小説 【入れ替わり・上司2】② (Pixiv Fanbox)
Published:
2025-09-09 15:00:59
Imported:
2026-06
Content
-目次-
・4.異性の靴
・5.女性の買い物
・6.側から見ればオカマ
4.異性の靴
会計を済ませて席を立ったふたりは、並んで居酒屋入口の靴箱の前に向かった。
靴箱の中の、そこに並ぶのは、男性用の黒い革靴と、女性用の華奢な黒いパンプス。
翔也(精神は紗英)は、無造作に革靴を取り出す。
「これ、村田くんの靴よね。やっぱり重たいわね」
屈んで足を差し込む姿は、外見こそ若いサラリーマンだが、所作の柔らかさに女性らしさがにじむ。
一方で、紗英(精神は翔也)は、黒いパンプスを手に取った。
細くて丸みを帯びたつま先、艶のある素材、かかとの低いヒール。
履こうとすると足の甲にひんやりとした感触が走り、自然と胸が高鳴った。
「……高垣係長の女性用のパンプス…♡これを俺が履くのか……♡」
革靴に慣れた感覚とはまるで違う。足元が急に華奢になった気がして、心臓がどくどくと鳴る。
ヒールの高さは低いのに、パンプス特有の締め付けと、足の甲が露わになる恥ずかしさが妙にリアルだった。
ちらりと視線を向けると、翔也(精神は紗英)が、無造作に革靴の紐を締めている。
(……なんだこの妙な状況……)
紗英(精神は翔也)は顔を赤らめ、少し興奮していた。
⸻
ふたりは居酒屋を出て、夜風に当たりながら駅へと向かう。
けれど、どこか違和感を覚える。
翔也(精神は紗英)は、女性用の黒いビジネスバッグを肩にかけていた。
そして紗英(精神は翔也)は、男性用の黒いリュックを背負っている。
つまり――外見と荷物の組み合わせが逆になっていたのだ。
若いサラリーマン風の男が女性物のバッグを持ち、
スーツ姿の大人の女が男物のリュックを背負っている。
すれ違う人の目に映れば、どこかちぐはぐで奇妙な取り合わせだろう。
しかしふたりは互いに視線を交わし、言葉にせずに笑った。
「……なんか、変な感じですね」
紗英(精神は翔也)が小さく呟く。
「そう?まあ、バレなきゃいいのよ」
翔也(精神は紗英)は肩をすくめ、楽しげに歩みを進める。
パンプスのコツコツという軽やかな音と、革靴の重たい足音が、並んで夜の道に響いていた。
5.女性の買い物
最寄り駅のホームに立ったときから、紗英(精神は翔也)の鼓動は速まっていた。
紗英(精神は翔也)は、周囲から見ればスーツ姿の大人の女性だ。ドアが開き、通勤帰りのサラリーマンや学生と一緒に電車に乗り込むと、その事実が全身に突きつけられる。
吊革を握るたびに、胸元がわずかに揺れる。すぐそばに立つ男たちの視線が背中や髪に触れてくるような錯覚。
(……これが、女として満員電車に乗る感覚か……♡)
ほんの些細な仕草や衣擦れの音に、自分が完全に女性として見られているという事実が重なり、思わず下腹部が熱を帯びた。
異性の上司の体を通して感じる羞恥と興奮。その背徳感に、紗英(精神は翔也)は息を整えるのがやっとだった。
⸻
翔也のマンションの最寄り駅に到着し、二人は改札を抜けて近くのコンビニへ入った。
明るい照明に照らされ、棚には日用品や食品が整然と並んでいる。
そこで、翔也(精神は紗英)が迷いなく下着コーナーに向かい、棚から質素なピンク色の女性用ショーツを手に取った。
「これで十分ね」
自分の声でさらりと言い放ち、カゴに放り込む。その仕草は堂々としていて、周囲の視線を一切気にしていない。
さらに彼女は、生理用品の棚に手を伸ばす。
「一応、念のためこれも買っとこうかしら」
そう言ってナプキンのパッケージをカゴに加える。
隣に立つ紗英(精神は翔也)は、顔がかっと熱くなった。
――自分が女上司の体で、そのカゴを持っている。
中身は、女性下着と生理用品。
恥ずかしさが込み上げ、胸がざわつき、息が浅くなる。
(……うぅ…高垣係長、俺の体でそんな堂々と生理用品とか女性用下着買わないでくださいよ…こんな姿、誰かに見られたら……俺、本当に変態みたいじゃないですか……)
それでも、羞恥と同時にどうしようもない興奮が体の奥から込み上げてくる。
男としては場違いな買い物を、女の姿で受け止める。その背徳感に心臓が暴れ、喉が渇くのを感じていた。
カゴを持つ指先まで、ほんのりと震えていた。
6.側から見ればオカマ
コンビニで販売されている質素な女性用下着や生理用品に加え、晩酌用にビールとチューハイ、枝豆とチーズもカゴに入れると、ふたりはレジへと向かった。
先に歩くのは――翔也(精神は紗英)。
迷うことなくカゴをレジ台に置き、店員に微笑む。
「これ、お願いします」
その声は、若い男の声なのに、口調は女性そのもの。
しかもカゴの中身は、質素なピンク色の下着にブラジャー、生理用品まで揃っている。
紗英(精神は翔也)は横で固まりそうになった。
(ちょ!?高垣係長!?……俺の体で、恥ずかしげもなく生理用品とか入ったカゴをレジに、置かないでください……)
最寄りのコンビニ。普段もよく利用する場所だ。
この店員の記憶に「翔也=女物を平然と買う男」として残ってしまうかもしれない。
そう考えると背筋がぞくりと震え、頬が熱くなる。
だが、当の本人――翔也(精神は紗英)はまるで気にしていない。堂々と会計を済ませ、袋詰めまで手伝ってもらっている。
袋詰めが終わった後そそくさと隠すように、紗英(精神は翔也)は袋を受け取ろうとすると、翔也(精神は紗英)がにっこり笑い、
「今は私が男でしょ。量もあるし、私が持つわ」
と、女口調でさらりと言った。
店員の耳にもそのやり取りは届いていたはずだ。
――男の声で女の口調。
紗英(精神は翔也)は、思わず頭を抱えたくなる。
(俺が……完全にオカマみたいに思われるじゃないですか……)
恥ずかしさに胃がきゅっと縮む思いだったが、結局、袋は任せることにした。
こうしてふたりはコンビニを出て、夜風の中を並んで歩き出す。
袋の中で、女性下着のパッケージがかすかに擦れる音がする。
その音だけで紗英(精神は翔也)の胸はざわつき、妙な興奮と羞恥が混じり合っていた。
やがて、二人は翔也のマンションの前にたどり着いた。
玄関の前で立ち止まり、互いに目を合わせる。
その視線の奥にあるのは、理性よりも好奇心と、抑えきれない熱だった。
-続く-