【小説】メモリー交換ケーブル (Pixiv Fanbox)
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入試を間近に控えた冬の夜のことだった。
「ねえ、そこのアンタ」
「……ええっと、私のことですか?」
予備校が閉まる時間まで自習室で勉強をしていてすっかり暗くなってしまった帰り際、予備校から出たところで突然声をかけられた。
振り返ってみると、銀髪に毛先だけ青く染めているというどう見ても派手な髪色の女の子が立っていた。
耳にはピアスがついていて指先は派手なネイルで彩られている。
この寒い中だというのに短いスカートの下には見せつけるように素足を出していて、どこを見ても私とは縁がないと思ってしまうようなギャルファッションだった。
「アンタ今そこから出てきたよね? 頭いいの?」
「えっと……」
いきなりグイグイと近寄ってくるけれど、見ず知らずの女の子に突然話しかけられて私としては困惑するばかりだった。
それがこんな住む世界の違う子なら尚更だ。
「あ、ポッケのそれ学生証? ちょっと見せてみ」
「あ、ちょっと!」
ギャルの子は私の制服の胸ポケットに入っていた学生証をいきなり抜き取ってきた。
予想もしていなかった行動に私は反応が遅れてしまう。
「なになに……『白咲裕子』これアンタの名前? うわ、星京学園ってめっちゃ頭いいとこじゃん」
「か、返してください!」
私が声を上げてもギャルの子は学生証を返してくれない。
急に絡まれて嫌な予感はしていたけれど、やっぱり変なことになってしまった。
もう早く返してもらってこの場を離れたい。
「まあいいや。丁度いいしアンタにしよ。あれ、どこやったっけ……あった、これこれ」
ギャルの子はカバンを漁り、中からUSB端子のついたケーブルを取り出した。
ケーブルの両側に端子が付いており、パソコンとモニターを繋ぐのに使うようなものだと思うけれど、そんなものをなぜ今ここで出すのだろうか。
「はい、ちょっとごめんねー」
手に持ったUSB端子を私に突きつけてくるギャルの子。
咄嗟に反応できず、私はこめかみに端子を押し付けられてしまった。
「え、あの……ッ!?」
その瞬間、カチッ、という音が私のこめかみから伝わってきた。
え?
何?
こめかみの方に視線を向けると、そこからケーブルが伸びているのが見える。
まさか、私の頭に挿さってる?
意味がわからない。
なんで人間の頭にUSBが挿さるの?
理解できない状況に私がパニックを起こしている間に、ギャルの子は自分のこめかみにもう片方のUSB端子を挿していた。
「よし、んじゃ、メモリー交換開始ー」
ギャルの子がそう言ってスマホを弄る。
すると、私の頭に妙な感覚が走った。
まるで私の頭から何かが吸い出されているような感覚。
私の中にあった私としての何か。
私の大切なものだったはずの何かが吸い出されていく。
そして、その代わりに今度は何かが流れ込んでくる。
私の中に不純物がじわじわと侵食していく不快感に思わず眉を顰めてしまう。
その間は僅か数秒にも満たなかったけれど、明らかに取り返しのつかない何かが起きているようにしか感じられなかった。
「な、何を、したんですか……?」
頭を押さえながらギャルの子に問いかける。
ギャルの子は自分のこめかみからUSBケーブルを引き抜きながらニヤリと笑った。
「んー? アタシたちのメモリーを交換したんだよ」
「メモリー……? それってどういう……ッ!?」
こめかみに挿さっていたUSBケーブルをギャルの子に無理矢理引き抜かれ、その衝撃で私はよろけてしまう。
すると、その間にギャルの子はさっさとその場を立ち去ろうとしていた。
「ちょ、ちょっと待ってください! ちゃんと説明してください!」
「ごめん、アタシも細かいことよくわかんないんだよね。ま、多分そのうちわかるから大丈夫っしょ。なんか世界の方が適応?してくれるらしいから困ることはなにもないってこのケーブルくれたヤツが言ってたし。あ、そうだこれ返す」
「え、ちょっと……きゃっ!?」
私はよろけたままギャルの子が投げてきた学生証を取ろうとして、そのままバランスを崩し転んでしまった。
ギャルの子はどんどん私から遠ざかっていく。
「じゃ、アタシ行くから。アンタも早く自分ち帰んなよ。帰れればだけど」
「ちょっと、待っ……」
結局そのままギャルの子は立ち去っていってしまった。
「もう、なんだったの……?」
嵐のように過ぎ去っていったギャルの子の行く先を見ながら、私は涙目でため息をついていた。
もうわけがわからない。
いきなり絡まれて変なことされて何も説明されないままいなくなってしまって。
とはいえいつまでもここにへたり込んでいても仕方ない。
早く家に帰ろう。
私は立ち上がり歩き始めた。
「……ん?」
一瞬頭の中に違和感があったけれど、私は気にしないことにして歩き続けた。
────────
あれから電車を乗り継いでいつものように私は自分の家に帰ってきた。
はずなんだけど……。
「ここ……私の家、だよね……?」
私は目の前にある古びたアパートを見ながら呟いていた。
長年住んでいる自分の家のはずなのに、何故だか初めて見たような未視感がある。
でも、私の記憶がはっきりとここが我が家だと告げている。
「なんで、こんなこと思うんだろう……」
変な違和感がずっと付きまとっているけれど、いつまでも外で考えていたって仕方ない。
私は階段を上がって自分の部屋の前まで行き、鍵を使って扉を開いた。
「た、ただいま……」
薄暗い玄関を抜けて居間に入ると、ソファに座った女性がこちらに振り返ってきた。
女性は咥えていたタバコを灰皿に押し付けながら怪訝そうな顔を向けてきた。
「は? 誰よアンタ」
「え……」
いきなり聞かれて私は困惑した。
誰って、そもそもここは私の家なんだけど。
第一聞きたいのはこちらの方だ。
この女性は誰?
と、そのときこの女性の顔が、私の記憶の中にある顔と一致した。
「……お母さん?」
そうだ、この人は私のお母さんだ。
夜のお仕事をしながら女手一つで私を育ててくれている私の家族だ。
どうして、お母さんが誰かわからなかったんだろう。
すると、お母さんは一瞬表情が固まった後、いつものようなリラックスした顔になった。
「なによ、アンタ帰ったの? ご飯用意してないんだけど」
「あ、ごめんなさい……」
咄嗟につい謝ってしまう。
私はいつも帰宅時間が不明瞭だからお母さんがご飯を作ってくれないことが多い。
そういうときはいつも自分で何か適当に作って食べていた。
……そうだったはずだけど、合ってるよね?
