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   ◆


 ある日、日差しの差し込む研究室にて。


「さて、質問してもいいですかね。君の開発したバイオミメティクス、生物模倣技術のグローブはヤモリを参考にしてると資料にありますが……なんで四本指なんです? ヤモリは両手足の指が五本だし、百歩譲ってイモリだとしても四本指なのは前足だけでしょう」


 男の質問に対し、白衣の小柄な少女はおっとりとした口調で答える。


「実用性を重視した結果ですね~。忠実に五本指で再現すると、グローブ全体が大きくなりすぎて動かしづらいんです。小型化しながらも接触面との密着性を高められるような改良をすれば五本指での再現も可能でしょうけど、外見の再現を目的に実用性を高めていくのは合理性を蔑ろにしたロマン偏重な発想だというのが個人的な見解です~」

「うんうん、君のその意見は尊重します。では本題に入ろうか」


 ギシッとキャスター付きの中古の椅子がきしむ。男のかけた眼鏡が怪しげに輝く。瞳に好奇心という眼光を宿らせながら、


「──なぜなくなってるんですかねェー?」

「ごべんなざ~い!! つい研究に夢中になってラボの使用時間を過ぎてしまいました~!! でもしっかり施錠して退出したのは確かなんです!! 確かにあの時まではあったんですけど、今日見てみたらなくなってたんですってば~!!」


 白衣の少女は青年の迫力に怯え、なきべそをかきながら言う。

 しかしそんなの知らん顔で、相対する青年は顎に手を当てながら喋りだす。


「鍵のかかった部屋から物が紛失している。しかもほぼ密室。あの天窓には鍵がかかっていないが、仮にグローブとブーツを使って窓から脱出したとしても【どうやって部屋に入ってきたのか】の理屈がつかない。窓から侵入するとしたらグローブを使って学校の壁面を登攀しないといけませんし、因果が逆転してしまいます。……不思議なミステリーですねェ。しかも見たんでしょ? 幽霊」

「あまりに非科学的ですけど見たんですってば〜、青白い女の裸のような姿を!!」

「仮に泥棒だとして、裸で侵入するなんて非合理的なことをしますかねェ……」

「どうしましょ〜……非合理的な変態でもその泥棒が実在するとしたら、この研究室のことがバレたらまずいですし閉鎖でしょうか?」


 男はわざとらしく眼鏡の真ん中のブリッジに指を当てて直す。

「いや、このまま運用しますよ。仮に侵入者が何かしらのトリックで君の発明品を盗んだのだとしたら、またここに戻ってくる可能性だってあります。我々の発明品を実用テストしてくれるのであればいいサンプルケースとなりますよ」

「でもデータを収集できなければただの貸しっぱなしですよ~?」

「今すぐでなくても、いずれ侵入者、いえ犯人が特定できた時にまとめてレビューしてもらえれば。地味に聞き取りして探し出すのもいいんですけど、我々は探偵ではなくて研究者。足を使わずに頭を使ってみるのも悪くありません」


 男は椅子から立ち上がる。少女とは違ってひょろ長い背丈に合った白衣の裾が翻る。


「そういえばカメレオンの指の数って四本ですよね? 仮に犯人が姿を隠す擬態をできるのであれば、4本指のバイオミメティクスグローブもお似合いではないでしょうか?」


 白衣の少女の答えを待たずに、白衣の青年は入り口のハッチへと早足で歩く。学生らしくない長髪を揺らし、丸い眼鏡の奥には怪しげな笑みを浮かべながら言う。


「なぁに、すぐ捕まえてみせますよ。この科学部部長、丸井出鐘夫の手にかかればね」




 断章終わり。

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Comments

takatka

急に面白い展開になってきましたね笑

ナタ

こちらは「入れるか迷ったけど結局入れなかった断章」となります。こちらがストーリーに乗るか乗らないかパラレルになるかは今後次第…… 時系列的にも本編よりちょいとスパンが空くとかそんな感じに。白衣の小柄少女がどういうデザインか置いときたかった。

ナタ

楽しんで頂けたならよかった! 本編の補完をしたいけど今はまだその時期じゃない、的なテキストと捉えていただければありがたい。