毎日シャブ入りのご飯を与えられかなり出来上がってきてるナサスくん (Pixiv Fanbox)
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ランプの薄明かりに照らされた牢獄の中にカビの臭いが漂っていた。体毛に染み込んだ体液の放つ饐えた臭いがそれと混ざり合って鼻腔を満たす。
鉄格子の向こうから、コツコツと靴の音が聞こえていた。石床の上に敷かれた安物の毛布の上で体を丸め、もはや不快にすら感じぬほどに慣れてしまった、淀んだ空気を吸い込みつつ、浅い眠りから覚醒する。
陽の差さぬ牢の中では昼も夜もなく、果たして今が『いつ』なのか、どれだけの時間をここで過ごしたのか、後どれだけこうしてここで目を覚ますのか、何一つ分かりはしない。
やつれ、薄汚れた体をのそりと寝床から起こす。かつて身に纏っていた、金の装飾が施された腰布や、同じく黄金の腕甲や肩当てはとうの昔に取り上げられてしまった。今や身につけているものといえば、舌、両の乳首、そして男性器の先端に取り付けられたピアスと、革製のくたびれた首輪のみ。
かつて超越者と呼ばれ、戦の指揮を執っていた頃とは比べ物にならぬ、みすぼらしく滑稽な姿。そのことへの屈辱と羞恥すら、今や酷く薄れ果ててしまった。
「……ッ」
足音が近づいてくる。自分をこの無様な姿へと貶めた相手の足音が。
……最初は怒りを露わに抵抗をした。やがてはそれにも慣れ、無言のまま従うようになった。そして今、その足音を聞きながら感じるのは、じわりと胸に湧き上がる期待と、下腹部に燻る熱。
酷く気怠い気分だった。消耗した体は鉛のように重たく、頭に霞がかって深く思考することができない。いっそ命尽き果てるまで何もせず身体を横たえていたいとさえ思える。それなのに、駆り立てられるように身体が動きだすのだ。
もはや立ち上がることすらできない不具の身にムチを打ち、扉へと向け四足のまま這い進む。両胸のリングピアスを結ぶチェーンが、体を揺するたびにじゃらりと揺れていた。
「はっ……、はっ……!」
くすんだピアスの取り付けられた舌が、開いたままの口から垂れ下がっている。犬がそうするような息遣いを重ねながら、扉の向こうから聞こえる足音に合わせて、ジャッカルの耳が忙しなく動く。
これから起こであだろうことを考えるだけで下半身へと血液が流れ込み、熱り立った肉棒の先端に取り付けられたピアスに先走りの液体が滴っている。いつか聞いた、ベルの音を耳にするだけで唾液を溜めるよう刷り込みを受けた犬の話を思い出す痴態だった。
気づけば胸の内に期待とも渇望ともつかない暗い炎が燃えたぎり、戦闘の最中でさえ抱いたことのなかった高揚が身体を包む。……何かがおかしいと、かつての冴えを失った頭の中に警鐘が鳴っていたが、その不安とて湧き上がる期待の中に霧散してしまう。
「あぁ……ッ」
錠前の開く金属音を聞くと同時に、喉の奥から歓喜の声が漏れる。重たい鉄の扉が開いて、毛皮に包まれた大柄な男が牢へと足を踏み入れるのが見えた。
「随分、素直になったよなぁ」
従順に『主人』を出迎えるこちらを見下ろしながら、男はしみじみとそんな感想を述べる。
確かにそうなのだろうが、言葉を目当てにこうしているのではない。こちらの視線は釘付けにするのは下卑た笑みを浮かべる口元ではなく、男が片手に持つ薄汚れた餌皿だった。
口の中に唾液が溢れて止まらない。飲み込んでも飲み込んでも湧き出すそれが、開いたままの口から舌を伝い床へと垂れ落ちる。
焦らすように揺らされる皿を目で追いながら、無意識の内に身体まで揺れていた。鈍った頭の中を飢えが埋め尽くそうとしている。身を引き裂かれるような飢餓感が胸を焦がしていた。