「わ、私、着替えてくるね……」
「ん」
お母さんはこちらを見ずにまたタバコに火をつけていた。
私はそんなお母さんに背を向け、自分の部屋へと移動する。
なんだろう、この妙な居心地の悪さは。
私の家ってこんな感じだっけ?
そう思いながら自分の部屋のドアを開くと、中は下着やら読みかけの雑誌やらが散乱していた。
「な、何これ!?」
信じられない。
こんな汚い部屋で生活してる人の神経を疑ってしまう。
「って、あれ……? 私がやったんだよね……? ……何か、おかしくない……?」
この部屋は私の部屋だ。
この散らかった状況も記憶にある。
でも私がこんな状況にしたということがどうしても信じられなかった。
やっぱり絶対おかしい。
あのギャルの子に会ってから、ずっと変な感覚がある。
まるで、自分が別の人になっているような。
そのとき、私はギャルの子に投げ渡された学生証のことを思い出した。
胸ポケットから取り出し、学生証を見てみる。
「辰越高校3年、『東志杏』……私の名前だ、何も間違ってない……」
志に杏と書いて『シアン』と読むのが私の名前だ。
かなりキラキラネームっぽくて恥ずかしい名前だけど、産まれたときにつけてもらった名前に間違いない。
辰越高校も偏差値37のお馬鹿高校として有名だけど私はそこに三年も通っているのだから今更何も言うことは……。
「……本当にそうだっけ?」
そもそも今日あのギャルの子に話しかけられたのは予備校を出たところだったはず。
私の中に予備校に通った記憶なんかないけれど、あのときはたしかに予備校から出てきた。
それに、私の学生証を見たあの子は星京学園と言っていた。
星京学園は偏差値71の有名進学校だ。
もし私が通っていた学校が本当はそっちだったとしたら。
「まさか、メモリーを交換って……」
あのギャルの子の言葉を思い出す。
メモリー。
記憶。
もしあのとき、私とあの子の記憶が交換されていて、周りの環境もそれに合うようになっているのだとしたら。
「そんな、馬鹿なこと……」
あり得ないと思いつつ、今の状況を考えればそうとしか思えない。
とにかく、もう一度あの子に会わなくては。
私は部屋の惨状にため息をつきながら、まずは片付けから始めることにした。
────────
「……ん」
私はベッドの上で目を覚ました。
朝の冷気に包まれた部屋の中で、布団の中だけが暖かさを保っていた。
「……さむっ……ていうか、だる……いま何時ー……?」
私はスマホを取って時間を確認した。
「まだ七時じゃん……一時間目も始まってないのに起きる意味ないし……つーかだるいからもう今日学校休も……」
と、そこまで言ったところで私はガバッと起き上がった。
「な、何言ってるの私!? 怠いから学校休むなんてそんなの駄目に決まって……そ、それより、今日はあの子に会わなきゃ……」
私は制服に着替えるために慌ててベッドから降りた。
「あ、あれ?」
昨日ハンガーにかけた制服を手に取ると、なぜかかかっていた制服が別のものに変わっていた。
白いセーラー服は紺色のブレザーに変わっていて、無地のスカートはチェックのスカートに変わっている。
でも、よく思い出すといつもこの制服を着ていたような気もする。
とりあえず私はいつものように制服を着た。
身だしなみを整えるために姿見を見てみる。
「え……」
短すぎるスカート。
開いたワイシャツの第一ボタン
ゆるゆるのリボン。
その姿の印象は、はっきり言ってだらしないとしか言いようがなかった。
いつも見慣れている自分の姿なのに、違和感が尽きない。
「やっぱり、変だよこれ……」
落ち着かないので、とりあえず第一ボタンだけは閉めておいた。
居間に移動すると、部屋は真っ暗で誰もいない。
お母さんはまだ寝ているようだ。
私は自分の分だけトーストを焼いて食べ、そのまま家を出た。
「うっ、寒い……」
真冬の朝はやはり寒い。
特に露出している足は刺すような冷たさを感じる。
ストッキングとかがないか探しておけばよかったと後悔しながら、私は学校へ向かった。
電車を乗り継いで十五分、私は自分の学校、辰越高校に到着した。
まだ早い時間ということもあってか、校門の周りを見ても登校している生徒はあまり多くない。
その上、歩いている生徒の大半が髪を染めていたりピアスをつけていたりと、チャラチャラした人ばかりでなんとも肩身が狭い。
「あれ、シアンじゃん。今日早くね? どしたん?」
名前を呼ばれて振り返ると肌の焼けた金髪の女の子が私の方を見ていた。
この子は荒垣奏音。
奏でる音と書いてカノンと読む。
私とはクラスメイトでよく一緒にいる友達だ。
「あ、カノン……お、おはよう」
「おはよー。なに、もしかして朝帰り? そのまま学校に寝にきたとか?」
「え、ち、違うよ、普通に来ただけで……」
「ほんとー? ま、いいけど」
私はカノンと連れ立って教室へと向かう。
私がこの状況に抱いている違和感を他所に、カノンの方は何も感じていないようだった。
「つーか聞いて聞いて! リサがさあ、D組の開堂とヤったらしいんだけど、あいつチンポめちゃくちゃ短小らしいよ。お前その体格でそのサイズかよって! キャハハッ!」
「そ、そう……」
朝から語るに相応しくない話題を嬉々として語るカノンに対して、私はただ顔を赤くすることしかできなかった。
いや、いつもこんな話ばかりしていた気がするのだけれど、それでも今の私には耐えられない。
早く、早くなんとかしないと……。
────────
「……えー、つまりこのx=3を先ほどの連立方程式に代入するとy=−2となり……」
「お前それマジ!? 超ウケんだけど!」
「ねえ、今日この後ヒマ? カラオケ行かね?」
授業中だと言うのに誰も彼もが自由に過ごしていて、先生の話を聞いている人は全くいない。
学校としてこれでいいのかと思うのだけれど、うちの教室はいつもこんな感じでもはや先生も含めて誰も気にも留めていない。
私は流石にちゃんと聞こうとしているのだけれど……。
先生の話を聞いていると……。
段々と、眠気が……。
……っと、いけないいけない。
集中しないと。
でも、さっきから聞いていても授業の内容がさっぱりわからない。
黒板に書いてある文字も何かの呪文のようにしか見えない。
一応私は元は進学校に通っていた、はずだと思うんだけど……。
もしかしたら、この授業でやっているれんりつほうていしき?とかいうのが頭のいい人でもわからないぐらい物凄く難しい内容なのかもしれない。
それなら元の記憶がない今の私がわからなくても仕方ないし、なんだか眠いからもう寝てもいいかも……。
……って、駄目駄目、ちゃんと聞かないと。
「シアン、さっきから何してんの? すっごい眠そうなのに黒板なんか見て」
「え?」
隣の席のカノンに声をかけられた。
当然というか、カノンは教科書すら開かずスマホを弄っていた。
「いや、授業ちゃんと聞こうと思って」
「まじめちゃんか! え、なに、もしかしてあのハゲオヤジと仲良くなろうとか思ってるわけ? さすがにやめた方がいいと思うけど」
どうやらカノンは私が先生に媚を売ろうとしていると思ったらしい。
別にそういうわけじゃないけど、内申点などを考えたら先生と仲良くなることにやめた方がいい理由なんてないと思うけれど。
「いくらシアンがセックス大好きでもあのキモいオヤジと金もなしにヤりたがるのは、ちょっとウチでも引くっつーか」
