小説 【入れ替わり・歳の差】③ (Pixiv Fanbox)
Published:
2025-07-29 15:27:56
Imported:
2026-06
Content
-目次-
・7. この身体、もうアタシのものじゃない
・8. もう少し、このままでいたいの
・9. 女の子の身体で、体育だなんて
7. この身体、もうアタシのものじゃない
昼休み。キャンパスのカフェテリアは学生たちでごった返していた。
テーブルはどこも満席。空いているのは、かろうじて端にある3人掛けの狭い丸テーブルだけだった。
「こっちこっち〜♡」
白石沙耶の身体を使う“沙耶”(中身は間宮)は、スカートをひらりとなびかせながら、理沙と美優を導いた。
「うわ、狭い……」
「仕方ないか〜、お昼時だしね」
3人が並んで腰を下ろしたその瞬間——
もにゅ♡
(……っ!?)
左隣に座った理沙の肩と、間宮の胸がむにゅりと密着した。
その豊かな胸が、パーカーの下でわずかに押し潰される。
理沙が少しだけ身体を引いたが、カバンや他の学生に押されて動けない。
「いやん♡理沙ったら…♡ちょっと近いかも♡」
沙耶(精神は間宮)は、ニコッと微笑んだまま、わざとらしく上体を揺らす。
すると、胸がさらに理沙に押し当てられた。
「……さ、沙耶……あんた、なんか今日……」
「え? なぁにぃ?♡」
ニヤニヤと笑う沙耶(精神は間宮)。
その裏では、男の興奮と背徳感が渦巻いていた。
沙耶(精神は間宮)の心は静かに震えていた。
理沙から漏れる微かな香水の匂い。太ももと太ももが、スカート越しにふれる微かな刺激。
(……これが女子大生の世界♡……)
カフェのざわつきの中で、沙耶(精神は間宮)はテーブルに置いたパンをちぎり、ゆっくりと口に運んだ。
そして——
ちぎった指に残ったクリームを、舌でちろりと舐めとる。
「んっ♡……甘〜い♡」
わざと色っぽく発した声に、理沙と美優がちらりと視線を送る。
「……え、なにその食べ方」
「沙耶、今日なんか、ちょっとエロくない?」
「えぇ〜? そぉぉ?♡」
その瞬間——
遠くの柱の影から、それをすべて見ていた者がいた。
間宮の身体に入った沙耶だった。
「……なにしてるんでるか、間宮教授……」
見た目は、ただの中年教授。
だがその目は、自分の身体が、自分の友人たちと笑い合い、じゃれ合い、密着し、そして——舌で指を舐めている姿に、激しく屈辱を感じていた。
(……やだ……私、あんな風に……あんな顔で、あんな舐め方……)
屈辱で、唇を噛み締める。
そして、静かに、じわじわと心に迫るのは——焦りだった。
(このままだと……本当に、“私”じゃなくなっちゃう)
自分の身体が、他人の心と表情で動き、周囲から“沙耶”として受け入れられていく。
その事実が、耐えがたい不安となって、胸を締めつけていた。
自分の身体が、女の子同士の距離感で笑い、ミニスカートがめくれるのも気にせず脚を組み、
わざとらしく胸を揺らしながら席を立つ。
その演技は、周囲の誰にも、偽物だと気づかれていなかった。
8. もう少し、このままでいたいの
「沙耶、やっぱ今日、変だよね?」
「なんか喋り方も仕草も、ちょっと猫かぶってない?」
理沙と美優が笑いながらそう囁くと、沙耶の体の間宮は、パンの端をちぎりながらくすりと笑った。
「えぇ〜、そうかしらぁ?♡ 女の子らしくしてるだけよ〜♡」
その甘ったるい声に、2人は顔を見合わせる。
(なんか、ホントに今日の沙耶、ちょっと別人みたい……)
と、そのとき。
「……白石くん」
低く抑えた声が、背後から聞こえた。
3人が振り返ると、そこにいたのは——間宮(精神は沙耶)だった。
「えっ……教授? どうしたんですか?」
理沙が怪訝な顔をする。
「ちょっと、白石くんに……授業のことで、少し話があるんだ」
「え〜、またぁ〜? 授業って何〜?」
「うちらも関係ある〜?」
「うふっ♡すぐ戻るからぁ♡」
沙耶(精神は間宮)がそう言うと、立ち上がりながらにやっと笑う。
その仕草はどこまでも柔らかく、そして——女性の“皮”をかぶった男性には見えない。
「じゃ、ちょっとお邪魔するわねぇ、教授とふたりきりでぇ♡」
「……っ!」
