【小説】入れ替わり専用アプリ『スワパス』 (Pixiv Fanbox)
Content
「なあ、池田。お前どっちがいいと思う?」
昼休み。
ある方向に視線を向けながら、クラスメイトであり俺の悪友でもある田中大輔が尋ねてくる。
「どっちって、何が?」
「んなもん一つしかねえだろ。アレだよ、アレ」
田中は視線を促すように首を振る。
その先にいるのは二人の女子。
長い黒髪が特徴的な優等生然とした静かな女子と、その隣で表情豊かに笑う快活で明るい雰囲気の女子。
我がクラスの人気を二分する二大美少女の姿があった。
「冷泉と花山か……」
冷泉清美と花山春奈。
対照的ながらも甲乙つけ難い美少女二人だ。
冷泉は生真面目で理知的な性格のクールな美少女で、基本的に一人でいることが多い。
言わば高嶺の花のような存在で周りも気安く声をかけられないのだろう。
そんな冷泉の数少ない友人が花山だ。
花山は肩ほどで切り揃えられた明るめな色味のふわふわとした髪が特徴的な、垢抜けた雰囲気の女子だ。
明るくて活発な性格で、人懐っこく誰にでも分け隔てなく接するため友人はかなり多い。
冷泉と花山は入学以前からの友人関係で長い付き合いがあるという噂を前に聞いたことがあるが、普段の様子から見てもお互い特に仲の良い友人のようだ。
俺は視線の先で談笑をしている冷泉と花山を観察した。
「ねー清美、ここの訳教えてー。あたし今日指されそうでさー」
「だからいつもちゃんと予習しなさいって言ってるじゃない。春奈はやればできるのに、なんでいつもサボろうとするの?」
「いやー、やろうと思ってはいるんだけどね、昨日はちょっとドラマを見るのに忙しくて……」
「そう。それなら諦めて先生に怒られなさい」
「そんなー! お願いします、助けてください清美さまー!」
冷泉にくっついて戯れる笑顔の花山。
あの他人を寄せ付けない雰囲気の冷泉とここまで親しげに話せるの花山くらいのものだろう。
まさに二人だけの世界といった感じで、俺らのような教室の隅でエロ動画の話をするような低俗な男子とは無縁の世界のように思える。
「……どっちがいいと言われても、あまりにも遠い存在すぎて選びようがないな。俺、冷泉とは同じクラスだってのに会話もしたことないよ」
「オレだってねえよ。でも、花山とは話したことあるぜ」
「そんなの挨拶された程度だろ。花山は誰にだって気さくに声かけるんだからそれぐらいじゃ話した内にも入らないって」
冷泉も花山も俺らのことなんてその辺に生えてる雑草ぐらいにしか認識してないだろう。
それが現実というものだ。
「だーっ! そんなのはどうだっていいんだよ! 女なんて結局顔と体だろ? それがどっちがいいかって話だよ!」
「ふむ……」
田中の言う通り、関われない女なんて見た目が全てだ。
それでどちらがいいか判断するべきというのは確かに一理ある。
改めて冷泉と花山の容姿を観察する。
冷泉は女子の中では身長が高い。
俺よりは低いものの、そのスラッとした細い手足と合わせてモデルのような美しさがある。
目鼻立ちもキリッとした整いをしており、艶やかな苦い黒髪の似合うお淑やかで物静かな美女そのものだ。
一方、花山はかなり小柄で、身長はクラスで下から数えた方が早い。
だが、胸はかなり大きく、ロリ巨乳とでも言いたくなるような体型をしている。
垂れ目で可愛い系の顔をしているのも冷泉とは対照的だ。
どちらも女としての魅力に溢れているが、強いて言うならば……。
「俺は冷泉の方が好みだ」
俺の美的感覚からすると冷泉の方が一歩上を行く。
別に花山がダメなわけではないが、個人的な好みを言わせてもらうとロリ系より美女系の方がいい。
「なるほど、そうか。そりゃあいい。お前と被らずに済んだぜ」
「? どういうことだよ?」
妙な言い回しに疑問を抱いていると、田中は懐からスマートフォンを取り出した。
ニヤニヤしながらスマホをいじり、開かれた画面を俺に突き出してくる。
「これだ!」
スマホの画面には大きなポップ体の文字で『スワパス』と書かれている。
「……なんだこれ?」
「フッフッフ……これは、入れ替わり専用アプリ『Swapping Path』通称スワパスだ!」
ドヤ顔と共に突きつけられる訳のわからないアプリ。
それに対し、俺はどういう反応を取るのが正解なのかわからない。
「おい、なんか反応しろよ」
「……いや、だからなんなんだよこれ。入れ替わり? スワッピング? あのカップルが彼女を交換してヤる特殊なプレイのことか?」
「ちげえよバカ。これはな、使った人間が他人と身体を入れ替えることができる身体入れ替えアプリなんだよ」
田中はまたも訳のわからないことを言ってくる。
身体が入れ替わる?
そんなのあり得る訳ないだろう。
「池田、お前信じてねえな?」
「当たり前だろ。そんな漫画じゃあるまいし」
「ところがどっこい、こいつはマジなんだよ。実際に、俺はこれで人と人が入れ替わるところを見てるんだからな」
そう言うと田中は自信満々に一枚の写真を見せてきた。
薄ら笑いを浮かべだ中年太りのいかにも冴えないおっさんといった感じの男が写っている。
「これ、オレの親戚の叔父さんな。そんで……」
今度は別の写真を見せてくる田中。
その写真には真新しそうなリクルートスーツを着た若い女の人が写っている。
「この人は……誰かはよく知らん。多分就活中の女子大生とかだろう。叔父さんの知り合いの女らしい。この二人がだな……」
田中はやけに興奮気味に次の写真を見せてくる。
俺はその写真見て驚愕した。
「な、なんだこれ!?」
スマホを持った中年男とリクルートスーツの若い女が向き合っている写真だ。
重要なのは、二人の口から謎の光の球が飛び出しているところだ。
中年男の口からは焦茶色の薄汚い光。
若い女の口からは薄いピンクの綺麗な光。
それが目の前の相手の口の中に向かって突き進もうとしている。
「これはまさに二人が入れ替わろうとしている瞬間の写真だ。で、入れ替わった二人は……」
田中が画面を次の写真に移す。
そこには、薄ら笑いを浮かべながら自分の胸を触る若い女と、それに対して怒りながら縋っている中年男が写っていた。
「こうなっちまったってわけだ。どうだ?」
「す、すごい……じゃ、じゃあ本当にそのアプリで入れ替われるのか?」
「だから最初からそう言ってるだろ」
田中は再びドヤ顔を浮かべて胸を張る。
人と人が入れ替わるなんて漫画の中の話だと思ってたが、まさか現実に起こるなんて。
「田中、お前どうやってそんなアプリ手に入れたんだ?」
「このスワパスには友達招待機能ってのがあってな。なんでも知り合い一人にだけこのアプリを送ることができるらしい。オレはそれで叔父さんから貰ったんだ。お前にもやるよ」
田中がそう言うと、俺のスマホに着信が入った。
画面見ると、もう自動でスワパスのインストールが始まっている。
「おお、サンキューな!」
「フッ、いいってことよ。それでいよいよ本題なんだけどな……」
田中は少し声を小さくし、けれど興奮を抑えきれない様子で囁いてくる。
「これを使って冷泉と花山と入れ替わらないか?」
「!」
話が最初と繋がる。
なるほど、そのための冷泉と花山の話だったのか。
冴えない陰キャ男子の俺ら二人が、クラスの人気者である美少女二人になる。
そう考えると、俺まで興奮して心臓がバクバクと高鳴るのを感じる。
「オレは花山が好みだ。あの小せえ体にデカい胸。最高じゃねえか。だからオレが花山と入れ替わる」
「じゃあ、俺が冷泉と入れ替わるのか」
俺はチラッと冷泉の方を見る。
あの長い髪も、細い手足も、モデルのような体も、美しい顔も、全部俺のものになるのか。
そう考えるだけで鼻息が荒くなってしまう。
「だがな、このアプリには一つだけ問題点があってな」