「っ!? な、なっ……ち、ちがっ……」
カノンの口から出てきたトンデモ発言に私は顔を真っ赤にしながら首を振った。
私が、セッ……大好きなんて、そんな……。
と、そのとき私の脳の内側から記憶が溢れ出した。
今まで私を抱いてきた何人もの男。
性器と性器を擦り付けあって淫らに喘いだ夜。
そうだ……私、セックス大好きだったじゃん。
「……いや、違うから。いくら私でもあんなオッサンとヤりたがるわけないでしょ」
「だよねー。いやー、よかった。親友がハゲ専になっちゃったらどうしようかと」
カノンはおどけながらまたスマホに視線を戻した。
一方私は、不思議な感覚に首を傾げていた。
さっきまで口に出すのも恥ずかしい話題だと思っていたセックスの話に、いつの間にかなんの抵抗もなくなっていた。
いや、逆になんで私はたかがセックスの話を恥ずかしいなんて思ってたんだろう。
別に処女でもあるまいし。
そんなことを考えているうちに、私は瞼の重みに耐えきれなくなり、静かに机に突っ伏してそのまま眠りにつくことにした。
あ、授業……ま、別にいっか……。
────────
寝て起きてを繰り返しているうちに放課後になっていた。
まだ頭がぼーっとしているけれど、学校が終わったなら私にはしなきゃならないことがある。
あのギャルの子を探さないと。
「シアンー、ウチらこの後カラオケ行くけどシアンも行くー?」
カノンがこちらに聞いてくるけれど、私はカラオケになんか行ってる場合じゃない。
「ごめん、私ちょっと用があるから」
「えー、マジ? つれないなー」
「また今度ね」
私はそれだけ言って教室を後にした。
そういえばいつの間にかカノンと普通に話せているような気がする。
今朝は話しづらさを感じていたのに。
まあ、ずっと友達だったのだから話しづらさを感じていたのがそもそもおかしな話だ。
私は気を取り直して、ある場所へと向かった。
昨日の夜、あの子に話しかけられた予備校の前。
確かに昨日私はここから出てきた。
もしあの子が今元の私になっているならここに来るはず。
私は予備校の近くのビルの影から出入りする人物を見張った。
「…………」
私はじっと息を潜めて待ち続けた。
けれど、どんなに待ってもあのギャルの子は現れなかった。
「なんで来ないの……!? もぉっ……!」
次第にじれったくなってつい貧乏ゆすりしたり舌打ちしたりしてしまう。
待ち続けて数時間、日も暮れ始めたけれど結局あの子は現れなかった。
「本当に、最悪……」
この寒い中待ち続けたというのに空振りで終わってしまい、私の気分は最悪だった。
よく考えれば、あのギャルの子はかなりバカそうだったしこんなところに来るとも思えない。
「時間の無駄だったな……帰ろう」
私は踵を返して自宅に向かおうとした。
すると、そのとき後ろの方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あれ、シアン? こんなところでなにしてんの?」
振り返ると、カノンとクラスメイトの女の子、それから見知らぬ男の人数人が歩いているのが見えた。
「用事あったんじゃないの? 終わった?」
「え、ああ、まあ、うん……」
「じゃあこっち来てよー。さっきカラオケ行ったんだけどさ、途中でこのお兄さんたちにナンパされてこれから二次会なんだよね」
カノンの周りにいるのは大学生ぐらいのチャラチャラした男の人たちだった。
なんか楽しそうかも。
あのお兄さんたちなんだか気が合いそうだし。
「あ、じゃあ私も行くよ」
「おっけー。みんな、シアンも来るって!」
ウェーイ、なんていう歓声に迎え入れられ、私はカノンたちの一団に混ざった。
さっきまでの不機嫌な気分はいつの間にか吹き飛んでおり、私たちはただ馬鹿みたいにはしゃぎながら夜の街へと繰り出していった。
────────
「へー、君シアンちゃんって言うんだ。可愛いね」
「え、そうですか? ありがとうございます」
みんなで入ったお店の中で、私は隣に座った翔さんというお兄さんと仲良くなっていた。
「いやあ、君みたいな可愛い子と知り合えて良かったよー。あ、シアンちゃんも遠慮せずに飲んで」
「あ、どうも。これ、なんですか?」
翔さんからグラスを受け取りながら尋ねる。
「カシオレ。女の子はこう言うやつの方が好きだと思ったんだけど、もしかしてビールのがよかった?」
「え、それってお酒ですか? こ、困ります! 私、まだ未成年ですし……」
流石に高校生の身分でお酒を飲むわけにはいかない。
私はグラスを翔さんに押し返した。
「え、そんなこと気にするの? シアンちゃん変わってるね」
「ちょっとシアン、今更なに言ってんの? シオンいつもウチらで遊ぶときもグビグビ飲んでんじゃん」
「え? 私、お酒なんて飲んだこと……」
脳裏に映る映像の中で、過去の私はお酒を……。
「……いや、めっちゃ飲んでるわ。私何言ってるんだろ、あはは!」
「ほらシアン、いつもみたいにいっちゃいなよ!」
「うん! ……んっ、んっ……ぷはっ! んー、おいしー!」
「お、シアンちゃんいい飲みっぷりだねー!」
翔さんから貰ったカシオレを一気に煽ると、周りから歓声が上がった。
なんだかポカポカして気持ちよくなってきた。
「ほら、こっちも飲んでよ」
「はーい! ……んっ、んっ……ぷはぁっ! おいひーれすー!」
「おお! シアンちゃん最高!」
渡されるお酒を全部飲んでいると、だんだん呂律がまわらなくなってきた。
でも気持ちいいからいっか。
「シアンちゃん本当に可愛いね。俺もっとシアンちゃんと仲良くなりたくなっちゃったよ。ね、俺と二人でもっといいとこ行かない?」
「えー? なんれすかー?」
「俺とさ、楽しいことしようよ」
「たのしいことー? いいれすよー! あはは!」
翔さんはにっこり笑うと私の手を取って立ち上がった。
そのままあれよあれよと飲み屋を出てしまう。
「あれー? どこいくんれすか?」
「たのしいところだよ」
私はフラフラしながら翔さんに手を引かれるまま歩き続ける。
火照った体に夜風が気持ちいい。
気づくと、私たちはどこかのビルの中に入っていた。
翔さんが受付を済ませ、貰った鍵をじゃらじゃら鳴らしながら私を部屋へと連れて行く。
段々と酔いが覚め始めた私は、周りを見渡しながらここはどこなんだろうと考えていた。
部屋番号を確認して翔さんがドアを開く。
部屋の中には妙に豪華な装飾が施されたベッドが置かれていた。
「あの、翔さん。ここどこですか?」
「どこってラブホに決まってんじゃん」
ラブホ、という単語が何を指しているのか一瞬わからなかった。
でもそのとき、私の中の記憶が単語と繋がった。
ラブホ、それはセックスするための場所。
男と女が欲に塗れて獣のように交わる場所。
「そ、そうですよね、ラブホですよね、ここ」
「どうしたの? まさか初めて来たわけじゃないでしょ?」
当然、初めて来たわけじゃない。
セックスだって何度もしている。
でも、何故だかすごく緊張してしまう。
「大丈夫だって。俺、女の子には優しいって有名だからさ」
翔さんが私をベットの上に押し倒す。
そして、制服の上から胸を触りながらキスをしてきた。
「っ!?」
私は一瞬にして頭に血が昇ってしまった。
私、男の人に胸を触られてキスまでされてる!?
