怒鳴られたいっす…♡)みたいなコトを考えて、鼻息を荒くしてる連中がいることをオレは知っている。
対する盾石さんも、パワー系の剣持さんに負けず劣らず。
むっつりと腕組みするだけでスーツが弾け飛びそうなガタイが魅力的なのはおろか、我が社では天然記念物レベルに珍しい既婚者なのである。
カタブツな彼が、家では愛しい奥さんとベッドを共にしているのかと思うと、いけない興奮が生まれてきそうにはなるよなあ……。
正直、そんな二人とお近づきになれるものならなりたい……とも思う。
もしもお花見に行ったら、何かチャンスがあるのだろうか……?
時刻は14:00。
オレがメール対応を終えて一段落すると、デスクで丸まって居眠りしている猫柳の背中が見えた。
あいつ、あんなに堂々とサボりやがって……。
そんな同期を叩き起こすべくオレが立ち上がりかけたとき、猫柳のデスクに大きな影が近づいた。
「猫柳くん、先方との待ち合わせまでもう時間ないんだけど……準備はできたかな?」
優しくも焦った声をかけられて、猫柳は驚いて飛び起きる。
「にゃっ!? あわわ、尺杖さん、もうそんな時間ですか!?」
不意に起こされた猫柳の表情はどう見ても今までサボって寝てましたと言わんばかりの寝ぼけ顔。
そんな猫柳の背後にどっしりと佇んでいるのは、同じ広報部の【尺杖(しゃくじょう)】さん(30)だ。
温和な糸目の彼は、入社当時から猫柳のOJTを務めている。
「にゃーっ!? ほんとにもう時間ないっ! 尺杖さんってば、どうしてもっと早く声かけてくれなかったんですかあ~!」
猫柳が大慌てで準備しながら、自分を棚に上げて尺杖さんに八つ当たりしている。
自分が悪いくせによく言うよ、猫柳のやつ。
「ご、ごめんよ。だけど、ちゃんと予定は伝えていたんだから、いちいち僕に言われる前に自発的に動いてもらわないと……」
やんわりと優しく注意してくれる尺杖さんに、猫柳は反抗的な目線を向ける。
「にゃにゃ……そう言われても! オレ、まだ一年目の新人にゃんですからっ! オレのミスはOJTしてくれてる尺杖さんの責任でしょっ! 頼みますよ、まったく~」
猫柳の迫力に押されて、尺杖さんはオロオロと「ご、ごめん」と謝っている。
どう見ても悪いのは猫柳なのに……尺杖さん、優しい人なんだけど押しに弱すぎるんだよな。
これじゃ猫柳に言いように使われてしまうだけだ。
「あ、猫柳くん、寝癖ついてるよ。先方にお会いする前に直しておこうか」
ブラシを手にした尺杖さんが、猫耳みたいな猫柳の寝癖を優しく撫でつける。
「んにゃあ……きもちいい……じゃなくって! ブラッシングはもっと優しく、ソフトかつエレガントな手つきで! 尺杖さんったら、ほんとに猫の扱いが下手です!」
「たはは、ごめんよ。猫は好きなんだけど、なぜか毎回あんまり好かれないんだよね」
「まあ、ただでさえ図体がデカくて恐いのにそのブラシテクニックじゃ懐かれないでしょうにゃあ。ほら、オレで練習させてあげますから、もっと丁寧にお願いしますよ」
傲岸不遜にそう言って、猫柳が後ろ頭を尺杖さんの胸板に預ける。
尺杖さんはただ苦笑して頬をぽりぽり。
「いやあ、あの、寝癖直すのは自分でやってくれないかな……?」
「にゃ? 尺杖さんが猫好きって言うから、特別に触らせてあげてるんですけど? 普通だったらセクハラですし。金輪際、二度とオレの猫っ毛に触れなくなってもいいですかにゃ?」
「はあ……もう、仕方ないなあ。確かに、猫柳クンの髪ってふわふわで、たまんない手触りだもんな」
尺杖さんは苦笑いしながら、猫柳の寝癖を永遠にブラッシングしている。
一応、尺杖さんの方が上司なのだが、見ている分には力関係がまるっきり逆転している。
だけど、猫柳のひどい態度に、なんとなく尺杖さんもまんざらではない空気なんだよな。
これも、「手のかかる部下ほど可愛い」現象なのか……?
猫柳はさらに尺杖さんにしなだれかかって、甘えた声を出した。
「ふわあ~、あ、あと、先方との待ち合わせに行く途中で、またたびフラペチーノ買ってくれません? オレ、あれ飲まないとやる気がでないんで」
「えぇ…? この前も君にご飯驕ったばっかりじゃないか……。焼肉食べたいとか、お寿司が食べたいとか、ことあるごとに言ってくるんだから」
「先輩が部下にご飯驕るのは当然でしょ! 買ってくれないともう尺杖さんの言うことは聞かにゃ~い」
からかうように言う猫柳に、尺杖さんは糸目を細めて、困ったように溜め息をつく。
「買っても買わなくてもキミは僕の言うこと聞かないでしょうに……しょうがないなあ。その、にゃんにゃんコーヒー?だっけ? 買ってあげるから、そろそろ出るよ」
「そんなJKが飲むようなキャワイイ名前じゃなくて、またたびフラペチーノですっ!」
「はいはい……それも十分かわいいでしょ……」
自分勝手な猫柳と、それを甘やかして助長させている尺杖さんが賑やかに去って行く。
うーん……。
不思議な二人だ……。
しばらく仕事に没頭して、パソコンの時計を見ると16時を過ぎたところだった。
オレはモニターの見過ぎで疲れた眉間を指でもみほぐす。
(ちょっと休憩しよっかな……自販機にジュースでも買いにいこう)
オレは共有スペースの自販機へ向かう。
適当なジュースを買ってから、どこで飲むか考えた。
(うーん……そうだ。たまには屋上で飲んでみようかな)
あんまり行ったことのない、我が社の屋上。
そこが解放されていることを知っていたオレは、迷わずに階段を上る。
屋上への扉を開けたとき、数人の男性たちが屋上の柵のそばいるのが見えた。
(先客がいたか……)
先客たちはどうも青空の下でタバコを吸っているようだった。
向こうは数人で談笑していて、こちらは一人。
なんとなく居心地が悪い。
仕方なく戻ろうかと思って踵を返しかけたオレに、先客から野太い声が飛んできた。
「お~い、そこの新人くん! おじさんたち恐くないから、こっちおいで~」
何やら豪快な笑顔の中年男性がオレに呼びかけてくれていた。
「あ……ども」
声をかけてもらったオレは、ぺこぺこと頭を下げながらその集団のもとへ向かう。
近づくと、三人の男性がオレを迎えてくれた。
タバコの煙をふぅーっと空に吹きかけながら、オレを呼んでくれたおじさんが挨拶してくれる。
「ようこそ屋上喫煙室へ~。ここで会ったのもナニカの縁ってことでちょっと話そうや。俺ちゃんは企画部の【煙崎(たばさき)】(36)。そんで、そこにいるヤクザ面が【佐津間(さつま)】(42)、こっちの可愛いのが【青木(あおき)】(26)な。こっちはみんな企画部だけどお前さんは?」
「ありがとうございます、オレは広報の梅澤です。すみません、お邪魔します」
オレはぺこりと頭を下げて、目の前にいる三人をそれぞれ見回した。
気さくに声をかけてくれたイケオジが煙崎さん。
長身でむっつりしたコワモテが佐津間さん。
二人に比べると若くて小柄なのが青木さん、か。
(企画部の人たちか……)
企画部というと雲の上の人達の集まりという勝手なイメージがあった。
新人のオレでさえ、直接話したことはなくても顔と名前を知っている人が何人かいる。
その何人かの中に、煙崎さんと青木さんはいた。
うちの会社が作った最新ゲーム『蒼きカデンツァ』。
今、勢いに乗って売れに売れている作品である。
その作品の企画開発の竜骨を担ったのが、目の前の煙崎さんだったはずだ。
それ以前に、色んなゲーム雑誌のインタビューとかでオレは煙崎さんを見たことがあった。
そんな人とたまたま遭遇できるなんて、オレ、運がいいのかも…!
