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前回:https://moke.fanbox.cc/posts/1979304

「ん、ふぅ、ぐ、ぅ……っ」

 地面に膝を突き顔を上に向ける英雄の巨躯へと、男が背中を丸めて覆いかぶさっていた。両手で顎をこじ開けられ、ネコ科のざらついた舌で口の中を丹念に愛撫されてゆく。白い牙を、健康的な色合いの歯茎を、精液に塗れた舌を、貪欲なまでの執拗さで舐られながら、ナサスは背筋を震わせて呻き声を漏らした

 五回の射精を終えて肉欲を満たしてもなお、男は己の手中となった英雄の体をさらに別の方法で味わい続けている。

 男は自分の存在を英雄の記憶へと深く刻みつけ、決して忘れることなど許さぬと、精力が尽きてもなお、その舌や口腔から滲み出る唾液が英雄へと流し込まれる。

 ナサスは悪臭さえ伴うそれに背筋を震わせながらも、求められるがままに嚥下し続けていた。今やその口内は男の体液の匂いに染め上げられ、神聖なる超越の肉体は下卑た欲望によって穢されている。

「んんっ、ふじゅる、はぁ……。なんと芳しい……」

 英雄の口腔を舐り尽くした末に、男は夢見心地と言った声色でそう呟く。向かい合わせた口の間には唾液が幾筋もの糸が引き、開いたままのジャッカルの大顎からは首筋へと伝っていた。

 男の爛々と輝く瞳が、英雄の目を真っ直ぐ見つめていた。その目は、触れる事さえも許されなかったはずの存在を所有し、星のように輝く英雄の光を自分の手で穢してゆく暗い歓びに満ちている。

 逆らうことが許されぬ状況も、自らがその目を向けられる事を了承したという事実も関係なく、ナサスはそんな男の目が、ただただ不快だった。

 人が誰しも持つ暗い欲望、決して表に出してはならぬ種類の悪意を叩きつけられ、戒めることも拒むことすらも許されないそれを嫌悪した。

「さて、英雄がどれほど雄々しいモノを持っているか……」

「ぬぅ、う……っ」

 男の足がナサスの股ぐらへと乗せられる。興奮を抱けるはずもない精神状態の中で、今も萎縮しきっているナサスの男根を、彼の纏う腰布の上から踏みつけていた。

「しかし、楽しい時間というのは矢の如く過ぎてゆく。夜明けも近い時間ですし、名残惜しくはありますが今宵はここまででしょうか」

 ――ようやく。

 男の言葉を聞きながら、安堵を感じてしまうのを止められなかった。

 じっとりと汗ばんだ体をいやらしく撫でられながら、ナサスは口元より滴る唾液を腕で拭い、ほっと息を吐く。

「次の夜こそは、貴方のその肉体の隅々までを見せていただかねば。……なんて待ち遠しい」

「く……」

 足が退けられると、ナサスの股ぐらを覆い隠す腰布にはくっきりと足跡が残り、男はそこを凝視していた。

 安堵もつかの間、この辱めが今宵限りのものではないことを意識させられ、ナサスは悔しげな顔で呻く。

(――季節が一巡りするまで、か……)

 超越者として数百年の時を生きてきた彼にとって、それは瞬く間に過ぎ去ってしまうはずの期間だった。

 しかし、こうして最初の行為を終えた今、一年という月日はあまりにも長く感じられた。

☓☓☓

 日中の公務を終えたナサスは自室の椅子に腰掛け、約束通りに男から送られた書に目を通し翻訳の作業を進めていた。

 十巻のそれで一二回の夜を勝ち取られた形ではあるが、これが全てという男の言葉を完全に信用することもできない。

 全てに目を通した上で内容に不自然な抜けなどがあれば、それは男の手元にまだ他の書が残っている可能性を示唆し、問い詰めたところで本当に持っていない上で、残りの書が未だ人知れずに眠っているということもあり得る。

 ひとまずは開示されている分の契約が履行されたことに安堵をしつつも、未だじっとりと纏わり付く不安に苛まれながら、ナサスは机に置かれた皿の上ですっかり冷え切った質素な食事へと手を伸ばし、作業でもするかのように摂取する。

