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魔法。それは人類に与えられた力の一つである。

魔法。それは人類が使うことが出来る手段の一つである。

魔法。それは人類のものである。


魔法は、人々の暮らしに欠かせないものだ。

人は皆、魔法を使い、暮らしを豊かにしてきた。

しかし、それは兵器にならないものではない。

どう使うかは、全て人間が決めるのだ。





東京から船を走らせること3時間。


目的地となる島が見えてきた。


海は太陽に空から照らされ、キラキラと輝き、カモメが船のまわりを鳴きながら飛んでいる。


「あれが、俺が通うことになる布里沢学園か…!」

船のデッキから、一人の少年が身を乗り出し、島にそびえ立つ大きな時計塔を感慨深く見つめていた。


その少年こと、俺、「五十嵐 総(いがらし そう)」は、先月中学を卒業したばかりだ。

俺には人とは違ったモノがある。

…といっても今の時代そう珍しくはないのかも知れない。

1000人に一人の割合で、一般の人間とは違った魔力回路を持つ人間が現れるという。

その一人が俺である。


魔力回路が、一般人と違うとどうなるのか。


そもそも、魔力回路とは、人間が魔術を使うためのエネルギーの通り道のようなものでもあり、魔力とはそのエネルギーのことである。

魔術は人間にとって不可欠な存在である。

昔の人間は魔力など持たなかったが、今の人間は皆、個人差はあれど魔力を持っている。

その魔力を使って動かす魔道具や、空を飛ぶために、魔力は人間にとって欠かせないものなのである。


話を戻そう。

魔力回路。即ち、エネルギーの通り道の構造が違う人間。『異端者(フェラウト)』などと呼ばれたりする。

異端者は一般の人とは全く違った魔力回路を持つため、特別な魔術、『特殊魔術(ユニークマジック)』を使うことが出来、その種類は個人差があり、人によって多種多様である。

しかし、万能そうに思える彼らは一般の人と同じような魔術が一切使えないという大きな欠点を持つ。

それ故、魔道具がはびこる現代社会では、魔道具が使えないため、不便な暮らしを強いられる上に、差別など日常茶飯事だった。


しかし、それは少し昔の話。

異端者への差別は薄まり、技術開発も進み、異端者でも使える魔道具も少しずつ世に出回り始めてきた。

そんな風に、異端者も社会に溶け込み始めている。


異端者だけが通う、『異端学校』という全世界で17校しかない学校がある。

その学校の卒業生たちが社会で活躍し、異端者のための居場所を作ってくれているのだ。

布里沢学園もその一つ。


異端者で且つ、入学希望者を国中から集め、育成する学校である。

一般の学校では基礎的な魔術を教わるのだが、そんなものが一切使えない異端者達は、魔術を教わらない。

それぞれの持つ特殊魔術の強みを伸ばすカリキュラムが組まれているのだ。

そうなってくると個人レッスンレベルの指導が必要になってくる。

だから、異端学校は狭き門であり、受験の競争率も高い。受かるためには勉学に加え、人並み以上の体力が求められる。

だが、入学さえしてしまえば、住みにくい世界ではなく、異端者だけの充実した学園生活が送れるというものだ。


魔力の強さでモテる外界とは違い、この学園がある学園島では、魔力のしがらみなど一切ない理想郷なのである。


…結局は顔なんだけどね。



「まもなく、本船は学園島に到着します」

アナウンスが船内に響く。


うぉー、いよいよか…!

俺は黒い学ランを潮風になびかせ、潮の香りを堪能しながら、近づいてくる学園島に思いを馳せていた。

…っへっへ、ここならうまくやっていける気がするんだ…!

俺はその場の勢いで、一人ガッツポーズをしてしまった。


「まだ着いてないけど、なんでそんなにはしゃいでるの?」

…?

蒼いベレー帽が特徴の、学園の制服に身を包んだ女の子が、俺に話しかけてきた。

透き通った白い肌に、流れるようなロングの桃色の髪。整った顔立ちだが、そこに少し幼さも垣間見える。

目の前にいる人物こそ、俗に言う美少女そのものなのかもしれない。



「え、あー、これは…、なんだかワクワクして、つい」

突然話しかけられた俺は、返答に少し戸惑ってしまった。

「あはは、変なの。これから入学手続きとか書類とかで大変なのに。まぁ、でもわかるよその気持ち」

目の前の彼女は、俺にはにかみながら、俺に同意を示してくれる。

「う、うん。なんというか、これからの俺頑張れっつ~か、んー」

何言ってんだ、俺。


「君、面白いね。私、桜井すもも。よろしくね」

突然彼女は手をこちらに差し出し、握手を求められる。

こんな積極的に話しかけてくれる女子なんているんだと、俺はその時感じながら。

「俺は五十嵐 総、よろしく」

俺も差し出された手を握り、握手が成立する。


「よろしく、同じクラスになれるといいね」

彼女が、笑顔でそう言う。

まだまだ会ったばかりなのに、いきなり『同じクラスになれるといいね』だなんて、どういう子なんだ…?さすがにここまでフレンドリーな人は今まででも見たことがない。

「でも、10クラスあるんでしょ?確率としては1/10くらいだろうし…」

「まぁ…でも、別のクラスになってもよろしくね」

「よろしく、桜井さん」

「すももでいいよ」

「え、…じゃあすももさん」

「すももでいいよ」

「すもも」

「よろしい」


すごくフレンドリーな子だな…そう思った。

でも、こんな子。学校に入ってすぐモテるだろうし、俺と会う機会なんてそうそうなさそうだ。


「じゃあ君は総くんでいいね?」

すももは俺に人差し指を向けて命名してきた。

「俺のことは君付けかよ」

「ソウってなんか、イヌみたいな呼び方じゃない?」

初対面なのに失礼だな。

「イヌみたいで悪かったな」

「あ!ごめんそういうつもりじゃなかったんだ。ごめんよ!」

軽く手を合わせて謝ってきた。…そこまで気にしてないからいいけど。

さすがにイヌはないだろうイヌは。


「君も異端者だよね、ちなみにどんなことができるの?」

彼女が興味津々に聞いてくる。

きっと彼女はこの船でいろんな人に能力を聞いて回ったのだろうな。

彼女ののフレンドリーな性格からして。

「ふふ…よくぞ聞いてくれた」

俺は自分の能力には自信があった。

この学園に来たのだって、自分の能力を活かすためである。

俺の能力…それは。


俺がゆっくり腕を前に向かって伸ばし、手を開いて、そこから空気に向かって魔力を込める。


「わ!目の前に穴が…?もしかして、これ?」


彼女の言うように、俺と彼女の間の空間に真っ黒の穴が現れた。

「そう、俺の能力は空間に穴を開けてどこかにつなげることが出来るんだ」

これが俺の能力。ワープホールという名前が最もそれを称するにふさわしい名前だ。

見た目は真っ黒なこの穴だが、入ることが出来て、どこかとつなげることが出来るというすぐれものである。

我ながら最強に便利な能力だと思っている。

だが、この能力。実はまだ未完成なところがあって…

「これ、入れるの?!」

彼女が興味津々に穴の中に頭を突っ込む。

「入れるよ。今そこはさっき出た東京の港に繋がってると思う」

「すごい!いいなー!これがあればすぐに島に行けるじゃん!」

「…一度行ったことがあるところじゃないと失敗することがあるんだよ…」

そういうお約束付きだ。

それに加え、欠点としては、これを利用しようにも莫大な魔力が必要となり、再び使うには数時間単位の休息が必要である。


「えー」

「失敗すると宇宙みたいな何処かを永遠にさまようことになるから…」

「えッ、怖ッ!」

一度変な所に繋がって、吸い込まれそうになったことがあるのだ。

この穴は見た目が真っ暗で、覗かないと先が見えない辺り、とても危険ではある。


「いやでも、すごい!いいな、いいな絶対強いじゃん!」

「強いと言うか…まぁ、将来は宅配サービスだとかで生活できればなって」

「なにそれ!超地味!」

たしかに地味かもしれないが…。

特にこれといって将来やりたいことが俺にはなかった。

「で、すももはどんな能力なんだ?」

「私?私はね~……んっ!」

ちょっと艶めかしいような、力を込める声が聞こえた気がした。

彼女が右腕に力を込めると、彼女の腕が光をまとった金色に変化する。

「腕が金色に…?」

「これだけじゃないよ」


「ちょっとそのキーホルダー貸してくれる?」

すももは、俺のポケットからはみ出ていたスマホのキーホルダーを金色の右手で指さした。

「あ、これ?はい」

俺はキーホルダーを外すのもかったるいのでスマホごとすももに手渡した。


…。


「はい」

「…は?え?」

俺がスマホを手渡すと同時に、すぐに突き返してきた。

受け取ったそのスマホは、液晶を含め、すべてが金色に包まれていた。


「え!あっ!!俺のケータイが金に!?」

裏返しても金。側面も電源ボタンも全て金。

「あはっ、これが私の能力。ミダスタッチなんて呼ばれてるの」

「おいおいおいおい!!これじゃケータイが使えないじゃないか!」

「それ売って買えばいいんじゃない?」

「そういう問題じゃ…」

島に来てスマホが使えないだなんて、さすがに不便になってしまう。

ワープホールを使って戻ればいいのかも知れないが、あれは実はかなりの魔力を使うのだ。

島から東京を往復するためには、半日は休んで魔力を回復させないといけない。


「本船は学園島へと到着いたしました。お降りのお客様は列に並んで順番に降りてください」

船内アナウンスが俺達の会話に割って入ってきた。

アナウンスがなされると、船のデッキ部分に人が集まり、騒がしくなってくる。

この船には全国から集まった500人の新入生が乗っているのだ。


「じゃ、また学校で会いましょー、まったねー!」

「あ!おい!待てって!俺のケータイを元に…!!!」

すももは俺の訴えを無視するかのように、そのまま小走りで降りる人の列の中に紛れ込んでしまった。


「…はぁ…。これ…、どうしよう」

金色になったスマホを見つめながら、俺はゆっくりと列の方へと歩き出した。








学園島。

豊かな自然を残し、白い砂浜が見る人の心を揺さぶる美しい島。


島全体が学園の所有物であり、学生は自由に海水浴を楽しむことが出来る砂浜があることで有名だ。


船は島に設けられたコンクリートの港に就けられ、降りた新入生たちは一目散に砂浜の方へと走っていった。

高校入学前の子どもたち。白い砂浜を見て興奮を抑えきれない人が多かった。

船内で仲良くなったグループなどで、もうすでに砂浜で遊んでいる。


俺が船から降りたのはだいぶ後半の方だったこともあって、船着き場のすぐ近くの砂浜にはたくさんの人がはしゃいでいるのが見えた。


砂浜か…。

俺も少し、遊んでいこうかな。


まだ夏でもないのだが、日差しがさしているため、海に足を浸らせるくらいなら気持ちが良いものだ。

俺も砂浜の上で靴を脱ぎ、素足になって海の中へと足を浸らせた。


…いい足湯だった。

俺は船内では特に友達も見つけられなかったので、一人だった。

すもも…、たぶんあの子は俺に話しかける前に会っていた他の友達と遊んでいる頃だろう。


俺は足湯を1分足らずの間堪能し、そそくさと靴を履いて学園の建物の方へと歩いていった。


真っ白いリゾートホテルのような外観の建物。

これが俺が通うことになる布里沢学園だ。

学園の校舎は陽の光を受け、眩しいくらいだ。学園の前の道路はオシャレにレンガ造りの道で舗装されてあり、その両脇にはきれいな桜が満開で咲いており、レンガの上に桜の絨毯が出来ていた。


「そーうくん!」

「うわっ!」

突然両肩を掴まれ、驚き、振り向くと、「あはは」と笑うすももがいた。

「びっくりした…」

「あはは、ごめんごめーん、あ、さっきのケータイだけど、あれ実はただのメッキ舗装なの」

「え」

俺はスマホを取り出し、少し爪で削ってみると、おなじみの液晶部分が顔を出した。

「ね?これで削ったらちゃんと使えるから」

「…はぁ…いきなりケータイを金にされるんだから…」

「ごめんごめんって」


「そういえば、海で遊んでなかったの?」

彼女のことだから友達と海で遊んでいるものだと思っていた。

「あー、遊ぼうと思ったけどね、総くんがすぐ学校の方行くの見えて、追っかけてきちゃた」

「友達はいいの?」

「いいっていいって、その友達、他にも友達いっぱいいたし」

遠まわしに俺が一人で可哀想だからついて来たって言っていることがわかった。


「気遣わなくてもいいのに…」

「いいのいいの、じゃ、せーので校門の中に…ってえぇ!もう入ってるし」

「あ、悪い」

もう少し言うのが早かったらなぁ。






俺とすももの他にも、海で遊んでいない新入生が既に数十人かいて、入学式の行なわれるホールに集まっていた。

さすが、孤島の学校だ。2000人は入るであろうコンサートホールのようなホールだ。

ホール以外にも、学校全体が規格外にでかい。

まだ学校を見回われていないが、俺が今まで通っていた中学とは比べ物にならないほどきれいに整備された廊下、掲示板はすべてスクリーンになっており、言うならば技術の結晶体のような学校だ。

砂浜と言い、この設備と言い、この施設はどうなっているんだと疑えるほどの豪華さ。

運営は海外の異端者協会が運営しているとのことだが、よくもこんな建物が建てられたものだ。


「ここで入学式とクラス発表だよね、楽しみ~」

「早く来てもなにもないんだけどな、あと30分はある」

「今の間、金メッキ削っときなよ」

そうだった。

すももに言われて思い出したが、まだ完全に削りきれていないままポケットの中にスマホを放置していた。


俺は30分間、ゴシゴシと金メッキを剥がす作業に明け暮れた。





正午。

砂浜にいた連中も徐々にホールへと集まってきた。

と言っても、人数的にもホールの前列しか埋まっていないのだが。

俺が金メッキを削り終わって10分位した後、「これから入学式を始めます」という司会の挨拶のもと、入学式が始まった。


入学式は指定座席なので、すももは隣にいない。

もちろん、周りに座っているのは知らない連中ばかりだ。

いや、はっきり言って全員知らない。


ざわついた空気の中、舞台袖から現れたスーツのサングラスおじいさんがホールの舞台へと登壇していく。

きっとあれが校長なのだろうか。


おじいさんが舞台上に設置された演台につくと、ホールのざわめきが途切れた。


ゴッ!


おじいさんがマイクのスイッチをオンにする音がホールに鳴り響いた後、挨拶を始めた。


「えー、諸君、入学おめでとうございます。私がこの学校の理事長を務めている、深谷と申します」

「諸君は、普通の人が持つ力を持たずして生まれ、これまで生きてきたと思います。まずは、今までの人生を乗り切った諸君らに敬意を表します」

おじいさんは、頭を少し下げ、再び演説を続けた。

「諸君らには普通の人が持つ力はあらずとも、個性豊かな、様々な力がある。是非、諸君らは自分自身を認め、誇って欲しい。決して異端者として生まれた自分を恥じぬように、この学校生活を送ってほしい。あまり長々と話をしても仕方ないので、この言葉を君たちに送って私の挨拶は終わりとさせていただきます」

「自他自賛。自分も他人も、認め、肯定することを大事にして欲しい。以上で私の演説を終わります」


パチパチパチパチパチ。

ホールの隅に立っている教職員達が拍手を送り始めると、自然と会場全体から拍手が巻き起こる。

拍手に見送られながら、おじいさん、もとい理事長は舞台袖へと戻っていった。


どうやら今挨拶した人がこの学校のお偉いさんらしい。

あの人も俺やここにいるほとんどの人と同じ異端者なのだろう。


そして、年配のお偉いさん方の挨拶が数人分続いていく。

どの話も、よく小学校や中学校でも聞いたような話に、異端者アレンジを加えたものばかりだった。

退屈になって、座席にもたれかかってうたたねする人もあたりにチラホラ出てき始めた。

俺も意識が遠のいてきて…


「ご入学おめでとうございます」

いつの間にか、澄んだ女性の声が耳にすっと入ってきた。

その声の美しさに俺は刺激されたのか、半開きだった目がもとに戻った。

そして視界に入ってきたのは、演台から首上しか見えないくらい小さな女子生徒。

長い黒髪、白く透き通った肌、清楚な雰囲気を持ちつつ、幼くて可愛らしい顔立ちに、パッチリした鋭い目つき。まるで完璧な人形のような、美しい人だった。

小さいけど、真面目に頑張っている…。たぶんそんな感じの第一印象を受けた。


「この学校の生徒会長をしている、2年の城生 久留実(ぎにゅう くるみ)です。今日は皆さん、朝から長い船旅お疲れ様でした。」

2年で生徒会長か。

そういえば、この学校では役職は学年関係がなく決められると聞いたことがある。


「私も、ちょうど1年前は皆さんの座っていた場所で聞く側でしたが、その時は、こうして前に出て挨拶をするだなんてことは全く考えてもいませんでした。この学校では、毎日様々な学びを得ることが出来、友達にも恵まれ、自身を高めることが出来る場所です。異端者である私達が、各々の力を磨き上げることが出来る学校は、日本においてはここだけです。皆さんは手に入れたチャンスを是非有効に活用して、この学舎で3年間を過ごしてください。私からの挨拶はこれで終わります。」


パチパチパチパチパチパチーッ!