「問題点? なんだよ」
頭に疑問符を浮かべた俺に、難しい顔をして田中が切り出してくる。
「このアプリで一回入れ替わるとな、もう二度と元には戻れないらしい」
「は!? それじゃあ俺が冷泉になったらもう俺の身体には戻れないってことか!?」
それは流石に困る。
ちょっと冷泉の身体で遊んでまた俺の身体に戻るつもりだったのに、それじゃあ永遠に冷泉の身体で生きなければいけなくなってしまうじゃないか。
「まあ落ち着け。いいか? よく考えろ。お前のその身体でいるメリットってなんかあるか? 容姿端麗で人気者で、あいつらみたいな美少女の身体で生活する方が何百倍もよくないか?」
俺は一旦心を落ち着けて考えてみた。
冷泉のような優れた身体だったらきっと人生楽しいことだらけだろう。
それに対して、俺の今まで送ってきた人生のなんと惨めたるや。
時には嘲笑われ、時にはいじめられ、まさに人生ハードモードというやつだ。
それを考えたら……。
「……どう考えても美少女になった方が得だわ」
「だろ? オレも同感だ」
教室の隅でつるむ陰キャ男子二人の心が一つになった瞬間だった。
────────
放課後になった。
既に打ち合わせを済ませた俺と田中は顔見合わせて頷くとそれぞれ行動を開始した。
田中はひと足先に教室を出た花山の後を追って教室から出ていく。
一方、俺はというと。
「あ、あの……れ、冷泉、さん……」
緊張から激しく吃りながら冷泉に声をかける。
すると、長い髪を揺らしながら冷泉がこちらに振り向いた。
その美しい瞳が、俺のことを真っ直ぐ見つめている。
こんな間近で冷泉と向き合ったのは初めてだ。
微かにいい匂いがして、思わずぼーっとしてしまう。
「……えっと、池田君? 私に何か用かしら?」
「え!? あ、えーっと、その……」
慣れない美少女との会話に俺は動揺していた。
向こうも普段話さないどころか初めて会話する相手を前に困ったような反応をしている。
落ち着け、落ち着け俺。
「……冷泉さんにちょっとだけ話があって……ほんと、時間は取らせないから、ちょっと着いてきてもらえるかな……?」
「別に、いいけれど……」
冷泉は訝しげにしながらも話を聞いてくれるようだ。
やった。
まずは第一関門突破だ。
俺は冷泉を連れて旧校舎の第二理科室に向かった。
下手に人目につくと面倒なことになりかねない。
だが、あそこなら滅多に人がやってこないのでなんでもやり放題だ。
第二理科室の前に到着した俺は扉を開き中に入った。
冷泉も何も言わずに着いてきてくれている。
しかし、その顔には明らかな警戒心が感じられる。
「……ねえ、池田君。こんなところに連れてきて、いったい何の用事なの?」
明らかに怪しんでいるような態度で冷泉がこちらを見つめてくる。
どうやらあまり時間をかけてはいられないようだ。
すぐに計画を実行しよう。
「だ、大丈夫だよ。すぐに終わるから」
俺はスマホを取り出し、スワパスを起動した。
スワパスの使い方は既に田中から聞いている。
まずメニューの入れ替わりをタップする。
すると画面には『入れ替わりたい相手の名前を記入してください』という文字と入力欄が表示された。
俺は『冷泉清美』と入力した。
すると今度は『入れ替わりたい相手を画面に映してください』と表示され、カメラが起動した。
俺はスマホを構え、冷泉の方へ向ける。
その瞬間、画面の表示が切り替わり『対象を認識しました。入れ替わりますか?』という文字と、『入れ替わる』と書かれたボタンが表示された。
いよいよこの時が来た。
これを押せば、俺はもう二度とこの身体に戻れなくなる。
だが、その代わり今目の前にいるこの長い黒髪の清楚な美少女の身体になることができるのだ。
心臓が壊れそうな程に高鳴る。
呼吸も酷く荒くなって全然落ち着かない。
スマホを持つ手がプルプルと震えて収まらない。
俺は、これから冷泉と入れ替われるという事実にめちゃくちゃ興奮していた。
「……ねえ、何もないなら私もう帰るわよ?」
冷泉が少し苛立たしげに言う。
これ以上は待ってもらえなさそうだ。
もうやるしかない。
俺は、ボタンをタップした。
その瞬間。
「……うっ!?」
「……きゃっ!? な、なに、これ……!? か、身体が……動かない……!?」
俺たちは向かい合って直立姿勢のまま動けなくなってしまった。
冷泉も突然のことに驚いているようだ。
「冷泉さん、俺たちはね、これから入れ替わるんだよ」
「い、入れ替わ……? 何を言っているの……? それより、これ、どうなって……」
冷泉はどうやら俺の言っていることを理解していないようだ。
まあ無理もないが。
向かい合った俺たちは今、お互いを見つめ合う形となっている。
冷泉の綺麗な両目が俺のことをまっすぐ見つめている。
思わず逸らしてしまいそうになるがそれもできないため、俺はこれから俺のものになる顔をじっくり目に焼き付けた。
他人としてこの顔を見れるのは、おそらくこれが最後になるだろう。
「ちょっと、池田君! これ、どうにか……ん、んあ……!?」
目の前の冷泉が大きく口を開いた。
同時に、俺も口を開く。
自分の意思ではない。
身体が勝手に動いたのだ。
これは最終段階だ。
いよいよ、俺たちの魂が口から飛び出し、そして入れ替わる。
「んーっ、んーっ!」
冷泉が助けを求めるように言葉にならない声を上げる。
身体の奥から何かが込み上げてくるのを感じているのだろう。
さあ、お互い元の身体とはお別れの時だ。
「んっ……おっ、おおっ、んおぉっ!?」
次の瞬間、目の前の冷泉は口から自分の魂を吐き出した。
同時に俺も口の中から魂となって飛び出す。
透き通った淡い青の光の球が目の前から一直線にこちらに向かって進んできて、そしてすれ違う。
きっと、俺が飛び出してきた俺の口の中へと入っていくのだろう。
そして、俺は目の前の美少女の口の中へと向かっていく。
大きく開かれたその口の中へと入った瞬間、俺の目の前は真っ暗になった。
────────
ぼやけていた視界が少しずつハッキリしてくる。
俺の目の前には一人の姿があった。
野暮ったい目。
ニキビのできた荒れた肌。
寝癖のついた短い髪。
学校指定の黒い学ランを着る痩せ細った体。
その姿は、俺が今朝鏡の中で見た姿そのものだった。
もちろん、今俺の前に鏡なんてない。
俺の前に今いるのは、正真正銘俺の身体だ。
それなら俺の身体はどうなっているのか。
俺は自分の身体を見下ろす。
まず目に入るのは胸元についた赤いリボンと紺色のブレザー。
胸元がいつもの身体より盛り上がってるように見える。
腰から下はヒラヒラとした頼りないスカートに包まれている。
そういえばさっきから足に直接風が当たるを感じる。
そして、視界の端にチラチラと映り込む長い黒髪。
軽く手に取って顔に近づけるといい匂いがする。
さっき冷泉に近づいた時に感じたものと似た匂いだ。
もう間違いない。
この身体は、冷泉清美のものだ。
俺たちは、入れ替わったのだ。
「……くっくっ……よし、よしっ! 成功だっ! 入れ替われたんだ!」
俺は思わず歓喜の声を上げた。
同時に、自分の喉から出てくるのが高い女の声であることに軽く驚く。
そうか、身体が変われば声も変わる。
当たり前のことではあるが、こうして改めて認識するとなんだかむず痒いような変な感覚がする。
「ど、どうなってるの……!? どうして私が目の前に……って、な、なにこの声……!?」
すると、目の前にいる俺の身体が困惑していた。
俺が冷泉になったのだから、目の前の俺は当然冷泉だ。
訳もわからないまま入れ替わってしまった冷泉からすれば混乱するのもやむなしだろう。
「冷泉さん、俺たち入れ替わったんだよ。俺が冷泉さんになって、冷泉さんが俺になったんだ」