「……」

 ろくに咀嚼もせず、顔を顰めながら呑み込む。普段の上品な振る舞いからは想像もつかない粗野な所作。それも、あの日受けた辱めの及ぼした影響の一つだった。

 男の狂気的なまでの執着心から来る異常な行為はナサスの記憶へと深く刻みつけられ、意識せずとも事あるごとに脳裏をよぎる。

 暴漢に陵辱された生娘じみて女々しく取り乱す気もなかったが、一晩に渡って飲まされた男の体液の味を思い起こせば食欲も失せるし、性欲を想起させる事柄を見ることがあれば、あの男の下卑た目つきが思い起こされて若干の不快感を覚えてしまう。

 そういった変化を人前で出さぬよう気を張り、何かがあったのかと周囲から勘ぐられる事は避けているものの、精神的な疲労は普段以上だ。

 ――新月の晩だけ。その条件で交わした契約であったが、日常への影響は当初考えていた以上のものとなりそうであった。

「ふぅ……」

 疲れの滲む目元を手のひらで押さえながら、ナサスは大きく息を吐く。

 次の新月の番まで、もう半月を切っていた。さらなる辱めを受ける自分へと向けられるだろう、あの男の下卑た目つきが瞼の裏に浮かんだ気がして、ジャッカルの口元が悔しげに震える。

 自分がこうして苦しむ姿を想像して、あの男は今も股ぐらを熱り勃たせているのだろうか。

 虫唾が走る思いに顔を顰めながら、ナサスは再び書を開く。何もしないでいると、あの晩の事ばかりが頭に浮かんで落ち着かなかった。

「……」

 少なくとも、時間を要する作業が目の前にあることがありがたい。余計なことを思い出してしまうこともないくらい、何かに打ち込んでいたかった。

☓☓☓

「ああ、なんと美しい……。ああやはり貴方こそが、何にも勝る宝物に違いありませぬ」

「……っ」

 癇に障る猫なで声に表情を険しくしながら、ナサスは身に纏う衣服を一つ一つ脱いでゆく。今宵、男が最初に要求したのはそれだった。

 魔力の込められた黄金の防具を自らの手で一つずつナサス外してゆきながら、獣慾を隠す気もない視線に体を舐られる不快感は、以前にも増して耐え難いものがあった。

 多少は慣れもするだろうという予想は外れ、むしろこの一ヶ月の間に熟成され続けた男への嫌悪感が、屈辱ををより一層際立たせる。

「おや、手が止まっているようですが?」

「……黙れ」

「ふふ、新妻の恥じらう姿も乙なもの。主人へと自ら裸体を晒す娼婦の振る舞いに耐えられぬとあれば、私めがいつでもこの手で……」

「必要、ない……っ」

 腰布へと手をかけたところで動きを止めてしまうナサスへと、男がいやらしく手のひらを動かして見せながら話しかけてくる。

 男の歪んだ認識を表出させる言葉に怖気立つ気色の悪さを懐きながら、ナサスは腰布を留める帯をいつになく不器用な手付きで緩めてゆく。

 腰布がはらりとずれ落ちると、ナサスの身につけるのは恥部を隠すために巻かれた粗い布の下着のみとなり、布地の上からですらその膨らみを見て取れる大きさに、男の視線は釘付けとなる。

「ほう……」

 なんの憚りもなく恥部を凝視される恥辱に、両手の動きはより一層ぎこちなく緩慢なものとなってゆく。

 やがて緩められた布は太い帯となってはらはらと崩れ落ち、ナサスはその一糸まとわぬ裸体をついに男の前に晒していた。

「これはまた……、英雄と呼ぶに相応しい雄々しきものをお持ちだ」

「抜か、せ……っ」

 ナサスの股ぐらに生えるそれは、彼の体と同じ黒色で、萎えきった今の状態でもなお並外れた大きさを感じさせる。

 英雄の優れた遺伝子を溜め込んだ睾丸も、ずっしりとした重量感を持って股ぐらから垂れ下がり、袋に包まれた二つの精巣の丸みが浮き出ている。

 そこへと視線を注がれながら、ナサスは恥辱に顔が熱くなるの感じて葉を食いしばり顔を伏せる。

 興奮を強めた男の荒い息遣いばかりが耳に届いて、今の己は酒場で男に囲まれる娼婦と変わらぬ存在であることを思い知らされているかのようだった。

「ああ、貴方こそシュリーマの至宝。さあ早く、私めにお見せください。……その槍が雄々しく屹立した姿を!」

「ぐぅ……ッ」

 男の要求に、ナサスは苦々しく呻き声を漏らす。それはある意味、相手に身を任せ耐えるだけの行為以上の屈辱を伴うものだった。

「さあ、その御手で私めの魔羅を撫でてくださったように、ご自身を慰めてくだされば良いのです」

「……っ」

 ナサスは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべながら、緩慢に右手を動かす。その手のひらで萎えたままの一物を包み込むと、恥辱に頬を染めながらゆっくりと手を動かし始めた。

