Home Creators Posts Import Register Favorites Logout

Content


 ふみえは、妊娠を知った日を忘れない。


 妊娠検査薬の二本線を見た瞬間、最近の体調不良の原因がわかって安堵した気持ちと、じんわりと広がる温かい感覚……そして何よりもショーツを替えなければいけないほどの欲情に包まれた。


 それまで、自分の身体は自分のものだと疑ったことなどなかったのに、もうそこには、たしかな「他者」が存在している。その事実も興奮の一因だった。


 母となる自覚とは別に、妊娠してしまった自分自身に、ふみえの秘所は熱く滾った。


 すぐにつわりが始まった。


 朝、目覚めると胃のあたりがむかむかして、大好きなお米が炊ける匂いが受け付けなくなった。吐き気が襲ってくるたび、お腹の中の小さな命の存在を再確認する。喜びと同時に、これまで感じたことのない、身体が自分のものでなくなるような感覚に戸惑った。食の好みも変わり、今まで苦手だったものが急に食べたくなったり、好物だったものが全く食べられなくなったりした。

 乳房は張り、触れると微かに痛みを感じるようになった。乳首が大きく、色が濃くなり、乳輪も黒く広がっていく。疲労感が常に身体を纏わりつき、昼間でも強い眠気に襲われた。夫は、そんなふみえの変化に戸惑いながらも、優しく寄り添ってくれた。

 だが、情欲とは別に性欲は減退してしまった。

 妊娠中期に入ると、つわりは少しずつ落ち着いてきた。代わりに現れたのは、お腹の膨らみと、そして胎動。子宮は日に日に大きくなり、それまで平らだったお腹が緩やかに丸みを帯び始めた。最初は「ポコポコ」と小さな泡が弾けるような感覚だったのが、やがて「ドンドン」と力強くなり、夫が手を当てると、その動きが彼にも伝わるようになった。


「すごいな、お前の胎内で生きてるんだ」


 夫が感動したように呟くたび、ふみえの胸には温かいものが込み上げてくる。それと別に股間が熱くなることもあった。


 自分が妊婦であるという、紛れもない事実が興奮を呼び、エッチな漫画なら瞳の中にハートマークが浮かんでいただろう。


 すでに性欲は復活し、何なら一度下がった分、より増大していた頃だ。


 血液量が約1.5倍に増えた影響で、時折動悸を感じることもあったが、それもまた、新しい命を育んでいる証拠だと受け入れられた。胸にびっしりと浮き上がった血管もその影響だ。母乳を作るため、身体が作り替えられていくのだ。足のむくみが目立ち始め、パンプスがきつく感じられるようになったが、夫の大きな手がふみえのお腹に触れるたび、お腹の中の赤ちゃんもそれに呼応するかのように動く。この頃から、ふみえは自分の身体が赤ちゃんとの「共有物」であること、そして、自分の身体が赤ちゃんを育む器官と化しているように思えた。

 もちろん日々変化する身体、それに伴って心もまた、母となる準備を進めているように感じられた。鏡に映る自分のお腹には、うっすらと妊娠線が走り始めていたが、それは決して醜いものではなく、むしろ生命の神秘を物語る勲章のように思えた。

 産婦人科の先生に許可をもらって、夫婦生活が復活したのはこの頃だった。

「あん!お腹が邪魔で動きにくいよ」


 まるでエッチなビデオのようなやりとりを交わしながら、二人はボテ腹などお構いなしに幾度も交わった。赤ちゃんもそれを喜ぶかのように、胎内からママのお腹をノックした。


 妊娠後期、お腹はすっかり大きくなり、身体は重く、夜中に何度も目が覚めるようになった。成長した子宮が胃や肺を圧迫するため、食後に胸焼けを感じたり、息苦しくなったりすることも増えた。身体の重心が前に移動したことで、腰痛や股関節痛も日常になり、寝返りを打つのも一苦労だった。頻繁にトイレに行きたくなる頻尿も悪化した。けれど、そんな身体の不調も、もうすぐ会える赤ちゃんへの期待が上回った。

 夫は、お腹の赤ちゃんに話しかけるのが日課になった。絵本の読み聞かせをしたり、優しい歌を歌って聞かせたり。その声を聞くと、赤ちゃんも喜ぶかのように、さらに激しくお腹を蹴る。ふみえの乳房はさらに張り、母乳が滲むこともあった。それは週が進むと顕著となり、マタニティブラに挟んだ母乳パットはいつもグショグショだ。

 不規則な前駆陣痛を感じるたびに、いよいよかと身体が緊張した。身体が大きく変化していく中で、心もまた、喜びと不安の間を行き来する。その不安を打ち消すように欲情が吹き出して、臨月になっても夫と身体を重ね続けた。

 出産への期待と、未知への恐怖。けれど、それもまた、母になるための試練なのだと、ふみえは股間を濡らしながら受け入れていった。

 予定日を数日過ぎたある夜、ついに陣痛が始まった。最初は生理痛のような鈍い痛みだったのが、徐々にその間隔が短くなり、痛みも増していく。背中から腰にかけて、波のように押し寄せる痛みにふみえは呼吸を整えた。夫は、ふみえの手をしっかりと握り、その汗ばんだ手を優しく撫で、励まし続けた。

 何時間にも及ぶ陣痛の末、ついにその瞬間は訪れた。助産師さんの声と、夫の励まし。「頑張って!もうすぐだよ!」全身の力を振り絞り、ふみえは新しい命をこの世界に送り出した。


「おぎゃー!」


 力強い産声が分娩室に響き渡った瞬間、ふみえの目に大粒の涙が溢れた。痛みも、不安も、すべてが吹き飛んだ。この時ばかりは欲情も消え去っていた。ふみえの胸に抱かれた赤ちゃんは、信じられないほど小さくて、温かかった。夫もまた、涙を流しながらふみえと赤ちゃんを抱きしめる。

身体は、妊娠前とは全く違うものになった。お腹はまだ完全に元には戻らず、妊娠線もくっきりと残っている。けれど、その身体は、かけがえのない命を育み、この世界に送り出した証なのだ。ふみえは、新しい自分と、新しい命との出会いに、深い幸福を感じていた。


 まさか妊婦フェチだった自身が妊娠し、出産するなんて……欲情に目覚めたあの時から求めていた願望が現実に。


 ふみえは自分が女であることに感謝すると同時に、次の妊娠体験に母乳が滴る胸を踊らせていた。



※小説版妊娠期書いてみました。挿絵はAI生成。せっかく商用利用OKなので使わなきゃ。


モチベーション維持のためにも、感想待ってます。



Files

Comments

No comments found for this post.