こんなこと今まで誰にもされたことなかっ……。
……いや、何を言ってるの私。
今まで何度だって男に抱かれてきたじゃん。
この舌と舌が触れ合って頭の中が痺れるような感覚大好きだったじゃん。
胸を揉まれて乳首をコリコリ弄られて喘いでたじゃん。
そのとき、記憶の中だけにあったセックスと、今の体の感覚が繋がって、私の体は一気に熱くなってきた。
「……んっ、ちゅっ、じゅる、れろっ……!」
「んっ!? んむっ……わ、どうしたのシアンちゃん、急にがっついてきて」
「私、こうするの大好きだったって思い出したから、もっとしてぇ……?」
私は着ていた制服を乱雑に脱ぎ捨て全裸になった。
昂っていた熱が激しい興奮になり、すでにおまんこはビショビショだ。
「うわ、準備万端じゃん。じゃ、早速……」
翔さんもズボンのベルトを外し、パンツの中から勃起したチンポを露出させた。
ガチガチに固そうでとても大きい。
見てるだけで涎が出ちゃう。
「ねえ、早く入れてぇ」
「おっけー……よっ、と……」
グチュッ……という水音と共に、私のおまんこを掻き分け翔さんのチンポが入ってくる。
熱を帯びた棒が私の中でドクドクと脈打っていて、繋がっている感覚がはっきりと伝わってくる。
「ああ、きた、きたぁっ! あはっ!」
これだ。
この感覚。
おまんこの中に異物が突き挿さっているこの感覚こそが、私の人生で一番の快感だった。
やっと思い出した。
私はセックスのために日々を過ごしていたんだ。
この気持ちよさがあればもう他はなんにもいらない。
ただチンポさえあればいい。
「あっ、ああっ、すき、コレすきっ! チンポだいすきっ!」
「うおっ、シアンちゃんの中……すごっ……これめっちゃ当たりじゃん……」
翔さんも私のおまんこに満足しているようだ。
自分のおまんこが名器で我ながら誇らしい。
「かけるさん、わたしのおまんこで、気持ちよくなって! んっ、それで、もっと気持ちよくしてぇ!」
私は媚びるように声を上げながら腰を振った。
翔さんもそれに合わせてチンポを抜き挿しする。
おまんこの敏感なところにチンポのカリが擦れて、すっごく気持ちいい。
ああ、最高。
このために生きてるって感じ。
「あっ、んっ……すご、もっと、もっとぉ!」
ペースを上げて腰を動かす。
パンッパンッと淫らな音が響き、それが私の興奮を更に高めていく。
翔さんに奥を突かれる度に脳みその奥が弾けて、セックスのこと以外何も考えられなくなっていくようだった。
というか、本当にセックス以外どうでもよくなっていく。
私が、どんどん壊れていく。
「あっ、イクっ、もう、わたし、イキそうっ……んんっ!」
終わりが近い。
このまま絶頂してしまったら、私はどうなってしまうんだろう。
ぼんやりとそんな思考がよぎったけれど、それすらもはやどうでもよかった。
私は……アタシは、ただ気持ちよくなりたい。
もうそれだけでいい。
「イクッ、あっ、んんッ、あ、ああぁあぁッ!!!」
その瞬間、背中が大きくのけ反り、息ができないほどに身体が震えた。
痙攣してしまったようにビクビク震える身体はただ快感だけに侵されていてアタシの言うことを全く聞いてくれない。
「ッ、ッ……! ……ぁッ……!」
脳みその奥がシビれて、目の前がチカチカと光る。
なにも見えないけれど、とにかく気持ちよかったのだけはわかる。
今のアタシにはそれだけでよかった。
やがて力がぬけてぐったりとベッドの上にアタシは倒れこんだ。
息をととのえていると、同じように息をきらした翔さんがアタシの髪をやさしくなでた。
「ふぅ……シアンちゃん、めっちゃよかったよ。ねえ、まだまだ楽しめるよね?」
翔さんの股間のチンポはまだ大きくて元気そうだった。
「んっ……アタシもー、もっとたのしみたーい」
にっこり笑い返すと、翔さんはまたアタシのおまんこにチンポをあてがう。
今夜はまだまだ長そうだ。
────────
「んっ……ッ……あたま、いたっ……きもちわる……」
もぞもぞとフトンからでて顔をあげる。
寝ぼけたままアタシはスマホを手にとった。
「いま、なんじ……? 十一時半……というか、あれ……? ここどこ……?」
目をこすりながらあたりを見まわす。
ぬぎちらかされた下着に、読みすてられた雑誌。
よく見たらここ、アタシの部屋だ。
「あれ、昨日なにしてたんだっけ……なんか途中からおぼえてない……」
カノンたちに誘われてナンパのお兄さんたちと飲み屋に行って、翔さんと仲良くなって、しこたま酒のんで、それから……。
「ええっと……ラブホ行ったよね? めっちゃヤったような気がする。そのあと解散したんだっけ? アタシどうやって帰ってきたんだろ。やばっ、ぜんぜん思いだせない」
ふと、スマホの未読メッセージに翔さんからの着信があることに気づいた。
『シアンちゃん昨日は楽しかったね!ちゃんと家帰れた?よかったらまた一緒に遊ぼうね!』
どうやらいつもの間にか連絡先を交換していたらしい。
翔さんとのセックスめっちゃよかったし、セフレになるのもありかも。
「ッ……! ……やばっ、めっちゃ頭いたい……二日酔い……? けっこうのんだしなー……」
アタシは頭をかかえながらフラフラとリビングにむかった。
すると、ちょうどお母さんも起きたところだったのかコーヒーをのんでいた。
「あ、おはよ」
「おはよ……うぅ、きもちわる……おかあさん、水ちょーだい……」
「ん」
お母さんはグラスに水を入れてわたしてくれた。
アタシはそれを一気のみする。
「んっ、んっ……ぷはっ、あー、ちょっと良くなってきた」
「また酒飲んだの? 学校にバレて退学になったりしないでよ」
「いまさらなんないよそんなの。あとちょっとで卒業だし」
「ま、そっか。アンタ卒業したらどうするわけ?」
「ん? んー、考えてなかったけど、風俗ではたらくとか?」
「ふーん、そう。ま、好きにしなさい」
お母さんはそれだけ言うとソファにすわってテレビを見始めた。
うちのお母さんはアタシの自由にさせてくれるから気楽でいい。
