魔法学院の生徒会長4――決着編(後)3 (Pixiv Fanbox)
Published:
2024-02-20 02:50:40
Imported:
2026-06
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少女がスタジアムの舞台に上がる。
と同時に、全身を魔力の鎧が包み込んだ。髪に似たオーロラのような色で、精緻な造りの、動きは妨げなさそうな全身鎧。
顔は隠さず、兜の代わりに大きなリングが額をぐるりと巻いて飾っている。もちろん無防備なわけではなく、そのリングが防護の役を果たしているのだろう。
手に生じたのは、取り回しを重視したものか短めの槍と盾。
神話における戦女神やヴァルキリー、あるいは近年の物語における戦闘美少女。そんなモチーフが広く好まれるのは、美しく整った女性美と武骨な戦闘装束とのアンバランスさ、さもなくば今の彼女のように、時に見せる奇跡的に絶妙な取り合わせの美、それらがあまりに魅力的だからなのだと思わずにいられない。
それに、動きやすく調節された鎧というものは全身に密着気味になっていて、つまりある意味性的でもある。
――綺麗だな。可愛いな。エロいな。
わたしの身体だったのに、『フタバ』はやはり今のわたしには美しい異性としか思えなかった。
こんな局面だというのに、雄の性欲がわたしを一瞬支配して、わたしの股間を強く刺激した。わたしのペニスは律儀に素直に反応し、たちまち勃起する。
入れ替わり直後だったら、そんな自分に無駄に動揺してしまったかもしれない。
でも二年以上この身体と付き合ってきたわたしは、思春期男子の性欲のままならなさをすでによく知っている。だから、平然とした表情を維持することも、もうすぐ始まる戦闘にきちんと意識を集中させることもできた。
『ええと……聞こえる?』
不意に、脳内に声がした。
まあ、驚くようなことではない。魔法による単純な念話だ。遠距離通話可能な高度なタイプではなく、一般技術で言えば糸電話のような簡単なもの。観客からこんなことをされて妨害にならないよう、フィールドには外からの干渉を防ぐ障壁も張られているのだし、つまり念話してくる相手はただ一人。
聞こえてきたのは、声変わり途中のような少年の声。中学二年の頃の『キヨヒコ』の声だった。
『はい。こうやって話す時は、あのしゃべり方にならないのですね』
『あれは、魔具が勝手にやっているだけだから』
念話中は魔具に干渉されないということなんだろうか。いや、わたしの心も勝手に読んでいたのだし、ただ放置しているだけか。
『あなたのあのしゃべり方、別に嫌いではありませんよ。元男の子がいかにも女っぽいしゃべり方をしていると想像すると、可愛いものがあります』
『き、君だって……』
わたしはかなり本音で話したのだが、挑発されたと感じたようだ。声音が気色ばむのがわかった。
『男の子っぽい振る舞い、意外と様になってるよね。お嬢様よりも男の子の方が似合ってるんじゃない?』
外から言われると、しかも事情を知る相手に言われると、なかなかしんどい言葉だ。わたしはどんどん女子から遠ざかっているのかもと改めて思う。
『元に戻るまでは、あなたの身体で無様もできませんからね』
でも、軽く流した。それは相手にもちゃんと伝わったようだ。
『本題に入るよ。勝てると思ってるの?』
言葉自体は見下すような、けれど語調には気遣うようなトーンすらあった。
『今までの相手と一緒にされたら困る。魔力密度については初耳だったし今の僕は使えていないけど、魔力制御に関しては入れ替わってからも研究してきた。君ほど一途ではなかったにせよ、百分の一くらいにはできるようになっている』
『わざわざ情報をありがとうございます。やってみなければわからない、とだけ言っておきましょう』
まだ伏せていることは少しある。
『秘密のおしゃべりはひとまずこの辺でいいのでは? 終わってから、たっぷり時間を取ればいいでしょう』
『それは、そうだけど……』
チャンネルは閉じず、けれど会話は打ち切った。
さて、状況を整理しよう。
わたしの魔力は851。『フタバ』の魔力は79万5000。
わたしは魔力制御技術を二百分の一まで突き詰めた。けれど相手も百分の一までできる。
そしてわたしの魔力密度の向上は百倍まで。相手は特に意識してない。
単純に整理すれば、わたしは相手との比較で二百倍ほど技術を高めているけれど、元々の魔力に千倍近くの差があったので、トータルでは五倍近くの能力差が依然として存在している。
きつい能力差ではある。けれど、手も足も出ないほどかけ離れた状態からはずいぶん距離が縮まったことも事実だ。
白金の軽装甲と短めの脇差を出現させ、構えた。すでに両者とも戦闘準備は整っている。
わたしはすぐさま仕掛けた。
刀で目の前の空間を切り開き、そこに飛び込む。空間転移魔法。
現れたのは、『フタバ』の背後、刀が首に届く距離!
以前『フタバ』が使っていた近距離での転移魔法にヒントを得た。あれ自体がかなりの離れ業だったが、これほどの至近距離は誰も想像できまい。試合開始直後、二人の立ち位置が明確なこの瞬間にしか使えない大技だ。
しかし。
わたしの振るった脇差は、トシアキを仕留めたようにはいかなかった。
槍を背後に突き出してくる。狙いは甘いが牽制としては充分だ。そしてわたしも相討ち覚悟で勝負に出るほど追い詰められてはいない。
わたしは刀を振るう方向を強引に転じて槍を制するしかなかった。距離を置いて仕切り直す。
「あなたなら、こういうこともやってくるかもと予想はしてました」
予想を上回ってやるつもりが、予想の範囲内にとどまっていた。これでは、仮に倒せていても相手の心を折るには至らなかったろう。だから、防がれて良かったのだと気持ちを切り替える。
作戦変更。もっとシビアな綱渡りが要求される勝ち筋になりそうだ。
「参ります」
虹色の魔力塊が現れる。『フタバ』固有のそれが出現するや、無数と表現してもよさそうな炎と氷と雷とに変化して、前後左右と上部からドーム状にわたしを押し包みつつ襲い掛かってきた。
一つ一つの威力はさほどでもない。でも魔力に乏しいわたしが何十発も食らっていいものではない。
魔力量の差に物を言わせた飽和攻撃。わたしが相手の立場でもそうする、最適解。
わたしは我武者羅に迎撃するしかない。まずは回避し、避けきれないものには刀を振るい、または小さな防具を駆使して受ける。
ただ、刀や防具で凌いでも無傷とも言えない。構成する魔力が少しずつ削られていくのだから。
微動だにしない『フタバ』を前に、わたしはひたすら動き回る。傍目には、避けられない破滅を前に、無駄に無様に滑稽に足掻いているように見えているだろう。
それでも、今はこうするしかなかった。