桜崎旭妃だったわたし(5) (Pixiv Fanbox)
Published:
2024-05-27 16:23:56
Imported:
2026-06
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匂いは雌馬から発せられていた。
より正確には、その股間。
わたしは四本足でそちらへ近づいていく。綱を引く人を、むしろ引きずるような勢いになった。
雌馬は尾を上げて、おしっこをしている。
わたしはその雌の股間に、鼻面を突っ込むようにした。
事前に水洗いでもされたのか、全体がてらてらと濡れて光る陰部。でもしっかりと漂ってくる匂い。いや、「臭い」と言いたくなる代物。
野生の生物の臭い。獣の臭い。馬の臭い。そしてもちろん、今したばかりの尿の臭い。排泄物の臭い。
なのにその中に混じっている何かが、わたしを惹きつけてやまない。
たぶんそれは、発情した雌馬の臭い。
雌馬に反応してしまう自分をおかしいと思う。わたしは本当は人間で、女の子なのに。女子大に通っている、おとなしい、セックスなんて経験のない処女なのに。
でも雌馬に反応してしまうのはしかたないとも考える。今のわたしは馬で、雄で、種付けを周囲から期待されている適齢期なのだから。
雄馬が雌馬に興奮するのはどうしようもない。心の中でか細く悲鳴を上げている人間の女の子の意識は、あえなく脇へ追いやられていた。
目の前に、雌馬の陰部がある。昨日まではわたしにも備わっていたもの。今は持ち合わせていなくて、代わりに大きなペニスが生えている。
こんなもの、生まれて初めて間近に見た。自分のものなんて鏡でも使わなければ見られないし、わたしはそういうものに興味津々だったわけではない。
それでもわたしは飽きることなく同じ姿勢を取り、臭いを嗅ぎ続ける。
陰部は開いたり閉じたりを繰り返していた。そのたびに臭いが強く立ち昇る。わたしの精神はぐらぐらと揺れてバランスを失いそうになっていく。
わたしは同族の異性に、性欲を駆り立てさせられている。巨大化していたペニスはさらに大きく硬くなっていくように感じた。
「エルフィングリーン、今日は違いますね。しっかりその気になっている」
「ええ、まるで別人になったようだ」
耳は周囲の人間の会話を聞き取る。
そう、確かに別人だ。言い返せるわけはないし、そちらへ向き直るわけでもなく、わたしは内心で小さく笑う。
「別『人』じゃないでしょう、『別物』ってとこじゃないですか?」
「それはごもっとも」
新たな会話が心に冷や水を浴びせる。今のわたしは人間でない。ひょっとすると、これから一生。
けれど、身体は心に縛られない。心が受けているショックなんて知らぬげに、交尾の次の段階へと進んでいった。
どうすればいいかは、やはり身体が知っていた。
後ろの二本足で立ち上がる。雌馬に背後から覆いかぶさるような姿勢になる。
人間なら両手に当たる二本の前足は、何の役にも立っていない。相手の、人で言えば腰から腋にかけての部位を、あえて言えば抱くようにしている。でもひづめがあるし内側へ大きく曲がりはしないから、抱く真似をしているようなもの。
本を読んだりペンで字を書いたり色々な道具や機械を操作できるはずの手が、今のわたしには存在しない。今していることから現実逃避気味に、そんなことを改めて考えてしまう。
もちろん、相手の顔は見えない。いや、見えても却って気持ちが萎えるだけだったかもしれないけれど。
腰を前へ突き出すと、大きく硬くなったペニスがずぶずぶと入り込んでいった。
――気持ちいい!!!
ペニス全体が、快感に包まれる。
ぬらぬらとして、柔らかくて滑らかで、でも強い抵抗もあって、それらすべての刺激がわたしにとっては初めての快楽ばかりで。そしてたぶん、『エルフィングリーンのペニス』にとっても初めての快感で。
――気持ちいい気持ちいい気持ちいい!!!!!
ほんの少し腰を動かすと呆気なく迸った。
わたしの中から、びっくりするほどの量の液体があふれ出して、雌馬の中にそそぎ込まれていくみたい。
早くも冷静になりつつある頭の片隅で考える。
――これが精液?! おしっこじゃなくて!?
身体のサイズが人間と馬では違うから、この感覚がどれほど正しいかはわからない。それでもやはりものすごい量だと思った。
係の人たちに引き離される。
「初成功、おめでとうございます」
「いえ、カズサグリフォンと相性がよかったおかげかと。受胎していればいいのですが」
「あれはうまくいった気がしますよ。こういう時の勘は当たるんです」
見物していた人間たちの会話から、わたしは自分の初めての交尾が終わったのだとようやく理解した。
突っ込んで、すぐに出た。
これが馬の交尾なのかと思った。
ただ、あまりに短くはあったけれど。
その瞬間の快感は、これまでの人生で感じたこともないほどの高みに達していた。
*
午後にもう一度種付けをした。
それで今日はお役ご免らしく、夕方の今は自由にさせられていた。
朝に感じた無闇に走りたくなる気持ちは、今は弱まっていた。わたしは囲いの中を歩き回り、時折生えている草を食べ、時折排泄をした。
まるっきり馬のように振る舞いながら、わたしは今日経験した雄馬としてのセックスの記憶を、何度となく反芻していた。
気持ちよかった。
それに尽きた。
人間から馬になってしまったこと。女から雄になってしまったこと。それらは今でもやはりショックだけれど……その埋め合わせとして、あの快感はかなりの価値があるように思えた。
そこまで考えて、ふと我に返る。大きく首を振る。
――わたし、今まで何を考えていたんだろう。
わたしは本来は人間の女で、元に戻りたくて、戻れる機会があるなら決して逃してはいけなくて。
多賀雄さんが今日の話を聞いてわたしの様子を見に来たら、どうにかしてわたしがわたしであることを伝えないと。
たとえ種付けに向かう途中であっても。
なのにそう仮定した瞬間、その場合は種付けが終わってからでもいいのではと、ほんの少し考えてしまった。
その晩は、疲れが限界に達した。
四本の足を投げ出すようにして、横になる。
今夜はなぜかスムーズにできた。