「広報部の方ですか。毎日ご苦労様です」
オレがちらちら煙崎さんに気を取られていると、社会人然とした振る舞いで青木さんが言ってくれる。
「い、いえ! オレなんかまだまだ入ったばっかりで……」
笑いながらふと青木さんを見ると、がっしりと煙崎さんの腕に自分の腕を回しているのが目に入った。
まるで、周囲に彼は自分のものだと主張する恋人みたいな……。
……ん?
「広報かぁ! 桜井のやつにしごかれたりしてないか? 俺ちゃんがバシッと言ってやろうか?」
青木さんと腕を組んだままの煙崎さんがそんなことを言ってくる。
「いえ、桜井先輩は、その、めちゃくちゃ素敵な先輩です…!」
「そうか~? あいつ爽やかそうな顔してるけど、酒癖悪いから気をつけろィ…って、こんなこと吹き込んだのバレたらどやされるな。だっはっはっ!」
どうも煙崎さんと桜井先輩はそれなりに親交があるらしい。
やっぱ、部署が違っても凄い人同士は繋がってるもんなんだなあ。
そんなことを考えながらオレは、そばで黙々とタバコをふかしていた佐津間さんをチラリと見る。
確か佐津間さん……だったっけ。
佐津間さんは正直、ゲーム会社に似つかわしくないくらいのコワモテである。
あのヤクザが主人公のゲーム、『虎のごとし』に出てきそうな感じ。
片手をスラックスのポケットに突っ込んでタバコをふかしているのが大人っぽくて絵になる。
オレのぶしつけな視線に気づいてか、佐津間さんは切れ長に整えられた眉をしかめてこちらを横目で見た。
「……?」
(ぴゃっ!)
その鋭すぎる視線から思わず思い切り目をそらしてしまった。
「おう佐津間、そんなに睨むと梅澤くんがビビっちまうだろィ」
「……別に睨んでねぇ。俺はこう見えて子供は好きだ。伊達にガキと暮らしてない」
煙崎さんに指摘されて、佐津間さんがむすっと反論した。
「子供ったって、お前ンとこの…タクだっけ? あの子ももう学園の二年生で、子供じゃねえだろィ」
「俺からするとタクはまだまだガキだ。そこの梅澤くんとやらも、見た目の印象はタクとあまり変わらん」
不意にアゴで示されて、オレはぽかんとしてしまう。
「ガ、ガキって……」
なんだかわからないけど、オトナな佐津間さんからしたら、俺なんてまだまだそこらへんの高校生男子と同じに見えてるってことか。とほほ……。
「ま、まあ、なんにせよよかったな、梅澤くん! 佐津間は顔はヤクザだか面倒見がいいからな。なんか困ったことがあったら子供らしくいつでも頼ったれ」
がはは、と笑う煙崎さん。
「たはは……ありがとう、ございます……(子供じゃないんだけど…)」
内心うなだれながら、身も心も頼もしそうな企画部の方々に俺は生返事を返すのだった。
「そうだ、今度の花見、梅澤くんも来るんなら、よかったら一緒に呑もうや!」
煙崎さんがタバコをジョッキに見立てて、ぐいっとしながらオレに笑いかけてきた。
そのまま隣の青木さんも話題に乗ってくる。
「いいですね! 別の部署の方と親交を深められるチャンスってあんまりないし……それに、酔っ払った炎路さんを止めてくれる人は何人いてもいいし……!」
お花見か……。
確かに、煙崎さんたちともっと話してみたい気持ちはある。
『蒼きカデンツァ』の純粋なファンであるオレからしたら、願ってもない機会だし。
すると、佐津間さんがなぜか心配そうに聞いてきた。
「梅澤くんとやら……キミ、酒は呑めるのか?」
オレ、成人してないと思われてるんだろうか?
「の、呑めますよ、もちろん!」
「……なら、一緒に呑むか」
ふ、とわずかに口角を上げる佐津間さん。
わ、笑った……!
レアそうな笑顔にトキメキそうになるオレに、煙崎さんの快活な声が届く。
「つーことで、花見の席で俺ちゃんたちを見かけたら、気軽に声かけてくれよな!」
お花見か……行きたい理由が出来ちゃったな。
よーし。
せっかくこう言ってくれてることだし、何よりオレも煙崎さんたちともっと話したい。
お花見のとき、煙崎さんたちを見かけたら声をかけさせてもらおうかな。
18:00。
一日も終わりに近づいてきて、だんだん疲れてきたオレは、ほんのちょっとだけ息抜きをしていた。
目の前のPCモニターの中で、動画が再生されている。
オレが広報を担っている我が社の新作ゲームのプロモーション映像だ。
そのゲームの名前は『蒼きカデンツァ』という。
勇者見習いの主人公が幼馴染みのガチムチ男子3人とパーティを組んで、“勇者”に選ばれた理由を求めて冒険の旅をするストーリーである。
主人公の護衛役としてパーティについてくる三人のガチムチたちがこのゲームのセールスポイントのひとつだ。
パーティメンバーである、やんちゃな剣士のスカイ、飄々(ひょうひょう)とした弓術士のシーラック、苦労人な魔術師であるギルバードの三人はそれぞれに異なった魅力を持っていてそれぞれが人気を博している。
もちろん全員大好きなんだけど、オレの個人的な推しはなんといっても剣士のスカイだ。
ざんばらの赤髪で大剣をぶん回す、パーティの切り込み隊長。
やんちゃで若々しくて、ちょっと短絡的だけど主人公の右腕で頼りになる、王道の相棒ポジション。
ちょっと現実世界にいないような鍛えられた腹筋やぶっとい二の腕を丸見えにした衣装も、男好きに刺さるキャラクターというか……。
神絵師にデザインを依頼したアニメ調のキャラクターだけど、最新のモーションキャプチャー技術を駆使した動きはダイナミックで、魅力的な筋肉美を惜しむことなく発揮している。
(こういうマッチョキャラのモーションキャプチャーって、中の人もマッチョだったりすんのかな……?)
