Home Creators Posts Import Register Favorites Logout
haven't archived this post yet. have a subscription? use the importer!

Content

「健ちゃん、いらっしゃい」

「あー、うん」

とある休日。僕は、紅世宅を訪れていた。


「どしたの?」

「・・・ん」

何か“違和感”がある気がするんだけど・・・。


「いや、何でも」

何がおかしいか、良くわからない。


「えーっと、その・・・」

僕が玄関でドギマギしていると、真理奈が僕の顔を覗き込む。


ぶるんっ。


「・・・っ!?」

真理奈が前屈みになると、慣性の法則に従い胸元が揺れる。


「今日、呼んだのは真理奈だよね」

「そ、だよ。どうして?」

高一男子を自宅に招き入れる、高一女子。

その格好としては、余りにラフ過ぎる出で立ち。


「何で、“タンクトップ”なの」

「えー。良いじゃん、別に」

真理奈は何を今更、と言わんばかりに気にも留めない。


玄関から真理奈の部屋までは、案内されるまでもなく知ってるんだけど。

僕は、真理奈の1メートル後ろをそそくさと付いて行った。


「だって、腕が入んないんだもん」

もう慣れっこ、な感じの所作で真理奈は右腕を折り曲げる。

軽く曲げただけなのに、モゴォッと特大の力瘤が盛り上がる。


「う、確かに・・・」

真理奈は遂に、部屋着に関してはTシャツを諦めたらしい。

『タンクトップ』なら袖が無いので、胸周りさえ気を付ければ着られる。


ネットとかテレビで偶に、タンクトップ姿のボディビルダーを見るけど。

そんなに身体を見せびらかさなくても、と思っていた。


「ふ、む・・・」

でも、やっと実感を以って納得出来た。

タンクトップが、着ていて楽なのだろう。


『力瘤:55cm』という極太の二の腕が、袖を通らないのは勿論。

『胸周り:115cm』と『ウェスト:69cm』という、段差『46cm』の上半身。


ヒョロガリで平面体型な僕の身体と比べて、凹凸が激し過ぎる立体的なボディ。


「じゃあ、何でまたノーブラなのさ」

胸元の“ポッチ”を確認するまでもなく。

真理奈は、素肌にタンクトップを纏っていた。


大胸筋は上腕筋群に繋がっていて、腕を動かせば連動して動く。

その度に、真理奈のGカップ巨乳がブルンッと揺れるのだ。


「タンクトップって、下着でしょ」

「肌着だとは思うけど、下着かと言われると・・・」

うーん、この辺は人に依るんだろうか。

だとしても、僕としては・・・。


「一応、僕もイチ男子な訳で。その、目のやり場に・・・」

「今更、何言ってるの。そ・れ・にぃ~」

真理奈は膝に手を置いて、僕に向かって前屈みになる。

膝に手を置く事で、上腕二頭筋は内側を向く形になり。


「こういうの、好きでしょ?」

只でさえ大きな胸元がムギュッ、と両サイドから圧縮され。


「私、知ってるよ」

「な、何を」

『Yライン』だった谷間が、『Iライン』の海溝へと変化して行く。


「いつも、チラチラ見てるでしょ」

「あ・・・い、いや。その・・・」

僕はつい、しどろもどろになってしまう。


