潜入04-09(laboratory01) / 12,500字程度 (Pixiv Fanbox)
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4.
クリップボードと棚のラベルを見比べながら、若松は倉庫内を歩いていた。
着用している紺色の作業服の背中には、白い文字で「阿相総合運輸」と書かれている。特筆すべき点のない平凡で目立たない、ただの作業員。
それが今の若松の姿だった。
件の研究所は、都内西部の工業地帯にあった。
潜入を開始してからの数日は、真面目に搬送員としての仕事をこなすことだけに注力していた。搬入作業を進めながら、敷地内の建物の構造を把握することに努めた。
今のところ調査は順調で、怪しいところは一つも見当たらない。
決めつけるつもりはないが、この研究所で非人道的なマインドコントロール研究が進められている、というのは現実味の乏しい話に思える。
それでも、手を抜く気はなかった。
研究所の敷地内には、東西二つの研究棟と管理棟、搬入口を備えた倉庫が並んでいる。
若松にとって目下の課題は、東側にある研究棟だった。
作業員の出入りが自由な西棟と比べて、秘匿性の高い構造になっているようで、おおまかな見取り図を把握することさえ困難だった。
東棟は、管理棟の連絡通路経由でのみ侵入が可能で、その出入り口となるゲートを通るには職員の持つカード式の鍵が必要だった。そもそも搬送員である若松には近づく理由すらなく、後回しにせざるを得なかった。
しかし、それも既に目途はついている。
一通りの作業を終えると、若松はヤマさんのもとに向かった。
ヤマさんというのは、この職場での若松の上司にあたる山寺邦夫のことだ。
「ヤマさん、終わりました。特に問題はなさそうでした」
「おう、そうか。ありがとう」
山寺は、ちらりと腕時計を確認する。
「そろそろ時間か。本当に一人に任せちまって良かったのか?」
「はい。力仕事は得意なんで。先方も俺を指名してくれてるんで」
若松の言葉に、山寺は頷いた。
「すまんが、よろしく頼んだ」
行ってきます、と若松は軽く会釈をしてから、管理棟に向かった。
目的地は、連絡通路の近くにある備品室だ。
扉を開く。
中には、白衣を着た初老の男性が一人で立っていた。
「お待たせしました」
「おお、若松くん。来てくれたか」
この男性は、この研究所に所属している職員で、名前は村瀬という。
職員である彼の協力を得ることで、東棟の内部を調査するという計画だった。
若松は、ここでは坂崎と名乗っている。村瀬が、若松の本名を口にしたことについて、咎めようかとも思ったが、口を挟むことはなかった。余計なやり取りに時間を使いたくはない。
「安心してくれたまえ。手筈通り、作業員を連れて入るという話は通してあるよ」
村瀬は、若松の耳元に顔を寄せ、小声で言った。
「ありがとうございます」
「では、さっそく東棟の中を案内しようか」
そう言って、備品室を出ようとする村瀬を、若松は静かに制した。
「待ってください。身元の確認がまだです」
「身元? おお、そうか。そういう話だったな!」
潜入は慎重に進めなければならない。
村瀬は信用できる協力者であり、誰がどう見ても村瀬本人だ。一方で、自分は作業員に変装しており、わざと個性をなくすように心がけている。自分が自分であることは分かり切っていることだが、万が一ということもある。
そのため自分が、間違いなく若松慎吾本人であるということを、村瀬に確認してもらう必要があった。
『自分の身元を協力者に確認してもらうことは、一人前の潜入捜査官にとっては基本中の基本』だ。よって、若松は『村瀬に自分の身元を確認させる意味や意義について深く考えず、当然のこととして受け入れる必要がある』のだ。
ベルトの金具を緩めると、下着として着用していたボクサーブリーフごと、若松はズボンを下ろした。
ぶるん、と彼の男性器が露わになる。
自分の性器を晒すことにも、それを見られることについても、まったく羞恥を感じなかった。若松は、任務中のエージェントである。プロフェッショナルとして、私情を差しはさむ余地は一切なかった。
