マゾカトラズ (Pixiv Fanbox)
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「はぁ……はぁ……!」
路地の壁に手をついて男は獣の様に荒い呼吸をしていた。
カツン、カツン、カツン。
男の背後に近づくのは死神――の足音。
「くそっ……!」
走りすぎて痛みが走る脇腹をおさえながら男は再び走り出した。
鉛の様に足が重い。
だが、止めるわけにはいかなかった。
カツン、カツン、カツン。
追いつかれれば死よりもおぞましい運命が待っているのだ。
手足が重かろうが、脇腹が痛かろうが止めてなるものか。
カツン、カツン、カツン、カツン、カツン、カツン……。
そんな男の覚悟と思いと裏腹にヒールの音はどんどん近づいていく。
背後だけではない。
逃げ道を塞ぐように前からも時折、足音がする。
それを慎重に聞きながら男は逃げ道を変えていき――。
「ちっくしょう!」
男の咆哮が響いた。
逃げ続けた男の前に立ち塞がるのは五メートルほどの壁。
とても登れるものではない。
「はぁ……はぁ……なんで……」
「そんなのわざとに決まってるじゃん~♪」
獲物を追い詰めた愉悦の声。
可愛らしいアニメ声なのに、男には不快な声でしかなかった。
憎々しげに振り替えると、漆黒のブーツに婦警の服に身を包んだ女性が実に楽しげにこちらを見つめていた。
「お前が逃げるルートは全部封鎖してここまで逃げきれるか賭けてたんだよ? 途中でリタイアしなかなったのは偉かったね~♪ おかけで儲かっちゃった🖤」
全部、仕組まれていた?
逃げられていたのも、この必死な逃走劇も?
「バカだよね~。お前らみたいな家畜が私たちから逃げられるはずないのに。ま、滑稽な喜劇としては受けたかな? あは♪ いい顔だね。じゃ、ゲームオーバーってことで……」
あ、あ、あ、あ、ああああ!!
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
男は絶望の悲鳴をあげて壁とは逆へ走り出した。
どうせ地獄へ落ちるなら道ずれ――。
ドンッ!
直後に炸裂した銃声。
グチャリ、と重い物体が地面へ倒れた音が路地に響いた。
「脱走ゲームはこれで終了だよ? お前はもう用済みなの。フフ、マゾカトラズに戻されても廃棄処分だったからよかったでしょ?」
血溜まりを広げながら物言わぬ死体となった男をブーツで小突きながら婦警は楽しげに笑っていた。
男の額には空けられたばかりの風穴が空いている。
婦警が男を殺した――だが、それは罪ではない。
廃棄処分の玩具を壊したに過ぎない。
そして、これはモニターされているのだ。
街全体を使った牡奴隷の逃走ゲームとして――。
そう、この世界には奴隷がいる。
男だけが落ちる地獄の身分が――。
◆
この世界はどこで枝分かれしたのだろう。
歴史の教科書では大航海時代に蔓延した未知のウイルスにより、男性の数が増え、女性の数が減少。
これにより、希少となった女性の地位が上昇し、女尊男卑の世界になったと書かれている。
アメリカの大統領も日本の首相もイギリスの国王も常に女性が勤め、男の地位は歴史を重ねるごとに下がっていた。
そして現在――。
増えすぎた男達の地位はもはや最底辺ともなり、恐ろしい法律が世界で復活していた。
奴隷法――。
この世界に死刑はない。最高刑は終身牡奴隷刑。
そう…………男にのみ適用される法律であり、この刑に処された男に人権はなくなる。
この刑は男だけに処される刑で人間の身分を剥奪され牡という存在になる。人間扱いはされず女性に殺されても当然とされる法だ。
しかも、牡になれば女性に対して絶対服従しなければならない、まさに最下級の奴隷として扱われるのだそこには権利などは一切なく服従という言葉があるだけだ。
そこに奴隷の意思は認められない。
生き地獄となるこれはまさに、極刑はないと言うほどの残忍なものであり、それを受けた男の末路は凄惨極まるものしか存在しない。
そして、牡奴隷法を可決された奴隷を収用する施設、通称――マゾカトラズは牡奴隷にとって恐怖の象徴であり、女性社会にとって支配の象徴でもあった。
◆
とある離島。
そこにマゾカトラズはあった。
正確な場所は知らされていない。
過去に愚かな牡を助けようなどと男達が反抗したことがあったからだ。
勿論、武装した女性警官、女性自衛隊により、それは一日で鎮圧。
一万もの男が牡となり、助けようとした牡奴隷達は世界中継で廃棄処分される姿を放映し、男達の無力さと社会的な地位を徹底的に知らしめたのだ。
この反乱後、日本の義務教育に奴隷について学ぶ授業が追加され、牡奴隷についてしっかりと学ぶことが義務となったのだった。
外でも中でも男の権利は地に落ち、女性優位の世界がますます加速した時代――。
◆
マゾカトラズ――。
絶海の孤島であるこの島に壁はもはや必要ない。
牡奴隷となった男を助けようとする男性などいないからだ。
自然豊かな公園や大規模な商業施設。
離島にしては栄えているとも言えるここはそこまでなら、普通の島だ。
春日よりの公園で日光浴している人影も多く見える。
だが――。
「ほら、とって来な。奴隷1128号」
女性が投げたフリスビーを咥えて野原を走るのは四つん這いの男だった。
「ちょっと、おしっこするなら、そこ木でしなさい! 犬はマーキングするものよ!」
女性に叱咤され、街路樹の根本で四つん這いの体勢で片足を上げて放尿しているのも男だった。
「私のポチとあなたのペロのどっちが速いか競争させましょうよ? ん、負けたら鞭打ち百発にしましょうか」
楽しげに話す女性二人の足元で首輪に繋がれて四つん這いでいる二匹のペットもまた男だった。
「ペス、ちゃんと力入れな。本が読みにくいわ」
ベンチに座り、片手に本を読む女性はブーツを履いた足を四つん這いの男の背中に乗せて足おきにしていた。
男達は全員が裸で鋼鉄の首輪がはめられ、それは自分の意思で決して外すことを許されない奴隷の証だ。
彼らは全員が牡奴隷。
この島で働く女性はそれぞれ奴隷を所有している。
ストレス解消の玩具、愛玩動物、肉便器、召し使いなど用途も様々だ。
マゾカトラズの職員は新卒から採用された時点で一匹奴隷が与えられる。
研修で使い潰される者もいれば、こうして生き延びる者もいる。
そして、今日もまた新しい新卒が採用された。
それは新たな奴隷が生け贄となると言うことだった。
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