ふと思ったりしたが、そんなわけがない。
これは現実に存在し得ない、ゲームだからこそのファンタジー筋肉なのだろう。
(こんなイケメンガチムチがリアルにも存在してくれたらいいのになあ……♪)
こうして叶わない夢想を繰り広げるのが、オレのささやかな息抜きなのだった。
(ん…?)
ふと自分のデスクから部長のデスクに目線をやると、またソヨ太が立ったまま部長に叱られているのが目に入った。
ソヨ太を叱っているのは、【荒樹一成(あらき・かずなり)】部長(48)だ。
部長は学生時代にラガーマンだったらしいけど、それは過去の話で今はでっぷりと突き出たお腹が特徴的な、典型的なオオダヌキ体型。
独身中年男の整えられてない口周りの無精ヒゲって、なんかやらしいよな。
「だからお前は何度言ったら~~~~」
どんなミスをしたか知らないが、部長は底意地悪くソヨ太にネチネチと何かの注意をしている。さっきからずっとしている。ていうか昨日もしてたし、その前の日も確か同じ光景を見た。
本当にソヨ太に問題があるのか、部長の個人プレイかどうか判別がつかないけど、おそらく後者だろうなあ。
毎度毎度、部長の叱責を受けているソヨ太は、もはや窓の向こうの桜を眺めてのほほんと受け流してるし。
そしてソヨ太のその態度がまた、部長の逆鱗だか琴線だかに触れるループの原因ではあるのだろう。
まあ、そうやって上手にパワハラを受け流せる、ソヨ太のぼんやりはわりと羨ましくもあるけど……。
そんな同期への関心もあり、作業の傍らにチラチラと様子を窺っていると……意気揚々とソヨ太を口で責める部長のデスクに近づく長身があった。
────桜井先輩だ。
「部長、お話の最中申し訳ありません。少し相談があるのですが━━━━」
颯爽と笑顔で現れた桜井先輩は、あっという間にソヨ太から部長を引き離して、オフィス外へ連れ出していく。
端から見ていても鮮やかでスマートな助け船。
そんなかっこいい桜井先輩を見送って、ソヨ太はうっとりとしている。
そりゃそんな乙女な反応にもなるよな。
……いいなあ。なんて、桜井先輩にかばってもらったソヨ太を羨ましく思うのはオレが狭量なのだろう。
「あーあ、仕事がデキる部下よりデキない部下の方がかわいいっての、あるのかもなあ。オレだって頑張ってんのに、桜井先輩、ソヨ太のことばっか構ってるもんなあ。ちぇっ」
上機嫌でこちらに戻ってきたソヨ太に、思わずそんなことを口走ってしまう。
冗談めいた口調で嫉妬をぶつけたりして、こういうところが子供っぽいのだと自覚はしているけど。
「へへへ。だったらオレ、仕事できなくて得したかも~」
対するソヨ太はそんなオレの嫉妬さえも、いつものふわふわした調子で受け流してくれる。
まったく、こいつには敵わないな。
しばらくして、次はオレが荒樹部長に呼ばれた。
やべ……怒られるようなこと、なんかしたっけ。
内心焦りながら、チェアーにずっしりと腰掛ける部長の前に立つと、オレはイノシシに睨まれた子犬みたいな気持ちになる。
目つきが悪くて無精ヒゲで清潔感のないデカいおっさん……もとい、荒樹部長の舐め回すような視線に、なんとなく肌がざらつく気がした。
「おう梅澤。なに、仕事とは関係ない話で悪いんだがな」
雑な口ぶりで話し出す部長。
その次の言葉に、オレは驚くことになる。
「実は……お前に今度の花見の補佐を頼みたいんだわ」
「お、オレがですか…!?」
部長から出たまさかのお達しに、オレは自分を指差して固まってしまう。
「え、ていうか、花見の補佐って何をするんですか……?」
慌てるオレを見て部長が愉快そうに笑う。
「まーまー、そんな難しく考えんな。簡単だよ、酒をみんなに配ってまわるだけだ」
酒を配るって……みんなに酌してまわるみたいなもんか?
うわ~~~~イマドキそんなんしなきゃいけないの?
めんどくせ~~~~~~。
という本音を顔には出さずに、オレは引きつった笑顔を作る。
「は、はあ……」
そんなオレの内心を部長は読み取ったのか、下衆っぽくねっとりとした笑みを浮かべた。
「なぁに、悪いことは言わねえ。もちろん特別手当はたっぷり出すからよ」
「ほ、本当ですか……?」
「おうよ。まあここじゃ説明できねぇけどよ。お前にも損はさせねえと思うぜ?」
「……? それってどういう……?」
訝しむオレの眼差しを部長はせせら笑う。
「ま、花見当日になりゃわかる。どうだ? 頼まれてくれるか?」
ニヤリと目を細める部長。
オレは……頷くしかできない。
上司からの申し出を「めんどくさいから」で断れるほど、オレは蛮勇じゃない。
「承知、しました……」
納得できないけど、しぶしぶ、そういうしか出来なかった。
行くか行かないか迷っていた会社の花見は、これで強制参加になってしまった。
とほほ……。
でも、部長が言ってる意味も気になるし、何より、他の人たちとも交流を深めることは悪いことじゃないだろうし……。
ま、いい風に考えようかな。
そう気持ちを切り替えたとき、部長が立ち上がってオレのそばに寄ってきた。
ニヤニヤと下卑た顔との距離の近さに、思わず後退(あとずさ)る間もなく…。
「おう、じゃあ頼むわな。よっと」
部長はニヤケ顔のままそう告げて、唐突にオレのお尻をむぎゅっと揉みしだいた。
「~~~っ!?」
オレは突然のセクハラに声が出ないくらい驚く。
「おう、お前もなかなかいいケツしてんな。デカくてハリがある」
硬直したオレの尻をさらにぐにゅぐにゅ揉みしだいて、ポンポンと軽く叩く。
「ひっ」
青ざめたオレが甲高い悲鳴を上げると、なぜか気をよくした部長が、今度はオレの腕を掴んで引き寄せてくる。
「……なんかムラついちまったな……どうだ? アレだったら今から可愛がってやるぜ? ほら、そこの会議室空いてっから」
「あ、いや、その、ぶ、ぶちょう……っ」
こんなことされるとは思ってなかった。
混乱した脳ではどんな言葉もアクションも咄嗟には出てこなくて、オレはズルズルと引きずられていく。
オフィスを連れ出されて、あっという間に会議室へ連れ込まれてしまう。
強く背中を押されて、誰もいない会議室の硬い机に、うつ伏せにされる。
尻を突き出す格好になったオレのズボンに、部長が手をかけるのがわかった。
「へへ、ま、花見の前に味見しとくのも役得だわな……っ」
興奮したように生暖かい、部長の野卑な笑い。
オレはそんな部長にこれから何をされるのか理解して、さーっと血の気が引く。
「や、やめ…っ!!」
抵抗して身をよじろうとしたら、両手首を背中にまとめられる形で自由を奪われた。
部長は片手でオレの両手首を押さえ込んだまま、もう片方の手で強引にオレのズボンをズリ下げる…!