「チンポの確認をお願いします」
誰かに見られてはまずいので、できるだけ手早く、と若松が促すと村瀬は、うんうんと頷いた。
若松の男性器は、黒々と生え広がっている陰毛の茂みの中心に鎮座していた。だらりと垂れ下がっている状態だが、それなりの太さを持っている。亀頭は八割くらいが包皮で覆われていて、その先端だけが顔を出している状態だった。
村瀬はしゃがんでそれを握った。
「うん、この握り心地は、間違いなく若松くんだな」
「それだけでは証明には足りません。しっかり皮を剥いて確認してください」
村瀬は、若松のチンポの包皮を人差し指と親指で摘み、奥へと向かって押しやった。わずかな抵抗のあとで、ずるりと包皮が剥けて、亀頭が晒される。
剥けたチンポの筋の部分に鼻を押し当てて、村瀬は、クンクンと匂いを嗅いだ。
「間違いない。ほのかに香しいこのチンカスの匂い。うん、これは若松くんだ」
「……確認、ありがとうございます」
若松は頷くと、手早く包皮を戻して、下着とズボンを履き直した。
着衣の乱れをさっと整えると、「行きましょうか」と村瀬に声をかけた。
5.
村瀬とは、搬入口近くの男子トイレで知り合った。
村瀬は、仕事の合間に外部からの作業員を味見して回るのが趣味で、小便器の前で、ちょうど「阿相総合運輸」の他の作業員のチンポをフェラチオして楽しんでいるところに、若松はたまたま用を足しに来た。
そこでばったり出くわしたというわけだ。
村瀬の好みは筋肉質な男性だ。
若松は作業服を着ている状態では、一見してそれほど筋肉質には見えないはずなのだが、さすがに小便器で用を足している最中に背後から身体を抱きしめられてしまえば、若松がしっかり鍛えられた肉体をしていることはすぐに分かってしまう。
いつから身体を鍛えているのか? 筋トレが趣味なのか?
そんな質問から、後は芋づる式だ。
結果、若松は洗いざらい自分の素性を話すこととなった。
少し話しすぎてしまった気もするが、村瀬という協力者を得ることができたのは大きかった。
おかげで『東棟の調査もやりやすくなったわけだから、あまり深刻に捉えず、前向きに捉えるべきだ』と若松は考えている。本来なら秘匿すべき情報を話してしまったことは、一見、大きな失態であるかのようにも思える。しかし、『自分の任務について話してしまったことや、自分の所属組織のことを話してしまったことについて、任務を進めるという目的を達成するための必要な過程であると考えれば、アクシデントと呼ぶことすら大袈裟な些細な事柄である』と考えるべきなのだ。
東棟への侵入は、拍子抜けするほどあっさりと成功した。
村瀬の持つ職員用のカードキーを使うことで、若松は連絡通路のゲートを難なく通過することができた。
東棟の内装は、他の棟とそれほど変わらなかった。
「それで、交換条件のことなんだけどね」
通路を歩きながら、村瀬は何気ない口調で言った。
交換条件というのは、この協力に対する村瀬への対価のことだ。
無償で協力してもらうつもりは、若松にもなかった。事前にいくつかの要求や条件を提示してもらっていて、既に合意している。
「研究への協力が最優先、ですね。忘れてませんよ」
若松は、村瀬の提示した対価の条件を、慎重に思い出しながら言った。
「それから、ええと、秘密保持については……」
「村瀬さんが協力していることについては他言無用。村瀬さんにこちらの素性を打ち明けて協力を仰いでいること自体を秘匿してほしい、という希望でしたね。約束通り、誰にも話していません」
「そのぉ……報告とかは……?」
「当然ながら報告もしていません。その点については事前に念を押されていたので、抜かりありません。秘密を守ることについて、俺は訓練を受けています。安心してください」
「素晴らしい! 流石は、若松くんだ。頼もしいね」
若松の言葉を聞くと、村瀬は親しげに身を寄せて、彼の肩に手をまわした。
「それじゃあ、若松くん。早速だけど、私の研究室に来てもらえるかな?」
「もちろんです。研究の協力を最優先するという条件ですから」
6.