「そんななるくらい欲しいなら、教えた通りやってみろよ。ほら」
こちらの無様な姿を嘲りながら、男が言う。ここ数日、新たに行われるようになったやりとりだった。薄れていた羞恥心が微かに膨らんで、じんわりと耳が熱くなるが、それ以上の渇望と期待が止めどなく湧き上がり頭を満たしてゆく。
「……っ」
ひゅうひゅうとか細い吐息が喉から漏れる。体中に熱が籠もって、体中に汗が滲む。どうせ、これが初めてではない。抵抗する意味など無い。どうせすぐに慣れる。今までもそうだった。これもきっと同じだろう。
錆びついた頭の中に言い訳の言葉を並び立てながら閉じかけていた口を再び開き、ニタニタと意地汚く笑う男の顔を見上げながら、羞恥に塗れた震え声を放つ。
「わ、わぉ、ぉん……ッ」
心臓が早鐘のように高鳴って頭蓋に響いていた。犬として扱われることに対しての抵抗を諦めることと、自ら犬として振る舞うことではまるで意味が違う。
男が満足するまで幾度も媚びた鳴き声を上げて見せながら、後戻りできぬ一線を踏み越えてしまったという不安が胸を過ぎっていく。抑えきれぬ笑いに男の喉がくつくつと鳴り、その反応に手応えを覚えながら鳴き続ける。
今の己の姿がどれほど滑稽なものか、鈍った頭では想像すらつかない。考えたくもない。己を顧みることを拒み、ただ欲望を満たすため命じられたままに振る舞うのみだった。
……だから、もういいだろう? これ以上は我慢などできない。不具の身体にムチを打ち、男に飛びついてでもその餌皿を奪おうとさえ思ってしまう。
「わぉおん! わん! わん! わふ、くぅん……!」
いつしか鳴き声からぎこちなさと震えは抜けていた。必死に犬として振る舞い、脚にすり寄って鼻を鳴らすこちらを見下ろしながら、男はようやく満足した様子を見せる。焦らすように揺れていた餌皿の動きが止まり、そして男の手から滑り落ちた。
目の前に置いてもらえるとばかり思っていたそれが、床へと落下してゆく。唖然としたまま見詰めるうちに、からんと音が響き、家畜の飼料にも劣る傷んだ残飯が皿からこぼれ落ちて床にぶち撒けられた。
「ああ、わりぃな手が滑った」
悪びれもせず口にするのとほとんど同時に、男の足が残飯を踏みつける。糸を引く野菜くずが色あせた革靴の両脇に押し出されていた。
「足をどけて欲しけりゃ――、おお?」
男が何かを言いかけていたが、言葉の続きを待っている余裕など無かった。散らばった残飯を両手で掻き集めて口へと運ぶ。異臭に混じって舌を刺すような苦味が広がるが、決して吐き戻しはしない。
長い舌で皿に残った餌を舐め取り、一本の牙も残らない口に含んだ残飯を、咀嚼すらせずに飲み込んでいく。靴の周囲に押し出されたそれを全て平らげたあとも、下敷きになったままの分をなんとかして食べようと、男の革靴が唾液まみれになるまで舌を這わせる。
「犬以下だなこりゃ」
男が呆れたように呟きながら足を上げる。押し潰された残飯をガツガツと平らげ、それでも足りずに靴の裏にへばりついたクズ肉や野菜くずを、砂利ごと舐め取って嚥下してゆく。
どこかに小さな欠片でもこぼれ落ちてないのかと、鼻を鳴らしながら床を舐めて周り、舌に開けられたピアスが石床と擦れてずずずと耳障りな音を立てていた。
空腹が満たされたおかげか、じわりと身体に活力が満ちてゆくような感覚があった。いつか、この牢獄から抜け出すことも叶うだろうと、それまで泥を啜ってでも生き延びてやろうと、萎んだ風船に空気を入れられるように、胸を温かな希望が満たしてゆく。
「んっ、ふっ、じゅる……ッ」
床に肘を突き、両手についた残飯の欠片を丹念に舐め取りながら、こちらの背後へと歩いてゆく男を目で追う。どうやら食事の後の『アレ』を始める気らしい。以前は身を捩って抵抗を示したものだが、今はもう慣れてしまった。