「まあ、健ちゃんだけじゃないんだけどね。男の子ってみんな、そうなの?」

「え、あ、いや・・・」

僕はさっきから『あ』とか『え』とか、『あ行』でしか発言出来ていない。

まあ、いわゆる図星という奴で・・・。


『35cm』を超えた二の腕が、“逞しい”という印象を与えるように。

『Gカップ』というサイズは、間違いなく“巨乳”という印象を与えるのだ。


「女子の立場としては、胸って別に大きくなくても良いんだけど・・・」

色々と、物議を醸しそうな・・・。

胸が小さくて、大きくなるのに憧れるような女子だって居るだろう。


「健ちゃんの興味を引けるなら、まあ良いかな」

「え、それって・・・」

僕も真理奈も、良い感じに思春期真っ只中、ではある。

異性に興味が無い・・・訳ではないと思う。少なくとも、僕に関しては間違いなく。


しかし、今の所、僕たちに浮いた話は無い。

告白したことも、されたこともない。


「僕だって、男の子なんだよ。あんまり不用意な発言は・・・」

「えー、どうなっちゃうの?」


「襲い掛かられたり・・・とか?」

「それは・・・」


「・・・。まあ、今の私って、誰かにどうにかされるような気もしないんだけど」

「・・・・・」

捉えようによっては、男性軽視な発言とも取れる。

勿論、体力的な意味で、だ。


「・・・健ちゃん。私を、どうにかしたい?」

「それ、は・・・」

真剣な眼差しに、僕は躊躇(たじろ)いでしまう。


「私のカラダ、変・・・かな?」

「そんなことは」

僕にとって、真理奈は可愛い女の子、であることに変わりは無い。

僕自身、間違いなくそう思ってる。


「おかしく、ない・・・?」

さっきも、真理奈はワザと、扇情的なポーズを取っていた。

気心の知れた僕たちの間柄だからこその冗談、だけでは無く。


「おかし・・・く、は・・・」

この場合、魅力的かどうか、というよりも。

そのままの意味で“変”かどうか、を聞いているんだろう。


グニ・・・。


もし、男女の仲・・・的な意味合いの話なら、わざわざ自宅に呼んだりしない。

真理奈は日々、成長著しい自分の身体に不安を感じている。


グニ、グニ。


『Gカップ』の巨乳ってだけなら、発育の良い女子で通る。

だけど、『55cm』の筋肉モリモリな二の腕を持つ女子なんて、先ず居ない。


「・・・ん?」

僕が思案している間、真理奈はどうも手持ち無沙汰になっていたようで。

『10kg』と書かれた鉄アレイを、両手で弄(いじく)っていた。


グニャリ、グニャリ。


「・・・ちょ、それ。何・・・してるの?」

『5kg』の鉄の玉が二つ、ウェイトとして左右に付いていて、それを繋ぐように鉄棒が渡っている。

一見、何の変哲もない、只の鉄アレイ。


「・・・え?」

真理奈は、僕が指摘するまで“自分が何をしているか”気付いていなかった。


「あ・・・」

真理奈の手の中で、鉄アレイは薄く引き伸ばされて。

まるで知恵の輪のように、輪っか状になって何重にも絡み合っていた。


『10kg』の鉄アレイがウェイトとして役に立たないなら、まだしも。

それが鉄だとは思えない、まるで粘土でも扱うかのようにこねくり回してしまった。


「また、やっちゃった」

