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「くそっ、どうするよ」

「とは言ってもな・・・」

放課後の部室。


“女子たち”が帰宅した頃を見計らって、緊急会議が開かれていた。


『X型女子』対策会議。


私立巨王学園、男子運動部。どの部が、という訳ではなく。

大半の運動部が、学校名だけで全国区の知名度がある、運動に特に力を入れた学校。


その猛者とも言える運動部の部長クラスが、狭い部室で長机を囲む形で座っていた。


「おい、野球部! お前たちがグラウンドを取られたせいで、部室まで使えなくなってじゃねーか」

「う、うるせー。なら、お前らなら、勝てたってーのかよっ」

誰も、本気で野球部を責め立てることは出来なかった。


「俺・・・この前、食堂で見たんだ。アイツ等が飯食ってるとこ・・・」

サッカー部の部長が、然も信じられない物を見た、と言わんばかりで話し始める。


「丼モノ用の丼ぶりに特盛になったご飯をアイツ等、何度もお替わりしてやがった」

「お、俺らだって、そのぐらい・・・」

食べ盛りの男子高校生。その更に運動部ともなれば、食事量もそれなり。大食漢な男子生徒も多い。


「じゃあ、お前。丼ぶり山盛りのご飯を二十杯も食えるか・・・?」

「に、二十杯!?」

単純計算で、10kg近いご飯を一食で食べた計算になる。


「それって・・・」

「ああ、あの下原って馬鹿デカい女子だ」

下原浩子。言わずと知れた、『T型JK』にして身長256cm、体重231kg。


「最初、背が高いだけで体型そのものは普通だし、大したことないって思ってたんだよ」

陸上部で筋肉モリモリな内藤和美と違い、ボディバランス的にはどちらかというとアスリートとは真逆の豊満体型。


「だけどさ、すれ違っただけなんだけどさ。アイツの胸、俺の頭より上にあったんだよ・・・」

大人と子供なんてレベルではなく、巨人と小人。正に、それだけの差があった。


「お、俺も見た。アイツ、この前、学校の近くに停めてあった車をヒョイッと持ち上げてた・・・」

まさか、そんな。と周りの男たちは口々に否定する。


「怒って殴り込んで来た車の持ち主を、天井に突き刺したって噂も・・・」

新聞記者の一件は緘口令が敷かれたものの、やはり人の口に戸は立てられぬと言うか。


「次の予定だと、勝負受けるのはバレー部なんだろ。大丈夫なのか?」

「だ、大丈夫な訳あるかっ。アイツ、バレーネットの上に顔が出るんだぞ」

バレー部の部長は体育の授業の入れ替わりでたまたま、浩子がバレーネットを準備するのを目撃した。


巨王学園は元男子校ということもあり、バレー用のネットは男子高校生用の高さ240cmのモノしか無い。

しかし、浩子は棒立ちした素の状態で、ネットから普通に顔が出るのだ。万歳した一番トップ部分の高さは3mを超える。

実際、バレーの授業でも跳ぶどころか、両腕を折り曲げて高さを調節しないとブロック出来なかった。アタックも然り。


「バスケ部はどうだ?」

「ゴール前でポストプレイされたら止められるかどうか・・・。逆に守りを固められても、シュートを通せる気がしない」

完全にお通夜状態、である。


「グラウンド、体育館と来て、次は武道場だが。柔道部はどうだ」

「組まれる前に電光石火で投げてしまえれば、或いは・・・」

初めて出た前向きな意見に、一同はおおっ、と感嘆の声を漏らした。


「じゃあさ、体育館の前に武道場を賭けた勝負を先にやるってのはどうだ?」

「良いな、それ。先に勝てる勝負をやって、心を折るって寸法か」

全国常連の猛者たち男子運動部。数人の女子たちに総出で掛かって、負けを増やす訳には行かないのだ。


「野球部の敗因は、いわゆる“舐めプ”をしたことが原因なんだ。ちゃんと準備すれば、負ける筈がない」

「・・・・・」

野球部の部長は、言われるがままになっていた。いや、していた。

今ここで何を言っても、言い訳としか捉えられず、藪蛇になるだけだから、だ。


「まあ、試す分には良いんじゃないか。何事も、やってみないとわからんからな」

野球部として、言えることはこれだけだった。士気を下げないのは、せめてもの気遣いだった。



――数日後。


本来なら三戦目になる筈の、武道場を賭けた対決が先に行われることになった。

当初の二戦目であるところの体育館を賭けた勝負は、男子部員一同の意見により後回し、延期。


柔道対決。


男子柔道部からは階級、『100kg超級』でオリンピック強化選手にもなっている、山上。

身長195cm、体重120kg。かなりの体格だ。


一方の女子は勿論、指名を受けた下原。


「じゅ、柔道着ってこれで良いんでしょうか」

特注の柔道着であるにも関わらず、胸周りがパツパツになり、腰まで生地が足りずに上手く帯が結べていない。


「まあ、これで良いだろう」

柔道部顧問の新賀によって、ズボンと上着それぞれに帯を結ばれ、浩子は無理矢理それっぽい格好にされた。


「山上、お前は相手を頭から落とすのは禁止な。下原は、この山上の肩から下を畳に付けさえすれば勝ち、だ」

