【小説】魂への憑依で楽しむ話 (Pixiv Fanbox)
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燦々と輝く太陽が照らす蒸し暑い夏の朝、俺はショッピングモールへと来ていた。
今日は友人の森田と待ち合わせして二人で遊ぶ予定だ。
休みの日のこんな朝っぱらから男二人でショッピングなんて何が楽しいのかと言う人間もいるだろう。
だが、そんなの楽しいに決まってる。
何故ならこれからするのはただのショッピングではないからだ。
『おーおー、こんな時間から結構人いるじゃん』
俺はショッピングモールの中を歩く人々を上から見下ろしながら呟く。
見下ろしていると言っても上の階から下を見ているわけではない。
俺は今、宙に浮いてその眼下を行き交う人々を見下ろしているのだ。
普通人が宙に浮いたともなれば大騒ぎになるだろう。
だが俺の姿は誰にも見えていない。
今の俺は幽体なのだ。
幽霊のように宙を自由に飛びまわることができ、そして生きた人間からは認識されない。
偶然見つけた海外の通販サイトで手に入れた幽体離脱薬の効果だ。
こんなトンデモ現象を自分が体験できるなんて驚きだが、この薬の本当にすごさはこんなものではない。
『さてさて、どの子にしよっかなー』
道行く人間達、特に女の子に注視する。
十代から二十代くらいが丁度いい。
しばらく辺りを観察していると、一人の女の子が俺の目に留まった。
セミロングの黒い髪が綺麗な子だ。
ゆったりとした袖の広い白のトップスに、これまたゆったりとした長めの茶色いスカートを合わせている。
精一杯のオシャレをしようと頑張っているがどこか垢抜けない、そんな年頃の女の子の雰囲気が程よく伝わってくる。
『おー、いいじゃん。よし、あの子にするか』
俺はゆっくりと女の子の背後に近づく。
改めて顔を覗き込むと、薄めの化粧でも十分だと思えるほどに元がいいのがわかる。
ますます気に入った。
『そんじゃ、お借りしまーす』
こっちに気づかず歩いている女の子を見てニヤリと笑いながら、俺は彼女の後頭部に手を突っ込んだ。
「ッ!? っ、……………」
女の子は驚いたように一瞬ビクッと震えると、すぐに無表情になってその場に立ち尽くした。
俺はその隙に自分の幽体を全て女の子の身体に滑り込ませた。
すると、それまで不安になる程軽かった自分の感覚に少しずつ重量を感じ始める。
手、足、胴、それぞれが質量を持ち、けれど幽体離脱する前の俺の身体とは全然違う感覚が俺に宿っていく。
「ん……」
目を開くと、そこはショッピングモールの中。
場所はさっきいた所から全然動いていない。
だが目線の高さは違う。
空から見下ろすような形ではなく、ちゃんと地に足ついて真正面を見ている。
俺は身体を見下ろした。
着ている服は、袖の広い白のトップスと茶色のスカート。
視界の端には長い黒髪がチラついている。
「よっしゃ、成功」
甲高い可愛らしい声で、俺はつぶやいた。
近くにあった窓を覗き見ると、そこには反射で俺の姿が映り込んでいる。
さっきまで見下ろしていた、あの女の子の姿が。
「うひょー、俺めっちゃ可愛いじゃん」
思わず気持ち悪い笑みを浮かべながら顔をベタベタ触ってしまう。
そう、これが幽体離脱の一番すごいところ、憑依の力だ。
幽体となった状態で他人の身体に自分を潜り込ませると、その身体に乗り移って自由に動かすことができるようになるのだ。
俺だけでなく友人の森田も今頃は他人の身体を乗っ取っているところだろう。
つまり、俺と森田は二人でここに憑依ショッピングを楽しみに来ていたというわけだ。
「おっと、そうだ。早く森田と合流しねえとな」
すぐにでも森田との合流場所に向かいたいところだが、その前に準備が必要だ。
俺は近くの本屋に入り、『週刊少年ダッシュ』を手に取りレジへと向かった。
肩から下げている小物入れみたいな小さいバッグを開くと中には財布が入っていた。
財布の中身を確認すると、その中には小銭が数枚しか入っていない。
「おいおい……ギリギリ足りるけど危なかったな、まったく」
これしか現金を持ってこないで買い物する気だったのだろうかこの子は。
もしかしてキャッシュレスの電子決済とかしてるのだろうか。
だとしたら最近の子は進んでいるな。
俺だって電子決済なんか全然使ってないのに。
そんなことを考えながら当たり前のようにこの子のお金で会計を済ませ、俺は待ち合わせ場所である三階北側のベンチへと向かった。
すると、そこには金髪の女が座っていた。
肩出しの黒いトップスに下はジーパンを履いている露出度高めな派手な女だ。
一見するとオシャレでイケイケな女という感じだが、その手にはミスマッチな『週刊少年ダッシュ』が握られており、しかもそれを熱心に読み耽っている。
俺は自分が買ったダッシュを手に持ちながら女の隣に座り、小声でつぶやいた。
「『今日は乗っ取り日和ですね』」
すると、それまでダッシュを読むのに集中していた女がこちらを向き、ニヤリと笑った。
「『そうですね、憑依日和です』」
その言葉を聞いた俺は、目の前の女同様にニヤリと笑った。
「また随分と派手な身体を選んだな、『森田』」
「お前の好みが地味なんだよ、『樋口』」
俺たちは初対面の女同士であるにも関わらず、まるで男のような口調でお互いの名前を呼び合った。
もうおわかりだろうが、この目の前の派手女は俺の友人の森田だ。
俺たちは予めこうやって待ち合わせ場所にダッシュを持ってきて合言葉を言うように話し合っていた。
でないと身体だけ見ても誰が森田なのか判別しようがないからだ。
「別にこの身体だって地味ではないだろ。お前が派手すぎるから差が目立つだけだ。なんだその肩出しの服とジーパンは」
「あのなあ、今はこういうのジーパンじゃなくてデニムって言うんだよ。そんなかわいい身体でセンスないオッサンみたいなこと言うなよ」
「うるせえよ」
俺たちはそんな雑談をしながら移動を始めた。
周りから見れば買い物に来た女の子二人組にしか見えないだろう。
中身は冴えない男二人組だというのに、なんとなく優越感を感じる。
「この身体よりそっちの方が年上か?」
「そうだな、この身体は20代前半って感じだ。お前は女子高生ぐらいか」
「憧れるよな、女子高生。甘酸っぱい青春なんか俺たちとは縁遠いものだったし」
「確かに。よかったな、こんなかわいい女子高生になれてよ」
そう言うと森田はいきなり俺の尻を揉んできた。
「ちょ、おい」
「柔らけえなあ。おい、早くやろうぜ。もう我慢できねえよ」
「なんだよ、もうちょっとゆっくりしてからでも……」
「もう十分ゆっくりしただろ。ほら、丁度そこに多目的トイレあるし」
女の声で興奮気味に森田が言う。
森田は俺の手を強引に掴むと、トイレの中に引き込んだ。
中に入って鍵を閉めると、森田はすぐに服を脱ぎ始める。
「おっほぉ、やっぱ胸でけえなこの身体。なあ、お前も早く脱げよ」
「はいよ。ったく……」
森田のやりたがりにも困ったものだ。
俺としてはもうちょっと女の子の身体で遊ぶのも楽しみたいのだが。
憑依をするのは今日で三回目だが、森田のせいで毎回すぐにこの流れになってしまう。
俺はため息をつきながら服を脱いでいく。
白いシャツを脱ぎ、スカートを下ろし、下着を外し。
少しずつ肌が露出していくのを俺は鏡で見ていた。
玉のような傷ひとつないその肌を見ると、思わずうっとりとしてしまう。
気づくと鏡の中の女の子は、にへらとだらしない笑みを浮かべていた。
「お前だって楽しいくせに、カマトトぶりやがって」
いつの間にか背後にいた森田が文句を言いながら俺の胸を鷲掴みにしてきた。
「んっ、悪かったよ。さっさと楽しもうぜ」