 しかし、今のナサスに行えるのは手のひらの獣毛で柔らかいままの男根を擦り続ける乾いた音を響かせるのみの、興奮の伴わぬ自慰の真似事だけ。

 情欲に浮かされたわけでもなく素面のまま行うそれは、ナサスへとより一層深い辱めの記憶を刻みつけるための行為だった。

 命令へと従順に従い英雄としての自尊心を自ら捨ててゆくその姿を、男は黄色い牙を見せて笑いながら眺めている。

 そして一向に膨らむ気配を見せぬ男根がじんとした痒みを感じるようになり始めたころ、男はくつくつと笑いを含んだ震え声で言った。

「いやあ私としたことが、未だ淫蕩の悦びを知らぬ貴方に、些か酷な要求をしたようで申し訳ない」

 男がゆっくりと歩を進めこちらへと躙り寄ってくる。後ずさりしたくなる衝動に耐えながら、ナサスは機械的に腕を動かし続けていた。

「どれ、私が教えてなさいましょう。さあ、緊張なさらず私へと身を預けてください……」

「ぬ、うぅ……」

 男は小さく背伸びをしながらナサスの首へと左腕を回す。そのまま男へと顔を寄せるよう促され、ナサスは一瞬だけそれに抗ってしまったものの、渋々と背を丸めた。

「さあ、お口をば……」

「んんっ、む……っ」

 口元を舐め上げられ、歯列を舐られ、背筋の獣毛をぞわりと逆立ててしまいながら、ナサスは根負けしたように男の舌を受け入れる。

 湿った音を伴いながら行われる唾液の交換。前回、夜が明けるまで繰り返した行為であったが全く慣れる気がしなかった。

 その間にも男の右手が首筋から胸板へと這ってゆくこそばゆさに体が震える。

 幾度となく雄同士の情交を経て培ったであろう、官能的な愛撫。その手付きには、心の恭順さえ伴っていれば快感に成り得ると予感させるだけのものがった。

「ん、ふぅ、うぅ……っ」

 触れるか触れないか、柔らかな羽毛で体表を撫でられるような繊細さで、腹筋の割れ目をなぞられてゆく。男の右手が徐々に下降してゆくのを感じながら、へその奥に何か熱が燻っているような気がした。

 下腹部へと辿り着いた指先が、肉棒そのものには触れぬまま獣毛を梳かすように優しく撫でる。

 くすぐったいような、むず痒いような、その手付きで直接男根を撫でられればどのような感覚であろうかと想起させようとしているのが分かった。

 緩慢かつ繊細に、緊張を解きほぐすような優しさで、丹田の奥に産まれた熱を大きく育てるべくナサスを焦らし続ける。

 ひとりでに腰が震えた。切ない疼きに股ぐらが熱くなる。

 ……ああ、ああ、そこではない。もっと下、この込み上げる熱を吐き出すための場所を。

 ――触って、欲しい。

「――はッ!?」

「おぉおお……!?」

 気づけばナサスは、反射的に男を突き飛ばしていた。男は目の前に尻もちをついて目を丸くしており、ナサスは呆然としながらそれを見下ろしていた。

(有り得ぬ……!)

 英雄は自分の失態に思い至り驚愕する。自ら受け入れたはずの契約を破り相手に危害を加えてしまった事もそうであったが、男の愛撫によって心地良さを感じさせられたことこそに、驚きを隠せなかった。

