桜崎旭妃だったわたし(6) (Pixiv Fanbox)
Published:
2024-05-31 14:44:46
Imported:
2026-06
Content
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馬になって二度目の朝を、わたしは何も取り乱すことなく迎えた。
四本足で馬房の中を歩き、水を飲み草を食べる。馬房の一角で排泄を済ませる。
人間だった時とは何もかも違う、でも馬としては理にかなった動き。人間の記憶は違和感を訴え続けるけれど、身体はそんな記憶を些細なこととしているみたい。
そして今日も、種付け場へ向かう。
――わたし、昨日二頭の馬とセックスしたんだ。何人も見ている中でペニスを硬くさせて雌馬のアソコに入れて、たちまち射精して、雌馬を妊娠させたかもしれなくて、わたし、父親になったかもしれないんだ。
不意に意識する。人間の二十歳の女子としての心は、そうやって脳内で言語化すると恥ずかしさに悶えそうになる。
しかし六歳の雄馬の身体は、足取り一つ乱さない。今日これから新たな三頭目や四頭目と交わることを楽しみにするように、むしろ歩調は速くなる。
そんな身体に引きずられるように、心も鎮まってしまうのを感じた。
今日は、昨日よりも落ち着いて周囲を観察できた。
例えば雌馬。首の辺りが紐のようなもので固定され、後ろ足にはカバーがかけられている。交尾の時に暴れないようにということか。種付けの邪魔にならないようにという意味なのか、尻尾は根本近くをテープで巻かれて束ねられていた。
さらに雌馬はそこから、前足の片方を曲げられて固定された。あれなら交尾の最中に動くのはなおのこと難しそうだ。
今回ももちろん周囲に人がいる。だけど衆人環視という意識は生まれなかった。
それは、わたしが今は馬だからだろうか。多賀雄さんとセックスする時に――結局わたしはしないままこんなことになってしまったけど――、部屋の隅にある鳥籠からカナリアが見ていても水槽から金魚が見ていても、それはたぶん気にならなかったろう。
わたしは悠々と、生涯で三度目の交尾を終えた。
次は午後だろうかと思っていると、人々が言い合う声が聞こえてきた。
「こっちもなるべく早く終わらせたいんですよ。一昨日が最善の日のはずでしたけど、今日だってまだ妊娠には問題ない」
「なら、こちらが先に今からさせてもらえませんか? 三度目になると精子が薄くなりそうなのが気になります」
「そうですね。では、前倒しで昼前に二回目を済ませてしまいましょう。三回目はエルフィングリーン次第ではありますが、午後にできそうならその時にということで」
「可能なら、うちも四度目にお願いします」
本日二度目の種付け作業を進めていきながら考える。
どうも、一昨日種付けに失敗した雌馬に種付けさせてもらえないかということらしい。なので今日は、種付けを三度することになりそうだ。さっきの会話だと、もしかしたらさらにもう一度。
でも、一日でそんなに多くの種付けなんて、やっていいのだろうか?
疑問には思うけど、午後に現れた彼らはわたしを見て、肯き合う。その理由はわたしにも察しがついた。
わたし自身は目にできないが、わたしの股間では今日すでに二回精液を放出したペニスが、新たな雌馬に敏感に反応してか、三度目の交尾を期待してか、雄々しくそそり立っていたのだ。その勃起の感覚は、もちろんはっきり自覚できた。
結局その日は、全部で四頭に種付けした。
その過程で、少し気づいたことがあった。
今日の四頭と交尾する時、わたしはペニスの勃起が昨日の二頭――特に最初のカズサグリフォン――より弱まっているのを感じた。
三頭目や四頭目については、射精回数によるものとも考えられる。けれど、一晩寝て回復したはずの一頭目すらそうだったと、わたしは股間の若干の変化を感じていた。
わたし自身が、雄馬として初の勃起と射精を経験した前日の衝撃を過大視している可能性はある。けれどもう一つの仮説があった。
ひょっとするとこの身体は、人間でいうところの面食いなのではないだろうか。人間のように顔の美醜が大きく関わることはなくても、体臭とかそれに伴うフェロモンとか、そういうものに敏感に反応するのではないか。
元のエルフィングリーンは、その基準に厳格だったため、多くの雌馬をはねのけていた。けれどわたしはこの身体に慣れていなくて、種付けせねばならないという意識もあって、その基準なんてものを持たずに交尾をどんどん始めてしまった。
……まあ、仮にこの仮説が当たっているとして、わたしの今後が変わるわけではない。
元の馬のように面食いになるなんて選択肢は取らないまま、わたしはどんな雌馬を連れて来られても種付けに励むことになるだろう。
*
その翌日も、翌々日も、わたしは多めに種付けをおこなった。
エルフェングリーンが種付けに乗り気になったという情報が知れ渡り、以前来たけれど空振りに終わった牧場が再び雌馬を送り込んだりしてきたという。
全部で何頭と交わったのか、よく覚えていない。両日とも、五頭を下回ってはいなかったと思う。
けれどわたしは、それぞれ最後の馬まで勃起を衰えさせることはなかった。元のエルフィングリーンなら拒んだであろう相手にも、わたしは硬くなったペニスを突き入れて盛大に精液を噴出した。
「こいつはとんだ絶倫だな。今まではむっつりスケベだったのか?」
厩務員の誰かが、笑ってわたしのたてがみを撫でた。
あの占い師が言っていた「幸せだけど不幸なこと」とは、この現状を指していたのだろうか。
わたしは交尾の快感に病みつきになっていた。
発情した雌に刺激を受け、ペニスを剛直させる。それを雌の中に突き入れて、すぐさま精子を放出する。その瞬間、人間の女だった時には経験したことのない快楽にわたしは包まれる。
しかもこの行為は誰にも咎められない。それどころか大いに歓迎される。
さらに、射精を繰り返すたびに、わたしの中に甦る記憶がある。この馬の身体が覚えていた事柄が、性的な快感をきっかけにして活性化するようだった。
種付けが合計で十回を超えたくらいから、もうわたしは馬として振る舞うのに何の違和感も覚えなくなっていた。
草を食べることも、その辺で排泄することも、もはや抵抗なんてまったくない。
人間だった時のことを忘れてしまったわけではない。けれどそれは、前世の記憶みたいに遠いものになりつつあった。
わたしはこのまま、種馬として生きていくのだろうか。馬の繁殖期は半年ほどと聞いたが、その間、毎日何頭もの雌馬と交尾して、子馬を生ませ、残りの半年は草を食べてのん気に暮らす、そんなある意味幸福な一生を送るのだろうか。
……だけど、もう人間として生きられないとしたら、それは間違いなく不幸だった。
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その翌日、わたしを種付け場へ引きながら、厩務員たちが話していた。
「お嬢さんの具合はどうなんですか? ここへ来た翌日に倒れたって聞きましたけど」
「ある程度は回復したみたいだな。で、看病してた若旦那とすっかりお熱になったらしくて、昼日中から部屋でギッコンバッタンやってるようだ。用があって近くを通った奴がぼやいてたよ」
頭の中で久しぶりに日付を数え……今日、『旭妃』は東京へ帰る予定だと気がついた。