「俺って……貴方まさか池田君なの……? そんな、入れ替わりなんて、そんな馬鹿げたことが起こるわけ……」
冷泉はなおも混乱したようにぶつぶつと喋っている。
どうやら現実が受け入れられないようだ。
その自分の口から出る声変わりした低い男の声を聞けば受け入れるしかないだろうに。
「残念だけど、本当に入れ替わってるんだよ、俺たち。これからは俺が冷泉清美で、そっちが池田信彦だから」
「ふ、ふざけないで! 私を元に戻しなさい!」
俺の身体をした冷泉が、低い声を出しながら女口調で詰め寄ってくる。
まるで自分が女みたいに振る舞っているように見えてなんだか気色悪く思える。
するとそのとき、胸ポケットの中で何かが振動するのを感じた。
振動の元を探ると、手帳カバーに包まれたスマホが出てきた。
どうやら冷泉のスマホのようだ。
画面をタップすると、自動で顔認証ロックが解除される。
そうか、俺は今冷泉の顔なのだから普通なら絶対に解除できないはずの顔認証ロックも簡単に解除できるのか。
逆に言えば、もう俺は元の俺のスマホの顔認証ロックを解除できないということになる。
そう考えると、なんだか入れ替わった実感というのが少しずつ湧いてきてゾクゾクとする。
「ちょっと! なに私のスマホ勝手に見ようとしてるの!?」
冷泉に言われてハッとなった俺は改めて画面を見た。
メッセージが届いたようだ。
相手は『花山春奈』と表示されている。
俺はメッセージを開いた。
『オレだ。入れ替わりが成功した。そっちはどうだ?』
どうやら向こうも上手くいったらしい。
こっちも成功していることだし返事を打つとしよう。
と、そのとき。
「だから、やめなさいってば!」
「うおっ!?」
冷泉が俺の方へ掴みかかってきた。
俺はそれを反射的にかわし、冷泉と距離を取る。
冷泉は混乱、焦燥、怒りなどなど、色々な感情の込められた顔でこちらを睨みつけている。
まずいな。
このまま冷泉と二人でいては落ち着くこともできない。
ここは一旦逃げるのが先決か。
俺は身を翻して第二理科室から飛び出した。
「あっ! ま、待ちなさい!」
後ろから慌てて冷泉も追いかけてくる。
俺の身体は運動音痴で足も遅いが、男と女の追いかけっこでは流石にこちらが部が悪い。
とにかくなんとかして冷泉を撒かなければ。
俺は全力で走りながら渡り廊下を通って普段使っている校舎へと移動した。
冷泉は息を切らしながら必死に着いてくる。
くそっ、しつこいな。
そんなとき、俺の目にちょうど良いものが目に入った。
俺はニヤリと笑みを浮かべながら扉を開きその中に滑り込んだ。
「うわっ、ビックリした。冷泉さん? どうしたの?」
中には数人の女子がおり、息を荒げながら駆け込んできた俺のことを見て驚いている。
すると、すぐに俺に続いて冷泉が中に駆け込んできた。
「もう逃さないわよ!」
そう言いながら冷泉が入ってきた瞬間、周りの女子から悲鳴が上がった。
「きゃーっ!? あんたなんなのっ!?」
「ここ女子トイレだよっ!? バカじゃないのっ!?」
「キモっ! 最低っ! 出てけっ!」
「えっ!? ちょっと、待って……」
冷泉は癇癪を起こした女子たちに囲まれ女子トイレから叩き出された。
そのまま女子たちは床にへたり込んだ冷泉を囲んで糾弾し始める。
「ま、待って! 話を聞いて! これにはわけが……」
「言い訳が通ると思ってんの!? あんた冷泉さんになにしようとしてたのよ!?」
「ち、違うの! 私が冷泉清見で、あっちにいるのが池田君で……」
「池田はあんたでしょこのキモ陰キャ! なにわけわかんないこと言ってんのよ! ホント最低っ!」
哀れにも冷泉は女子たちに信じてもらえずアワアワとたじろいでいる。
それを尻目に俺はこそこそとその場を後にする。
「……悪いな、冷泉」
女子トイレが見えなくなるぐらい離れたところで俺はぼそっと呟いた。
流石にちょっと可哀想だった気もするが、あのまま付きまとわれても面倒だったので仕方ない。
俺は気を取り直してスマホを取り出し、『花山春奈』へ返信をした。
『俺の方も入れ替われた。冷泉のことも撒けた』
『よくやった! それじゃあ屋上で合流しようぜ』
『了解』
メッセージのやり取りを終えた俺は階段を登り屋上に向かう。
その途中、俺はなんとなく再びスマホを取り出しメッセージアプリを開いた。
さっき俺と『花山春奈』がしていたやり取りの上には、冷泉と花山の何気ないやり取りが残っている。
遊びに出かける約束や、課題を見せて欲しいというお願いなど、他愛無い冷泉と花山のいつものやり取りだ。
しかし、その下には明らかにそれまでとは違う文体の俺たちのやり取りが、冷泉と花山のやり取りとしてアプリに残されている。
きっとこの日を境に冷泉と花山の中身が変わった証拠がこのアプリに残されることになるのだろう。
そんな風に入れ替わりの実感を覚えながら、俺は階段を登っていった。
────────
「よう、待ってたぜ」
屋上へとやってきた俺を男らしいセリフと共に迎えたのは、我らがクラスの人気者である花山春奈だった。
その小柄な体も、ふわふわとした明るい髪も、少女らしい幼さを感じる声もいつも通りだ。
だが、大股を開きながらニヤニヤと薄ら笑いを浮かべるその姿はいつもの花山からはかけ離れていた。
「……お前、田中なんだよな?」
俺は緊張しながら、恐る恐る尋ねる。
「ああ、もちろんだ。花山はこんなことしねえだろ?」
そう言いながら目の前の花山はスカートをピラっと捲ってパンツを見せつけてきた。
白と水色の可愛い縞パンだ。
思わずガン見してしまう。
「お、おお……」
「な、なんか冷泉にパンツガン見されてるみたいで変な感じだな……だが、その様子じゃあお前も池田で間違いないな」
言われてからそういえば今の俺の身体が冷泉だったことを思い出した。
花山のパンツをガン見するなんていう冷泉なら絶対しないであろう行動のおかげで向こうにも俺が誰かわかったようだ。
「つーわけで、二人揃って美少女と入れ替わり成功だっ! イェーイ!」
「お、おお! イェーイ!」
俺は花山の身体となった田中とハイタッチをする。
どうやら田中は相当テンションが上がっているようだ。
まあ無理もないが。
「ん? なんだよ池田。お前ももっと喜べよ。せっかく美少女になれたんだぞ。嬉しくねえのか?」
「い、いや、そうじゃなくてだな……」
俺は手を合わせてモジモジしてしまう。
目の前の美少女と上手く目を合わせられない。
こいつは田中だ。
もちろんわかっている。
わかっているのだが……。
「なんか、花山と話してるみたいで、落ち着かない……」
「ああ、なるほどな。確かにそれはわかる。俺もお前が来たとき一瞬本物の冷泉に見えて焦ったぜ」
中身はよく見知った悪友でも、見た目がクラスで人気者の美少女なのだから、緊張するなと言われても難しいものがある。
「でもなんとなくわかるだろ? 本物の冷泉はお前みたいにオドオドしてねえし、本物の花山はオレみたいにガサツな喋り方はしねえ。な?」
確かに花山は本来ならもっと物腰柔らかな女の子らしい仕草をする。
こんな喋り方はどう聞いても花山のものではないし、いつもよく聞く田中のものだ。
しかし、その可愛らしくて高い声を聞くと、どうしても花山に思えてしまう。
「うう、やっぱりなんか緊張するんだよなあ……」
「こんな情けない冷泉は初めて見るな……はぁ、まあいい。緊張を解きがてら、さっさとやることやっちまおうぜ」
そう言うと花山はブレザーのボタンを外し始めた。
そのまま脱いだブレザーを床に投げ捨てる。
「やることってなんだよ?」
「そんなの、レズセックスに決まってんだろ」
「……は?」
俺は目が点になった。
こいついきなりなにを言い出してるんだ?