テキトーに言ったけど風俗っていうのは普通にアリかも。
気持ちよくなりながらお金かせげそうだし。
「んー……! ……じゃ、アタシは学校でも行こうかな」
かるく伸びをしてからアタシは部屋にもどって制服にきがえた。
いつものようにお気に入りのカーディガンを着て、ピアスをつけて、ネイルを整え、でかける準備をすすめる。
「よーし、あとはメイクして…………は?」
最後にメイクのために鏡を見て、アタシは目を丸くした。
「な、なにこの黒髪!? ダッサ!? え、アタシこんなダサい髪だったっけ!? 今まで気になんなかったの!? マジ!?」
なんにもいじってない長い黒髪は垢抜けなさ全開でとにかくはずかしい。
こうしちゃいられない。
アタシは手早くメイクをしあげると行きつけの美容院へといそいだ。
────────
「おはよー」
あいさつしながら教室のドアをひらく。
目の前にあるのはいつも通りの教室の景色だった。
「三人称単数現在形なので、この動詞にはsが付くのを忘れないようにして……」
「それでさー、あれ飲んでみたんだけどクッソ不味くて!」
「えー? それセンスないって! どう考えてもこっちでしょ」
中はワイワイガヤガヤしていて、アタシの声はあまり通らなかった。
授業中だったけれど、アタシを見ても先生はなにも言わない。
アタシが遅刻してくることなんて当たり前のことだし、そもそもだれもまともに授業なんか受けていないからだ。
「おはよーって、いま何時だと思ってんの? もうとっくに昼すぎてるよ」
机にほおづえをついたカノンが笑いながら話しかけてきた。
アタシはカバンをおろして隣の席についた。
「だっておきたの十一時半だったし、美容院よってきたからさ」
「見りゃわかるよ。やっぱシアンって言ったらその髪だよね。しっくりくるっていうか」
カノンがアタシの髪を触る。
ゆるいウェーブのかかった銀髪。
毛先は青くなっていてめちゃくちゃイケてる。
「つーか、なんで昨日は髪黒かったの?」
「なんでって……なんでだっけ?」
おとといは普通だった気がする。
昨日だけなんか特別だったはずだ。
昨日は、えーっと……。
なんでか朝早くおきて学校に来て、放課後にはしなきゃいけないことがあって、それでたしか駅前の予備校に向かって……。
「あーーーっ!?」
「うわっ、なに急におっきな声出して!?」
そうだ、思いだした。
アタシ、ギャル女に記憶を交換されて、もう一度会うためにあの女をさがしてたんだった。
そもそもアタシは本当は黒髪だったんだ。
今となってはこっちの髪の方がしっくり来るけど。
つーか、この一日ですっかり今のアタシになれてしまった。
昨日はもっとぎこちない感じだった気がするけど、もうなんの不自由も感じない。
これっていいことなんだろうか。
わからないけど、とにかくもう一度あの女に会わなくちゃいけない。
アタシは今日の放課後、もう一度あの予備校に行ってみることにした。
────────
「…………」
昨日とおなじように、アタシは予備校の入り口を見はっていた。
さっきから頭の良さそうなヤツらが出入りしてるけどあのギャル女の姿はない。
そういえば昨日も数時間見はってたけどあらわれなかったんだった。
また今日もムダになるかもしれないと思うと気がめいってくる。
と、そのとき。
「ん? あれって……」
予備校の入り口へと歩いていく、星京学園の制服の白いセーラー服を着た黒髪の女が見えた。
あのギャル女ではない。
でも、背格好はにてるし、なによりその雰囲気は記憶を交換されたばかりのアタシにそっくりだった。
まさか。
そう思って後ろから近づき声をかける。
「ねえ、そこのアンタ」
「……あ、貴方は……」
向こうはアタシを一目見てなにか気づいたようだった。
やっぱり、この女……。
「アンタ、一昨日会ったギャルでしょ? アタシがだれかわかるよね?」
「ええっと、はい。その、随分お変わりになったみたいで……」
予想どおり、あのギャル女だった。
なんか驚いているけど、たしかに初めて会ったときと比べれば今のアタシは別人みたいに見えるだろう。
でも、それはこっちも同じだ。
「アンタもずいぶんかわったね。そんなダッサイ感じになっちゃって」
「……別に、私は普通にしてるだけです。それより、私に何か用ですか? ないなら私これから授業があるので……」
女は話を切りあげて立ちさろうとしている。
アタシはその肩を手でつかんで逃がさないようにした。
「待ちなって。わかってんでしょ? アタシを元に戻してもらうから」
「貴方は元に戻りたいんですか?」
「当たり前でしょ。いきなりアタシをこんな風にして」
「どうして元に戻りたいんですか?」
「どうしてって……そんなの……あれ?」
ふと考えて、アタシは首をかしげた。
どうして元に戻りたかったんだっけ?
なんか昨日は早く戻りたいとばかり思っていたような気がするけど、いまはその理由が思いつかない。
べつに不便はしてないし、頭がいい方が楽そうだなーってなんとなく思うだけで、そんな必死になってまで元に戻りたいなんて気持ちはなかった。
つーか、よく考えるとこんなダサイかっこで平気だったセンスに戻るのは、今となってはちょっとイヤだ。
「私は元に戻りたくなんてありません。貴方も戻りたい理由が思いつかないならもういいじゃないですか。それじゃあ……」
女はそう言ってアタシの手を払う。
「あ、ちょっと待ってってば!」
アタシはあわてて女の手をつかんだ。
戻りたいと思う気持ちはうすれてきたけど、だからって勝手に記憶を交換されてそのままハイおわりというのはなんかムカつく。
でもこの女にしてほしいことがあるわけでもなく、アタシはただ女をにらむことしかできなかった。
「……はぁ……。それじゃあこうしましょう。元に戻せませんが、その代わり一つ面白いことをしてあげます。それで喜んでもらえたら全部帳消しでいいですか?」
女はなにやらよくわからないことを言ってきた。
おもしろいことってなんだろう?