 その受け入れがたい事実を拒否するために短絡的な拒絶を行った自分の不甲斐なさに呻き、頭を抱える。

 そんな英雄の所作を目を丸くして見ていた男も、数秒の間を置いてようやく状況への合点が行ったらしく、これ以上無いほどに口角を吊り上げながら口を開く。

「……我が新妻の、なんと恥じらい深いこと。そんなにも私めの手で快感へと導かれることを厭われるては、夫としての面目もない」

「言う、な……っ!」

 男は尻餅をついたままナサスを見上げ、くつくつと癪に障る笑い声を漏らす。英雄の見せた、初夜に怯える生娘の如き姿がさぞ滑稽に映ったのだろう。

 動揺し唸るような叫びを返すナサスに対して、その羞恥心をより深めようとするかのように一頻り笑った末に、男は再び口を開く。

「ふふ、ふ……っ、貴方はお気づきでしょうか? その股ぐらで天を穿とうという勢いでそそり勃っておられるモノを……?」

「――っ!?」

 男の指摘によって、英雄の体がびくんと震える。……ありえない。ありえないと繰り返しながら、その胸の内で鼓動はいつになく早まっていた。

 視線を下げる事が怖かった。見たくなかった。それでも英雄は、震える息遣いを漏らしながら己の股ぐらへと視線を向ける。

「……っ」

 幼子の腕程もあろう黒々とした剛直が、ナサスの股ぐらから熱り勃っていた。どれだけ言葉を並べたところで、その事実を否定する事はできない。

 英雄は、小汚い男の淫らな手付きに快楽と興奮を抱いてしまった。自分は目の前の男に対して、恭順を抱いてしまったのだと、自らの肉体によって証明されてしまっていた。

「さて、それはそれとして、まさか貴方様が私めの信頼を裏切る日が来ようとは……」

 かつてなく狼狽した様子を見せるナサスへと畳み掛けるように、男がそう話す。ナサスの顔を覗き込んで、耐え難い恥辱と自らへの失望に歪むその表情を、愛おしむように目を細めていた。

「我は、我は……」

 言葉を詰まらせながら、ナサスは見苦しく言い訳を探してしまうのをやめられなかった。

 なにか、なにか間違いがあったのではないか。そう願わずにはいられなかった。

 しかし、明晰な頭を精一杯働かせながら重たい沈黙をどれだけ過ぎても、答えは見つからない。

 やがてその口から漏れたのは、弱々しい謝罪の言葉だった。

「我の、失態だ……。二度と抗いはせぬと誓おう……」

「……それは当たり前の話でございましょう? 私めがお聞かせ願いたいのは、失態の代償に貴方様は何をしてくださるのか」

「……っ」

 ナサスは押し黙る。この男がこれ以上に何を求めるのか、考えつかなかった。……いや、考えたくなかった。

 下卑た欲望に満ちた男の考えを推し量ろうと想像するには、ナサスの中で相手への忌避感が育ちすぎていた。

 顔を伏せて押し黙るナサスへと、男は再び寄り添う。その腰に腕を回して、硬く握りしめた拳へと手のひらを乗せて、伴侶のように寄り添って見せる。

「貴方に思いつかぬというならそう、逢瀬の間の、私めと貴方の関係。そろそろはっきりとしたものにいたしましょうか。……私が望む関係が如何様なものかは、すでにお分かりでしょう?」