俺が困惑している間に、田中はリボンを外し、ワイシャツを脱ぎ、どんどん服を脱いでいく。
「いやいやいや、そんな、いきなりすぎるだろ!」
「……あのなあ、なんのためにオレがお前に冷泉と花山と入れ替わろうって誘ったと思ってんだ? 美少女二人の身体でレズセックスがしたかったからに決まってんだろ!」
「いや、聞いてないぞそんなの! 俺たち中身は男同士なんだぞ!? そんなのやるわけ……」
戸惑いを見せる俺に対し、軽くため息をつきながら田中が近づいてきた。
花山の顔が目の前にやってきて軽くのけ反る。
下はまだスカートを履いているが、上は白と水色のブラを着けるのみの状態となっているその姿は、見ているだけで顔が紅くなってしまう。
「お前はやりたくないのか? この美少女とあんなことやこんなことが」
可愛らしい声で耳元に囁かれる。
そして、俺の腕を握りその手をブラに包まれた自分の大きな胸へと持っていった。
「ほら、こんなに柔らかい胸も触り放題なんだぜ?」
「お、おお……」
戸惑っていた俺の理性は一瞬で溶けた。
というか、俺は何を馬鹿なことを考えていたんだ。
エロくて可愛い女が目の前にいて、しかも自由にできるのに中身がどうとか関係ないだろ。
日和る理由なんてどこにもないじゃないか。
俺は両手で目の前の巨乳をしっかりと揉んだ。
「お、おお! や、柔らかい……」
「んっ……ちょ、いきなり強く揉むんじゃねえよ、ったく……やっぱりノリノリじゃねえか、このむっつり野郎」
「う、うるさい……」
会話のやり取りは悪友とのそれなのに、耳に入ってくるのは自分も含めて可愛らしい女の声だけ。
そして、俺の視界に映るのも自分の胸を曝け出す美少女の花山と、そこに手を伸ばす冷泉の華奢で細い腕。
俺の思っていた以上にこの行為の中に男の気配はなかった。
「……なあ、お前も脱いでくれよ。オレも冷泉の裸が見てえ」
「あ、ああ、わかった……」
俺は田中がやったように服を脱いでいく。
ブレザー、リボン、ワイシャツ。
冷泉が身にまとっていた衣服が、一枚、また一枚と脱がされていく。
そして、本来なら俺の人生で一生見る機会がなかったであろう、冷泉のブラが目に入った。
飾りっ気の少ない白いブラだ。
ここに来る前にチラッと見たスカートの中も同じような白いパンツだったのでおそらくセットのものだろう。
まあ冷泉らしいといえば冷泉らしい。
「へえ、それが冷泉のブラか。清楚な優等生っぽさ全開だな」
「あ、ああ。俺もそう思っ……!?」
声の方を見て、俺は声が詰まった。
そこには下着を全て脱ぎ去り、胸も股間も丸出しになっていた花山の姿があった。
地味に黒のハイソックスだけ履いているところがまた非常にエロい。
「どうだ? 全裸になった花山の身体は」
「お前……そんな……」
全裸になりながらドヤ顔で微笑むその姿は、普段の花山を知る人間が見たらそれだけで……。
「そんなの……フル勃起確実だろ……」
「ちょ、冷泉の声でフル勃起とか言うなよ。あ、俺も花山の声でフル勃起って言っちまった」
俺たちは顔を合わせ、可愛らしい声で笑い合う。
なんとも異常な空間だ。
服を脱いだ花山と冷泉がエロワードを言って笑い合ってるなんて。
「ほら、お前もさっさと脱いじまえ」
「あ、ああ……あれ? これ、どうやって脱ぐんだ?」
「もう、しょうがねえな、ほら」
ブラとスカートの脱ぎ方がわからずもたついていると、田中が手伝って脱がしてくれた。
全裸の女の子に服を脱がされると言うのも、それだけでかなり興奮する。
そうして、俺も田中と同じように、胸と股間丸出しの姿となった。
冷泉の胸は大きすぎず小さすぎず程よい大きさで、体全体と合わせて見ても非常にバランスが取れている。
腰回りの肌も傷やシミ一つなくスベスベで、美しいという言葉に尽きる。
そして何より、男だった頃には逸物がついていたはずの、今は何もないつるりとした股間。
股の間を風が通ってスースーする感覚は女の身体じゃないと絶対に味わえないものだろう。
そんな身体が、今は俺のものになっているという事実に、俺はクラクラしそうなほどに興奮していた。
「すげえな……あの真面目で清楚な冷泉が素っ裸だ……もう我慢できねえ。早くやろうぜ」
花山の顔で鼻の下を伸ばしながら、息を荒げて田中が近寄ってくる。
俺の方もそんな花山の姿を見ては我慢できそうにない。
「よっしゃ、そんじゃレズセックスすんぞ、池田!」
「……ちょっと待て、田中」
まさに俺の身体に手を伸ばそうとしてきた田中に、俺は待ったをかけた。
「なんだよ、ここまできてお預けは勘弁だぜ、池田」
「それだ。その呼び方」
「あ?」
池田と田中という本来の名前が耳に入った瞬間、俺の中で何かが萎えた。
男の名前が、俺の興奮を完全に邪魔をしている。
「せっかくレズセックスするんだ。俺は目の前の女を田中と認識したくないし、俺のことを池田だと認識されたくない。男の名前で呼び合うのはナシにしよう」
「なるほど、確かに……それじゃあお前のことは冷泉って呼ぶ。これでいいか? 冷泉」
「ああ。俺も今からお前のことは花山って呼ぶ。頼むぞ、花山」
俺は目の前の女、花山とお互いに名前を呼び合った。
自分から提案しといてなんだが、自分のものでない名前で呼ばれるのは違和感がすごい。
「でもよく考えりゃあオレはもう田中じゃねえんだから花山って呼ばれるのに慣れとかねえといけねえよな」
「それは、確かにそうだな」
俺はもう二度と池田信彦の身体に戻ることがない。
ならばこれからの人生はずっと冷泉清美と呼ばれることになる。
自分のものではない名前が自分のものになる。
なんだかわからないが、股間の奥がゾクゾクとしてくるのを感じた。
「それじゃ、気を取り直して……やるぜ、冷泉」
そう言うと花山は俺の胸をギュッと揉んできた。
自分の胸元の肉が揉まれるというのは初めての感覚だ。
これが、女の感覚なのか。
「おお……花山の胸とは揉み心地が違うな。でも、これも悪くねえ……んっ……」
花山は俺の胸を揉みながら自分の胸も揉んでその揉み心地の違いを味わっている。