ケロイド状となるまで炙られては再生を繰り返し、二度と爪の生えてくることのなくなった指先を赤子のようにしゃぶりあげながら、いつものように腰を突き上げる。
ゴワゴワとした獣毛に包まれた手で臀部を鷲掴みにされる。ゾクゾクとした甘美な刺激が背筋を伝うのを感じ、身震いする。肛門へと唾を吐きかけられ、今やすっかり緩くなってしまった穴へと指がねじ込まれ、具合を確認するように二度三度と掻き回される。そのたびに腰が震えて、鼻の穴から熱い吐息が漏れてしまう。
応えるように肛門へと力を込めて男の指を締め付けると、敏感になった粘膜を粗い獣毛に擦られる刺激に、腰が砕けそうな程だった。
背後から布の擦れる音が聞こえる。ズボンを下ろしているところなのだろう。そう思うと期待に鼓動が高鳴り、息が荒くなってゆくのを止められない。
「おぉ……ッ」
熱く震える剛直が肛門へと押し当てられる。幾度となく自らを貫いてきた雄を素肌に感じ、高まった興奮がさらに増してゆく。漲る活力のせいか体の感度が高まり、ピンと立った乳首を空気が撫でてゆくだけで背筋が震えた。
早く。早く。こうして虜囚となるまで知らなかった快楽を、今日も味わわせてくれ。我慢などできない。早くこの体を貫いてくれ。
自然と口元が釣り上がり、牙の残らぬ充血した歯茎をひやりとした空気が撫でていく。だが、期待に反してその瞬間はいつまで立っても訪れない。押し当てられたままの剛直が、深く身体を貫いてその形を腸壁に刻みつけてくれることを待ちわびながら、頭の中に疑問符を浮かべる。
どうすればいつものように激しい腰使いをぶつけてくれるのか、肉欲に染まった頭を必死に働かせてその答えを探す。
「……!」
そして尻の奥の切ない熱に悶えながら、ようやく己が取るべき行動へと思い至り、小さく息を呑んだ。
先程も同じように焦らされ、そしてあの男の望み通りに振る舞うことで与えられたではないか。首を捻って、媚びるような仕草をして見せながら、切なげに鼻を鳴らす。
「くぅん、くん……。はっ、はっ……!」
会話を交わす相手も居ない人語などより、犬の鳴き声の方が今の自分にはよほど有用だった。言葉によって懇願しても得られぬものが、こうも容易く得られるのだから。
その考えを裏付けるかのように、ゴツゴツした手に背中を撫でられる。くすぐったいような心地良い感触にくんくんと鳴きながら、男の次の動きを待つ。我慢していたのは向こうも同様らしく、待ち望んだ瞬間はすぐに訪れた。
「そのまんま犬みてぇに鳴いてろよ!」
「わぉ、おぉん……ッ!?」
つぷりと、熱く硬い肉棒が熟れそぼった肉穴を貫く。もはや何回こうして身体を重ねたかも分からず、直腸はこの男根の形を完全に覚え込まされていた。敏感な雌穴と化したそこを突き上げられる快感とともに、欠けた場所にピタリと何かが噛み合うような、満ち足りた感覚に包まれる。
「わう、ふっ、わぉおおんッ!……あおっ、おっ、わうぅッ!」
荒々しいピストンに合わせて鳴き声を上げながら、肉棒を内側から押されているかのような不思議な快感に酔いしれ、股ぐらにいきり立つ肉棒からとろとろと先走りの液体を溢れた。
もう、他の何も考えられない。己が虜囚であることも、もはや果たすことも敵わぬだろう責務も、全てはこの圧倒的な快楽に比べれば些細なものだった。
火照った身体が背中へと密着してくる。太い腕が胴体へとまわされ、両胸の間でピストンに合わせて揺れるチェーンへと手が伸びた。
「こうすると、お前すげぇ締め付けるんだよな」
「アオ――ッ」
男の手がピアスへと繋がるチェーンを強く握り、硬い胸板の上に突起する黒ずんだ乳首がぴぃんと引っ張られる。痛みさえ伴う強烈な刺激だと言うのに、肉棒はビクビクと震えて先走りを吹き出し、身体が大きく痙攣してしまう。