徐々に下がっていた拍手のボリュームが、ここに来て急激に勢いを取り戻した。

「生徒会長、めっちゃ可愛い…」

「美人だったよな…」

そんな声が周りからちらほら聞こえてくる。


確かに、生徒会長はすごく可愛いかった。俗に言う美少女というのは彼女のような人を指すのだろう。


「なぁ、アンタはどう思う?」

俺の肘に何かが触れた感触があった。

「ん」

俺は肘が当たった方を向くと、隣りに座っていたメガネの少し小太りの男子が俺に話しかけてきていた。


「え?…なにが?」

聞かれたことはわかっていたのだが、念の為もう一回聞き直す。

「あれだよ、生徒会長。めっちゃ可愛くなかった?」

「あ、あぁ」

「あの黒髪、絶対いい匂いがするんだろうなぁ。廊下で一度でもいいからすれ違ってみてぇ…!」

「お、おぉ…」

俺もそう返事はするものの、確かに…言われると気になってきた…だけれども……。

「俺は唐沢裕翔(からさわゆうと)。鼻がすごくいいんだぜ、匂いには敏感なんだ」

聞いてもいないが、自己紹介をしてくれた。

これは俺も自己紹介を返したほうが良さそうか。

「へ、へぇ…、俺は五十嵐 総。よろしく」

「よろしくな、同じクラスになるか知らんけど」

唐沢が握手の手を伸ばしてくる。

俺はそれを握ると、なんかベタベタしていた。

「いやー、絶対ファンクラブとかあるんだろうなー」

お前は昭和の学生か。

最近はアニメでも聞かないぞ。

「もしファンクラブがなかったら創設して会員一号になって、影から支えるんだ…!あ、俺のことは唐沢でいいよ、五十嵐氏。」

興奮気味に、鼻息を鳴らしながら熱く語る唐沢。

正直ちょっとキモいかも。

…それに、まだ握手の手を握ったままである。

早く離してくれないかな。…と思っていると。


「そこ!静かにしなさい!」

教員に怒られてしまった。

ようやく手を離してくれたので、救われたっちゃ救われたな。




「これにて、第21回入学式を終了します。一同起立。礼。ご着席ください」

入学式が終わると、周りの人々は伸びやらストレッチなどをし始めた。2時間ほど座って話を聞かされていたのだから、仕方ない。


「クラス発表は、ホールを出て右に進んだ掲示板に掲示されています。新入生は、クラスを確認後、所定の教室へ集まってください」

司会がざわつくホール内へとアナウンスをすると、新入生たちはこぞって右側の出口に向かって我先と早歩きで向かっていく。

そうだもんな、これから1年一緒に過ごすクラスメイトが決まるわけだ。


冷静に語っているかのような俺自身も、実は内心、ワクワクが止まらなかった。

これからどんな人と出会うのだろうか。どんな楽しいことが起こるだろうか。

胸の中はそれでいっぱいだった。


「一緒のクラスだといいな」

隣にいた唐沢が俺にそんな事を言う。

「あぁ、そうだな」

…正直どっちでも良かった。



電光掲示板の前には500人規模の生徒が集まっていた。

少し遅れてきた俺は、電子掲示板が見えず、人混みの後ろで人が減るのを待つしかなかった。

これは予測されていたことで、掲示板の横には教員が数人立って、トラブルがないように見守っていた。


「押さないように!確認した生徒は速やかに移動すること」

教員が大声で生徒たちに指示をするが、その声がかき消されるほど、掲示板前は騒がしかった。

「えー、愛子と別のクラスじゃん!」

「うわ…俺ぼっちかよ」

「9組?1組が良かった…!」

「おぉ!一緒のクラスやんけ!」

新入生の一喜一憂する声が、廊下中に響いている。


「唐沢、しばらくかかりそ…あれ?」

話しかけようとしたが、さっきまで隣にいた唐沢の姿が見えない。

どこにいったのだろう。

もしかして無謀にもこの人混みの中に突っ込んでいったのか…?

俺は人混みの中から唐沢を遠目で探そうと背伸びをしていると…。


「あ、いたいたー、さっきぶりだね」

俺の横にすももがいた。

「あ、あぁ、そうだな」

「見てみてこれ、じゃ~ん!」

すももはスマホで撮った掲示板の写真を俺に見せてくれた。

「なんだこれ、2組しか載ってな…」

「そうだよ!私達一緒じゃん!よかったね!!」

「あ、あぁ、この写真、俺も貰っていいかなILNEでいいや」

ILNEはメッセージトークアプリである。

スマホを持っている学生ならほぼ全員が使っているアプリだ。

「いいよー…あ、総くんったら、もしかして私のILNEアドレスさりげなくゲットしようとしてた?うひゃー、大胆だなー!」

「んな事考えてないし!なんなら赤外線でも」

「あーあー!わかったわかった、ILNEのバーコード見せるから!友達登録して!ね?あ!そういえば金箔大丈夫?」

「なんかちょっと……金箔は大丈夫だけど、また今度でいいや」

「えーん!ひどい!!!お願いだよー!君をこの学校はじめてのILNE友達にしてあげるからさー」

発言のたびにこちらの友達登録する意欲を削ってくるのなんなんだ…。

「君は友達登録したいのか、したくないのかどっちなんだ」

「したいっていってるじゃん!!」

「はぁ…」

俺は金の残りカスが少し張り付いたままのスマホを取り出してみた。

「はい、スマホ貸して」

「またキンキラにするんじゃなかろうな…!」

「失礼な!するわけないでしょう!」

俺は渋々、スマホをすももに手渡した。



「はい、これでオッケー。トークに送っとくね」

「あぁ」

俺はすももとのトーク画面を見ようと、受け取ったスマホを覗こうとした。

「五十嵐氏~、俺達同じ2組…!??!?女!?」

このタイミングで唐沢が戻ってきた。

「い、いいい、五十嵐氏ィ!いつの間に女子と仲良く…!」

唐沢が何故かショックを受けたかのように、こちらを見つめてくる。

それにしても今の『いがらシシィ』はなんとも言えない面白さがあったな。


「いやいやいや、…この人は同じクラスになった桜井さんで…」

「はじめまして、桜井すももです」

「てことは俺のクラスメイトでもあるわけか俺は唐沢裕翔…というか!五十嵐は2組だって、もう知ってたのか…」

人混みの中をわざわざ見に行ってくれた唐沢が少し気の毒だったが、そういうことだ。

「あぁ。桜井さんに教えてもらったんだ」

「うん。私の席、出口と近かったからね」

ホールでの座席的に、やはり有利不利があった。

「それで、どうします?まだまだ集合まで時間はあるようですけども」

急に敬語になる唐沢。

「どうする?総くん」

すももが俺に、これから少しある時間をどう活用するか聞いてくる。

「ソウクン!!!????」

「いや待て待て、すも、桜井さんが馴れ馴れしいだけだから」

「五十嵐氏!今下の名前を…!ぐぬぬぬぬ!!なんという…」

しまった。俺まで馴れ馴れしい奴だと思われてしまう。

「いやいやいや!これは桜井さんがこう呼んでって言うから」

「え?そうだっけ」

白々しく真顔で嘘をつくすもも。

コイツ~~~~~~!!!!

「そうだよ!!」

必死にそう言うが、誰も信じてくれなさそうだったので…

「桜井さん、嘘はやめてください」

「…?桜井さんってだーれ?」

何だよ!めちゃくちゃめんどくさいな!

「とにかく、二人はとても仲が良いのね」

「そうなんだよー、総くんったら私以外友達いなかったのー、唐沢くんだっけ?総くんのことよろしくね、私のことはすももでいいよ~」

「初日にぼっちなんか当たり前デスガナニカ」

俺をぼっち認定するのはやめろ!自分が他に友達がいるからと言って、そう言うのは良くないと思います。ハイ。

「では桜井氏、ん…うん?」

「すももでいいよ~」

「すもも氏…?すももさん…?なんかすごく馴れ馴れしい呼び方で恐縮なんですが…」

「だろ??!!俺もそう思った!」

初めて唐沢に共感した。すももは、馴れ馴れしすぎる。

「何の疑問も持たずにすもも呼びした人がよく言うよ」

「一度俺もすももさんって呼ぶくらいためらったからな!?」

「私の地元ではみんな下の名前で呼び合ってたよ」

「…あんまりそういうことすると…誤解する輩が出てくると思うんですが…。すもも氏、割とかわいいし…」

たしかにすももは可愛いし、あまり馴れ馴れしくしすぎると、勘違いする男子など大勢出てくるだろう。

それに唐沢!お前しれっとすもも氏で定着させようとしてるな…!

自分だけ逃れられると思ったら大間違いだ。

「唐沢。すもも氏じゃなくてすももな。それに今可愛いってしれっと言ったな?流石だわー」

「…!すもも氏は普通に!見た目として可愛いって言ったんだよっ…!」

「それは否定しないけど、可愛いって普通に言えるのすごいと思うよ」

「ぐ…!可愛いものに可愛いって言って何が悪い!俺はかわいい子が好きなんだよ」

自ら地雷を踏んでいく唐沢スタイル。ここから「かわいい子が好き=すももが好き」という点から痛いところをついていけるのだが…流石にそれは中学生までだ。大人げないしやめておこう。

「はいはい、でもちゃんと本人の要望通り、すももって呼ぼうね」

「…でも、そうだね…さっき別の子にも馴れ馴れしいねって言われてさ…やっぱり、下の名前呼びはダメなのかな…」

すももがちょっと、すもも氏であることを認めようとしている…

これは意図していなかった流れ…。

だが、俺も周りから馴れ馴れしいやつだと思われたくないし、辺に誤解されたら困る。

これは呼び方を「桜井さん」にするチャンス。

「すも…桜井さんは…」

「あ、もう君たちは、すももでいいからね。唐沢くんの下の名前なんだっけ?」

「ぶっ」

矛先がそっちに向いたので、笑ってしまった。

「裕翔…ですけど」

「ゆーとくんだね」

「ぐっ!げはっ…!…俺、そんな呼び方されるの初めてだから!ちょっと待って、深呼吸させてくれ…」

効果は抜群だ!唐沢テラワロス。


「すもも、君は…、そういうとこだよ」

「…五十嵐氏の気持ちが、大変良くわかった…」

「えー、下の名前で呼ぶのもダメ~?」

「あまり人前でそれされると、俺達が困るんだ…」

「わかった、できるだけ心がけるね」

すももの呼び方案件はとりあえず、微妙な感じで結末を迎えた。

ちなみにこの後の唐沢は、恥ずかしいからか、いつの間にか呼び方が桜井氏になっていた。

俺は…桜井さんと呼ぶたびに、何故かすももに「すももで呼んで」と言われるのに…。



俺達は3人で、図書室、食堂、ミニシアターなどを見て回った。

ここには本当に学校かと疑うほどの施設が揃っている。

中でも、学生のためのレジャー施設やプールやジムなどがあり、一般開放はされてはいるものの、学生は無料で遊び放題・利用し放題である。

さすがに、今から遊べるほどの時間はないので、それはまた後日ということになった。


「学生寮。女子と男子は別の棟になっているね」

島の地図を見ながら、俺達は学生寮の前までやって来た。

「真っ白で、ホテルみたいだね」

すももの言う通り、学生寮と言うよりは、ホテルに近い。

白い外装に、ベランダ付き。ベランダにはリゾートテーブルとイスが置かれており、きれいに整備されている様子である。

ちなみに女子寮のベランダには下着がいっぱいぶら下がっていた。

様々なカラーの下着がぶら下がっていて、どんな下着を履いているのかで、住んでいる人のイメージを勝手に妄想してしまう。

あ、あそこの派手な赤い下着の人は、結構大胆そう…だとか、薄い青の下着の人は…普通そう…だとか。

よく見ると、ベランダにはちゃんとカーテンが付いている。俺が今見ていたのはカーテンを閉めていなかった人たちの下着か。

ちゃんと女性に配慮されている辺り、いいよね。(さっきまで下着の評価をしていた人間の発言)

男子寮は特に言わなくていいか。

「ほんとに、リゾート地ってくらいに豪勢だなぁ…」

「もともとはここ、リゾート地だったのを学園が買い取ったんだって」

「へぇ、そうなのか」

それは初耳だった。しかし…学生にこんな豪華な暮らしをさせて良いものなのだろうか。

学費に関しては、私学の学校とそこまで変わらないはずなのだが。

「今夜からここ住みになるんだと思うと…ワクワクするな…!」

「そうだね、みんなで今日は夜通しトランプでもする?私持ってきたよ」

「「すもも(桜井氏)は女子寮でしょうが!」」

「あっ…そうだった…」

こういうところなんだよな…すももは。


俺達は学園島ツアーをキリがいい時間で切り上げ、教室がある学園棟へ戻ってきた。



「2組のみんな~、はじめまして!わたしは白間せんせーっていいます、キミたちの担任だよー?」

教室で指定された席に座っていた生徒たちは、担任をみて、唖然としていた。

「えー、なにそのかお、まさかみんなしんじてないねー?」

そうだ。みんな信じていない。

教壇に立っているのが、まさに幼女なのだから。

床に届きそうなくらい、サイズが合っていない白衣を羽織り、クリーム色の髪の毛で、どこか異国からやってきたような日本人離れした雰囲気がある。

だが、彼女は日本語を流暢に話している。

喋り方は…幼児言葉に近いが…。

「すきなたべものはくりーむしちゅーかな!あのねあのねー、かくしあじには角砂糖がいいんだよ」

いやそんなこと、誰も聞いてない聞いてない。

そもそも、なんで幼女が教壇に立ってるんだ?

教室中がざわめく。

自分たちよりも歳の若そうな女の子が教師だなんて信じられるわけもなく…。

「あれが担任?嘘だろ?」

「んなわけないじゃん、どうせおままごとでもしてるんじゃない?」

「だよねー、先生か誰かのお子さんかな?」

「あははウケるー」

周りのクラスメイト達は好き放題言っていた。


「むー、わたしは昔はねー、白魔女とよばれるくらいのだいまほうつかいだったんだよねー」

「白魔女…??」

白魔女。それは誰もが知っている昔話に出てくる登場人物だ。


悪い魔法使いがある村に呪いをかけて人々を困らせていた。

その魔法使いを村人と協力して倒して、村に平和を取り戻したというお話だ。

悪い魔法使いは断頭台で処刑されるというショッキングな内容だったが…。


白魔女というワードを聞いて、クラス中が少しざわめいた。

「白魔女ってあの、お伽噺の…?」

「そう。といっても、お伽噺じゃないよ、実話だよ。わたしがここにいるんだから」

「うそだー、偽物に決まってる」

「ほんとだもん!」

顔をふくらませる自称担任兼白魔女幼女。

「まぁ、しんじてくれなくてもいーよだ、とにかく、わたしがここの担任だから。それだけはおぼえておいてね」

なんか、締まらないな…。本当に教師なのか…?


