マゾカトラズ 番外編 逃亡 (Pixiv Fanbox)
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「くそっ!」
ポコは普通サイズならワンルームほどある何もない殺風景な箱に入れられ、悪態をついていた。
しかも、今のサイズはさらに縮み、今やコオロギなどの虫サイズまで縮められていたのだ。
というか、虫かごではないか!
あの女!
小さくなった自分が絶対に勝てないのをいいことに好き放題やりやがって!
マゾカトラズの常軌を逸した調教でもポコは女性への敵意を折られることはなかった。
大人の女性への敵意ですら消えないのに、小学生程度の小娘に対して敵意が消えるわけがない。
絶対に逃げ出してやる。
だが、この箱の高さ――。
まさに壁だった。
ツルリとしたプラスチックの壁。
まず登ることは不可能だろう。
(とってもないし、普通なら登れない。が、蓋はついてない)
だったら――。
ポコは正面に見える壁からできるだけ距離をとると――。
ドンッ!
壁めがけて全力でタックルした。
ズルッ、とわずかに虫籠が動き、端へと進む。
(よし、このままタックルし続けて落とせば逃げられるぞ)
ポコも他の牡奴隷と同じく痛覚鈍化や肉体回復能力の向上のための薬を打たれており、このまま全力でタックルし続けても、負った痛みはすぐに回復できるのだ。
なので、臆することなくポコは壁めがけて全力でタックルを続ける。
ドンッ! ドンッ! ドンッ!
少しつづだが、確実に虫かごは机の端へと進む。
もし、理子がいれば容易く止められたが、生憎と彼女は今、晩御飯を食べに下へ降りた。
今は千載一遇の好機なのだ。
透明な壁越しにはすでに床が見えており、あと一息で落ちる。
「うぉぉぉぉぉ!」
硬い壁にぶつかって腫れた腕を気にせず、ポコは雄叫びをあげて壁へ走り――。
ドンッ!
瞬間、虫かごは斜めに傾いた。
「う、うわぁぁぁぁ!!」
奇妙な浮遊感があったのも一瞬、ポコは虫かごとともに床へと落下したのだ。
恐ろしい速度で迫る地面。
サイズと高さで考えれば間違いなく死ぬだろう。
コンクリートに叩きつけられた蛙の様に……。
だが、ポコは確信していた。
(はっ! 俺を玩具にして大量の薬を打ったのが仇になったな! こんなことじゃ、俺はしなんぞ!)
落下する床に対して身体を丸めて急所を守ったポコはけたたましい音ともに床に落ちたのだった。
◆
「ぐっ……」
何秒気絶した?
折れたはずの骨が体内で急速に回復し、破裂した血管の青黒い染みも消えていく。
落下の衝撃で転がった蓋を見てポコは満足げに笑った。
ハハッ! ハハハハハッ!
あの馬鹿女め! ざまぁみろ!
俺は逃げたぞ!
ポコは勝利を噛みしめると、どこに隠れようかと考えた。
あの扉を開けるのは難しい。
ここは隠れてあの女が諦めるのを待つしかない。
(あまり悠長にしているわけにもいかない……。いつあの小娘が戻ってくるかわからないからな……)
ポコは部屋を改めて見回しながら、どこに隠れるべきか考える。
タンスの中? 机の下? テーブルの脚の影? ベットの下?
さて……どこに隠れるか――。
◆
「ただいま~、いい子にしてたかな? ポチ~。お風呂まで遊んであげるね~」
ニヤッと笑ってそうな声とともに扉が開かれ、この部屋の主である理子が入ってきた。
だが、その機嫌は即座に不機嫌なものに変わる。
「へぇ……ポコってば本当に馬鹿だね~。処分決定のお馬鹿さんだけど、奴隷の逃亡は即殺処分にされるの知らないの?」
小学生とは思えない低い声にポコは背筋が凍った。
(落ち着け落ち着け落ち着け――)
虐げられてきたトラウマが過ったが、ポコは必死に自分に発破をかけて心を落ち着かせる。
この場所が見つかるわけがない。
ここに隠れるのがどれだけ大変だと思ってるんだ。
見つかるものか――。
爪楊枝の先ほどのとても小さな隙間から部屋の様子をなんとか眺めるポコには理子の足しか見えない。
だが、縮んだポコの視点でもほとんど見えないのだから、何十倍あろう理子の視点からこちらを見つけるのは不可能だろう。
「どこかな~? ここかな~?」
ふざけた様子で教科書を持ち上げ、引っ付いていない確認する理子。
「それともここ?」
テーブルの脚をしゃがんで覗く理子。
「見つかったら死刑だから隠れるのも本気ってわけだね~」
机の引き出しを全てあけ、さらに裏まで調べる理子。
ポコの思った以上に執拗に一つづつ隠れれる場所を潰している理子に、内心焦りが出てくる。
だが、確実に死角を潰している理子のやり方はとても時間がかかっている。
これなら、今日中に見つけられまい。
(とっと諦めろよ!)
部屋の反対側から潰し始めたのだから、ここに来るのは明日になる速度だ。
「いないな~、どこに隠れたのかな?」
理子は床に落ちているノートを踏みつけて部屋全体を見回した。
(イラついてるな? このまま諦めてしまえばいいのだが――)
そんな祈りが通じたのか、理子はベットに向かい、
「もういいや。探すのや~めた」
(え? お? 諦めた? こんなあっさり? やった! やったぞ!! あとはあの女が寝たら逃げるだけだ!)
心の中で拍手喝采しているポコだったが、その喜びはすぐに絶望に塗りつぶされた。
「これでどこに隠れててもすぐ分かるからね」
理子が手にしているのはドライヤーの様な形の何かだ。
先端は平坦でガラスが張られている様で何かの測定機器を思わせる。
測定……。
「サーモグラフィー♪」
どこぞの猫型ロボを思わせる口調でそれを起動させた理子は部屋全体を舐めるようにそれで調べ――。
「どこに隠れてもこれで一発でわかるんだよ? 所詮は牡奴隷の浅知恵で隠れてたけど無駄無駄~」
ドスドスドスドス。
理子の巨大な足が一直線に向かってくる。
「あ、あ、あ、ああああああああ!」
薄暗い空間が激しく揺れ、電灯の光がポコの目を眩ませた。
「み~つけた~🖤」
追跡ものでは恐怖を感じさせるお決まり台詞がここまで恐ろしく感じたのは生まれて初めてだった。
「まさかタンスの引き出し……しかも、下着入れの一番下の靴下の中に逃げるなんてすっごいスケベだね~」
理子の目が嗜虐的な光と怒りを滲ませていた。
「ひぁっ!?」
ポコは慌てて奥へと逃げようと身体を翻らせるが、理子の手が空から降ろされて捕らえられる。
「逃がさないって~」
入っていた靴下にくるまれたまま引っ張りだされ、理子の顔の高さまで上げられた。
(高い……!!)
この高さから落ちれば間違いなく即死だ。
あぁ、死んだ。
理子はどうどうと死刑にする、と言ったのだから、間違いなくこのまま殺されるのだろう。
絶望で項垂れたポコだが、女権世界の女神がそんな甘いわけがない。
ポコを見守る女神はさらなる絶望をポコへ与えるのだった。
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