俺たちは向かい合ってお互いの胸を揉んでいく。
目の前の派手女の胸の方がこの身体より胸が大きいようだ。
女の子の細い指が、派手女の胸に沈み込んでむにゅりとその形を歪めていくのがなんともエロい。
一方、俺の身体の方は乳首を重点的に責められていた。
ネイルのついた爪でこしょこしょと引っ掻くように弄ばれ、ムズムズとした心地よさが大きくなっていく。
「んっ……お前、前より触り方上手くなってないか……?」
「そっちだって……っ……」
撫でるように胸を揉みながら俺も乳首をくすぐっていく。
すると、大きな胸の中心にある乳首が段々と勃起していくのがわかった。
「ほら、乳首勃起してんぞ……」
「んっ……お前の方こそ……こんなピンッと勃たせてんじゃねえか……そらっ」
「んひッ!?」
乳首を指で弾かれ、思わず声を上げてしまう。
俺の方もいつのまにかすっかり乳首が勃起していた。
この身体、ずいぶん興奮しているようだ。
「そろそろ、下の方もいこうぜ」
「ああ、わかってるって……」
俺たちは相手の胸から手を離すと、そのまま下に向かって手を移動させた。
股の間の、男ならチンコがついているはずの場所。
だが、今の俺たちにはそんなものはない。
あるのは、しっとりと濡れそぼった割れ目と穴だけだ。
「なあ、せーので触ろうぜ」
「いいぜ。せーのっ……」
俺たちは合図に合わせて相手の股間に指を伸ばす。
その瞬間、敏感になっていた場所から強い刺激が背筋に向かって走り抜けた。
「んひゃっ!?」
「あぁんっ!」
自分たちの声とは思えないほど、艶やかで色っぽい喘ぎ声が辺りに響く。
女のこの快感にはいつまで経っても慣れない。
男のそれとは全然違う、内から湧き出るような熱っぽさが俺の頭を支配していく。
「それっ、きもちいい……」
「もっと、やって、くれぇ……」
相手の要望通りに、俺たちは股間に伸ばした指を動かし続ける。
穴の周りを撫でたり、上にある突起を撫でたり、女の快感をもたらすその場所を満遍なく責め続けた。
ふと顔を上げると、化粧をばっちりしているイケイケの女が、顔を赤くしてとろんとした表情で口を半開きにしていた。
この女のことを俺はよく知らないが、普段だったら絶対にしないだろうということだけはわかった。
「んっ、あっ……くっ、お前、すげえ顔してるぞ……んっ……!」
「あっ、あっ……お前だって、エッロイ顔しやがって……その子の友達が見たら、どう思うか……んあっ!」
どうやら俺の身体もすごい顔をしているらしい。
かわいらしくてどちらかと言えば清楚な雰囲気のあった女の子が、初対面の女と股間を弄りあってエロい顔をしている。
それを想像すると、身体が芯から震える程に興奮してきた。
「やべ、もうイキそうだ……」
「こっちも、限界、っぽい……」
既に股間はクチュクチュと水音が鳴る程にびしょびしょになっており、今にも決壊しそうななのが伝わってくる。
ラストスパートだ。
俺は女の穴の中へ指を挿し入れ、中を掻き回すように責め立てた。
向こうも俺をイかせるべく、勃起している股間の突起を重点的に責めてきた。
「やばっ、もう、無理、んッ!」
「あっ、ああっ、イクッ……!」
お腹の内側から湧いてくる断続的な快感が全身に広がって、もう我慢できない。
俺は思わずギュッと股を締めつけた。
「んっ、んああぁッ!!!」
「イクッ、あッ、んんんッ!!!」
ビクンッ、と腰が大きく跳ねる。
二人同時に俺たちは身体を震わせていた。
タイミングよく二人でイッたようだ。
「あっ、あっ……」
俺は力が抜けてその場に座り込んでしまった。
森田の方も息を切らしながら壁に手をついて身体を支えている。
「ふぅ……最高だったな」
「ああ……」
こちらに笑いかけてくる森田に、俺は朦朧としながら返事をした。
蕩けきった女の顔をしている森田を見て、俺も今こんな顔をしているのかと想像すると、腹の奥がキュンとなるのを感じた。
────────
服を着直して俺たちはトイレから出た。
「この後はどうするよ?」
「うーん、そうだな。別の身体に変えるってのもありだな」
森田は軽く背伸びをしながら言う。
一回セックスしただけですぐ身体を変えるのはなんだか勿体ない気もするが。
この子、かわいくて結構気に入ってるし。
「俺としてはもう少しこの身体で遊びたいんだけど…………ん?」
そこで、俺は一人の女の子がこちらをじっと見つめている気づいた。
水色っぽいノースリーブの服に白い短パンを履いた小学生ぐらいの女の子だ。
思わず森田と顔を見合わせると、女の子はこちらに近寄ってきた。
「ねえ、お姉さんたち」
話しかけられてしまった。
どうしたものかと少し戸惑う。
「え、えーっと……」
「こほん……何か用かしら?」
森田が澄まし顔で女の子に問いかけた。
すると女の子は眉間に皺を寄せながら言った。
「二人でトイレに入ってなにしてたの?」
俺は思わず息を呑んでしまった。
どうやら二人でトイレから出てくるところを見られていたらしい。
確かに普通に考えたら女二人で多目的トイレに入る理由などない。
「お嬢ちゃんには関係ないことよ」
森田が少し突き放すような言い方で言うと、女の子はさらにムッとした表情で言葉を続けた。
「セックスしてたんでしょ?」
俺たちは言葉を失った。
まさかいきなり図星を突かれるとは思ってなかった。
それもこんな幼い女の子に。
「二人でおまんこにいじって、アンアン喘いでたんでしょ? 違う?」
俺は顔が青くなっていくのを感じた。
やばい。
どうすればいい。
あまりの非常事態に頭がパニックになっていた。
すると、女の子は不機嫌そうな顔から一転、急に笑顔になった。
「……ぷっ、くすっ、あははっ! そんな怯えなくても大丈夫だよ、お姉さんたち。あたしも同じだから」
わけもわからず俺たちはただ呆然としている。
同じって、一体何が?
「二人とも、憑依してるんでしょ? 実はね、あたしもなの」
「え、ええっ!?」
憑依って、まさかこの女の子も俺たちのように幽体離脱した別の人間が乗り移っているというのか?
「びっくりさせちゃった? ごめんね、あはは!」
「な、なんだよ、驚かせやがって……」
どうやら俺たちに危害を加える気はなさそうで、森田は安心したように軽くため息をついた。
俺の方もほっと胸を撫で下ろす。
「あ、でも多目的トイレでやるのはやめた方がいいよ。他のお客さんの迷惑になるし、バレたときに面倒だから」
「そりゃご忠告どーも。それで、あんたは何者なんだ?」
森田が尋ねると女の子はにっこりと笑って答えた。
「あたしは『池田望』。11歳の女の子だよ。好きな食べ物はカレーで……」
「いや、そうじゃなくて……あんた本人の話」
「ん? そうだなあ……じゃあ、一応『泉』って名乗っておこうかな」
女の子に乗り移った『泉』と名乗ったこの憑依者に俺は少し気になることがあった。
「あの、泉……さん? 少しいいっすか?」
「なにかな?」
泉さんは女の子らしい仕草を崩さずに聞き返してくる。
ずいぶん演技に入り込んでいるようだ。
「その子の名前とか年齢とかってマジのやつなんすか?」
「もちろん。『池田望』はこの身体の本名だし、11歳っていうのも本当だよ」
「それってどうやって調べたんすか?」
身体の素性を調べるというのは実は意外と簡単ではない。
成人であれば免許証などで確認することもできるが、この身体のように学生ぐらいの歳の子の場合名前や年齢に繋がるものを身につけていないことも珍しくない。
目の前の小学生ぐらいの女の子であれば尚更だ。
「そんなの簡単だよ。魂に憑依したら思い出せるんだもん」
「……?」
泉さんの言っていることがわからず俺たちは困惑した。
魂に憑依とは、一体……?
