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体験入部シリーズ、その4。


ウェイトリフティング部では、バーベル(410kg)を片手リフト。

バレーボール部では、ボールを破裂させた上にネットをブチ抜き。

陸上部では、グラウンドを抉った上に砲丸を握り潰し。


今のところ、世界記録か競技道具を破壊か、の二択な感じ。

身の危険が無い状態でスポーツを楽しみつつ、レベルアップってのは無理があったのかなぁ。


でも、筋力競技、球技、陸上競技と来て。実はまだ、勧誘された部活は幾つか残ってる。


そう、格闘技。


ただ、殴ったり蹴ったりはゲームの中ならまだしも、この身体になってさえ抵抗感がある。

どんなに全身筋肉モリモリでも、顔を殴られたら痛い筈だし。


それに、今のパワーで人を殴ったりしたら、相手がどうなるか・・・。


「そうだ」

人じゃない物を殴ることが出来る部活を、私は思い出した。


「こんにちは」

「おう、君がそうか」

拳にバンテージを巻いた、角刈りで強面の先輩に私は挨拶をした。

後ろでは、サンドバッグをドドンッと叩く音に、シューズのキュキュッと擦れる音。


そう、私はボクシング部の部室を訪れていた。


「女子ボクシング界はまだまだ発展途上でね。君なら行けると踏んだんだよ」

「そんな、私なんて」

サンドバッグを叩いてみたいが為にボクシング部に来た、なんてとても言える雰囲気じゃなかった。


「私、“こんな”ですけど、大丈夫ですか・・・ね?」

私は敢えて、威圧するかのように右腕の力瘤を盛り上げて見せた。モゴゴォッ!と盛り上がる、超特大128cmの力瘤。


「お、おおぉっ・・・。す、凄いじゃないか」

成人男子の胸回りより大きな力瘤に怯みつつも、先輩は褒めてくれた。


「だ、大丈夫さっ」

「は、はぁ・・・」

私は、“人を殴っても大丈夫ですか”の意味で聞いたんだけど、そう取られて無いっぽい。


「取り敢えず、サンドバックでも殴ってみようか」

「あ、はい」

リアルで何かを殴るのは、生まれて初めてかも知れなかった。ゲームで敵を攻撃するのとは違う。


「これが、サンドバック・・・」

天井から鎖で吊り下げられた、砂が詰め込まれた革製の縦長の大きな袋。

試しに、軽く手で触れてみるとギィッと“大きく”揺れた。


「グローブはこれで良し、と。君の手、大きいから入るか心配だったが良かった」

先輩にボクシンググローブを嵌めて貰い、サンドバックの前に立った。


「これ、本当に全力で殴って大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫さ。このサンドバックは部で一番大きくて頑丈だからね」

“手を傷めないようにね”と、私の手の方を気遣ってくれる始末。


「じゃあ・・・」

念は、押した。一応、サンドバックの後ろに人が居ないことと、割れ物が無いことは確認。


「・・・んぅっ!」

右腕を後ろに引くと、私は渾身の力でサンドバックに右拳を叩き込んだ。


ズガァッ!! ブチィッ・・・ヒュゴォッッ!!! ドガッシャアァァァンンン!!!


「「「・・・え」」」

今回ばかりは、流石の私もこの結果は想像出来た。


私の素人フォームの右パンチは、吊っていた鎖を引き千切り。

一瞬で、サンドバックを数十メートル先にある壁まで吹っ飛ばした。


「うっそ、だろ・・・」

「50kgあるサンドバックが・・・」

あ、やっぱり“そのぐらい”なんだ・・・。


殴る前、軽く触れただけで揺れたのを見て、“大した重さじゃない”のは直ぐに感じ取れたのだ。

だから、念を押したんだけども・・・。


「君、見た目通りというか、見た目以上にパワーが凄いね・・・握力は幾つだい?」

「あ、握力ですか? えーっと、その・・・」

私は、“この身体”になってからの握力はわからない、と答えた。

正確には、測定不能なんだけどね・・・。海外製のハンドグリップを握り潰したぐらい。


「その“感じ”だと、握力もかなり有りそうだね・・・そうだっ!」

ボクシング部の先輩は、何かを思い付いたのか奥の方から道具箱のようなものを持って来た。


「あった、これだ」

「それって・・・」

そう言って取り出したのは、掌サイズの鉄棒がバネで繋がった、いわゆる『ハンドグリップ』だった。


「お、見たことあるのかい? 女性では珍しい」

「いえ、前に“握り潰した”ことが・・・」

私が不意に漏らした言葉に、周囲がザワ付く。

仕方なく、私は前に『No.4』のハンドグリップを握り潰した話をした。


「それって、もしかして『CoCグリッパー』の『No.4』のことなんじゃ・・・」

「まさか・・・。だってあれ確か、握力が165kgないとクローズ出来ないのに」

他の部員たちも、ザワザワとザワ付き始める。


「まあ、“その身体”だ。普通の握力計じゃダメなのはわかる。“これ”閉じられるかい?」

そう言って、先輩は私に鉄製のハンドグリップを手渡した。如何にも海外製な感じの、武骨なデザイン。


「んっ。固く・・・ないかも」

「なぁっ!?」

体感だけど、六割ぐらいの力でハンドグリップはカチッと閉じられた。


「嘘、だろ・・・」

「マジ、かよ・・・」

また、他の部員たちがザワ付く。


「信じられん・・・。『ゼウス』を閉じられる人間が居るなんて・・・」

ゼウス?・・・って、あのギリシャ神話の?