オレの剥き出しの生尻が、部長に晒された。
「うわああ……っ、い、いやだ…っ」
まさか、こんな卑劣な上司に、こんなところで襲われるなんて……っ!
オレは恐怖で引きつった悲鳴しか上げられない。
カチャカチャとベルトを外す音と、ふーっふーっと荒い息が聞こえる。
「や……やめてくださ……ぶ、ぶちょ……っ」
熱く湿った、硬いモノがオレの秘部に生で押し当てられる。
「ひぃ……っ」
思わず、ぎゅっと目を閉じた。
そのときだった。
ゴンゴンゴン!
会議室の扉を誰かが激しくノックする。
「部長~? こちらにいらっしゃいますか?」
閉ざされた扉の向こうから聞こえてきた、低くても明るいこの声は━━━━桜井先輩の声だ。
「……チッ」
部長が舌打ちして、もう一度ベルトをカチャカチャと、今度は締め直す音。
「おー……俺ならここだ」
扉の向こうへとぞんざいに返事をして、部長がオレのカラダから手を離す。
拘束を解かれたオレは、下がったままのズボンを急いで上げて尻を隠した。
部長が何食わぬ顔で会議室の鍵を外すと、いつものようにニッコリと微笑む桜井先輩が立っていた。
「いやあ、探しましたよ。今度の花見に使う“祝い酒”が届いたので、真っ先に報告しに来たんです。広報部の分を取りにくるようにと、社長がお呼びですよ」
邪魔されて機嫌の悪そうだった部長が、桜井先輩のセリフを聞いたとたん、さっきよりも声とテンションの高さを上げる。
「おお! 今年の分が届いたか! よし、社長のとこ行ってくらぁ!」
何やら嬉しそうにドスドスと廊下を駆けていく部長。
去って行く部長の背中を桜井先輩はニコニコ見送る。
部長が見えなくなったあと、ぽつんと残されたシャツの着崩れたオレに桜井先輩は向き直った。その顔からはもう笑顔は消えていて。
「……やれやれ。困ったもんだな、あのタヌキオヤジ。大丈夫だったか? 間に合ってよかった」
眉間に皺を寄せて、オレを心配してくれる桜井先輩。
「も、もしかして、桜井先輩、オレを助けに来てくれたんですか……?」
「偶然、連れ込まれるところ見ちまったからな。本当はタヌキの汚い尻、蹴飛ばしてやれたらよかったんだけどさ」
おどけてそう言う桜井先輩に、オレの鼓動が早くなる。
わざわざオレのために……。
(こんなん、誰だってトキメいちゃうだろ……!)
桜井先輩は真摯な声でオレの顔を覗き込んでくる。
「お前、部長に何か言われたのかも知れないけど、今度の花見だって無理に参加しなくていいからな。なんなら部署変更願い出したって━━━━」
「い、行きます。オレ、花見……ちゃんと行きます」
オレは迷わず、そう告げていた。
「そうか……。ま、無理すんなよ」
苦笑する桜井先輩の大きくて暖かい手のひらが、ぽん、とオレの頭に乗せられる。
真っ赤になっていく頬が、彼にバレてしまっただろうか。
「はい…ありがとうございます…先輩……っ」
オレはドクドクとうるさく血が巡る心臓を抱いて、桜井先輩を見上げた。
彼の瞳にオレだけが映っている、この時間が永遠になればいいのに、と思う。
少し前の自分だったら、部長に襲われたあとに、のんきにお花見になんて行くはずなかっただろう。
でも、たった今、お花見に向かう本当の理由が生まれてしまった。
部長の言いなりになるのは気がすすまないけれど。
オレは、一日でも多く━━━━。
桜井先輩に、会いたい。
雄竿の杯②
~ガチムチ社員たちが集団乱交するお花見~【前編】
そんなこんなでお花見当日。
「「「カンパーイ!!!」」」
俯瞰するとロの字になる我が社屋の、ちょうど真ん中にある広大な中庭。
その庭のそこかしこに植えられた桜の大樹のふもとに、いくつものビニールシートが敷かれている。
お花見開会の社長の音頭に、集まった大勢の社員がちょうど紙コップを掲げて乾杯したところだ。
紙コップの中には社長からの差し入れの高級酒が入っているらしく、全員に同じものが配られたそうな。
オレは部長を探していたせいで呑めなかったけど。ちぇっ。
「うわー……一体何人いるんだこれ……」
乾杯が終わったあとは各地でいくつものグループが出来上がってガヤガヤと宴を開いている。
我が社は業界内でまだまだ発展途上の会社とはいえ、これだけ大勢の社員が一同に介するのは初めて見た。
オレがどうしていいかわからずにウロウロしていると、聞き慣れた声が呼び止めてきた。
「おう、来たな梅澤」
でっぷり突き出たタヌキ腹を揺らして、ドシドシとこちらに歩いてくるのは荒樹部長である。
「んじゃ、これが今日のための特別な祝い酒だ。社長からの差し入れのクソ高い酒の追加だって言って、きっちり配れよ。あ、ただし、このことは他言無用だかんな」
舞い散る桜の下、部長がオレに一升瓶を手渡してくる。
“蒼桜”とラベルの貼られたそれの中身を見ると、少し青みがかった液体がたゆたっていた。
(社長からのお酒となると……さっき紙コップで配られた駆けつけ一杯の中身と同じってことか)
高級なお酒を社員全員に振舞うなんて、社長、太っ腹だなあ。
そして部長はオレにそれだけ言いつけると、ご機嫌な様子でさっさとどこかへ向かってしまった。
まったく、いい気なもんだ。
ちなみに部長は会議室でオレを襲おうとしたことに対しては全く悪びれることなく、今日まで過ごしている……。
腹立たしいけど、長いものには巻かれてしまう自分が嫌になる。
とりあえず、オレの補佐役としての仕事はこうだ。
『指定された社員の杯(さかずき)に、社長からの『祝い酒』を注いでくること。』
たったこれだけ。実にシンプル。
だけど、桜の下でいつまでも突っ立っていてもしかたない。
(さて、ちゃっちゃと仕事、終わらせるか)
深い海の底のような色をした透明の酒瓶に入った“祝い酒”。
それと一緒に渡された一枚の紙片に、指定対象である数名の社員の名前が記されているようだった。
オレは小さな紙片を開いて、初めて内容を確認する。
「え……っ」
そこに書いてあった名前とは。
・広報部 桜井 徹(さくらい・とおる)
・広報部 剣持 ヒロカズ(けんもち・ひろかず)
・広報部 尺杖 源太郎(しゃくじょう・げんたろう)
・経理部 盾石 正士(たていし・ただし)
・企画部 佐津間 兜人(さつま・かぶと)
・企画部 煙崎 炎路(たばさき・えんじ)
・技術部 槌屋 ゼノン(つちや・ぜのん)
━━━━━━━━それは奇妙な偶然だった。
リストに名前のある人たちのほとんどと、オレは面識があったからだ。
(しかも……桜井先輩の名前まである……!?)