「ってことで!みんなにはいまからひとりずつ前で自己紹介たーいむ!いぇーいぱちぱちー!…あれ?」

一人で拍手して盛り上げようとする幼女先生。

しかし、教室中は先生を無視して、ざわめきが収まらない。


「…んー、こまったなー…」

困り顔の幼女先生は、50人の生徒の対処に困っていた。

挙句の果てには、立ち上がり、休み時間の如く好き勝手にする生徒まで現れ始めた。

「まーいいや」

いいのかよ。


幼女先生は、教壇の上にお菓子の袋をザーッと広げ、お菓子をつまんで食い始めた。

ポテトチップスをボリボリと口にする幼女は、まさしく年代相応のあどけない笑顔だった。

「おい!先生がお菓子食ってるぞ!いいのかよ!教師が授業中にお菓子食って!」

ケラケラ笑いながら、背の高い男子とその他数人が教壇へと歩み寄り、幼女先生に絡む。

「ん?いま授業じゃないからきみたちたちあるいてるんじゃないの?」

「いやいやいや、お菓子食ってる方がいかんでしょ。それも教師が」

「ちゃんと担任だと信じてくれたんだ」

「なわけあるかよ!」

「じゃあおかしたべてもいいよね?」

「…教師を自称するなら、この時間にお菓子食っちゃいかんだろ」

「生徒を自称するならたちあるいたりするのもだめだとおもいまーす」

「……。やべぇ、このガキ。すっげぇ腹立つ」

「ガキとか言っちゃいけないよ、さっきも言ったとおり、私白魔女だから。数百年は生きてるんだけど」

「ウソつけ、なら証拠はどこだよ証拠は」

「…しょーこかぁ…うーん…なにかいいものあったかなぁ…」

「お前ら!今授業中だぞ!何してる!」

突然教室に男の怒号が響き渡る。ジャージのいかつい若い男教師が殴り込みに来た。

この教師のおかげで、立ち歩いていた生徒たちは皆静かになり、元の席へと戻っていった。


「白間先生もちゃんと怒らないと…って、その机の上のお菓子は?」

「わたしのだよ、あげないよ」

「だめですよ、お菓子は家に帰ってからにしてください」

「はーい、そうそう、みんながわたしのことしんじてくれないんだよー」

「…はぁ、そりゃ困りもんですなぁ」


男教師が大きな手で2度、パンパンと手を鳴らし、教室中の注目を集める。

「お前ら!俺は体育教師の安藤。そしてこの御方は、正真正銘。お前らの担任、白間先生だ。偉大な魔法使いとして高名なお方だ」

クラスが再び騒ぎ始める。「ほんとだったんだ」という声もちらほら。

ボリボリ。

「お前ら、あまり先生をばかにするような発言は許さないぞ。さっきのお前、名前は何だ」

「立川です…」

さっきの背の高い男子生徒が、声を震わせながら名乗る。

「初めて会ったからわからんだろうがな、こう見えてこの御方は800年以上生きていらっしゃる。お前たち、いや俺よりもかなり長生きしてらっしゃるんだ」

バリバリ。

「…それで…その、白間先生…お菓子を食べる手を止めていただきたいのですが…」

「あーごめんねー、つい。安藤先生もたべる?」

「いえ、いいです」

謝りつつもスナックに手を伸ばして食べる幼女先生…。


「…お前ら、ちゃんと白間先生のいうことを聞くんだぞ」

適当にまとめて、安藤先生は教室から出ていった。


「ってことで、私がきみたちのたんにんねー、よろしく」

この先不安しかない…。本当にこの人、あの白魔女なのだろうか…?

もっとこう、叡智の塊のようなものをイメージしていたのだが…。


「…ってことで、先生のおかしがなくなったのでー、みんなの自己紹介たいむー!いぇーい」

小さい拍手が後に続く。

…さっきとは違い、素直に生徒は聞いてくれて入るのだが、今の流れから、盛り上がれるような雰囲気ではなかった。







自己紹介が終わり、オリエンテーション、学校の説明やプリントの配布に加え、宿舎の説明がなされ、最初の授業時間が終わった後、時間帯で言えば放課後だ。

各自解散となり、待ちに待った学生寮の自室を見に行こうと立ち上がろうとした瞬間。俺の座席の所に幼女先生がやってきた。

「ねぇ、君は…たしか…そう!五十嵐くんだったよね、あとでせんせーから個別に話があります」

俺は座席から立ち上がり、先生の方へと目線を合わせる。

改めて見ると、幼女先生は俺の腰上ほどまでしか背丈がなかった。

小学校低学年ほどの背丈だ。

「はい、そうですけども…?何か俺…僕に用でもあるんですか?」

「君の能力にちょっと興味があってね。私がこのクラスの担任を引き受けたのも、実はそれが理由なんだ」

真面目な表情の幼女先生が、真面目な口調で俺にだけ聞こえるように言った。

この口調なら、白魔女と呼ばれていても不思議ではないのだが…なぜさっきまで幼児語のような口調だったのだろうか…?


「今でもいいですよ。これと言って特にやることはないので」

「おっけー、んじゃついてきて」

俺はろくに道もわからないので、幼女先生の小さな背中を追った。

ただ、教室を出る時、誰かに見られている気がしたが…。気のせいか。






「ここは…?」

俺は、真っ白で、何もない正方形のタイルが敷き詰められた広い部屋に連れてこられた。

中では先生と二人きりという状況だが…。

「能力を使う時はこの部屋を使うんだよ。よほどのことが起きない限り、壊れないから安心してね」

幼女先生の説明のあった通り、この部屋では能力の訓練を行うらしい。

「僕に能力をここで使えと…?」

「うん。君の能力は強力だからね。担任としてしっかりと管理する必要があるんだよね」

「…でも僕さっき、つい能力を使ってしまって、うまく出せるかわからないですよ…?」

俺達異端者の魔術は、一般人の使う魔術とは違い、魔力消費も、コントロールもすべてが不安定なのだ。そもそも、不完全で、異質な魔術回路を持つ人間が異端者となるのだ。

俺も例外ではなく、極端な量の魔力消費によって空間に穴を開けることができるというものだ。頻繁に使えるといったものではない。

「この腕に巻いたリストバンドはね…」

俺の手を取り、腕に巻かれた黒いゴム製のリストバンドに触れる。


さっき、オリエンテーションの時に、一人一つずつ。腕にリストバンドをつけられた。

これは外すには専用のロック解除キーが必要で、島の外に出るときくらいしか外してもらえない。

常につけっぱなしのようなものだ。

このリストバンドがあれば、島のどの施設も無料で利用でき、学生寮の部屋の鍵としての役割も持つので、セキュリティーにも安心して生活できるというものだ。

時計が表示されている液晶があり、始めは便利なアイテムだと思っていたが…。

「魔力が尽きてもこのリストバンドを通して魔力を供給することができるんだよ。いわゆる電池みたいなものかな」

「電池、ですか」

「異端者って魔術回路が完璧じゃないんだよね。だから、魔力が無駄に漏れたりしすぎて、身体のエネルギーが全て魔力に持っていかれて命を失うなんて話だってあるし。流石に無限とまでは行かないけど、このリストバンドは生徒の命を守るためというわけでもあるんだ」

なら、俺はこのリストバンドを付けている間は何度も魔術を使えるというわけなのか…?

「これがあれば、何回も魔術を使えると」

「いや、さすがに何回も使われ続けちゃ、悪用する学生だって出てきちゃうからね。先生に許可を得た人、命が危ない人にしか効かないようになってるよ」

さすがにそりゃそうか。

「話を戻そう。今ここに君を呼んだ理由は。君の能力が強すぎるから。…君の能力はあまりにも、便利すぎて悪用だってできるんだ」

「そんな、悪用だなんて!俺、そんな事しませんよ!!」

ついつい力が入った声が出てしまう。


「わかってる。でもこれも学校の秩序を守るためなんだ。君の能力を見定め、きちんと管理しなければならない」

幼女先生は俺をなだめるように、すぐさまその理由を答えた。

…たしかに俺の能力があれば、盗みなど簡単だし、犯罪などお手の物だ。

実際、異端者による犯罪は結構存在する。

「私が監督を任されたのは、君に対抗できる手段を持ちうるからだよ」

「…それはというと…?」

「流石に言うわけにはいかないよ。でも、そういうことだから、心しておいてね」

「…はぁ。」

目の前にいるのは白魔女。あのお伽噺に出てくる伝説の人物だというのだ。

一人で、国同士の戦争を止めたり、嵐を消し飛ばしたりしたと言われている。

どういう手の内を隠し持っているのかわからない。

「あの、少し気になってたんですが、本当に、あのお伽噺の白魔女さんなんですか…?」

「…そーだよ?」

「その…少し失礼かもしれませんけど、その歳でなんでそんな若くみえるんですか…?」

「これ?あぁ…これは呪いみたいなものでね。私も異端者として強大な力をもって生まれたんだけど。その副作用みたいなものかな。成長が止まっちゃったの」

…確かに、異端者はイレギュラーなる存在。生きている間に何が起きるかなんてわからない。ずっと胎児のまま母親のお腹の中に居座り続ける異端者がいるということを聞いたことがある。俺はそのあたりに関しては至って健全なのだが…。

「成長が止まって、永遠の命に?」

「永遠の命と言うか。寿命がとてつもなく長いだけ。確か世界記録に300年生きてる人いるよね。あんな感じ」

「いやいやいや、先生!あなたもっと前の人間でしょう?!世界記録なんて…」

「そうだけど、魔女は表舞台にいちゃ色々まずいんだよ。そこら辺わかってね」

初めて魔女に会ったからそんな事わからないよ。

「それで、先生はなんでこんな所で先生をしてるんですか?」

「知り合いに頼まれちゃってね。ここの先生になってほしいと。私、去年までは欧州の異端者学校で教えてたんだけど、君の存在を聞いて。こっちに移ってきたんだ」

「僕の…?」

俺が白魔女を日本に呼んだと。これ、結構すごいことだと思うんだけど。

「移動系のテレポート能力者なら何人かみてきたんだけど。空間をねじ負けて無理やり移動する能力者なんて聞いたことがなくって!やり方が乱暴で、面白そうだなって思ったんだ」

面白おかしく笑いながら事情を説明する白魔女先生。

「乱暴…」

「そうだよ乱暴!空間に穴を開けるだなんて乱暴すぎるし、賢くないよ!でも、行き帰りが楽だよね」

そうか…色んな人を見てきたこの人からすると、俺は乱暴なのか…。

「でも気にしないで、私だって君の後押しをできればいいと思ったからここに来たんだ!是非、君の魔術を見せてくれないかな。リストバンドの補助機能は許可してるから今すぐにでも使えるはずだよ」

「はい。ではここに穴開けますので」

俺は何もない空間を指差し、どこに穴を開けるかを宣言する。

「いいよ、やっちゃって」

先生にそう言われたので、俺はいつもの通り、腕をゆっくり前に向かって伸ばし、手を開いて、そこから空気に向かって魔力を込める。

すると、何もなかった空間に、真っ黒い円が現れる。

「おぉ…これが、空間を捻じ曲げるやつかー」

白魔女先生は少し興奮気味に穴を覗こうとするが、俺が穴を少し高いところに作ったせいか、背が届かない。

「…悪いけど、おんぶしてくれないかな」

「あ、はい」

俺は背中に幼女先生を乗せる。

今自分がおんぶしているのが数百年生きた魔女とは思えない。


「これはどこにつながってるの?」

「あー…考えずに開けちゃったから…どこかわからないです…」

「指定もできるって聞いてたけど。指定しなかった場合、どこに繋がってるかも興味深いね。ちょっと覗いてくるね」

「え、危険ですよ…どこにつながってるかわからないですし」

「…いきなり溶岩の中とかある?だとしたらこっちに溶岩が流れ出てくると思うけど」

「それもそうですね」

俺も何度か自分で適当に穴を開いた時、大量の海水が流れてくることがあった。どこへ繋がってるかは、入らなくてもわかると思う。

というか、そういう事件があって以降は、適当に穴を開くときでも、なんとなく地上より上に開けるように心がけてはいる。

「…ここは、どっかの上空につながってるね。飛行機が見えた」

「え、まだ何も覗いていなくないですか…?」

空間の穴に頭を突っ込まずに、穴の繋がる先を言ってみせる白魔女先生。

「疑わしいのなら覗いてみてよ。安全は私が保証しよう」

自分の開けた穴だけど、覗くのは怖い。…でも先生が言うのだから…。

仕方なく俺は自分の頭を真っ黒の穴に突っ込んだ。


…すると、目の前が真っ白になった。

「目が!!!!!!まぶしぃっ!!!!!」

「あー、太陽が出てたんだった。」

「目が!!!!!!!目がぁぁぁぁ!!!」

とっさに顔を引っ込める。元の空間に戻ってきたが、目がなれず、視界が安定するまで数秒かかった。

「ごめんね、太陽の子と言い忘れてた…でも、繋がった先は空だったでしょ?」

「全く見えなかったですが、飛行機の音は聞こえました」

「うん。私の千里眼でちゃんと先がわかるね」

「千里眼」

「うん。私の数ある力の一つだよ。遠くのものを見据える力があるんだ。お伽噺にも出てきたでしょ?」

そう。白魔女のお伽噺で、国同士の戦争で、死者を出さないように二つの国を千里眼で見守り、うまく手回ししたという話がある。

白魔女の能力は他にも、火や冷気を操る能力、汚染を浄化、少し先の未来を読む力する能力などがある。複数の能力を持つ異端者はごく少数存在はするが、早死してしまうと言われているが…この白魔女は数百年もの時を生きている。すごく希少なパターンだ。

「…お伽噺。誰もが知ってるその話ですが…。その能力があれば、世界だって手に入ったんじゃないですか?」

「それはちがうよ」

即否定された。

「確かに、私の力は強大だと言われてるし、その気になれば地球だって消せるんだ」

「…」

俺の中で、さーっと血の気が引いた。目の前の幼女の言葉、それはハッタリではない、まじの言葉だ…。俺の中の直感がそう告げたのだ。

「じゃあ質問。なんで、それ。つまり支配をしなかったと思う?」

「え、それは…あなたがいい人だから?」

「てれるなー、んー、正解なのか…どうなのか…私が判断していいことじゃない気がするけど…。まぁいいや、私は単にみんなの役に立てればいい。そんな風に生きて考えてただけなの。よく欲がないって言われるよ。よくないね~。なんつって」

…はい。


「…んまぁ、今ので、だいたいわかったし。今日はかえっていーよー」

都合よく幼児言葉に戻してごまかすな。

「あ、はい…。帰り道わからないのですが」

「しかたないなー、せんせーがつれてってあげる」

しかし…この先生、さっきまでまともに喋れたのに、何でみんなの前だとかでは幼児言葉になるんだろうか…?

「先生、先生はなんでそんな言葉遣いなんですかね、さっきまで普通に話してましたよね?」

「え、なんのことー?わたし、わかんなーい」

…もういいや。

正直面倒だな…。



俺は、先生に付き添ってもらい男子寮の前まで送ってもらった。

俺は先生がどういう人間か、全然わからない。なんなんだあの人。全くつかめない。

この人が担任。

つまりはこれが1年は続くわけか…この先うまくやっていけるだろうか…。





…なかなかいい部屋だ。

部屋にはテレビや冷蔵庫など、ホテルのような設備に加え、本棚が最初から揃っており、シングルサイズのベッドが一つ。ベッドには目覚ましの機能が備わっており、まるでホテルだ。

ホテルには外から見えたように、バルコニーが存在し、部屋の大窓から外に出ることが出来た。外は真っ暗だが、街灯が照らすレンガ舗装の通学路を覗くことが出来る。

広いレンガ舗装の通学路を挟んで向かい側には、ポツポツと闇を灯す光が見える。あれが女子寮だ。

ただ、じっと女子寮の方を見つめ続けるわけにはいかない。入学初日に変な噂を立てられるのは本意ではないからね。


俺は室内へと戻り、ごろんとベッドに横になる。

慣れない環境に入った疲れがどっと押し寄せてきた。

今日一日、色々あった。船に始まり、入学式。

クラスでのオリエンテーション、そして俺にだけ執り行われた技能測定のようなもの。

本来ならそう安安と使えない能力を一日に二度も使ったのだ。リストバンドがあったとしても、限界近くまで魔力が持っていかれていることが身にしみてわかる。

とにかく、今日は眠い。眠い、眠すぎる。

ゆらり、ゆらり。視界がぼやける。

俺は、遠のく意識を受け入れ、そのまま眠りへと落ちた。






「…ん」

朝が訪れた。

俺は目をこすりながら、ベッドに備わっているデジタル時計を見る。

その数字は朝の8時を示していた。

「まずい、遅刻だ遅刻」

始業は8時30分と聞かされている。

えっと…着替えて、急いで朝飯を済ませば…あれ、朝飯ってどうすんだ。


確かこの寮の地下で女子寮と男子寮、校舎をつなぐように大規模な食堂があったはずだ。

…いや、今向かっても食べる時間を考えれば間に合わないだろう。

ここは朝食抜きにでも学校に向かおう。

俺は制服に身を包み、カバンを手に、部屋を出る。


…っと。危ない。

「ごめんなさい」

部屋を出る時、ついドアの前にいた誰かとぶつかりそうになってしまう。

「…」

俺は急いでいたので、返事はできずに階段の方へ向かった。そのまま階段を下り、男子寮の建物から出る。朝日が照らすレンガ舗装へと一歩踏み出した時。俺の視界に校舎が現れた。


あ、でも校舎は寮から歩いて3分ほど。そうか。中学の時と違って移動時間がかからないから、早く出る必要がないのか。


腕のリストバンドには8時7分と表示されている。思ったよりも時間が余りそうだ。

今から戻って食堂でも覗いてこようか。


「…っと」

後ろを振り向くと、誰かに当たってしまった。

少し目線を下げると、黒く清らかな髪が視界に入ってくる。

「ごめんなさい」

髪の持ち主は俺にそう告げると、そのままどこかに…

…あれ、女子生徒…?


俺は男子寮から一歩出た所にいた。

こんな所に女子生徒がいるはずがないけど…。


いつの間にか、彼女はどこかに行ってしまっていた。

なんなんだ…あの人は。男子寮に訳アリで住んでるのか…?


