桜崎旭妃だったわたし(8) (Pixiv Fanbox)
Published:
2024-06-30 00:43:45
Imported:
2026-06
Content
*
一晩かけて、わたしたちは自分たちの身に起こったことを正確に把握し、これからどうすべきかを話し合った。
翌日、わたしたちは『旭妃』の両親に連絡を取った。二人はすぐさま北海道に飛んできた。
「俺の身体になってしまった旭妃さんですが、俺の知識などは当然ありません。なので、俺が隣でサポートしなければならないと思います。元に戻るまで、大学は休学ということにさせてください」
多賀雄さんが『旭妃』の姿で頭を下げた。
両親も事情を理解すると、わたしたちの出した結論には同意するしかなかったが、やはりショックは隠しようもない。
「まさか娘が、義理の息子になるなんて……」
父が嘆くのも、もっともではあった。
*
その夜、わたしと多賀雄さんは『旭妃』の部屋にいた。
より正確には、わたしが多賀雄さんのいる部屋へと押し掛けた。
「さて」
「は、はい」
わたしが口を開くと、『わたし』の姿で多賀雄さんは身を縮こまらせる。
昨日から今日にかけては、何が起きたかを互いに理解するのに手いっぱいだった。今日の昼間は今後の生活についてわたしの両親と話し合うだけで過ぎていった。
わたしがエルフィングリーンになってから昨日こうなるまでの数日間について、わたしには思うところが色々ある。多賀雄さんの今の態度も、それをわかっていることを示していた。
「わたしが馬になっている間、あなたは『わたし』になった馬とずいぶん楽しんでいたみたいですね。わたしを世話していた厩務員さんたちの間でも噂になっていました」
「いゃ、は、はい……」
とっさに否定しようとしたようだけど、証拠を出されると力なく肯定する。
「わたしが四本足で、裸で、草を食べている間、あなたは人間になったばかりで何もわかってないような馬を抱いた……犯したわけですね。まさか同意なんて取れてなかったでしょう?」
「はい……」
「わたしがこのまま一生馬として生きていくのかと不安になっていた間、あなたは元馬の女の子と一生楽しくやっていくつもりでいた」
「はい……」
相手を追い詰めていく。これまでにも、わたしと多賀雄さんの間では時々あったこと。ただし今まではこれほど深刻な話題でこうなったことはない。
「まあ、しかたないですね」
「へ?」
「入れ替わりなんて、第三者が簡単に気づけるものではないですしね。わたしの場合は予言もあったから、様子が変になってもそのせいかと済まされてしまったのは当たり前のことに思えます。馬になったわたしにしても、自分が旭妃だと信じてもらうために死に物狂いの努力をしていたとは言えませんし」
ぽかんとしている多賀雄さんに、さらに言っていく。
「それに……わたし、種馬の仕事を楽しんでもいたんです」
「仕事、って」
「種付けに決まってるじゃないですか」
わたしは多賀雄さんに詰め寄ると、抱きしめる。何か感じたのか離れようとするが、華奢な『わたし』では牧場の跡取り息子である『多賀雄』から簡単には逃れられない。
「どうしてわたし、こうなる前にあんなにセックスを怖がっていたんでしょうね。雌馬の臭いに反応してペニスが勃起していく感覚はたまりませんし、硬くなったそれを実際に中へぶち込むのも気持ちいいですし、精液があふれんばかりに噴き出すあの感覚と言ったらもう最高という言葉でも足りないくらいです」
多賀雄さんを片腕で強く抱き、もう片腕であちこちを撫でていく。前足を使えるのは便利だなと、元が馬だったみたいな考え方をしてしまう。
「人間の身体は馬ほど大きくはないですけど、代わりに色々楽しめそうですよね。こうして外から見ると、『わたし』って自分で思っていた以上に可愛いですし」
「あ、旭妃さん……」
「いいですよね? わたし、まだ種馬の感覚が抜けきってなくて、だからこうなっちゃうのはしかたないんです」
相手をじっと見つめると、力が抜けたようにこくんと肯いた。
多賀雄さんはシャワーを浴びたがったけど、わたしは裸になるとそのまま取り掛かった。種付けは直前にシャワーなんてしないし。
「やっぱり人間に戻ると感覚が変わるんですかね。雌馬じゃないけれど、『わたし』のことはすごく魅力的です」
言いながら勃起したペニスを『彼女』の目の前に突き出してみると、「ひっ」と可愛い悲鳴が上がる。
人間に戻る直前、わたしは種付けへの未練を抱えてしまっていた。それが人間は人間でも男の身体に入り込んでしまった理由なのだろうか。でも今のところは、ありがたいという気持ちの方が強い。
もう一度あの怪奇現象が起こらずこのまま戻れなかったら、わたしは『わたし』として生きていけないのに。
でも、人間ではある。『わたし』は近くにいる。こうして種付けもできる。ならば構わないのではとも思ってしまう。
エルフィングリーンだった時、種馬として生きる一生を心のどこかで受け入れそうになっていたように。
雌馬は最初から発情しているけれど、人間は違う。だからあれこれ工夫する。そのうち、「まだ」や「待って」という言葉は消えて、求める言葉こそ発されないものの、仕草や吐息がねだり始める。
わたしは、『わたし』にペニスを突き入れた。
すぐに射精しない自分の身体を不思議に思ってしまいながらも、人間だからしかたないと感覚を修正する。膣の内側でペニスをピストン運動させていくうち、雌の愛らしい声が上がる。
「やぁんっ、おれ……おとこなのにぃっ」
「今は可愛い女の子です、よっ」
わたしも冷静さなんて保てなくなりつつある。
身体の中からこみ上げてくる。これが人間の精液。
「わたしの子、産んでくださいっ!!」
「あああああんっっっ!!!」
ペニスの中を駆け抜けたものが、先端から力強く噴き出す。馬ほどの量ではないけれど、それでも人間の雌の子宮には充分届いただろうと感じられた。
* * *
それ以降、わたしと多賀雄さんは元に戻れていない。
入れ替わりの三ヶ月後、『旭妃』は大学を中退した。
半年後にわたしたちは結婚した。ウエディングドレスに身を包んだ『旭妃』のお腹は膨らみ始めていた。
二十歳になるまで『桜崎旭妃』として身に着けてきた振る舞いや知識、良いと思ってきたもの、好きなもの……それらは『多賀雄』になって、すべて遠いものになった。
生産牧場の跡取り息子として、事情など知る由もない『両親』や取引先と関わっていく。女子大の二年生という意識の強かった最初の頃は、特につらかった。
それでも、『旭妃』になった多賀雄さんがフォローしてくれて、わたしはどうにか新しい人生を送っている。
ちなみに、あの五日間でわたしが『エルフェングリーン』として種付けした、カズサグリフォンら十八頭の雌馬は、全員しっかり妊娠し出産した。ついでに言うと、カズサドラゴンも。