「え、“また”?」

そう言って、真理奈はベッドの下に手を入れると。

ゴトゴトッと、“鉄アレイだったモノ”が何個も出て来た。


『蝶々結び』に、『∞』マーク。ツイストドーナツみたいに二つ折りで捩じってあるモノも。


「最初はアクセサリーとか、小物だったんだけど・・・」

人間、考え事をしている最中に、手持ち無沙汰になって何かを弄る、のは良くある。

癖、と言えばそうだけど、悪癖とまでは言えないだろう。


中二の頃には既に、リンゴを潰せるようになっていて。

去年、中三の時分には石コロを潰して見せた真理奈。


「鉄アレイなら、壊れないと思ってたら・・・」

今思えば、『小五の時のコントローラ潰し』は、この片鱗だったのだ。

二の腕に目が行きがちだけど、真理奈の前腕の付け根は僕の太腿並はある。


意識的に加減していれば問題ないけど、そうでない無意識の時は。

気の抜いた状態で鉄をひん曲げるぐらいの、怪力。


「そういや、今の握力ってどのぐらいなの?」

確か、最新式のデジタル握力計があった筈。


「う、ん」

真理奈は何処か、歯切れが悪い。


「これ」

真理奈は、レバーを握った状態で握力計のデジタル画面をこちらに見せる。


『***』


「何、これ」

「もっかい、行くね」

そう言って、真理奈は持ち手を入れ替え。

逆の手で、今度はゆっくりとレバーを押し込んで行った。


ギュンッ・・・という擬音は、デジタル式には相応しくないかも知れないけど。

それでも、そう表現せざるを得ないぐらい、一気に数値が大きくなり。


『200・・・***』


「もしかして・・・」

「うん、カンスト・・・ってか、測定不能みたい」

それは、デジタル握力計がギブアップした瞬間だった。


「ひょっとして、余裕ある・・・?」

「・・・うん。全然・・・ってことは無いけど、あんまり力入れてない」

“手加減した”握力が、推定『200kg』オーバー。


「ドアノブとかも、軽く握っただけで“グニャ”ってなっちゃうの」

「・・・あ」

僕は、玄関で感じた“違和感”を思い出していた。


「慌てて、“戻した”んだけど・・・」

あれは、そう。ドアノブが変な感じで、“波打っていた”のだ。

ドアノブを握り潰しそうになって、手で広げた。まさに、そんな感じ。


サンドバッグをパンチで貫通させたのも、この握力なら納得してしまう。

軽く握った拳と、超握力で握った拳。どちらが硬いかは言う迄も無く。


いや、握力だけの話じゃない。


硬球を投げれば、『200km/h』超え。

跳躍すれば、『2m』超え。


全身の筋肉が弾き出す数値、その全てが人間離れした異常値。


「やっぱり、今日呼んだのって・・・」

「“やっぱり”ってことは、健ちゃんも・・・」

僕は、無言で頷いた。


筋肉モリモリとは言え、見た目は“まだ”、凄いで済むレベル。

だけど、その筋力は間違いなく『怪力』と言って、過言では無い。


怪力。


文字そのままの意味で言えば、怪しい力。

更に言えば“怪しい”っていうのは、出所がハッキリしないって事で。


「魔法の本で悪魔と契約したとか、ランプの魔人と取引したとか、無い?」

「何、それ」

まあ、そうなる・・・よね。