「あなたたち、憑依初心者でしょ? なんとなくそんな気がしてたんだよね」
「まあ、初心者といえばそうだが……」
「まだ三回目くらいっすね」
俺たちは正直に言う。
口ぶりから察するに泉さんは相当慣れていそうだ。
「憑依の方法として普通に身体を乗っ取る他に、魂を乗っ取ることもできるんだよ。ちょっと一回やってみようか。二人とも、そこに座って」
泉さんが近くのベンチを指差す。
俺たちは言われた通りベンチに腰をかけた。
「そこで一回身体から抜け出てみて」
「えっ、でも……」
「いいからいいから」
何がしたいのかよくわからないまま、俺たちは身体から抜け出た。
身体から重量が失われ、宙に漂う幽体の姿に戻っていた。
隣には、派手女の身体から抜け出た森田の幽体がいる。
見慣れている男の森田の姿だ。
どうやら幽体同士ならその姿を見ることができるようだ。
「んっ……あ、あれ? ここは……」
「……え? アタシ、何を……」
俺たちが抜け出たことで本来の身体の持ち主も目を覚ましてしまった。
ここからどうするというんだ。
「二人とも、聞こえてるよね? それじゃあこの二人の身体から魂を引っ張り出して。首根っこに手を突っ込んで引きずり出すイメージでやればできるから」
首に手を突っ込んで引きずり出す、か。
よくわからないがやってみるしかない。
「えっと、それ、わたしたちに言ってるのかな? ちょっと意味がよくわからないんだけ……ぁ…………」
女の子の首を掴み、そのまま引っ張り上げるとグイッと何かを引きずり出すことができた。
女の子の身体はまるで中身を失ったように黙りこくってしまっている。
「え、何? 何がどうなっ……ぁ…………」
隣でも森田の手によって派手女の身体から何かが引きずり出されていた。
森田の手に握られていたのは、派手女の幽体だった。
俺も自分の握っているものを見ると、それは首を掴まれもがいている女の子の幽体だった。
『な、なにこれ……誰かに、掴まれて……』
『あ、アタシ、どうなってんの!? なんで、下にアタシの身体が……』
いきなり幽体となった女二人は混乱していた。
突然身体から抜け出てしまえば仕方のない話ではあるが。
「二人とも、抜け出た相手の魂の中に入り込んで! 早く!」
俺は言われた通り、掴んでいた女の子の幽体の中に、自分の幽体を潜り込ませた。
『あっ……いや、なにか、入って……きちゃ……』
女の子の苦しげな声が聞こえてくるが気にせず中に入り込んでいく。
すると、だんだんと自分の幽体が形を失っていくのを感じた。
自分という輪郭が少しずつぼやけていくような不思議な感覚。
『あ……わた、し……おれ……わたし……』
聞こえていた女の子の声が、いつの間にか自分の口から発せられているような気になってくる。
自分が、女の子の中に溶けていく。
俺は……わたしは……。
『わたし……わたしの、名前は……秋月椎奈……』
知らなかったはずのわたしの名前が頭に浮かぶ。
名前だけじゃない。
わたししか知らないわたしのことが、次から次へとわたしの中に入り込んでくる。
わたしは、わたしとしての全てを思い出した。
『すごい……これが、魂への憑依……』
気づけば苦しい感覚は治っていて、わたしは自分の幽体を見下ろしていた。
さっきまでは幽体は男の人の形をしていた。
でも、今は幽体すらもこの子、『秋月椎奈』の形をしている。
『そっちも魂乗っ取れたみたいね』
隣から聞こえる声の方を見ると、自信ありげな表情の気の強そうな女の人の幽体がこちらを見ていた。
『えっと、森田さん……ですよね?』
『アタシは『松山紗栄子』。あんたも今は『樋口』じゃないでしょ?』
『あ、そうですね。わたしは『秋月椎奈』です』
そんな風に自己紹介していると、下から泉さんの声が聞こえてきた。
「魂に憑依できたら身体に戻ってきて」
わたしたちは下で力が抜けたように項垂れている女の子の身体……自分の身体へと戻った。
じんわりと身体の感覚が戻っていく。
目を開けると目の前にはにっこりとした表情の泉さんがいた。
「どう? 魂に憑依した気分は」
わたしは自分の顔に手を触れながら答えた。
「すごいです。わたしがまるで元からこの子……『秋月椎奈』だったみたいに思えて」
「本当ね。アタシも自分が『松山紗栄子』じゃない男だったなんて信じられない気分」
「ふふっ、気に入ってもらえてよかった。それじゃああなたたちのことはこれから椎奈さんと紗栄子さんって呼ばないとね」
その言葉を聞いた瞬間、自分の中に不思議な充足感が湧き出てきた。
ただ名前を呼ばれただけだというのに、自分でなかったはずの名前が自分の名前であると思えたことがどうしようもなく嬉しかった。
すごい、本当にすごい。
わたしは感激していた。
自分がこの身体に憑依している別人だという認識を残しながらも、こうしてこの身体の持ち主そのもののようになれていることに。
こんなすごいことを教えてくれた泉さんには本当に感謝しないと。
「泉さん、ありがとうございます。わたしをわたしにしてくれて」
「いいよ、そんなの。それより、あたしのことは望って呼んでよ。あと敬語もやめてね。あたしは椎奈さんよりもずっと年下なんだから」
「あ、えっとそうですね……じゃなくて、そうだね。なんか憑依の大先輩っていうイメージがついちゃったからつい敬語になっちゃうな。えっと、よろしくね、望ちゃん」
「うん、よろしくね、椎奈さん」
望ちゃんが満面の笑みで応える。
その姿は年相応の女の子そのものだった。
「それで、望、椎奈。これからどうする?」
隣の紗栄子さんが私たちに問いかけてくる。
そういえば、さっきもこれからどうするか話し合おうとしてたところだった。
今のわたしとしては、なにをしても楽しめるような高揚感に包まれているからなんでもいいのだけど。
「二人に予定がないんだったら、あたしプールに行きたいな!」
望ちゃんがはしゃぐようにして言う。
このショッピングモールから一駅挟んだ先に大型のプールがある。
望ちゃんはそこに行きたいらしい。
「女の子三人でプールに行くなんてワクワクしますね」
「ふふっ、決まりね。それじゃあ行くわよ」
歩き始める紗栄子さんにわたしと望ちゃんも続く。
女の子三人で仲良く歩くその姿を見て、まさかその中身が乗っ取られているなんて思う人はいないだろう。
それがまた一層わたしの気持ちを高揚させた。
────────
わたしたちはプールを目指して電車に乗っていた。
歩いても行ける距離ではあったのだけれど、この強い日差しの中歩いていくのは少し躊躇われたので結局空調の効いた電車を利用することにした。
「こんな暑い日に外歩くなんて流石に勘弁だわ。まあ、こんな日に彼氏と買い物に来てたアタシがいうのもなんだけど」
「え、紗栄子さん今日デートだったんですか?」
「まあね。さっきお断りの連絡しといたけど。ドタキャンは普段から結構してたみたいだし問題はないわ」
「うわー、彼氏さんかわいそー」
「わたしも実は友達と遊ぶ予定だったんですけど、さっき急用ができたって連絡しておきました。流石に罪悪感でちょっと胸が痛みましたが……」
電車に揺られながら女子トークをするわたしたち。
休日なのもあってそこそこ人がいるけれど、わたしたちのことを怪しんでいるような人はもちろん誰もいない。
「でも不思議な感覚よね。アタシに彼氏がいるってことが当たり前のように受け入れられてる。男だったときにはとてもじゃないけど理解できない気分だわ」
「そうですね。わたしも今、友達に申し訳ないなって気持ちが強いんですけど、元の状態だったらこんな気持ちにはならないと思います。わたしってすごい良い子みたいですね。って、こんな言い方すると自画自賛みたいで恥ずかしいですが……」
他人の価値観になって考えるなんて普通は不可能なことなのに、実際にできてしまっている。
わたしは今普通の人ではできない体験ができているんだと思うと、なんだかすごく面白い。
そんなことを話している間に電車が目的地に到着した。
電車から降りて改札を出ると、プールまでの道案内があったので道順に従って歩いて行く。
やがて目の前に大きな施設の入り口が見えてきた。
あそこがプールのはずだ。
けれどそのとき、あと少しで到着というところで急に紗栄子さんが声を上げた。
「ちょっと待って。よく考えたらアタシ今すごい化粧してるわ」
「うん、メイクバッチリって感じだけど、それがどうしたの?」
「いや、流石にこのまま入るわけにもいかないじゃない? でも、あんまり落としたくもないのよね……当たり前だけどウォータープルーフなんか用意もしてないし……」
ウォータープルーフというのはお化粧が水で落ちないようにするためのアイテムだ。
男の人だったときは知らなかったけど、この身体にはその知識があった。
「えー? ここまで来てプール入らないの?」
「アタシだって入りたいけど、でもねえ……」
紗栄子さんはその場に立ち止まって悩み始めた。
紗栄子さんぐらい濃い化粧をしていたら落とすのもメイクし直すのも大変そうだ。
それに、すっぴんをあまり見られたくないという気持ちもあるだろう。
男目線としては、せっかく濃い化粧の女の人になったのに落とすなんて勿体無いという気持ちもあるかもしれない。
「……仕方ないわね。身体を乗り換えるわ」
紗栄子さんは決意するように言った。
その身体でプールに入る気にならないならそうするしかないかもしれない。
「望、この状態から他の身体に乗り移るときはどうすればいい?」
「別に難しいことはないよ。身体から抜け出た後に魂から抜け出ればいつもと同じだから。やってみればなんとなくわかると思うよ」
「わかった。じゃあ二人は先行ってて。いい身体見つけたら合流するから」
そう言うと紗栄子さんは一瞬ビクッと震えた後、パチパチと瞬きして辺りを見回し始めた。
「んっ……あ、あれ? ここどこ? アタシ、ショッピングモールにいたはずじゃ……」
困惑する紗栄子さんを無視してわたしたちはプールに向かって歩き始める。
「ねえ、椎奈さん。次はどんな身体にしてくると思う?」
「うーん、そうだね。森田さんは派手な女の人が好きだから似た系統で来ると思うけど、あんまりお化粧をしてないっていう条件がつくとなると……」
なかなか想像するのが難しい。
意外といつもとは違う趣向の身体だったりするのだろうか?