「俺もやってみよ……おお、これはなかなか……」
俺も花山を真似して、花山の揉んでいない方の胸を揉み、冷泉と花山の胸の違いを味わう。
冷泉の胸はギリギリ手に収まるぐらいの大きさだが、花山のは手から溢れてしまうほどに大きい。
その分柔らかさにも違いが生じていて花山の方が大分柔らかく感じる。
だからと言って冷泉の胸が悪いわけでもなく、手に収まる密着感がいい揉み心地を生んでいる。
「しっかしこれ……お互いに自分と相手の胸揉むの……すっげえエロいな……」
花山がその可愛らしい顔を紅く染めながら呟く。
俺も同じことを思っていたので頷いてしまう。
クラスの人気者である美少女二人が胸を揉み合う姿なんて俺たち以外には誰も見たことがない姿だろう。
それは、この身体の本来の持ち主である二人を含めてもだ。
そんな特別なエロシーンを見ることができている喜びと、自分がまさにその当事者となっている悦びで俺の興奮はどんどん高まっていった。
「やべえな……これ……勃起しない代わりに……股間がめっちゃムズムズする……」
花山が内股になってモジモジし始める。
それは俺の方も同じだった。
さっきから興奮していく度に股間が熱くなっていくのを感じる。
「これが、濡れるってやつなのか……?」
「すっげ……見ろよ、マンコからダラダラ汁が出てる……」
言われて見ると、花山の股間は明らかに透明な液体で湿っていた。
俺の方も、冷たい液体が足を伝っているのがわかる。
触りたい。
この熱を持った股間をいじり回したい。
そんな欲求が身体の奥底から湧いてくる。
「はぁ、んっ……なあ、次はお互いのマンコ触ろうぜ」
息を荒げながら花山が提案してくる。
俺はそれに黙って頷いた。
お互いさらに体を寄せ合い、それぞれ相手の股間に手を伸ばす。
俺より背の低い小柄な花山の足の間にそっと指を這わす。
それと同時に、花山もその小さな手を俺の股間に這わせてきた。
「んっ……!」
「ああっ……!」
二人揃って思わず声を上げてしまう。
今まで感じたことのない快感。
男の性器を触られるのとはまた違う刺激的な快楽に俺たちは呑まれた。
「それっ、すごい、気持ちいい……」
「マンコって、こんな……んっ……感じなのかよ……」
俺たちはお互い相手の手に擦りつけるように自分でも腰を動かす。
この快感がもっともっと欲しくてたまらない。
すると、割れ目の上から撫でていた花山の指が、中にスッと挿し込まれた。
「んんっ!? な、中に、入って……ッ!」
「お前も、やってくれ、中に、指入れてくれよ……!」
「ああ……ああ!」
身を捻りたくなるような快感の中、俺もお返しとばかりに花山の割れ目の中に指を挿し込む。
「んああっ! ゆびぃ、入って……ああッ!」
花山が悦びに満ちた嬌声を上げる。
花山の膣内は熱く濡れそぼっていて、うねるヒダが俺の指を掴んで離さない。
一方で、俺の中に入ってきた花山の指が俺の膣の中でぎゅうっと締め付けられていて、少しでも動いただけで俺の中に激しく迸る快感を与え続けていた。
「これ、やばいっ! きもちよすぎてっ……んんッ!」
「ゆびっ、もっと、うごかしてっ! もっと……ああッ!」
俺たちはお互いに相手の股間に挿し込んだ指を、クチュクチュと湿った音を鳴らしながら動かしていく。
股間から伝わる指の感覚。
指から伝わる花山の膣内の感覚。
自分の喉から聞こえる甲高い嬌声。
目の前の花山の乱れる姿。
自分の心臓の音と、触れ合う花山の心臓の音
その全てが興奮と快感に繋がる。
「はなやま、はなやまぁっ!」
「れいせんっ、れいせんっ!」
蕩けた表情の花山と目が合う。
明るくて気さくで人懐っこい普段の花山が絶対に見せることのない表情。
それを見て、俺は思わずその唇に吸い付いていた。
「んっ、ちゅ……んんっ、れろ……」
「あむっ……んっ……ふっ……ちゅるっ……」
舌を絡ませ合い、お互いの口内を貪り合う。
逃げられないように、空いている左手で頭を抱える。
まるで恋人のように舌の先端が触れ合う快感は、股間から伝わる快感を何倍にも跳ね上げた。
「んっ、んっ、んんッ!」
お互い限界が高いことを悟りながら口を離さない。
このまま股間と口で繋がりながら果てたいという思いで二人の気持ちは一つになっていた。
ラストスパートとばかりに花山が指の動きを激しくする。
それに合わせてこちらも同じく限界まで指を動かす。
二人の心臓の鼓動は勢いをつけて昂っていき、そしてついに限界に達した。
「んっ、んんんッ!!!」
ビクンッ、と腰が大きく跳ねる。
今までで最大の刺激が脳の中に直接叩きつけられるような、そんな暴力じみた快感に打ち震える。
女として、人生初めての絶頂に達したのだ。
「ッ!?」
その瞬間、頭の中に何かが勢いよく流れ込んできた。
見たことのない景色。
見たことのない人。
あれは、私の家族……?
まるで脳内の処理がバグったような感覚に、俺は戸惑う。
「ぷはっ……はあっ、はぁっ……なんだ、今の……」
「はぁ、んっ……頭の中に、変な、なにかが……」
目の前の花山は困惑したような顔をしていた。
もしかして、花山にも何か見えたのか?
「なあ、今変な感覚しなかったか?」
「お前もか? なんかイッた瞬間、頭に変な映像が浮かんで……まさか」
そこで急に花山が黙り込んだ。
何かに気づいたような顔をした後、考え込むように俯いた。
「おい、花山? どうしたんだよ」
すると、顔を上げた花山はさっきまでとは違う晴れやかな笑顔をしていた。
「えへへ、なんでもないよー、清美」
それを聞いて、俺は自分の目を疑った。
今目の前にいるのは、俺の知るクラスの人気者での花山そのものだった。
「え? は、花山? ど、どうなってんだ?」
「んー……すげえぞ、これ。頭の中に花山の記憶や感情が思い浮かんでくる。これなら……清美、レズセックス気持ちよかったね! ……こんな風にあたしっぽく振る舞うのも簡単だよ。ね、そっちもやってみなよ」
「ま、マジかよ……」
さっき浮かんだ映像は冷泉の記憶ってことか?
