小説 【入れ替わり・恋人同士】⑱ (Pixiv Fanbox)
Published:
2025-07-19 14:50:05
Imported:
2026-06
Content
-目次-
・52.作戦会議
・53. 五日目-水曜日-
・54.杏里のマンション
52.作戦会議
リビングには落ち着いた間接照明が灯り、テレビの音だけが静かに流れていた。
杏里からのメッセージを見た澪(精神は陽真)は、少し思案するような顔をしていたが――次の瞬間、ぱっと思いついたように立ち上がった。
「よし、明日休もう。これは……緊急事態だな」
「えぇ!? 杏里の件で!? 本気で行く気なの!?」
陽真(精神は澪)が慌てて言う。
「いやいや、可愛い女の子が“混乱してる”って言ってきたんだよ? ちゃんと話してあげるべきでしょ〜、澪としての責任ってやつ?」
「……いや、そもそもその混乱を起こしたの、あんたなんだけど……」
それでも澪(精神は陽真)はすっかり乗り気の様子で、スマホを操作し始めた。
「とりあえず、澪の上司に“明日有給取りたいです”ってメッセージ送っとくね」
ぽちぽちとスマホを打ち込み、送信。
――すると、わずか1分で返信が。
《澪の会社の上司》
「了解です。ゆっくり休んでね。明日の分は他のメンバーでフォローしておきます」
「すごいな…さすがホワイト企業。即レス、即承認…俺の会社ならこうはならないな…」
澪(精神は陽真)はにやにやながらスマホを掲げた。
「いやいや、私の評価落とさないでよ……」
「だいじょーぶだいじょーぶ、一日だけだし♡」
一方、陽真(精神は澪)はというと、目を伏せてぼそっと言った。
「……陽真の会社は有給申請、前日じゃ通らないんだよね……」
「そうだな…澪は明日どうする?」
「……まぁ、風邪ってことにして……ズル休み、かな…会社行く気になれないし…」
「澪こそ、俺の評価落とすなよ…」
「あんたが原因でしょ……」
澪(精神は陽真)は、今度は杏里にメッセージを打ち始めた。
《澪》
「明日、有給とれたよ。カフェかどこかでゆっくり話そっか」
送ってしばらくすると、杏里から返信が届いた。
《杏里》
「カフェも考えたんだけど……できれば、私の家で話したいな。外だと、うまく言えないかもしれなくて」
澪(精神は陽真)はそれを見て、思わず目を輝かせた。
「おお〜、おうち招待とは♡……これは百合展開あるな♡」
「あんたほんと最低よ…。 しかも、そんな深刻そうな話を家で聞くとか……なにが起こるかわからないよ!?」
「だからこそ行くしかないじゃん♡本人が“うまく言えない”って言ってるんだし。ここは澪として、しっかり受け止めてあげるべきでしょ♡」
「私の体で、これ以上変なことしないでよ……」
澪(精神は陽真)は、陽真(精神は澪)の制止を軽く受け流しながら、杏里に返信を送った。
《澪》
「わかった。明日、そっちに行くね」
スマホを置いた澪(精神は陽真)は、ソファの背にのけぞって満足げにひと息。
「さて……明日は“澪として”、大事な話を聞いてくるか♡」
一方で、陽真(精神は澪)は複雑な表情で、静かに麦茶を飲んでいた。
「……不安しかない……」
そして夜は、ゆっくりと更けていった。
53. 五日目-水曜日-
翌朝。
夏の陽射しがカーテン越しにやわらかく差し込み、部屋に朝の気配が満ちていた。
澪(精神は陽真)は、ぱちりと目を覚ますと、まだ少し眠たげな顔で大きく伸びをした。
「ふぁぁ……さて、今日は杏里ちゃんと会う日……だったな♡」
昨日の夜、お風呂でさっぱりし、陽真(精神は澪)が作った炒め物とお味噌汁で軽く夕飯を済ませたあと、ふたりは早めに就寝していた。
ベッドからゆっくりと起き上がると、澪(精神は陽真)はそのままクローゼットの方へ向かおうとした――が。
「ちょっとストーップ!!」
陽真(精神は澪)が、澪(精神は陽真)の腕をぴしっと横から伸ばして制止した。
「え?♡」
「……着る服、もう用意しておいたから!!」
すっと手渡されたのは、白のワイシャツに、落ち着いたラベンダー色のスカート。そして、その下に重ねられた紫色の下着セット。
「……お、おぉ?」
「なに驚いてんのよ。今日、杏里と会うんでしょ? それなら最低限、清楚感は出しとかなきゃまずいでしょ。“私”として、変な格好で行かれたら困るから」
「……ありがと。でも、やっぱ下着まで決められてるのはちょっと……なんか……♡」
「逆に、それ以外は着ないで!!勝手に下着漁られるよりはマシだし!!」
「わかったよ…♡でも……せっかくだし、エロいパンティ履いていこうと思ったのに♡……」
そう言いながら、澪(精神は陽真)は服のセットを両手で持ち、にまじまじと見つめた。
スカートのレース、ワイシャツの清潔感。
「……でも、このパンティも中々…♡」
頬を赤らめる。