そんなことを話しているうちにプールの前までたどり着く。
わたしたちは入り口に入ってすぐのロビーで森田さんを待つことにした。
すると数分後、わたしたちの元に元気な女の子の声が聞こえてきた。
「おっ待たせー!」
声の方を見ると、明るいプラチナブロンドに染めた髪が目立つ、わたしと同じくらいの歳の女の子が立っていた。
黒いチューブトップにショートデニムを合わせたお洒落な出立ちで、やはり雰囲気は紗栄子さんに近いものを感じる。
けれど顔のお化粧は、紗栄子さんのものに比べると年相応に大人しい。
「アタシ、『須藤遥華』。遥華でいいよ! この身体でもよろしくね、椎奈、望」
女の子、遥華ちゃんは手でピースしながらわたしたちに挨拶してきた。
わたしの友達にはあまりいないタイプの女の子なので少し緊張してしまう。
「え、えっと、改めてよろしくお願いします」
「もー、そんな敬語とかいいから。アタシたち同い年ぐらいっしょ? 気軽にタメ口でいいよ!」
「えっと、うん、そうだね、遥華ちゃん」
遥華ちゃんの気さくな笑顔に少し緊張も解けた気がする。
わたしは大人しいけれど、こういうときにどんな相手にも仲良くなろうという気を持つことができる。
こういうところがこの身体、椎奈のいいところだと思う。
「ねえ、早く行こうよ! あたし待ちくたびれちゃった!」
望ちゃんが口を尖らせてわたしたちに言ってくる。
「ごめんて。今行くから。ほら、椎奈も行こう? あっちで水着借りられるっぽいよ」
「うん」
あたしは遥華ちゃんたちに続いて水着レンタルのスペースに進んだ。
大型の施設だけあって、多種多様な水着が並んでいる。
「すごいね、いろんな種類がある……」
どれにしようかつい悩んでしまう。
男の人だったときには水着選びで悩んだことなんて全くなかった。
それが、今は女の子として自分に合う水着を探しているなんて、すごい変わりようだ。
女の子って楽しいかも。
思わずそんなことを考えてしまう。
「椎奈ー、これなんてあんたに似合うんじゃなーい?」
いつの間にか近くに来ていた遥華ちゃんが手に持った水着をわたしに合わせてくる。
それは、ヒョウ柄のビキニだった。
「ちょ、ちょっとこれは派手すぎだよ! わ、わたしこんなの着られないよ!」
「あははっ! 恥ずかしがってるー! かわいいー!」
どうやらからかわれたみたいだ。
わたしは笑い転げる遥華ちゃんを放置して別の水着を見に移動した。
「ねえねえ、椎奈さん。この水着、椎奈さんに似合うと思うなー」
今度は望ちゃんがいつの間にかわたしの近くに来ていた。
そして、遥華ちゃんと同じようにわたしに水着をあてがってくる。
それは、真っ赤なハイレグだった。
「ちょ、ちょ、なにその水着!? もう派手とかそういう次元じゃないよ!? きわどすぎるよ! というか、なんでそんなのがレンタルスペースにあるの!?」
「あははっ! 椎奈さん顔真っ赤だよー!」
望ちゃんまでわたしをからかっているようだ。
わたしはそんなにいじりたくなるような性格をしてるんだろうか。
主観的に見ているといまいちわからない。
「もう、二人とも、ふざけないでよ!」
「えー? でもさー」
「ねえ?」
遥華ちゃんと望ちゃんが顔を見合わせている。
二人の間ではなにか通じ合っているようだ。
「そんなにわたしをからかうのが楽しいの?」
「違うよ、そうじゃなくてさ。こうやって女の子同士でしかできないじゃれあいって楽しくない?」
そう言われて、わたしも二人の言いたいことがなんとなくわかった。
たしかにこんなやり取りはこの身体でないとできない。
これもまた普通ではできない体験だと思うと、からかわれていたというのに嫌な気分ではなくなっていく。
「うん、たしかに楽しいかも……」
「でしょ!? じゃあ次はこの水着を……」
「でも、水着で遊ぶのはここまで。早くプール入って遊ぼうよ」
そう言ってわたしは話を切り上げた。
いつまでも水着選びに時間をかけていてはプールで遊ぶ時間が減ってしまう。
遥華ちゃんは「ちぇー……」と言いながら自分の水着選びに戻っていった。
最終的にわたしたちは自分の水着を選び終えると更衣室で着替えてから再び集合した。
遥華ちゃんの水着は黒いビキニだ。
全体的な露出度が高くてとてもセクシーに見える。
望ちゃんの水着は水色のセパレートデザイン。
腰回りはスカートのようになっていてとても可愛らしい。
そして、わたしの水着は白いワンピース。
胸の周りや腰の辺りフリルが施されているのがポイントだ。
「いいじゃん二人とも! すごい似合ってるよ!」
「遥華ちゃんもとっても綺麗だよ」
「椎奈さん、なんか清楚って感じするね」
わたしたちは互いの水着を褒め合いながらプールの中へと入っていった。
プールサイドに出ると、休みということもあってか多くのお客さんで賑わっていた。
カップルや家族連れ、友人同士で来たグループなど客層は様々だ。
「ねえ、どこから行く?」
「あたし、流れるプール入りたい!」
「オッケー! って、あんたいつの間に浮き輪持ってんの?」
「さっきあっちで借りてきたんだー! いいでしょー?」
自慢げに浮き輪を見せる望ちゃん、それを横目にはしゃぐ遥華ちゃんと一緒に、わたしは流れるプールへと入った。
暑い中歩き回って汗ばんだ身体に冷たい水が染み込んでとても気持ちいい。
プールの水の流れはゆっくりで、力を抜いて漂っているだけでも心地いい気分になる。
「はぁー……幸せだなぁ……」
思わずそんなことを呟いていると、突然下からなにかがわたしの股間を触ってきた。
驚いて下を見ると、浮かび上がってきたのは遥華ちゃんだった。
「ちょ、ちょっと、遥華ちゃん……! なにしてるの……!?」
わたしは小声で咎めるように言うと、遥華ちゃんは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「んー? 今日はそういうお楽しみをする日じゃなかったのー? ほらほら……」
遥華ちゃんはそう言いながら水面の下でわたしの股間を水着の上から撫でてきた。
「そ、そんな……こんな人のいるところで……恥ずかしいよ……」
「んふふ、椎奈ったらかわいいなー。そんなこと言うともっとしたくなっちゃう」
遥華ちゃんは再び水の中に潜るとわたしの股間を両手で弄り始めた。
「あっ、ちょっ……やっ……」
わたしは声を出さないように必死に口をつぐんだ。
すると、いよいよ遥華ちゃんはわたしの水着をずらして直接股を触ってきた。
股間の大事なところが直接水に触れているのを感じる。
わたし、こんなに人がたくさんいるプールで、股間を晒しちゃってる……。
そう思うと恥ずかしさと倒錯感で頭がクラクラしてきてしまう。
身体は水に浸かって冷えているはずなのに熱くてたまらない。
「……ぷはっ……椎奈ったら、すごい感じてるじゃん。気持ちよさそうだね、その身体」
「もう、遥華ちゃんったら……」
上がってきた遥華ちゃんが楽しそうにこちらを見ている。
もう少しでイってしまいそうだったところで止められ、安心したような物足りないような複雑な気分になってしまった。
「ねえ、椎奈。ちょっとあたしと身体交換しない?」
「え?」
「なんか椎奈が気持ちよさそうにしてるところ見てたら、あたしもその身体になりたくなってきちゃった」
「う、うん、わかった」
流されるままにわたしは返事をしてしまった。
すると、遥華ちゃんの身体から力が抜け、虚ろな表情になってこちらに寄りかかってきた。
もう身体から抜けてしまったみたい。
わたしも後に続いて身体から抜け出る。
幽体になると、待ってましたとばかりににっこりと笑みを浮かべた遥華ちゃんの幽体がわたしの身体の中へと入っていった。
わたしも空っぽになった遥華ちゃんの身体へと入り込む。
目を開くと、目の前には白いワンピースの水着を着たセミロングの黒髪の女の子、わたしが目の前にいた。
自分の身体を見下ろすと、少し日に焼けた黒いビキニを着た自分ではない女の子の姿が目に入る。
視界の端に見える髪色もわたしのものとは違うプラチナブロンドだ。
「すごい、わたし、遥華ちゃんになっちゃった」