それじゃあ俺も冷泉に成り切ろうとすれば……。
「んっ……そうね。初めてだったけど、すごく気持ちよかったわ。……すごいわ! まるで、私が本物の冷泉になったみたい」
頭の中に自分じゃない人間の記憶がある。
それがこの身体からもたらされるものだと思うとゾクゾクしてくる。
「きっとイッた衝撃で身体に魂が馴染んでるんだと思う。……だがまだ完全には馴染んでねえみたいだな。頭の中にモヤがかかったみたいにわからねえところがある。もっとイク必要があるのか?」
「だったらもっとやろう! 俺、もっと冷泉に成り切りたい!」
セックスする度に俺は冷泉に近づいていく。
なんと興奮する話だろう。
「まあ待て。それなら……あたし、一ついいこと思いついちゃった」
花山が、花山らしからぬ邪悪な笑みを浮かべながら言った。
────────
屋上へと続く階段を誰かが登ってくる音がする。
どうやら来たようだ。
バンッ、と勢いよく扉を開いて上がってきたのは、池田信彦と田中大輔だった。
「ちゃんと二人で来てくれたわね」
「ありがとうね、田中くん、池田くん」
俺と花山は目の前の二人、池田と田中を出迎える。
「約束通り来た……ぞ……」
「だから早く、その……戻して……戻せ、よ……」
ぎこちなく喋る二人の姿を見て俺たちは笑いそうになるのを堪えた。
あの二人、池田と田中の中身はもちろん元冷泉と元花山だ。
俺たちはさっきあいつらにメッセージを送ったのだ。
『入れ替わった身体を元に戻して欲しかったら田中(池田)を連れて屋上まで来い。ただし、入れ変わっていることは相手にも他の人間にもバレないようにしろ』
つまり、あの二人はお互い他人と入れ替わっているということに気づいていない。
そして、お互い相手に気づかれないように身体通りの池田と田中のフリをしてここまで来たのだ。
隣にいるのが自分の親友だというのにも気づかず男のフリをしている様はなんとも滑稽で見てるだけでゾクゾクする。
「どうしたの? 池田君。貴方、田中君と仲がいいんでしょう? もっと親しそうに話さないのかしら」
「っ……! そ、そんなの冷泉さんに言われる筋合いは、ない……な、なあ? 田中君」
「えっ!? そ、そうだな、池田」
俺の指摘を受けた池田は明らかに挙動不審になりながら田中に言葉をかける。
田中も急に振られて戸惑いながらなんとか返事をしていた。
「あら? 池田君って田中君のこといつも田中って呼んでなかったかしら?」
「っ!? 田中! 田中だ! お前は田中だよな!」
「う、うん? ……じゃなかった、えっと、おう、当たり前、だろ……」
必死に自分を取り繕う池田と田中。
お互い身体に合わせるのに必死すぎて相手のおかしな言動には気づく気配もない。
「田中くんはあたしにお願いがあるんだよね? 池田くんも、清美に何かお願いがあるのかな?」
「あ、ああ……」
「そ、そうだ……」
「ふふっ、だったらー、こっちのお願いも聞いてもらわないとね?」
花山が優しい顔で微笑む。
「二人にはー、今からあたしたちと……セックスしてもらいまーす!」
「っ!?」
「は!?」
二人から驚愕の声が上がる。
特に驚いているのは池田だ。
「ちょ、ちょっと春奈!? 貴女何言ってるの!?」
「んー? どうしたの池田君? 急にあたしのこと名前で呼び捨てなんて、らしくないよー?」
「あ、えっと、その……」
花山に指摘され黙り込む池田。
元冷泉の池田からすれば、今の花山の中身が田中になっていることなんて知る由もない。
当然ツッコミを入れたい気持ちでいっぱいだろうが、今の立場ではそんなこともできないだろう。
さて、それじゃあ俺も花山の言葉に乗っかるとするか。
「春奈が言うんじゃ仕方ないわね。私も貴方たちとセックスすることにするわ」
「えっ!? 清美!?」
田中が俺の方を見て声を上げる。
元花山の田中も、冷泉の中身が俺になっていることにはもちろん気づいていない。
清楚な親友がセックスなんて言い始めたら当然の反応だろう。
だが、田中大輔と冷泉清美はそんな名前を呼び捨てにするような間柄ではない。
「田中君、貴方とは初めて話をすると思うのだけれど、いきなり名前で呼び捨てなんて失礼とか考えないのかしら?」
「そ、それは……ごめんなさい、冷泉、さん……」
親友だと思っている相手に冷たくあしらわれて俯く田中。
自分の中の嗜虐心が満たされて、なんとも気分がいい。
「それじゃあ、池田くんはあたしと、田中くんは清美とセックスするということで」
「わかったわ。よろしくね、田中君」
俺は田中の前まで歩いていき、その手を取る。
田中は何かを訴えるような瞳をこちらに向けていた。
きっと自分が本当は花山春奈だと気づいて欲しいのだろう。
もちろん俺はそんなこととっくに知っている。
「まずは服を脱がないといけないわね」
そう言いながら俺はさっき着直した制服をまた一枚ずつ脱いでいく。
「や、やめなよ! きよ……れ、冷泉さん。こ、こんなのおかしいよ……」
「だって、春奈が貴方とセックスしろって言うんだもの。仕方ないでしょ」
「そんなことあたし言わない! ……あ、ち、違う……花山さんは、そんなこと、言わない……」
田中はなんとかこちらの言い分を覆そうとしているが、花山と俺がグルになっている以上止められるわけがない。
俺はそのまま花山を無視して服を全て脱ぎ捨てる。
さっきは脱ぎ方がわからなかったブラやスカートも、今となっては何の問題もなく脱げる。
「ちょ、そんな、裸に……本当にどうしちゃったの!?」
「セックスするんだから裸になるのは当たり前じゃない。ほら、貴方も下を脱いで?」
全裸になった俺を見て戸惑う田中に詰め寄り、俺はズボンのベルトを外す。
「や、やめて……!」
「ほら、観念しなさい。春奈にお願いがあるんでしょう?」
「そ、それは……」
田中の抵抗の手が弱まる。
きっと田中の中では言う通りにしないと元に戻してもらえないという葛藤があるのだろう。
一度入れ替わったらもう元には戻れないのにあんな約束をしたのは流石に意地悪だったか?
「ベルトが外れたわね。それじゃあご開帳……って、あら……」
パンツごと田中のズボンを下ろすと、その下からギンギンに勃起した逸物が姿を現した。
冷泉の裸を見てそんなに興奮していたのか。
あるいは男の体になったことに興奮していたのか。
いずれにしてもその勃起具合は見事なものだった。
「ふふっ、そんなに興奮していたの?」
「な、なにこれ……」
「なにって、勃起したおちんちんに決まってるでしょ? 貴方が興奮しているから勃起しているの。わかるでしょ?」
「そんな、嘘……」
自分の勃起した男性器を見つめて固まる田中。
その瞳の奥には驚愕の他に熱い色っぽさが潜んでいた。
「嘘じゃないわ。こうやって触れば、その感覚がわかるでしょ?」
「んひっ!?」
右手で優しくそれを握りしめると、田中の身体がビクンッと震えた。
初めて感じる男の快感にさぞ混乱していることだろう。
「これを、私の股間に挿れるの。それが、セックス」
「股間の中に、挿れる……?」
「ええ。きっとすごく気持ちいいわよ?」
童貞のまま女になってしまった俺には男のセックスがどれだけ気持ちいいかはわからない。
だがオナニーで射精の快感を知っている身からすればどう考えても気持ちいいのは間違いない。
それを体験できるなんて、少しだけ田中のことが羨ましく思えた。
「だ、ダメ……そんな、清美に、挿れるなんて……」
田中はまだ抵抗している。
随分強情だ。
するとそのとき、隣から二人の嬌声が聞こえてきた。
「あ、あ゛ぁッ!?」
「んっ……あはっ、見て見て! 清美、田中くん! 池田くんのおちんぽがあたしのおまんこに入っちゃった!」
声の方を見ると、床に倒れた池田の上に花山が跨っている。
騎乗位の形だ。
「んっ、すごいっ、おちんぽ、気持ちいいよ!」
「あっ、あッ、これっ、駄目っ……あ゛ッ!」
池田の上でにこやかな表情をしながら腰を振る花山。