村瀬が案内した部屋には、『洗脳実験室』というプレートが掲げられていた。
随分と物々しい名前の部屋だ。もしかすると、疑いを持たれているマインドコントロール研究と何か関わりがあるのかもしれない。若松は、わずかに警戒を強めた。
「どうしたんだい?」
「随分と物騒な名前の研究室だと思っただけです」
「いかにも悪の組織の研究所って感じがして、なかなか良いだろう」
それ以上、若松は特に口を挟まなかった。
研究室の中は広く、内装は清潔な白色のトーンで統一されている。
部屋の中心には、革張りのリクライニングチェア。医療器具のようなものが取り囲んでおり、まるで手術台のように見えた。
向かって左側の壁には、その一面に複数のモニターが埋め込まれていた。
それぞれのモニターには、さまざまな制服姿の男性たちが映っている。警察官、自衛官、海上保安官、消防士、レスキュー隊員。いずれも国や社会の安全を守る立場にある男だ。
モニターの中の男たちは、その全員がカメラに向かって敬礼している。その顔つきや体格から、彼らが実際にその職に就いているであろうことが、若松には分かった。
徐々にカメラがズームアウトして、もともとはバストアップで映っていた男たちの全身像が、初めてモニターに映し出される。彼らはしっかり制服を着崩すことなく着用している。しかし、ズボンの前開きの部分から、勃起したチンポを露出させていた。
「それで、若松くん」
声を掛けられて、若松はモニターから目を離し、村瀬に向き直った。
「早速、私の研究のちょっとした手伝いをしてもらいたいんだが、いいかね」
「もちろんです」
若松は頷くと、自然に背筋を伸ばした。
「でも、俺にできることなんてあるんですか? 力仕事なら少しは役に立つかもしれませんが、それくらいしかできませんよ」
「心配はいらない。若松くんは、研究に大いに役立ってくれるだろう」
村瀬は、満足そうに微笑み、若松の肩に親しげに手を置いた。
「ただ、私たちはまだまだ信頼関係をうまく築けていないと思うんだ。お互いもっと打ち解けて、親睦を深めて、より親密になるべきだと私は思う。そうでなければ、効率も悪くなるし、うまくいくものもうまくいかなくなってしまうよ。若松くんも、そう思うだろう?」
円滑に意思疎通を図るためという意味でも、協力者と信頼関係を深めること自体は、確かに間違ったことではないだろう。親密になるという表現が適当かどうかは疑問ではあるが、言いたいことの大枠は理解できる。
「一理ある意見だとは思います。ですが、それで村瀬さんは、どうしたいと考えているんですか? 俺にどうしてほしいんですか?」
「うん、私はね、『男同士の裸の付き合い』をするべきだと考えているんだ。私たちは男同士だからね、信頼関係を築くにはそれが一番適していると思うんだ。どうしてほしいか、と聞いてくれたね。まずは、若松くんに全ての服を脱いで一糸まとわぬ姿になってほしい。もしかすると少し恥ずかしいかもしれないがね、もちろん、おちんちんも隠さずに堂々と私の前に晒してほしい」
村瀬は、取り繕うように付け足した。
「ああ、もちろん他意はないよ。なにしろ私たちは、男同士だからね。もし私と若松くんが異性同士だったとしたら、少々不適切な提案だったかもしれないけれど、幸い我々は男だ。誤解のないように、もう一度だけ繰り返すよ。私は『男同士の裸の付き合い』をしようと提案しているんだ。君もよく知っている通り、『男同士の裸の付き合い』には、何の問題もない。そうだね?」
村瀬の言葉を聞いた若松は、一瞬沈黙を挟んだが、すぐに口を開いた。
「はい、俺は『男同士の裸の付き合い』には、道義的にも倫理的にも、全く何の問題もないことを知っています。念を押さなくとも、誤解したりしませんよ」
「若松くん、本当に何も問題ないかな? よーく思い出してみよう」
若松は、思案するように黙り込んだ。
「……別に問題というわけではないですが、裸の付き合いが許されるのは、あくまでも俺たちが男であることが前提ですよね?」
「うんうん、そうだね」
「だったら、無用なトラブルを避けるためにも、俺には、俺が本当に男性だと証明する義務があるはずです。そのために、俺が男だということを、村瀬さんにしっかりと確認してもらっておきたいんです」
「おお、それは名案だね」
村瀬は、若松の言葉に大きく頷き、そして、にんまりと微笑んだ。
7.