わたしの声よりも少し低めの声音が喉から鳴り、思わず自分の喉に手を伸ばしてしまう。
やはり自分の身体ではない身体になると違和感がある。
もっとも、さっきまでの椎奈の身体だって本当はわたしのものではないのだけど。
「んっ……椎奈の身体、めっちゃ昂ってんじゃん、あたし、我慢できない……」
すると、前からさっきまでのわたしの声で艶やかな囁きが聞こえてきた。
顔を上げると、顔を赤くしたわたしが両手で自分の股間を弄っている。
「は、遥華ちゃん、わたしの身体で、そんな……」
「ごめん、椎奈……でも、椎奈の身体、きもちよくてぇ……んっ……」
わたしの身体となった遥華ちゃんは、周りの目があることなど気にせず自分の股間を弄るのに夢中になっていた。
わたしの身体が、わたしじゃない人に使われている。
元々はわたしのものじゃなかったはずの椎奈の身体が、今では当たり前のように自分のものだと思え、そしてその身体が他人に好きなように動かされている。
この状況のわけのわからない倒錯感が、今遥華ちゃんの身体となっているわたしのことを興奮させてきた。
けれど、流石にここでは羞恥心が勝ったわたしは、周りの人に見えないようわたしの身体を包み込むように抱きしめた。
「あっ、あっ……あたしの身体に、だきしめられてる……もっと、さわってぇ……」
「は、遥華ちゃん……」
わたしの身体が、涙目になりながら上目遣いにこちらを見てくる。
自分のこんな顔見たことない。
その姿に胸をドキドキさせていると、いつの間にかわたしの肩に手が置かれていた。
「もう、我慢できない……」
目の前のわたしはそう言うと、わたしのことを水の中へと押し倒してきた。
突然のことに対応できず、そのまま水の中へ沈み込むわたし。
思わず口で息をしそうになってしまったそのとき、いきなりわたしの顔が目の前に迫り、そして口を押し付けてきた。
開いたわたしの口を塞ぐように口が合わせられ、舌が絡められる。
視界いっぱいに広がるわたしの顔は水の中だと言うのに真っ赤で、恍惚とした表情をしていた。
一瞬呆気に取られてしまったものの、わたしはすぐにハッとなり慌てて水面に上がった。
「ぷはあっ! はぁ、はぁ……」
息を整えながら前を見ると、わたしに抱きついたわたしが、ビクッ、ビクッと身体を震わせていた。
どうやら水中でわたしにキスをしながらイッてしまったらしい。
「はぁ……きもち、よかった……」
満足げにこちらを見上げるわたしの顔は、妙な色っぽさを伴っていてまるでわたしではないかのようだった。
「……もう、満足したなら早く戻ろうよ……」
わたしは顔が赤くなっているのがバレないように顔を背けながら言った。
すると、遥華ちゃんは少しなにかを考えるようなそぶりをした後、わたしに提案してきた。
「ねえ、今度は魂も交換しようよ」
「え?」
「あたし、次は椎奈の気持ちになって椎奈の身体で感じたい」
遥華ちゃんが目をキラキラとさせながら語りかけてくる。
そ、そんなこと言われても。
「魂を交換したいなら幽体になった後、幽体同士でキスしたら簡単に交換できるよ」
いつの間にか近くにいた望ちゃんが、浮き輪の上からわたしたちに助言してきた。
「だってさ! ほら、早くやろう!」
そう言うと、目の前にいたわたしの身体から力が抜けて、元気な笑顔が虚ろな表情へと変わっていく。
まだわたしはやるなんて言ってないのに。
「遥華ちゃん、わたしは……ぁ…………」
すると、いきなり首根っこを掴まれてわたしは持ち上げられてしまった。
振り向くと、幽体になった遥華ちゃんがわたしのことを掴んでいる。
どうやら強制的にわたしも幽体にされてしまったようだ。
『椎奈、キスするよ! んーっ……』
『は、遥華ちゃん、待っ……んんっ……』
わたしは抵抗する間もなく遥華ちゃんにキスされてしまった。
すると、わたしの中のなにかが、勢いよく遥華ちゃんの方へと吸い込まれていくような不思議な感覚がした。
いや、わたしの中のなにかと言うよりはわたしの中にある本当のわたしと言った方が正しいかもしれない。
わたしの中に馴染んでいたわたしは、遥華ちゃんの方に流れ込んでいき、それはすぐにアタシへと変わった。
『ふぅ……もう、遥華ったら勝手なことして!』
アタシは目の前の幽体の女の子に文句を言う。
『えへへ、ごめんね、椎奈ちゃん。でも、今はもうわたしが椎奈だから』
『あ、本当じゃん、アタシもう遥華になっちゃってる』
さっきまで椎奈の姿をしていたアタシの幽体は遥華の形になっていた。
それに伴って自分が椎奈だったという感覚はなくなって、自分は遥華だという感覚が強くなっている。
椎奈のことを見ても、さっき知り合った女の子だという感覚しか湧かない。
なんか変な気分だ。
『それじゃあ、身体に戻ろう』
そう言うと椎奈は自分の身体の中に戻って行った。
アタシも自分の身体、遥華の身体の中へと戻る。
幽体が身体に馴染んでいき、目を開くとアタシはさっきと同じ姿勢のままプールに漂っていた。
目の前には少し顔の赤い椎奈がいる。
「椎奈、その身体で楽しみたいんでしょ? それとも、アタシが触ったげようか?」
手をワキワキと動かしながらそう詰め寄ると、椎奈は顔を赤くしたもまま俯いてしまった。
「いや、その……やっぱり恥ずかしいからいいかなって……」
なんだそりゃ。
アタシはズッコケそうになってしまった。
そっちが椎奈の気持ちになって感じたいなんて言ったからこうなったのに。
「ちょっとちょっと、無理やりアタシからその身体奪っておいてそりゃないんじゃないの椎奈ちゃーん?」
「だ、だって……さっきまではこんな気分じゃなかったって言うか……こんなに考え方が変わるなんて思わなくて……」
まあ言わんとしていることはわからんでもない。
アタシも椎奈になってるときは恥ずかしくてエッチなことに抵抗あったけど、今はむしろノリノリでやりたい気分になっている。
「そっかそっか。じゃ、アタシが気持ちよくさせてあげますか」
「え、ちょっと、遥華ちゃん……!?」
アタシは椎奈の水着に手を伸ばし、股間の部分をずらしておまんこに直接手を触れた。
さっきイッたばかりだからか、少し触れただけでビクビクしている。
「ちょ、や、遥華ちゃん……」
「二人ばっかり楽しんでてズルい! あたしも混ぜてー!」
すると、望もこちらによってきてあたしの身体に足を絡ませてきた。
そして、そのままアタシの股間に指を伸ばしてくる。
「あはっ、アタシ女子小学生におまんこ弄られちゃうわけ?」
「背徳的で興奮するでしょ?」
アタシたちはプールの水に流されながら身体を密着させて、お互いにおまんこをいじくり合っている。
いくら水面の下で触り合っているとはいえ、これだけくっついてイチャイチャしていたら流石に怪しまれるかも。
「んっ……望、上手いじゃん……ねえ、椎奈。こんないやらしい顔しながらくっつき合ってたら周りの人たちにバレちゃいそうだよね」
「……え? んんっ、や、だめっ……そんな、の……んあっ……!」
わざと恥ずかしくなるようなことを言うと、椎奈は身体をくねらせて喘いだ。
椎奈はこういうのに弱いってなんとなくわかってきた。
少し泣きそうな顔をしながらも、その顔はすごくエッチで見てるこっちも変な気分になってくる。
「椎奈、かわいい。もっと気持ちよくしてあげる……」
「あっ、んっ、そこっ……だめっ……!」
クリトリスの部分を指でクニクニと弄ると面白いくらい椎奈は感じていた。
これならあと少しでイッてしまいそうだ。
「遥華さんも気持ちよくなってよ。ほら、こうするとすごい気持ちいいでしょ?」
「んんッ!?」
望はその小さくて細い指をアタシのおまんこに挿し込んで激しく動かしている。
熱くなったおまんこの中に冷たい水が少し流れ込んできて、気持ちいい。
「あ、あっ……望、きもちいいよ……んっ、し、椎奈……一緒にイこう?」
「は、遥華ちゃん……わたし……んっ……」
アタシは空いている左手で椎奈の右手を取り、指を絡めてい固く握り締めた。
椎奈の方も力を込めて握り返してくる。
その指は震えており、今にもイッてしまいそうなのが伝わってきた。
アタシも、もうイクッ……!
