Home Creators Posts Import Register Favorites Logout
haven't archived this post yet. have a subscription? use the importer!

Content

 今回の二次創作の題材は、リュー・リオンという、ライトノベル「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」に出てくるヒロインです。


 冬アニメで思いっきりメインヒロインしていましたね。

 おかげで妄想および創作意欲が……捗りすぎて、いつの間にかめちゃくちゃ長くなっちゃった。


 大作です。


 pixiv上の絵的にはこんな感じのインモラルな雰囲気を頭にイメージしながら執筆しましたぞ。




 あと、定型文にはなりますが、いちおう注意書き。


 この小説は、ライトノベル「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」の二次創作作品です。

 実在する人物、団体、および原作者様とは一切関係ありません。


 本作品に関して版権元に問い合わせる行為はおやめください。

 複製・転載・中傷・アップロードはおやめください。


 あくまで二次創作として良識を弁えつつ、「ベルリューだひゃっはー!!」と楽しめる方のみ、読んでいただければ幸いです。


 ベルリューだひゃっはー!!











泡沫の一




 焚き火のまばゆい炎が、周囲を赤色に染め上げる。


 炎のすぐそばには、蒼の燐光を放つ泉が、ダンジョンの岩壁や岩床に神秘的な雰囲気を彩っていた。


 パチパチと炎が火花を散らす僅かな音しか鳴らない静寂の中で、二人の男女が疲弊した身体を休めている。


 一つの外套を二人で共有して、身を寄せ合って、くっついて。


 二人羽織に近い体勢で、女は男の胸に背中を委ねる。




 座りながら、すっぽりと、男に片腕だけで抱かれる形で、人肌を重ね合って暖かさを共有しあう。




 そんな、一時の安らぎを得る時間の中。


 女は、リュー・リオンは、男の腕の中で、






(余計なことを考えてはいけない。余計なことを考えてはいけない……!)


 その空色の瞳を、ふんだんな緊張と焦りに揺らしていた。






 ドキドキという胸の高鳴りが、まったく収まってくれない。


 体が熱いのは、炎で体を温めているから、だけではない。


 肌を委ねる相手が別人だったら、こうまで危うい事態になってない――というか、別の男に体を委ねるなんてリューは考えたくもない。




 現状、リューとその同行者の男が所有する服は、二人羽織の役目を果たす外套を除いて、すべて濡れていた。


 服を乾かすまでの間、人肌で身体を温め合うのは、生き延びることを見据えるなら正しい判断だ。




 ここはダンジョンの三十七階層における、唯一の安全地帯。今いる楽園を出れば、待ち受けるのは凶悪なモンスター達との常在戦場。


 体温を失えば、疲れた今の体では致命的な事態になりかねない。


 だから、身を寄せ合って暖を取るのは、生存戦略の上では正しい。


 正しい、のだが――






(…………ベル)


 リューにとって問題なのは、肌を委ねている相手が異性であること。


 それもただの異性でなく――ベル・クラネルという、尊敬できるヒューマンであること。






 いや、尊敬どころか。


 今、その好意はリュー自身にも抑えの効かない、未知の領域に達しつつある。


 背後のベルの顔をまともに見られない。






(まずい……思い、出してしまう)


 心を無にするのが限界に来て、リューの頭に記憶がよぎる。


 この安全地帯に来る前、ベルに救われたときの情景。




 ベルだけでも逃がそうと、身勝手な自己犠牲に走った自分を、必死な顔して助けに来てくれたときの、あの勇姿。


 辛くもモンスターの大群を脱した後も、自分を捨て置けと、死なせてと、自罰的な我儘を言った自分を諭してくれたときの、優しい背中。




 想い始めたら、もう駄目だ。切ない気持ちが、湯水のように。


 初めて手を握られた時、過失で水浴びを覗かれた時。


 共に戦った時、窮地を救った時、救われた時、語り合った時。


 連鎖的に、加速的に、輝かしい記憶が想起されて。






(~~~~~~~~~~っっ……!)


 思い出の全てが、愛おしさという、甘くて熱い情念に結びつく。


 燃え盛る。胸が熱い。


 感情の抑えが効かない。






 羞恥から逃れるように、リューはぎゅっと目を瞑った。


 考えてはいけない事まで考えてしまいそうで。




 だけど、意識を邪念から逸らすための雑談は、もうあらかたベルと話してしまった。


 話題のネタが尽きてしまっている。




 アストレア・ファミリアの事、ダンジョンから脱出した後の事、シルの事、ミア母さんの事、ベルのファミリアの事。


 一度話した話題をまた蒸し返すのは躊躇われる。


 かといって、なにもせずじっとしている事もできなくて――




「「――――」」


 その停滞に、魔が入り込む余地が存在した。




 もぞりと、無意識から腰を動かす。




「「――――あ」」




 リューは、腰の下あたりになにか固いものが擦られた感触に。


 ベルは、股間になにか柔いものが押し当てられた感触に。


 二人同時に、間の抜けた反応を口にした。




 完全に同時だった。


 リューとベルは、両者とも同時に腰を動かした。




 片方だけが性衝動に負けていたのなら、ここで終わっていただろう。


 もう片方に邪な欲を咎められるか、あるいは己を恥じて自粛するか。




 しかし、そうはならなかった。


 リューとベルは同時に肌を擦り合った。


 まったく同時に、お互いに、「貴方が欲しい」と暗に示してしまった。




 時折、リューは戦闘において、ベルと連携を行った際、ものすごく上手くいった実感に舌を巻いたことがある。


 言葉にせずとも相方の意図がわかり、互いが互いを補い合える。


 そんな、ある種の官能すら伴う一体感が――よりにもよって、今のタイミングで。




「「…………」」


 互いに無言のまま。


 今度は、先程より露骨に体を重ね合う。




 リューはベルの肩に頭を委ね、彼の胸に背中を預けきる。


 ベルはリューの体重を受け止め、片手から両手での抱擁に移行する。


 重なり合う人肌の面積が段違いに広がり、共有するぬくもりも増える――必要以上に。






(だめだ。……これは、いけない)


 正面ではなく、背面からとはいえ。


 抱き合うも同然の密着に、リューは顔を真っ赤にした。






(突き放さないと。それ以上はいけない、やめるべきだと)


 互いに体温を刻み合う行為に、未練を抱くまいと必死になる。






(邪な想いを抱いてはいけないと、最初に言い出したのは私なのに)


 両腕で抱きしめられる多幸感を、手放したくない自分に懊悩する。






(今なら、まだ引き返せる。はやく、突き放さないと)


 誰よりも彼と繋がっている愛おしさが、もっと欲しくてたまらない。






 胸いっぱいに膨れ上がる切ない欲求をリューは必死に押し殺しながら、首を横に向けた。


 面と向かってベルと話すためだ。




 奇しくもこのとき、ベルもその深紅の瞳をリューの横顔に向けていて。


 リューが横を向いた事により、正面から互いの目線がかち合った。


 しばらくぶりに、リューはベルの顔を間近で見た。






「…………~っ」


 ベルは、緊張していた。


 白髪を揺らして、見開いた深紅の瞳を震わせながら、羞恥で顔を真っ赤にしていた。




 それでも目を逸らすことだけは絶対にしないとばかりに、背伸びした頑なさも纏いながら。


 ベルはリューを、見つめ続けていた。






(…………貴方という人は…………なんて…………)


 なんて頼もしい人に成長したんだ、とリューは涙が出そうになる。






 鍛錬を積んだ引き締まった肉体、修羅場を潜った強靭な精神。だけど、無垢な顔立ちには清らかな真摯さが変わらず残っている。


 駆け出しの頃から色褪せない優しい性格はそのままに、熟達した冒険者としての気風までベルは兼ね備えてしまった。


 あまりにも、あまりにも。


 リュー・リオンという女にとって、ベル・クラネルという男は魅力的すぎた。






「リュー、さん」


 おぼつかない声で名前を呼ばれる。


 少年の唇にその響きを紡がれるだけで心が躍る。






「ベル」


 できるだけの愛おしさを込めて、名前を返す。


 びくりと、肩を震わせるベルのうぶな反応が、たまらなく嬉しい。






 間近で見つめ合う顔の距離が、さらに近づいていく。


 熱烈に見つめ合いながら、互いに瞳を潤ませながら。


 唇と唇の距離が縮まっていく。


 抗いがたい強制力のようなものに、呑まれる。




(向こうからやめて欲しいと言われたら、やめる)


 そんな都合のいい予防線を頭の中で張りながら。




 熱に浮かされた心地の中、至近に感じる異性の存在感を受け入れる。


 どちらも止まらない。


 愛おしさが止まらない。




 やがて、唇と唇は指先にも満たない距離に達し、そこからも両者は顔を近づけるのを止めることなく。


 ほんの少し、心にチクリと切ない痛みを覚えながら、それでもリューは目を閉じた。


 唇が重なる。






「「んっ…………」」






 ベル。ベル。


 ベル……!!


 ――――――――


 ――――


 ――






現実の一






「うわあああっ!!?」




 羞恥の叫びと共に、弾かれたように上体を起こす。


 荒い呼吸を繰り返しながら、リューは呆然と周囲を見回した。




 とりあえず、ここはダンジョンではない。


 自分の寝ている清潔なベッド、月明かりを反射する床、窓から見える無限の星々。


 バベルの治療施設の一室。




(そうだ……脱出、できたのだった)




 危機的状況からは、とっくの昔に脱した後だ。


 リューと、別室にいるベルは、このバベルの治療施設で入院中の身であり、今はリューが意識を取り戻してから二日目にあたる。




 頭の中で状況が整理され、リューは現実を認識してホッと息を吐いたが、安堵もつかの間、




「わ、私は……なんて夢を~ッ!」




 両手で頬を押さえ、首を振り、リューはこっ恥ずかしさにのたうち回った。




 深層の闘技場を辛くも脱した後、ベルに救われたリューは、二人で安全地帯を見つけて休憩を取った。


 その際、水場で濡れた衣服が乾くまで、リューがベルと人肌を重ねて暖めあったのは、確かに事実として起きた過去だ。




 問題は、その部分が夢で脚色されていたこと。




「ベ、ベルと、クラネルさんと、わ、私が、口づ、~~~~~ッ」


 気恥ずかしさから、リューは呟きを中断した。




 言うまでもないが、現実でリューとベルはキスなんてしていない。


 ベルと人肌で暖め合う直前、リューはベルと取り決めを交わした。


 邪な想いを抱いてはいけない、と。


 その約束に従い、あくまでダンジョン深層から脱出する方策の一環として、リューはベルと肌を重ね合った。




 ただ、くっついただけだ。


 性的な意味など無い。


 無いったら無い。


 あってたまるか、そんなもの。






「大体、あんな展開、ありえない。本当に、ありえる筈が無い……」


 ぶつぶつと呟き、自分に言い聞かせるように「ありえない」を連呼する。






 リューは、自分は女としての魅力に欠けると思いこんでいる。


 一応エルフとして、一定以上の水準の美貌に恵まれていると思ってはいるが、同時にこうも思う。


 比較対象が悪すぎる、と。






 ベル・クラネルはその素直な人柄ゆえに、人を惹きつける。


 ヴェルフやボールスといった男たちから、シルやクロエといった女性陣も。




 というかリューの知る限り、ベルに好意を抱く容姿端麗な女性は、ベル本人が思っている以上にかなり多い。


 神ヘスティアやリリルカ・アーデを始めとするベルのファミリアの仲間たちは勿論、アマゾネスのアイシャ、ギルドの受付嬢のエイナ、etc。




 一部推測も混じったが、それでもリューは確信している。


 ベル・クラネルは女性に好かれやすい、と。


 純心な人柄に精悍な頼もしさまで同居する面差しに、優しい言葉と共に微笑まれたら、リューなんてもう……。




「いやいや、だから! そんな事はあり得ないのであって!」


 頭を抱えてブンブン振って、リューは妄想を振り払う。




 とにかく! ベルがリューの身体に欲情を抱くことは、あり得ない。


 なぜならシルのように、もっと可愛げのある女性が、ベルの傍にいるから。


 あの夢は所詮、一時の幻でしかない。




 そう結論付けて――とはいえ。


 夢の中とはいえ、邪な欲望を一時でもベルに向けたことを、リューは恥じ入る。


 そこはきっちり反省しておく。






「今は……まだ起きるには早い、か」


 窓の外に目を向けると、無窮の夜天はいまだに闇が濃い。






 真夜中だ。起床するには、時間的にまだ早い。


 混乱した気持ちに整理をつけたリューは、改めてベッドに体を預けた。




 目を閉じる。


 明日、ベルと顔を合わせたら少し気まずいかもしれないが、気にしなければいいだけ。


 寝息を立てる。


 まどろみに身を委ねる――






泡沫の二






 焚き火に照らされて、岩の床に映る男女の影が重なり合う。


 くんずほぐれつと肉と肉が絡み合う音が連続し、惚けた声や淫らな水音も混じって、やらしい空気が形成される。




 ダンジョンの安全地帯。


 水場より漏れる蒼い燐光と炎の赤い輝きが、薄暗い岩肌を淡く照らしだす、そんな幻想的な空間の中で。




 リューはベルと、互いに裸を晒して抱き合っていた。






「リュー、さ、んんっ♡♡♡ んんんん、れる♡♡♡♡♡ んんんっ♡♡♡♡♡」


「んちゅっ♡♡♡♡♡ ぷは、ベル♡♡♡ もっと、んんん~!!♡♡♡♡♡」






 正座で座るベルの上に、リューが膝立ちでしなだれかかる形。


 外套を岩盤に敷いて即席の寝台としながら、対面座位で抱き合い、唇を貪り合う。






 言い訳の余地なく、体力回復という本来の目的を逸脱していた。


 背中に回しあった腕でひしと抱き合い、濃密に舌を絡め合う。


 熱に浮かれた両者の頬は林檎のように赤く染まり、見つめあう互いの目は快楽の熱に蕩けていた。


 密着した上半身の間で乳房の丸みがむにゅりと潰れ、下腹に当たる男根にリューはゾクゾクと愉悦を覚える。




(私のような躰で、ベルが興奮してくれている……!!)


 ベル・クラネルの肉棒が固い。


 自分を、女として見てくれている!




 牡の生理現象という確かな証拠による確信が、ライブで燃えているリューの淫らさにさらに拍車をかけた。


 エルフの矜持、潔癖であることを、今だけはかなぐり捨てる。


 勢いに身を委ね、相思狂愛の貪り合いに溺れる。




「「んんんん♡♡♡♡♡ ……ぷはっ♡♡♡」」


 呼吸のために口を離すと、唇と唇の間に透明な糸が弾けた。


 尋常じゃなく淫らな眺め。




 言葉が無くとも、互いが互いを欲していることが目でわかる。




 リューはベルと抱き合う最中、時折、互いの心が一つになったように動きがシンクロする事があり、その一体感が嬉しかった。


 同意の確認に、煩わしく言葉に工面する必要がない。


 今だけは、リューはベルと言葉を交えたくなかった。




 どちらかが理性ある言葉を口にしてしまえば、今の濃密な交わりが途切れてしまいそうで。


 ベルの蕩けたまなざしを、このままずっと独り占めしたい。


 衝動に急かされるままに、リューはベルの頭を胸に抱き寄せる。




「ベル、吸ってぇっ♡♡♡♡♡」


「リューさ、んぷっ♡♡♡♡♡」




 リューの乳房がベルの顔を柔らかく受け止めた。




(踏み込みすぎた、か?)