…あれ、俺は…あ、食堂に行くんだったな。







「…なんとか間に合った…」

「あれ、遅かったね、総くん」

「だからその呼び方はここではやめてくれ…」

俺は間に合った。それは味噌汁とご飯のおかげだ。

味噌汁とご飯は料金を支払わずとも取り放題だったのだ。

それ故、レジに並ぶ時間は必要なかった。

…で、こうしてここにいるわけだが。


「ごめんごめん、それにしても、そうく…じゃなかった、五十嵐くん、あの人は…?さっきからずっと五十嵐くんのこと見ていない?」

すももが教室の廊下側の窓を指差す。

「え?」

そちらの方向を見るが、誰もいなかった。

「誰もいないけど?」

「あれ?さっきは顔はよく見えなかったけど、背の低い女の子が見てたんだけど…五十嵐くんモテモテだね~」

「モテモテってなんだよ、俺だって心当たりないんだけどな。勘違いだろ」

俺がモテモテになるようなことはありえない。今まで特に女の子と特別な関係になっことなどないし、そんなきっかけなどないだろうし知らない。

何なのだろうな一体。


ガラガラガラ。

教室の引き戸が開かれた。小さい先生がとことこと教室へと入ってくる。

「はいは~い、みんなそろってる~?しゅっけつとりますよ~」


「あれれ~?何人かいなかったね~、おねぼうさんかな~?」

白魔女先生が出欠を取り終えた。

教室にはいくつか空席が見える。そういえば唐沢の姿も見えない。

「まぁいっか。きょうはねぇ、オリエンテーションの続き。いくつかの授業と学校行事のせつめいするよ~」


白魔女先生は、とても聞き取りづらい説明を続けた。

「先生、…その喋り方、なんとかならないですか」

教室にいる誰かがそう進言する。

そうそう、俺もそれが言いたかったんだ。

「ん~、ごめんね、せんせい生まれつきこんなしゃべりかたなの~」

…んなわけあるかッ!!

教室にいる誰もがそう思っただろう。

「仕方ないなー、わかったよ!ちゃんと喋るよ!」

「「「できるんかい!」」」

出来るなら最初からやってほしいものだ。

というか、昨日は有耶無耶にしていたし!それくらい隠すほどの深い理由があるのかと思っていたけども…。

あっさり変えてしまうとは思わなかった。もしや幼児言葉はただのキャラ作りだったのか。

全くこの人の考えていることは…。


「んじゃ、はじめるよ~!」

「「「戻すんかい!」」」

わからない…!



「…これで授業についてはだいたいわかったかな~?」

以外にも、話し方を除いてはわかりやすい説明であった。

要約すると、それぞれの能力に応じたカリキュラムで個別に授業が組まれる。似通った能力を持った人間でクラスとは別で集まり、専門の教師に教わるといったものだ。

異端者といっても沢山の種の能力がある。

そんな彼らにとっては役に立たないことを習っても仕方ないというものだ。

それぞれの個性を伸ばすのがこの学校の方針だそうだ。

「射撃」「投影」「持続」「精神」など、様々なスキル別にクラスが組まれる。

俺は「持続」クラスへと振り分けられた。俺の能力は魔力消費が激しく、不安定な面が多い。そこを補うための授業というものが「持続」なのだ。


そして、次に『異端道』という独自の授業について説明された。

これについては、希望者のみが受けることが出来る授業だ。希望しない場合は、別の授業を選択することが出来る。

この異端道。異端者同士で戦うという危険極まりない競技だ。

様々な能力がはびこる異端者界において、不公平極まりない競技である。そのため、相性が鍵を握るものである。

この異端道の歴史は長く、元々は戦争に起源するものだ。それが、今ではスポーツじみた競技として扱われ、死亡者も出ることがあるという。

こういうリスクがあるが、異端道の選手の年収はかなり高いらしく、異端者は数少ないため、比較的なれるハードルは低い。


ただ、俺はそんなものには興味はなく、安全な生活を過ごしたいと思っている。戦って命なんぞかけたくはない。


異端道なんかは取らずに、そのコマに別の授業を入れよう。


「この授業選択の締切はらいしゅーまで~。3年間このままだからじっくりかんがえてきめてね~」


とのことだが。即決で異端道を外したが、まぁこの判断は正しいんじゃないかな。



授業が終わり、昼休み。

いつの間にか唐沢がいた。

「よう、五十嵐氏」

「お前、遅刻したんじゃないのか」

「おう、今来た。それより、食堂行かないか?」

「いいけど」


俺は唐沢に連れられ、二人で食堂にやってきた。

俺は唐揚げ定食、唐沢はとんかつ定食を注文し、食堂の席に持っていき、席に腰掛けた。

「五十嵐氏は、どの授業を取るつもり?俺の能力じゃ異端道は無理そうだし…」

とんかつに箸をつけながら、唐沢はしゃべる。

「そもそも異端道なんか選択肢にねぇよ…そんなに異端道って人気なのか?」

「人気も何も、異端道こそがこの学園の華だからね。学生にも試合に出るだけで収入が入るらしいし、何よりも久留実先輩と一緒にトレーニングできるんだぜ?」

「久留実先輩…?」

誰だそれは。それよりも唐揚げ美味しいな。

「お前覚えてないのかよ!生徒会長だよ、昨日挨拶してたじゃん」

「あぁ、生徒会長ね。名前までは覚えてなかったよ」

黒髪の、少し背が小さい、かわいらしい女の人。としか覚えていない。

「全く、五十嵐氏。あの生徒会長を見ておいて名前を覚えないだなんて失礼だぞ」

「お、おう」

「この学校、結構レベル高いと思うんだよ。可愛い女子多いし。桜井氏だって、ここだけの話、結構可愛いと思うんだが」

この唐揚げめちゃくちゃご飯がすすむ…!

「そうだな。すももは確かに俺も可愛いとは思う。この学校の女子が結構顔がいい人が多いのもだいたい納得できる」

「その代表格が、久留実先輩だよ。小さくて、可憐で。そんでもって生徒会長としての器量の良さ」

「おいおい最後の器量の良さはどこで知った。お前まだ入学から2日目だろ」

「なんとなく…いや、五十嵐氏になら教えてもいいか。実はだな、俺は久留実先輩の情報を色々聞いて回っているんだよ」

「なんだそれストーカーか?」

「失敬な!これは久留実先輩への敬意だと思ってくれ。それに俺はまだストーキングなどしていない」

「まだ…?ということはする予定なのか」

「それは置いておいて、久留実先輩の情報はある程度仕入れている。会員第二号のお前になら教えてもいいだろう」

「おい待て。会員第二号ってなんだ」

ストーキングの件をはぐらかされたと思ったら、さらに衝撃ワードを放ってきた唐沢。

「ん?昨日も言った通り、久留実先輩のファンクラブだぞ」

「俺は入るなんて一言も」

「いや、五十嵐氏には是非在籍してもらいたい」

あ、この唐揚げめちゃくちゃレモン合うな。

「そもそもファンクラブなんて、いつの時代だよ。最近の漫画でも聞かないからな?」

「いいんだよ。好きな気持ちさえあれば時代の壁なんて乗り越えてみせる」

「かっこいいこと言っているつもりだろうが、それはなんか違う気がする」

「…でだ。久留実先輩は女子寮の501号室に住んでいらっしゃる」

「ゴフッ…!ゴフ、ゴフ…いきなりギリギリアウトな情報!」

ついつい唐揚げを吹き出しそうになってしまった。危うく唐揚げを無駄にするところだったじゃないか。

「しっ!声がでかい。怪しまれたらどうすんだ」

「お前が勝手に話してるだけだからな!」

「何をいまさら。五十嵐氏。君はもう会員なのだから連帯責任だ」

「メチャクチャな!いいか?俺は会員になったつもりはないし、ストーカーじみたことにも興味がない」

「…」

黙り込む唐沢。

…少し言いすぎてしまったか…?

「…お前は何もわかっちゃいない。」

「…?よくわからんが、お前そんな事するくらいなら、生徒会長と付き合えるような努力をだな」

「久留実先輩には付き合うとかその様なやましい気持ちを抱いてはいけないのだよ。尊いものは拝み、信仰するべきだ。いいか?俺はそんなやましい気持ちで動いているわけじゃない。久留実先輩をそっと見守り…そう、見ていたいんだよ」

「…理解しかねるな。付き合えたら嬉しくないのかよ」

「いや、たしかに嬉しいけどな、そうじゃないんだよ。付き合うことによって久留実先輩の貴重な時間を奪ってしまったり、気を使わせてしまったりするのは罪深いことだ。だから俺は遠くから眺めていたい」

聞けば聞くほど、意味がわからないけど。自分と付き合えたらいいってわけじゃないということか…?

「じゃあ仮に、俺と久留実先輩が付き合ったとしたら」

「すぐに別れさせる」

「ひどいなっ!それじゃあ、久留実先輩が本当に好きな人と付き合ったとしたら?」

「…それでも許せないな。お前に娘はやらん!みたいな気持ちが起きるだろう」

お前は生徒会長の親父気取りか。

「で、俺が在籍することに意味はあるのか。そのファンクラブとやらに。」

「いや、五十嵐氏にしか頼める人はいないのだよ」

「早く気の合う人見つけたらどうだ…俺は降りるぞ」

俺は唐揚げ定食を食べ終わったので、トレーを持って立ち上がる。

「おい、待てってば話はまだ…」

引き留めようとする唐沢を無視して返却台へと皿を返しに行った。




「…五十嵐氏…!」

食堂を出て教室に戻ろうと移動していると、後ろから唐沢が追ってきた。

「なんだ、俺はファンクラブに興味はないからな」

「図書室に久留実先輩がいるらしい!」

「いやだから俺は…」

「行くぞ!」

「ちょ、おい!」

俺は唐沢に制服の袖を引っ張られ半ば無理やり、図書室へと連れて行かれた。

、あぁ、昼休みが終わるまで後20分近くあるのだからいいのだけども。


「昨日も来たが、やはり広いな…というか、騒がしいな」

図書室は、オシャレなカフェのような雰囲気で、吹き抜けの天井が特徴的だ。ステンドグラスが陽の光を色を変えて室内へと取り込んでいる。この図書館も学園の大きさに比例して大きく、開放的で、リラックスできる空間だ。ソファも配備されており、昼寝に適した場所だと言える。

昨日来た時は、人こそ少なかったが、今日はなんだか図書室と関係のない人だかりができているようだった。


「生徒会長、是非僕を弟子にしてください!」

「私を弟子にしてください!私も念動力なんです!」

「生徒会長みたいに強くなりたいんです!お願いします!!」

人混みの方から「生徒会長」「生徒会長」という声が何度も聞こえてくる。

そちらを見ていると、隙間の奥に昨日の生徒会長が座っているのが見えた。


「なんだなんだ、あの人だかりは」

「知らないのか。久留実先輩は異端道でかなりの実力者として、有名なんだよ。だからああやって教えを乞う人が絶えないそうだよ」

「ふぅん。そんなに有名人なのか。俺は異端道には興味ないから知らなかった」

「俺も雑誌とテレビでしか見たことがなかったけど、昨日はじめて本物をお目にかかれたときには感動したんだ…!俺と同じ空気を吸ってる…みたいな」

「はは、そうですねー」

流石にそれは引くぞ。


「生徒会長!私を弟子にしてください…!」


…というような言葉が聞こえてくるが、弟子とは何だ。この学校にはそんな風習があるのか?

「なぁ唐沢。弟子ってなんだ?」

「俺も詳しくはわからないが、この学校の伝統らしいな」


ざわざわ。人混みの方に動きがあった。

人混みの真ん中の方から道が出来はじめる。

「…」

中から生徒会長が出てきた。

生徒会長が椅子から立ち上がり、移動を始めたことで、人混みの人たちは道を開けたのだった。


「…」

…あれ、…今こっち見たよな。


生徒会長はそのまま図書室の出口の方へと歩いていく。

人混みの方は散り散りになって解散。図書室は元の静けさを取り戻した。


「今!こっち見てたよな!久留実先輩!」

唐沢が興奮気味に同意を求める。

「一瞬だったがな…見られたくらいでそんなに興奮するか?」

「あぁ、だって大スターなんだぜ?日本の異端者のスターだぞ!」

「…ふぅん」

俺達は、そんなこんなで、教室へと戻り、昼休み後のオリエンテーションを受けた。





「…城生久留実ねぇ…」

俺は授業が終わって、放課後。寮の自室で調べ物をしていた。

生徒会長はかなり有名な人物っぽかった。一般の世界ではそこまで有名ではないものの、異端者界では異端道の代表選手であり、日本一の実力を誇るという。

容姿端麗、成績優秀。まさに完璧という言葉がふさわしい女性だろう。

彼女の能力は念動力。

物を浮かせたり、操ったりすることが出来る。

試合の動画を見ていると、敵の動きを止め、見えない空気の刃で攻撃する戦法をとっていた。念動力と聞くと、弱そうに思えるが、れっきとした強い能力なのだ。

ミラクルクルミと海外でも称され、その人気は絶大だ。


日本異端者協会のポスターもそう言えば、生徒会長が載っていたような。

少し、生徒会長に対して興味が湧いてきた。


あと、弟子についてだが。

学校公認のシステムで、基本的に下級生が上級生の弟子になることで、直々に教えてもらえるというシステムだ。いわば専属の教師のようなもので、一人の上級生につき一人の下級生が弟子入りするというシステムらしい。師匠となる生徒には、弟子の成績次第で学校から給金がなされるそうだ。


人気の高い生徒会長のことだから、もうすでに弟子入りする人間は決まっているのだろうな。


「…気にしたって仕方ない。俺は異端道に興味はないのだから」


俺は風呂入って歯磨いて寝た。



ピピピピッ。ピッ。

そして起きた。朝。


今日は昨日の失敗がないように、きちんと目覚ましはセットしておいたのだ。

朝日がカーテンから差し込んでくる。

俺は制服に袖を通し、学校へ行く準備を済ませ、部屋を出る。

そのまま階段を降り、地下の食堂フロアへ。

朝食には焼き鯖定食。御飯と味噌汁は取り放題だ。


俺は適当な席に座り、割り箸を割った。

「あ、おはよー、五十嵐くん」

「おう、おはよう」

話しかけてきたのはクラスの男子。昨日少し仲良くなったのだ。

「授業選択、どうする?やっぱり異端道だよね?」

「んー…、俺、戦ったりするのは得意じゃないと思うし…」

「でも、将来安泰だよ?異端道を取っておいたほうが絶対いいって」

異端道を選択すると、異端道の選手になる資格を手にできる。他の授業は資格などはとくに取れるものではない。

俺は、正直、少し迷いを感じていた。

昨日の夜までは、全く異端道に興味すら感じなかったが、あの生徒会長の件があって以降、少し気になり始めている。


「…わからない。まだ時間あるし、ゆっくり考える。でも、多分やらないと思うな」

俺はそう答え、焼き鯖に箸をつけた。





今日から本格的に、授業がスタートする。

国語、数学、化学、地理等の基礎教養科目に加え、異端者学校の授業が加わったものが時間割だ。


「持続」の授業。ここでは、実際に能力を使用しての授業だ。いわゆる実技というやつ。


持続の授業の担当教員は、隣のクラスの、体育教員。

体育の授業でもないのに、何故か俺達は屋外グラウンドを走らされていた。


「あと9周!走れ!走れ!ペースは乱すな!」

一緒に走りながら教師が声を張り上げる。俺達は能力を伸ばしに来たのに、何故走らされているのかわからなかった。


「先生!何で、ランニングなんですか…!」

息を上げながら、生徒の一人が教師へ質問する。


「その話は後でだ!今は走りに集中しろ!」

くっ…!意味もわからず走らせられるこちらの身になってみろ。


はぁ…はぁ…。



グラウンド15周が終わり、女子も男子も倒れ込むようにグラウンドの人工芝に倒れ込む。


「さて、何故ランニングなのかという質問があったな。そもそも、魔力というものはどこから来ているものかわかるか?」

教師が疲れ切った俺達へ向けて質問を投げかける。…もうどうでもいいよ。終わったし。

「生命力です」

誰かが答える。

「そうだ。その生命力はどこから来ると思う?」

「…心臓の鼓動?」

「そうだな。大体当たりだ。答えは筋肉。足や腕といったピンポイントではなく、体の奥に眠る筋肉を鍛えることで、魔力を自己生成する能力が上がり、魔力切れを起こしにくくなるということだ」