「んんッ……!!」
「あっ、あぁッ……!!」
アタシたちは二人同時に身体をビクンッと震わせた。
どうやら一緒にイけたみたいだ。
「ふぅ、はぁ……すご……」
「んっ……ふぅ……」
顔を上げると、必死に息を整えている真っ赤になった椎奈が目に入った。
やっぱり椎奈はかわいい。
女のアタシから見ても当たり前のようにそう思えてしまう。
「ねえ、ちょっと一回上がらない? 他のとこも見て回りたくなってきたんだけど」
アタシに絡みついていた望が身体を離しながらそう言った。
確かにずっと流れるプールに入っているのも勿体無い。
他にも色々な種類のプールがあるし、ウォータースライダーなんかも楽しんでみたい。
「いいよ。次どこ行こっか? ……あれ? 椎奈?」
プールサイドに上がるために端まで寄ろうとしたところで、椎奈がそのまま流され続けていることに気づいた。
アタシは椎奈の元に寄りながら声をかける。
「ちょっと、椎奈? 望が他のところ行こうって」
「う、うん……それは聞いたんだけど……身体に、力入らなくて……」
椎奈は俯きながらそう答えた。
よく見ると、手足がガクガクと震えている。
どうやらイキすぎて動けなくなってしまったようだ。
アタシは呆れながらも、仕方ないので椎奈のことを引っ張ってプールサイドまで引き上げてあげた。
「ちょっと椎奈、大丈夫?」
「う、うん……少し休めばなんとかなる……と思う……」
近くのベンチに椎奈を座らせ、アタシたちは一旦休憩を挟むことにした。
「椎奈さん、そんなに動けないなら身体を変えれば?」
椅子に座って俯いている椎奈に望が提案した。
確かに回復を待つよりそれが手っ取り早い気がするけど。
「そうだね。そろそろ身体を変えるのもいいかも……」
「あー、ちょっと待って。それならアタシその身体返してほしいんだけど」
アタシの言葉に望も椎奈も少し驚いたような顔をしていた。
「え? い、いいの? こんなこと言うの恥ずかしいけど……わたし、今感じすぎちゃって本当に動けないよ……?」
「いいのいいの。その身体は元々アタシが選んだ身体だし、アタシ結構椎奈の身体も魂も気に入ってるんだよね」
「そう……? それなら、じゃあ、戻る?」
「うん、お願い」
アタシがそう言って幽体になると、椎奈も幽体になってくれた。
そして、さっきと同じようにアタシたちは幽体のままキスをした。
アタシの中にあったアタシが、椎奈の中に流れ込んで、少しずつわたしに染まっていく。
二回目ともなれば簡単に魂の交換は済ませることができた。
『ありがとう、遥華ちゃん』
『いやいや、気にしないでよ』
わたしのお礼の言葉をやんわりと受け流しながら遥華ちゃんの幽体は遥華ちゃんの身体の中へと入っていった。
わたしも早く自分の身体に戻らないと。
ベンチに座って俯いているわたしの身体に、幽体を沈み込ませる。
すると、少しずつ身体の中から熱い感覚が込み上げてきた。
「んっ……!? な、なにこれ……!?」
身体がすごい敏感になってしまったかのようにちょっと風が吹いただけでビクッと震えてしまう。
そしてなにより、股間の奥からジュクジュクとした甘い快感が止まらない。
「だから言ったじゃん、今感じすぎてるって」
「こ、こんなすごいなんて……」
これは確かに動けない。
少しの間ここで休んでいるしかなさそうだ。
「椎奈が休んでる間にアタシ、ちょっと他の身体探しに行こうかな」
「あ、それならあたしも行く! いい加減この身体も飽きちゃったし」
どうやら二人とも今の身体から離れることに決めたようだ。
二人はこっちに手を振りながら歩き始めた。
「じゃ、ちょっと待っててね!」
「行ってきまーす!」
「あ、うん、いってらっしゃい……」
わたしはその場に一人残り、身体を休ませることにした。
それにしても、まさかプールでこんな淫らなことをしてしまうなんて思ってもなかった。
思い出すだけで恥ずかしい気持ちになってしまう。
でも、遥華ちゃんになっている間はなんだか積極的なにっちゃってたんだよね。
こうしてみると、人の考え方や感じ方って本当に全然違くて面白い。
それから数分が経って、身体の方もようやく落ち着いてきた。
少し喉が渇いてきたし、飲み物でも買いに行こうかな。
二人はまだ戻ってこないけど、ちょっとの間だけ席を外させてもらおう。
プールサイドの端の方に行くと、自販機があった。
少し高めのレジャー施設価格だ。
まあ今はそんなことを気にしても仕方ないので、わたしはスポーツドリンクのボタンを押しお金を払おうとした。
と、そこで自分が今お金を持っていないことに気づく。
スマホも財布もコインロッカーに入れているので、当然ここでは買えない。
「しまったなぁ……仕方ないから戻ろう……」
すると、いつの間にか後ろに小さい女の子とその子のお母さんと思われる二人が立っていた。
飲み物を買いに来たのだろう。
わたしは邪魔にならないようそそくさと横に避けた。
「おねえさん、ジュースかわないの?」
すると、小さい女の子がこちらに声をかけてきた。
望ちゃんよりもさらに小さい女の子で舌足らずな喋り方をしている。
「え? う、うん。お姉さんね、お財布置いてきちゃったから買えないの」
「じゃあ、モモたちがかってあげる! ママ、いいでしょ?」
小さい女の子がそう言うと、お母さんがにこりと微笑んだ。
わたしは驚きながら手を振る。
「え、そ、そんな、悪いですよ。初対面の方に奢ってもらうなんて……」
「ふふ、気にしないでいいのよ」
わたしの遠慮の言葉を聞きながらも、お母さんはわたしがボタンを押したスポーツドリンクを買うとこちらに手渡してきた。
「はい。こんなに暑いんだもの。水分補給は大事よ。それに……」
お母さんはチラリと、わたしの下半身を見てくる。
「さっきあんなにイッてたんだもの。ちゃんと飲まないと今度は倒れちゃうわよ?」
「そうだよ! たぶんプールのなかでしおもふいちゃってただろうから、だっすいしょうじょうになっちゃったらたいへんだよ!」
「……え?」
思わず受け取ったスポーツドリンクを落としそうになった。
いきなり突きつけられた言葉に思考が飛びそうになってしまったけれど、よくよく考えれば、今がどういう状況なのか理解できる。
「もしかして、『森田さん』と『泉さん』ですか?」
「あったりー!」
「ええ、正解よ」
「もう、ビックリさせないでくださいよ……」
初対面の相手からいきなりこんなことを言われるなんて心臓に悪い。
脱力しそうになりながら顔を上げ、わたしは二人に問いかけた。
「それで、どちらがどちらなんですか?」
「モモが『森田』でー」
「私が『泉』です。私のこの身体の名前は『瀬戸香織』で、この子は『瀬戸桃香』といいます」
「よろしくねー!」
森田さんと泉さん改め、桃香ちゃんと香織さんがこちらに挨拶してくる。
それにしても、まさか親子になってくるとは。
「なんでその親子にしたんですか?」
「いずみがねー、つぎはおとなのおねえさんがいいっていったのー」
「ええ。さっきは小さい女の子でしたから。そうしたらちょうど若い母親とその娘が目の前を通りまして。まあ、それが私たちなんですが」
「おやこでエッチなことするのもたのしそーってはなしてたんだよねー!」
「えぇ……」
流石に少し引いてしまう。
他人の身体とはいえ、いくらなんでも親子でそんなことするなんて。
いや、他人の身体だからこそちょっとまずいような。
と、そこまで考えて、よく考えればわたしだって他人の身体を乗っ取っているのだということを思い出した。
すっかり自分が秋月椎奈という人間だと思い込んでいたけど、この身体だって本当は他人の身体なのだ。
そう考えると、わたしにこの二人を非難する資格なんてないのかもしれない。
というか、男の人のときの感覚だったらわたしだってそういうシチュエーションに興奮していたかもしれないし。
一人頭の中でそんなことを思案していると、桃香ちゃんがわたしの手を引っ張ってきた。
「ついてきて! こっちにね、エッチなこといっぱいできそうなばしょがあったんだよ!」
……やっぱりこんなに小さい子にそんなことを言わせるのは流石にちょっと問題なような気もしてくる。
桃香ちゃんに手を引かれるままに歩いた先にあったのは、滝のプールだった。