 一瞬リューは、ベルが自分のしてほしい事をしないのではと不安になる。


 熱に浮かれているのは自分の独りよがりではないか、と。




 そんなリューの心配を、しかしベルは行動で否定する。


 リューの右乳首に吸い付いて、彼女の内なる願望を叶える。




「んちゅっ♡♡♡♡♡ ちゅっ、ちゅっ♡♡♡♡♡」


「~~~~~~~~っっっっ♡♡♡♡♡」




 乳首に走る甘い衝撃にリューはカッと目を見開いた。


 感極まる。幼児退行したようなベルの乳房への吸い付きが、背徳を伴った莫大な多幸感を生む。




「んむっ♡♡♡♡♡ こ、これで良いですかっ♡♡♡♡♡ リューさん、あの、僕、こういう事はキスぐらいしか知らなくてっ♡♡♡♡♡」


「いいですっ♡♡♡♡♡ もっとたくさん吸って、舐めて、くださいっ♡♡♡♡♡ 唇も、乳首も――ふやぁんっ!♡♡♡♡♡」






 ちゅっちゅ♡ と音を鳴らしながら吸い付くベルの拙い性戯が、こそばゆさが、リューの内に幸福感を量産する。


 体の芯からゾクゾクと身震いしながら、右乳首に吸い付く少年の頭を愛おしさいっぱいに抱きしめる。






「ベルっ♡♡♡♡♡ ベルっ♡♡♡♡♡ ベルううぅぅっ♡♡♡♡♡」


「んむむむむっ!!♡♡♡♡♡ むぐ~♡♡♡♡♡ ふーっ、ふーっ♡♡♡♡♡」






 無意識にリューは、股間をベルの男根に擦り付けていた。


 柔らかい太ももの付け根が、固くなったベルの分身に甘く吸い付く。


 柔肌が擦れる接触の快楽、さらには甘く名前を呼びながら艶めかしく乱れるエルフの痴態が、乳房に顔を埋めるベルを悶絶させた。


 余裕が無いのはベルも同じだ。あまりに今のリューは魅惑的すぎる。


 彼女との淫らな行為の悦びに、牡の本能が歓喜して。




 れるっ♡ と。




 意識せず、ベルはリューの右乳首を舐めた。


 吸い付きから奇をてらった快楽の変化が、積もり積もったリューの官能を破裂させた。






「っっっっ~~~!!♡♡♡♡♡♡♡」


「ん~~~~~~~~~!!♡♡♡♡♡♡♡」


 ぷしゃあ、と音を立てて。


 激しく痙攣し、リューは汐を秘部より散らしてしまう。






 ゾクゾクと途方もない多幸感を湧き上がらせ、震えながら、端麗なエルフは透明な汁をベルの体や地面に撒いた。


 リューはベルの頭を乳房から放さなかった。ベルを抱きしめていないと、意識を維持できる自信が無かったから。




 この人になら、全てを委ねてもいい。


 この人になら、全てを奪われても納得できる。


 頭の中は切なさと愛おしさでいっぱいだ。


 涙が出るほどの絶頂感と恍惚にリューは目が眩んだ。






 やがて身震いが収まったころに、リューはようやくベルの顔を胸の中から開放し――






「ふはあっ♡♡♡♡♡ はあっ♡♡♡♡♡ はあっ♡♡♡♡♡」


「ベル……♡♡♡♡♡」






 荒い呼吸を繰り返すベルを、リューは熱情と共に見つめる。


 ベルの息が整うまで待つ。


 深紅の瞳に視線のピントを合わせる。




「――――」




 首に手を回し、唇に唇を近づけて、しかし接触する寸前で顔の動きを止める。


 初めて、リューはベルに自分からキスするよう促した。


 呼吸の落ち着いてきたベルの瞳が、凝然と見張られる。






「「…………」」






 沈黙が始まる。


 間近で見る、唇を窄めて目を閉じたリューの美貌に、ベルは途方に暮れた。


 少年の瞳に、僅かに理性が戻る。




 遅れてリューの意識にも、今まで目を背けていた理性が戻ってきた。




 目の前にいるベルは、リューにとってシルの、友の想い人。


 目の前のリューは、ベルの一番ではなく、本来ベルの懸想する女は別にいる。




「「…………っ」」




 ここに来て、両者ともに心に抱えている爆弾が、後ろめたさという冷気となって心胆を凍てつかせた。




 見つめ合う二人の前に、分岐点が出来上がる。




 今なら、まだ取り返しが効く。


 今を逃したら、もう後戻りできない。






「「…………」」






 沈黙が続くにつれて、いたたまれない空気が増幅される。


 口付けを求めるリューの額に脂汗が滲んだ。


 友を裏切っている罰のように、後ろめたい悪寒がリューの背筋に押し寄せ、心を軋ませる。




 自業自得。愚行への報い。


(いやだ。こわい。たすけて)


 天罰。裏切りの代償。


(わたしを、ひとりにしないで――!!)




 道義に厳しい冷徹な自分と、孤独を恐れる臆病な自分が、リューの中で拮抗して。


 臆病な自分の方が、勝った。


 僅かにまぶたを開けて、その先に見えるベルの、欲情と迷いが混在する深紅の瞳を見つめて、名前を呼ぶ。






「…………ベル」


 たすけて、とリューは口にしなかったが。


 そう言っているも同然の、懇願するような震え声になった。






 その声音のどこにベルを揺るがす要素があったのか、リューに自覚は無い。


 無い、が――






「~~~~~~~~っ!!!♡♡♡♡♡」


 劇的、だった。


 キスをねだる顔で、澄んだ空色の瞳を潤ませながらのリューの名前呼びに、ベルは心を奪われた。


 耳まで顔を真っ赤にし、目を見開いた。






 そしてついに、後戻りという選択肢がベルから失われる。


 ああもう、と言わんばかりに瞳をぎゅ~っと閉じてから、首の後ろに手を回して抱き返して。


 無理やり、唇を奪う。






「っっっっっ!?!?♡♡♡♡♡」


「~~~~~~っ♡♡♡♡♡」






 強く抱きしめられながら口を塞がれ、リューは瞠目する。


 強引な抱擁と口づけに、反射的に、貞淑さを重んじるエルフの矜持が働き、リューはベルを突き放そうとする。




(ベル、ベル、ベル――――!!♡♡♡♡♡)




 しかしそれ以上に、ついにベルが自分に溺れてくれた喜びが勝った。


 涙が出るほどの愛おしさがリューの中で爆発する。


 あらんかぎりの力で少年を抱き返し、抱きしめあい、口内で舌先を貪り合う。






「んんんん~っ!♡♡♡ んちゅ、れる♡♡♡♡♡ んんんんっ♡♡♡♡♡」


「ふんちゅっ♡♡♡♡♡ ちゅ、ちゅ♡♡♡ んむむんん~!!♡♡♡♡♡」






 明確に肉欲に溺れた上での、濃密な接吻。


 二度と離れないと言わんばかりの強烈な抱擁。


 肌と肌が絡み合い、丸みのある乳房がムニュリと圧し潰れ、お互いに制御不能の情愛を伝え合う。


 誰よりも彼と繋がっている実感が愛おしい。


 強く押し付け合う肉の密着が狂おしいほど喜ばしい。






 このまま抱き合い続けたい衝動を、一段階上の欲求にリューは昇華させた。


 ベルの性知識はキス止まり。知識のあるリューが率先してベルに手本を見せないと、その先にある行為に辿り着けない。


 重なっていた唇と肌を、一時的に離す。




「「ぷあああっっ♡♡♡♡♡」」




 唇に垂れる淫靡な糸に目もくれず、リューは右手を下にやった。


 キスで夢見心地に蕩けきったベルの深紅の瞳に、肉棒を持って膣口に導くリューの華奢な指先が映る。


 腰を上げて、股を開いて、固く屹立したベルの逸物にリューは秘部を擦り当て、輝く愛液を塗り付ける。


 十分に濡れた入り口に、ベルの先端が触れた。






「ああっ……♡♡♡♡♡ リュー、さんっ……!!♡♡♡♡♡」


「ベル♡♡♡♡♡ ベル、ベル♡♡♡♡♡ ベルっ♡♡♡♡♡」






 もはや、止まることなどリューは微塵も考えていない。


 一刻も早く、ベルを自分の中に受け入れたくて仕方がない。


 彼の爛々と輝く深紅の瞳に、結合しかけている部分を凝視されていることに興奮を覚えながら、リューは。




「「――――――っ」」




 躊躇なく、腰を落とした。


 ――――――――


 ――――


 ――






現実の二






「うわああああああああっ!!?」


 大量の脂汗を散らしながら、勢いよく上体を起こす。


 ぜぇぜぇと荒く呼吸しながら、リューは周囲を見回そうとして、やめた。




 確認するまでもない。ここはバベルの治療施設の一室だ。


 窓から溢れる月明かりも、室内の床も、前の起床時と同じだ。


 ベッドについては、心なしか前よりシワが多くなっていて、さらにシーツにはびっしょりと汗が染み込んでいるのがいかにも意味深で――




「って、違う! 意味深じゃない! 深い意味なんて無い! ないないない!」


 両手で頬を押さえながら、リューは必死に自分を誤魔化した。




 それでも余韻が抜けない。興奮冷めやらぬ。


 顔が熱い。耳まで熱い。羞恥心で死にそうだ。


 最初のキスの夢に飽き足らず、また淫らな夢を見たことをリューは恥じた。


 しかも今度の夢では、とんでもないことをやらかしてしまった。




 恋人同士で行うような接吻と、ベルに乳首を吸わせる愚行、そして最後にはリューがみずからベルの局部に腰を落として、




「せ、せ、せ、せっ、~~~~~~~~~っ!!」


 最後まで言えない。言いたくない。言ってたまるか。




 貞淑であれと、エルフの矜持を振りかざしてリューは自分を律する。


 悪霊のごとく纏わりつく淫らな余韻を追い払う。




 脳内でアリーゼが「でも、彼が顔を赤くしながら、自分からキスしてくれたときは嬉しかったでしょ?」とニヤニヤ言ってくるのを追い出す。


 うるさい、アリーゼはそんなこと言わない。






「でも」


 ひとしきり動転を処理し終えて、ある程度の冷静さが戻ったリューは。


 火照りが残る頬を両手で覆いながら、もしもの可能性に思いを馳せた。




「一歩間違えたら、あのような展開になる可能性はあった……の、でしょうか」






 ベルから溺れて自分にキスする展開はあり得ない、にしても。


 自分の方がベルに溺れていた可能性はあった、とリューは思う。




 人肌で暖め合う前に交わした、『邪な想いを抱いてはいけない』という取り決め。


 あり得べからざる想定だが、もしこの取り決めが反故になるとしたら、その主犯となる者は自分だろうとリューは渋い顔をした。




 今のリューは自分の理性を信用できない。


 夢とはいえ、みずから率先してベルと淫らな行為をしたショックが、己を律する機能への信頼を損ねている。




 一方で、ベルの誠実さについては信頼できた。


 ベルが率先してリューに淫らな行為をする可能性は皆無だと、リューは信じる。


 実際、人肌で暖め合う前、ダンジョンでリューが脱いだとき、柔肌を見てベルは多少なりとも赤面はしたが、そこまでだ。




 ダンジョンで、ベルはリューを片手で抱きしめた。


 両手で、じゃない。片手でだ。


 必要以上に密着することや、淫らな欲に溺れるようなことを、ベルの方からする事は決して無かったのだ。




 一緒に外套を共有し、疲弊したその体でリューを受け止めてくれた。


 リューの過去話に嫌な顔の一つもせず、励ましてくれた。


 実際のベル・クラネルは、どこまでも紳士的だったのだ。




 ……ちょっと残念、と思うくらいに。




「いや、思ってない! 残念、なんてちっとも思ってない!!」


 ブンブン頭を振って、またにょっきり生えてきた邪念をリューは蹴飛ばした。


 ついでに脳内で爆笑している輝夜とライラも蹴飛ばす。




「もう寝るッ!!」




 上体を勢いよくベッドに倒し、ベッドカバーに潜り込む。


 リューは無理やり寝ようとする。


 まだ夜中だ。起きるには早い。




「――――」




 思えば、今まで二度。


 思いっきり「うわあああっ」と叫んで飛び起きてしまったが、この部屋の防音はしっかりしているだろうか。


 誰か外にいる者に悶絶やら迷走やらを聞かれていないだろうか、と不安になる気持ちを、リューは押し殺す。




 眉を歪めながら、それでも目を瞑る。


 さっさと寝てしまえと、己に言い聞かせる。




 すると、身体機能というものはわりと単純で、ベッドの柔らかさと温かさが自然と眠気を運んできてくれた。


 ホッと安堵して、まどろみに意識を預ける。


 ややあって、眠りに没入するその寸前で。




(もしかして)


 ふと、リューが思ったこと。




(今寝たら、さっきの夢の続きを見ることになってしまうのでは……?)






泡沫の三






 明晰夢、という言葉がある。


 睡眠中にみる夢のうち、自分で夢であると自覚しながら見ている夢のことだ。




 明晰夢の経験談として、夢の状況を自分の理想通りに変化させられるという話はよくある。


 が、今回のリューの場合は当てはまらない。




(ここは)




 鮮明な意識で、リューは状況を知覚する。


 今、自分は歩いている。後ろで誰かの手を引いて先導しながら。


 安心感を覚える温かい手の感触を右手に握りしめ、薄暗い路地裏をリューは誰かと歩いていた。




「リューさん? あの、僕たち、どこに向かっているんですか?」


 ベルの声。


 愛おしい少年の声に、戸惑いが含まれている。




「尾行を撒きます」


「尾行? でも、周囲に特に怪しい気配は」


「念には念を入れます」


「……わかりました」




 ダイダロス通りを彷彿とさせる路地裏を、リューはベルと歩く。


 時折、ついてくる愛しい少年の顔を見たくなって、たまに後ろに振り返るのも挟みながら、リューは地面を踏みしめていく。




(奇妙な気分だ)


 おかしな浮遊感に、リューは軽い感傷を覚えた。




 意識がハッキリしたまま、自分の体が勝手に動き、勝手に喋っている。そんな感じ。


 夢の中にいるリューに自分の体を操られているような、操り人形になったような気分に、リューはなんとなく現状を理解した。




 これは夢である、と。


 夢だと自覚したまま見る、幻想世界に自分は迷い込んだのだと。




「ベル。ファミリアには、私と会うことをどのように言ったのですか?」


「ああ、それなら。以前助けてもらったお礼に、リューさんの休暇に一日つきっきりで付き合うと約束したって説明したんです。これなら、嘘は言っていません」


「神に嘘が通用しないことを見越した方便ですか。でも、『休暇』の内容について具体的に詮索されませんでしたか?」


「うっ! ……一瞬、そうなりかけたんですけど。リューさんなら信頼できるし、深層で助けてくれた貴方との約束なら無碍にできないという事で、なんとかなりました」




 夢での自分とベル・クラネルの、歩きながらの会話をリューは耳に刻んでいく。


 信頼、という言葉を聞いた瞬間、リューは自分の顔がギクリと下に俯くのがわかった。


 後ろのベルに見えないよう、正面を向きながら。




 複雑な表情。


 純心なベルに隠し事をさせてしまったことと、日頃の行いへの信頼を裏切ることへの、罪悪感。


 かつ――それでもベルが自分について来てくれることへの嬉しさと、これからベルと共同で過ごす『休暇』への期待。




(夢の中の私は……ベルと、なにをしようとしている?)