腹の中を掻き回す剛直をきゅうきゅうと締め上げながら、体中からなだれ込む甘い刺激に目の前が真っ白になって、チカチカと視界が明滅する。
人の魂には分不相応とさえ思えるほどの、濃密な体験だった。こうして快楽を刻みつけられるたびに、虜囚と成り果てる前の記憶が朧げになってゆく気がする。今や砂に埋もれてしまった故国で過ごした日々も、最愛の弟を失ったときのあの痛みも、シュリーマを滅ぼした悪が解き放たれたと知ったときの決意も、今この瞬間と比べれば色褪せた遠い記憶でしかなかった。
「わおっ、おおッ、うぅ……ッ、わうっ!」
体中の感覚が研ぎ澄まされて、脳が焼け焦げるかと思うほどの刺激が身体を突き抜けて、今この瞬間ほどに己の生を実感したことなど一度とてない。
超越者として生きた悠久の時など、このカビ臭い牢獄の中で過ごした囚われの日々に比べれば、あまりにも希薄なものでしかなかった。
体の奥で男根が震えている。命を育むための液体を吐き出そうとしている。ああ、欲しい。この濃密な時間を与えてくれた相手の精が、自分を屈服せしめた主たる雄の種が。
相手の腰使いに合わせて腰を揺らし、雌穴に力を込め、男根をきゅうきゅうと締め上げる。背後に聞こえる息遣いから余裕が消えてゆくのが感じられた。
ああ、もうすぐだ。恍惚の表情を浮かべながら身体を捩り、右手を自らの男根へと伸ばす。手首につけられた深い傷跡の後遺症によって握力の殆どが失われていても、男根を扱くのに不自由はない。
「――ッ!?」
痛いほどに膨らんだ肉棒を軽くひと無でしただけで、雷のような快感が背骨を伝う。
意識さえ吹き飛びそうなほどの刺激に悶えながら、先走りでぐっしょりと濡れたそれをピストンの動きに合わせて扱き上げた。
一回。二回。それだけで気を抜けば絶頂へと達してしまう。
三回。四回。許容量を超える刺激に身体が不具合を起こしたのか、激しい痙攣に襲われた。
五回目にしてついに限界へと達し、視界が真っ白に染まる。そしてそれと時を同じくして、背後から低い唸り声が響いた。
「ぐっ、イくぞ……ッ!」
腹の中で剛直が震え、そして腸壁へと熱い液体がぶちまけられる。どろりとした生命の源が心地よい温もりで胎を満たしてゆく。
「わぉおおおんッッ!」
その幸福感に打ち震えながら、雌犬は吠える。肉棒を包む右手の中でびゅるりと精液が爆ぜる。下半身全てが男根となり射精しているかと錯覚するほどの強烈な絶頂に、白目を剥きながら床に崩れ落ちていた。
頭蓋の奥で星々が明滅を繰り返している。全身の感覚がこの上なく研ぎ澄まされ、脳細胞を走る火花すら感じ取れた。
今この瞬間の幸せと比べてしまえば、過去の全てが価値を失う。
目から、口から、鼻から、顔中の穴からあらゆる体液を垂れ流しながら、恍惚の表情で宙を見上げる。
「こりゃもう、後戻りできねぇとこまで来ちまったな」
男が肩で息をしつつ、なにか話している。後戻り? 一体何のことやら。この幸福を知ってしまえば、そんなことをする気になるわけがない。
埃にまみれた知識を掻き集めることの何が楽しかったのか、もう思い出せない。解き放たれた悪が何をしようと、自分には関係ない。
唯一気になるとすれば、最愛の弟。……今や顔も朧げにしか思い出せないが、もし再び合うことがあるならば、この幸せを分かち合いたいものだ。
口元が緩む。きっと己はこの日のために生まれたのだという、根拠のない確信があった。そしてここで、生き続ける。この幸せを、生ある限り何度でも味わい続ける。
気の持ちようなのだろうか。あんなにもかび臭く狭苦しいものに感じられた牢獄が、今はとても輝いて見えた。
続く