これは一体……どういうことだろう。
ちゃぷん。
抱えた一升瓶の中でたゆたう“蒼桜”。
深い海の色をした酒が、何もわからないオレの手の中で妖しく揺れていた。
とりあえず手近なところから、我が広報部の集まるレジャーシートへと歩を進める。
(お、ターゲット発見)
人が良さそうに大きな背中を丸めてシートに座っているのは━━━━尺杖さんだ。
ちびちびと紙コップのお酒を舐めるように飲んでいる彼のそばに近寄って、オレは声をかけることにした。
「尺杖さん、お疲れさまです」
尺杖さんはオレに振り返ると、糸目を優しく微笑ませてくれる。
「やあ梅澤くん。休日なのに参加してくれたんだね、ありがとう。僕はあんまりお酒呑めないから、こういう場は手持ち無沙汰になっちゃうけど。君も無理にお酒なんて呑まなくていいからね」
言葉のとおり、尺杖さんは見るからに下戸って感じだ。
オレのことまで気遣ってくれる彼に、しかしオレはお酒を勧めなければいけない事実に胸が痛みそうになる。
だって、リストに尺杖さんの名前があったから……。
「これ、社長からの追加の祝い酒、お酌しに来たんですけど……あんまりなら、やめときます?」
オレが申し訳ない気持ちで訊ねると、尺杖さんは苦笑する。
「あー……社長からなら断れないよね。あ、でもこのお酒、珍しく僕でも呑みやすいから、普通にもうちょっと呑みたいなと思ってたんだ。だからありがたくいただくよ。やっぱり高級なお酒って、アルコールが苦手な人でも呑みやすかったりするのかな?」
はは、と笑いながら、尺杖さんが言う。
それだったら好都合だ。
「へー、それはよかったです。ならどうぞどうぞ」
オレは抱えた一升瓶から、お酒を尺杖さんの紙コップにとくとくと注いだ。
「ありがとう、お酌なんかさせて悪いね」
「いえいえ」
そんなやり取りをしていたオレたちの元に、うるさい叫び声が降り注いだ。
「にゃーーっ!? 梅澤、お前、一人で抜け駆けしてにゃいか!? お酌するのはオレの役目だって言っただろーっ!」
オレの背後でそう宣(のたま)うのは、同期の猫柳だった。
そういや、酒の席でお酌するのはポイント稼ぎとかなんとか言ってたっけ……。
「まったく、油断も隙もにゃいやつだな! 貸せっ! オレがみんなにお酌して回るんだからっ!」
「お、おい…」
猫柳はオレから“蒼桜”の一升瓶を取り上げると、止める間もなく上司たちの輪に飛び込んでいく。
「みにゃさーん、お酒の追加でーす! どうぞどうぞ~♪」
ニコニコと笑顔で酒と愛想を配り歩く猫柳。
「おっ、猫ちゃんありがとさん」
「オレにもお酌してくれよ~」
「こっちもこっちも!」
広報部の先輩たちも気をよくしてお酌を受け入れている。
「はいは~い、猫柳が今行きますよ~♪」
ぱっと見、愛嬌だけで渡り歩いている猫柳にムカっとしそうになる。
けど、こいつはこいつである意味すごいんだよなあとも思う。
だって、オレにはあんな風にニコニコしながらお酌して回るようなコミュ力も、やる気もないし。
めぼしい人たちに酒を配り終えた猫柳が満足そうにこちらに戻ってきた。
「ふう~、お酌しまくったし、これでポイントゲットだよにゃ♪」
「お疲れ、猫柳クン」
尺杖さんがそんな猫柳を優しく労う。
しかし、猫柳は尺杖さんを見ると営業スマイルを露骨に引っ込めた。
「あ~、尺杖さんも、こういう機会にもっと先輩たちと距離詰めて交流した方がいいんじゃないんですかぁ? 尺杖さんの同期って、みんな出世してますよねぇ? 置いて行かれちゃいますよぉ?w」
「お前…!」
失礼すぎる猫柳の発言をさすがにオレが諫めようとすると、尺杖さんが大きな手でオレを制した。
「いいんだよ、梅澤くん。僕は大丈夫、こういうの慣れてるから」
尺杖さんは優しい微笑みのまま。
「で、でも…! おい猫柳、いい加減にしろよ、尺杖さんにはいつもお世話になってるだろうが!」
オレが止まらずに言うと、猫柳は反射的にふんと鼻を鳴らす。
だけど、自分でも思うところはあったのか、気まずそうに目線をさまよわせた。
「ま、まあ……確かに、尺杖さんはいつもオレの猫っ毛、ブラッシングしてくれるけど……」
それ以外にも世話になってることはあるだろ。
「……わかったよう。尺杖さん、いつもありがとうですにゃ」
猫柳は尺杖さんの紙コップにとくとくと“蒼桜”を注ぐ。
それを見て、尺杖さんは感極まったように涙ぐんだ。
「あの猫柳クンが、こんなに素直になるなんて……! 僕、感激だよ…!」
「大袈裟すぎるにゃあ……。なんかいつもの態度が申し訳なくなってきたにゃあ……」
「ほんとだよ!わかったら反省しろ!」
オレが怒鳴ると猫柳は猫耳風の寝癖をしゅんと垂らした。
「さて、猫柳クンが注いでくれたとなっちゃあ、呑まないわけにはいかないね」
尺杖さんは気合いを入れるようにそう告げると、紙コップの中身をぐいっと一気に飲み干す。お、尺杖さんの男らしい一面だ。
ぷはあ、とアルコールが匂う息を吐くと、彼は猫柳の頭をぽんぽんと撫でた。
「うん、美味いよ。猫柳クンが注いでくれたからかな」
本当に優しい人だな、と端から見てて思う。
「尺杖さん……へへ」
頭を撫でられたまま、猫柳が嬉しそうにはにかんでいた。
なんだか良い雰囲気の二人。まあ終わりよければ全てよし、か。
っと、オレはいつまでもここにいるわけにも行かない。
次のターゲットにお酒を配りにいかないと。
「そんじゃ、オレはこれで」
オレはそっと二人のそばを離れる。
他のレジャーシートのあいだをしばらく歩いていると、「にゃーーーーーっ!!??」と特徴的な鳴き声が背後から聞こえた。
「……猫柳?」
振り返ると、さっきまで猫柳が座っていたレジャーシートが遠くに見えた。