 ドキドキと心臓が早鐘を打つ中、リューは夢に釘付けになっていた。


 既に自分の中にある、疑問への答えから目をそらしながら。




 * * *




 何度か路地裏の狭い道を曲がったその先で、やがてリューとベルはある個室に辿り着いた。


 ベッドとシャワー室だけが存在する、簡素なワンルーム。


 窓から見える眺めは向かいの建築物の壁だけで、景色など楽しみようもない。地上との距離から、ここが二階であるとわかるのみ。




「ここは?」


「私が闇派閥に復讐していたころに使用していた隠れ家の一つです」


 ベルの問いに答えつつ、リューはシャワー室の蛇口を捻る。




「よかった。水はまだ通る」


 蛇口から出る水に触れてから蛇口を閉めると、リューは濡らした指で髪を撫でる。


 それとなく、備え付けの鏡を見た。




 見慣れた自分の顔。その後ろで、ベルと鏡越しに目があう。


 顔を赤らめて目をそらす少年の横顔が愛らしい。


 冒険者としての時に比べ、私服に身を包んだベルは少年らしい初心な印象が強いとリューは感じていた。


 それでも初めて会った時に比べ、身も心も格段に成長している事がベルの体格やまなざしに漂っていて、その風格にリューは惹かれる。


 鏡を背にして、ベルの澄んだ深紅の瞳に吸い寄せられるように、リューは歩を進める。




「な、なんだか生々しいですね。……っ!?」




 目を細めて苦笑いするベルの首に手を回し、抱き寄せる。


 驚きに目を見開くベルにリューは顔を近づけた。


 唇を窄めて――チュッ。






「っっっっっ!?!?」


「~~~~っ♡♡♡♡♡」


 唇を重ねる。






 室内に入って間もない内からのキスと抱擁に、当初ベルは戸惑ったものの、すぐにリューの背に腕を回す。


 柔らかくも華奢なリューの躰の抱き心地に感じ入りながら、目を閉じて、口付けと抱擁をベルからも返す。


 互いが互いを求めていることを実感できる抱きしめ合いが、リューもベルも大好きだった。


 ダンジョンで、味を占めてしまった。






「んちゅ♡♡♡ ふっ♡♡♡ ちゅっ♡♡♡」


「んんん♡♡♡ ちゅっ♡♡♡ ……ぷはっ」


 二、三度と口唇を重ねた後、リューから口を離す。


 唇と唇の間に唾液が糸を引いて、いやらしい。






「あのとき、ダンジョンでベルと結ばれたときのことが、片時もわすれられないんです」


 リューは内心を漏らす。




「夢にまで、見ました。今日、このときを、私がどんなに楽しみにしていたか」


「そ、そんなにですか?」


 ベルは気圧された。






「軽蔑、しますか?」


 短いリューの問い。


 貞淑を重んじるエルフらしからぬ行動が、嫌われてしまうのではないか。




 顔を俯かせたリューが瞳にそんな不安を宿らせると、ベルはリューの顎を引いて。






「いえ。……むしろ興奮しますっ!」


 決然と、かつ衝動的に、リューに唇を重ねる。






「「~~~~~~~~っっっっ!!♡♡♡♡♡」」






 ベルから始める形で、先程より強い密着での抱擁と口付け。


 ギュウと抱き合い、唇を押し合って、瞠目するリューにベルは声なき声を伝える。


 軽蔑なんてとんでもない、こんなにも自分はリューの虜になっている、と。


 行動が伴った情愛に、感極まってリューは目が潤んだ。






「むちゅ♡♡♡♡♡ んんちゅっ♡♡♡♡♡ れるっ♡♡♡♡♡ んんっ♡♡♡♡♡」


「んんん♡♡♡♡♡ ふちゅっ♡♡♡♡♡ うんっ♡♡♡♡♡ んんんん~~っ♡♡♡♡♡」




 このまま熱くなる胸の滾りに任せて、リューはベルと思いっきりまぐわいたかった。


 しかしその衝動を、リューは抑制する。




 今回の休暇の目的は、ベルとの交わりのやり直しだ。


 初めての男女の契りを、ダンジョンという落ち着かない場所で、勢いのまま急かすように交わってしまったことを、リューは悔いていた。


 やるなら柔らかいベッドの上で、ゆっくりと時間を取って、シャワーを浴びた清潔な身体で。




 ……汗が気になる。




「ぷはっ♡♡♡♡♡ ま、待ってください! ベル」


 両手でベルを押して、抱擁とキスを中断する。


 リューは目を回して慌てていた。




 臭いと思われたくない。






「忘れる所でした! ま、まず、シャワーを! シャワーを浴びましょう、シャワーを!」


「え? は、はい!」




 ポンコツな片鱗を見せながら全力でシャワーを推すリューに、ベルは勢いに押されて生返事になった。


 盛り上がりすぎたムードが少し鎮まる。




 それでも、狭い部屋に愛しい異性と二人きりという状況は、なにもしなくても雰囲気が変になることは避けがたくて。


 ひとまず落ち着きはしたものの、ややあってベルもリューも、ちらと互いの身体に目移りして顔が熱くなる。




 リューは煩悩に毒されていることを自覚しながら、シャワーに備えて脱衣しようと服に指をかけて……ふと思った。




 どっちが先にシャワーを浴びようか?






 * * *






 自分の恋愛観が潔癖すぎると気づいたのは、いつだったか。




(な、な、な)




 誰もいない夜の森で、二人で永遠の愛を月に誓う。それまで同衾はもちろん、手を繋ぐような軽いいちゃらぶも厳禁。


 それを真顔で語って、やれ潔癖モンスターだの古代人でももうちょいマシだの、言われたい放題に言われて赤っ恥をかいたことをリューは覚えていた。




(なにを、なにを)




 今ではリューの恋愛観は、手を繋ぐ程度ならと、少しは緩和されている。


 貞淑を重んじる気質は、常識の範疇ならと、男女の結びつきを許容しつつある。




 アマゾネスのように肉欲に正直すぎるのは論外で、婚約していない男女が交わるのも否と、抵抗の強い一線はいまだにある。


 それでも、リューのデリケートな恋愛観は、一般常識の範囲に収まりつつあった。


 焦らず、ゆっくりと入っていく……はずだった。






(一体全体、なにをしているんだ)






 濡れそぼった膣に侵入していく、屹立したベルの肉棒。


 情欲に溺れて半開きになったベルの深紅の瞳に映る、リューの空色の瞳もまた、愛欲で濡れそぼっている。


 寝台の上で両腕を広げ、覆いかぶさるベルの温もりを迎え入れ、背中に爪を立てながら「はぅ♡」と喜悦を漏らすリュー。


 清い交際の後にあるはずの行為に、正当な手順を踏まず一足先に、自分が突入してるとなれば……まぁ。






(なにをしているんだ、夢の中の私は――――!!!)


 リューが内心で絶叫するのも、無理からぬことだろう。






 人格上の潔癖さや純情さ、貞淑な恋愛観が、急激な矯正に耐えきれずリューの中で猛反発している。


 心胆が震え上がる。頭の中で竜巻が起こる。


 それでも、目が離せない。この追体験を手放したくない自分がいる。






 ベルと結合する現時点より前、実はすでに一回、リューはベルと交わった。


 シャワー室に入る寸前、夢の中のリューはこともあろうに、ベルに「一緒に浴びましょう」などと抜かしやがったのだ。




「休暇の時間は限られている」「僅かな時間も無駄にできない」「一人ずつシャワーを浴びるのは非効率だ」などと屁理屈をのたまって。


 結果、押し切られたベルは、リューに続く形で一緒にシャワーに入ってしまったのだ。




 共に温水を浴びているうちに、互いの肌に目が移ろって。


 見つめ合って、キスして、抱き合って――ヤッてしまった。






 その後、身体の火照りが冷めやらぬ中、両者は室内に備え付けられたバスタオルでお互いに濡れた身体を拭いて。


 拭いたからといって、シャワーを浴びたばかりの裸体がすぐ乾くはずもなく、水のしたたる互いの素肌にベルもリューも目を奪われて。




 そして、ベッドで二回戦という所で今に至る。


 日差しが昼過ぎを示す、まだ明るい時間でのひとときである。






「リュー、さん……♡♡♡♡♡」


「ベル……♡♡♡♡♡」






 ベルの体に潰されながら、彼の耳元でリューは名前を呼ぶ。


 少年の背中に指を這わせ、体全体で抱きしめる。


 ひだまりのような温もりに、肌と肌が重なる感触に、漂うベルの匂いに、恍惚の息を漏らす。




 下腹部では、リューの中にベルの逸物が入っていた。


 侵入してくる肉槍を、リューの膣肉は余すことなく歓迎している。


 徐々に奥に入るのに従いリューの膣は艶めかしく抵抗し、鞘に剣が収まるようにぴったりとベルを包み切った。





「ううっ♡♡♡♡♡」


 肉棒を腟内で甘く抱きつかれているベルが、心地よさを漏らす。




 いじらしく我慢するベルの表情を自分の色香が引き出した事実に、夢の中のリューは歓喜し、顔を綻ばせる。


 明瞭な意識で夢を追体験する現実側のリューが、血相を変えて慌てていることなど、これっぽっちも考えもせずに。






「ベル……来てっ♡♡♡♡♡」


(待った! やめなさい私!! 誘惑をやめなさい!!)


「うごき、ますっ……♡♡♡♡♡」


(いけない、ベル! 貴方にはシルが! あ、あああ!!)






 辛抱たまらなくなったベルが、ついに腰を振りはじめる。


 ベル・クラネルが、リュー・リオンという女を貪っていく。


 ベルの肉棒が往復するごとに濡れた膣壁と擦れ合って、結合部からヌチュヌチュと艶めかしい音が響く。


 リューはベルの腰に両脚を回して腰振りを助長した。






「あうっ♡♡♡♡♡ リュー、さんっ♡♡♡♡♡」


「ベル♡♡♡♡♡ もっと♡♡♡♡♡ もっと激しくしてっ♡♡♡♡♡」


(えっ!? なにを言っているんだ私はっ)




「リュー、さん♡♡♡♡♡ い、いいんですかっ!?♡♡♡♡♡」


「構いませんっ♡♡♡♡♡ 本気で、貪るように♡♡♡♡♡ 私を犯してっ!!♡♡♡♡♡」


(ま、待ったぁ!!?)






 ズンッ、と、ひときわ大きな突きがリューの子宮をノックした。


「ひゃあうっ♡♡♡♡♡」


(はうああっ♡♡♡♡♡)






 パンパンと音を鳴らして肉と肉がぶつかり合う。


 結合部が艶めかしく泡立ち、寝台がギシギシと軋む。






「リューさんっ♡♡♡♡♡ リューさんっ!♡♡♡♡♡ リュー、さぁんっ!!♡♡♡♡♡」


「あぁあんっ!!♡♡♡♡♡ ふぁっ!!♡♡♡♡♡ ベルっ、べるぅっ!!♡♡♡♡♡」






 収拾がつかない。


 互いに肉を擦り合い、甘い喘ぎ声が轟き、四肢が絡み合う。


 胎内を肉槍で突かれ続ける間、リューはのしかかるベルの背に手を回し、両脚で腰を挟み、彼の体をギュウと抱き留める。


 互いに互いを捕まえ合う、獣のような性行為。


 ベルの匂いに、体温に、抱擁に、リューは狂喜した。




 なによりベルの表情がリューの心にクル。


 まっすぐな精神性で誰にでも等価値に接するベルが、その深紅の瞳を自分だけに、快楽で蕩けさせている。


 生真面目な性分ゆえに色香や面白味で他に劣る、と己を卑下していたリューが、誰よりもベル・クラネルを虜にしている。


 その事実がリューの独占欲をガツンと刺激するのだ。




 彼にならなにをされてもいいと、女の悦びが轟き叫ぶ。




「リュー、さんっ♡♡♡♡♡ そ、そろそろっ……♡♡♡♡♡」


 あ、出される。


 切なそうに潤んだ少年の瞳も相まって、リューはベルの限界を悟った。


 そこからの行動は速かった。




 リューは腰を上げて両脚をベルの腰に組み付かせ、下半身同士を密着させた。






「りゅ、リューさんっ!?♡♡♡♡♡」


「なかに、だして♡♡♡♡♡ きょうは、らいじょうぶ、だからっ♡♡♡♡♡」


 呂律の乱れてきた声で甘く催促するリュー。


 一瞬、ベルの深紅の瞳に理性の光が見えたが、リューのおねだりに再び目が蕩ける。


 躊躇が消え、激しく腰を振る。






「「~~~~~~~~~っっ♡♡♡♡♡♡♡」」






 バチュバチュバチュッ、と怒涛の勢いで鳴り響く淫らな音。


 狂おしく、めちゃくちゃに、ベルのモノがリューを突きつける。


 子宮口がノックされ、膣壁がこじ開けられるごとに、途方もない多幸感がリューの全身にほとばしった。




 衝動的に、リューはベルの背中に指を食い込ませ、抱きしめる。


 膣壁に締め付けられている肉棒が、ブルッと震えた。


 来る!


 ついに――!!






「リュー、さ……♡♡♡♡♡♡♡ あっ……♡♡♡♡♡♡♡」


 ごびゅっ!!


 ぼぽびゅっ、びゅくくっ!!


 どびゅうううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッッ!!!!!


「っっっっっっ♡♡♡♡♡♡♡」






 滝を連想する。


 ベルの肉棒がリューの中で打ち震え、激しく流れる水流のように白濁を放出する。


 あっという間にリューの腟内が白いもので飽和状態になり、それに飽き足らず、白濁は溢れてシーツに零れ落ちていく。




 快楽の頂点に悶絶するベルの全身を抱きながら、リューは一滴残らず絞り取ろうと、結合部を離すまいとした。


 腰に回した脚を締め付け、下半身を密着させる。


 貴方の子種は一滴残らず私のものだ、と言外に告げる。




 ふとリューは、快楽に正気を持っていかれまいと目をギュッと閉じて頑張っているベルの顔を見た。かわいい。


 唇を重ねる。






「んんんっ!?♡♡♡♡♡♡♡ ~~~っ!!?♡♡♡♡♡♡♡」


「ちゅむっ♡♡♡♡♡♡♡ んふんんんっ♡♡♡♡♡♡♡」


 ごぶびゅびゅっ!! どびゅ~っ!!


 ぎゅ~~~~~~~~っ♡♡♡♡♡♡♡






 両手両脚でベルを抱きしめ、口内で舌を絡ませる。


 肌と肌が吸い付きあい、歓喜の感触を長持ちさせる。


 キスの瞬間、腟内でベルの逸物がびくっと震えて、射精の勢いが再発した。それがリューにとってたまらなく嬉しい。


 ベルはキス当初こそ戸惑ったものの、ややあって恍然とリューに舌を絡め返す。


 骨の髄まで溶けるような陶酔を共有する。






 一方で。


 明晰夢として、夢の中のリューの感触を追体験している現実のリューはというと。




(やって……しまった…………あ…………)




 達成感と罪悪感と背徳感と満足感と自己嫌悪と云々。


 複雑という言葉では、現実側のリューの感情は表しきれない。






(本来、途中でもいいから、止めるべきだった。彼はシルの想い人で、手を出すなんて論外だ)


 なのにリューは、抵抗どころか、腟内射精をみずから促す始末。


 逃さないよう、ベルの腰に脚を巻き付け、締め付けてまで。






(これが夢で、よかった)


 夢でなかったら、後でもっと悪い事態が起きていたかもしれない。






(夢で、よかったけれども)


 たとえこれが夢でも、






(夢とはいえ! 私は、なんてことを……!)


 自己嫌悪の有無とは別問題である。






 貞淑たれという、エルフとしての矜持はもうボロボロだ。


 しかしそれをリューは立て直す。ツギハギだらけだが、無いよりは良いと。




 裏路地の怪しい密室にベルを誘い込み、二人きりに。


 穢れた欲望の矛先を向け、唇を奪い、淫らに誘惑。


 シャワーを共にし、裸で同衾、性交、膣内射精に誘導。


 どれもこれもシルの、友の想い人にしていい事ではない。




(一体、どうしたら、収拾がつく? せめて、これ以上の淫らな行為は――)




 ところで。


 現実側のリューが必死に己の矜持を立て直している所、非常に恐縮だが。


 この反省にはこれっぽっちも説得力が無い。




 なぜなら、精神が思っていることと、肉体がやっている事が違いすぎるからだ。






「んちゅっ♡♡♡♡♡ ん~っ♡♡♡♡♡ れるっ♡♡♡♡♡ んむんっ♡♡♡♡♡」


「むちゅっ♡♡♡♡♡ はむっ♡♡♡♡♡ ん~!♡♡♡♡♡ むちゅっ♡♡♡♡♡」


(――って、いつまで乳繰り合っているんだ、夢の中の私はっ!?)