浅いプールの奥に勢いよく滝が流れている場所が数箇所ある。
滝をくぐってみると、奥側は周りから見えづらい個室のようになっていた。
確かにここなら変なことをしてもバレづらいかもしれない。
あまり人気がないのか、他のプールよりも人が少ないのも都合がいい。
滝の奥の狭い空間に三人で入ると、香織さんがその場にしゃがみ込みながら声をかけてきた。
「椎奈さん、滝の手前に立っていてもらえますか?」
「え?」
「滝で隠れているとは思いますが、念のためです」
「モモたちがみえないようにかくしててねー!」
二人はそう言うと、顔を突き合わせて、キスを始めた。
「んっ、ちゅ、じゅる、れろ……」
「んっ、あむっ、んくっ、ちゅっ……」
「わ、ちょっ、二人とも、いきなりそんな……」
わたしは慌ててしまったけれど、二人は気にせずお互いの口を貪り合っている。
親子であるとわかるぐらいには顔が似ている歳の離れた二人が、本気で求め合うように舌を絡ませているのは、あまりにも背徳的だった。
切なげな表情で自分を産んだ母親の口を啄む幼い娘も、欲情したように息を荒げて自分が産んだ娘の唾液を舐めとる母親も。
「ぷはっ、ママとチューするの、きもちいいー」
「……ふふっ、ママも桃香とキスできてすごく気持ちいいわ……」
親子の空気感を保ちながら親子ではあり得ない会話をしている二人を見ていると、なんだかわたしまでドキドキしてしまう。
「つぎはママのおまんこさわってあげるね!」
「ええ、あなたを産んだママのおまんこ気持ちよくしてね……」
香織さんがその場で股を開くように開脚して座り込むと、桃香ちゃんはその間に頭を近づけた。
水着をずらして、香織さんの股間の筋を凝視する。
「これがママのおまんこなんだ。モモがここからうまれてきたっておもうと、なんかおもしろいね!」
桃香ちゃんは無邪気に笑いながら香織さんの股間に顔を当て、舌でペロリと舐めた。
「んっ……ふふっ、そう、上手よ、桃香……」
「ぺろ、んっ……ちゅっ……」
そのまま桃香ちゃんは口を使って香織さんに奉仕していく。
自分が産んだ娘に、その娘を産んだ場所を慰められるというのはどんな気分なのだろう。
まだ子供がいないわたしでも、そんなことを考えるだけでムズムズとしてしまって、気づけば水着の上から自分の股間を撫でていた。
「んっ……桃香、ちょっと一旦待って」
「んむっ? ママ、どうしたの?」
「ママばっかり気持ちよくなっちゃって悪いわ。あなたも気持ちよくしてあげないと」
そう言うと香織さんは、桃香ちゃんを抱え上げ頭を下の方に向けながらお腹の上に乗せた。
ちょうど桃香ちゃんの頭が香織さんの股間に、桃香ちゃんの足が香織さんの肩に乗る形だ。
「桃香、その体勢でまたママのおまんこ舐めて。ママは桃香のおまんこ気持ちよくしてあげるから」
香織さんはにこりと微笑むと、桃香ちゃんの水着をずらして、ツルツルとした幼子の股間を指で撫で始めた。
「んっ、あっ、くすぐったい! あはっ!」
「最初はそうかもしれないけど、大丈夫。すぐに気持ちよくなるからね」
香織さんは両手を使って桃香ちゃんのぴっちりと閉じた股間を撫でほぐしていく。
最初はくすぐったがっていた桃香ちゃんも、少しずつピクリ、ピクリと震え始めた。
「んっ、ちゅ……ママ、モモのおまんこ、へんなかんじしてきた……」
「いい調子よ……んっ……そのままおまんこ触られる感覚に集中してね……もっとどんどん気持ちよくなっていくから……」
「んっ……ママのて、いやらしくて、なんかきもちいい……」
親子の交わりは、少しずつ淫靡な雰囲気を増していく。
すでに二人は母親と娘の顔をしていなかった。
歳の離れた二人の女が、快楽を求めて貪りあっている。
なんて、淫らなんだろう。
そう思っているわたしも、その空気に飲まれて淫らに股間を濡らしていた。
指を動かすたびにクチュクチュと水音が聞こえてしまうほどに。
「あ、あんっ……ママ、おまんこ、へんなかんじで、おかしくなりそう……んっ、ちゅ……」
「もうすぐ、イキそうなのね……んっ……ふふ、桃香の人生初イキね……私も、楽しみだわ……あっ、んんッ……」
「はぁ、はぁ……んっ……」
三人の喘ぎ声が滝の音に隠されながらその場に響く。
三者三様に昂っていて、張り詰めた空気は今にも壊れてしまいそうだった。
「あっ、きちゃう……モモ、なんかきちゃうっ!」
「あっ、んっ……イクのね……んっ、桃香、私に見せて……娘のイキ顔、私にみせてっ……!」
香織さんは桃香ちゃんの身体を抱き起こして顔を自分の方に向けると、そのまま桃香ちゃんの股間を自分の股間へと擦り合わせた。
「んあッ、あッ、モモ、きちゃッ、ああぁッ!!!」
「私も、イクッ、娘といっしょに、イクゥッ!!!」
「はぁっ、んッ、ッ……!!!」
桃香ちゃんと香織さんが抱き合いながらビクンッと身体を震わせるのと同時に、わたしも絶頂を迎えていた。
わたし、こんなところで親子が淫らに抱き合ってるのを見て、お、オナニー、しちゃったんだ。
恥ずかしさで顔が真っ赤になっていくのを感じるけど、なんだかすごく気持ちよかった。
と、気づけばまた力が抜けてその場に座り込んでしまっていた。
「はぁ、んっ……きもちよかったぁ……あれ? おねえさん、もしかしてひとりでイッちゃったの?」
「んっ……あらあら、うふふ。椎奈さん、あんなに恥ずかしがり屋さんだったのに、私たち親子のセックス見ながらオナニーして気持ちよくなっちゃったんですね」
「あ、こ、これは、その……」
必死で言い訳しようとしたけれど、顔を赤くしながらビクビクと震えている今のわたしにはなにも弁解できなかった。
「そんなにきもちよくなりたかったならいってくれればよかったのに」
「ええ。それじゃあ今度は三人でしましょうか」
「え、それは……ひゃあっ!?」
抵抗する間もなく桃香ちゃんと香織さんに押し倒され、そのまま二回戦が始まってしまった。
親子ならではの息の合った連携にわたしは手玉に取られ、また何回もイかされてしまうのでした。
────────
気づけば夕方になっていた。
わたしたちは度重なる行為にクタクタになりながらプールサイドのベンチで休んでいた。
「つ、疲れましたね……今日はそろそろお開きにしますか?」
「そうですね。私も流石に羽目を外しすぎました」
「モモはまだあそべるけど、おねえさんがそういうならしかたないね」
わたしに比べると二人はまだ余裕そうだった。
わたしの体力が少ないのかとも思ったけど、よく考えたら今日だけで朝から何回もイかされてしまっているわけで、そう考えるとこの身体だけ疲労が溜まっているのは当然かもしれない。
「椎奈さん、そんなに疲れているなら身体を変えたらどうですか?」
「うーん、そうですね……」
この身体は気に入っているしできれば今日の終わりまでこの身体でいようと思っていたけど、もうお開きにするならこの身体から離れてもいいかもしれない。
「それじゃあ別の身体に移りますね。えっと、どうやればいいんでしたっけ?」
「まずはゆうたいになって、ゆうたいからさらにぬけでればいいんだよ。モモはすぐできるようになったからおねえさんもできるはずだよ」
わたしは言われた通りに身体から抜け出た。
下には力の抜けたわたしの身体が見える。
このまま次は魂から抜け出ればいいんだよね。
わたしは身体から抜け出るのと同じように、魂からも抜け出ようとしてみた。
けれど。
『あ、あれ?』
何故か、魂から抜け出ることができない。
何度試してみてもわたしの幽体はそのまま、椎奈の幽体のままだった。
『な、なんで? どうなってるの?』
わたしは混乱しながらも、仕方ないので一旦身体に戻り二人に改めてやり方を聞いてみることにした。
「……ん……あ、あの、魂から抜けれないんですけど、なにか特別なやり方があったりするんですか?」
「え? おねえさんまだぬけれてないの? おかしいなあ、モモはすぐできたのに」
すると、香織さんがそれまでの優しい表情とは違った真剣な顔つきになってこちらに向き合ってきた。
「椎奈さん、あなた自分のこと誰かわかりますか?」
「え? 秋月椎奈ですけど……」
「そうではなく、その身体に憑依する前の元の自分です」
「そんなの、わかるに決まって……あ、あれ?」