そのシートで酒盛りしていた社員たちが、レジャーシートの中心に集まって、何かを囲んでいるようだ。
何をしているのかはオレからは見えないけど、ほんの一瞬────男達が囲う中心から、猫柳の特徴的な猫耳が見えた気がした。
男たちは円になって、中心部に群がっている。
盛り上がってるのか、服を脱いでいる社員までがちらほら見える。
「にゃっ!? にゃんでっ!? うわーーーん!!」
やっぱり円の中心から猫柳の声がかすかに聞こえてくる気がした。
ちょっと悲鳴っぽいけど、あいつはいつもテンション高いからなあ。
なんだか知らないけど盛り上がっているんだろう。
(ま、楽しそうならそれでいいか)
オレは猫柳のシートからくるりと視線を外すと、そのまま次の場所へと向かった。
そのとき、猫柳がどんな状況に置かれていたのか、想像することもせずに……。
猫柳 Side
「お~い、猫ちゃん。そんな端にいないでこっち来てお酌してよ~」
梅澤が去ったあとのブルーシート。
猫柳は赤ら顔の先輩上司から明るい声をかけられた。
見ると、他の社員もみんなへらへらとした表情でこちらを手招きしたりしてくれている。
「あっ、は~い。ご指名ありがとうございま~す♪」
意気揚々と社員達の輪へ入っていく猫柳。
「へへへ……」
社員たちはこの短時間でもう出来上がってしまったのか、みんないつにも増して表情がだらしない。
何かを値踏みするようにニヤニヤしていて、アダルトコーナーでビデオを選ぶ中年男のような目をしている。
「いや~、ほんと猫ちゃんはかわいいよね~」
「女っ気ない我が社の花だよな」
「男も愛嬌が大事だわ~」
口々にそんなことを言いながらジリジリと詰め寄ってくる。
その異様な雰囲気に、猫柳の笑顔が固まってひくつく。
ふと気づくと、そんな大勢の社員に取り囲まれていた。
なんだか普段より、距離感が近いなあとは思っていたけれど…。
「あ、あれ? みんなどうしました…? もう酔っ払っちゃいました?」
猫柳は座り込んだままゆっくりと後退していく。
だけどその背中が、どん、と桜の大木にぶつかった。
これ以上逃げることは出来ずに、気づけば猫柳は立ち上がった社員たちの影に覆われていた。
「あはは、逃がさねぇよぉ」
「ま、こんなに囲まれてたら、逃げ場なんてないだろうけどな」
「あれ? 猫ちゃん、なんか怯えてる?」
酒臭い息を吐きながら、ジリジリと顔を寄せてくる社員たち。
みんな笑顔ではあるけど、ニヤニヤしていて、どこか不穏な気配がする。
「え…? え…?」
事態がおかしいことを察して、ついに笑みを消す猫柳。
そんな猫柳の恐怖心を煽るように、社員たちはいきなり────衣類を脱ぎ始めた。
「な、なんで脱いで……」
困惑した猫柳が呟くも、目の前で男たちが裸になっていくのを眺めるだけしかできない。
ガッチリだったり、でっぷりしていたり、様々な体型の社員たちに詰め寄られて、猫柳は萎縮して丸まっていく。
まるで袋小路に追い詰められた猫のように。
「ほら、猫チャンも脱ごうか」
含みのある笑顔で手を伸ばしてくる社員たち。
警戒していても、その手からは逃れられなかった。
「え、ちょ、やめ…っ! にゃっ!? にゃんでっ!? うわーーーーーん!!」
四方から伸びてきた手に掴まれて、強引に服をひん剥かれる。
抵抗しようとジタバタすると、あっという間に数で抑え込まれた。
ひとつの角砂糖に群がるアリのように、社員たちは猫柳を力ずくで裸にしてゆく。
「わあっ! や、やめて…っ!」
抵抗空しく、靴下以外の全てを取り払われた猫柳がそれでも叫ぶ。
騒ぎ立てる猫柳の前で、男たちがズボンのチャックをそれぞれ下ろしていく。
ぶるん…っ!!!
「ひ…っ!?」
下着を脱いだ勢いで、社員たちのギンギンに勃起した肉棒が勢いよく跳ね上がった。
普段スーツの下に収められているそれが、今は赤黒く膨れ上がり、斜め上を鋭く指しながら透明な汁まで垂らしている。
そんな凶悪な光景を目の当たりにして、猫柳は息を飲んだ。
「わっ!?」
硬直していると、両腕を社員たちの太い腕に絡め取られた。
小柄な猫柳が全力で抵抗したところで、奪われた自由は取り戻せない。
それどころか、拘束されたまま背中を押され、ブルーシートの膝立ちにさせられた猫柳の格好は、まるで刑の執行を待つ罪人のそれだった。
屈辱的なポーズに、猫柳は大きく口を開けて怒鳴る。
「なんでっ、こんな格好…っ! ちょっっ、ふざけるにゃ……っ!」
そうやって開かれた猫柳の口いっぱいに、不意に。
目の前に立つ男性社員の野太い肉棒が────ムリヤリ詰め込まれた。
「んぐぅぅぅっっ!!??」
「あ~あったけぇ」
ずっぽりと、根元まで突き入れられた生臭い肉棒。
「んんっ! んっ! んやぅぅぅぅっ!!?」
頭を掴まれて、猫柳は強引に喉を犯される。
ぐぽっ! ぐぽっ! ぐぽっ!
混乱の中、硬い肉棒が口内を好き勝手に蹂躙していく。
自由を奪われた今、猫柳は半泣きで、そんなに面識もない社員の陰毛に鼻をうずめて喘ぐしかできない。
━━━━なんで、なんでこんなことに。
「猫ちゃん、歯ァ立てんなよ~」
「ちっちゃい口で頬張っちゃって、チンポ美味いか~?」
周りから囃し立てる声が聞こえる。
みんな、何がそんなに面白いというのか。
(こんなの、花見の余興にしたって度が過ぎてる…っ!)
猫柳は目線だけで抗議するが、そのたびに生臭い男根が喉をぐりぐりとえぐる。
その感触に嘔吐きそうになる。
なすすべなく口内を犯されていると、目の前の男がブルッと腰を震わせた。
「お~、やべ…ッ! 出る…っ!」
(ま、まさか……)
出る、が何のことかを予測して猫柳が青ざめた、次の瞬間。
どびゅるっ! びゅぐっ! びゅるっ!