「それ、は……」

 腰に回された手が、臀部へと下降してゆく。引き締まった尻をいやらしい手付きで揉みしだかれながら、ナサスは震えながら声を詰まらせた。

 ……それは何も、心底からそう誓う必要があるといったものではない。月に一度、男の慰み者として相手をする際に、そう振る舞えばいいだけ。

 そう分かっていてもなお、舌は思ったように動かず、言葉は喉でつっかえてそれ上に登ってこない。

「……っ」

 悍ましい。悍ましい。悍ましい。

 雄の抱く欲望がこんなにも悍ましく、相手の身を苛むものだなどと、今までは知る機会もなかった。

 その気になれば造作もなく縊り殺せる小男の目に、英雄は今恐怖さえ感じている。

「わ、が……」

「恥じらう姿も美しい。しかし、もう少し声を奮い立たせていただけませんか……?」

 体の震えが止まらなかった。ともすれば、膝から崩れ落ちて寄り添う男に体を預けてしまいそうなほどに。

 心が、体が、己を構成する何もかもが、今から口にしようとしている言葉を全力で押し留めようとしているかのようだった。

 それでもなお、ナサスはただ己に課せられた義務を全うするためだけに、消え入りそうな震え声を絞り出す。

「我が、夫よ……っ」

 ナサスがゆっくりと膝を曲げてゆく。男と同じ目線の高さとなるように屈み、自ら男の手を握り返しながら。

「新月の番、夜が明けるまでの間、我は妻として、汝のものとなろう……」

「……喜んで迎え入れましょう、我が妻よ」

 男が口を寄せてくる。ナサスは自ら顎を開き、それを受け入れた。

「ん、ふぅ、じゅ……っ」

 自ら男と舌を絡め合い、唾液を啜り上げる下品な音を立てて濃厚な口づけを行う。

 男の手が再び下腹部へと伸びてきて、あの繊細な手付きでそこを撫で続けていた。

 消えようとしていた熱が、ゆっくりと、着実に、再び膨れ上がってゆく。

「何を怖がる必要などありましょう。夫へと身を預け、なすがまま快楽に味わえば良いのです」

「くっ、あぁ……ッ」

 男が耳元へと囁いてくる。ピンと立ったジャッカルの耳が息遣いのこそばゆさに震え、丹田の奥でかつてなく膨れ上がった熱に戸惑いを隠せない。

 男の指先がゆっくりと円を描くように下腹部を撫でながら、ほんの少しずつ下降してゆく。

 今やはち切れんばかりに膨れ上がったナサスの男根、その根本へともう少しで触れようとしていた。

 今すぐ男の体を突き飛ばし逃げ帰りたい。そんな衝動に駆られながら、しかし今度は何ひとつの抵抗もせず淫らな愛撫を受け入れなければならなかった。

「――んっ、ふぅう、うるぅ……ッ!?」

 陰茎へと男の手が触れるのと同時に、再び口へと舌をねじ込まれる。

 痺れるような快感に腰を震わせながら、しかし歯を食いしばってそれに耐える事も許されない。

 重ね合わせた口の隙間からは、ナサス本人ですらも聞いたことがないほどに上ずった喘ぎ声が溢れ出して止まらなかった。

 陰茎を撫でられるたびに先走りが溢れ出して、今やナサスの黒魔羅は卑猥な水気を帯びて光沢し、男の手の中でビクビクと震えている。

 限界は近かった。抑え込もうとするほどに圧縮された熱はより強烈に燃え盛ってゆく。

 やがてはナサスがその全力を持って押し留めようとしても抗えぬほどに熱は膨れ上がり、限界へと達する。

「ふっ、うぅぅっ、ん……ッ!」

 ――びゅくぅうううっ!

 獣同士、大きく開いた顎で齧り付くように口付けをして舌を絡め合いながら、ナサスは男の手の中に濃厚な白濁液を迸らせる。

 超越者の強靭な生命力を色濃く宿したそれは、どろどろと熱く濃厚で、男の手を真っ白に染め上げるほどだった。

「ふぅ……、なんと力強く濃厚な」

「わ、我は……、馬鹿な……」

 男が手のひらの上に乗ったナサスの精液を誇らしげに見据え、蜜のように舐め上げる傍らで、ナサス本人は絶頂の余韻に体を震わせながら呆然と呟く。

 屈辱しか産まぬはずの望まぬ行為の中で、ただただ嫌悪の対象である男の手で絶頂へと導かれたことだけではない。

 数百年に渡る超越者としての生の中で長らく眠っていた性衝動。それを引き摺り出されてしまった事への驚愕もあった。

「さあ、我が愛しい人よ、夜はまだ始まったばかりでありましょう……?」

「う、ぬぅ……っ」

 ナサス自身の精液がべっとりとついた右手で頬を撫でられる。自身の肉棒から吐き出された雄精の臭気に鼻腔を満たされながら、英雄は小さく声を漏らした。

「今宵は新妻の体の隅々までをも目に焼き付ける所存。しかし、妻として夫の魔羅に奉仕するための、最も大事な場所を未だ見せていただいておりませぬ」

「それ、は……」

 男の言わんとする事を察してナサスは言葉を詰まらせる。白濁液に濡れた右手が臀部へと向けて下降してゆき、尻の割れ目を指先でなぞっていた。

 引き締まった臀部の中央で硬く閉じられたままの排泄のための穴。男の指先がそこへと精液を塗りたくって、わざとらしく卑猥な水音を立てていた。

「……私めの魔羅を咥え込むための雌穴、どうかこの夫へと御開帳願えましょうや?」

「……っ」

「それはもう、新妻の初々しい蕾の隅々までをも目に焼き付けられるように」

 男が舌舐めずりをしながらささやく。首に回された腕に力を込もり、跪くように促されているのを感じた。

 衝動的な拒絶で契約を反故にしかけた失態の後では、その命令に拒絶できるはずもなく、ナサスは歯を食いしばりながら膝を屈する。

 獣のように地に這いつくばり、男へと向けて尻を突き上げながら、鋭い爪で床を掻き毟ってしまう。。

 命じられるがままに体を差し出すたび、取り返せぬ何かを失う心地があったが、果たしてその末に自分はどれほどの爪痕を残されるのか、それを考えると首筋にちりちりとしたものを感じた。