怪訝・・・というよりは、何を言っているか良くわからない、な反応。


「いや、自発的に何もしてないよね、って確認」

「ご飯も普通だし、運動も別に・・・」

例えば、プロテインを採るようになってジム通いを始めた、とか。

そこまで行かなくとも、早朝や深夜にジョギングを始めた、とか。


真理奈が、そういう自発的な運動の類と無縁なのは、良く知ってる。

学校の体育の授業ですら億劫なのは、僕と一緒。


「何か、ある筈。何か・・・あれ、そう言えば・・・」

「何か、あった?」

僕は、徳利のように急激に太くなる前腕の、“口”辺りを見ていた。


「最近、“アレ”は着けてないの?」

「“アレ”、って?」

度忘れして、具体名が出て来ない。


「・・・ん。もしかして、これ?」

真理奈は、引き出しから【腕輪】を取り出した。


「他のみたいに壊したら嫌だから、普段は外してるの」

そう言って、赤い石が付いた【腕輪】を“ニギニギ”した。


「・・・今って、どのぐらい力入れた?」

「うーん、それなり?」

鉄ですら圧し曲げる真理奈の怪力でも、【腕輪】は原型を崩さない。


真理奈が、言うには。

アクセサリーとかは大半がプラスチック製で、ちょっと握ると直ぐに割れてしまう。


となると。この【腕輪】って、材質は何なんだろう。

というのも、パッと見。真理奈が力を入れても、壊れる気配が全く無いのだ。


「もうちょっと、力入れても大丈夫じゃない?」

「え、そうかな。ん、っと・・・」

僕に促され、真理奈が【腕輪】に力を籠める。

弾性があるのか、少しグニャッと湾曲するも、折れたり曲がるような気配は無い。


「あ、れ・・・んぅっ」

真理奈も、意外とも言える硬さに戸惑い、更に力む。


「・・・はぁ、はぁ。ビクとも、しない」

真理奈は肩で息をするぐらい、何度も全力を籠めた。

にも関わらず、【腕輪】はそのままの形を維持していた。


「おっかしぃ、な・・・」

真理奈は、確認するかのように鉄アレイを握る。

すると、鉄アレイは一瞬でグニャッと潰れた。


「これが、理由・・・?」

「・・・うん」

真理奈としては日々、強くなって行く身体に不安を感じ始めていて。

医者に罹っても健康としか診断されず、僕に相談したくなった、って所。


多分、話の流れ的には『力が強くなり過ぎて私、怖い』ってなる筈だったんだろうけど。

真理奈は夢中になって、鉄アレイを潰しては【腕輪】に挑戦、を繰り返した。


「それにしても」

鉄を飴細工かのようにこねくり回す、超握力を以てしても。

一向に潰れる気配の無い、【腕輪】。


一見、材質は鉄のようではあるけど、鉄より遥かに硬く。

アルミのように、撓(たわ)む程に弾性もあって。


一体、何で出来ているんだろう。


「前も聞いた気がするけど、いつから着けてたっけ・・・」

前にも、同じ問答をしたような気が・・・する。


「買って貰った、訳じゃないよね」

「うん、違うよ」

真理奈は毎年の誕生日プレゼントで、小物やらぬいぐるみやらをねだっている。


それにもし、真理奈のご両親に買って貰った物だったら、僕も覚えている。

そうなると、何処かで拾った、ってことになるんだけど・・・。


「あ、れ・・・?」

そもそも、本当に“拾った”んだろうか?