━━━━口の中に大量に……青臭い汁を射精された。
その事実を脳の片隅で受け入れるより先に、猫柳は反射的に咽せた。
「げほっ! げぼっ! えほっ!」
猫柳の口からこぼれた濃い白濁が、ブルーシートに淫らな染みを作る。
「ありゃ~、猫ちゃんダメじゃねぇか。ザーメンは残さず飲み干すって、OJTで習わなかったのか?」
別の男性社員がそう言って、はあはあと肩で息をする猫柳を押し倒す。
「ううっ」
キッと睨んで見上げるも、そこにあるのは自分を囲む獣欲に満ちた眼差したち。
春とは思えないくらいに、ギラギラと煮えた視線が自分を射抜いていた。
ぶっきらぼうにネクタイを緩めながら、舌なめずりをする男たち。
(こんな……こんなにいやらしい目で、見られたこと、今までにない……)
どうしようもない戦力差に、猫柳は涙目で首を振った。
「にゃっ、にゃぁあっ、やだぁ~~~っ!」
猫柳の悲鳴が終わる前に、獣たちはエサに群がった────。
「にゃうぅんっ! んあっ! やあっ! ひぁあっ!」
桜舞い散るブルーシートの上でさらけ出された、均整のとれた猫柳の裸体。
荒らされたことのない箇所が、多数の男性たちの欲望で汚されていく。
上から下まで、隅々を遠慮なくまさぐられて、生暖かい舌の感触が全身を這い回る感触に、猫柳ははしたない声を上げていた。
「はあんっ! あぁっ! や、やめっ! ひぐっ!」
無理矢理与えられる刺激に猫柳のカラダが何度も小刻みに跳ねる。
抵抗したいのに手首はガッチリと押さえつけられて、されるがままだ。
「あっ、あっ、はあっ、こんなの、だめ、にゃあぁあ…っ」
数人に舐め回された後に甘く食まれた乳首が、見たことの無いくらいに硬く立ちあがっている。
蕾を指で荒々しく掻き回される感覚に、全身がヒリヒリと粟立つ。
それを確認した男たちが、陽気な声を上げた。
「準備できたぞー、誰から入れる?」
「はーい! オレオレ!」
「いや、おれだぁ!」
「ぐはははっ、公平に順番だろ」
日常会話みたいな軽いテンションで繰り広げられる、陰部をさらけ出した男たちの順番争い。
(入れるって……まさか……)
何かを喪失しそうな気配を察して顔を青ざめさせる猫柳。
こんなの、こんなのおかしい。どうかしてる。
誰か、誰かまともな人はいないのか。
助けてくれる人はいないのか。
微かな光を探すように目線を彷徨わせると、よく見知った顔を━━━━見つけた。
その人は、自分を囲む人垣の向こうで、こちらに初めて気が付いたようだった。
この惨状を不思議そうに眺めている、糸目の男性社員。
普段から猫柳のOJTを担当している、一番優しい先輩。
彼の顔を見て、こんなに安心する日が来るなんて思ってなかった。
「……尺杖さん!!!!」
そんな彼の名前を、猫柳はここぞとばかりに必死に叫んだ。
おねがい。
おねがい、気づいて。
強い願いを込めて。
いつも自分の面倒を見てくれる、彼の名前を呼んだ。
その懇願が通じたのか────聞き慣れた声が耳に届く。
「猫柳クン? 呼んだかい?」
糸目の彼は、しっかりと猫柳の声を受け取ってくれたようだった。
「尺杖さん……!」
思わず涙が浮かぶ。
いつもどこか頼りなく見えていた先輩が、今はこんなにも頼もしく思えた。
尺杖はハダカの男達をかき分けてこちらへ近寄ってきてくれる。
全裸の猫柳が男達に羽交い締めにされている異様な光景を見て、彼は眉をひそめた。
「猫柳クン、これは……?」
「しゃ、尺杖さん! たすけて! おれ、このままだと犯される!」
涙ながらの声ですがりつく。
猫柳の普段と違う必死な態度に、尺杖は慌てて現状の把握に努める。
「わ、わかった! ちょ、ちょっと待ってくれ…!」
尺杖さんが周りにいる男性たちに、何か話をしてくれている。
話の内容は聞こえないけど、期待を込めた眼差しで、猫柳はそれを見つめた。
すると、尺杖との話し合いの結果だろうか。
なんと男性たちはしぶしぶ、といった感じで猫柳から手を離したのだった。
(た、助かった……!)
そうして自由を取り戻した猫柳は思わず顔をほころばせる。
そんな猫柳に、尺杖が心配そうに近寄った。
「猫柳くん、よかった……! 間に合って……!」
「尺杖さん……ありがとうございます……!」
猫柳は、恥ずかしげもなく尺杖の胸板にすがりついた。
恐怖の中から救い出してくれた、今は彼が自分の英雄だ。
いつも彼のことを舐めて強く当たっていたことを心から反省する。
尺杖さんが通りがかってくれなかったらどうなっていたことか。
ホントに、本当に助かった……。
「うう……おれ、いままで舐めた態度取ってホントにごめんにゃさい……これからは心を入れ替えます……」
涙ながらの猫柳の謝罪を、尺杖はいつもどおり、温和に微笑んで受けとめる。
彼の器の大きさに、猫柳は感謝する。
尺杖はポンポンと猫柳の頭を撫でて言った。
「ううん、気にしないでイイよ。それにしても、キミがまだ無事で本当によかった……」
「尺杖さん……」
まるではぐれた親猫の元に帰り着くことが出来た子猫のように。
猫柳は、心から安堵した。
そのときだった。
尺杖がごく自然に、着ていた衣類を脱ぎだした。
「………え……?」
困惑する猫柳の前で、ぶるん、と尺杖の巨大なイチモツがさらけ出される。
そのズル剥けの巨根は、周囲にいる誰よりも高く天を仰いでいて、張り詰めた先端から興奮の汁をダラダラと垂らしていた。
言葉にならずに目を見開く猫柳に、尺杖は優しく微笑んで。
「猫柳クンの初めてを奪えるのが、僕でよかった」
そして、いつもと変わらない、優しい声音でそう言った。
口角をひくひくと震わせて、猫柳が尺杖の怒張を恐る恐る指で指す。
「ま……まさか……それ……尺杖、さん……まで……?」
ブルブルと怯える猫柳に、尺杖は照れたように頬をかいた。
「ははは、じゃ、入れるね……」
そしてそのまま、尺杖が猫柳の両肩に手を置く。
ほどなくして、尺杖の巨体が猫柳に覆い被さった─────。
「ぎにゃああぁぁぁぁっ!!!」
ブルーシートの上で四つん這いにされ、自らの最奥に硬い肉棒が到達して、猫柳は悲痛な声を上げた。
「猫柳クンのナカ、狭くて、熱くて、はぁ…っ、気持ちいいよ…っ♡」
バックの体位で激しく腰を突き出しながら、赤ら顔の尺杖が恍惚の息を吐く。
ずっぽりと彼の肉棒を下から埋め込まれ、揺さぶられながら、猫柳は涙でぐちゃぐちゃな顔を歪めた。
「あひっ! ひにゃっ! にゃっ、にゃんでっ! しゃくじょ、さんっ! ああぁっ入ってるっ! ひぐっ、うううっ、尺杖さんにチンポっ、入れられちゃってるう…ひぐうんっ!」
「なんでって……? 逆に僕の下心、気づいてなかったの? 普通だったら、毎日あんな舐めた態度の部下なんてぶん殴ってるよ? 猫柳クンにいつかこのチンポぶち込んでやろうと考えてたから耐えてただけだよ?」
荒っぽくピストンしながらそう告げられて、猫柳の顔がさらにくしゃくしゃになる。
ぱんっ! ぱんッ! ぬぐっ! ぬぶっ! みちっ!