「さあ、もっと股を開いて。両手で尻を拡げ、夫を誘惑してくだされ。それが妻の仕事にございましょう?」

「ぐっ、うぅ……ッ」

 ひやりとした空気が肛門の粘膜を撫でる。熱いほどの視線がそこへと向けられているのが感じられて、恥辱に頭が焼ききれそうだった。

 あの薄汚い肉棒をそこへと突き挿れられ精を放たれる日が来ると、その事実を深く意識させられながら、拒むどころか自ら迎え入れる事を強要されている。

「……なんと可愛らしい雌穴だ。未だ男を知らず硬く閉じて、初々しく震えていらっしゃる。ああ、夫たる私めが、この魔羅で女にしてやりましょうとも」

「……、ふ、うぅ……ッ」

 自ら尻を掴み拡げている両手首を鷲掴みにされ、食い入るように尻の穴を覗き込まれながら、その生暖かい吐息を吹きかけられてくすぐったさに腰が震える。

 男がスンスンと鼻を鳴らすのが聞こえてきて、その蒸れた匂いを嗅がれていることに気付かされ、羞恥心はより一層高まってゆく。

「ああだが、しかし、それは準備が出来てからというもの。その雌穴が卑しく蜜を垂らしながら魔羅を欲するようになるまで、じっくりと育ててあげましょうや」

「ひっ……!?」

 男が話し終わらぬ内に肛門へと水滴が落ちるのを感じ、ナサスは声を漏らしながら背筋を震わせる。

 ……それは唾液だった。溢れ出す唾液を滴らせながら、未だ本来以外の目的で使われたことなど無い無垢な穴へと、男の舌が伸びてゆく。

 黄ばみ、ざらついたそれは、初々しく閉じたナサスの蕾をゆっくりと舐め上げた。

「なに、を……っ!?」

「この愛らしい無垢な穴を見ていたら、思う様舐り尽くしたくなるのも道理というもの。なに、新妻の体を傷つけるような真似は致しませぬとも」

「や、め……ッ、う……っ」

 温かい舌先肛門の上を繰り返し通過してゆく。そのくすぐったさに腰が震えるたび、硬く閉じた穴が少しずつ緩んでゆく。

 鷲掴みにされた両腕を振り払うことも出来ずなすがままに尻の穴を舐られながら、ナサスは上ずった声を漏らし続けていた。

 ぴちゃり、ぴちゃりと響く水音は次第にその激しさをましてゆき、緩んだ肛門から生暖かい唾液が侵入してくるのを感じられた。

 男はナサスの尻へと顔を埋めるようにしながら、貪るようにその穴を舐り続け、舌先は緩んだ肛門からその内部へ侵入を果たすべく蠢いていた。

「あぁ……っ!?」

 それを拒むべく肛門に力を込めた瞬間の、緊張し震える肛門を舐め上げられる快感に、ナサスは声を詰まらせる。

 肛門が蕩けたように熱を持って、感じたこともない心地良さに弛緩してゆく。

 丹念な愛撫によって守りを解きほぐされてゆきながら、いつしかこの穴が魔羅を欲し蜜を垂らすようになるという男の言葉に、笑い飛ばせぬほどの説得力が伴おうとしていた。

「ん、ふぅ……。どうやらこちらも、一度では物足りぬご様子だ」

「なっ、さわ、るな、あぁ……ッ」

 両手首から男の手が離されたかと思うと、その手はいつしか硬さを取り戻していた剛直へと伸ばされていた。

 雫を垂らす亀頭を手のひらで包み込まれ、あふれる先走りを塗りたくるように撫で回されると、狂おしいほどの刺激に腰が抜けてしまいそうになる。

 ナサスは味わったこともない刺激に身悶えし背筋を震わせながら、自由になった両手で床を引っ掻き爪痕を残す。

 戦闘による高揚の最中ですら手放すことのなかったナサスの冷静は、押し寄せる甘い刺激によってついに突き崩されていた。

「やめ、あぁぁ……!」

 男の舌が、ついに肛門を通過してナサスの内側へと侵入を果たす。腸壁をざらついた舌で舐めあげられる快感に悶えながら、その刺激によっていやらしく収縮した肛門が男の舌を締め付けた。