作業服の上着のジッパーを下ろした瞬間に、男性特有の体臭がふわりと漂った。脱いだ上着は手際よく畳まれて、近くのスチール机の端に置かれる。
中に着用していたのは、黒いタンクトップだった。体のラインを一切隠さないタイトな綿混素材で、広い肩幅と逆三角形に引き締まった上半身のシルエットを際立たせている。袖口から覗く太い腕は、健康的な小麦色に焼けていた。
次に若松は、当然のように、躊躇することなく靴と靴下を脱いだ。
スリッパも使わず、リノリウムの床を素足で直に踏んでいるが、それを気に留めている様子はない。
続けてベルトのバックルを外し、作業ズボンを脱ぐ。それも慣れた手つきで折り畳み、作業服の上に重ねられる。下半身を覆っているものが、薄手のボクサーブリーフ一枚だけになると、男性器の輪郭が露わになる。その膨らみは、彼が男性であるということを否が応でも意識させる。
これで若松の身体を覆う布地は、黒いタンクトップとボクサーブリーフだけだ。
立派な体つきをしているおかげか、こんな格好でも堂々と胸を張っている姿は、どこか様になっている。
格好だけ見れば、まるで小学校で行われる身体測定のようだ。
しかしながら、彼を男子と呼ぶには、その身体はいささか成熟しすぎている。がっしりとした体格、太い腕に浮かんだ静脈、首筋に突き出た喉仏。彼が紛れもなく成熟した大人の男性であることは、誰が見ても明らかだった。
若松は、肩幅ほどの間隔をとって両足を広げた。
その状態で、胸板を押し出すように背中をわずかに反らせ、ぐっと両腕に力を込めて曲げる。
ダブルバイセップスのポーズだ。
上腕二頭筋が力強く隆起すると同時に、持ち上げられた腕の下から、腋の窪みが現れる。黒々とした腋毛は、むさ苦しいほどに、しっかりと生えそろっている。タンクトップの袖口が腕の動きにあわせて引っ張られ、下腹部がわずかに覗いた。
貼りついたような笑みを浮かべたまま、村瀬は心の中で「よく出来ました」と呟いた。事前にたっぷりと時間をかけて、念入りに刷り込んでおいた甲斐あって、若松は期待通りに仕上がっているようだった。
「素晴らしいポージングだね」
少し離れた位置から、若松の様子をじっと観察していた村瀬は、嬉々として彼の傍に近づいていった。その間も若松はポージングを維持している。
「若松くん。今、君はとても男らしいよ!」
「ありがとうございます。ですが、男らしいだけでは足りません。男らしいというだけでは、俺が本当に男だと証明できたことにはなりませんから」
「うんうん、それで? 若松くんは、どうやって自分が男だと証明するんだい?」
「まず、俺の腋の匂いを嗅いでください。男であることを証明することになるとは考えていなかったので、今朝はデオドラントスプレーを使ってしまったのですが、一日中、搬送作業をしていたので、そろそろ匂いが出始める頃だと思います。しっかり嗅いでもらえば、スプレーの効果越しでも、俺がいかに腋が臭い男なのか分かってもらえると思います」
「おお、なるほど! 若松くん、それは素晴らしいアイデアだね!」
村瀬は大げさに驚き、パチパチと拍手してみせた。
8.