「明日、もう一度ここに集まりましょう。そのとき、貴方にとって一番仲がいい友達を連れてきてください」
女はアヤしく笑っていた。
────────
「ねー、寒いんだけどー。いつまで待てばいいわけー?」
「うーん、アタシもわかんない。そろそろだと思うけど」
翌日、アタシは言われたとおりあの予備校の前にきていた。
一番仲がいい友達としてつれてきたのはカノンだ。
高校では一番長くいっしょにいたし、今まで知りあった友達の中でも一番気があう相手だと思う。
「つーか、ウチらこれからなにするわけ? それに、なんでこんなとこで待ち合わせてんの?」
「うーん、それもわかんない。マジでなにも聞かされてないからさ」
あの女からはおもしろいこととしか言われてない。
まさかいっしょにあそぼうとか言うわけでもないだろうし、いったいどういうつもりなんだか。
「ごめんなさい、待ちましたか?」
すると、うしろから足音と声が聞こえてきた。
振りかえると、あの黒髪の女と、もう一人同じセーラー服を着た女がいた。
ショートカットの黒髪であの女より少し背がひくく小柄に見える。
「え……? 裕子ちゃん、会わせたい人ってこの人たち? なんで……?」
小柄な女はアタシたちのことを見て少しおびえているようだ。
どうやらあの子はなにも説明されてないらしい。
それはアタシたちも同じだけど。
「ねー、言われたとおりアタシの友達つれてきたけど、なにするわけ?」
アタシは隣のカノンを指さしながら言う。
すると女はにこりと笑いながら口をひらいた。
「まずは軽く自己紹介しましょう。私は星京学園三年の『白咲裕子』です」
女、裕子がこちらに手を向けてくる。
アタシはよくわからないと思いながらも続いた。
「アタシは『東シアン』。辰越高校三年」
アタシの後にカノンも続く。
「あ、次ウチ? ウチは『荒垣カノン』。同じく辰越高校三年でーす」
カノンが言いおわると、最後の一人である小柄な女も口をひらく。
「え、あの……わたし、『村瀬真奈美』っていいます。裕子ちゃんと同じ、星京学園の三年です。あの、よろしくお願いします……」
言いおわったあと、真奈美はおびえるように一歩うしろに下がった。
そんな態度とられるといくらアタシたちでもちょっときずつくんだけど。
まあ言ったところで余計にこわがられるだけだろうからわざわざ言わないけど。
つーか、向こうは黒髪のまじめちゃん二人組でこっちは銀髪と金髪のコンビで本当に真逆の四人だなこの状況。
「それじゃあ早速始めていきましょうか。真奈美ちゃん、荒垣さん、ちょっとこっちに来て」
裕子はそう言いながらカバンの中からなにかをとりだした。
「あ!?」
それはあのUSBケーブルだった。
まさか。
「ん? なにそれ……ッ!?」
「裕子ちゃん……? なにして……ッ!?」
裕子は一瞬のスキをついて、カノンと真奈美にあのUSBケーブルをさしてしまった。
そして、スマホをいじり始めると、二人の体がビクッとふるえる。
アタシがボーゼンと見ていると、裕子はこっちを見てクスッと笑った。
「どうですか? この二人のメモリーを交換したら面白そうだと思いません?」
「いや、なんでそんな……」
「だって、私たちが入れ替わったんだから、一番の友達も一緒に入れ替わった方が面白そうじゃないですか。そう思いません?」
おもしろい……おもしろいかな?
カノンがあんなよく知らないまじめちゃんと入れ替わっちゃったらアタシとしてはつまんなくなりそうって思うんだけど。
……いや、待てよ。
よく考えたらアタシが元は裕子だったんだから本当はアタシが真奈美と友達だったのか。
裕子も元々友達だったカノンとまた友達に戻れるわけだ。
つーか、この二人もアタシたちみたいになるならけっきょくまじめちゃんな真奈美もカノンみたいな金髪ギャルになるわけで、それならなんも問題ないし、なんかそれって……。
「……ちょっとおもしろそーかも」
「ふふっ、喜んでもらてよかったです」
アタシと裕子は妙な一体感を感じていた。
そうしている間に二人の体は落ちついていた。
一見なにもかわってないように見えるけど、アタシの中で二人のイメージは大きくかわっていた。
さっきまで真奈美だと思っていた方がカノンに思えるし、逆にカノンだと思ってた方が真奈美に思える。
見た目は同じなのにへんな話だ。
アタシたちのときもこんな感じだったのかな?