 獣毛に包まれた手のひらで包み込まれ撫で回されている亀頭は、充血して赤みを帯びながらビクビクと震えて潮を吹いている。

 押し寄せる刺激に思考を妨げられて、頭を真っ白に染められてゆく。食いしばった牙の隙間からだらだらと唾液が溢れて床へと滴る。

 英雄は獣のように這い蹲りながら快感に悶え、智性を忘れた唸り声じみた喘ぎ声を漏らす。

 尻の奥が熱く疼いて、亀頭を撫で回されるたび、脳髄を焦がすかのような衝撃が背筋を駆け上っていた。

 もう、もちそうになかった。ナサスが奥底に隠していた雄の本能は今や完全に呼び覚まされ、超越の肉体はその衝動に打ち震えている。

「ふっ、うぅっ、ぐるぅうう、あぁ……ッ!」

 ――びゅるぅうううっ!

 ナサスは獣のように唸り声を上げながら絶頂へと達する。亀頭を包み込む男の手の中に精液が溢れ出して、指の隙間から床へと滴っていた。

 だが、それでも男は手を動かし続ける。

「ひっ、あ、なに、を……ッ」

 精液に塗れた手のひらが、なおも執拗にナサスの亀頭を攻め続ける。先程をもさらに上回る刺激に声を震わせ、巨躯が盛大に跳ね上がる。

 剛直は男の手の中でみるみるうちに萎んでゆくが、その感度は一向に衰えることなく、むしろ毎秒に高まり続けた。

「――ッ、――ッ!?」

 言葉もなく、ナサスはその体を痙攣させる事しか出来なかった。いつ終わるとも知れぬ快楽責めは、脳髄が焼け焦げるかと思うほどの刺激を送り続け、瞼の裏に火花が散る様を幻視する。

 そしてその末に――。

「がっ、あ――ッ!?」

 ぷしゃあ、とナサスの萎えきった男根から黄色い液体が溢れ出す。

 湯気を昇らせながら盛大にこぼれ落ちる小水は、床に水たまりを作りながら飛び散って、アンモニア臭を漂わせる。

「はっ、はぁ……ッ」

 目を見開きながら荒い呼吸を繰り返すナサスの鼻へも、すぐにその匂いが届いていた。

「これはこれは、貴方様ともあろう方がはしたない……」

「――っ」

 男の言葉に反して、その口ぶりに驚いた様子は少しも感じ取れはしない。

 粗相をし、恥辱に顔を歪める英雄の姿が見たいがためのに、そうなるよう刺激を与え続けたのだろう事は明白だった。

「……このような粗相、弁解の言葉はありましょうか?」

 しかし、そのようなことは関係ないのだろう。

「……っ、妻として、至らぬこの身を、詫びよう。……我が、夫よ」

 息も絶え絶えのまま、ナサスは拳を握りしめ、求められているだろう言葉を口にする。

「ああ、まさに望むままの答え。……これほどに器量よく聡い妻を迎えられたならば、こちらも夫として報いてやらねばなりますまい」

 疲れた面持ちで地に伏すナサスを労うように、男の右手がその頭を撫でる。

「貴方が生涯忘れ得ぬほど、深く愛してやりましょうとも……」

 絶頂の余韻も抜け始め、脱力感を伴う冷静さを取り戻し始めながら、ナサスは男の言葉に臓腑を震わせる。

 相手が愛と呼ぶこの妄執は、こちらにすれば魂へと刻みつけられる呪いとしか思えなかった。

 

 

 

続く

Comments

にゃんそん

自慰もできなかったようなナサスくんが「触ってほしい」と求めてしまうシーンが大好きです!!!ちんちんバキバキにしてて可愛いですね…… 反射的に突飛ばしてしまうシーンの、快感や心地よさにあっさり飲まれない、理性?そういうところに英雄本来の精神的強さや気品、誇り、みたいなものを感じます。がんばれ……快楽に負けないで……!

にゃんそん

あとあの亀頭責められすぎておもらししちゃうところも最高でした!!!