「…」

みんな疲れ切っていて、結構重要な話を聞く気も起こらなかったようだ。


「これから授業の初めは毎回、グラウンド5周から開始する」

「…」

口には出さなかったが生徒たちはみんな嫌そうな顔をする。

そんな顔見慣れているかのようなノーリアクションで、教師は話を続ける。

「持続クラスに選ばれたものは皆、持続力が必要な能力持ちだ。ひたすら持続力を鍛え、能力を自分のものへとしてほしい。」


…授業が終わり、本来のクラスの教室へと帰る。


「五十嵐氏!持続の授業楽しそうでしたなぁ」

ニヤニヤしながら唐沢が話しかけてきた。

「…俺のどこが楽しそうに見える?」

「窓から見ていたけど、みんなでランニングとは、愉快ですな」

「あのな、ランニングだぞ?実技と違ってランニング。期待ハズレが大きすぎる」

「まぁ一年後には授業が変わるチャンスがあるからなー、それまでがんばれ」

唐沢はニヤニヤして、自分の席へと戻っていった。

次の授業は歴史。


ただ、ちょっと疲れが溜まってきた。

そのまま俺は腕を机の上に乗せ、その腕を枕にするように、突っ伏せた。




「…」

騒音によって目を覚ました俺は、薄っすら目を開けると、すでに昼休みになっていた。

腕の時計を見ると、まだ昼休みになりたてのようだ。

…食堂に行くか。



俺は食堂で昼を済ませようとする。


食堂に足を踏み入れると、昨日の図書室の光景が再び目の前に広がっていた。


「弟子にしてください…!私、入試No.1の成績なんです!久留実先輩のお役に絶対立ちます!」

「僕、先輩と能力は違いますが、先輩に教わってみたいのです…!1年だけでも、ご教授願えませんか…!弟子でなくても構いません…!」

どうやらまた生徒会長が一年に囲まれているようだった。


「はぁ」

持続の授業の疲れからか、ため息が出る。

どうしてあんなにも積極的に行けるのだろう。図々しいとは思わないのだろうか。

…まぁ、言わなければ何も始まらないわけか。

俺は人混みを無視し、唐揚げ定食を注文し、人混みを避けて遠い席に腰掛ける。

遠目で人混みの方を見ていると…。

「ゴフッ…!」

俺は唐揚げを喉につまらせかけてしまう。

その原因は、あの人混みの中に、唐沢の姿があったからだ。

「あいつ…!」

異端道は無理だとか言っていた気がしたが…何やってんだ。



しばらく唐揚げとご飯を食べていると、人混みの方に動きがあったようだ。

トレーを持った生徒会長が立ち上がる。

人混みは、道を開けるかのように、生徒会長を通す。

返却口へと近づき、トレーを返却する生徒会長。


その場でキョロキョロして、何かを探す生徒会長。

どうしたんだろう、何か落としたんだろうか。


周りにいた人間が声をかけているらしいが、生徒会長は話す素振りすら見せない。

あの生徒会長、周りにいる人に興味を示していない。…そう感じられた。


ふと生徒会長と目があった。

凛とした瞳は、遠くからでも、しっかりとこちらを捉えていた。

そう、しっかりと、目線を離さないように。


…あれ、こっちに近づいてきている…?


「…」

俺の席の目の前で立ち止まった生徒会長。

「なにか…?」

学校の有名人が、何故俺の前で止まったのか、全くよくわからない。

俺は、半分混乱していた。昨晩調べなかったら後も意識することはなかっただろうに。

「あ、久留実先輩、どうしたんですか?あ、こいつ?こいつは俺の友達で五十嵐っていうんです」

生徒会長につきまとうかのように移動してきた唐沢が、勝手に俺を紹介し始めた。

なんなんだこいつ、昼一緒に食べようと思ってたのに勝手に先に行きやがって。

寝てた俺が悪いのかもしれないけど…。

「…知ってる。…唐揚げ定食おいしいよね」

「え、あ、はい、おいいしいです」

俺は会長の、突然唐揚げ定食を推す発言に戸惑っていた。

「久留実先輩、先程唐揚げ定食食べていらっしゃいましたよね、お好きなんですか」

「…」

唐沢の言葉の後に続く言葉はなかった。

そのまま生徒会長は食堂を立ち去っていった。


「…なんだったんだ…」

俺の周りには唐沢を含め、数人の生徒会長の追っかけが溜まっていた。

「おい、五十嵐氏!どういうことか説明しろ!」

「いやいやいやいや、俺何も知らねーよ。こうして会って話すのも初めてだし」

「…とにかく、久留実先輩が唐揚げ定食が好きだということがわかったのは大きい。でかしたぞ五十嵐氏」

「…あ、はい」



翌日の昼休み。

俺が一足遅れて食堂に行くと。

「…ごめんねー、唐揚げ定食は今日はもう売り切れなの、今日突然人気が出ちゃってねぇ」

食堂のおばちゃんにこんなことを言われてしまった。


何故だ!何故!唐揚定食が売り切れている!

そうか!昨日のアレか!


食堂の席の方を見ると、1年生と見受けられる人間のほとんどが唐揚げ定食を卓上に並べていた。

もしやこれはあれか、会長をおびき寄せるための餌か!


…俺は仕方なくとんかつ定食を注文する。


一人で、端の方の席に座ってひっそりとご飯を食べることにした。

そういえば今日は昨日のような人だかりの姿が見えない。

そもそも、生徒会長が食堂に来ていないのかもしれない。


「あ、総くん久しぶり、あれ?ぼっちー?」

女子生徒何人かを連れて席を探していたすももが声をかけてきた。

「その呼び方やめろ」

何度言っても治らない…どうにかしてほしいよ。


「すももー?この人知り合い?」

「うん、うちのクラスの五十嵐くんだよー」

「ふぅん」

他の女子生徒たちは別に興味のなさそうに受け答えをする。

「五十嵐です。よろしく」

特に別のクラスの女子と関わる機会はないだろうし、適当に挨拶を済ましておいた。


「あー、そういえば持続の授業にいたよね」

女子の一人が俺を知っていると言い出した。

持続の授業含め、振り分けられる授業は、クラスの垣根を超えた授業なのだ。

確かにここなら関わる機会はなくもないか…。

ただ、俺はその女子生徒は覚えてない。俺を知っていると言うんだから、彼女も持続の地獄を見た仲間なのだろう。

「うん、いた」

俺がこう返すと、特に話題は広がることはなく…

「あ、総くんも恋ちゃんも持続なのかーかわいそー」

間を取り持つかのように、すももが話題を投げてくる。

余計なことを。

それに、名前を知ってしまった。これはこのまま何かと関係性が出来てしまうというわけだ。

まぁいいや。

「ねぇ、その総くんってのは」

「あ」

「…」

すももが俺の顔色をうかがってくる。俺は、怒っていた。

「二人は、そういう関係なの?」

「なわけない、すももが馴れ馴れしいだけだよ」

「すもも…?五十嵐くんとすももってば、下の名前で呼び合う仲なんだー」

「ちが、そんなんじゃないってば!」

「まだ知り合ったばかりなんだから…そんな関係じゃ…」

必死に二人で弁解する。俺はすももを睨むと、軽く手を合わせて謝る仕草をしてきた。

すももの耳が赤く染まっていた。俺もなんだか、恥ずかしくなってきた。

「まだ数日でこれはすごい」

「私も彼氏欲しいわーすももだけずるいー」

「はぁ…」

あまりにも信じてくれないようだったので、ついついため息が出てしまう。


「じゃあ、五十嵐くんまたね」

「すももをよろしく~」

「ちょっと!」

何で公認カップルみたいにされてんだ。

女子っていうのはこういう話が好きなのか、やっぱり。


…でも、こう、勘違いされたり、色恋沙汰に巻き込まれるのもなんだか初めての体験で、悪くないものだった。

俺も、やっぱり恋がしたいのかな…。


高校生という身分名のだから、一度くらい女の子と付き合って青春を送ってみたいという気持ちはあるわけで。


…。


喋っているうちに、トンカツが冷めてしまった。




俺は、冷めたトンカツ定食を平らげ、まだ昼休みの時間が残っていることを確認する。

…といっても、やることはないし…、教室に戻ってゆっくりしよう。

そう考えた。



…いや、でも時間もあるし、回り道しながら教室に帰ろう。


俺は教室に直行はせずに、あえて回り道をして教室に戻ることにした。

登る必要のない階段を登り、校内を見て回る。



『生徒会室』と書かれたプレートがふと目に入った。

俺は立ち止まり、扉についているガラス窓から、少し中の様子を覗いてみる。


「君、何してるの?」

「うわっ、すいません」

窓ガラスの奥にいる人物がこちらに気づいて声をかけてきた。

その人はこちらに近づいてきて、ドアを開け、俺の立っている生徒会室の外に出てきた。

「ここは生徒会室ですよ、君、一年生?もしかして生徒会に興味ある?」

俺に話しかけてきたのは、白髪の、今時珍しいクルンとまわったドリルのような髪の毛の女の人。いわゆる漫画でよく見るようなお嬢様ヘア。本当に、こんな髪型の人いるんだ。

ここにいたということは、おそらく、生徒会の人だろう。

「…?私の顔に何かついてますか?」

「いえ、別に…」

さすがにドリルがついてるだなんて言えない。

「あ、もしかして久留実、生徒会長に用があるのかな?」

「え、いや、ただ、生徒会室ってどんなのか気になって…」

「あらそう。生徒会長、人気だからね~、一年生に今頃たかられてるんじゃないかな」

「あれ、ここにはいないんですか?」

「彼女ね、昼休みは食堂か、図書室にいるよ。あとたまに購買で軽い食べ物を買って済ましたりだとか。この部屋には、実を言うとあまり来ないのよ。彼女忙しいから、会議のときくらいかな」

「なるほど…」

「なるほど…」

「ン!?」

あれれ、声が二重に聞こえたぞ。

後ろに人の気配を感じる。

「あれ、そちらの彼は?」

生徒会の人が俺の後ろの人物のことを訪ねてくる。

後ろを振り返ると、唐沢の姿が。

「うぉっ、唐沢、何でこんな所に」

「いや、五十嵐氏が生徒会室に向かっていくのが見えたからさ、ついてきただけ」

「そこ普通ついてくるか?」

「お二人はお友達ですか?」

「えぇ、まぁ一応」

「久留実先輩は、昼休みは食堂でない時はどこで食事を?」

唐沢が、生徒会長の生活の質問に踏み込んでいく。

…これは止めたほうがいいのかな…。

「うーん、私はわからないかなー…一緒にお昼食べたりしないもの」

「そうですかー…」

「君は、生徒会長の弟子志望?」

「一応、なれたらいいなーとは思ってはいますが…、どうやら久留実先輩、弟子は取らないみたいで…」

「あら、もったいない。久留実なら絶対いい師匠になれるのに」

なんだ、生徒会長は弟子を取らないのか。

…ま、いいか。…と思いつつも、少し惜しい気持ちにもなっていた。

どうしてだろう。俺は弟子になんかなる気はなかったはずなのに。

「そっか、君たち何か用があるなら久留実に伝えようか?」

「いえ、別に…」

「いえ、大丈夫です!」

唐沢が元気よく答えた。この返事は正直予想外だった。

ヤツのことだ、どうせ「空いている時間を教えてください」とでも伝えると思っていたが。

「そう。もうそろそろ授業が始まるよ、戻ったほうがいいんじゃない?あ、私もか」


俺達は、生徒会室前を後にして、教室へと戻った。

…唐沢が着々と生徒会長の情報を集めまわっている。

本気でファンクラブを作るつもりなのだろうか。正直、遊び半分で言っていたことだと思っていたが。


次の授業は、『異端道』…の見学だ。

異端道を取る人も取らない人も、上級生の異端道の授業がどのようなものかを見ることが出来るというオリエンテーション授業だ。


来週からはこの時間は、正式に授業になるわけだが、俺はおそらく異端道は取らないので、別の授業が入ることになる。



異端道はコロッセオと呼ばれる室内ドームで行われる。

ドームの真ん中には白タイルの広い舞台が3つあり、そこで異端者同士で戦うといったもの。

その舞台を取り囲むように観客席が設けられている。


異端道のルールは簡単。

相手を場外に落とすか、降参させれば勝ち。レフェリーによって相手の命が危険だと判断された場合でも勝ちになる。レフェリーがいなければ、死ぬまで続いてしまうこともある恐ろしい競技でもある。

こういう、命をかけて苦しい思いをする競技は、好きになれない。



1年生全員がドームに集められ、観客席に座っている。それでも観客席の半分も満たない。

3つある舞台の上では2年生や3年生の先輩が準備運動をしていた。

彼らは体のラインがピッチリわかる黒いウェットスーツのようなものを着用しており、まるで頭部を除く全身タイツのようなおかしな服装である。デザインはかっこいいのだが。


女子の先輩型の服装は、とてもエロい。…いや、そんなこといっちゃダメだ。

とにかく、胸の大きさや、お尻の大きさがはっきりわかる。


しばらくすると、授業が始まり、先輩方は、戦いを始めた。

能力と能力の戦い。

右の舞台では閃光がほとばしり、中央の舞台では、頭を抱えてもがく人がいる。左の舞台では、なにやら空中戦が繰り広げられているようだった。

とにかく、派手で、ドカーンという音が鳴り止まない。

中央の舞台は地味だったが…、どうやら頭を抱えている人が降参をしたようだ。

何が起こっているかは一見よくわからないが、おそらく念力で相手の脳に干渉したのだろう。

勝敗が決した舞台に対してはレフェリーの宣言の次に歓声があがる。


いくらかの試合が終わり、いろんな能力があるんだなと感心していると。

「あ!生徒会長だ!」

「ほんとだ!」

その声の主が指差す方向のリング。つまり左の舞台。

生徒会長が、舞台の上へと上がっていた。


それと同時に、ドーム中に先程までとは違う歓声が巻き起こる。

そう、みんなの憧れであるミラクルクルミの登場だ。


相手はどうやら磁気の使い手らしい。

どこからか砂鉄のようなものが宙を浮き、相手の選手を高速で渦巻いているのがわかる。


「城生さん、観客の皆さんはあなたが勝つことを望んでるみたいだけど、私だって負ける気はありませんよ」

磁気の選手は砂鉄を操り、その半分を生徒会長に向けて高速で打ち込んだ。

砂鉄は蚊柱のように宙を舞い、生徒会長を包み込む。


「…どうしたの?お得意の念動力で弾き飛ばさなくていいのですか?」


「…その必要はない」

生徒会長は、一言そう口にする。

「なめられたものね…!」

磁気の選手は生徒会長の頭目掛けて砂鉄を集中的に凝縮させていく。

砂鉄は生徒会長の頭部を飲み込み、彼女の呼吸を遮ろうとしていた。


「そんな!生徒会長が!」

「久留実先輩!」

観客席から生徒会長に対する不安な声が次々と上がり始めた。


「…え」

突如として、磁気の選手を襲った。

それは、彼女自身が支配下に置いているはずの砂鉄だった。

「ダメ、止まりなさい!」

すべての砂鉄は動きを止め、地へと崩れ落ちる。

生徒会長を取り巻いていた砂鉄、それに磁気の選手の砂鉄。


「あなた、そういえば念動力で相手の道具を自分のものにするのよね。でも、鉄に関しては私のほうが上のはず。今のは二分していたから隙きができてしまった。でも余興は終わり。今度は、全部、ぶつけてあげるわ!」

磁気の選手は、舞台上のすべての砂鉄を集め、大きな黒い球体を作り上げた。

黒い球体は次第に凝縮を始め、本来の鉄の色、光を反射する大きな鉄球へと姿を変えた。


「これで!潰れなさい!」

磁気の選手が鉄球へと命令する。

鉄球はゆっくりと動き出し、そして。


「…!」


試合続行ができない状態にあると判断したレフェリーが試合終了の笛を鳴らす。

「勝者、城生選手!」


「ううぉぁぁぁぁぁぁあぁ!!!!!!!!!!!」


ドーム中に歓声が響き渡る。

生徒会長は、鉄球を自分のものにして、油断していた磁気の選手を襲わせたのだ。


「ぐ…どうして…」

「その鉄球の半分はすでに私の支配下。それを乗っ取るなんて造作も無いことだけど」

どうやら、生徒会長が顔を襲われている時に相手の周りの砂鉄を掌握していた。

その後自分の支配下に取り戻したと思っていた砂鉄が、実は掌握されたままだとは思わなかったのだろう。そのまま半分の砂鉄は支配下にないとは知らずに半分しか支配権のない鉄球を作ってしまい、鉄球を動かそうとした時点で、すべての支配権を奪われてしまった。

「私は踊らされていたのか…」

磁気の選手は、鉄球に押しつぶされた腰を痛めたようで、担架に乗せられて、運ばれていった。

俺には、それが、印象に残った。


一人、舞台に残った生徒会長は、一礼をして舞台から降りた。


だが、こういう物理的な攻撃を仕掛けてくる相手に対してはどうにかなるんだろうが、精神的な攻撃だとかはどうなるんだろうか…?