「押忍」

「はい」

山上と浩子がそれぞれ、新賀の指示に返事をした。


柔道部の猛者である山上は、一本背負いなどの背負い投げが禁止された形になる。

一方の浩子はある意味、相撲ルールなので相手を転ばせれば勝ち。


柔道有段者の男子と、格闘技未経験女子の勝負としてはこれでも、かなり“男子側に譲歩した”条件なのだ。


「それではお互い怪我のないように。始めっ!」

新賀の掛け声で、勝負が始まった。


「おおらぁっ!」

山上が両手を広げつつ、掲げた。いつもの、組み合いを前提とした攻めの体勢。


しかし。


「転ばせれば、良いんですよね?」

「・・・へ? うぉ!?」

それは、柔道の試合経験豊富な山上ですら、初めて味合う経験だった。


「は、放せっ!」

「「「っ!!?」」」

顧問の新賀の他、観客として場に居る柔道部員たちも、初めて見る光景だった。


山上が、“浮いていた”。


正確には、山上の取り口の射程外から伸びて来た浩子の両手が、山上の両肩を掴んで持ち上げたのだ。

120kgの大柄を言って良い山上が、武道場の真ん中あたりで、宙空で足をバタバタさせている。


「はな・・・」

「えいっ」

浩子は少しだけ力を籠めると、ドーンッと両手を突き放した。


「う、お、おぉ、お、ぉっ!?」

山上は数メートルは吹っ飛ばされると、最初の着地は何とか踵から付いたものの、勢いを殺し切れず・・・


ドスン。


と、そのまま尻もちを付いてしまった。


「あれ、終わり・・・?」!

「いっ、今のは無効だっ!」

山上は立ち上がり、まだ勝負は終わっていないと構える。


「え、でも。肩から下が畳に・・・」

「う、うるさいっ! ス、スリップだっ!」

ボクシングと違い、柔道にスリップダウンなんてモノは存在しない。言うまでも無いことだが。


「わ、わかりました。じゃあ、もっかいですね」

「あ、当たり前だっ!」

そう言うや否や、山上は一気に駆け出し、距離を詰める。


「きゃっ」

不意を突かれ、浩子は完全に棒立ちになっていたところに、山上の両手が浩子の道着の襟を捉えた。

しかし、50cm以上ある身長差のせいで、山上の手は奥襟には届かず、ダイレクトの胸元の襟を掴む形になった。


「いやぁっ」

柔道着越しとはいえ、胸元をタッチされた状態の浩子はつい、手が出てしまった。

無意識とはいえ、振り被られた浩子の右手が、山上の顔面にクリーンヒット。


バチコーンッ!!!


「ぶべらっ!!」

その場に居た大勢は、人が水平に飛ぶのを初めて目撃した。


ドガァンッ!!


と、山上は武道場の隅にある壁に叩き付けられ、顔面から畳に崩れ落ちた。


「あああ、ごめんなさいっ! 大丈夫ですかぁ?」

「や、山上ッ!?」

新賀が駆け寄ると、山上は白目を向きながら全身をピクピクと痙攣させていた。


「は、反則だっ!」

「ですよね・・・」

勿論だが、柔道で打撃は禁止されている。


「じゃあ、これで“一勝一敗”ですね」

「・・・へ?」

新賀も、他の柔道部員もてっきり、これで柔道部の反則勝ちになると思った。

そう思い一瞬、安堵した。


「え、だって。今のが反則なのはわかりました。なら、“無効”ですよね」

勝負に無効な振る舞いをした結果は、最初に山上自身が示した。

実際の柔道でどうかは兎も角、スリップダウンは“無効”としたのだ。反則負け、とはしなかった。


「私、何だか楽しくなって来ちゃいました♪ さぁ、続きやりましょう」

その後、誰一人として浩子とまともに組み合えた者など居なかった。

身長差があり過ぎるし、もし変なところを触ったら、またあの強烈なビンタが飛んで来るかも知れなかったからだ。


「何、してるんです?」

奇襲で『諸手狩り』を掛けた男子部員も居たが、浩子は微動だにしなかった。


「私もやってみて、良いですか?」

「ひぃっ、やめ・・・」

わざわざしゃがんだ相手を立たせた上で、浩子は見よう見まねで『諸手狩り』を試すと。


「うげぇっ!?」

身長差からは、相手にとってはダンプカーの如きタックルをまともに喰らい、山上よろしく壁まで吹っ飛んだ。


禁止だった投げ技を掛けた相手には、同じように技を掛け返し。

力任せに浩子の身長超え3mの高さから叩き落され、投げられた男子部員は余りの激痛に悶絶した。


「「「う、うぅっ・・・」」」

死屍累々。ものの数分で、観客として物見遊山で居た男子部員も含めた全員が、畳に横たわる結果となった。


「先生もやります?」

「い、いや、やめておこう・・・かな。ハハッ」

新賀は、浩子の提案を丁重にお断りした。


“柔よく剛を制す”にも限界がある。


新賀は、柔道部顧問として、新たな格言を胸に刻んだ。

Comments

okita

更新お疲れ様です。 男子の小細工を無自覚に圧倒的な力でねじ伏せてるのが最高です。 食事のシーン、圧倒的なスケールを感じました。

デアカルテ

感想ありがとうございます。 GTSモノは体格差描写が大事なので、もっと上手く描写出来るようになりたいと常に思っています。