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 時刻は十時を指している。


「本当に大丈夫かしら」

「これ以上、続くなら被害届を出すと釘を刺しておいた。心配することはないよ」


 妻の肩を抱き、武志は言った。


 夫婦の住む部屋は、向かいのマンションとベランダが面している。

 向かいには、安川という四十歳ほどの男が住んでいた。彼は、頻繁に武志らの部屋を覗いており、それを加奈子は気味悪がっていた。

 そこで今朝、覗きを止めるようにと武志は、安川を直接、注意したのだった。


「警察官のあなたがいてくれて本当に心強いわ」

「遠慮は無用です、奥さん」


 武志は背筋を伸ばして、敬礼してみせる。


「非番の間、本官はあなたのためだけに働く警察官であります」


 真面目な顔で武志がそう言うと、「バカね」と加奈子は噴き出す。

 武志も一緒になって笑った。


 少しは気が紛れただろうか。武志は、加奈子に強い不安を感じさせる安川に対して強い憤りを抱いていた。愛する妻には幸せだけを感じていてほしい。どんな危険からも彼女を守ってやるつもりだった。


 気を取り直し、二人は朝食を取ることにした。

 食事をしながら、休日をどう過ごすか話した結果、映画に行こうという話になった。以前から気になっていた映画があるのだと、楽しそうに加奈子は笑う。

 そこに不安の色がないことを見て、武志はほっとした。


 仲睦まじい新婚の夫婦は、日常を取り戻し始めていた。


 しかし、秒針は回る。

 時刻が十一時を指した瞬間に『常識』は変わった。


「あー、すまん、加奈子」


 朝食を終え、外出の支度をしていた武志は額を叩いた。


「今日は非番じゃない。家庭教師の日じゃないか。なぜ忘れていたんだろう」

「大変。急いで支度しないと」

「でも加奈子。君との映画が……」


 既に外出の準備を済ませていた加奈子を見て、武志は不甲斐なさと申し訳なさでいっぱいになった。

 そんな気持ちを察して、加奈子は努めて明るく笑った。


「大丈夫よ。私のことはいいから仕事を優先して」

「本当にごめんな」


 愛しているよと加奈子に唇を重ね、武志は部屋を飛び出す。

 そして向かいのマンション、安川の部屋の呼び鈴を鳴らした。


 本日、二度目の訪問である。

 どうにも気まずいが、仕事なのだと武志は気持ちを切り替える。


「先ほどはどうも」

「よく来てくれましたね、先生」


 すぐに安川は玄関に現れる。


「今日もよろしく頼む」

「いやいや、その前に言うことあるでしょ?」

「何のことだ」


 武志は、安川の態度に苛立ちを――

 ――苛立ちを覚えるわけなどなく、申し訳なさで胸がいっぱいになった。


「……私は安川さんを恫喝し、安川さんの権利を侵害しました。安川さんがご自宅から何を見ようと自由です。今後も私たちを見守ってください。今朝の『常識』に欠けた言動を謝罪します。大変申し訳ありませんでした」

「謝ってくれればいいんですよ、先生」


 深く頭を下げた武志に安川は満足すると、彼を部屋の中へと招き入れた。 

 部屋に入ると、武志は当然のように脱衣し、逞しい肉体を堂々と晒した。


「よし。今日は先生を教材して実習を始めよう。チンポがどれか分かるか?」


 安川は背中から武志を抱きしめ、性器を握る。


「これかな?」

「そうだ、それがチンポだ」


 真面目な顔で武志は言った。


「まずはチンポを刺激して勃起させるんだ」


 安川が親指と人差し指で輪を作り、亀頭を刺激する。

 怒張していくペニスを指先で感じながら、安川は武志の腋に顔を寄せ、深呼吸し、警察官の芳醇な体臭を味わった。


「先生は男なのに男に刺激されて勃起するんですか?」

「そうだ。それが『常識』だからな」


 安川はその答えに満足すると、我慢汁を絡めて速度を上げながら扱く。

 武志は身体を反らし始めた。


「くうっ、射精するッ!! 先生の射精をしっかり見てくれッ!!」


 性器からびゅるびゅると濃厚な精液が部屋に弾け飛ぶ。

 その瞬間に発散された特有の男の匂いを、安川は余すことなく堪能していった。

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