幼なじみが俺で、俺が俺の妹で(21)『『瑠璃』の十四歳の誕生日』 (Pixiv Fanbox)
Published:
2024-11-30 00:43:10
Imported:
2026-06
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「どうしよう……」
「どうしたの? 光莉ちゃん」
朝の教室で席に着いて授業の始まりを待ちながらも、つい声に出してしまっていたらしい。二学期の席替えで隣になった清美ちゃんに訊ねられた。
ごまかすのも気まずいし、何か参考になることを聞けるかもしれない。俺は思いっきりぼかしながら説明する。
「大切な人の誕生日が今日なんだけど、どんなプレゼントにすればいいのかわかんなくって」
今日は瑠璃の誕生日だった。『瑠璃』は東京にいるわけだけど、本当の瑠璃は『あたしのお兄ちゃん』として近くにいる。
六月に瑠璃が俺にプレゼントしてくれたように、今日は俺から瑠璃にプレゼントしたい。部屋のカレンダーに印をつけてずっと意識はしてきたけれど、肝心のプレゼントについてはどうすればいいかわからないまま当日になってしまったのだった。
「そうなんだ。あれ? でもお兄さんの誕生日って六月だったよね?」
「あ、あたしそんなブラコンじゃないし」
「そう?」
素で驚かれてしまう。いや、そりゃ、同じ中学に通っているんだし、部活まで同じでしかも二人っきりだし、喧嘩とかしている雰囲気もないんだから、仲良しには思われてるだろうなとは予想していたけれど。
以前『俺』な瑠璃を見てかっこいいなんて言っていた清美ちゃんにこう認識されているというのは、他の女子への牽制になるから悪いことではないだろうけれど、光莉のイメージについてはちょっと問題かも。元に戻った時に光莉に何と言われるか怖い。
「きょ、今日はお兄ちゃんは関係なくて――」
続けるために事実関係をぼかそうとして、俺はほとんど何も言えないことに今さらながら気づく。
プレゼントは渡せるのか渡せないからメッセージを工夫するのか? ――瑠璃は本当は遠くにいるはずだけど実際にはすごく近くにいて。
相手は女性か男性か? ――瑠璃は本当は女の子だけど今は男で。
相手は俺にとってどんな存在か? ――瑠璃は本当は俺が恋している女の子だけど今はあたしのお兄ちゃんで。
「ご、ごめんね。やっぱり自分で考えてみる」
「うん、わかった。困った時は話してね」
清美ちゃんの物わかりが良くて助かった。
*
授業を受けながら、今日は一日瑠璃のことを考えてばかりだった。
どんなプレゼントを贈ればいいのか考えることは、贈る相手のことを真剣に考えることでもある。相手の好みや性格、それだけでなく、俺たちの場合は今の立場まで踏まえないといけない。
そうやっているうちに、気づいてしまう。
俺、瑠璃のことを思い浮かべる時、『俺』の身体の瑠璃を想像してしまうことの方が多くなった。最近けっこう背が伸びてきて、坊主頭は夏休みの間にまあまあ髪が伸びたけどそれでも前よりぐっと男っぽい印象が増している、『俺』。
それは、たぶんしかたない。今の瑠璃は『俺』だし、こうなってしまう前とは違ってこの半年間兄妹として日々ずっと一緒にいるし、きれいな女の子だった瑠璃よりも、今の姿の瑠璃に上書きされていてもしょうがない。
問題は、なのに思い浮かべた『俺』の瑠璃を嫌だと思わないこと……それどころか、胸をドキドキさせてしまうこと。
入れ替わりって不思議だ。こうなる前、俺は普通の男子で、瑠璃は普通の女子だったはずなのに。
俺、この入れ替わりの間は、女の子として男の子の瑠璃のことが好きになっていってるんだ。今すでにそうなりつつあるし、この先の一年半でもっと。
もちろんそんなこと、言えるわけないけれど。
*
瑠璃との風呂は、いつも通りに終えた。
この前、少し気合を入れて射精させたせいでもある。同じことをやっても芸がなさすぎる。
そして、風呂を出てから言った。
「誕生日おめでとう、瑠璃」
「あ……ありがとう、みっくん」
「なんだよ、てっきり俺が忘れてたとでも思ったのか?」
二人で居間に戻り、おしゃべりする。
「プレゼントなんだけど、うまいもの思いつかなかった。ごめん」
まず素直に謝る。俺の誕生日の時に、何日も前から考えてうちの親に根回ししていた瑠璃とは全然違うのが情けない。
「気にしなくていいのに」
瑠璃は柔らかく微笑んだ。『俺』の顔だけど、たぶん俺はあまり見せないような笑顔。ひそかに俺は胸をときめかせてしまう。
「誕生日おめでとうって、みっくんに当日言ってもらえたのがすごくうれしいよ。本当に、これだけで充分なくらい」
「あ……ごめんな」
元々俺は自分のそれも忘れかねないくらい誕生日に重きを置いていなくて。しかも最近は昔のように気軽に話せなくなって、誕生日だと偶然気づいても、つい声を掛けるのをためらって。そんな状態が何年続いていただろう。
「だから、謝らなくていいの」
そう言うと、瑠璃は俺を抱きしめて頭を撫でた。
もしかしたら瑠璃はおふざけのつもりだったのかもしれない。入れ替わった直後なら、こんなことをされた俺はすぐに暴れて空気が変わっていただろう。
なのに今の俺は、満更でもない気分に陥って、しばらくなすがままにされていた。
「……みっくん?」
不思議そうな瑠璃の声に、我に返る。
「ふ、ふざけんなよ」
もがいて抜け出す。顔が熱くて、赤くなってないか不安になる。
ごまかすように言い募った。
「瑠璃って乙女座なんだよな」
十二星座については、親の持ってた古い漫画を読んだこともあり、一応知っている。
「女の子だった時は似合ってたけど、今はなあ」
つい憎まれ口を叩いてしまった。言ってしまってから、言いすぎなかったか傷つけてしまわなかったか、不安になってしまう。
「それを言ったら今のわたしは『光彦』だよ。双子座の男の子」
瑠璃は平然と返してくれて、ほっとする。
「そうだよな……今の瑠璃は、あたしのお兄ちゃんだもんね」
おどけて、今度は自分から瑠璃に抱きついた。たくましくなりつつある男の身体が、俺の小さい女の身体を受け止める。
「お兄ちゃん、大好きだよ♪」
妹らしさをすごく強めて、女が男に向ける恋心は見えないようにした。