幼なじみが俺で、俺が俺の妹で(40)『二年後、わたしたちは何を選ぶのか』 (Pixiv Fanbox)
Published:
2025-09-30 05:36:01
Imported:
2026-06
Content
「おはよう、瑠璃ちゃん」
「おはよう、みっくん」
今日も朝のあいさつをして、並んで学校へ行く。
本当は俺が『みっくん』で、隣の彼が『瑠璃』なんだけど。
心の中で毎日そうは思っているものの、その違和感は日々薄れつつあるような気もしている。
まるで生まれた時から自分が『瑠璃ちゃん』と呼ばれていたような、隣の人を『みっくん』と呼んでいたような、そんな錯覚すら覚え始めている。
最近の瑠璃は、かなり積極的だ。失敗を恐れずに色々と思いついたことを実行して、俺をリードしようとしてくれる。
二年前までの瑠璃は、賢いけど控えめな女の子だったのに。その後、俺たちが兄妹だった二年間も、お兄ちゃんはこういう風には振る舞ってなかったのに。
帰り道、他に誰もいないところで話を訊いてみると、理由がわかった。
「わたし、入れ替わる前のこと、後悔してるんだ。わたしが自分の思ってることを素直に口にしていたら、こんなややこしいことにはならなかったかもしれないって」
それはどうなんだろうと思う。瑠璃の引っ越しは変わらなかったことで、そうなると『わたし』はやっぱり「みっくんとずっと一緒にいられますように」と願った気がする。あるいは、その前に恋人同士になれていたら、そこまで深刻にはならなかったかもしれないけれど……。
「だから今は、もっと勇気を出してみようと思って。今のわたし、ボクは……みっくんの恋人だから」
か、かっこいい!
照れくさそうに頬をかく『みっくん』だけど、わたしは凛々しい言葉とそんな表情や仕草とのギャップにもきゅんと来る。
どうしよう。わたし、ますますみっくんのことが好きになっちゃうよぉ。
そして……みっくんは成長し続けてるんだなと思った。
わたし、再来年に元に戻った時にこんな素敵な男の子になれるのかな?
それともわたしたち……元に戻らないのかな?
わたし、大好きな瑠璃ちゃんの身体で、大好きな瑠璃ちゃんの妻になるのかな……?
考えているうちに家に着く。
「おいで」
みっくんに誘われて、わたしはまた身体を重ねた。
*
六月になったばかりのある日、一人で学校から帰ると、光莉が家の前で待っていた。
「あれ? 光莉ちゃん、今日はみっくん少し帰りが遅くなるよ」
「知ってる。病院だって今朝言ってたし」
四月一日の怪我の後遺症は特に見られないけれど、念のためにと月に一度は病院で検査を受けていた。
でも……なら、どうして?
「ちょっと訊きたいことあるから、玄関に入れて」
玄関から二人で入り、戸を閉めると、光莉はいきなり言った。
「二人、元に戻ってないんだよね?」
「……!」
言葉に詰まる。それが雄弁な回答になってしまった。
「『瑠璃ちゃん』はよくやってたよ。今でもまだちょっと信じられないくらい。でも『お兄ちゃん』はねえ……」
「何が、よくなかったの?」
「あたしに対して優しすぎ、紳士的すぎ」
「あ」
「二年間『あたし』やってたくらいで、ああはならないでしょ。むしろあたしの気持ちがわかったからあたしに対してはもっと図々しくなった、くらいでなきゃおかしいよ」
ズバズバ言われるけど、そりゃそうだとしか思えない。瑠璃、どうしてそれでバレないと思ったの……?
四月四日に起きたことについて、光莉に説明する。
「戻れるチャンスはあるんだね。もしかしたらもう戻れないから黙ってるのかもと思ってたから、そこはよかった」
安堵の息をつく光莉に、頭を下げる。
「その、言わなくてごめん」
「まあ、隠してたことについてはどうこう言うつもりもないよ。おおかた、あたしだけ元に戻っちゃったのを気に病むかもとか気を遣ってくれたんでしょ?」
「そう、だけど……」
ここで話は終わりかなと思ったけど、光莉はまだ何か言いたそうにしている。
俺が気づくと同時、光莉は口を開いた。
「今の二人って、」
*
「バレちゃってたんだ」
その日の夜、瑠璃に来てもらった。光莉のことを話すと、瑠璃は恥ずかしそうに笑う。
「それで、光莉に指摘されたんだけど……」
きょとんとした瑠璃に言う。
「話し合おうよ」
「え」
「今の身体や生活でいいなと思うこと、嫌だなと思うこと、元に戻りたいと思うこと、元に戻った時の不安、全部」
――今の二人って、今の立場に落ち着いちゃってない? 何だか、戻れないことを前提にしてるように見える。いや、今の話だと、『戻らない』かな。
あの時、光莉はそう言った。
神様経由で戻れないなら、別の手段を探せばいいじゃない、と、そんな風に発破をかけるつもりでいたのだと、説明してくれた。
光莉の話を聞きながら、俺も思うことはあった。
「話して話して話して……それで結論が決まったら一番いいし、決められなくって運を天に任せるような決め方になったとしても、二人でそれを選んだことには納得ができると思う」
光莉の話と俺の思ったこと、それらを話していくうちに、瑠璃は深く肯いた。
「そう、だね。たくさん話そう」
*
ソファに並んで座りながら言う。
「瑠璃がそんな風に考えてるなんて、思わなかった」
晩ご飯を作りながら、食べながら、後片付けをしながら、色々な話をした。中で一番印象に残ったのは、二年間男として生きてきた自分が今さら『瑠璃』に戻るのは難しいんじゃないかという不安だった。
「俺だってこうなる二年前までは十三年間男だったけど、今は『瑠璃』の振りができているんだよ? それは元々の『瑠璃』の積み重ねた記憶があったからで……だから、もし今の瑠璃がそれを忘れちゃってるんだとしても、元に戻ったらこの記憶を参考にすれば大丈夫なんじゃないの?」
俺が言うと、瑠璃は意表を突かれたような顔をした。それがおかしくて、つい笑みがこぼれる。
「『みっくん』になりきり過ぎて、瑠璃ってば頭の回転が鈍くなっちゃった?」
「それは自虐が過ぎるんじゃない?」
瑠璃がじゃれつくように飛びついてきた。さらに笑いながら、揉み合いになる。
……それでどうしてこうなっちゃうんだろう。
いつの間にか俺たちは裸になってソファの上で絡み合っていた。
「真面目な話をしてたのに、結局これ?」
少し距離を置いて、股間を太ももで胸を手で隠して、わたしはついすねたような口ぶりになってしまう。
「元に戻るとしたら、入れ替わった状態でできるのはもう二年間を切っているんだよ。できるだけやっておかないと、もったいないと思わない?」
それは、確かに。
「そして元に戻らないとしたら、お互い今の身体に慣れるためにもこの行為は必要でしょ?」
そうかしら? と少し思ってしまうけれど。
どちらにしても、わたしたちは再来年の四月までやりまくることになるらしい。
でもこれ、やればやるほど気持ちよくって、やめられなくなって、最終的には……
まあ、いいか。俺たち二人でちゃんと選んだ結果なら、そうなっても構わない。
両手を広げ、愛しい人を迎え入れた。