頭の中で幾つかの点が、線になりそうな。そんな、感覚。


『小五のコントローラ潰し』。


この時点でもう既に、【腕輪】は“着けていた”筈。


「う~ん・・・」

小一や小二の頃に何をしていたかなんてのは、流石に記憶に無い。


・・・けど、小三の頃。僕の家と紅世家の合同で海に行った事があって。

その時は確か、【腕輪】なんて着けていなかった。


「どうしたの?」

「・・・小四」

そう、小四の頃。確か、あれは夏・・・。

裏山に行った“後から”、付けるようになってたような・・・。


「何で、裏山に行ったんだっけか・・・」

「何だろう・・・何か、見に行ったような」

花・・・火? いや、違う。

空・・・星。そうだ、流星群。


この【腕輪】は、流星群と一緒に空から降って来・・・って、そんな訳ない。


「この【腕輪】は、何処から来たんですか」

「どうしたの、急に」

驚く真理奈を他所に、僕は【腕輪】に話し掛けた。

大昔なら、道具に話し掛けるなんて、中二病も良い所なんだけど。


今の時代、スマートフォンやスマートウォッチ。色々な電子端末があり。

人工知能、いわゆる『AI』が搭載されていて。


『“規約”でお答え出来ません』

「何、それ」

僕は、“何某のメーカー、工場で製作されました”的な回答を期待していた。


「健ちゃん、壊れてるんじゃないの」

「いや、でも・・・」

真理奈が握ってそうなった、とは考え難い。

まして、経年劣化や電池切れとも、違うような気がする。


「じゃあ、さ。真理奈の握力は今、何キロ?」

『平常時の最大で、289kgです』

凄く、具体的な数値が返って来た。


しかし、冷静に考えて、それが合っているかわからない。

握力計をカンストさせる時点で、答え合わせのしようが無いのだ。


「え、と。じゃあ、真理奈の力瘤周りは、何センチ?」

『59cmです』

前に測った時は確か、『55cm』だった筈。


「やっぱり、何か変になっちゃってるんじゃ」

「・・・いや」

“変”と言えば、確かにそうかも知れない。


「真理奈、力瘤を目一杯盛り上げて」

「えー、何で」

ブー、と不貞腐れながらも、真理奈は右腕を肩の高さで折り曲げた。


モゴゴゴォッと、真理奈の上腕に大きな膨らみが発生。

砲丸がそのまま載っかったかのような、特大の力瘤。


「・・・『59cm』」

ガッチガチに固められた力瘤に巻き尺を這わせると。

【腕輪】の回答通りの目盛りピッタリで、巻き尺は一周した。


「う、そ。何で」

真理奈自身も、自分の力瘤が大きくなっていることに驚いていた。


『体内物質の分泌により、パンプアップしている為です』

「パンプアップ・・・」

一言で言ってしまえば、小さかった風船がポンプで膨らんだ状態。

筋肉量は変わらないけど、体積が増えて大きくなってる。


「・・・・・」

真理奈が口にした“変”と、僕が思う“変”はちょっと違っていた。


今、【腕輪】は“床に置かれて”いる。


尤も。もし仮に、真理奈が【腕輪】を装着していたとしても。

スマートウォッチが血圧を測るみたいに、腕周りを測る事が果たして可能なのか。


「今の、どうやって計測したの?」

『空間走査で計測しています。誤差は数ミリです』

そう、さ? 操作とか捜査じゃなくて、『スキャン』って意味での走査、なのかな。

だとしても、俄かには信じ難い。


「それなら、真理奈の全身のサイズを計測してみて」

『簡易的な項目、数値で計測します。不足があれば、ご指摘下さい』

次の瞬間、僕のスマホからピコンッという、告知音が鳴る。

メッセージアプリに、見た事もないアドレスからの着信があった。



「何、これ」

簡易的・・・という割に、かなり詳細な真理奈の身体データ。

僕たちが採寸した数値と近いのでデタラメ、という訳では無さそう。


「腕力の『457kg』って、両腕だよね・・・?」

『いえ、片腕です。バーベル等のウェイトを想定した数値です』

ということは、脚力の『891kg』も片脚の数値ってことになる。


「私って、人間・・・?」

「ちょ、真理奈・・・」

真理奈は、ダイレクトな質問を投げた。

ある意味、凄く怖い質問。