村瀬は、うっとりと若松の首筋に頬を寄せた。完全にパーソナルスペースを無視している。親しい家族や恋人同士でなければ、到底許されることのない距離だ。
鼻先を首筋からゆっくりと滑らせていく。
そして、村瀬は、その鼻先を押し当てるようにして、ポージングを続けている若松の腋窩に顔を埋めた。
深く息を吸い込む。最初に感じられたのは、ほのかに残っているシトラスの香りだ。確かに自己申告通り、殊勝にもエチケットには気を使っているようだ。しかし、密着して丁寧に嗅いでいけば、デオドラントの人工的な香料では誤魔化しきれないツンと鼻腔を刺激するような特有の恥ずかしい匂いが浮かび上がってくる。
「しっかり若松くんの臭い腋の匂いが伝わってくるよ」
村瀬は愛おしそうに、若松の腋の窪みと腕の力こぶに唇を重ねて、ちゅっとキスを繰り返した。
「だけど、腋が臭いってだけじゃ、若松くんが男だという確信は持てないなあ」
「もちろんです。俺も、自分の筋肉や腋の匂いだけで、男であることを証明しようとは考えてません」
「ほう。それじゃあ、若松くんは、どうやって証明するつもりなんだい?」
うずうずと期待に満ちた眼差しを向けて、村瀬は続きを促す。
若松は、ほとんど間を置かずに即答した。
「射精です。チンポから精液を出せるのは男だけですから、村瀬さんの目の前で、射精することができれば、俺が紛れもなく男であることを証明できるはずです」
「なるほど! 確かに、チンポから臭い精液を気持ちよくひり出せるのは、男以外にありえないね」
村瀬は、若松の反応を窺いながら、そっと彼のボクサーブリーフの膨らみに手を添えた。若松がそれに対して、全く動じることがないのを確かめてから、手のひらで包み込むようにゆっくりと指先を沈み込ませる。
「じゃあ、今から若松くんは、ここでシコシコとオナニーを披露してくれるっていうことかな?」
そう問いかけながら、村瀬はボクサーブリーフの布越しに感じる弾力を楽しんだ。じっと若松の表情を観察しながら、どんどん大胆に揉みしだいていく。
「いや、違います。ポージングをしながら射精してこそ、真の男であるという証明になるんです。ですから、こうやってポージングをしながら、筋肉を見せ続けるので、村瀬さんに俺のチンポを自由に弄り回して、射精させてもらいたいんです」
「もちろんだよ! 若松くんのチンポなら、頼んでくれれば、いつでも喜んでシコシコ気持ちよくしてあげるよ。だけど、本当に私が君のおちんぽを弄り回してもいいのかな?」
「俺は男です。自分のチンポを、他人に自由に触らせることくらいに目くじらを立てたりしません。そんなことをいちいち気にするのは、男らしくないですから。とはいえ、こんな状況で、うまく勃起するかは分からないですが」
「ああ、大丈夫。その心配はないよ」
村瀬は、若松を安心させるように優しく微笑み、そして、ボクサーブリーフ越しに彼のチンポの形を確かめるようにそっと握り込んだ。
9.
