番外編:軟体怪盗リィンツリーの軟体侵入術 中編 (Pixiv Fanbox)
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■ 軟体怪盗リィンツリーの番外編です。彼女が元気に怪盗活動をやっていた頃の一幕って感じなので、特に本編を読む必要はありません。
■ リィンツリーが怪盗活動を行う際に使用する便利アイテムは全て『博士』の産物です。前から構想はあったんですが、本編じゃなく番外編で初登場となっちゃいましたーwー;
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リィンツリーは孤高の存在であり、共に行動するような仲間は存在しないーーとされているが、それは正しくはあっても正解ではなかった。
多くの者がそうであると考えている通り、彼女が身に付けている数々の装備品には相応の技術力を持つ開発者が存在しており、少なくともその人物だけはリィンツリーの活動のことを理解して協力していなければおかしいからだ。
リィンツリーは確かに現代社会で怪盗行為を行えるほど、常識から外れた存在であるが、全てを一人で行えるほどあり得ない存在ではない。
実際にリィンツリーには、彼女の秘密を知って協力している発明家の仲間が存在しーーその彼女もまた、リィンツリー同様の常識外れの存在であった。
「というわけでーー出来たのだよ! この銃型ワイヤー射出装置があれば、巨人だって怖くないね!」
そう言って博士がリィンツリーに見せたものは、一見すると何の変哲もないハンドガンだった。
リィンツリーがそれを構えて、数十メートル離れた的に向かって射出すると、その銃口から極細のワイヤーが飛び出し、的まで一直線にワイヤーが繋がる。
更にリィンツリーが隣にある柱に向かってその銃を撃つと、その柱にワイヤーの逆側の端が飛び、的と柱の間に極細のワイヤーがピンと張った。
リィンツリーはその極細ワイヤーの上を、まさに猫のようなバランス能力を持ってあっさり渡り始める。
まるで危うさも体重も感じさせない、優雅な綱渡りだ。
なお、本来であればそんな極細のワイヤーに人が乗れば、食い込んだワイヤーによって肌と肉が切れ、大惨事になるところだが、リィンツリーの足裏は特製のラバースーツに包まれている。
ゆえに、ワイヤーに切り裂かれることなく、その上に立ち続けることが出来ていた。
スルスルと的の近くまで行ったリィンツリーは、また同様の滑らかさで元の場所まで戻ってくる。
「……確かにこれなら、離れた建物までの動線が一瞬で確保できるわね」
「そこは『ワイヤーで立体機動するんじゃないんかい!』ってツッコミが欲しかったなぁ! 全くキミは本当にクールなのだよ!」
ケラケラと楽しそうな博士の振る舞いに、リィンツリーは呆れ顔を向ける。
「開発ハイになってないで寝なさいよね。まったくもう……早死にするわよ」
「色々やばいところに喧嘩売ってるキミに言われたくはないのだよ?」
そんな軽口を叩き合える程度には気の知れた仲である。
リィンツリーはワイヤー射出銃を机の上に置き、博士に向けて問う。
「これはこれで役立たせて貰うけど……頼んでおいた肝心の発明の方は大丈夫なの?」
「え? それはもう出来てるっていうか、キミがもう着てるじゃないか」
リィンツリーの問いかけに対し、博士は事もなげに応えた。その返答は予想外だったのか、リィンツリーはピタリと動きを止める。
「……お願いしたの、二週間前よね? 二ヶ月先の実行日に間に合うようにって」
「うん、だから間に合ってるんじゃないのかい?」
本来ならあり得ない時間での研究開発。
事もなげに言ってのけた博士に、リィンツリーはふぅと息を吐いた。
「……さすがというかなんというか……まあ間に合ってることに変わりはないからいいわ。それで? どうやって使えばいいのかしら」
「簡単なのだよ! いつもの通り、キミの首輪を弄ればーー」
説明を受けたリィンツリーは、早速その機能を試すのだった。
リィンツリーはターゲットの屋敷や建物に侵入する際、その軟体を活かして本来はとても入れないようなスペースに身体を収める。
彼女の特異な軟体力によって、予想もできないわずかな隙間に身体を収めることが可能でありーーそれこそが彼女が誰にも気付かれずに侵入出来ている秘訣だ。
ただし、それには弱点もある。いくらリィンツリーが狭いスペースに体を押し込めることが出来るとしても、それに適する空間は必ず存在しなければならない。
また、仮にスペースが存在したとしても、その中に体を納めたとして、きちんと空間が閉じるかどうかは別の問題だ。
いくらリィンツリーでも外から自分の収まっている空間の扉や蓋を閉めることは出来ない。
ゆえに彼女が必要としているのはーーその超軟体能力を活かすための、隠れ蓑であった。
(……さて,このスーツを活かすべきときがきたわね……)
リィンツリーはそう内心呟くと、明日秘宝のお披露目が予定されているパーティ会場の屋敷に忍び込んでいた。