間宮(精神は沙耶)は、苦い顔でうなずきながら、沙耶(精神は間宮)を連れてカフェテリアを後にした。
研究棟の隅、誰もいない間宮の研究室。
昼休みのざわめきが遠のき、静けさが満ちる。
ドアを閉めると同時に、間宮(精神は沙耶)は声を上げた。
「もういいですっ! もう十分ですっ! 単位なんていらないですから、お願い……戻してくださいっ!!」
机の前に立つ“自分の姿”が、ひょいと眉を上げる。
「うふっ♡どうしたんですか?そんなに必死になっちゃって?♡童貞みたいですよぉ♡」
「ふざけないで……私の体で……あんなに、ベタベタして……見てたんですからね、全部……!」
声が震える。感情があふれそうになる。
間宮(精神は沙耶)は、拳をぎゅっと握りしめて睨みつけた。
「私の身体、早く返してくださいっ!!」
すると——“沙耶(精神は間宮)”は、ふっと微笑んだ。
「……嫌よ…♡だって、アタシ、この体気に入ったんだもん♡」
「……え?」
「こんなに柔らかくて、軽くて、動かしやすい身体……女の子のふりして、友達と喋って、スカートふわっとさせて♡……」
少しずつ、彼の“本音”が混じってきていた。
「……アタシ、もうちょっとこのままでいたいの♡ね? いいでしょ?♡」
「よくないですっ!」
間宮(精神は沙耶)は机を叩いた。
「本当に早く戻してくださいっ!!」
その言葉に、“沙耶(精神は間宮)”は一瞬だけ目を伏せたが、すぐにいつもの笑みを戻す。
「……じゃ、あとちょっとだけ♡我慢して?♡」
「ふざけないでくださいっ!!」
怒鳴った間宮(精神は沙耶)の声が、静まり返った研究室に響いた。
——だが、“沙耶(精神は間宮)”はその声を聞いてもなお、穏やかなまま。
沙耶は言葉を失った。
(……この人、本気で……このままでいたいと思ってる……?)
そして同時に、自分の身体が、誰かにとって“自分以上に心地いい場所”になっている現実に——
言いようのない怖さを感じていた。
9. 女の子の身体で、体育だなんて
「……わかりました、午後の授業が終わったら、戻してください…」
間宮の身体に入った沙耶は、諦めたように言った。
声には怒気も残っていたが、それ以上に、疲れと焦りが滲んでいた。
「うふっ♡交渉成立ね…♡」
沙耶の身体を使って笑う“間宮”は、どこまでも柔らかい表情。
その笑顔が、自分の顔をしていることが、沙耶には堪らなく不快だった。
だが、間宮(精神は沙耶)には選択肢がなかった。
彼女は、研究室の奥にある入れ替え装置を見た——
「……あの機械、教授しか起動の仕方わからないんですよね?」
「そういうことよ…♡」
にやりと笑う沙耶(精神は間宮)。
(最低……)
歯ぎしりしたい気持ちをぐっと堪えて、間宮(精神は沙耶)黙り込んだ。
(……いい。あと少しだけ。我慢すれば……元に戻れる)
その後、沙耶(精神は間宮)は友人の元に戻った。
「え、今日って体育じゃん!」
「マジか〜、めんどくさ〜い」
カフェテリアを後にした理沙と美優がそう言うと、沙耶(精神は間宮)は目を輝かせた。
「体育…♡」
「そうだよ。あんた忘れてたの?」
「ううん、すっごく楽しみ♡」
「あやしっ!」
ふざけ合う声とともに、3人は女子更衣室へと向かっていく。
その後ろ姿を、やや離れた位置から見ていた間宮(精神は沙耶)は、胸がぎゅっと縮こまるような気がした。
(まさか……この状況で、体育……!)
しかも、それは“沙耶の身体”として、更衣室に入り、着替え、運動をするということ。
焦りに唇を噛む間宮(精神は沙耶)だったが、男性である今の自分が女子更衣室に踏み込めるわけがない。
せめてもの抵抗として、呟く。
「変なことだけは……絶対にしないでくださいよっ…」
沙耶の体を使っていた“間宮”は、振り返ってニコッと笑い、軽くウィンクしてきた。
「わかってるわよ…♡体育は真面目に受けるだけよ♡」
だがもう、止めようもなかった。
沙耶の身体は、間宮の心を乗せたまま、躊躇なく女子更衣室のドアを開けていく。
(お願い……本当に、何もされませんように……っ!)
教室のガラス越しに遠ざかっていく“自分の背中”を見ながら、間宮(精神は沙耶)は再び拳を握り締めた。
-続く-