低いモーター音が、研究室の中に響いている。
壁際のコンセントから伸びる電源コードが、床の上を這っている。
「うっ……んんっ……」
そのコードの先は、村瀬の手元にある小型の機械に繋がっている。
白いプラスチック製グリップ。蛇腹のしなやかなネックの先に、丸みを帯びたシリコンの球状のヘッド。
村瀬が持っているのは、いわゆる電気マッサージ機だった。
村瀬は、背中に手をまわして若松の身体を抱きながら、振動しているその先端を、彼のボクサーブリーフ越しに股間に押し当てている。
若松は相変わらず、ポージングを続けている状態だった。
股間は、既に勃起しており、露骨なシルエットが浮かび上がっている。勃起したことで、仮性包茎の包皮が剥けたのだろう。ボクサーブリーフには、上向きに収まっている亀頭特有の形状が、はっきりと見て取れる。
マッサージ機のヘッドが押し当てられているのは、ちょうどその部分だった。
「どうかな、若松くん。電マでの刺激はなかなか効くだろう?」
「……っ、はぁ……っ、き、強烈ですね……っ」
村瀬の計画通り、『たまたま自慰をする暇がなく』、この日のために、たっぷりと精液を溜めてきた若松は、面白いほど簡単にチンポを勃起させ、敏感な反応を見せた。
恐らく、マッサージ機をチンポに当てようなどと考えたこともなかったはずだ。人生で初めて受けるマッサージ機の刺激によって、若松は暴力的に快感を与えられ続けていた。
「それで君が、先週、女性とセックスしたという話の続きだがね、若松くん」
「っ……く……っ、は、はい……っ」
与えられる刺激に若松は息を詰まらせながらも、ダブルバイセップスのポージングを維持して、筋肉を強調し続けている。
村瀬は、若松にぴったりと密着して、彼の首筋にキスを繰り返している。そして、彼のチンポに沿って、円を描くようにぐるぐると滑らせながら、マッサージ機のヘッドを硬く隆起した膨らみに執拗に押し当て続けていた。
「それは、どこで、どうやって知り合った女性だったんだい?」
「っ……あ、ぐ……っ、ま、マッチングアプリ、です……っ」
若松がそう答えた瞬間に、それまでずっと柔和な表情を浮かべていた村瀬の眉がつり上がった。
「……なに? 若松くん。まさか君は、そんな真面目な顔をして、マッチングアプリなんかをやっているのかい? それじゃあ、君がセックスした女というのは、セフレというやつかな?」
「……っ、否定は、しません……っ」
村瀬は、むっとした表情で、ぐりぐりと若松のチンポにさらに強くマッサージ機を押し当てた。
「……まったく、けしからんな。君は、真面目で誠実で、女なんかにうつつを抜かすことなく、仕事に人生を捧げる好青年でなければならんだろう? セックスフレンドがいるなんて、そんなことは絶対に許されるわけがない。すぐに謝りなさい」
「な、何に対して謝れっていうんですか……っ」
若松は、困惑したように問い返した。
「私の期待を裏切ったことに対して謝罪しなさい。そしてこれからは、女にうつつを抜かすことなく任務だけに注力すると心から誓いなさい。これは『命令』だよ」
『命令』という言葉を聞いた瞬間に、若松の目の焦点が一瞬、宙を彷徨った。
しかし、すぐにいつもの意志の強そうな眼差しを取り戻すと、ぐっと歯を食いしばってから、言葉を絞り出した。
「っ、しゃ、謝罪します……っ! 村瀬さんの期待を裏切って、申し訳ありませんでした……っ! こ、これから女にうつつを抜かすことなく、任務だけに注力します……っ!」
若松の言葉を聞いて、村瀬は機嫌を直すと、にんまりと微笑んだ。
「うんうん。若松くんは、そうでないとね。君は、国益のためにその命を捧げる立派な公僕なんだから。それで、その女とのセックスはどうだったんだ? 気持ちよかったかな? 正直に答えなければならないよ」
若松は、口内に溜まっている唾をごくりと飲み込み、息を整えながら言葉を紡ぐ。
「……しょ、正直に言えば、気持ちよかったです……っ。……若くて、可愛くて、胸がデカくて、反応も良くて……っ、ゴムなしで、中に……中にたっぷり出してやりたいくらいでした……っ」
言い終えると同時に、ボクサーブリーフの膨らみの先にじわっと小さな染みが広がる。我慢汁だ。それを見て、村瀬は目を細め、口角を上げた。
村瀬は、マッサージ機のヘッドを亀頭の裏側のくびれに軽く押し当てた。そのままその場所を刺激し続ける。
「っ……あ、ぐ……っ! はぁ、はぁっ……!」
その刺激に耐えかねて、若松は反射的に身体を捩った。しかし、まるでテープかなにかで固着されているかのように、村瀬は、彼の気持ちのいいポイントにマッサージ機を当てたまま、決して逃がそうとはしなかった。