『貴女は、“霊長目ヒト科ヒト属ホモサピエンス”です』

「これって、私は人間ってことで良い・・・のかな」

『ヒト属』に属するのは所謂、『現代の人間』だけである。

猿や他の哺乳類、そして『旧人類』は含まれない。


「そう、だね」

僕は内心、ホッとして胸を撫で下ろす。


もし、“人間とは別の何か”な名称が回答されていたら。

真理奈も僕も、精神的にどれだけショックを受けたかわからない。


ただ、真理奈がそう思うのも、無理はない。


ここ最近の真理奈のパワーは以前にも増して、群を抜いて強くなっている。

だけど、何かを壊したり高く跳んだりで、具体的な筋力値はあやふやだった。


それが今、こうして明確に提示されてしまった。


身長や体重、腕や脚の筋肉量や太さ。

女子高校離れしては居ても、人間離れとまでは行かない。


にも、関わらず。


大型バイクぐらいなら、片腕で持ち上げる事が出来て。

軽自動車ぐらいなら、片脚で押して動かせる程の“怪力”。


「今の私って、ここまで力持ち・・・なのかな」

「あ、いや。でも・・・」

僕は一瞬、否定しようとして辞めた。


【腕輪】が計測した数値を否定するということは、つまり。

『真理奈が人間』という回答も、否定することになってしまう、


「人間って言っても私、サイボーグとかだったりしない?」

『貴女の身体に、機械的部品は一切埋め込まれていません』

良くある『SF』の、サイボーグによる機械的な何かが原因、という説は否定。

少なくとも僕と同じ人間で且つ、完全に生身ということは証明された。


「じゃあ、僕と真理奈の違いって何?」

『骨や腱、筋肉の質及び、密度です』

これまた至極、真っ当な回答。

機械でない生身で在るならば、差が出るのはそういう部分になるんだろうけど・・・。


うーん、聞き方を変えるか・・・。


「真理奈がもし、生まれてから一度も事件や事故に遭わずに居たら、“こう”なってた?」

『なっていません』

・・・と、なれば。


「今の続きで聞くけど、真理奈は何かの事故に遭った?」

『【初期記録】に、事故に遭遇したとあります』

初めて、“伝聞形”での【腕輪】の回答。

今まで、全て“断定形”で答えていた筈だったのに。


【腕輪】をゲットする前に、何かあったのだろうか。

・・・いや、“何かあった”結果、【腕輪】をゲットしたのでは。


「その“事故”に遭って、真理奈はどうなったの?」

『怪我を負いましたが、治療により復帰しています』


「その治療は、誰がやったの?」

『“規約”でお答え出来ません』

そう、来るか。

幾ら高性能とは言え、AI相手にこの路線で訊き出すのは無理、となると。


「真理奈には、どういう治療が施されたの?」

『同じ事故に遭っても耐えられるよう、遺伝子を強化、調整して修復しています』

え、っと。何?


事故に遭って、大怪我をして。

また同じ事故に遭っても怪我しないよう、遺伝子を弄ったってこと?


そんな、馬鹿な。普通に、考えて。

事故を起こした側が、次も起こさないよう気を付けるものじゃないのか。


恐らく、“規約”というのは、事故を起こした側を守る為の物なんだろう。

内心、沸々と怒りが湧き上がって来る。


「遺伝子っていうのは良くわかんないけど、私って長生き出来ないの?」

そんな僕を尻目に、真理奈がまたしても怖い質問。

遺伝子操作って聞くと、現代医学的には遺伝子異常が思い浮かぶ。


「遺伝子異常とか、そういうのが原因で病気になったりしないの?」

『遺伝子的な異常が起こる確率は、事故前より下がっています』

それはつまり、先天的な要因の病気では早々には死なない、ってことなのか。


『事故などの不確定要素を除けば、平均寿命まで問題なく生存可能です』

「事故が不安要素って・・・、事故に耐えられるようにしたんだよね?」


『火事等による焼死、水に溺れる等の窒息死は不可避です』

あくまで、頑丈で強くなっただけで、人間辞めたりはしてないってことか。


「何の事故に強くなったの?」

『大型車両に轢かれる等の、衝撃です。将来的には、高層からの落下も問題ありません』

・・・ん? 今、“将来的”って言った?