庭は枯山水の日本庭園となっており、隠れ場所がほとんどない。
普通ならお披露目会に呼ばれた人に紛れることを考えるだろうがーーリィンツリーはそうしなかった。
怪盗として、人に変装する術も修めている彼女であったが、人に化けることはあまりしない。その超軟体力を活かし、会場に潜むというやり口を好むのである。
庭園には、ところどころに一抱えほどもある大きな石が転がされている。
そのそのうちの一つに着地した彼女は、その石を足場に、少し離れた位置に跳んで着地する。
きれいな線が引かれたその上に着地した彼女は、手早くその砂の流れを整え、自分の立っている場所を確保する。
そして、その首輪に手をやり、その首輪に取り付けられたスーツの制御装置を起動させた。
すると、まるで冗談のように、リィンツリーが身につけていたラバースーツが内側から膨らんだ。大きな球形にラバースーツが膨らんだのを確認すると、リィンツリーはその場にしゃがんだ。
するとまるで手品のように、球形となったラバースーツの内側に、リィンツリーが完全に入ってしまう。
その時、リィンツリーは首輪と頭の猫耳飾り以外、すっぽんぽんの状態であった。
ラバーボールの中であるため、周りから見られることはないーーと頭ではわかっていても、裸になってしまったリィンツリーは羞恥心にその頬を赤く染める。
(仕方ないとはいえ……裸になっちゃうのは、この道具のマイナスポイントよね)
そう内心呟きつつ、リィンツリーは急いでその体を折り畳んでいく。
俯せに寝転がった状態から、背中をを反らし、胸が垂直になるまで持ち上げーーそして、後頭部がお尻につくまで曲げる。上半身を反らすと言っても反らしてはいけないところまで反っているような状態だ。
並の人間なら背骨が砕けるレベルに曲がっていたが、リィンツリーは平然としていた
そこからさらに、両腕を自分の顔や首に巻き付けるようにして密着させる。
人間が人間を認識するとき、一番影響を与えるのは、頭部のシルエットであるという。
その頭部に腕を巻きつけることで、リィンツリーはシルエットを誤魔化すと同時に、顔と腕の間にわずかな空間を確保していた。
わずかな隙間ではあったが、それが非常に重要な要素である。
リィンツリーはさらに投げ出していたりょうあしをもちあげ、上手く体に纏わせつつ、全体の形状を台型にすることで、安定感を増すことに成功していた。
(これで……よし……!)
非常にコンパクトな形に纏まったリィンツリーがそう思うと同時。
球形に膨らんでいたリィンツリーのラバースーツが、一気に収縮し、小さく纏まっているリィンツリーの体をさらに圧縮しにかかる。
「んぎっ……!」
そうなることはリィンツリーもわかっていた。わかっていてなお、思わず声が出てしまっていた。
まるで真空パックされるかのように、全身を均一にラバースーツが締め付ける。
ギチギチと音を立てるほどに、ラバースーツは彼女を強い力で小さく纏めようとしていた。
(んっ……く、ぅ……)
ただでさえ窮屈な体勢に加えて、全身を強烈な締め付けが襲う。
一般人であればパニックを起こして錯乱し、数分と保たない状態といえる。
そんな状態に置かれながらも、リィンツリーは冷静であった。
(擬態……完了……!)
小さく纏まったリィンツリーの姿は、どこからどう見ても石そのものになっていた。
ラバースーツの表面が、石の見た目に擬態しているためだ。
その擬態の機能は見た目だけだというのに、質感まで伝わってくるような、そんな見事な再現度合いになっている。
遠目でそのリィンツリーの擬態を見て、石ではないと見破れる者はまずいないだろう。
それどころか、相当近くに寄って見たところで、ただの抱えられる程度の大きさの石だとしか思われないに違いない。
リィンツリーの侵入術は、完璧であった。
今回の仕事も勝利を確信しつつ、リィンツリーは思考を巡らせる。
(……狭い場所に体を修めてから、外に面してる一部だけ膨らませて蓋にする……とかも出来そうよね)
今回リィンツリーは全身をフルに使って、石そのものに擬態しているが、別に全身を晒さなければならないという制約があるわけではない。
むしろ、狭い空間に自分を押し込めた上で二重底のように偽りの奥行きを作った方が、バレにくくて良いと言える。
(次はそうしてみましょ……一部だけこの膨らませと擬態能力ができるようにしてもらわないといけないわね……)
そう考えるリィンツリーは、窮屈で苦しい体勢が、だんだん辛くなって来ていた。
(んぐ……っ、さすがにこの体勢は、辛い……かも……こんなの、はじめて……っ)
ギチギチ、ミチミチと音を立てる石に擬態するリィンツリー。
彼女はまだ数時間単位でその体勢のまま耐え忍ばなければならずーーそれはとても過酷なことだった。
それでも、怪盗としての矜持を胸に、正体を表す絶好の機会を待ち続けるのであった。
リィンツリーの軟体侵入術は、実に見事にその効果を発揮するのである。
つづく