その辺り、どう対処してきたか、過去の対戦を調べて見る必要がある。

…気づけば、調べようだなんて思うあたり、俺も生徒会長の虜になっていたのかもしれない。




異端道の見学の授業が終わり、生徒たちの興奮が冷めないうちに放課後を迎えた。

教室内は、異端道の話題で持ちきりだ。

あの選手がどうだとか、自分ならこう戦っただとか。


みんな、異端道が好きなようだったが。

俺は、負けた選手が担架に運ばれていく姿が、気の毒でならなかった。

なんで、あんなに苦しい思いまでして戦うのだろう。

そもそも、戦う意味って何なのだろう。


あんな危険な競技に果たして意味などあるのか。

砂鉄の選手がもし、鉄球ではなく鉄の槍なんかを作りでもしていたら。

腰を壊す程度ではすまないだろう。


そんなことに命をかけるだなんて、バカバカしいと思う。


生徒会長の凄さはわかる。

でも、どうしてあの人は舞台の上に立つことができるのだろうか。

彼女は怖くないのだろうか。


それなら、ここにいる人達も同じ。なぜ、異端道なんかをやりたいと思うのだろう。

…きっと、志が違うのだろうな。

みんな、異端道をやるためにここに来たのかもしれない。考えるだけ無駄か。


今日の試合を見て、生徒会長に少し興味は湧いたものの、冷静に考えてみれば、あんな危険な競技やってられない。俺の能力を、そんなものに使いたくない。

…とまぁ、考えていると。



「あ、五十嵐くん、ちょっとい~かな?」

白魔女先生に声をかけられた。

俺は先生がいる教卓のところまで歩き、先生に要件を伺う。

「なんですか?」

「このにもつ、ちょっと重くって。ちょっとはこぶのてつだってくれない?」

教卓の上には大量のプリントが置かれており、これは確かに小さな先生には無理な量だ。

…何故俺が呼ばれたのかはわからないが、指名されてしまった以上仕方ない。

「よっと…これ、どこまで運びましょう」

俺はずっしりと重いプリントを両手で抱え、行き先を聞く。

「あ、ちがうちがう。君のの~りょくではこんでほしいの」

「へ?俺の能力で?」

「そうそう、入学式の日に行った、あの部屋に、プリント投げ込んじゃっていいから」

「え、投げ込んでって…先生がそう言うなら…」

プリントを教卓に置き直し、両手をフリーにする。

そして、俺は手のひらに力を集中させ、穴を作り出した。


「おぉー!すげぇ!それが五十嵐の能力か!」

「空間に穴?!なにそれ、見せてくれ!」

教室に残っていたクラスメイト達が俺の作った穴に反応して野次馬を始めた。

皆、興味津々に俺の穴へと視線を向ける。

「それにしても、先が見えない穴だなんてな…どこかとつながってるのか?」

「…まぁね。穴の先が見えないのが欠点なんだけど」


俺は、両手にプリントを抱え、

「本当に投げ込みますよ?いいんですね?」

先生に最終確認を取る。

「い~よ~。やっちゃって」


バサッ。


穴の向こうで紙が空気に触れて音を上げた。

「はい、これでいいですか?」

「うん、じゃあちょっと五十嵐くんついてきてくれるかな」


俺は、白魔女先生に連れられて、入学初日にやってきた例の真っ白な部屋にやってきた。

「あれ、プリントは?」

俺は、顔が真っ青になった。

大事な先生のプリントをもしかすると紛失させてしまったのかもしれない。

穴の先を確認しなかった俺が悪い。

「あ、あの…先生」

「これでいいんだよ。よかったぁ、さすがにそれは無理だよね」

「…え、どういうことですか?」

白魔女先生は、むしろ安心した顔をしている。

俺はプリントを確かにここへと投げ込んだはずだ。

それで、実際にやってきたら、なかったわけだが。

「この学校のいくつかの施設にはね、マジック・キャンセラーが備わっているんだよ。セキュリティー面もそうだし、学校の機密だってあるわけだ。そうやすやすと侵入できないように結界を張ってるんだよ。今回はね、この部屋に予めマジック・キャンセラーを張っておいたんだよ」

マジック・キャンセラーとは、設置型の結界のようなものだ。

どんな魔術でも無効にするもので、この世界の秩序が守られているのはこの結界があってこそだとも言われている。銀行などに強盗の防止のために設置されているのだ。


「なんだ…でも、プリントはどうするんですか?…どこに行ったか、わからないですよ?」

「いいんだよ。あのプリント、ほぼ白紙だし、ただの紙の束だよ」

「…はぁ…本気で心配したんですからね?初めから言ってくださいよ」

やっと肩をなでおろすことが出来た。

「敵を騙すにはまず味方からって言うじゃ…」

「敵もクソもないじゃないですか!!」

「ごめんね~、ま、そういうわけだから、今日は帰っていいよ~」

「はぁ…」


ゴォン!!!!!

「!?」

突然地響きとともに、大きな音が室内に鳴り響いた。

「あー隣の部屋だね。生徒会長だよ。トレーニングしてるみたいだよ」

「生徒会長が?トレーニングですか?」

「そりゃまぁ、日本代表みたいなもんだしね。毎日トレーニングしてるよ…あ、そうだ、覗いていく?」

「え、いいんですか?」

「だいじょ~ぶ。私結構顔が広いから。隣で生徒会長を見ている先生にちょいと頼めば大丈夫なはず」

そう言って白魔女先生は、俺を残して隣の部屋に向かっていった。




「ダメだって」

隣の部屋に交渉に行った白魔女先生が戻ってきた。

「何が顔が広いですか、ダメじゃないですか」

「う~ん、中ではね、生徒会長と、後もう一人生徒がいて、それを担当の先生が監督していたんだけどね。異端道の模擬戦の最中だったし、新入生ごときが来ていい部屋ではないと言われちゃった」

「そりゃそうですね…僕はまだ、異端道をやるって決めてもないですから」

「あれ、やらないんだ。五十嵐くんなら絶対強いと思うんだけどなー」

「強いのは能力だけですよ。僕なんか、てんでダメです」

「そっかー、それは残念…じゃ、帰ろっか」


…白魔女先生と俺が部屋を出ようとしたその時。

部屋にサングラスをかけたスーツの女性が入ってきた。

黒髪の、きっちりしたキャリアウーマンのような女性だ。彼女のかけているサングラスの奥からは厳しそうな雰囲気が感じ取れる目をしていた。

「見学の件だが、城生が君に興味があるようなんだ。見に来てくれてもかまわない。白間先生、先程は失礼しました」

「いえいえ、黒川先生も忙しそうで、ご苦労さま~。五十嵐くん良かったね。見に行っていいってさ」

どうやらこの女性の先生、黒川先生と言うそうだ。名前負けしていない真っ黒な服装だな。

そういえば生徒会長について調べているときに、黒川先生の名前をどこかで見かけた気がする。確か、マネージャー…だっけ?

「僕まだ異端道をやるだなんて決めてないんですけど…いいんですか?」

「そんなことは関係ないさ。城生に、白魔女先生のお墨付きの生徒が隣の部屋にいて、見学したがっていたと言ったら、珍しく興味を示してな。是非見に来てやってくれ」

「お墨付きだなんてそんな」

「まーね、この子の能力、とっても面白いんだよ。」

「…それは。…私も五十嵐くんの能力を見てみたくなりますね」

お世辞にしても、持ち上げ過ぎじゃないかな。

「では、どうぞ、こちらへ」


黒川先生の案内で、俺は隣の部屋に通された。


中では休憩中の女子生徒が二人。

首にタオルを巻き、ベンチに腰掛けながらスポーツドリンクを飲んでいた。

二人の女子生徒は制服に、身を包み、どうやらトレーニングが終わった後のようだった。



そのうちの一人が、生徒会長。城生久留実だ。


「斉藤。お疲れ。また明日も頼むぞ」

「…はい、では、私は失礼します」

女子生徒の生徒会長じゃない方は、ベンチから立ち上がり、こちらに向かって軽く頭を下げると、俺達の横を通って、部屋の外に出ていった。

あの女子生徒。昼間の異端道の授業で、閃光を操っていた先輩だ。


「城生、こいつが例の一年だ。五十嵐くんと言うそうだ」

「…よろしく」

これで会って話すのは二回目だ。唐揚げ定食の一件があって以降、会っていない。

しかし、生徒会長は、入学式の壇上にいたときとは少しイメージが違う。

話すときに、あまりハキハキとした雰囲気がない。これが本来の彼女なのだろうか。

「よろしくおねがいします」

一度会ったことはあるが、正式に合うのはこれが初めてみたいなものだし。

「この五十嵐くんはねー、空間に穴を開ける能力があってねー、そこから、自由自在に移動したり、モノを運んだり出来るんだ」

「…知ってます。…唐揚げ、食堂で一度会って話をしたことがある」

いやいやいやいや!そんな深い話をした覚えはないんですけど!唐揚げがうまいだとかなんとか、そんなしょーもないことしか、話していないはずだけど、それも一言!

そもそも話をしたということすら怪しいと思うんですが!

「城生さんも大変だねー。みんな弟子にしてほしいってせがみに行くんだから~」

「いえ…別に…」


「それで、五十嵐くん。頼むが城生の相手をしてくれないか?」

黒川先生が突然、俺の方を見て、生徒会長の相手をするように…って!

「え!出来るわけないじゃないですか!昼間のあの戦いを見て、命がいくつあっても足りないと思いましたし!」

「城生、お前からも言うといい」

「…五十嵐の、見てみたい」

「ぐ…」

「五十嵐くんせっかくだし、手合わせしてもらったら~?いい経験になると思うんだよ」

白魔女先生まで…。

「…わかりました…でも、戦えるかどうか、不安なんです」

…戦える様な能力じゃないし、自分でもまだ完璧にコントロールできるわけじゃない。

「まだスーツは持ってないだろうから、このままでいいな?この制服もそこそこ頑丈には作られているし。城生も、危険になるまでは攻撃を開始しないように」

「はい」



「五十嵐くん、君の能力の凄さを、生徒会長に見せよう!」

「…僕の能力、危険ですからね…どうなっても、知らないですよ」

これは…ハッタリだけど、ハッタリじゃない。

自分の能力をうまく扱えていない人間のセリフである。



俺と生徒会長は、この部屋の異端道の舞台上に立ち、戦闘へと臨む。

「では、城生と五十嵐くんの模擬試合を始める…!…はじめ!!!」

黒川先生の宣言によって、戦いが始まった…!


「はぁっ…!!」

俺は手の平を前に突き出し、そこに魔力を集中させ、空間に穴を開けた。

黒いゲートが俺と生徒会長の間に現れた。


…。


「…は?」

黒川先生は、よくわからないような声を出した。



そしてしばらく沈黙が続いた。

「え、これだけ?」

「え…そうですけど…」

「…」

生徒会長は、呆れからか、声も出ていないようだ。


「確かに移動には便利かもしれないけど…」

「魔力消費が激しくて…近くにしか出せませんし、まだ少ししか出せないんですよ」

「…んー、このままじゃ仕方ないからね。私の魔力を少し分けてあげるからこれで戦ってみて」

白魔女先生がなにやら呪文のようなものを唱えると、俺の周りに、白い湯気のようなオーラが漂い始める。

それに、なんだか、力が溢れてきた。

これなら、今までできなかったことも出来るような気がする…。

「これは…?」

「私の魔力を一時的に使えるようにしたから。これなら、ある程度戦えると思うよ」

「はい…では改めて!」

この時、俺は自信に満ち溢れていた。今なら、戦える。と。


俺は、両手に力を込め…いや、込めずとも感覚で生徒会長の足元に穴を開けた。

生徒会長は、ストンと穴の中に落ちていった。


「…!?」

この場にいた人はみんな、こぞって生徒会長の姿を探した。

「…城生!」

黒川先生がどうやら見つけたみたいだ。

生徒会長は、いつの間にか、舞台の外。つまり場外へと落ちていた。

キョトンとした目で、床に座り込んでいる生徒会長。すごく、驚いているようだった。

「え、じょ、場外。五十嵐の勝ち…!」

黒川先生は俺の勝ちを宣言した。


俺の周りにあった湯気は消え、元の俺の魔力に戻った。

意外とあっさりいったことに、俺自身も驚いた。

非公式戦とはいえ、日本一とも言われる生徒会長を場外にしたのだから。


「…びっくりした。いきなり足元がなくなるとは思わなかった」

生徒会長は、舞台に登ってきて、こちらに握手を求めてきた。

僕もその手を握り返した。

「いえ…これは僕の実力じゃないので…でも、生徒会長を落とせたのは、少し嬉しかったです」

そう言うと、生徒会長は、僕の耳にそっと顔を寄せ…

「気に入った。その能力。…是非、私を弟子にしてほしい」

「えっ!」

衝撃の生徒会長の発言に、俺は驚きを隠せなかった。

弟子にしてほしいってどういう事…?俺を弟子にしてくれるということの聞き間違えか…?

いや、それでも信じられないけど…。俺は自分の記憶と耳を疑わざるを得なかった。

「弟子って、どういう…1年の僕に、2年の生徒会長が弟子になるってことですか…?」

「今のは冗談」

…焦ったぁ…。本当だったら、俺他の同級生に背後から刺されていたかもしれない。

特に唐沢なんかには要注意だったな。


「ちょっと来て」

生徒会長は、俺の手を掴み、部屋の外に連れてこられた。

白魔女先生と、黒川先生は、立ち話をしていたのだが、

「あれ、五十嵐くんと生徒会長ちゃん、どこ行くの?」

「恐らく、さっきのことについて、彼女なりに何か言いたいことがあるのでしょう」

「ここでいえばいいのに~」

「きっとここじゃ言いにくいんですよ」

「そんなもんかな~」



「あの、どうして外に出たんですか?」

…部屋の外の廊下に出てきた。ここは地下2階、その上放課後ということもあって、人通りが少ない。人の気配すら、俺と生徒会長以外には存在しない、そんな二人だけの空間。

そこを二人で歩きながら、話が始まる。

「…少し話がしたかった。…あと、私の部屋、501号室」

「え…?なんでそんなことを俺に教えるんですか?」

その言葉に対して淡い期待を、俺は抱いていた。

目の前にいる、学園のスターとも言える人物が、俺に対して、特別な感情を抱いていると。

「…そこの階段を登ろう」

俺の質問には答えてくれず、生徒会長の言う通りに、地下1階への階段を登る。


「…あ。足がー」

階段を5段ほど登ったくらいだろうか。

目の前を歩いていた生徒会長が、突然俺の前でバランスを崩したのだ。

「え」

俺の目の前に、小さな生徒会長の背中が降ってくる。

次第にそれは近づいてきて、俺は彼女を受け止めようとするが、間に合うはずもなく…。


俺も巻き込まれるように、階段から落ちてしまった。

背中から落ち、俺は仰向けになり、俺の上に、上から落ちてきた生徒会長が乗っているような状況になってしまった。

彼女の身体はそこまで重くない。でも、こんなに近くに女の子を感じたことがなかった俺は、この状況に少しドキドキしていた。



「…ぐ…いってぇ……生徒会長…だいじょ…」

とりあえず、俺がクッションになったから、生徒会長は無事であることを願いたい。

俺が目を開けると、目の前に、目を瞑った生徒会長の顔が。…

「…んじ」

生徒会長の唇がそう言うかのように動いたように見えた。

生徒会長の舌が艶かしく自らの唇を一回り撫で回した次の瞬間には…


…!?

「…んっ!?」

俺の唇に、別の唇が触れた感覚がしたのだ。

いや、これは間違いなく、生徒会長の唇だ。

生徒会長は、意識を無くし、俺の方へと倒れ込んできた。

「…!!?????」

俺はパニックになり、不可抗力でこ、こんな風にキスをしてしまったのだとしたら、早く唇をどかさなければ。

こんな可愛い子とキスできるのは、すごく幸せなことだ。でも、不可抗力で、こんな風に唇を奪ってしまうのは、ダメだと思う。

「…!」

身体が、思うように動かない。さっきの戦いで魔力を使い切ったから…?それとも今の階段から落ちたショックで…。

俺は、目の前で目を瞑り、唇を重ねている生徒会長を見ていると、なんだか、そこに吸い込まれるかのような感覚に陥る。

彼女の微かな鼻息が、俺の顔を撫でる感覚がする。その感覚を最後に、俺は…。







「…良かった、目を覚ましたみたい」

ここは…?

知らない天井だ。

「ここは…?…!」

意識がおぼろげな上に、少しめまいを伴う頭痛がする。

頭が痛い。なんだ、この、頭に響くような高い声。

もしかして、頭を強く打っていたとか…?