一方池田の顔は何かを堪えるように苦しげだが、同時に快感に悶えるようでもあった。
「ほら、あの二人あんなに気持ちよさそう。私たちも早くしましょう?」
「あ、ああ……」
田中の口元がワナワナと震えている。
自分の身体が男の上で腰を振っているのがショックなのか、はたまた気持ちよさそうな池田が羨ましいのか、あるいはその両方か。
とにかく田中の表情は決壊寸前のそれだった。
俺はゆっくりと田中の肩を抱いて床に座らせる。
そして、そのまま寝そべらせると花山と同じようにその上に跨った。
「さあ、一緒に気持ちよくなりましょう?」
俺はそう言いながらギンギンに反り勃つ田中の男性器の上に腰を下ろし、それを女性器に突き挿した。
「あっ、ああ゛あッ!」
その瞬間、田中は野太い雄叫びを上げた。
それは普通の女の子からは程遠い、快楽に唸る獣のような叫びだった。
「んっ、すごい、異物感ね……でも……」
固い一本の棒が自分を貫くこの感覚は、自分が女になったことをはっきりと自覚させてくれた。
挿れるための棒はもう自分になく、受け入れるための穴が自分にはある。
それが、今の俺を激しく昂らせる。
「動くわね……」
「っ!? ちょっ、まっ……んあ゛あっ!?」
ズチョッ、という絡まる水音を立てながら、膣内に田中の肉棒を擦り付ける。
奥の方のある一点。
そこに棒が当たると、俺の身体は勝手にビクンっと震えてしまう。
ここだ、ここが気持ちいいんだ。
「もっと、もっとここに……んんっ、あっ!」
「や、やめ゛て、うごかさないでっ! なんか、でちゃうからぁっ!」
田中は目に涙を浮かべて喚いている。
泣くほど気持ちいいのか、どうやらもうイッてしまいそうなようだ。
俺も、さっき一度イッたおかげがすぐにまたイケそうだ。
俺は腰の動きを早めて自分も田中も絶頂に導くことにした。
高まった快感は、あっという間に破裂しそうなほど膨らんでいく。
そして。
「んっ、あッ、イクッ、んんッ!!!」
「あ、ああ゛ッ! あがああ゛ぁッ!!?」
俺の膣内で田中の男性器がビクッ、ビクッと震えるのと同時に、俺も身体を大きく仰け反り、果てた。
その瞬間、またも頭の中に何かが流れ込む。
いや、脳みその中が本来の形に戻っていく、そんな感覚がする。
知らなかった記憶が、知っていた記憶に変わる。
持ち得なかった感情が、当たり前にある感情となる。
今まで自分じゃなかったものが、自分になる。
お母さん、お父さんと共に過ごしてきた家でのこと。
真面目に勉強に取り組んできた学校でのこと。
そして、ただ一人の大切な親友、春奈との思い出。
それらが私の中に馴染んでいくのを感じる。
「ああ、すごい……私、どんどん冷泉清美になってる……」
「な、に、これ……知らない、思い出が……」
私が身体に馴染むのと同じように、田中君も身体に馴染み始めていた。
きっと自分のものではない記憶や感情に戸惑っていることだろう。
私が股間から田中君の性器を抜いて立ち上がると、後ろから春奈が声をかけてきた。
「きーよみ! 頭の中どうなった?」
「多分春奈も同じだと思うけど、さっきの何倍も冷泉清美そのものに変わってる気がするわ」
「やっぱり清美もなんだ。あたしもすっかり花山春奈になった気分。さっきまではまだちょっと演技してる感覚もあったんだけど、今はもうこの喋り方じゃないと落ち着かないかもー」
「ええ、私も。俺、なんていう一人称はもうむず痒くて使えないわ」
そんな話をしていると、池田君と田中君が床を這いながら近づいてくる。
「あ、貴方たち、何の話を……? 演技っていったい……」
「変わってるって……もしかして、清美も……? まさか……」
どうやら話を聞かれてしまったようだ。
どの道、池田君と田中君に身体の記憶が見られてしまう以上隠していたって仕方ない。
お遊びはここで終わりにしよう。
「貴方たちも見たでしょう? 身体の記憶を」
「それで思い出してみたら? スワパスのことを」
一瞬怪訝な顔をした二人は、すぐに何かに気づいたようにみるみる顔が青くなっていった。
「俺たち、スワパスで身体を入れ替える計画を立てて……」
「オレは花山と、池田は冷泉と……って違う、あたしは、あたしで……」
記憶に呑まれそうになり、抵抗するように顔を振る池田君と田中君。
それからハッとしてお互いを顔を見合わせる。
「そんな、まさか……春奈なの?」
「き、清美? そんな、嘘……」
変わり果てた姿で再開した男子二人は愕然とした様子で見つめ合っていた。
「ふふっ、感動の再会だね」
「春奈、そんな風に茶化したら可哀想よ」
私たちが横から口を挟んでいると、田中君がキッとこちらを睨みつけてきた。
「あたしたちをこんなにして……許さない……許さねえ……よくもオレをこんな目に……」
「春奈! 落ち着いて! 自分を保って!」
「あ……あたし、なに言って……」
田中君は自分の口調の変化に戸惑っている。
私たちも一回イッた状態ではどっちつかずの不安定な状態だった。
ちゃんと意識していないと片側に寄ってしまうのだろう。
それなら、ちゃんと染めてあげないと可哀想だ。
私たちだって、まだ完全に身体に馴染んだわけではない。
だったらすることは一つだ。
私は春奈と目を合わせた。
どうやら春奈も同じことを考えていたらしい。
「ねえ池田君。まだまだ元気よね?」
「田中くんも、まだ出したりないんじゃないの?」
私たちはそれぞれ入れ替わった元の身体の前へと歩み寄って行く。
すると、さっきまで怒りの表情を浮かべていた二人は露骨に目を逸らし始めた。
その顔は、興奮しているように紅く染まっている。
「目の前にこんな美人な女の子が二人もいるんですもの」
「まだまだやれるよねー?」
私たちは、わざと胸を、そして股間を見せびらかすように妖艶なポーズで立って二人を見下ろす。
「な、なにを……言って……んっ……」
「……はぁっ……そ、そんなの……」
二人は顔を逸らしながらもチラチラと私たちのことを見ている。
女の子のエッチな身体に興味津々な男子そのものだ。
私たちはそのまま二人の耳元に顔を近づける。
「「入れ替わった自分の身体と、セックスしましょ?」」
そう言った瞬間、二人の目の色が変わった。
さっきまでの極力見ないようにしようという僅かばかりの理性は消え失せ、精液の垂れる私たちの股間を穴が開きそうな勢いで凝視している。
「はぁっ、はぁっ……」
「んっ、はぁっ……」
息を荒くして元の自分の股間を目に焼き付けている池田君と田中君。
ここまでくれば後はもうひと押しだ。
私たちは床に座り込み大股を開いて目の前の男子に囁いた。
「ほら……?」
「きて……?」
妖しく微笑みをかけた次の瞬間、二人は私たちの方に組みついてきた。
「ああ、ああっ……私の体……すっごいエロい……」
「あ、あたしの……マンコ……めちゃくちゃに犯したい……」
二人ともさっき射精したばかりだというのに再び最大限に勃起していた。
すごい性欲。
まるで猿みたい。
「ほら、池田君。ちゃんと見て。入れるのはここの穴よ?」
「そ、そんなの……言われなくてもわかってるわよ……!」
「うわあ、田中くんのおちんぽ、池田くんより小さくない? 奥まで届くかなー?」
「う、うるさい……黙って犯されてよ……!」
私たちに煽られて二人ともやる気は十分のようだ。
そのまま池田君は私の股間におちんちんを充てがい、ずぶりと挿し込んできた。
「んっ……ああっ……入ってくる……ふふっ、どう? 池田君。元自分の膣内の味は?」
「すごい……きもち、いい……春奈のより、ずっといい……」
「……って言ってるけど田中君はどうかしら?」
「そんなことないっ! あたしのマンコの方が、清美のマンコより気持ちいいっ!」
「あはは、そんな張り合わなくてもいいのにー……んっ……」
盛った猿のように腰を押し付けてくる男子たちを、私たちはなんだか滑稽に思いながら見ていた。
しかし、そんな彼らの乱暴なセックスで気持ちよくなっているのは私たちも同じだ。
