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「え……?」  唯華は慌てて首輪を握った。  さっきまで自分の首に掛けられていた首輪は外れている。  もう一人の唯華によって嵌められ、その効力で以て自分の自由を奪っていた首輪は外れていた。  首輪の表面にある小さなディスプレイの表示は「BATT LOW. Safe.UNLOCK.」(電池切れ。安全のためロック解除)。  ドッドッと心臓の拍動が早くなる。  間違えるな、椎名唯華。これは、千載一遇のチャンスや。  歪に頬が吊り上がる事を自覚もできず、唯華はそっともう一人の唯華を見る。  彼女は、他のライバーの配信を見ているが、いつ配信が終わるとも知れない。  唯華は改めて首輪を緩く自らの首に巻く。  その力は弱々しい物のずり落ちる程ではなかった。  うん、無効状態で着けていてもバレなさそうやな。  唯華は何とか自分だけのプライベートが確保できそうな時間を探る事になったが、それは早期に実現した。  もう一人の唯華が配信をしている間は、自分への監視の目はどうしても緩くなる。  その間に満充電にまで持ち込む事には成功した。  さて、コレをいつアイツに着けるか……。  いや、簡単やな。  何れトイレに立つ瞬間がある。  そして、部屋に戻ってきた瞬間に後ろから着ければ……ほら。 唯華「くっそ、何すんねんっ!!」  吠える唯華をみて、溜飲を下げる唯華。  圧倒的強者となった唯華は、キャンキャン騒ぐもう一人の唯華をいっそ憐れみの目線で眺める。 唯華「じゃ、先ずは《あてぃしに危害をくわえんな》よ。あと《逃げんな》」  以前やられた前提的な命令を仕返しながら、何をしようかにやつく唯華。  その首輪が持つ絶対的な服従性を発揮させ、隷属側の唯華は、支配者側の唯華を睨み上げる。  しかし、その紅色の瞳が不安げに揺れている事は、自分と同じ唯華には直ぐに分かる。  ゾクゾクするなぁ……。  異様に嗜虐心が刺激される。  その報復したいという気持ちのまま、唯華は唯華を性奴隷のように扱い始めた。  配信の合間を縫って奉仕をさせ、唯華は完全に舞い上がっている。  しかし、重大な問題があった。  かつて傾いた「運」はやがて、反対側へと流れていく。  支配する唯華が豪運ならば、隷属している唯華も豪運なのだ。  その日の椎名はゲームコラボ配信を終えると伸びをした。ミシミシと背骨と腰が鳴る。  時刻は既に、午前2時に近い。  楽しかったけれども、疲れもした。  シャワーを浴びたいな、と席を立とうとした瞬間だった。  自分の首にカチン、と首輪が嵌められた。  やられた!!  それが何の首輪かなど考えなくても分かる。隷属の首輪? 馬鹿な、充電はまだ二日は持つはず。  慌てて、振り向く。  そして、そこには邪悪な笑みを浮かべた唯華がいた。  しかしその首には未だ首輪が付いている。  隷属の首輪をもう一つ調達したというのか? 唯華「《あてぃしの首輪を……》」 唯華「《あてぃしに首輪を外させようとすんな!!!!》」  早口で、一気にまくし立てる。  相手の唯華が何をしようとしているのかなど分かっていた。  隷属させたら、まず自分の首輪を外せと言う。  一瞬の勝負に負けた唯華は、その言葉を押しとどめさせられ、喉を詰まらせたようにうぐっと声を漏らす。  目が見開かれ、負けた事、感づかれた事、決定的好機を逃した事に怒りすら覚えているようだった。  しかし、舌がもんどり打っているままにするわけにはいかない。 唯華「《あてぃしの首……》」 唯華「《あてぃしに首輪を外させようとすんな!!!!》」  先ほどと同じ命令が、鏡映しのように発された。  今度は、逆の唯華が悔しがるが、ある意味でここまでは予想された状態だ。  二人の唯華は、互いに隷属の首輪を掛け合い、互いを支配する関係になってしまったのだ。  結局これで元の木阿弥なのか。  少なくとも自分だけが隷属する側に甘んじる事は無くなったのだが、それ以上に相手を支配下に置き損ねたというミスの方が、唯華の心を支配した。 唯華「クソっ! クソがよぉっ!! 良くもこんな事を!!」 唯華「ああ! コイツ、ほんまにっ! 良くも!! 人の事言えるんか?! なぁ!!」  怒りに狂った唯華達は、ガバッと互いに飛びかかると床にゴロゴロと転がった。  上をとった唯華が思いきりビンタを張るが、下の唯華がその股間を蹴り上げると上下を入れ替える。  上を奪った唯華がビンタを仕返すのと同時に、下の唯華も殴りかかってくる。  完全に頭に血が上った二人の唯華はその後三十分ほどの取っ組み合いを繰り広げた。 唯華・唯華「はぁっ……はぁっ……はぁっはぁっ……ごほっ」  互いの襟元を掴み合って、荒い息を吐く二人の唯華。  共に真っ白な頬は赤い手形が浮くほどに腫れている。  ベストは裂け、ブラウスのボタンは半分程度が引きちぎられ、髪留めはどこかに飛んでしまった。  こんな喧嘩は……本気の喧嘩は生まれて初めてだ。  力の加減もできないまま、がむしゃらに殴り合った二人はあっという間にスタミナを使い果たし、動けなくなっていた。  互いを突き飛ばすようにして離れる。  幸い配信環境に損傷はない。  しかし、二人の関係は損傷どころではない。  互いに命令をする権利を得た二人は、徹底的に破壊された関係のまま、同室での生活をするしかない。 「くっそ、最悪や……」  その言葉は、二人同時に漏れ出た。  唯華と唯華は、互いに支配と隷属をし合えるようになった。  ここで、互いに向け合った武器が強力に過ぎるため冷戦状態になるという道もあったのだが、既に開戦している意識のある唯華と唯華は互いへの命令を乱発した。  しかし互いを傷つけるような命令は発されなかった。報復が考えられるし、唯華の本質的に過度な攻撃を良しとしない心理的ブレーキ、倫理観もあった。

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