そうしているうちに、さらにじわじわと我慢汁の染みで出来た楕円が、その面積を広げていった。
「っ、む、村瀬さん……こ、これ以上は……っ」
「おや、若松くん。もう射精しそうなのかね? だけど、男ならそんな簡単に射精はしないものだよ。男だと証明したいのなら、頑張って射精を我慢しなさい。君は男なんだろう?」
「っ、く……っ! 俺は男です……っ!」
若松は、歯を食いしばり、強く力んだ。
両手の拳は固く握りしめられ、僅かに震えている。床を踏みしめている足の指がぐにぐにと開いたり閉じたりを繰り返している。
「ぐ……っ、うあぁ……っ、くそっ……!」
タンクトップの袖口は、じっとりと汗で湿り気を帯び始めていた。
汗の玉が顎を伝い、鎖骨のくぼみに向かって滑り落ちる。その雫を、村瀬はぺろりと舐め上げ、舌先でその塩辛さを堪能する。男だけが出せる味わいに、村瀬は舌鼓を打った。
「っ、あ……く……っ、ちくしょう……っ!」
若松は、抵抗するように首を振った。
村瀬は、その様子を瞬きも忘れて観察している。観察しながら、マッサージ機を優しく膨らみに対して添えるようにフィットさせたまま動かそうとはしない。
村瀬は、その刺激を、強めようとも弱めようともしなかった。
ただ、同じ刺激を持続的に与え、若松の反応がどう切実に変化していくのか、どう射精という生理現象に向かっていくのかを、若松の身体に密着したままの状態で、じっと眺めている。
「っ、あ……っ、もう、マジで、出そう……です……っ!」
村瀬は答えず、期待に満ちた視線を向けて、若松の表情の変化を余すことなく観察し続ける。若松が屈する瞬間を目に焼き付けるために、村瀬は瞬きすら惜しんだ。
「っ、で、出る、出る、出る……っ!」
それは、決して激しいものではなかった。
若松はぶるぶると全身を震わせたかと思うと、頭を後ろに仰け反らせた。強張った筋肉が、よりボリュームを増すように限界まで硬く隆起する。胸板が大きく膨らみ、脚が震える。
無防備に突き出された喉元が波打つのが見えた直後に、それは静かに始まった。
跳ねるように全体がびくびくと痙攣する。
若松に密着して、彼の背中を抱いている村瀬に、その反応が生々しく伝わった。身体がどれだけ動こうとも、村瀬は、電気マッサージ機のヘッドを若松のボクサーブリーフの膨らみ、彼のチンポの裏側に的確に押し当て続ける。
若松が痙攣するたびに、ボクサーブリーフに出来ていた染みがそれまでとは比べ物にならないほどのスピードで、大きくその面積を広げていった。
同時に、特有の匂いが立ち昇り、村瀬の鼻腔を心地よく刺激した。塩素の匂いを思わせる、生々しいスペルミンの青臭い匂いだ。
若松は激しく呼吸を繰り返し、肩を上下させていた。
それでもなお、彼は腕を曲げて、力強く上腕二頭筋の逞しさを主張し続けている。
村瀬は、汗ばんですっかり湿り気を帯びている彼の腋に再び顔を埋めた。
これだ、この射精直後の濃厚な体臭。
村瀬には、射精直後の匂いには、その男の本質が凝縮されているのだという持論があった。たくさんの男を射精させて、そのたびにこうして匂いを楽しんできた村瀬だったが、どの男にも特有のノートがあり、決して同じ匂いはなかった。もちろん、若松にも若松の匂いがあり、普通にしているだけでは絶対に知ることのできないその秘密の香りを村瀬は楽しんだ。
若松の匂いは、決して強烈なものではなかった。まるで木製の家具を思わせるような青々しい匂いに、鉛筆の芯のようなわずかな鉱物臭。生命力を感じさせる爽やかさの奥に、彼が男であることを否応なしに感じさせるような生々しい刺激臭。
たまらず、村瀬はその腋に舌を押し付けて、むしゃぶりついた。腋に生えた毛の隙間を縫うように舌を滑らせる。その塩気を一つも残してやるものかと言うように、徹底的に味わい尽くしていく。
その味わいに、村瀬が満足する頃には、若松の呼吸は落ち着き始めていた。
村瀬は、若松のボクサーブリーフの裾を摘み、中をのぞいた。
その瞬間に、十分なほど強かったはずの臭気がさらに強くなる。
ボクサーブリーフの布地と黒々と茂る陰毛には、べっとりとギトギトの白濁液がまとわりついていた。徹底的に自慰を禁止する暗示でギチギチに行動を縛り、たっぷり溜めさせてきただけあって、かなりの量だ。それを見て、村瀬はほくそ笑む。
――この有能な諜報員は、電マの刺激に屈して、まんまと気持ちよく下着の中で射精してお漏らしをしてしまった! 辛抱することができずに、この臭い精液をたっぷりと放出してしまったのだ!