そういう意味では、私たちはあまり彼らを笑えないのかもしれない。
「んっ、いいわ、池田君……その奥を、そう、そこっ……ああッ!」
「はぁっ、もっと……もっとぉっ!」
「田中くん、いいよぉ、そうやって、グリグリ押しつけてぇっ! んんッ!」
「んっ……出したい……だしたいだしたいだしたいぃっ!」
パンパンッ、グチョッグチョッ……そんな淫らな音が鳴り響き続ける。
次第に言葉もなくなり、私たちは全員ただ喘ぎ声を上げるばかりだった。
今の私たちは、皆がそれぞれ性を貪る獣になっていた。
「んんッ、イクッ、ああッ!」
「あっ、ああ゛っ、もっどぉっ!」
「あんっ、ああッ、イッ、ちゃうっ!」
「んあ゛っ、もう、でるっ!」
限界に達そうになった私はぎゅうっと目の前の身体を抱きしめた。
両手も両足も絡めるように背中に回す。
その瞬間、池田君が一際腰を押し付けてきて、私は果てた。
「んッ、あッ、あああぁッ!!!」
「ぐっ、んああ゛ぁッ!!!」
「あッ、イッ、イックうぅッ!!!」
「でるッ、でるうう゛ぅッ!!!」
身体が大きく震える。
膣内でビクビク震える池田君の性器を感じながら、またも私の頭の中は塗り変わっていた。
もう目の前の男子が元は自分だという認識が薄れてきている。
私は初めから私だったような、そんな気がしてならない。
「ふぅ……また、私は私になったみたい……」
「んっ……うん、そうだね……」
私の呟きに、隣で春奈も同調する。
一方、男子二人は先ほどまでよりさらに取り乱した様子で頭を抱えていた。
「俺……またやって……違う、俺は俺じゃない……」
「くそっ、なんだこれ……オレ、なんでオレなんて言っちまうんだよ……」
もうすっかり口調まで染まってしまったようで困惑する池田君と田中君。
もう少しだ。
もう少しで私たちも彼らも、完全に身体に馴染むことができる。
私は股間に池田君のおちんちんを挿したまま彼を押し倒してその上に跨った。
春奈も同じように横で田中君に跨っている。
「な、なにしてるんだよ……!?」
「何って、続きよ」
「や、やめろ……それ以上は、オレ……」
「ふふっ、やめなーい」
怯えるように頭を振る池田君と田中君。
しかし、それに反するように池田君のおちんちんは私の中でまた大きくなろうとしていた。
彼はもう、男の性欲には逆らえない。
「頭の先から爪先まで、完全に染まりきるまで……」
「一緒にイッちゃおうよ。ね?」
私と春奈は妖しく微笑んだ。
────────
休み時間が終わる前にちょっとトイレに行っておこう。
そんな気持ちで席を立って、私は一人で教室を出た。
既に次の授業の準備をしているのか、廊下にはほとんど人がいない。
私も遅れないようにしようと少し足を早めた。
そのとき、私は後ろから誰かの気配がすることに気づいた。
気になって振り向くと、そこにいたのは同じクラスの池田君だった。
私は思わず大きなため息をついてしまう。
「……池田君、私に何か用かしら?」
池田君は視線を泳がせながらおすおずと口を開く。
「あ、あの……れ、冷泉さん……今日の放課後、ちょっと、どうかな、なんて……」
手をまごつかせながら吃った口調で言う池田君。
私は彼のそんな態度に苛立ちを覚える。
「どうっていうのは? 何の話かしら?」
「だ、だから……せ、セックス、だよ……」
それを聞いて、私は再び大きなため息をついた。
「池田君、いい加減にして。私が貴方とそんなことするわけないでしょ」
「な、なんでだよ! いいじゃないか、身体が入れ替わった仲なんだから!」
池田君は少し強気に言い返してくる。
確かに彼の言う通りだ。
私たちは数週間前に身体が入れ替わった。
私は元々彼、池田信彦だったし、彼は元々私、冷泉清美だった。
スワパスという入れ替わりアプリで身体を入れ替えた私たちは、今はこうして入れ替わった相手の人生を歩んでいる。
「入れ替わった相手の身体に馴染むのにセックスが必要だった。だからしていただけよ。もう貴方とする必要なんてどこにもないわ」
「そ、そんな! ちょっと前まではしてくれたじゃないか! なんで駄目なんだよ!?」
確かに私が完全に身体に馴染んでからも少しだけ相手をしてあげていた。
それは、元の身体に戻りたいと言う彼に私が罪悪感を感じていたからだ。
身体を奪ってしまったというのは私の罪。
それを償わなければいけないと、そう思っていたから付き合ってあげた。
だと言うのに。
「……今の貴方は、入れ替わったのを口実に私の身体を求めるだけの屑男よ。そんな最低の人間の相手をする義理は私にはないわ」
私は目の前の男に冷たい視線を向ける。
反吐が出る。
この男が元々私の身体だったということも、私が元々この男だったということも。
「もう二度と話しかけないで。私にも春奈にも。もし次何かあったら、そのときはわかってるわね?」
「ひっ……ご、ごめんなさ……」
池田君は小さな悲鳴を上げると逃げるように教室に戻って行った。
それを見届けた私は、三度目の大きなため息をついた。
────────
「……へー、そんなことがあったんだ。清美も大変だねー」
「大変だねじゃないわよ。春奈、貴女の方はどうなの? 田中君に言い寄られたりしてない?」
「あー、あたしの方も結構しつこかったんだけど、周りにいた友達が見てたっぽくて、なんか裏でボコボコにされちゃったみたい。ちょっとかわいそうかも」
「それは……ご愁傷様ね」
春奈は私と違って友達も多いし、意外と心配いらないのかもしれない。
私の方もあれだけ言えばもう大丈夫だろうし、今後はあの二人に悩まされることもないだろう。
「でも、池田君もかわいそうだよねー。元は自分が清美だったのに、もう二度とこのおっぱいを触れないなんてさー」
「んっ……ちょっと、春奈ったら……」
私の隣で、裸のままベッドに寝転ぶ春奈が私の胸を揉んでくる。
さっきまで散々触り合っていたのに、まだ飽きないなんて、春奈も物好きだ。
「あたし、清見のこのピンク色の可愛い乳首、好きだなー」
「私だって、春奈の乳首好きよ? 見ているだけで吸い付きたくなってくるわ」
「きゃー、へんたーい! あはは!」
私たちはベッドの上でお互いの肌を触り合う。
……やっぱり私も春奈の身体は全然飽きない。
どうやら私も物好きのようだ。
「でも、まさか私と春奈がこんな関係になるとはね。あの日より前の記憶じゃあ思いもしてなかったわ」
「ホントだよー。人生何があるかわからないねー」
入れ替わって完全に身体に馴染んでからも、私たちはこうしてセックスをする関係を続けていた。
元の身体だった男子たちとは二度とする気がないけれど、春奈とはいつまでだってこうしていたい。
「私たちがお互い元々男子だったからこうして女の子の身体を求めちゃうのかしら?」
「んー、どうだろ。向こうの男子二人は女の子だった頃の要素なんてカケラも残ってないし、あたしたちが元々潜在的にそうだったんじゃない?」
「だとすると、きっかけは入れ替わって最初にしたレズセックスかしら。あれで扉が開いてしまったというか……」
「あれ気持ちよかったもんねー。おかげでこんなにハマっちゃった」
親友だったとはいえ、ただの友達だった春奈と気軽にセックスするノリになってしまったのが、やはり一番の原因なのだろう。
タガが外れてしまった今となっては、もう前の関係には戻れそうもない。
「清美はさー、前みたいな普通の友達に戻りたいと思う?」
春奈が首を傾げながら問いかけてくる。
私は、その口に優しく口付けをした。
「……わかってるくせに」
「えへへ、ごめんねー……んっ、ちゅ……」
私はそのまま春奈に抱きつき熱いキスを交わす。
ああ、なんて幸せなんだろう。
きっと入れ替わる前はこんな気持ちになれるなんて池田信彦としても冷泉清美としても思ってなかった。
入れ替わりがあって、スワパスがあって、あの日があって本当に良かった。
私は心からそう思った。