 いちゃいちゃらぶらぶ、ちゅっちゅちゅっちゅ。


 夢の中のリューは、まだベルと口付けを交えながら、甘い抱擁を続けていた。




 性的絶頂が静まった今でも、ベルの逸物は膣に入ったままだ。リューがベルの腰に両脚を回しているから、たとえベルが男根を引き抜きたくても引き抜けない。




 甘い空気は終わりを迎えるどころか、互いに夢中で口唇を重ねるごとに、めらめらと熱が再燃しはじめている。


 キスの合間に口唇を離したときの、ベルの深紅の瞳に映るリューは、空色の瞳を蕩けさせていた……すごく、しあわせそうに。




「リューさん、僕、信じられないくらい欲情してます……ごめんなさい、出したばかりなのに」


「構いません。むしろ、嬉しい……♡♡♡♡♡」


 見つめ合いながら短く語らい、また唇が重なり合う。




 シーツに投げ出されたリューの手を、ベルの手がそっと握る。


 指と指の間にベルの指が割って入り、絡み合う。


 右手も左手も、口唇も局部も、ベルと結合している実感がリューの嬉しさを深めた。


 キスしながら、リューは上体を起こす。






「んちゅっ♡♡♡♡♡ ぷはっ、リューさんっ?」


「ベルっ♡ 今度は、私から動きたいです」


 唇から銀色の糸を弾きながら、リューは熱っぽく提案した。


 向かい合うベルの深紅の瞳が、意外そうに丸くなる。




「激しく運動したから、ベルは少し疲れているでしょう? それに正直……私自身、自分から動きたい欲求があります♡」


 リューは気分が高揚していた。


 ベルに対する気遣いこそあれど、後者の方が本音として強い発言だ。




 童心に帰って遊ぶような、ウキウキした気分で頬が緩む。


 リューはもっともっと、ベルとまぐわいたくてたまらなかった。




 そんなリューに、ベルも深紅の瞳を細めて笑ってくれて、両手を広げて歓迎のポーズをとる。


 楽しさを共有できているのが目でわかる。




「では、どうぞ。リューさん」


 お気に召すままに、と語尾につきそうなベルの誘い。




「ベルっ♡♡♡♡♡」


 まな板の上の鯉と化したベルに、リューは喜んで飛び込んだ。


 肌と肌が重なる。ベルを抱きしめて、寝台に押し倒す。


 さあ、今度はリューがベルを甘く責める番だ。




 その次はベルに、また自分の身体を委ねよう。


 その次は……また一緒にシャワーを浴びても良いかもしれない。


 今日一日の休暇で、リューはベルとシタいことが山ほどある。






「リューさんっ♡♡♡♡♡ リューさぁんっ♡♡♡♡♡」


「ベルっ♡♡♡♡♡ ベルっ♡♡♡♡♡ ベルうっ♡♡♡♡♡」


 互いの肌が絡み合い、楽しく淫らに繋がりあう。






 抱きあってギュウと鳴る抱擁の音も、乳房がムニュと潰れる音も、口唇をチュッチュと重ね合う音も、腰と腰が打ち合うパンパンとした音も。


 淫らなコンサートは、とどまることを知らない。


 リューとベルは、ずーっと、互いの性を確かめ合う。




「「~~~~~~~~~っ♡♡♡♡♡♡♡」」




 互いに肌を擦り合わせて、快楽の嬌声を奏であって。


 濃密で甘い響きが室内から窓の外に。


 路地裏の青空に向けられた淫蕩な騒音は、太陽が薄暗い茜色に染まるまで、鳴り止むことはなかった。


 ――――――――


 ――――


 ――






現実の三






 一説によると、夢は本能的な欲望の表れであるという。


 好きな人が夢に登場する理由として一番あり得るのは、自分の潜在的な願望が夢に現れたから――だそうだ。




 戯言だ。


 こんな話、夢から醒めたリューにとってなんの救いにもならない。






「…………うぅ」


 どきどきどきどき、だらだらだらだら。






 濃密な淫夢の余韻で、鼓動がうるさい。


 顔が真っ赤になるほどの羞恥でリューはだらだらと発汗し、寝ているベッドに汗を落としてシミを作り上げている。


 真夜中の闇がいまだ色濃いバベルの治療施設の一室で、上体を起こしたリューは、猛烈な自己嫌悪に陥っていた。




(いったい、どうなっているんだ私の夢は……っ!)


 別に誰かに見られているわけでもないのに、両手で顔を覆って赤面を隠す。




 もし、夢の内容を操作できるマジックアイテムがあるとしたら、今のリューなら大枚をはたいてでも買うだろう。残念、そんなものは無い。


 恥ずかしさが一定の水準を超えると、かえって静かになるという、初めての心境をリューは味わっていた。




 冷静、というより諦観に近い。


 あまりにも恥ずかしすぎて、開き直る以外に無い。そんな感じだ。




(ベルと、クラネルさんと、丸一日じゅう、思いっきり、~~~~~~~ッ♡♡♡♡♡)


 首を振って、リューは小っ恥ずかしさで悶える。




 おそらくあの夢の光景は、もしリューがベルとダンジョンの安全地帯であやまちを犯してしまった場合、その後どうなるかをシミュレートしたものだ。


 とどのつまり、リューが前に見た二つの夢の続きというわけだ。


 夢の内容の性的加減は、前二つを遥かに上回っていたが……。




 話の流れ的に、ダンジョンでベルと性行為したことを忘れられなくなったリューが、ベルに無理を言って時間を取らせたのだろう。


 自分の普段の行いからなる周囲の信頼にかこつけて、ベルにファミリアの仲間を騙すような真似をさせて。


 ダイダロス通りの路地裏で、空き家の一室を拝借して、そこでベルと――




(~~~~~~~ッ♡♡♡♡♡ ほとんど痴女じゃないか、私っ!!)


 顔をかあっと熱くしながら、リューは目を強くつぶって懊悩する。




 なによりリューが自分で自分を許せないのは、夢の最後のあたりで、リュー自身もベルとのまぐわいを楽しんでしまったことだ。


 思考だけが正気で、体は勝手に動く明晰夢。


 その状況で、心だけでも抗っていたのを、リューは途中でやめた。




 舐めて舐められ、吸って吸われて、犯し犯され、抱いて抱かれて。


 気持ちよくて、暖かくて、せつなくて、嬉しくて。


 性欲と体力と時間が許す限りの全てを費やして、ベルと『休暇』を共にした。


 ものすごく、幸せだった。




「……………………」


 頭を真っ赤にしながら、リューは重々しく沈黙する。


 貞淑を重んじるエルフの矜持は、今や穴だらけのスカスカだ。




 認めざるを得なかった。


 ベルと繋がり合う夢が、リューにとって極上の、ものすごく良い夢だったと。




「……」


 疲れた。羞恥で身を振って悶える余力は、もうリューには無い。


 窓の夜闇を一瞥してから、寝台に改めて寝そべる。




 体内時計の感覚と、今までで夢から覚めた経過時間のパターンから、リューは次の起床あたりで朝を迎えそうだと推測した。


 すなわち、次に見る夢が、今夜の最後のものとなる。




(また、今までみたいに、夢の続きを見ることになるのだろうか)




 ほのかに、リューは自分が期待を抱いていると自覚した。


 ベルと淫らなことをする夢を、リューは見たがっている。




 もう己の欲望を否定できない。


 夢の内容をより好みできる筈など無いから、これは不可抗力だと、仕方ないことだと、自分自身に言い訳して。


 そもそも睡眠中に夢を見るかどうかなんて判らない、夢を見たとしても前回の夢の続きとは限らない、という正論には蓋をして。




「……ベル♡」


 夢うつつな熱っぽさを、呟きに乗せる。


 自らの両腕を抱きしめるように、ベッドの中で腕組みする。




 ベルと抱き合いキスしている光景を頭に思い描きながら、リューは目を瞑る。


 睡眠の闇に潜っていく――






泡沫の四






 半年が過ぎようとしていた。


 率直に言って、リューとベルの関係は爛れたものになってしまっていた。




 一ヶ月に最低一回、多くて三回の頻度で、リューとベルは時間を作り、事に及んでいる。




 初めてリューとベルが『休暇』を共にしたあの日、リューはベルと取り決めを交わしたのだ。


 今後も一ヶ月に一回、休暇を共にしようと。




 頻度を一ヶ月に一回にしたのは、さすがに毎日毎日まぐわうのは、リューのエルフとしての矜持が許さなかったからだ。そこまで性に奔放になれない。




 リューには、『豊穣の女主人』の従業員として、労働や仲間付き合いがある。


 ベルにも、冒険者としてやるべきことや、ファミリアとの付き合いがある。


 ないがしろにしてはいけないものをほっぽり捨ててまで性に溺れてはいけないと、リューとベルは己に制約をかけた。それが、一ヶ月に一回。




 人生のメリハリを適切な範囲に収めるためのルールだ。


 きちんと働く分、休むべき時は思いっきり羽根を伸ばす。


 休むべき時、の部分で褥を共にしている点を見逃せば、リューとベルの関係は正常な範疇の……見逃したらダメ? やかましい。


 厄介な問題が山積みで、全部詳細に語ったらキリが無いのだ。




 リューにとっては、シルという友の想い人に内緒で、ベルと不倫じみた関係を保っていることが一つ。


 今のリューが知る由もないが、ベルにとっては、本来なら別に想い人がいるにも関わらずリューの躰に溺れていることが一つ。




 そして、リューとベルが両者共に抱えている問題も、一つ。


 冒頭に述べた通り、一ヶ月に最低一回、多くて三回。


 一ヶ月に一回というルールを、そもそも守れていない。






 例えば、『豊穣の女主人』の、店内から抜け出した離れの一室で。




 * * *




「んむっ♡♡♡♡♡ ん~っ♡♡♡♡♡ んちゅっ♡♡♡♡♡ んんんっ!♡♡♡♡♡」


「むちゅっ♡♡♡♡♡ ぷはっ、リューさん! まずいですよ、そろそろ流石に」


「分かっています。……だから、あと少しだけにします」


「いやいや、何回目ですかそれ言うの! 誰かに見られたら」


「シッ、騒ぐと余計に目立ちます。……それにベル、貴方も貴方だ。私の背に回された腕が、少しも緩まっていない。本気で拒絶するなら、抱き返すのをやめればいい」


「――できるわけ、ないですよ。僕がリューさんを拒絶だなんて」


「…………」


「…………」


「………………ベル♡♡♡♡♡」


「っっっっ、リューさんっ!♡♡♡♡♡」


 ひしっと強く抱き合い、音を立てて唇を啜り合う。




 『豊穣の女主人』の給仕服姿に興奮したベルの蕩け顔が、仕事仲間に見つかるかもしれないスリルと相まって、リューを悦ばせる。






 きっかけは、ささいな事だった。


 店のピークタイムが過ぎたおやつ時。


 遅めの昼食を摂ろうとテーブル席に腰をかけたベルと、ちょうど休憩時間に入る所だったリューの、目が合った。




「「あっ」」と、声が揃った数瞬。


 リューもベルも顔がほころんだ。


 お互いに相手の肢体を思い出して、ほのかに顔が赤くなる。




 しばし両者は見つめ合い、いったん衆目を気にして目をそらして、だけど幸い今はベルとリューしか店内にいないことに気づく。




 他の人に内緒で抜け出すなら今だと、リューは魔が差した。


「ちょっと」とだけ言って、ベルの腕を引っ張って連れ出す。


 ベルは戸惑いつつも抗わない。ベル自身も内心で、リューに連れ出された先の展開を期待していたのかもしれない。




 離れの壁際に、リューはベルの体を押し込んだ。


 壁を背にしたベルを、すぐリューは抱きしめて唇を重ねる。


 少年は数瞬だけ戸惑うも、その深紅の瞳を蕩けさせ、給仕服に身を包む愛おしいエルフの肢体を抱き返した。


 唇の柔らかさと、服越しの抱き心地を堪能しあう。


 両者とも恍惚と理性の境目で彷徨いながら、今に至る。




「んむちゅっ♡♡♡♡♡ ふんんっ♡♡♡♡♡ んむうっ♡♡♡♡♡」


「んちゅっ♡♡♡♡♡ んー!♡♡♡♡♡ んふぅ♡♡♡♡♡」




 無我夢中でぎゅうぎゅうに抱き合い、求め合うままに唇を重ねる。


 至福の時間は、しかし場所が場所なだけに、長く続かない。




 がやがや、と。


「「――――!」」


 喧騒が耳を掠めた瞬間、リューとベルは弾かれたように身体を離した。




 銀色の糸が自分とベルの唇を繋げる光景に物足りなさを覚えながら、それでもリューは思う。ここまでだと。


 引き際をわきまえる。




「――すいません。手間を取らせました」


「あ、いえ。……」




 ベルはどこか上の空で、寂しげに視線を下げていた。


 唇を結んだ少年のいじらしい困り顔に、リューは胸がきゅんと喜悦で高鳴るのを自覚するも、理性で抑える。


『豊穣の女主人』の店内に、人の気配が再燃しつつある。休憩中のリューはともかく、いつまでもベルを離れに引き留めたら、ごまかせなくなる。




 なのでリューは、ベルを店内に戻さなければならない。


 これ以上ベルと逢瀬を楽しむわけにはいかないと、リューは自重した。




 ただし――『今は』と、甘えた枕詞をつけて。




「ベル。……続きは夜に♡」


「ッ! は、はい……♡」




 解散する。


 この場を後にする際、ベルが物欲しげにゴクリと唾を飲む音が後ろから聞こえて、リューは両手で口元を隠した。


 自分の躰の艶めかしさにベルが溺れている実感が嬉しい。


 リューは、笑みになる自分の唇を止めることができなかった。




 * * *




 この後、『豊穣の女主人』での業務を終えたリューは、夜にベルと合流。


 さっそく事に及ぼうとするも……二人だけの秘密を秘密のままにできる場所がなかなか見つからず、結局できないままで終わってしまう。


 無念に打ちひしがれたリューは、今後は二人だけの内緒の場所や、リューとベルが時間を作っても誤魔化せる言い訳を日頃から備えることにした。




 その反省が生かされた一幕。


 それもまた、一ヶ月に一回というルールに抵触していた。




 月末だった。


 ダンジョンの十八階層、アンダー・リゾート(迷宮の楽園)にて。


 アストレア・ファミリアの墓参りを終えたリューは、普段の習慣に従い、お気に入りの泉に来た。


 一糸まとわぬ姿となり、蒼く澄んだ泉水に体を浸して水浴びを楽しみ、ひとときの安らぎを得る。




 そんな中、芝を踏み鳴らす音がして、とっさにリューが目を向けると。


 泥で顔を茶色く汚した、白髪の少年が来ていた。


 ベル・クラネルだ。目を瞑りながら、ふらふら歩いている。裸身を晒したリューと対称的に、軽鎧や手甲を纏った姿が冒険者らしい。




 水浴び中の襲撃を警戒していたリューは、乱入者が見知った少年だと知り、ホッと息を吐く。


 直後――泉の前でひざまずく少年を見て、気づく。




 ベルが泉に来たのは、泥で汚れた顔を洗うため。


 今のベルは顔が泥まみれで、満足に目を開けられない。


 泉水を両手で掬っている今のベルは、水浴び中のリューの裸体に気づいていない。




 * * *




「――――♡」


 ほんの一瞬、魔が差した。


 このまま裸を見られたら。


 顔をゆすいで目元から泥を落としたベルが、水のしたたる自分の柔肌を見たら。




「――――ッ!」


 すぐリューは思い直す。


 偶然ならともかく、意図的に裸身を見せるなんてとんでもないと、ベルに気づかれていないうちに泉から出ようとする。




 だが遅い。


 数秒、判断に時間をかけすぎた。


 ベルと幾度も肌を重ねた経験が、名残惜しげにリューの動きを鈍らせた。




「んっ、んっ」


 ぱしゃぱしゃと水を鳴らして、顔を両手で洗うベル。


 泥を落として、少年は顔から手を離して目を開ける。






「ふうっ。……えっ、リューさんっ!?」


「べ、べる」


「うわわわっ! ご、ごめんなさあぁぁいっ!!」






 飛び跳ねるようにして、極東名物の土下座を行うベル。


 勢いよく地に額を擦りつけた少年に、リューは面食らった。


 邪な煩悩が吹き飛ぶ。過剰なほど真摯なベルの謝罪に、僅かながら淫らな展開を期待していたリューの気分が消え失せる。




(……こうなるのは当然、か)