「ここは保健室だけど。あなた、最近無理しすぎじゃない?これで14回目よ」

俺は、どうやら保健室のベッドに寝かされているようだった。

…14回…?俺、保健室来たことなんてないし、そもそも14回も学校に来ていない。

目の前にいる白衣の女の先生にも会ったことがないし。

「…っ、生徒会長は…!?俺と一緒に落ちた生徒会長は…っ!!?」

声が…!違う!これは俺の声じゃない!

喉の異変を訴えようと、手を動かす。自然と、自分の手が視界に映る。

まるで、俺の手じゃないような、スラッとした指。透き通るような白い肌。

これは…セーター…?何故俺がセーターを着ているんだ。

身体のあちこちが異常だらけなことに、俺は気がつく。

足から腰にかけては先程まで感じたことがなかった締め付ける感覚がする。

「…頭を打ったせいで、混乱しているようね…あなたはトレーニングの後、階段から落ちて…黒川先生にここに運び込まれたのよ」

保健室の先生は、俺の方を、不思議そうに眺めていた。

「…あ、ああああ、あー…」

自分の声じゃない。

耳から入ってくるのは、女性の声。

それは、まるで俺が女の子の口を通じて喋っているかのような、そんな感覚だ。

「俺!俺は…!あぁ…!」

「…どうしたの…?俺だなんて…あなた一度も言ったことなかったじゃない」

「先生、今の俺は…!どうなってますか…?」

「今のあなた…?もう回復したから大丈夫だと思うけど」

「回復どころじゃないです!!身体のどこもかしこがおかしいです!!」

俺は、ベッドから起き上がり…

「えっ…!髪…!?」

俺の、肩に髪がかかっている。…もしかして、もしかしなくても…。

「俺…もしかして…生徒会長ですか!?」

我ながら、意味のわからない質問をしたと思う。だけど、これが正しいのだ。

「えぇ…あなた、城生さんよね…?」

「…!トイレ、トイレはどこですか!」

「保健室出てすぐ右だけど」

「…!」

俺は、ベッドから降りて立ち上がり、保健室を出る。

…!俺は、ズボンなど身につけていなかった。

明らかに、女子のスカートを穿かされていたのだ。

走って、保健室の隣のトイレへと駆け込む。

「…キャラ変わったのかしら…?」




「はァ!?えっえええ!?」

俺の口から…いや、鏡に映る、女の子の口からというのが正しいだろう。

甲高い声がトイレ中に響き渡る。

思わず口を紡ぎ、声量を抑える。

「う…嘘だろ…!なっ…なんで生徒会長が…!」

鏡に写っていたのは、俺ではなく、生徒会長の姿だった。

「…俺が、生徒会長になってる…?」

しなやかな黒髪、それに、整った顔立ちにつり目。それが、今の自分に付いている。

先程まで一緒にいたはずの、生徒会長に、俺は…なってしまったようだ。



「…」

俺が右手を上げると、鏡の中の生徒会長も右手を上げる。

いや、鏡なんだから左…?いやいや、そんなこと今どうでもいいから!

顔のパーツに触れてみるが、これらは本当に俺に付いているし、肌の感覚も感じることが出来る。


「ま…まさか…」

俺は、周りを見回し、他に誰もいないことを確認し、トイレの個室に入り込み、扉にロックを掛けた。


「…!な…なはは…やっぱこっちもない……はぁ…」

俺は、スカートの布越しに、股間部に手を触れてみる。

思った通りに、俺の手は股間部を、何にも引っかからずにスルッと撫でることが出来た。

前からも、後ろからも、触れても、そこにあるべきものがなかった。

男性にあるはずのものが、存在しない。

「…俺、生徒会長に…女になって…!」

俺から血の気が引いていく。

「やばい…やばいって…」

何が起きて、こうなったのか。

…一緒に階段から落ちたからか…?

そうだ、あの時俺と生徒会長は二人で落ちて…

「…!」

俺は、自分の唇に手を当て、あの出来事を思い出してしまい、意識してしまった。

俺と、生徒会長の唇は重なり…つまりキスをした。

あの時の記憶が甦り、意識しだした俺の身体は熱を帯びてしまった。

俺の胸の鼓動が、早くなる。…俺の胸じゃねぇ!


…胸。

決して発育は良くないが、視線を下に落とせば、男の時にはなかった双丘を見ることが出来た。


ドクンドクン。

俺の、いや、生徒会長の心臓が、鼓動を通して俺に、触れ、触れと命じてくる。


…ダメだ…勝手に胸なんか触っちゃ…!でも、身体が熱くて…なんだか、きゅんと胸が締め付けられるような…。


「…ちょっと、触るくらいなら」

俺は、セーター越しに、胸に、触ってみる。

恐る恐る、つんっと指で一度つついてみた。…胸を一瞬だけ押された感覚がした。ただそれだけだった。

そう、それだけじゃ、この火照りは収まらなかった。


「…ぐっ!」

俺は、両手で、胸を抑え込むように、掴みにかかった。

胸全体に、圧迫感を感じる。

そのまま、指を中央に寄せるかのように、胸を揉んで…

「…っ!だめだ…あまり、やりすぎると…っ!?」

これ以上、奥に踏み込んでしまっては、色々と、まずい。止まらなくなってしま…

「城生さん、いるー?」

遠くから、そんな声がする。きっと、トイレの外の、さらに壁を挟んだ部屋から。

…まずい、今、俺は男子トイレの個室。俺がここにいることがしれたら生徒会長に…。

でも、女子トイレに入るというようなことは…俺には出来なかったんだ致し方ない。


コンコン。

かすかに、ドアをノックする音が聞こえる。

隣の女子トイレで、一つずつ個室にノックして確かめているようだった。

やばい。…とにかく早く男子トイレから出たほうがいい。

俺は、少し乱れた服を引き伸ばし、胸を揉んだ時の痕跡を消した。


そして、男子トイレの個室を出て、身体が火照ったまま廊下へと飛び出す。


「あれ…いないのかな…もう帰っちゃった?…学校が閉まることを言おうと思ったんだけど、帰っちゃったのなら仕方ないか…」


腕につけられたリストバンドの時間を見る。デジタル時計は18時45分を表示しており、後15分で学校が閉まってしまう。

…それにしても、このリストバンド、傷跡が多い。


…先生が女子トイレから出てくる前に、ここはずらかるぞ…!

火照って、顔を赤くした生徒会長の姿なんか、人に見せてはいけない気がした。




…そういえば、生徒会長は俺に部屋の場所を教えてくれていた。確か、501号室。

これが、不幸中の幸いだった。学校が閉まった後、行く所もなく、この姿のまま徘徊することになっていただろう。

…いやいやいや、でも勝手に部屋に入るのは…。


「はぁ…はぁ…早く、とにかく、この火照った身体をどうにかしなきゃ…」

他人の身体で、勝手に欲情して、恥ずかしい状態に陥っているところを誰かに見せるわけにも行かない…。


生徒会長…ごめんなさい…!


俺は、レンガ舗装の通学路を走って夢の女子寮の、中へと侵入する。

…いや、これは罪深い。

いくら、身体が女子だとはいえ、男子禁制の女子寮に足を踏み入れるのは…。


女子寮のロビーを抜け、エレベーターで5階へと移動する。

…はぁ。

エレベーターの中で、一人、やっと落ち着ける時間があったと思えば、それもつかの間…


「久留実先輩!」

「倒れたと聞いて…!心配していました!」

「大丈夫ですか?お顔がお赤いですが…」

…く、そうだった。生徒会長は、人気なんだった。

こうして、弟子になろうと詰め寄ってくる人が絶えない。何度も見てきたことじゃないか。

しかし、部屋の前にまで追っかけがいるとは…流石に思わなかった。


生徒会長の部屋の前には十数人の女子生徒が溜まっていた。おかげで部屋に入れない。

それに、いつもなら少し上から見えていたはずの女子生徒を、今では少し見上げるような視点だ。いつもと違って、自分より大きい人達に、少し恐怖を覚えた。

「大丈夫ですから、ちょっとそこ通して…はぁ」

「きゃー!!久留実先輩がお話してくれた!」

…え、俺まさか余計なこと喋った?


「はぁはぁ…ちょっと、どいてくれないかな」

俺は生徒会長の口で、火照った息を吐きながら、女子生徒数人に囲まれながら、彼女たちにそこをどくように言ったのだが…。

「久留実先輩!本当に大丈夫ですか」

「顔が真っ赤じゃありませんか…どうされたんですか?!」

…とまぁ、他の女子の声に打ち負けて、全然聞いてもらえていない。

こうなれば、強硬手段だ。無理矢理にでも、部屋の中に入ってしまおう。


俺は、彼女たちを無理やり、かき分けて、部屋の扉の前にたどり着いた。

リストバンドを扉にかざし、扉のロックが解除される。

俺はそのままドアノブを回し、部屋の中へ避難する。

「あ、生徒会長!待ってください!私達にできることがあれば何でもするので…!」


ガチャ。

扉を閉め、自動ロック式の扉がロックされる音がする。


「…はぁ…はぁ」

俺は、扉にもたれかかり、肩をなでおろす。


「はぁ…はぁ…」

なんで、止まらない。

あれから5分以上たってるはずなのに。

男なら、既に、冷めて、るはずなのに。


俺の手は、自然と胸へと伸びていた。

「んっ…」

制服越しに、胸を揉む。

「…いいよね、部屋の中だもの」

俺は、セーターを脱ぎ、汗が染み込んだワンピースの制服姿になり、そこからさらに、その制服を脱ぐ。

脱ぐときに感じたのは、男の、ツンと来る、汗の匂いとは別の、いい匂い。


キャミソール姿になり、肌の露出が高くなる。

生徒会長のベッドに横になると、…ほのかに、生徒会長の香りが感じられる。

「んっ…!」

俺は、生徒会長の胸を、乱暴に、揉みしだく。

揉む、感触と、揉まれる感触。

その両方が、俺の心を刺激させ、更にヒートアップさせていく。




タイツが、邪魔で仕方ない。

締め付けられる感覚は、今この場には必要がない。

俺はタイツをスッと脱ぎ捨て…股間部へと手を伸ばした。

「うへ…濡れて…る」

女物のパンツ。ショーツというのだろうか。

ショーツの股間部が、湿っている。

実は、トイレにいたときから、少し、気持ち悪いとは思っていたが、本当に、濡らしてしまっていた。

「…はぁ…」

濡れている部分を、指でなぞってみる。

股間部分に、布越しに触られている感覚が伝わる。

とても、妙な感覚だった。こんな部分、触ったこともなければ、触られたこともない。

「ん…生で…触ったら…どうなるんだろう…」

俺は、息を荒くしながら、キャミソールから脱いでいく。

人の体だなんてことはもう忘れて、女の性欲に呑まれて。

「…ブラ、確かフックが…後ろに…」

俺は手探りで、背中にあるブラのフックを探し、それを掴んで、前後左右に動かし外すことを試みる。

「この…!早く剥がれて…!…やっととれた…!」

もどかしいもどかしいもどかしい。

ブラを外すことに成功し、肌と同じ、白いおっぱいが姿を表した。

その乳首は、既に、ビンビンに立っていて…

「んあっんっ!!!!」

つい、力を込めて、つまんでしまい、メスの声が部屋に響いた。

…本当に、俺から出た声なのか、疑わしいほど、艶めかしい、エロい声。

AVにあるような、あんな声。あれは演技では、なかったのか。身にしみて、わかった。

「なにこへ…めちゃくちゃ…くるじゃん…んふっ」

自制心など、とうに忘れ、俺は、乳頭をいじることに、没頭した。

気持ちいい。気持ちいい。気持ちいい。

胸は、強く、乱暴に、揉みしだくほうが、気持ちがいい。

自分で攻めているのに、自分で責められているというおかしな状況に陥っている。

心臓が、もっとやれ、もっとやれ、と俺をエスカレートさせていく。


「あはっ…やば…はぁ…はぁっ」

胸を揉むスピードが上がってきている。それに連れて、女の快感への興味が、一層深まっていく。女の快感には、限度はないのだろうか。

いつのまにか、俺の口からは、よだれがツゥーと糸を引くように垂れてきて、自分の胸の上を濡らしていた。

「ん…そろそろ、下に…」


はやく、全部、脱ぎたい。

いいよね、生徒会長は俺なんだから。


俺は、ショーツを脱ごうと、手を腰に当て、そのまま足の方へと引き下ろしていく。

「うはぁ、糸…ひいてる…えろ…」

自分の股間から漏れ出す愛液が、ショーツにシミを作っていた。

ショーツを脱いだ時、股間に空気が触れ、濡れていた俺の女性器に空気の冷たさが伝わる。

「…生徒会長…ごめんなさいっ…」

俺は、生徒会長の女性器に、指を添えてみる。

「…!少し触れた、だけなのに、ビクン…ってした…」

手探りで、触れてみた、そこは、クリトリス。小さな、女性のちんちんだ。


「んはぁんっ!!!!!!!!んにゃぁ!???!!!!」

今までで一番大きな生徒会長の声が、部屋中に響き渡った。

なんなんだ、いまの、ちょっと、指を奥に入れたら、すごく…気持ちいい。

「んっ…あはっんっ…!指を、増やして…二本…んっ、まだ、いける…!」

俺は、次第に突っ込む指の数を増やし、3本の指で、俺の、生徒会長の女性器を攻める。

「あんっ…おま◯こ…!!やばひぃ…!」

体の奥から、なにか、ぞわぞわってくるものが…!こみ上げて…

俺は、絶頂を迎えようとしていた。

「~~~~~~~!!!!!」

声にならない叫び声が胸の中…震えてるんだ。


「これが…イク…?はぁ…はぁんっ」

わかってる…だから…イクんだよ…。


頭が真っ白になって、アホになりそう、そんな気分。

それに、絶頂を迎えたのに、冷静な気分にはならない、無意識に、俺は、まだ膣の中で指を抜き差ししていた。


「はぁ…んっ!やば…ゆびが。とまらにゃい…」

…んあんっ…!やばい…女の子って…こんなに感じるんだ…!

「はぁ…はぁ…」

なんだか、興奮は収まらないけど、つかれてきた。

快感に入り混じって、睡魔もやってくる。

服きるのだるい。そのまま、ねちゃおう…。


「…っ………すー…すー…」

生徒会長の身体に溜まっていた疲れも有り、快感の後、そのまま全裸で眠りへと落ちた。










ピピピピ。

ピッ。

「…んっ、まだこんな時間じゃん、まだ寝よう…」

6時半。



「すー、すー」

7時半。



「ずぴー」

9時。


「…ん、んん…さむ…あれ、裸…あ…あぁ…あぁぁぁぁぁ!!!」

自室のデジタル時計は、11時と表示している。

…自室じゃない!生徒会長の部屋だ!

「…夢じゃ、ないのか…」

俺は、ついつい生徒会長の、ピンク色の乳頭に、再び手を伸ば…

「いかんいかん…ってそれよりも…!」

ギリギリの所で、踏みとどまった。

時間を見て、俺は、やばいと感じた。

「…遅刻確定…。それにこれは、生徒会長の身体…どうしよう…これから…」

…昨日は、勢いでこの部屋に来て、そのまま眠ってしまったが、これからのことを考える必要がある。

「…そうだ、俺。きっと…俺の中には、生徒会長がいるかも知れない」

とにかく、本物の生徒会長に会わなきゃいけない。

これから、どうしたらいいか、聞かなければならないし、元に戻るために色々しないといけないだろう。


「…とりあえず、服を着なきゃならない。生徒会長…クローゼットの服…使います」

クローゼットを開けると、ハンガーに制服が何着かかかっており、その下には引き出しのついた棚があった。

棚の中から、それらしい下着を見つけ、それを着ることにした。

なんとなく、一番上にあった、水色のブラとショーツのセットを選んだが、これでいいのだろうか。


…昨日、脱ぐのにも手こずったブラ。鏡を見れば、もしかすると、うまく着けられるのかもしれない。

俺は、全裸のまま、下着を持って風呂付きの洗面所へやってきた。

「…こうしてみると…ほんとに、俺が生徒会長になったって、実感できるな」

鏡に映る、生徒会長の姿。それは、何も着ていない、生まれたままの姿。

桃色の乳首、少し膨らんだ胸。…これ以上下は、洗面器などがあって鏡には映されていない。

…そういえば、クローゼットに姿見があったような…。


ふと、お風呂の方を見る。

男子寮と、全く構造は同じだが、風呂場に置かれているシャンプーなどの用品の数が、圧倒的に違う。やはり、女子にはお手入れが必要なのだろうか。


「シャワーだけでも、浴びたほうが、いいか」

どうせ遅刻だ。いくら遅刻しても、遅刻は遅刻である。

とりあえず、昨晩かいた汗を流そう。


「ひゃ…つめた!」

そうだった。最初は冷たい水が出るんだった。

…ついつい、女の子らしい声が出てしまい、とっさに口を抑える。

「……」

風呂場の横の洗面所の鏡に写るのは、水浴びをする女子高生。

いや、水浴びしているのは俺なんだけども、その俺が、女子高生なのだ。


「裸……生徒会長の裸…見てしまったのか俺は」

でも、見たのは生徒会長の目だし、匂いを嗅いだのも生徒会長の鼻だ。

感じたのだって生徒会長のおっぱいなわけで、俺が見たり感じたというわけではないのでは?