「あうぅぅっ! ごめっ、ごめんなさっ! だからっ、あやまるからっ、チンポ止めてえっ! ひにゃああぁっ!」
ゴツゴツした肉棒が狭い穴を暴れる、始めて感じる火花のような衝撃と快感。
それらを、いつもどこか覇気がなくて、のほほんとしていた尺杖に与えられているという事実。
(オレ、尺杖さんに、犯されてる────)
信じられない気持ちで、猫柳は熱を持った肉棒を出し入れされる。
「うーん、この状況で謝られてもなあ。悪いのは僕を馬鹿にしてたキミだろ? 口で言っても聞いてくれないならチンポでOJTするしかないじゃないか」
糸目の上の眉を困ったようにハの字にしながら、がっしりした肉体で休むことなく猫柳を犯す尺杖。
人の良さそうな表情と、荒々しい動きがアンバランスで、チンポで一突きされるたびに本当の彼がわからなくなってゆく。
「ま、僕としては狙ってたキミの処女を横取りされる前に食えて一安心かな。生意気なこと言ってるくせに、こっちの穴はずいぶん素直なんだね」
そんな……。
自分のナカでさらに尺杖の肉棒が膨れ上がったのを感じて、猫柳は背中を反らせた。
ばちゅっ! ばちゅっ! ばちゅんっ! ぐちゅっ!
「にゃふっ! にゃんっ! んにゃあっ! しゃくじょ、さっ、ああぁっ! かきっまわさないでっ! にゃあああっ!」
「ああ、乳首こんなに腫れちゃって。こっちは味見されちゃったかあ。ま、うちの猫ちゃんは淫乱だから仕方ないね」
バックから覆いかぶさってきた彼に腫れた粒を指で摘ままれて、猫柳のカラダがびくびく跳ねる。
真っ赤になったそこを叱るようにビンビンと弾かれるたび、猫柳はいやらしい声で鳴く。
「やんっ! やあんっ! あううっ! も、や、だぁ…っ! なんでっ、なんでこんなっ! ふあぁぁっ!」
その情けない鳴き声に、体勢を戻した尺杖がバチンと猫柳の尻を叩いた。
「こらっ、ネコは猫らしくもっとにゃんにゃん鳴けっ! またたびザーメンほしいんだろっ!」
尻をべちべち叩かれながら、ずこっずこっと硬い肉棒を出し入れされる。
荒っぽい口調で責められて、猫柳は頬をシートに擦りつけて喘いだ。
ばちゅんっ! ぬぢゅっ! ぐぶっ! どちゅうっ!
「にゃぁあっ! にゃんッ! んにゃんッ! ほし、くないっ、尺杖さんのっ、ザーメンほしくなぃいっ!」
「わがまま言うなっ! バカなネコにはシツケが必要なんだっ! ほら、奥に出してあげるから、もっとケツを上げろっ!」
腰を両手で掴まれて、尻の位置をぐいぐいと調節される。
他人の精液を中出しされるための動きに従う、自分はまるで本当の野良猫になったようだと思った。
「ひんっ! ひにゃっ! やだぁ…っ! は、はなして…っ!」
「うるさい! 社会人なんだから、甘ったれんなっ! さっさと自分でケツ上げろっ!」
べちんっ!
尻を強く叩かれて、猫柳はしかたなく自分で尻の位置を高く突き出した。
「初めからそうしないかっ! まったく世話が焼けるっ! ほら、でっけぇチンポもっと奥まで咥えろっ!」
「うう、ひうぅぅぅ……っ!!」
さらに奥へと侵入してくる尺杖のデカマラ。
羞恥と快感と、ズタズタにされたプライドが、猫柳の胸に突き刺さった。
ばちゅんッ! どちゅっ! ぬぢゅっどちゅっぐちゅっっどちゅっどちゅっどちゅっ!!
「ほらっ濃いのたっぷり出してあげるからねっ! いいよねっ! 猫柳クンっ!」
「ああっ! にゃぁっ! いやあっ! 出さないでっ! ださないでぇっ!」
喘ぎながら必死に叫ぶ猫柳。
だけどその懇願は、より周囲を興奮させる材料でしかない。
「ダメだっ! 出すっ! 出してやるんだから、もっと愛想よくよろこべっ!」
人が変わったような荒々しさで、尺杖は勢いよく腰を突き出し続ける。
いつもの糸目が見開かれた、その表情はケダモノのそれだった。
「にゃあんっ! いやあっ! あああっ!!」
「イイ声で鳴けよッ! 駄猫っ! ほらっ、飼い主のザーメンフラペチーノだッ!」
びゅるるっ! びゅぐんっ! びゅるるるるっ!!
「ふぎゃぁあっ! んはぁっ、はぁぁっ、にゃあぁぁ……っ!!」
尺杖の欲望が、熱い濁流となって自分へと流し込まれる。
こんな…こんなのって……っ。
「うう……うぐ………っ」
惨めで、情けなくて、イヤでたまらないのに。
彼の精液がじんわりと染みこむほどに、自覚していく一つの事実があった。
(こんな……気持ちいいのは……にゃんで……?)
嫌がる素振りはしていたものの、抗いようもないくらいの気持ちよさも同時に感じていた。
そんな自分が不思議なのに、なんだか幸福でもあって。
「ほうら、最後の一滴まで飲むんだ…っ!」
びゅるっ! びゅくん…っ!
「にゃうん……っ♡」
尺杖が射精しながら、ザーメンをぐりぐりと奥に擦りつけてくれる。
その刺激に背中をピンと反らせて━━━━猫柳は動物になった。
いや、猫柳だけじゃない。
いまこの場にいるのは、みんな動物だ。
「はあっ、はあっ、にゃあぁあ……っ♡ にゃんにゃん、きもちい……い……っ♡」
それは中出しされてぐったりと幸せそうに笑う猫柳に、鼻息荒くにじり寄ってくる男たちの姿を見れば一目瞭然だった。
人間とは動物なのだと、わかる。
素っ裸で下劣に舌なめずりをして、肉棒を近づけてくる彼らの姿を見れば━━━━。
梅澤 Side
「にゃあん」
部長から渡されたリストを眺めながら、それぞれ盛り上がっているブルーシートのそばを練り歩くオレの足下に、一匹の野良猫がすり寄ってきた。
「なんだこいつ、どこから入り込んだ?」
そこかしこで宴会が行われているのだから、さぞ各地でエサを恵んでもらったことだろう、野良猫は人なつっこく媚びた鳴き声を上げる。
「ネコか……」
脳裏に猫柳の顔が浮かぶ。
そういやさっき聞いた猫柳の悲鳴……やっぱり何かあったんだろうか。
(ま、もし何かあったとしても、尺杖さんもいるし大丈夫だろ)
同じ部署の優しい先輩。
尺杖さんはちょっと頼りなく見えるときもあるけど、その実、猫柳のことを気に入っているんだと思う。
じゃなきゃ、猫柳のあんなワガママに毎日付き合うわけがない。
猫柳は気づいてないと思うけど、あいつは直属の先輩にとても恵まれていることを早く自覚した方が良い。
何の下心もなく優しく穏やかに見守ってくれる、尺杖さんみたいな人がそばにいてくれるありがたみと。
そして、その尺杖さんに無自覚に甘えきっている自分自身に。
「ま、人のことよりも、オレは自分のやるべきことをやらないとな」
まだ花見の補佐役としての仕事は始まったばっかりだ。
オレは次なる人物へ向けて、地面に舞い落ちた桜の花びらを踏みしめて歩き出すのだった────。