 落胆を呑み込み、リューは目を伏せた。


 ダメで元々の期待が、案の定ダメだっただけだと。




 純心で良識的なベルの性格からして、彼が欲情のあまり突発的にリューを抱きたがるなんて、あり得ない。




 付け加えるなら、今は月末。


 一ヶ月に一回だけの逢瀬の約束は、今月分はもう消費してしまっている……きのうに。




(さすがに、きのうの今日で体を重ねるのは。あと一日待てば、一ヶ月に一回の約束を守ることができる……)


 思い出しかけるきのうの逢瀬を、甘い疼きを、リューは抑えた。


 忍耐で眉をひそめ、顔をうつむかせる。




 その、空色の瞳で。


 視線を下げたリューの視界に映るベルの白髪の、土下座で額を地面に当てた頭の、左右。


 ベルの両耳が――爛熟しすぎたリンゴのように赤いことに、リューは気づいた。


 瞳孔が開く。




「――――ベル」


 びくっと、リューに呼ばれてベルの肩が跳ねた。




「す、すいません! すぐ去りますので――」


「行かなくていい!」


 ぴしゃりと強い声で逃亡を阻止する。






(もしかして、ひょっとして)


 リューの脳内で、今のベルを逃したら千載一遇の機会を逃がす、と女の本能が叫んでいる。






 こわばった面持ちで、リューはベルにむかって歩き出した。


 ちゃぷちゃぷと、水面に音を鳴らして、ゆっくりと。




 雪のような素肌を晒す美しいエルフが、泉のほとりで土下座のまま動かない少年に歩み寄っていく。




 やがてリューは、土下座中のベルの真正面まで到達。


 ベルは顔が真っ赤で、リューもベルに負けないくらい顔が真っ赤だ。


 ドキドキと動悸が激しくなるのを自覚しながら、リューは頭を下げ続けるベルに、口を開いた。






「顔を、上げてください」


「えっ。リューさん、今は裸じゃ」


「構いません。早く!」


「ううぅっ……」






 食い気味に促すリューの圧に負け、ベルは面を上げる。


 額に地面の土がついた、真っ赤なベルの照れ顔が姿を見せた。


 動悸を激しくしながら、リューは腰をかがめてベルと目を合わせる。


 ベルの額の土を細い指で払ってから、




「正直に、言ってください」


 前置きし、一番聞きたかった質問をする。






「今の私に……ベルは、なにをしたいと思っていますか?」


 水のしたたる自分の裸体にベルが抱いた願望を、暴く。






「リューさん!? それを僕に言わせるんですかぁ!? ひどい!」


「言わせます! 言ってほしい!」






 リューはがっしりベルの肩を掴んで、この場からの逃亡を予防していた。


 ベルの瞳が激しく揺れる。水のしたたるエルフの色香に狼狽する。




 ここ最近だらしなく性に溺れて守れていない『一ヶ月に一回』を今度こそ守ろうという気概は、もうリューには無い。


 意志の力は、規則の遵守にではなく、女の欲望に向いていた。




(もし、ベルが、私の期待通りのことを言ったら――!)




 顔が熱い。リューの情念が、制御不能の域に入りつつある。


 対するベルも恥ずかしげに頬を真っ赤にしながら、しかし顔はそらさない。


 水辺でかがむ裸のエルフと、陸でひざまずく冒険者装備の少年。間近な二人の息づかいに、蕩けるような熱がこもる。




 リューはベルに発言を強要しておきながら、自分自身も顔が熱く沸騰していくのを止められなかった。


 発言を待つ側ですらこれなのだから、ベルが感じているプレッシャーは想像に余りあると、リューの中に後ろめたさも湧いてくる。




 引き伸ばされる体感時間。


 ベルは言葉に迷って、悩ましげに目を泳がせながら口を半開きにしていて――






「………………僕、は」


 やがて、言うべき言葉を決めたのか、とうとうベルが沈黙を破る。






「僕は、リューさんを……抱きたい、ですっ」






 たどたどしくも、ちゃんと伝えようとする律儀さがこもった声。




 震える喉が正直に告げた、ベルが今のリューにしたいこと。


 それは、リューの内心を歓喜の絶頂に至らしめるには十分すぎた。




「~~~~~~~~~ッ!!!♡♡♡♡♡♡♡」


 ベルに抱きつきたくなる衝動を、リューは唇を噛んで抑える。




 ベルの方から「抱きたい」と言ってくれた以上、ベルから抱いてもらうのが筋だと、リューは心に自重の一線を引く。




 ベルの肩から両手を離し、一歩だけ後退。


 緊張の面持ちで見つめるベルの前で、リューは両手を広げた。




「――――」




 足元を泉に浸からせた妖精が、一糸まとわぬ柔肌を、冒険者の少年に差し出している。


 もう我慢しなくていいと、リューは身振りで示す。


 まるで、お伽噺に出る泉の乙女が、英雄と抱き合う直前のように。




「――――ッ♡♡♡♡♡」




 好みの琴線を刺激され、ベルは顔を赤く煮立たせた。


 図らずも、ベル好みのお伽噺に似せられた状況が、ただでさえ美しいリューの色香を五割増しにしている。


 もう、きっかけ一つあれば、ベルは堕ちる所まで来ていて。


 それを察し、リューは経験上学んだ、ベルの最愛の性癖を突く。






「――――ベル♡♡♡♡♡」


 めいいっぱいの愛をこめて、懇願するように、名前を呼ぶ。




 それが合図になった。




 陸にいたベルが、泉に飛び出した。






「リューさぁんっ!!♡♡♡♡♡♡♡」


「ベルっ!!♡♡♡♡♡♡♡」


 互いの肌が重なる。


 ベルが両腕をリューの首の後ろに巻きつけ、抱きつく。


 唇を重ねる。






「んちゅ♡♡♡♡♡ んんん~!♡♡♡♡♡ むちゅ♡♡♡♡♡ れるっ!♡♡♡♡♡」


「ふむんっ♡♡♡♡♡ あむっ!♡♡♡♡♡ んちゅ~っ!♡♡♡♡♡ んっ♡♡♡♡♡」


 ベル・クラネルが、みずからの欲情に従って、水のしたたる妖精の裸体を抱きしめてキスする。


 そんな暴走した少年をリュー・リオンは受け入れて、彼の躰を抱き返し、濃密に舌を絡め返す。






 ここまで最高に都合のいい状況があっていいものかと疑わしくなるほどの、莫大な幸福感。


 恍惚に酔うリューは、乳房がむにゅりとベルの胸……ではなく胸の防具に当たって潰れる硬質な感触に不満を覚えて、




(あとでベルにも脱いでもらおう♡)


 と、画策するのであった。






 * * *






 このあとベルも全裸になり、リューとベルは互いに一糸まとわぬノーガードの交わりあいに移行した。


 普段はベルの方が最低限の理性を保っているはずが、今回のベルは性欲に歯止めがかからなかった。




 一度目の膣内射精でリューは恍惚から正気に戻り、まずいとベルに警告するも、ベルが止まらず二度目の射精を太腿の間に。


 本当に誤魔化しが効かなくなる、とリューがベルを説得したことで、ベルは心底つらそうにしながらも性交の続行を断念した。






 ちなみに、ベルがリューの泉まで来た経緯は少々複雑だ。


 十八階層までベルと同行した仲間のうちの一人が、突発的な高熱で寝込んだらしく、ベルはリリとリヴィラの街へ買い出しに。


 道中、たまたま出会ったアイシャに誘惑され、なんとか振り払って逃げた直後、他の冒険者たちの諍いに巻き込まれ、余波でベルの顔に泥がかかる。




 ベルは、ちょうど近くに泉があるからそこで顔を洗ってくる、とリリに言い残して、リューのいる水場に来たというわけだ。




 余談だが、ベルの性欲が暴走したのは、アイシャに誘惑されて煩悩が活性化していた所に、リューの裸体がトドメになったから。


 アイシャの話題をベルが出したとき、リューが嫉妬心でむっとするも、ベルが「リューさんしか抱きたくない」と惚気けたことで悶着は起きずに済む。


 閑話休題。




 あとは、時間の浪費をベルの仲間にどう言い繕うか、という問題が残る。


 これに、リューが前もって準備したものが生きた。




 リューは、「突発的な頼み事を頼まれて、時間がかかった。その分、高熱に効くポーション等の報酬を貰っている」とベルに言うことを提案する。


 手土産として、リューが前もって用意した、ポーションを含むアイテム数点を渡して。




 最初ベルは遠慮したが、他に妙案が思いつかず、結局リューの提案を受け入れることとなる。


 リューから受け取ったアイテムの袋を片手に持ちながら、去り際に「いつか必ず埋め合わせをします!」と言い残して。




 口約束をした時の、ベルの焦りと照れが混在した顔が可笑しくて。


 再び一人になったリューは、クスッと笑うのだった。






 ……とまぁ、こんな具合に。


 リューもベルも、突発的に互いの肢体が恋しくなって、こっそり二人で抜け出して時を過ごすことが多々あった。


 前もって逢瀬の約束をしていない不義理に目をそむけて、一ヶ月に一回のルールを破る事態が、少なくない頻度で起こった。




 本来、リューもベルも、二人とも隠し事に向かない性分だ。


 こんな事を続けていたら、いつか誰かにバレるに決まっている。




 脳裏で明滅する善性の警告に、しかし情事に耽る二人は、「やめよう」の一言が言えない。


 リューもベルも、この関係の心地よさにずぶずぶと嵌まり込んで、手放せないでいた。




 いつまでもこの関係は続かない、と思えば思うほど。


 今のうちに楽しもうと、リューもベルも互いの躰に溺れ合って。




 だけど、ある日。


 どんな形であれ、区切りをつけないといけないと、取るべき責任をいい加減に取らないといけないと。


 けじめをつけるために――ベル・クラネルが、動いた。




 リューとベルのうち、この関係に一定の決着をつけようと行動したのは。


 ベル・クラネルの方が、先だった。






 青空が澄み渡る快晴。


 今度は突発的ではない、前もって予定を組んだ上での、リューとベルの逢瀬。




 オラリオの外。


 二人が一緒に行こうと約束した、ある場所へ向かうための汽車の車両内から、話を始めさせてもらおう。






 * * *






「それにしても、随分すんなりとオラリオの外への外出許可が下りましたね」


 この旅行を提案した僕が言うのもなんですけど、とベルが付け加える。




「アンドロメダに根回しを前もって頼んだのです。彼女に私は、何度か貸しを作っているので」


「アンドロメダ……あぁ、アスフィさんですか。ヘルメス・ファミリアの皆さんには、僕も何かとお世話になることが多いです」




 背もたれに背を預け、落ち着いた心地で語らうリューとベル。


 ガタンゴトン、と小気味よく音を鳴らす列車の振動が、隣同士で座席に腰を掛けるリューとベルを微かに揺らしていた。




 ベルの席は通路側、リューは窓側だ。


 特に理由は無い。リューはベルと隣同士で座れればなんでも良くて、座席の細かい位置に深いこだわりなど無かった。




 ただ、窓側に座っていることが功を奏したのか、今のリューは居心地の良さを覚えている。


 窓の外の流れゆく景色をぼーっと眺めて、たまにベルに目を向けて優しい顔を一瞥する。


 そんな風にゆったりと過ごす時間が好ましくて、リューは自然と顔がほころんでいた。


 隣にベルがいなかったらこうはいくまい。




「――――あ」




 ふと、ベルがリューと肩同士をぴたっと密着させた。


 肘掛けにあるリューの手に、ベルが自身の手を重ねる。


 リューが隣に目を向けると、そこではベルが深紅の瞳を淡い緊張で伏せていた。ほのかに頬を赤らめながら。




(もう、手を握ることより恥ずかしいことを、私達は沢山やったのに)




 いまだ色濃いベルの純真無垢な気質が嬉しくて、リューは微笑んだ。


 勇気を出して自分から握ったであろうベルの手を、リューも握り返す。


 手のひらが密着し、指の間に指が入り、リューとベルの手がひとつになって温もりを共有する。


 恋人繋ぎが完成したとき、ベルはリューと目を合わせた。隣同士の席で座る男女が見つめ合う構図ができあがる。




「――――ベル♡♡♡♡♡」


 愛情をこめて、リューは名前を呼ぶ。




「ッ!♡♡♡♡♡」


 どきんっと、ベルの肩が跳ねた。


 赤面しながら、ベルは顔をリューに近づけ、唇を重ねる。




「「んっ……♡」」




 舌は入れない。


 唇を合わせるだけの、音を立てないソフトなキスだ。


 向かいの席に誰もいないから、キス程度でならリューとベルはむつみ合える。






 これが経験上リューが覚えた、というよりリューがベルに植え付けた、性癖。


 懇願するように、愛情たっぷりに名前を呼ばれたら、ベルは欲情にスイッチが入ってしまう。間近で見つめ合いながらだと尚良し。




 名前呼びフェチ、とでも呼ぶべきか。


 今までリューは、要所でこのスイッチもとい性癖を突くことで、ベルの肉欲を点火してきた。


 最初は無意識に。ベルの性癖を把握してからは意図的に。




 ベルと唇を重ねるリューは、彼が興奮していることを熱で理解した。




「「――――ぷはっ」」




 唇を離す。


 柔らかくて湿った感触が離れて、味気ない空気の感触に取って代わるのが切ない。


 顔を離して、ベルはキスの余韻で蕩けた目のまま呼吸を整えて、やがて落ち着きを取り戻すと、優しく笑って声を打つ。




「今日は、良い旅行になりそうですね」




 ベルのまなざしにリューも微笑む。


 やっぱり、ベルと一緒だと居心地が良い。




「ええ。そうですね」




 短く返して、リューは座席に座り直す。




 隣にいるベルの肩に、ぽすっと、頭を預けた。


 ベルの白髪の匂いを鼻で感じ、ひだまりのような温もりに半身を委ねる。


 もちろん、手は恋人繋ぎのままだ。




「「――――♡」」




 心地の良い甘い雰囲気がリューとベルを包み込む。


 向かいの席に誰もいないとはいえ、長く乳繰り合うとさすがに人目に付くかもしれない。


 だから、横にくっつく程度で済ませている――今は。




 リューは衣服の下から伸びる脚もさりげなくベルの脚に絡めて、照れるベルの顔を見て楽しみながら、安らいでいた。


 相手がベルなら、どこまでもスキンシップへの抵抗感を取り除ける自分の変化にしみじみと感傷を抱く。




 そして、心の深層で、願う。


 ずっとこんな日々が続けばいいのに、と。


 叶うには無理のありすぎる、儚い願いを。






 * * *






 オラリオから特急の汽車で三つ目の駅。


 改札を出て、整備された道から山道に入り、山を登り。


 木々に囲まれた館に差し掛かったリューとベルは、そこを訪れて、短い用事を済ませていた。




「予約したベル・クラネルです。……はい、二人です。……ありがとうございます」




 事務的なやり取りの後、すぐ館を後にする。


 今の館はただの管理事務所だ。これからリューとベルが時を共にする、その拠点となる一室を借りるための通過点だ。




 持参した鞄から地図を取り出したベルが先導する形で、二人は木々に囲まれた道を下っていく。


 山道らしい木製の階段に靴音を連続させて、やがて階段を下りきったリューの視界に、その光景は現れた。






「あの家です、リューさん」


「これは……すごい」


 思わずリューは感嘆を口にする。






 木造のログハウスだ。


 床と壁の木目が、自然の香りが、落ち着いてリラックスできる空間を生み出している。家の中は涼しく、テーブルやベッドといったインテリアにも自然素材が使われていて、室内を見たリューは目を輝かせずにはいられなかった。