自分の名前を思い出そうとして、秋月椎奈以外の名前が思い浮かばないことに、わたしは戦慄した。
頭の中で必死に過去のことを思い出してみる。
けれど、思い浮かぶのは椎奈の両親の顔、椎奈の友達の顔、椎奈として過ごしてきた思い出だけだった。
「え、え……? わたし、誰、だった……の……? 椎奈じゃなかったはず、なのに……え……?」
「お、おねえさん? だいじょうぶ?」
桃香ちゃんが心配そうにこちらを覗き込んでくる。
けれど、わたしの精神状態は全く大丈夫じゃなかった。
「まずいですね……」
香織さんが神妙な雰囲気で考え込んでしまう。
その顔がわたしを更に不安にさせた。
「あ、あの……香織さん……わたし、どうなって……」
すがるように尋ねると、やがて香織さんはゆっくりと口を開いた。
「椎奈さん、落ち着いて聞いてください。あなたの幽体は、秋月椎奈の魂に癒着してしまいました」
────────
「わたし、どうなっちゃうんだろう……」
わたしは駅前のファストフード店で一人ぶどうジュースを飲んでいた。
詳しい話をするために一旦元の身体に戻ってから再集合しようと言う話になり、元の身体がわからなくなってしまったわたし一人を残して二人は去ってしまった。
二人が戻ってくるまでわたしは不安に押しつぶされそうになりながらただ待つしかなかった。
「お、おい! 樋口!」
すると、一人の若い男性がわたしの方に駆け寄ってきた。
その顔に、わたしは見覚えがなかった。
けれど、この人が誰なのかはなんとなく察しがつく。
「もしかして、森田さん、ですか……?」
「そうだよ、森田に決まってるだろ! お前、俺のことも忘れちまったのかよ!?」
「ご、ごめんなさい……」
わたしが俯くと、森田さんは困ったように黙ってしまった。
森田さんは一呼吸置いてからわたしの向かいの席に座ると静かに切り出してきた。
「お前、どこまでわかるんだ? 自分が元は別人だったっていうのはわかるよな?」
「はい、それは覚えてます……幽体離脱して、この身体になって、今日一日森田さんと泉さんと一緒に過ごしていたことは覚えてるんですが……それ以前の記憶が、秋月椎奈としての記憶しかありません……」
「マジかよ……」
わたしたちの間に重苦しい空気が流れる。
すると、こちらに向かって近づいてくる足音が聞こえてきた。
「待たせたわね」
声の方に顔を上げると、そこに立っていたのはショートカットの髪型でクールな雰囲気をまとった大学生ぐらいの女の人だった。
まさか、この人……。
「も、もしかして、泉さんですか?」
「ええ、初めまして。私は榊原泉。よろしくね」
「お、お前、女だったのか!?」
わたしたちは驚愕していた。
今日一日見ていたあの変態的な嗜好を持っていた人がまさか女性だったなんて。
というか、泉さんって名前の方だったんだ。
「それなんだけどね、実は私も元は女じゃなかったの。椎奈、あなたと同じよ」
「わたしと、同じ?」
泉さんは私の隣に座ると説明し始めた。
「私がこの身体になったのは数年前。たまたま見かけたこの身体に魂から憑依していつものように好き勝手遊んでいたのだけれど、気づいたら魂から抜けられなくなっていて元の身体のことも思い出せなくなっていたわ。そのときに思ったの。これは私の幽体が榊原泉の魂に癒着してしまったんだって」
わたしと全く同じ状況に泉さんもなっていたということ?
「私はあなたたち以外にも憑依者に会ったことがあるけれど、私と同じ魂の癒着に見舞われた人はいなかったわ。椎奈、あなた以外にはね」
「そう、だったんですね……」
「なあ、泉。それでこいつは元に戻れるのか?」
森田さんが身を乗り出して泉さんに尋ねる。
「残念だけどそれは無理ね。私も未だに元の身体のことは思い出せないわ。まあ、思い出せたところでとっくに元の身体なんて死亡扱いで処理されてるでしょうけど」
「お、おいおい、マジかよ……」
森田さんがガックリと肩を落とす。
けれど、そんな森田さんに対してわたしの方は思ったより冷静にその事実を受け入れていた。
「椎奈、あなたあまりショック受けてないでしょ?」
「え? は、はい。でも、なんでわかるんですか?」
「私もそうだったから。考えてもみれば今の私たちにとって元の身体なんていうのは見ず知らずの他人なんだから当然の話よね」
泉さんの言葉に私も共感する。
今のわたしにとって自分というのは『秋月椎奈』であって、森田さんの言う『樋口という人』には全くなんの感情も抱くことができない。
もしその身体に二度と戻れなくて、しかもその身体が死んでしまったとしても、わたしとしてはなにを思えばいいのかわからない。
「つまり私が言うたいことはね、あなたはこれから『秋月椎奈』として生きていけばいいっていうただそれだけ。もっとも、幽体離脱も憑依もできるわけだし、多少なりとも性癖歪んでるでしょうから今までの椎奈とはちょっと違った生き方にはなるでしょうけどね。私みたいに」
あくまでもわたしは秋月椎奈という人間を乗っ取った新しい『秋月椎奈』だということか。
そうなると今までの椎名に対してだけは少し申し訳ない気持ちになってくるけど、それまでの不安だった気持ちはいつの間にかなくなっていた。
「私からの話は以上よ。……森田、あなたいつまで項垂れてるの?」
「だってよぉ……俺のダチの樋口はもういないってことだろ? 身体の方は死んじまってるも同然だしよ……」
「だから、あなたのダチの樋口は椎奈として生まれ変わったのよ。ちゃんとここにいるんだから相手してあげなさい」
「……あの、森田さん、すっかり変わっちゃったかもしれませんが、改めてよろしくお願いします」
「おう……」
結局その後は連絡先の交換だけして解散となり、わたしは椎奈として自分の家に帰ることになった。
明日からは椎奈としての、新しいわたしの人生が始まるのだ。
……ごめんね、椎奈。
あなたの人生、わたしがもらっちゃったみたい。
あなたの代わりに精一杯生きるから、どうか許してね。
────────
あの出来事の翌週、わたしたち三人は再び集まっていた。
『森田さん、泉さん、おはようございます』
『椎奈も来たわね』
『一週間ぶりだな』
集まったといっても、幽体だけの状態だけど。
今日は先週同様に憑依をして遊ぶ日として集まっている。
けれど、せっかくの集まりだというのに森田さんはあまり元気がないようだった。
『森田さん? どうかしたんですか?』
『お前は元気でいいな……俺、この前お前の元の身体の葬式行ってきたんだぞ……』
『だから、あなたの友達は今ここにいる椎奈なんだって、何度言ったらわかるのよ』
『そうは言ってもよ……そんな簡単に受け入れられねえって……』
『な、なんか、ごめんなさい……』
わたしはどう反応していいかわからず、苦笑いしてしまう。
『気を取り直して、今日も憑依していくわよ。今日の舞台はここ、遊園地』
わたしたちは遊園地の空から、遊んでいる人々を見下ろしていた。
ここもプールのとき以上にいろんなお客さんたちで賑わっている。
『誰かの身体に乗り移ったら観覧車の前にチュロスとドリンクを持って集合でいいですよね?』
『おう。よっし、今日も派手な女に乗り移って乱れてやるか!』
『私は安定の幼女から行こうかしら。ふふ、幼女はいいわ。その無邪気な顔を快楽に染めるのが本当に堪らない……』
二人は興奮を隠しもしないでさっさと飛び去って行ってしまった。
わたしはどんな身体にしよう。
少しその場に留まって考えてみる。
秋月椎奈という人間は元々エッチなことには全然関心がなかった。
けれど、今のわたしは他人の身体を乗っ取って淫らなことをするのに興味津々だった。
これも泉さんの言うように魂の癒着によって性癖が歪んでしまった結果なのだろうか。
それならば、今のわたしはどんな身体に乗り移っても楽しめるような気がする。
遥華ちゃんのような元気な女の子になるのもいいし、香織さんのような優しいお母さんになるのもいい。
想像するだけでワクワクしてしまう。
真面目ないい子だった椎奈は、他人の身体を乗っ取って興奮するいけない子になってしまったようだ。
そのとき、ふと視界の端に気になる人が映り込んだ。
わたしはその背後に近づき小さな声でつぶやいた。
『その身体、お借りします』