裕子は二人からケーブルをぬくと口をひらいた。
「やることは終わりましたし、それじゃあ後は仲の良い友達同士で過ごしましょうか。行こう、真奈美ちゃん」
「は? ちょっとなに? ウチは真奈美なんだけ……ど……あ、あれ?」
裕子に手を引かれ、真奈美は首をかしげたままつれていかれる。
「じゃ、アタシらも行こうよ、カノン」
「え、え? な、なんだったんですか今の? というか、わたしはカノンさんじゃなくて荒垣カノンなんです……が……って、え?」
カノンも混乱しているけど、アタシは気にせず手をひっぱってその場をはなれた。
この子がこれからカノンになっていくんだと思うと、なんかワクワクしてきた。
────────
「メモリーを交換って……そんなの、嘘です……」
近くの喫茶店にはいったアタシはコーヒーをたのんでゆっくりしてながら、さっきおきたことをカノンに説明していた。
「ウソじゃないって。アンタは今カノンなの。カノンが自分の名前だっていうのはわかるっしょ?」
「それは……そうです……カノンは産まれた時からわたしの名前で……」
「じゃあ真奈美は?」
「さっき会った……あの金髪の人の名前……だと思います……」
「でもアンタさっき会ったとき真奈美って名乗ったじゃん。ほら、交換してるっしょ」
「そんな、あり得ないです……こんなの……」
カノンはあきらめ悪く現実がうけいれられないみたいだった。
アタシも最初こんな感じだった気がするしムリもないけど、このままにしとくのもめんどくさいな。
早くカノンらしくなってほしいんだけど。
「じゃあさ、まずはアタシのこと思いだしてよ。アタシがだれかわかる?」
「ええっと、シアンさん……ですよね? 今日初めて知り合って……いや、違う……シアンとわたしはずっと友達で……」
よかった、アタシのことはちゃんと思いだせるみたいだ。
だったらここから少しずつカノンとしての自分を思いだしてもらおう。
「自分の学校おぼえてる?」
「そんなの、星京学園に決まって……あれ? 違うよ、わたしがそんな頭のいい学校に通ってるわけ……わたしは辰越高校の生徒……ですよね?」
カノンがそう言うと、カノンの着ていた制服はいつの間にかセーラー服ではなくブレザーになっていた。
辰越高校に通ってるんだからその制服をきてるのは当たり前だ。
「おとといのことはおぼててる?」
「一昨日ですか? ええっと……」
「ほら、ナンパのお兄さんたちとあそんだじゃん」
「な、ナンパって……そんな人たちにわたしがついていくわけが……」
「なに言ってんの、カノンがアタシを誘ったんじゃん。一緒にナンパのお兄さんたちとあそぼって」
「わ、わたしが!? ……いや、そうですね……カラオケを出たところで声をかけてきたお兄さんたちについて行って……途中でシアンを誘って……みんなで飲み屋に入って……え、わたしお酒飲んじゃった!?」
「今さらなにおどろいてんの、アンタいつも酒のんでるじゃん」
「……そう、ですよね……飲み会の時はまずはビールからっていつも決めてて……というか、別に子供が酒飲むくらいで文句言われるのもおかしな話ですし……」
話をするたびにちょっとずつカノンっぽくなってるような気はする。
でも、さすがにゆっくりすぎる。
本当にちょっとずつしかかわっていかない。
なんか、一気にかえる方法はないだろうか。
「あ、そうだ、いいこと思いついた!」
「シアン? どうしたんですか?」
まだ不安そうにしているカノンを放ってアタシはある人にメッセージをおくった。
これなら多分カノンもアタシも気持ちよくなれるいいアイディアのはずだ。
────────
「シアンちゃんお待たせー! まさかこんなすぐにまた遊んでくれるとは思わなかったよ」
「来てくれてありがとね、翔さん」
アタシがよんだのはおとといあそんだナンパのお兄さん、翔さんだった。
「えっと……シアン、この人は……」
「翔さんだよ。おとといあったっしょ?」
「そう、ですね……一昨日一緒に遊んだ、ナンパしてきた男の人……」
「あ、カノンちゃんもいるんだ。え、もしかして二人とも一緒に遊んでくれるわけ?」
「そゆことー! 今日はよろしくね、翔さん」
翔さんもちゃんとこの子をカノンとして見ている。
翔さんにまでちゃんと効き目があるなんて、つくづくあのケーブルはフシギだ。
アタシは翔さんと腕をくんで歩きはじめた。
うしろからオドオドしながらカノンもついてくる。
アタシたちが向かったのは、当然ラブホ。
さっそくフロントで受付をすませる。
「今日はアタシが誘ったからアタシがホテル代だすね」
「いや、いいよ。俺、女の子にはホテル代払わせないことにしてるからさ」
「わー! 翔さんふとっぱら! やったね、カノン」
「あ、あの……シアン……ここって……」
シアンはオドオドしながら、少し顔を赤くしてまわりを見まわしていた。
「ん? ラブホだけど?」
「ラ……!? ちょっと、何考えてるんですか!? わたしたちにはまだ早いですよこんなところ!」
カノンのノリの悪さにさすがのアタシもウンザリしてきた。
もしかしてアタシもおとといはこんなウザい感じだったんだろうか。
だとしたらおとといのカノンには悪いことをした。
「さ、部屋行こうか」
「おっけー。ほらカノンもついてきて」
「ちょ、ちょっと待っ……」
顔を真っ赤にしてあわてているカノンをムリやりひっぱっていく。
まあ、こんなカノンが見れるのもきっと今だけだろう。
そう考えるとこのウブなカノンも少しかわいく思えてくる。
「し、シアン……やっぱり帰りましょうよ……! こ、こんなところいたらよくないですよ……!」
「はいはい、大丈夫だから、よっと」
「きゃっ!?」
アタシは部屋に入るなりカノンをベッドの上に押したおした。
そして、そのまま制服をぬがしていく。
「や、やめてくださいっ! こんな……ひどいですよっ!」
「ねえシアンちゃん、大丈夫なの? なんかカノンちゃん嫌がってるけど」
あまりにカノンが大げさにさわぐから翔さんまで心配そうに見てくる。
でもまあなんとかなるでしょ。
「まあ見ててって。ねえカノン、なにがそんなイヤなの?」
「何がって、こんな男の人もいる場所で服脱がされて嫌じゃないわけ……」
「でもカノン、男に裸なんて見られなれてるでしょ。今までなん人ヤったと思ってんの?」
「そんなの……あれ? わたし、男の人と、セックスしたこと、ある……?」
「アタシと一緒に3Pしたことだって一度や二度じゃないでしょ。なにカマトトぶってんの?」
アタシの言葉を聞いたカノンの表情が一瞬かたまる。
そこから少しずつ目の色がかわりはじめた。
「そうだ、わたし、シアンと一緒に何度も男漁りしてたじゃん……何を今更変なこと気にしてたんでしょうか」
そう言うとカノンは自分から服をぬぎはじめた。
よしよし、いいチョーシ。
「ほら翔さん、カノンと遊んであげて」
「いいの? 大丈夫? カノンちゃん」
「は、はい。ごめんなさい変なこと言って……わたしも翔さんとセックスしたいです」
カノンはセックスにノリ気になってくれたようだ。
翔さんは安心したようにカノンの胸をさわりはじめた。
ところが、カノンはまだ気になることがあるのか、体をふるわせて翔さんを手で押しのけようとしている。