 家の外に意識を向けると、草木の音や流水の音が優しげに鼓膜を打ち付けてくれるのが地味に嬉しい。そして玄関から歩いて四、五歩の距離に――これはリューが特に気に入った点だ――水浴びに良さげな、透明に澄んだ泉があった。




 総じて言えば、内外ともに自然の息吹をたっぷり感じ取れる、開放的で小洒落た貸別荘だ。




 自然と調和した風光明媚な木造建築の美しさに、ベッドに腰を下ろしたリューは心を踊らせた。


 そんなリューの隣にベルも腰を下ろす。


 少年の顔は、一本取りました、とばかりにしたり顔だ。




「今までベルと一緒に過ごした場所とは、だいぶ雰囲気が違いますね。……本当にすごい」


「リューさんにこんなに喜んでもらえて、僕も嬉しいです」


「でも、高かったんじゃないですか?」




 唯一の懸念点として宿泊費に言及するリューに、「うっ!」と、ベルは正直だった。


 表情を引きつらせるも、




「まぁ、高くないといえば嘘になりますけど。でも今日は贅沢すると決めているので!」




 がっ、と拳を握って強がるベルに、ふふっとリューは微笑ましい顔になった。


 と、ここで。




「それに、料金を気にするならリューさんもお互い様ですよ。前会計で、割り勘で――」


 ぼとり、と。


 ベルの鞄が床に落ちた。




 不注意から、ベルはベッドの脇に置いた鞄に腰を当ててしまったのだ。


 床に中身があふれる。






「あっ」


「――――」






 リューとベルは、別々の理由で目を丸くした。


 リューは軽い驚きで。


 ベルは、羞恥が多分に混じった狼狽で。






 鞄から溢れたベルの荷物は、二種類。


 どちらも紙袋で包まれていて、中身の一部が床に。




 片方はサンドイッチだ。


 紙製の容器で梱包された、野菜とベーコンをパンに挟んだ美味しそうな一品。


 幸いサンドイッチの方は、容器からパンの先端が見える程度にしか溢れていない。


 床に落ちきっていないため、セーフだ。食べても差し支えないだろう。




 問題はもう片方の荷物だ。


 こちらの方は中身が少なからず紙袋から溢れてしまった。


 床に散らばっているそれらの正体は、






「避妊具……ですね」


「………………はい」






 気まずい沈黙を経てから、ポツリとベルは肯定する。


 床に落ちた薄いゴムの品々と、顔を真っ赤に煮沸させるベルを見比べながら、リューは自分の顔も熱くなっていくのがわかった。




(今日は……『ぜいたく』を、する)




 自分たちがなにをしようとしているのか、生々しく実感する。


 澄み切った自然の空気に浄化されて、なかば忘れかけていた、逢瀬の目的。




 リューはこの先の展開に期待を煮立たせながら――しかし、急がなかった。


 ベルが避妊具を持ってきた理由が気になる。




「とりあえず、これらを持ってきた理由を聞きましょう」


「は、はい。その、ええと」




 バツが悪そうにどもるのを経て、ベルはたどたどしく答えた。




「今までこれを使わなかったのって、冷静に考えて……リューさんにとんでもなく失礼だったんじゃないかと……その、すいませんでしたっ!」


「ベル。気持ちは嬉しいが、そこまで気を遣わなくて良い。避妊は薬物でもできるし、私は周期をきちんと管理しているから大丈夫だ。――――ッ!?」




 思いやりを口にした直後、リューは自分の発言に愕然とした。


 よくよく考えたら、リューの言い分は詭弁だ。ベルの方が道理にかなう。




 未婚の男女が逢瀬で性行為する際、女が男に腟内への直接射精を当然視するのは、どう考えても非常識だ。


 ダンジョンでベルと初めてまぐわって、そこから一度たりとも避妊具の存在に触れてこなかった今までの方がそもそもおかしいのだ。




 それを踏まえて考えると。


 避妊は薬物でもできる、というリューの主張は。


 避妊具なしの膣内射精を、みずから、言外に欲しているようで。




「リューさん?」


「そ、そそ、それより私は、ベルのファミリアにコレが見つかる恐れがある方が心配だ!」




 無垢に首を傾げるベルに、リューは慌てながら屁理屈を並べた。


 避妊具を必要としないことに、別の正当性をひねり出す。




 脳内では「ど淫乱エルフ略してどエロフ」と今は亡きアリーゼ達が大爆笑していた。


 即刻、脳内から蹴飛ばす。




「少なくとも、今日は大丈夫だと思います」




 そんなリューの脳内アストレア・ファミリアに気づく由もなく、ベルは問いに答える。


 ファミリアの仲間に避妊具が、すなわち性行為の物証が見つかるのではないか、という心配に、




「ログハウスの方たちには迷惑をかけてしまいますが。僕は避妊具について、持ち帰ることは考えていません」


 顔を俯かせながら、ベルは思惑を口にする。




「つまり、避妊具については、捨てていくという事ですか?」


「使いきれなかったものは。ただ、せっかく買った以上、叶うならこれらを今日中にすべて使い切ってしまいたいですね。…………あっ」




 柔らかい声で考えを語っていたのが一変、ベルは慌てて口を抑えた。


 だがもう遅い。




 最初リューは、ベルの発言の意味するところへの理解が遅れて「そうですか」と相槌を打つのみだったが――




「……………………えっ」




 ギョッと目を剥いて、リューはベルを二度見した。


 間近で見開かれた空色の瞳に映るのは、顔を赤らめて視線を下げるベルの照れ顔だ。




 つられてリューの頬も赤くなる。


 たくさん性行為したい、と事実上カミングアウトしたベルの失言が脳裏でこだまする。


 甘い空気が生まれる。




「「~~~~~っっっ♡♡♡」」




 隣でベッドに腰掛ける異性の存在感が、色濃い。


 リューは、ベルの躰の匂いが増したような錯覚を覚えた。






(豊穣の女主人は、今日は正式な休暇でお休み。ダンジョンと違ってモンスターの事も、オラリオと違って周りの目も気にしなくていい……)






 邪魔の入らない、安全な――完全な二人きり。


 現状を再認識して、ドキドキとリューは胸が騒いできた。




 小鳥のさえずりすら目立つ大自然の静けさと、ログハウスの清らかな涼しさの中で、間近にいる異性の存在が際立つ。


 なにげなく、ベルの下半身に視線が向いてしまう。


 勃起していた。服を脱がずともわかるほど、これ以上なく。




 雰囲気的に、いつコトが始まってしまってもなんら不思議ではなくて。




 せめて自分から、とリューは顔を上げてベルを見た。


 すると、同じタイミングでベルも顔を向けてリューの顔を見た。




「「――――あ」」




 二人同時に、間の抜けた反応を口にする。




「――ふふっ」「――あははっ!」


 可笑しくなって、リューとベルは自然と笑みがこぼれた。




 思えばダンジョンでの初めてのときも、リューはベルと同じタイミングで同じ動作をしたことがあった。それが懐かしくなった。


 緊張が和らぐ。


 ためらいという溝が消え、自然な心地でリューはベルに顔を近づけ、唇を重ねる。






「「んっ♡♡♡♡♡」」


 熱っぽく唇を分かち合う。




「んちゅっ♡♡♡♡♡ ん~っ、ぷはっ♡♡♡♡♡ あむっ♡♡♡♡♡」


「ちゅっ♡♡♡♡♡ んむっ♡♡♡♡♡ じゅるっ♡♡♡♡♡」


 濃密に舌を絡め合い、互いに瞳を蕩けさせ合う。




 唇だけじゃ満足できないとばかりに、これまた自然と、リューとベルは互いに腕を回し合って、きつく抱きしめ合った。




 服越しに、ベルの細くも引き締まった体が、リューを悦ばせる。


 服越しに、リューの華奢ながらやわらかい体が、ベルを酔わせる。






 ぎゅ~~~~~~~~~っ♡♡♡♡♡


「「んん~~~~~~~っっっ♡♡♡♡♡」」


 強く抱き合いキスしながら、互いに密着を深め合う。




((すっごく、しあわせっ……!!!♡♡♡♡♡))






 幸福感がリューとベルの頭の中で一致した。


 と同時に、もっと欲しいという飢餓感が内から湧き上がる。


 互いの欲望が、行為の段階を上げることを求めていた。






「「――――ん、ぷはぁっ……♡♡♡♡♡」」






 長い長い密着を経て、やっとリューとベルは唇を離す。


 互いに頬を赤く上気させ、蕩けた瞳で見つめ合う。


 唇と唇に、透明で扇状的な橋がかかった。キスを終えたばかりなのに顔の距離が、またすぐキスしてしまいそうなほど近い。




 リューもベルも、接吻への欲求が露見していた。


 邪魔の入らない状況が、欲望をガンガン燃え上がらせていて。






 それをリューは自重する。


 もう一回今すぐキスしたい、という衝動をこらえながら、提案する。




「服、脱ぎましょうか♡」


「っ♡ は、はいっ……♡」




 そこからリューとベルは互いに背を向けて、服に手をかけた。


 布擦れの微音、金具を外すカチャカチャした音を鳴らして、リューとベルは距離を空けて服を脱ぐことに専念した。




 ログハウスに漂っていた甘い空気は、ひとまず膠着する。


 といっても、この膠着はなにか一つキッカケがあればまたすぐ互いが相手を欲してしまう、薄氷のような脆さの上に成り立っていて。




(…………ベル♡♡♡♡♡)




 そんな均衡を、早くもリューは抱擁と接吻で壊したくてたまらない。


 『ぜいたく』は、まだまだ始まったばかりだ。




 * * *




 ただ体の相性が良いだけなら、ここまで深く肉欲に溺れることはなかった。


 リューとベル、そのどちらもが人格者なのが、かえってまずかった。




 優しくて、真面目で、モラルに真摯な人柄。多少の差異はあれど、リューとベルは、互いの人間性を好きあっていた。


 異性うんぬん抜きにしても、こうなる前の時点で元々、リューとベルは普段の交流で気心を許しあっていた。




 知らず知らずのうちにリューの中で作られていた、好意の爆弾。


 本来、ささいな契機で、甘酸っぱい恋と成る筈だったそれは。


 ダンジョンでベルと衝動的にまぐわい、体で繋がったことで――盛大に、爆発の仕方を間違えた。




 初めて性を知る際のやり方を決定的に誤ったことで、リューもベルも何かがおかしくなってしまったのだ。






 後ろめたさが、無いわけではない。


 ベルと交わるとき、リューは今でも心の奥が切なく痛む。




 それでもリューは、今の爛れた関係をやめようとは言い出せない。


 なぜなら、相手がベルなら良いと思ってしまっているから。




 たとえ、後に重大な責任が伴う事態になってしまうのだとしても――相手が、ベルなら。






「私も、ベルと同じ気持ちです」




 生まれたままの姿になったリューが、同じく裸となったベルに迫る。


 頬を桜色に染めたエルフが、最愛の少年に愛おしげに腕を回す。




「今日の休暇は贅沢しようと、思いっきり羽目を外して過ごそうと、決めています」




 ベッドに座るベルの腿にぺたんと尻を乗せ、膝立ちになって抱きしめる。


 リューの方が目線が上になってベルの顔を見下ろす、対面座位の構図だ。




 ダンジョンで初めてベルに胸を吸ってもらったときの、リューにとって感慨深い体位である。




 遅れてベルも、リューの腰に腕を巻いて抱き返した。


 乳房の谷間に埋まった顔をもごもごと上げて、上目遣いでリューを見つめる。




「リュー、さんっ……♡♡♡♡♡」


 なにかを期待するように、ベルの深紅の瞳が輝く。




「~~~~っ♡♡♡♡♡」


 まなざしに射抜かれ、リューの情欲と母性愛が燃え上がる。




 両者ともに、物欲しそうに唇が震えていた。


 こういう時どうすればいいか、リューは定石を知っていた。




 ベルは名前呼びフェチだ。愛情をたっぷり込めて名前を囁けば、ベルは思春期の性欲にスイッチが入って、辛抱たまらなくなる。




 ベルの方からキスするよう、仕向けることができる。


 経験則で知ったその定石に、今回リューは奇をてらうことにした。






「ベルッ♡♡♡♡♡」


 濡れそぼった瞳で見つめながら、名前を呼ぶ。




「~~~~ッ♡♡♡♡♡」


 少年は物欲しそうに目を潤ませて、我慢できずに顔をリューに近づける。




 そして唇を奪ってくる――寸前。


 リューは目を閉じ、唇をすぼめて、自分から先にベルの口を塞いだ。






「ん~っ、ちゅううううぅぅぅ~~~っっ♡♡♡♡♡」


「ッ!!? ん、んんんんんんっ!?♡♡♡♡♡」


 重なり合った唇から、少年の動揺が漏れた。


 事態への理解が遅れて、その瞳を驚愕に見開いている。




 しかし動揺もつかの間、押し寄せる肉欲の高波にさらわれて、深紅の瞳はすぐに蕩けた。心地よさと、愛おしさで。






「んんちゅ♡♡♡♡♡ んふ~っ♡♡♡♡♡ ちゅ♡♡♡♡♡ んむちゅっ♡♡♡♡♡」


「れるっ♡♡♡♡♡ ふんちゅっ♡♡♡♡♡ んんんんっ! んむんっ♡♡♡♡♡」


 ぎゅ~~~~~~~~~~っ♡♡♡♡♡


「「~~~~~~~~~~っ♡♡♡♡♡」」






 リューもベルも目を細めて、歓喜に頬を赤らめる。


 二度と離さないと言わんばかりに抱きしめあい、接吻を続ける。


 リューは上から捕食するように、ベルは垂らされた果実を食むように、互いに互いの唇を求めあい、貪り合う。




 リューの下腹部に当たる硬い男根が、ベルの首筋でたわむ柔い乳房が、艶めかしく重なり合う肌が、互いの情欲に拍車をかけた。






「ぷはああっ♡♡♡♡♡ ああ、ベルっ……!♡♡♡♡♡」


「はぁ、はぁ♡♡♡♡♡ 珍しいですね、リューさんが自分から……♡♡♡♡♡」






 唇から唾液の糸を引きながら、ベルはたずねる。


 少年の照れ笑いを見て、強引なキスが嫌がれていないことにリューは安堵した。




「多分、ここがオラリオではないからです。誰にも気兼ねしなくていいからなのか、気分が高揚している。……ベル♡♡♡♡♡」


「は、はいっ」




 びくりと、緊張で肩が跳ねるベルの純心な反応がかわいい。




「ダンジョンでしたときと同じように、私の胸を吸ってください……♡」


「あ。やっぱりリューさんも、あのときの事を意識していたんですか」


「はい♡♡♡」




 リューは首肯した。


 こうして言葉を交える間も、腰に回された少年の腕が、無垢な笑みが、リューの中で愛おしさを燃え上がらせる。


 それこそ、相手がベルならなにをされても許せてしまえそうなほど、今のリューは興が乗っていた。




「……多少なら、ダンジョンの時より乱暴な狼藉をしても構いません」


「えっ」


「気遣いは無用です。ベルのしたいことを、私にぶつけてください」




 見上げるベルの深紅の瞳が、動揺と性的好奇心で揺れる。


 らしくないことを言ったと、リューは自分でも思った。




 もとよりリューの中にあった、心を許した相手にしか肌を許さないエルフの貞淑さは、相手がベルであれば許容の範疇だった。


 だけど、なかば性的に乱暴に扱うことをねだるような発言は初めてだ。


 今も衝動的に、とんでもない事をリューは口走ってしまう。






「ベル。あなたが相手なら……私は、なにをされても良い……♡♡♡♡♡」


「~~~~ッ♡♡♡♡♡ リューさん流石にそれは言いすぎっ……んちゅっ!?♡♡♡♡♡」






 熱に浮かれた心境のまま、リューはベルの唇を奪う。


 刹那的な言動を咎めるベルの理性を、抱擁と接吻で奪いに行く。




「んんん~~~~~~っ♡♡♡♡♡♡♡」


「っっっ~~~~~!!!♡♡♡♡♡♡♡」




 いいから狂え! 狂ってしまえ!