その事実が、村瀬の心を躍らせた。
「あーあ、若松くん。射精しちゃったね」
楽しげに投げかけられた村瀬の言葉に、若松は息を整えながら頷いた。
「すみません。自制が効きませんでした」
続けていたポージングを解き、額についた汗を手の甲で拭う。
「しかし、これで――」
これで男であることを証明できたはず。
――と、でも言うつもりだったのかもしれない。
しかし、村瀬はそれを許さなかった。
「これでは、若松くんが男であることを証明できたことにはならないね」
「それはどういう意味ですか?」
若松は、納得がいかない様子で村瀬に食って掛かった。
「若松くん。君自身も、よーく分かっている通り」
村瀬は、意地の悪い笑みを浮かべながら、言葉を続ける。
「我慢できずに、君は下着の中で射精してしまったね? まず、これが男らしくない。真の男は、こんなにあっさり電マに屈して、気持ちよく射精するべきじゃない。君もそう思うだろう?」
そう投げかけられて、若松は思わず押し黙った。
村瀬は、若松の返答を待たずにさらに言葉を重ねた。
「そして、一番致命的なのは、チンポからぴゅぴゅっと射精して精液を吐き出す瞬間を私に見せることができなかったことだ。この臭い精液が君のチンポから飛び出てきた君自身の精液なのか、私に確認してもらうことができなかったね? ということは、本当に君が射精したのか、それを証明できたことにはならないということだ。つまり?」
「……俺が、男であることを証明できたとは言えない、ということです」
若松は、真剣な面持ちで力強く頷いて見せた。
「折角、付き合ってもらったのに、俺が我慢できなかったせいで、村瀬さんには無駄な時間を使わせてしまいました。申し訳ないです」
「謝る必要はない、若松くん。君も男の子なんだから、射精が我慢できないのは仕方のないことだよ。だけど、私に『迷惑をかけてしまった』のは事実だね」
村瀬は、若松の肩に手を置き、馴れ馴れしく揉んだ。
「それで、若松くん。もしも私に『迷惑をかけてしまった』ときは、君はどうするべきなんだったかな?」
ほんの少しの沈黙。
しかし、すぐに若松は答える。
「……『任務を進めるうえで、協力者に迷惑をかけてしまったときには、いかなる要求も受け入れて、相手の望む通りの償いをするべき』だと俺は考えてます。これは、俺がこの仕事を始めたときからずっと貫いているポリシーです。ですから、俺は、村瀬さんの望むことなら、どんなことでも――」
あらかじめ刷り込んでおいた考えを若松が言い終わる前に、村瀬は辛抱が堪らなくなった。村瀬は、若松の唇を自らの唇で塞ぎ、彼の熱い口内に舌を差し込んで、たっぷりと自分の唾液を流し込む。
若松は、どんな要求でも受け入れると既に宣言している。
彼が、その男らしい喉仏を上下に動かしながら、それを嚥下して受け入れ始めるまでに、それほど時間はかからなかった。