陽真(精神は陽真)は、それをじっと見ていたが、ふっとため息をついた。
「変なテンションになってないで、さっさと準備して。あと顔もちゃんと洗ってね。“私”の顔なんだから、テキトーに済まさないでよ?」
「わかってるって♡……」
少し小さく返事をして、澪(精神は陽真)は洗面台のほうへ歩き出した。
その背中は、なんだか妙にウキウキと揺れていた。
顔を洗った後リビングでは、澪(精神は陽真)がスカートの裾を揺らしながら、鏡の前でひとつ大きく深呼吸していた。
「うん……見た目は完璧ね♡メイクもばっちり。今日は“澪”として大人しく、落ち着いて♡……」
そこへ、キッチンカウンターからコーヒーカップ片手に陽真(精神は澪)が近づいてきた。
「……あのさ」
その口調は、少し重たかった。
「ん? どした?♡」
澪(精神は陽真)は、にこにこしながら後ろを振り返る。
「……何度も言うけど、絶対に杏里に変なことしないでよ」
ピシッと指を立てながら、陽真(精神は澪)が真顔になる。
「大丈夫だって… 俺の信用ないな〜♡」
と、笑ってごまかそうとする澪(精神は陽真)。
「杏里も私も……ノーマルなんだから」
声のトーンが少しだけ弱くなる。
陽真(精神は澪)は、自分の中の“不安”がはっきりと言葉になって出てきたことに、少しだけ驚いたようでもあった。
「……まさかとは思うけど、好奇心とかノリとかでキスより先とかしたら、マジで一生恨むからね、もしもがあったら…体が元に戻ったら絶対別れるよ…」
「へいへい。わかってるって♡」
澪(精神は陽真)は、手をヒラヒラと振りながら、どこか軽い調子で返す。
「絶対に、ちゃんと話して、ちゃんとケリをつけて帰ってきてね。」
「……わかってるって♡」
そして――
「じゃ、そろそろ行ってくるねー。夕方には戻る予定。何かあったらLINEして」
「……うん。ほんとに、気をつけて」
澪(精神は陽真)は、スカートを整え、バッグを肩にかけ、玄関へ向かった。
そしてドアを開ける直前、ふと振り返って。
「杏里ちゃんが泣いたら、優しく抱きしめても……いい?♡」
「ダメ」
「はい。いってきます…」
ぱたん、とドアが閉まり、澪(精神は陽真)はエレベーターへと向かっていった。
54.杏里のマンション
平日の午前10時すぎ。
通勤ラッシュの名残が消えかけた駅のホームは、ほどよく空いていた。
澪(精神は陽真)は、白いシャツにスカートという清楚な装いで、電車の座席に腰をかけていた。
顔立ちが整っているのもあってか、向かいの女性二人組がこっそりと視線を送ってきていたが、当の澪(精神は陽真)はというと――どこかご満悦な様子だった。
「ふふっ♡……杏里ちゃんと話すの緊張するな…♡」
そう小さくつぶやいては、自分の膝の上に置いた紙袋をちらと見る。
そこには、駅前のスイーツショップで買った小ぶりのケーキが4つと、コンビニで買ったペットボトルのカフェラテが2本。
「お土産、持ってきたよ」と言えば杏里ちゃんも安心するだろう――そんな気遣いがあった。
電車は静かに揺れながら、数駅先へと進んでいく。
⸻
到着したのは、開発が進んだ副都心の駅。
澪(精神は陽真)は改札を抜けると、すぐそばにある駅直結のタワーマンションを見上げた。
「駅直結マンション……杏里ちゃん、いいとこ住んでんな……」
エントランスはすっきりとしていて、セキュリティも万全そうだ。オートロックのインターホンで、あらかじめ送っておいたLINEにあった部屋番号を呼び出すと、すぐに杏里の声が返ってきた。
「あ、澪…? 開けるね…」
扉がガチッと開き、エレベーターへと誘われるように入っていく。
中は涼しく、静かだった。
「あんまり緊張することじゃないよな……今日はただの“話”だし♡」
小さく深呼吸しながら、エレベーターの鏡越しに自分の姿を確認した陽真――いや、“澪の体の陽真”は、少しだけ頬を引き締めた。
杏里の部屋の階のランプが点滅すると、静かにドアが開く。
廊下を抜けて、部屋の前に到着。
チャイムを鳴らすと、内側からパタパタと軽い足音が聞こえ、カチャリと扉が開いた。
「澪……よかった、ちゃんと来てくれて」
そこに立っていたのは、部屋着姿の杏里だった。
やや気まずそうな笑顔を浮かべながら、彼女はそっとドアを開ける。
「入って…」
「……お邪魔します」
澪(精神は陽真)は、少しだけ気取った笑顔を浮かべ、紙袋を持った手を軽く挙げて見せた。
杏里の部屋のテーブルに並べられたケーキを前に、二人は軽やかに会話を交わしていた。
仕事の話や最近の趣味、ドラマの話題など、どれも穏やかで気楽な内容だった。澪(精神は陽真)も自然な笑顔を浮かべて応じている。
しばらくして、杏里の表情が少し変わった。視線を落とし、やや小さな声で切り出した。
「そういえば……この前のこと、話してもいいかな?」
-続く-