 私が良いと言っているんだから!




 そう言わんばかりにリューがベルに落とす、全霊の情愛をこめた口づけと抱擁。




 ベルは条件反射でリューの舌に舌を絡めながら、腰に回した腕でリューを抱き返した。


 深紅の瞳に涙がにじみ、熱く蕩ける。






「んちゅううっ♡♡♡♡♡ ぷはっ、ベルぅ♡♡♡♡♡♡♡」


「はぁ、はぁ♡♡♡♡♡ ……ああ、も~っ!!♡♡♡♡♡♡♡」






 ひときわ強く目を閉じ、ベルはやけくそじみた声を上げた。


 どうなっても知りませんからね! と言わんばかりにベルは赤面しながら眉を吊り上げ、リューの胸に顔を突っ込んだ。




「んちゅっ♡♡♡♡♡ ちゅ~っ♡♡♡♡♡」


「ああぁんっ♡♡♡♡♡ ベルっ♡♡♡♡♡」




 いよいよベルがリューの胸を吸い始める。


 ふにゅふにゅと柔らかい音を鳴らしながら、ベルが自らの顔をリューの丸い膨らみに擦り付ける。


 右乳首を音を立てて吸われてリューは身悶えし、ベルの腿の上に乗った柔い臀部が歓喜で跳ね上がった。




 愛おしさのあまり、衝動的にリューはベルの頭を腕に搔き抱こうとする。




 と、ここで。




「ひゃあんっ♡♡♡♡♡」


 もみゅもみゅ♡♡♡♡♡ もみゅもみゅ♡♡♡♡♡


 ベルがリューの左乳房を揉み始めた。






「ベルっ♡♡♡♡♡ べるぅ、んあんっ♡♡♡♡♡」


「ぷは♡♡♡♡♡ リューさん、色っぽすぎますよぉっ♡♡♡♡♡ んちゅっ♡♡♡♡♡」






 やけくそじみた声でリューへの賛美を挟んでから、再びベルはリューの右乳房を口に含んだ。


 ひたすらに乳首を吸いまくる。


 同時に、ベルの右手は張りのあるリューの左胸を掴み、自分がどれだけリューの虜なのかを伝えるように揉みしだく。






「んんんちゅっ♡♡♡♡♡ ちゅっ♡♡♡♡♡ ぢゅ~~~~~っ!!♡♡♡♡♡」


 もみゅもみゅ、もみゅもみゅ!!♡♡♡♡♡


「ひゃああんっ♡♡♡♡♡ あああんっ♡♡♡♡♡ べる、べりゅっ♡♡♡♡♡」







 痕が残るぐらい強く右乳首を吸ってから、一度ベルは顔を胸から離した。


 恍惚の残滓で顔を赤らめつつ、なにか言いたげにベルはムッとしている。


 片手から両手で、リューの両乳房をガッと揉みしだきながら、ベルは思いの丈を言い放った。






「なにをされても良い、なんてっ♡♡♡♡♡ もう、いわないでくださいっ♡♡♡♡♡」


「ふやぁんっ♡♡♡♡♡ なんで?♡♡♡♡♡ なんっ、でえっ♡♡♡♡♡」


「あまりに嬉しすぎて、頭がおかしくなっちゃいますからっ♡♡♡♡♡」


「~~~~~~~っ♡♡♡♡♡」






 声にならない喜悦をリューは喉の奥から溢れさせた。


 胸がキュンキュンして、責める側でありながら責められてるような照れ顔を見せてくれるベルに、リューは甘い嗜虐心が爆発した。






 ベルの頭を胸の中に搔き抱いて、寝台にベルを押し倒す。




「わぷ!?♡♡♡♡♡」


 自分が揉んでいた胸にいきなり顔を潰され、戸惑うベル。


 トントン拍子に、リューは顔をベルの顔に迫らせた。


 急迫する唇に、条件反射でベルは目を閉じる。




「「んんんっ♡♡♡♡♡」」




 もはやどんな状況でも、この二人はキスする・キスされる時は本能で心の準備が整う。




 リューにキスされると悟り、体で覚えた動きをなぞって唇を重ね返したベルは。


 自分を押し倒しているリューが次にどんな行動に出るか、考えが及ばなかった。






「――――んんんっ!?♡♡♡♡♡」


「んふふ♡♡♡♡♡」






 密着した唇から、二種の感情が漏れる。


 少年は動揺、エルフは喜悦。




 下半身にて、リューはベルの男根を股下にくぐらせて、美脚をぎゅっと閉じて太ももを密閉させていた。


 ベルとキスしながら、閉じた太ももの中で痙攣する肉棒の手応えをリューはしかと意識する。




 これならベルをイカせられる。


 膣口にベルの固いモノを擦って、自分が昇天しながら、同時にベルも太ももで気持ちよくできる。






「ぷはっ♡♡♡♡♡ りゅ、リューさんっ?」


「べるも、いっしょに、イッてくらさいっ♡♡♡♡♡」






 唇から唾液の糸を弾きながら、リューは声を蕩けさせた。


 ベルがリューを責めていたはずが、いつの間にかリューが責める側に。


 熱情に浮かれるまま、リューはベルに乗りながら艶めかしく腰を振り、ベルの肉棒を内股と太ももで磨き抜く。






「ああ、あああああああっ!!♡♡♡♡♡ リューさんっ♡♡♡♡♡ リューさぁん♡♡♡♡♡」


「べる♡♡♡♡♡ べる♡♡♡♡♡ べりゅ~~~っ♡♡♡♡♡」






 肉と肉が激しくぶつかるダイナミックな音が鳴り響く。


 艶めかしく腰を動かして肉槍を内股で攪拌するリューに、ベルは自分の限界を伝えるように両手をリューの背中に置いた。


 傍から見れば、もはやリューの方が襲う側だ。




「リューさんっ♡♡♡♡♡ そろそろっ♡♡♡♡♡」


「わらしもっ♡♡♡♡♡ べるっ♡♡♡♡♡」




 呂律の回らない声で名前を呼びながら、リューはベルの顔を両手で掴む。


 切なそうに涙を滲ませた少年の顔を、リューは接吻で独占する。




 ――ベルのこの顔は、私だけのものだ!!






「「んちゅんんんん~~~~~!!♡♡♡♡♡♡♡」」


 唇を重ねながら互いに体をぎゅうぎゅうと密着させ――






 どびゅうううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッッ!!!!!


 ぷしゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!






 歓喜爆発。


 二人は、まったく同時に絶頂した。


 激しく痙攣する体を、互いに抱き合って抑え合う。




 リューの内股から汐が溢れ、閉じた太ももの間から出るベルの男根からは精が溢れ、ログハウスの木材に体液が撒き散らされる。


 室内に散りばめる液体が混ざり合って、漂う性臭がどちらのものかわからなくなる。




「「ぢゅううううぅぅぅぅっっっ♡♡♡♡♡♡♡」」




 ベルの体にのしかかるリューは、抱擁と接吻を維持しながら恍惚に打ち震えていた。ベルも同様だ。


 僅かな痙攣も肌を通じて相手に伝わるほど密接に、唇も含めて全身でベルとリューはくっつき合った。


 両者の肢体はともに汗ばんでいた。肌が程よく光沢を帯びて、触り心地に艶めかしさが二割増しになっている。




 リューの弾力を帯びた胸が、ベルの胸板でぷるんと潰れる。


 ここ最近、胸の発育が良くなっている事にリューは感謝した。






「…………ぷはあああっ!♡♡♡♡♡」


「ぷはあっ!♡♡♡♡♡ べる♡♡♡♡♡ ふぅ、ふぅ♡♡♡♡♡」






 長きにわたる口づけがようやく終わる。


 一旦、リューはベルから上体を起こした。


 冒険者としてのステイタスまで用いたんじゃないかと思えるほどの、とてつもなく長い接吻となった。




 リューは頭に靄がかかっているように目が回っている。


 酸欠だ。あまりに長く、ベルとキスし続けた。




 鼻腔にかかっている熱気はベルの匂いか、それともリュー自身の匂いか、頭がクラクラして判別がつかない。


 一旦寝そべりたいと願ったリューは、ベッドに丁度いい抱きまくら(ベル)があるのでそれにもたれかかることにした。






「べる♡♡♡♡♡ あ、あううう~~~♡♡♡♡♡」


「ちょっ、リューさんっ? 大丈夫ですか!?」






 力なくしなだれかかるリューを、ベルは抱き留める。


 条件反射でリューがベルの背に手を回すと、ベルも腕を回して抱き返してくれた。


 どこか具合が悪いと思っているのか、ベルはリューの背中を優しく擦ってくれる。その気遣いがリューにはとても嬉しい。




 互いに体を抱きしめ合う、密着での体温の共有。


 ひだまりのような温もりに浸りながら、リューは意識していない声が出た。






「べる♡♡♡♡♡」


「りゅ、リューさん?」




「すき♡♡♡♡♡ ……すきぃ♡♡♡♡♡」


「ッ!」






 恍惚の中、リューが無意識に吐露した好意。


 耳元でその囁きを聞き届けると、ベルは決意を固めたように表情を引き締めた。


 その瞬間を、このときのリューは見落としてしまう。




 * * *




「も、申し訳ありません! 私の方からベルに乱暴してもいいと誘っておいて……」


「いつの間にか、リューさんの方が責める側になってましたね」


「あうううう」




 赤面しながらうなだれるリューに、ベルは苦笑いしながら頭を撫でた。


 ベルの気遣いに、リューは涙目で口を曲げながらも甘えて肩によりかかる。




 隣同士でベッドに座りながらの小休止。


 少年もエルフも、いまだに一糸まとわぬ姿のままだ。


 今日はじめての絶頂から一〇分を迎えようとしていた。澄んだ涼しさで満ちていたログハウスの空気に、二人の甘い熱気が漂っている。




 先ほどの行為の余韻は、今もなおベルとリューに軽い恍惚を残していて、両者の頬をほのかな桜色に染めていた。






「ベル、私、変じゃありませんでしたか? やっぱり変でしたよね? ああぁ、恥ずかしくて狂いそう、いやいっそ狂ってしまいたい、あうぅ~!」


 正気に戻ったリューの、今までの経緯を振り返っての悶絶ぶり。


 頬を両手で押さえて首を振る彼女の仕草は、ベルにとってそれはそれは微笑ましいもので。




 ベルは優しい目でリューを見守っていた。


 うろたえるリューの仕草をベルは庇護欲のままに見つめ続けていたが、やがてリューがふくれっ面を見せると、やめ時を悟って目を離す。


 ムスッと拗ねたリューの前でベルは頬を搔くと、




「僕としては、ひと呼吸を置くタイミングが欲しかったので、ちょうど良かったです」


 そう口にして、ベルは自分の鞄を取りにベッドを下りた。


 リューが小首をかしげる傍らで、すぐベルが戻ると、その手に持ってきたものは。




 ベルが持参した避妊具、だった。




「これを付けるの……ちょっと覚悟がいるので」


「あ……」




 ゴム製品を目にした瞬間、リューは自分の心臓が跳ねる音を聞いた。




(こんな、小さなものに。……)




 ベルの手の平の上にあるソレをリューはまじまじと見つめる。


 手の平を握るだけで簡単に包めてしまいそうなちっぽけな薄膜のゴムに、本当にベルの男根が入りきるのだろうか。




 いや、重要なのはそこじゃない。


 ゴムをつけるという前動作が、性行為の本番に移るという生々しい緊張感を走らせている。


 いよいよヤルのだと実感する。その場の勢い任せに挿入するのではない、ゴムをつけなかった今までとは違う独特な緊張感が湧く。




「ええっと……あ、伸びる。なんとかなりそうです」


「――――」




 ぎこちない動作で、途中からはコツを掴んで順調に、ベルは自分の陰茎に避妊具を被せていく。


 その様子を、どこか遠いものを見るような気分でリューは見ていた。


 かつては純真無垢だったベルの、過去からの変わりようを実感する。






 ……自分で変えておいて。






「っ! ――――」


「準備できました、リューさん。……リューさん?」


「――――」




 目に見えて顔を青ざめさせながら、リューは凍結してしまった。




 息が詰まる。動悸が激しい。今まで見るべき道徳に目をそむけてきた事への報いのように、リューの心臓は騒いでいた。


 これ以上は超えてはいけない一線だと訴えるように、強迫観念めいた後ろめたさがリューを襲っていて――




「リューさん」


「ッ!」




 優しい声で、名前を呼ばれた。


 ベルだ。リューの震える手を撫でながら、心配そうに顔を覗き込んでいる。




「……やめましょうか?」


「いえっ! せっかく付けたのですから、最後まで!」


「――――」




 即答だった。


 食い気味に、リューは性行為の中断を却下した。




 面食らって固まるベルの、彼から差し出された温かい手を、リューは縋るように両手に取って額を擦り付ける。


 ベルの手の温もりをもって、リューは強迫観念を追い払おうとした。


 今さらベルとの交わりをやめるのは、もっと嫌だった。




「う、ううぅぅっ……」


「――――」




 必死に、リューは追いすがってくる後ろめたさと戦う。


 リューは顔を俯かせたまま、ベルの手に縋るようにして顔を隠していた。


 まだ顔を上げられない。次に自分の顔を見せるときに、ベルに余計な心配や心労を負わせたくない。


 気を抜くと、今まで目をそらすことができていたものが、すぐにでも記憶から蘇ってきそうで。




「……?」


 ふと、気づく。




 リューが縋っている、ベルの右手も震えていた。


 顔を上げてベルの表情を見る。




「――――」


 ベルは、いつになく神妙な雰囲気で口を結んで、眉尻を下げていた。


 なぜかベルも、緊張を露見させていた。




 小さな鼓動が聞こえる。自分のではない、ベルの鼓動だ。


 頬をつたう一滴の汗が、少年の深刻な心情を物語る。


 まるで、今からなにか大事なことを言おうとしていて、その重圧に息を詰めているようで。






(……もしかして。ベルには本来、他に想い人がいて、それを今ここで――)


 発想が飛躍した、それでいてニアピンな考察にリューが潜りかけたとき。




「リューさん」


「は、はい」


 短いやり取りを経てから、決然としたまなざしで、






「僕はリューさんが好きです」


 ベルは爆弾を投下した。






 * * *






 今までベルとリューは、互いに「好き」だと、行為の最中に言ったことが無かった。


 「大好き」も、「愛している」も、両者ともに口にしたことは無い。






 リューにとってその理由は、自分が友人であるシルの想い人と体を重ねていることへの後ろめたさにある。


 ダンジョンでなし崩し的にベルと交わってから、ずるずるとこの関係を続けて、それでも最後の一線は維持されていた。




 心のどこかで、侵してはならない不可侵の聖域が存在する。


 ベルと本物の恋人になりたいなんて、間違っても言ってはいけないと。




 たとえそれが、性欲の捌け口と呼ばれるような関係であっても。


 一時的で、いつか終わる儚い夢であっても。




 ベルが、自分を特別な対象として見てくれる。


 それだけで十分。


 そこから先は、度が過ぎる。






「僕は、リューさんが好きです」


 なので、ベルがリューに面と向かって口にしたこの言葉は、リューにとって禁忌だった。




 今まで避けられ続けた領域に、ベルは踏み込んだ。






「………………え」






 リューは思考が空白化した。


 たった今ベルが何と言ったのか、どこか他の解釈の余地が無いか、理解に時間を要する。


 数秒を経て、リューは飛び上がるような嬉しさを感じ、しかし直後。


 臓物が凍るような悪寒がリューの全身を抱いた。




「――――ッッッ!!」




 だって……そうだろう。


 ベルがリューを好きだ、という事は。


 リューは、シルという莫逆の友を裏切って、体をもってベルを寝取ったという事に他ならなくて。






「リューさん」


「はっ、はいっ!?」






 涙目で顔面蒼白になりかけたリューの顔を、ベルは覗き込んだ。


 少年とエルフの顔が近づく。






「嫌でしたら、突き飛ばしてくれて構いません」


「あ……」






 迫りくる少年の唇の熱に、リューは空色の瞳を揺らした。


 ベルの背中に手を回して、抱きしめながら、寝台にみずから押し倒される。




 脊髄反射のごとくスムーズな手際の良さだ。


 キスされると予期したとき、既にリューは受け入れる心構えができていた。




 目を閉じ、唇に来るであろう湿った感触をリューは待つ。


 このまま情欲に溺れて、ベルに対する返答を有耶無耶に――






「僕は、リューさんが好きです」


「……」


「僕は、リューさんが好きです。好きです!」


「ま、待った。待ったぁ!」






 これ、返事をしないといけない場面なのか!?