「真理奈、身長って止まったよね?」

「うん。去年と変わってないよ」

中三の時に『177cm』になった身長は、高一の今もそのまま。

【腕輪】の計測結果を見るまでもなく、実際の見た目がそうなってる。


「あ、でも・・・」

「・・・あ」

真理奈の気付きに、僕も思い出した。

中三と高一の今で一番違うのは筋肉の見た目よりも、体重。


中三女子の『120kg』、って時点でもかなり重い方だと思ったのに。

高一の今、真理奈の体重は『151kg』。


少し前に体重計に乗った時は、『151kg』という数値にばかり目が行った。

だけど、冷静に考えれば、たった一年で『31kg』もの体重増加なのだ。


下手をすれば、幼児一人分の体重と同じ重量。

“増えた”で済ますには、余りにも数値が大き過ぎる。


「私ってもう、背は伸びないよね?」

『遺伝子情報から期待される骨格になっていると推測されます』

何か、曖昧な回答だな・・・。


「遺伝子を調整?したのなら、どれだけ大きくなるとかも決まってるんじゃないの?」

『調整した内容は、あくまで身体的な耐久性の増加です。大きさは副次的な要因となります』

え、っと。それはつまり、どういうことだろう。

この【腕輪】、高性能っぽいのに融通の利かなさはその辺の『AI』と変わらない。


幾つか質問した上で、その内容を要約すると。


真理奈は間違いなくヒト、人間のまま。

ただし、遺伝子は他の人と比較して、頑丈になるよう調整されている。

その手段としての成長は、【腕輪】でもどうなるかは未知数。


例えるなら、だけど。


元は【自転車】だったのが、いつの間にか【F1】に乗り換えていて。

【一速】ギアの速度が、平均で『100km/h』出るようになっている。


車体が分厚く頑丈になるので、それに併せてエンジンや足回りも良くする。


正に、そんな感じ。


「私って、車に轢かれたり高い所から落ちても平気なの?」

「いや、試しちゃダメだよ?」

僕は正直、【腕輪】の回答は半信半疑だと思っている。


幾ら筋肉モリモリでも、『100km/h』で走る自動車の衝突に耐えられるとは思えないのだ。

車に轢かれて無事かどうか、なんて確認しなくても生きて行けるし。


「・・・・・うん。じゃあ」

「え。ちょ、何を」

真理奈は、その辺に転がっていた鉄アレイだった鉄塊をお腹目掛けて叩き付けた。


「う、わっ・・・」

僕はつい、目を逸らしてしまう。


ドムン。


「健ちゃん、大丈夫みたい」

真理奈が手に持っている鉄塊は、スライムのようにベチャッと薄く広がっていた。


「お腹、見てみて」

タンクトップの裾を捲ると、六分割された彫刻のような腹筋が露わになる。

キュッと縊れたウェストに似つかわしくない、頑強な腹部。


「す、ご・・・」

何も、腹筋そのものの凄さに感嘆した訳ではない。


『腕力:457kg』なのか、『投擲力:200km/h』のどちらが影響したかはわからないけど。

真理奈は間違いなく、その全力を以って自分のお腹を叩き付けた。


そんな鉄の塊が潰れるぐらいの衝撃にも関わらず、痣すら見当たらないのだ。


「健ちゃんも、やってみて」

「え、でも・・・」

女の子のお腹を殴るなんて、と思うも。

無言で頷く真理奈に気圧され、僕は床に在った他の鉄アレイを手に取る。


「重っ。ホントに、良いの?」

「うん」

鉄アレイは高一男子には充分重く感じる、『10kg』。

それを、僕は幼馴染の女子のお腹目掛けて、思いっ切り叩き付けた。


ドムン。


「う、お、わっ」

僕は、真理奈のお腹に弾き返され、尻餅を付いてしまった。


「ちょっと、健ちゃん! 大丈夫?」

真理奈が、床にヘタリ込んだ僕を引っ張り起こそうと・・・


「うわぁっ!」

凄まじい力が全身に掛かり、僕は顔から真理奈の“谷間”に突っ込んでしまう。


どむん。


「あ、ごめん・・・」

恐らく、真理奈としては軽く引っ張ったつもりなのだろう。

だけど、たかだか体重が50kg程度の僕なんて、真理奈からすれば重さも無いに等しいのだ。


「う、っぷ。だ、大丈夫」

僕が鉄アレイと同じように潰れずに済んだのは、『Gカップ』のお陰か。

その天国のような胸の膨らみの直ぐ下に、男子を軽く弾き返す腹筋がある訳だけど。


真理奈の腕力ですら無傷な腹筋に、僕は『矛と盾』の逸話を思い出していた。

尤も、真理奈の場合は『矛』より圧倒的に強い『盾』、ということになる。


「このままだと、いつか健ちゃんを怪我させそうで怖い」

真理奈は間違いなく、今の身体を持て余している。


どれだけアクセルを踏めば自転車と同じ速度になるか、の確認が必要かも知れない。



Files

Previews only

Comments

No comments found for this post.