「あ、あれ? なんか、緊張しちゃって……変ですね、別に処女でもないのにこんな……」
よく見ると涙目になっている。
もしかして真奈美だったころは男が苦手だったりしたんだろうか。
だったらしょうがないし、アタシが安心させてあげるしかないか。
「ほら、カノン、こっち向いて」
「え? んっ!?」
アタシはカノンの口に自分の口を押しつけた。
こわばっているカノンの口を舌でこじあけて、中にあるカノンの舌と自分の舌をからませる。
不安そうにしちぢこまっているカノンの舌やさしくなでまわし、今度は熱くもとめるように吸いつく。
「んっ、あんっ……んちゅ……んっ……はぁっ、シアン……」
「んっ……カノン、大丈夫だよー。アタシがいるからねー。ほら、思いだしてよ。まえに3Pしたときもこうやってベロチューしたっしょ?」
「え? ……そうだった。あの時も、シアンがわたしの舌をチロチロと舐めてきて、トロンとした顔のシアンがすごくかわいくて、ドキドキしてました……」
カノンの顔が熱くほてりはじめて、興奮したように息がみだれてきた。
アタシはまたカノンの口に吸いつく。
「んっ、ちゅ、れろっ……」
「あむっ……んっ、ちゅ……」
さっきはされるがままだったカノンが、今度は自分からアタシと舌をからませてくる。
なれたようなキスの上手さで、アタシも気持ちよくなってくる。
気分が盛りあがったアタシは、そのままカノンのおまんこをなでまわした。
もうすでにそこはビショビショで、チンポをうけいれる準備ができてるみたいだった。
「ぷはっ……翔さん、カノンのおまんこ、もういけるみたいだよ」
「お、やっと俺の出番?」
そう言うと翔さんはボッキしたチンポをだしてカノンのおまんこに向けた。
すると、カノンがアタシの手をにぎってきた。
「し、シアン……わたし、なんかちょっと怖いです……」
「大丈夫だよ、気持ちいいから。ほら、アタシがおっぱいいじってあげる」
アタシはカノンの乳首を指でコリコリいじった。
敏感になっていたカノンがピクッとふるえて目をとじる。
そのスキに、翔さんはチンポをカノンのおまんこにゆっくりしずませていく。
「んっ!? ああっ、わたしの、中に、何か、入って……んんっ!?」
翔さんのチンポを受けいれたカノンが体をおおきくふるわせた。
でも、その反応は嫌悪感なんかではなく、快感にふるえる女のそれだった。
「わたし、知ってる、この感覚……気持ちいいっ! これ、気持ちいいっ! ……チンポ、チンポっ! おまんこにチンポ入れられるの、めっちゃ気持ちいいっ!」
カノンはさっきまでとはあきらかにちがう様子でチンポと連呼している。
なんか、いつもの感じが戻ってきた気がする。
「あっ、そこっ、いいっ! そこっ、もっと突いてっ! んっ、ああっ!」
気づけばカノンはがっつくように翔さんに抱きついて自分から腰をふっている。
さっきまで男にビビってた女と同じとは思えない。
「やばっ、これ、イキそうっ! わたし……ウチ、イッちゃうぅ!」
カノンの限界は近そうだ。
アタシはカノンの両乳首をギュッとにぎりしめた。
そら、イッちゃえ!
イッて頭ん中ぜーんぶバカなギャルのカノンになっちゃえ!
「あっあッ、ウチっ、イクッ、イックうぅぅッ!!!」
その瞬間、カノンは体を大きくふるわせ、よっぽど気持ちよかったのか股間からビシャっと潮をふきだしていた。
正面にいた翔さんにちょっとかかったけど、本人はなんか満足そうだ。
「うおっ、すごいねカノンちゃん。中はめっちゃ気持ちよかったし、潮まで吹けるなら将来はAV女優にでもなれんじゃない?」
「あ、たしかにー。カノンにお似合いじゃん。ね、カノン」
カノンに向けて言ったけど、ぼーっとしながらビクビクふるえているだけで、どうやら聞いていないらしい。
「あへへ……きもちよかったぁ……」
カノンはだらしない顔でそんなことをつぶやいている。
そこに元のまじめちゃんの面影はまったくのこってなかった。
────────
「あ、シアンじゃん。ちーっす」
翌日。
いつものように昼すぎに学校へ向かっていると、途中でカノンにあった。
小柄な体。
かがやく金色の髪。
焼けた肌。
耳についたたくさんのピアス。
ピンクのかわいらしいネイル。
いつものカノンの姿だった。
「おはよ。やっぱその方がカノンらしいね」
「でしょ? 今朝鏡見たら髪ダサすぎてビビったわ。ソッコーで染めてきた」
「アタシと同じことしてんじゃん、ウケるー」
昨日は翔さんとカノンと朝まで三人でヤりまくった。
家に帰ってからついさっきまでアタシはずっと寝てたわけだけど、カノンはどうやら美容院に行ってたみたいだ。
「シアンと同じってことはさー、やっぱりシアンもあのへんなケーブル使ったわけ?」
「あ、わかった? アタシ実は元々あの裕子みたいな感じだったっぽいんだよね。今となっては信じらんないけど」
「やっぱそうだよね。なんかちょっと前にシアンが髪黒くしてまじめちゃんっぽくしてる日があったなーってなんとなく思いだしてた。そっかー、ウチも元はあの真奈美って子だったんだよね? それじゃあウチらまじめ二人組からこんなギャル二人組になっちゃったわけ? すごくない? キャハハッ!」
カノンがケラケラ笑いはじめる。
たしかにカノンの言うとおりだ。
裕子と真奈美だったアタシらはシアンとカノンになってしまった。
「ま、今のアタシらはアタシらなんだから元がどうとか気にしてもしょうがなくない?」
「それはそう。ふつうにウチいまは毎日たのしいし、べつに戻りたいとかもないかなー」
「だよねー。あの子ら頭よさそうだったけど勉強とかダだるいし、カッコはダサかったし、なんかつまんなそー。アタシらの方がめっちゃ得してる気がするわ」
「わかるー! 記憶交換してくれてありがとーみたいな?」
そんなふうに二人で話していると、前から見覚えのある二人が歩いてきた。
「これから自習室でしょ? 裕子ちゃんは頑張り屋さんだね」
「だってせっかく授業が短かったんだし、もう入試本番まであと少しなんだから気を引き締めていかないと……って……」
裕子と真奈美だ。
アタシらはこれから学校に行くところなのに、向こうはもう帰るところらしい。
「おっすー」
「やっほー、おふたりさん。元気ー?」
アタシたちは手をふりながら二人に声をかけた。
裕子は軽くぺこっと頭をさげて、真奈美は少しおびえるようにしながら同じように頭をさげた。
真奈美のやつ、昨日まではアタシのこと親友なんて言ってたくせに薄情なヤツ。
ま、もうあの子はカノンじゃないし友達でもなんでもないんだけど。
そのまま二人はとくになにも言うことなく、すれ違ってアタシたちのうしろへと歩いていった。
なんとなくだけど、あの二人とはもう二度とあわないような、そんな気がした。
「さてと、じゃ学校行こっか。あー、でもなんかだるくなってきたなー」
「それじゃウチのセフレよぶからホテル行かない? そのまま今日も朝までヤろうよー」
「お、いいねー。なんかムラムラしてたんだよねー。そうと決まればホテル街にレッツゴー!」
アタシはカノンと腕をくんで歩きだした。
もうすぐ学校卒業だけど、そのあともこんなふうにカノンといっしょにセックスざんまいの日々だったらいいなー、なんて、なんとなくアタシは思った。