という、自分を擁護する説を俺は提唱したい。

…でも感覚として受け取るのは俺の心なんだが。



シャワーで汗を流し、タオルで体を拭く。

「おっと…ステイ、ステイ…」

おっぱいを拭く時に、必然的におっぱいに触れてしまう。

ここは自制心を働かせて、何も考えないように、目をつむって拭いていく。


「…ふぅ」

下も、おっぱいも、無事、拭き終えることが出来た。

髪の毛はまだ少し濡れているが、ほっとけば乾くだろう。



俺はクローゼットから姿見を引き出し、部屋の壁に立てかけるように置いた。


「…これが、生徒会長の、裸…」

発育は良くはない胸、小柄な身体でいつも、何かに向かって突き進むような、姿勢を表す鋭い目。

いや、かわいいんだけど…俺が中入っていると、なんだか間が抜けたような表情になってしまっている。

完璧な、生徒会長が本来見せないような、間の抜けた顔。


「…下は、やっぱりないんだな…毛が少し生えかけなのか」

口には出してみたものの、この話題はやめよう!

今はこんな話をしている場合ではない!


俺は、女子の制服に袖を通す。

…なんだか、恥ずかしい。

良くこんなもの着て、女子は外を歩けるな…それは俺が男だから言えることか。

女子にとってはスカートの制服だなんて、普通だもんな。


ほのかに、生徒会長の香りがする。

…廊下ですれ違って匂いをかぎたいって唐沢は言っていたが、俺は直接、袖を通して匂いを嗅げているぞ…!


「とりあえず、昼休みのタイミングで学校に行こう…。生徒会長のクラスわからないし、まずは食堂で、俺を探す」

俺は、女子寮のエレベーターでそのまま地下に降り、食堂へとやってきた。

食堂は、昼休みの少し前のタイミングで、人は少なく、ガランとしていた。


先に昼飯を食べるのもありだな。

…お金…あ。

そういえば、普段生徒会長が使っている荷物は持ってきている。その中に財布があれば…。

「あった」

だけど、人の財布から、勝手にお金を使っていいのだろうか。

俺の良心が問いただす。

いや、でも、お腹に入るのは彼女の身体にだ。

俺が彼女のお金で、彼女のお腹に食べ物を入れるだけのこと。


…何か言われたら、弁償すればいい。


「唐揚げ定食一つ」

「あら?授業はどうしたの?…あら、城生さんじゃない。珍しいね、こんな時間に」

食堂のおばちゃんに絡まれてしまった。…えっと、どう話せばいいのだろうか。

「えっと、その…実は寝坊しちゃって」

「あらあらあらあら、珍しい!そうよね、最近疲れてるもんね…ってあら、こんなに喋ってくれるのも、珍しいわね」

「え、あっ…」

…生徒会長は、普段あまり喋らないのだろうか。昨日の保険医の人も、部屋の前で待ち構えていた女子たちも、俺がしゃべるたびに、不思議そうな顔をしていた。

俺は、できるだけ周りにばれないようにするべきだ。

元に戻った時、生徒会長に迷惑をかける訳にはいかない。

「はい、唐揚げ定食」




2日ぶりの唐揚げ定食に、懐かしさすら覚えた。

あのときは、俺の口で食べていたわけだが、今は生徒会長の身体。

味覚とかも、違うのだろうか、と気になってはいる。


人のいない食堂で、一人、唐揚げをつまむ。


「んん~やっぱりおいしい」

唐揚げにかかったタルタルソースが、唐揚げに絡まり、最高のテイストを生み出している。

そして、次にご飯を口にする。

ご飯の甘味と、からあげから溢れ出す、ジューシーな肉汁がお互いを尊重するかのように、舌の上に広がる。

「ん~まぁ」


…ごちそうさまでした。

ペロッと唐揚げ定食を平らげてしまった。なんだか、物足りないな。もう一つくらい行けそうだが、女の子のお腹に、余り詰め込みすぎるのも良くないと思い、自重した。


…ここで待っていれば、俺の姿をした生徒会長は来るだろうか。

そうだ、スマホ…。


生徒会長のスマホにはロックが掛かっていて使うことが出来ない。

指紋や顔認証ならまだしも、パスコード制だったのでどうしようもないわけだ。

このままここで待っていると、生徒会長に弟子にしてくれとたかる連中までやってきてしまう。

…あまり、そいつらと関わり合いになりたくはない、どこかいい場所は…。

「…直接教室前に行けばいいのか…いや、それだと逆に、一年に取り囲まれる可能性が高い…どうしたものか…」

放課後まで、待ったほうがいいのか…?でも、やっぱり早く連絡をとっておきたいし…。


キンコーンカンコーン。


授業終わりのベルが鳴る。昼休みの始まりだ。

「あ、もうこんな時間か…」

食堂には、流れ込むように、人が入ってくる。

俺は、植え込みの裏に隠れて、人が食堂にある程度充満してから、目立たないように行動しようと考えた。


ある程度人が充満し、そろそろいいだろうと思って植え込みの影から外に出て、俺の姿を探す。

あたりをキョロキョロと見回すが、なかなか見つからない。


「久留実先輩!」

げ!先に俺が、弟子厨に見つかってしまった。

連鎖するように、どんどんと俺の周りには人だかりができていく。

「あわわ…」

どうしよう、こんなに人に囲まれたのは初めてだ。

「弟子は取らないって言ってましたけど…そこをなんとか…私、、先輩の足手まといになるようなことはしません!」

「お願いします…!先輩は僕の憧れなんです…!先輩みたいに強くなってそれで…」

…かわいそうだが、この人達の頼みは聞いてあげられない。

俺にその決定権はない。本物の生徒会長ではないからだ。

そんなこともつゆしらず、弟子厨は俺を取り囲み、必死に嘆願する。


「…」

俺は、必死でだんまりを決める。

余り下手に喋っては、生徒会長のイメージを壊しかねない。


「先輩!唐揚げ定食です!よかったらどうぞ」

う、すごく食いたい。

理想的な提案だが、その提案に乗ってしまえば、生徒会長のキャラが…。


「生徒会長、髪の毛がまだ少し湿ってますけど…」

あ、えぇ!…そんなところまで気配りができていなかった。

やっぱり、ドライヤーで乾かさなきゃ、ダメなのか。

「私、風を操れるんですよ。よかったら乾かしましょうか?」

…うぅぅ…その善意を無視することになって、すごく申し訳がない。

だけど俺は、相手にするのも、喋るわけにもいかないのだ。


誰か助けてー…。


「…生徒会長、昨日は大丈夫でしたか?!」

「生徒会長!」

「生徒会長!」

「久留実先輩!」


「…」

どうしよう、この人混みの中から出て、一刻も早く、本物の生徒会長に合わなきゃならないのに…。何か、打開策は…。ここで、トイレに行きたいと言うとか?ダメだダメだ…お花を摘みにって言わないと……そういう問題じゃないね。


どうしよう、本当に、どうしたらいい…。

「…弟子は、もう決まってる」

…!?人混みの中から、男の声がした。その声は、とても、懐かしい、そして言葉にこもる、意志の強さを兼ね揃えていた。

その声に、俺の周りにいた人たちは、一斉にみんな振り向き、次々と声の主へと反応をしていく。

「誰、君」

「生徒会長の弟子?まだ決まってないんじゃないの?

「は?生徒会長は弟子を取らないって言ってたでしょうが」

…さっきまで弟子になろうとしていたアンタが言うかそれ。


「俺は生徒会長の弟子だ」

……ん、待て待て待て待て。

ちょっと待ってくれ。予想はしていたが、まさか…。

「俺ェ…!ぐむむ!!!!!」

目の前にいた人物に対して、俺は叫び声をあげてしまった。そして、その口を、紡ぐ俺。

あ、今の後半の俺は、もう一人の俺で……あー、ややこしい!

きっと、俺の姿をした、生徒会長、だと思う。


「生徒会長になんてことを!」

「久留実先輩から手を離しなさい!!」

やば…俺のせいで、さらに状況が悪化してしまった。


「うるさい。俺が城生久留実の弟子だ。異論は許さん」

目の前の俺が、人々に対して、高らかにそう宣言する。

普段、俺が見せないような、表情で。


「生徒会長を呼び捨てとは…!」


「…えっと…その…」

俺は、フォローに入ろうと思うが、どうしたらいいかわからない。

おどおどしていると、目の前の俺はが、手を握ってきて…。


「いくよ」

「…!?え、ちょ、わぁぁぁぁぁぁぁーっ!!!!!」

……ふと一瞬床が抜け落ちる感覚がした。


「…え、ここは」

「…女子トイレだよ」

「え…、なんで、何が…?」

聞き慣れたはずの俺の声で、ここは女子トイレだと言う俺。

他人から聞くと、こんな声なんだ…と新しい発見があったり…いや、そうじゃなくて!

俺、なんでこんな所にいるの!?

先程までの風景とは違う……ここは便所の個室だ。

便所の個室で、俺は俺と、二人きり。というなんとも変な状況が…。

「あなたの能力」

「…あ、ああああ、やっぱり。俺の中には生徒会長が…」

「うん」

「…」

…やっぱり。俺は生徒会長に。生徒会長は、俺になってしまったようだった。

「ごめん。昨日、私が階段から落ちたせいで」

「やっぱり、一緒に階段から落ちたのが…」

「たぶん、そう」

…あの時、生徒会長と不可抗力とはいえ、キスをしていただなんて、流石に言えないし…。


「……あの…これから、どうしたら…。とりあえず、戻るために、あの階段で同じことを…」

「…私に、任せて。大丈夫だから」

胸を張って、頼りがいがあるセリフを言う、俺の姿の生徒会長。

やっぱり、こういう所が、頼りがいのあって、素敵な生徒会長なんだろうな。

愛想のない人だとばかり思っていたが、やっぱり頼りになる人なんだ。

もしかしたら、元に戻る方法を知っているのかもしれない。


「…ごめんね。私、いつもあんな風に、人に囲まれるから」

「いいんですよ…それは、生徒会長が、人気な証なんですから」

「…ありがと」

なんだか、俺が女言葉を喋っているのに、なぜか、キモさというものはあまり感じなかった。喋り方が、いつもの俺と違って落ち着いた感じで、見たことのない自分を見ているような…そんな感じで…。


「でも…なんで、あんなこと言ったんですか?みんな誤解してしまいますよ…」

俺は、俺にも立場があるということを、遠まわしに伝えたかった。

俺が、生徒会長の弟子になってしまったら、同じ一年の同級生に恨まれて仕方がない。ましてや、俺のような、異端道に積極的でない人間が。


「誤解じゃない。本当になればいいと思う」

「えっ、でも…このままじゃ、生徒会長が僕の弟子になることになりますよ」

「かまわない」

「俺が気にしますよ!…それに、俺が生徒会長を演じきれる訳ありませんし、戻ったあとのことも考えて…」

「私を演じる…?しゃべらなきゃいいだけ」

「そ、そういうのじゃなくてぇ…!」

もっと、威厳だとか、振る舞いだとか……。

女の子らしさとか…無理無理無理無理!今日髪を乾かすのもサボったくらいだし。

それにスカートだって、スースーするし、落ち着かないし…。


「そういう風に、感情がこもった私、久々に見た」

「えっ、声に出てましたか」

「丸聞こえ」

表情を余り変えずに俺の顔を見る生徒会長。

俺も、そんな俺は初めてだ。


「それに…俺、異端道なんて、やるつもりなかったんですよ」

「…どうして」

「痛い思いまでして、闘いたくないじゃないですか。一体、何のために戦ってるんだって…」

「…自分のためじゃ、ダメなの?」

「自分の…ため?」

「…そっか。今の君に言っても仕方ないことだった。戦ったとしても、それは『私のため』になっちゃう。今のは、違う。やっぱり、手に入れたいもののため。かもしれない」

「……俺、戦ってまで特に手に入れたいものは、ありません。ゆっくりと暮らしていけるなら、それでいいです」

……。

「そう。…わかった。なら、戦わなくてもいい。私に縛られなくていい。自由に生きていい」

「…えっ」

生徒会長に、何か、突き放されたかのように感じた。

俺は…生徒会長のようにはなれない。なぜなら、俺は生徒会長ではない。ただの、異端者でしかない。


「私も、私で、この身体で、自由にするから」

「…あの、元に戻る方法だとかは…」

「知らない。もうその身体はあなたにあげる。これからはあなたが私。私があなた。これで、いいでしょう?」

「で…でも、生徒会長は、今まで何のために、戦ってきたんですか…!それを全部無駄にするってことですよ…!」

「…知った風に言わないで。今あなたと話すことは、もうなにもない」

「…ま、待ってください…!生徒会長!」

「私はもう生徒会長じゃない。生徒会長は、貴女よ」

生徒会長は、後ろを振り返らず、トイレから出ていった。


…戻る気がないんじゃ…どうしようもない…。

「これからどうしよう…うぅ…」

な、なにこれ…俺、泣いてる…?

おか、しいな。なんで、泣く場面じゃ…ないだ、ろ。


ポロポロとこぼれ落ちるその水は、俺の瞳から溢れ出たものだった。



「…どうしよう…俺…生徒会長の身体で、やっていける自信ないよ…ぅ」

女子寮の501号室。

ここが、俺の部屋。


昨日は、初めての女の体で、盛り上がっていたが、今はそんな気分じゃない。

「……」

事故とはいえ、なぜか生徒会長と入れ替わってしまった。

それに、生徒会長は、元に戻るつもりがないとまで言い出した。

生徒会長はみんなのあこがれの人。誰しもが、生徒会長のようになりたいと思って、異端道の道を突き進む。…だが、俺は生徒会長そのものになってしまった。

たくさんの人の憧れの的である生徒会長を、俺はうまく演じられるだろうか。


「念動力…」

遠くにあったテレビのリモコンをコントロールし、こちらに取り寄せる。

ふわふわとリモコンは俺の思う通りの軌跡を描き、飛んでくる。

身体が覚えているかのように、すぐに能力を使うことが出来た。


…はぁ。能力が使えたとしても、中身が戦うことに臆する俺では、使いこなすことは出来ないし、戦意すらもわかない。


…コンコン。

外から扉をノックする音が聞こえる。

…どうせ、生徒会長の弟子になろうと近づいてきた人に違いな…

「黒川だ。今日はどうした、気分でも悪いのか?」

「く、黒川先生!?…ちょっと待ってください」

俺は、シワが付いたスカートを伸ばし、しゃんとしてから、扉を開けた。

「…とりあえず、中に通せ」

俺は、黒川先生を部屋に通し、俺はベッドに座り、黒川先生は椅子に座った。


「…お前が休むとは珍しいな。最近の練習の疲れでも溜まっているのか…?

それとも昨日の階段事件が原因か?」

…練習の疲れ。たしかに生徒会長のこの身体は、疲れていた。でも、一番の原因は、俺が昨日調子に乗って生徒会長の身体を弄り倒して、そのまま寝坊してしまったことから始まる。今は、精神的に参ってしまっているが。

…いっそのこと、この先生には本当のことを言ってしまおうか…。

「…先生」

「なんだ?」

「…俺、五十嵐なんです。昨日、階段を生徒会長と一緒に落ちて、入れ替わっちゃったんです」

「……ハハハハハ、面白い冗談を言うようになったな」

やっぱり、信じてもらえるはずがなかった。

「…ですよね。ごめんなさい」

「それになんだか、いつもより、しおらしく見えるし、可愛いらしい」

「…冗談はやめてください」

…生徒会長なら、多分そう言うだろう。

「何か、悩みごとがあるなら話してみろ、聞くだけなら、なんとかしてやる」

「聞くだけですかっ!…………っ!……特にないです」

「そうか…ならいいのだが」

さっき言ったんだけどなぁ…。

「そういえば、昨日の男子。確か五十嵐総…だっけ?。あいつ、お前の弟子を名乗り始めたらしいな。いいのか?あれは」

「…」

「…ん?どうした?違うのか?」

「…はい。…違います」

…俺と彼女は、本来つながるはずの間柄でもないはずだし…それに、認めてしまっては俺の姿をした生徒会長に危険が及んでしまうかもしれない。

生徒会長が弟子を取らなかった理由が、今わかった気がする。

「なんだ。てっっきり、昨日の件があってから師弟の関係になったものかと思った」







洗面所と一緒になったホテル式トイレ。


※手記はここで途絶えている……(2018/9/5時点のモノ)


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