「確かに、硬かったです。多分、『No.4』よりは・・・」

改めて、何度か閉じたり開いたりとニギニギしてみる。それなりに、硬くは感じる。


「君が今、閉じたのは『ワールドクラス/ゼウス』って言う代物でね。分類としては、“ネタ枠”なんだ」

「・・・ネタ枠?」

ネタ枠。いわゆる、おふざけ商品。ただし、商品としては至極真っ当に作られていて。

ハンドグリップとして、人間には開閉不可能な強度という意味での“おふざけ”。


先輩が持ち出して来たのは、正確には、『BBグリッパー』と呼ばれる握力グリップ。

『CoC』とはメーカーが別なのだが、握力グリップはメーカーによって段階が異なるらしい。


『CoCグリッパー』は一応、人間が閉じられる強度で四段階。最高が『Np.4』の、165kg。

一方の『BBグリッパー』は十三段階もあり、後半の三つは人間が閉じることを想定していないネタ枠なのだ。


「“それ”を閉じられるイコール、握力が243kg以上ある、ってことになる」

「え」

流石に私も、その数値を聞かされて驚く。


例えば、滑車にロープを通して台に括り付け。その台に相撲取りを載せたら、手指の開閉だけで持ち上がる計算。

腕力と握力は必ずしも比例しないとはいえ、自動車を持ち上げる腕力から考えれば、おかしくは無い数値。


「しかし、まだ余裕ありそうだね・・・。まさか、“これ”も行けたりなんてことは・・・」

そう言って、先輩は恐る恐る別のハンドグリップを私に手渡した。

デザインは同じなので、メーカーが一緒で強度違い、って所なんだろうか。


「・・・んっ! あ、固い・・・」

ギュッと力を入れるも、グリップは閉じ切らない。


「うぅんっ!!」

前腕の筋肉がモゴォッと盛り上がる。久々の、全力。


「・・・はぁ、はぁっ」

何度か試したが、後1cmぐらいという僅かの隙間を残して、それ以上閉じることは出来なかった。


「「「・・・・・」」」

初めて、ハンドグリップに敗北した私を見て、感想を漏らす者は誰も居なかった。

部員たちは皆、唖然として口をアングリ開けている。私の事をまるで、化け物を見るかのよう。


「“これ”、そんなに凄い・・・んですか?」

「それは・・・ね。『トール』と言って、握力454kg無いと閉じられない代物なんだ・・・」

先輩は何故か、私を諭すような口調になっていた。


「ということは、私の握力って“440kg”ぐらい?ってことなんですね」

いつかまた、“あの施設”に行って計測するしか無いと思っていたので。

現時点で不明だった“今の私”の握力が判明しただけ、ここに来た甲斐があった。


「『雷神トール』よりは弱いってことですよね♪」

なんて感じで、オタ界隈では有名な北欧神話の神よりは弱いとわかり、つい冗談が口を付く。


「「「・・・・・」」」

しかし、周囲は無言だった。


私自身、際限なくパワーアップする超筋力が青天井じゃないとわかって、嬉しかったんだけど。

冷静に考えれば、“握力440kg”なんて数値は異常以外の何物でも無い訳で・・・。


お通夜みたいな空気になったところで、ボクシング部体験はお開きになったのだった。

Comments

名無しです

更新お疲れ様です! 全力出しても閉じ切れないハンドグリップが次はどうなるか…

okita

更新お疲れ様です。 色々な物を破壊する描写で、途轍もない強さを感じていましたが、壊せない物も存在する所に、リアルさも感じてとても良かったです。

揉寺

更新お疲れ様です! いつも作品楽しく拝見させていただいてます! リクエストしたい作品があるのですが、pixivのリクエスト機能を開くご予定はございますでしょうか?

デアカルテ

感想ありがとうございます。 ハンドグリップも調べると色々とあるみたいで、実はこの上もあったりします。何処かでネタで出したいです。

デアカルテ

感想ありがとうございます。 あまり青天井にし過ぎると読者さんが付いて来れなくなってしまう恐れもあって、匙加減はいつも難しいと感じています。

デアカルテ

感想ありがとうございます。 本家pixivの方のリクエスト機能は一度使おうとしたことがあるのですが値段設定?で悩んでしまってそのままになってしまっています。何処かでやってみたいとは思うのですが・・・ こちらのFANBOXの方にアンケート機能が付いて欲しいとは思っています。

揉寺

pixivリクエストの平均は、1文字1円ぐらいが平均だと思います! もしよろしければご検討お願いします!