 思わずリューは目を開けていた。心の中は半泣きだ。


 頭の中は恐るべき推測と焦りでいっぱいっぱいだ。




 目の前のベルのあどけない顔に、もういっそ無理やりにでもいいから、リューは今すぐ唇を奪われたかった。


 早く情欲に溺れてしまいたかった……己の心情の奥底を、暴かれるくらいなら。






「ベル! 貴方が相手なら、抱きしめても、キスしても、胸を激しく揉まれても、私は構わない」


「リューさん……」


「だけど、その言葉だけはいけない。『好き』なんて、言葉だけは。私にそんな言葉を言ってもらう資格なんて――」




「じゃあ、愛しています!」


「あ、あいぃぃ!?」




 自分でも驚くほど素っ頓狂な声をリューは出した。


 心の中で半泣きだったのが、抑えられず現実でもリューは涙目だ。




 やはりベルは返事を貰えるまで、リューの唇も腟内も貪ってくれない気でいるのだろうか。


 そんなのひどい! あんまりだ!






「僕は、リューさんを愛しています! リューさんの返事を聞かせてください!」


「待ったぁ! ベル、貴方はずるい! いくらなんでも、これは卑怯だ!」


「卑怯じゃないです! 本来、僕たちがしようとしていることは、互いに愛し合っている男女が行うものですよ! 意思確認は大事です!」


 ちくしょう正論だ!!






 どたばた暴れるリューを抑えてベッドに軋む音を立てながら、ベルは当たり前の道理をリューに突きつけていた。


 このとき、なぜかリューの脳内ではアリーゼを始めとするアストレア・ファミリアの面々が、「いけー!」「押せー!」とか騒ぎながらベルを応援していた。




 なにより、誤魔化しようのない甘い気持ちが、リューの中で呼応していて。


 言ってしまいたい、解き放ってしまいたいという衝動がリューの中にあって。




 だって、ベルが言った言葉は。


 今まで避けていたけど、本当はリューがなによりも欲していたものだから。






「リューさん」


「あ、う……!」






 真摯な少年のまなざしに、エルフの美しい瞳が涙に濡れる。


 抑えきれず、溢れる。


 もう、リューはダメだった。






「私も……私も、ベルが、好きっ」


 その甘い響きが空気を震わせた、次の瞬間。




 ずぶんっ、と。


 ベルは避妊具を付けた男根を、リューの腟内に突き入れていた。






「はううううっっ!!!♡♡♡♡♡♡♡」


「あううううっっ!!!♡♡♡♡♡♡♡」






 喜悦と我慢が入り混じった、両者の官能の声が飛ぶ。


 優しいベルらしからぬ、リューの許可を待たない強引な挿入。






「ご、ごめんなさいリューさん! 実は僕も、我慢の限界で。思わず、つい――リューさん?」


「~~~~~~~~ッ♡♡♡♡♡」






 弁解するベルの声を無視し、リューはベルの腰に脚を巻き付けた。


 ぐいぐいとベルの腰を引き寄せて、腰を振るよう言外に促す。


 我慢の限界というなら、リューも同じだった。好意をはっきり口にしてしまったことで、甘い衝動が抑えられなくなっていた。






「ベルっ♡♡♡♡♡ すきっ♡♡♡♡♡ すきっ♡♡♡♡♡」


「~~~っ♡♡♡♡♡ 僕も、リューさんが好きです!♡♡♡♡♡ すきです!!♡♡♡♡♡」


「~~~~~~っっ♡♡♡♡♡」






 なんなんだこれは。


 多幸感の上限が見えない。


 愛を言葉にして叫び合うだけで、こんなにも嬉しいのなら。


 性行為をしながらだと、どれほど――




 その好奇心をリューとベルが実行に移すまで、時間差は、刹那すら生じなかった。




 互いにきつく抱きしめあい、艶めかしく腰と腰をぶつけあう。


 肉と肉が激しく擦れ合って、バチュバチュと淫らな水音が連続する。






「リューさんっ♡♡♡♡♡ すきですっ!♡♡♡♡♡ 好きです、すきですぅっ♡♡♡♡♡」


「べるっ♡♡♡♡♡ すきっ♡♡♡♡♡ すきすき、好きっ♡♡♡♡♡」




 衝動的に、どちらともなく、リューとベルは唇を重ね合った。




「「んんんん~~~~~~~~~ッ♡♡♡♡♡」」






 口付けを交えつつ、互いに腰振りを続行する。


 吸い付き合い、絡み合う。バチュバチュと、淫靡な水音が鳴り響く。


 リューもベルも同等の猛烈な勢いで、艶めかしく相手に性器を叩きつけ合い、莫大な快楽を暴食する。






「んちゅっ♡♡♡♡♡ すきっ♡♡♡♡♡ リューさん、すきですっ♡♡♡♡♡」


「んむっっ♡♡♡♡♡ ぷは、すきっ♡♡♡♡♡ ベル、すきすき好きっ!♡♡♡♡♡」


 パンパンパンパンパンパンッ!!♡♡♡♡♡


((~~~~~~~~~~~~~~~~ッ♡♡♡♡♡))






 滅茶苦茶だ。


 両者ともに、多幸感が頭の中で言語化できない。




 それこそ、互いが互いをレイプしていると表現しても過言じゃないぐらいの、激しすぎる貪り合いだった。




 腟内の肉壁をベルの異物が侵入して擦れるごとに、リューは莫大な多幸感で涙が溢れる。


 ベルの背中に爪を立てる。両思いだと確認が取れたからこそ、リューは深層心理で掛けられていた枷が完全に外れたのかもしれない。




「リュー、さんっ♡♡♡♡♡ そろそろ、でますっ……♡♡♡♡♡」


「っ!♡♡♡♡♡」




 ベルの予告を受けて、リューはベルの体にがしっとしがみついた。


 甘い疼きをこらえて切なそうにするベルの目と、リューの視線が合う。






「……ベル♡♡♡♡♡♡♡」


 ――キスしながら、一緒にイキたい。






 その願望を、リューが口にするまでもなく、ベルは汲んだ。


 ベルからリューの唇を塞ぎ、抱き合いながら腰を振る。


 リューは脚をベルの膝裏に回して、脚同士を絡めさせた。両者の手脚の絡まり具合は濃密すぎて、どちらがどちらの四肢か分からないほどだ。






「んちゅっ♡♡♡♡♡ んっ、んっ♡♡♡♡♡ んっ、んううっ♡♡♡♡♡」


「んむっっ♡♡♡♡♡ ん、んっ♡♡♡♡♡ んふっ、んーっ♡♡♡♡♡」


 パンパンパンパン♡♡♡♡♡ ばちゅばちゅ、ばちゅばちゅ♡♡♡♡♡






 唇の結合部から溢れる互いのくぐもった声、性器の結合部から溢れる肉の打突音。


 リューは淫らな音響に鼓膜を揺らしながら、視界を満たすベルの顔に酔いしれた。




 唇を塞ぐ湿った感触に、全身を満たすぬくもりに、のしかかる少年の体重に、互いに抱きしめ合う密着感に、腟内を突く牡の証に、かぐわしい少年の匂いに、自分だけに見せてくれる情欲に溺れた深紅の瞳に。


 ベル・クラネルの心体を構成する全てを誰よりも独占するこの瞬間を、最高の至福とともに味わいながら。


 リューは。






 ばちゅばちゅ、ばちゅばちゅ♡♡♡♡♡


 ばちゅばちゅ、ばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅっ!!♡♡♡♡♡♡♡


「「ん、んんんんんんんんんんんんんんん~~~~っっっ!!♡♡♡♡♡♡♡」」






(ベル………………大好きっ!!!♡♡♡♡♡♡♡)






 どびゅうううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッッ!!!!!






 リューは、受け入れた。


 膣内で、ゴム越しにベルの精が爆発する感触を歓迎するのと、同時に。




(――私は、ベル・クラネルを異性として愛している)




 今まで後ろめたさから認めるのを避けていた、この心の叫びを、リューはついに受け入れたのだった。






 * * *






 寝台が、二人分の男女の体重で凹んでいた。


 ベッドに凭れながら、リューは心地よい温もりを腕の中に抱く。


 自身の腟内で男根を律動させる少年の体を、ぼんやりと恍惚とした心境のままリューは迎え入れ、抱きしめていた。




「んっ♡♡♡♡♡ ふっ♡♡♡♡♡ ちゅうっ♡♡♡♡♡ れる♡♡♡♡♡」


「ふんっ♡♡♡♡♡ んむっ♡♡♡♡♡ んちゅうっ♡♡♡♡♡ んんっ♡♡♡♡♡」




 性的絶頂を過ぎて余韻を楽しむ段階になっても、二人のキスはいまだに続く。


 求め、求められるままに、唇と唇を重ね合い、抱きしめあう。




 激しい性行為の負担をお互いに労りあい、なおかつ次の性行為のために欲情を高め合う、甘酸っぱい口付け。


 リューもベルも、荒くなっていた互いの鼓動が落ち着きつつあるのを感じていた。


 両者ともに、再燃しつつある情欲の色が瞳に灯る。




「んちゅ~~~~っ♡♡♡♡♡ ……ぷはっ。ふうっ」




 ひときわ長い口付けを挟んでから、リューは唇を離し、一息ついた。


 唇に唾液の糸を弾きながら、覆いかぶさるベルもろとも、リューは上体を起こす。




「リューさん?」


「凄く……気持ち、良かったです。ありがとう、ベル」


「あ、えーと。はい」


「行為の最中、私のことを好きだと言ってくれたことも。……本当に、嬉しかった」


「っっ……は、はいぃ……」




 恥ずかしそうに赤面している、愛おしい少年の姿をリューは目に収めた。


 その意外に力強い腕に、もっとリューは抱かれたかった。


 しみじみとリューの全身に、心身ともに気力を滾らせるなにかが浸透している。


 言葉にするなら、これが愛欲というものなのだろう。




「体が温まって、血の巡りが良くなってきたせいでしょうか……。ベルと一緒にしたい事が、頭の中にどんどん湧いてきます」


「リューさん? ……っと!」




 リューはベルの腕を引きながら、元気よくベッドから下りた。


 強引さに少し面食らいつつ、ベルも下りる。リューにログハウスの玄関に連れられる。




「ベル! 次は、水辺で愛し合いましょうっ」




 このときのリューの顔は、無垢な少女のように楽しげで、見ている側も嬉しくなるほどのそれはそれは明るい笑顔で。




「はいっ!」


 即答だった。


 こんなにも楽しそうに笑うリューの誘いを、今のベルが断るなどあり得なかった。




 ベルが持ってきた荷物の中には水や食料もある。


 避妊具も、まだまだ沢山ある。


 今日の『ぜいたく』は、まだ終わらない。




 * * *




 それからというもの、リュー・リオンとベル・クラネルは。


 堰を切ったように、互いの体を貪り合った。






 時には水辺で、水のしたたる互いの躰を、欲望のままに。







「ひゃあんっ♡♡♡♡♡ ベル♡♡♡♡♡ もっと、むね、揉んで♡♡♡♡♡ ああんっ♡♡♡♡♡」


「あううっ♡♡♡♡♡ リューさんっ♡♡♡♡♡ 柔らかいっ♡♡♡♡♡ きもちいいっ♡♡♡♡♡」




 肉と肉がパンパンと鳴らす激しい打突音に、膝まである泉水がじゃぶじゃぶ跳ねる音が混じる。


 ベルに背後から胸を揉ませながら、リューは自分の閉じきった腿の中でベルの肉棒が震えるのを知覚した。




「リューさんっ♡♡♡♡♡ でる♡♡♡♡♡ だしたいですっ♡♡♡♡♡」


「ベル♡♡♡♡♡ イッて、くださいっ♡♡♡♡♡ すきなところにっ♡♡♡♡♡」


 ――――――――


 ――――


 ――






 時にはログハウスの中に戻って、寝台の上で激しく。






「一度でいいから、ベルを本気で犯したい。じたばたもがくベルを無理やり押さえつけて、手加減抜きで、騎乗位で淫らに犯してみたいです」




「……」←あっけにとられる少年の沈黙


「……」←しだいに顔が赤くなるエルフの沈黙




「……いいですよ」


「すいません、忘れてくださいっ!! ……えっ」




 実践。




「ベル♡♡♡♡♡ すき♡♡♡♡♡ すきすき、すき~っ♡♡♡♡♡♡♡」


 どびゅうううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッッ!!!!!


 ぱんぱんぱんぱんぱんぱんっ♡♡♡♡♡♡♡


「ああぁぁぁぁぁぁっ♡♡♡♡♡♡♡ リューさんっ♡♡♡♡♡ でてます、でてますって♡♡♡♡♡」


「まだまだ♡♡♡♡♡ もっと続けてやります♡♡♡♡♡」


「いやいや、避妊具! 避妊具をつけ変えないとっ♡♡♡♡♡」


「まだるっこしいですっ♡♡♡♡♡」


「ええええええ!!?」




 ぱんぱんぱんぱんぱんぱんっ♡♡♡♡♡♡♡


「あ、でちゃうっ♡♡♡♡♡♡♡ でちゃうううぅぅ!!♡♡♡♡♡♡♡」


「だしてえっ!!♡♡♡♡♡♡♡」


 どびゅうううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッッ!!!!!


 ――――――――


 ――――


 ――






 たまに、休憩時間も挟みつつ。






「はい、リューさんも。あーん」


「あ、はい……ええっ!?」




 口元にサンドイッチを出してきたベルに、リューは腰を掛けるベッドから跳ねた。




「そんなに驚きますか? さっきリューさんが僕にしてくれたことを、お返しししているだけですが」


「で、でも。その。……恥ずかしい……」




「リューさん。ダンジョンの深層で、青のウーズを僕に飲ませたときのことを覚えていますか?」


「え? 覚えていますけど、それがなにか」


「あのとき、僕にすっごくマズいものを飲ませておいてリューさんが飲まなかったの、実は僕、すごく根に持っているんですからね!」


「ええええええっ!!?」


「さ、リューさん! あーんですよ、あーん! サンドイッチに、がぶっと!」


「あうあうっ♡♡♡♡♡」


「ウーズを飲むときよりはずっと良いでしょう! さあ、さあっ!!」


「~~~~~~ッ♡♡♡♡♡」




 妙に積極的なベルの押しに、リューは顔を赤らめながらも根負けする。


 先刻、騎乗位で好き放題に責めさせてくれたという恩義もあった。




「あ、あーん……♡♡♡♡♡」




 照れながらも、口元に運ばれるサンドイッチをリューは咥え込む。


 もぐもぐ咀嚼する。


 その様子をベルに庇護欲の伴った目で見られて、恥ずかしい。






「リューさん……かわいい」


「~~~~~~♡♡♡♡♡」


 間近でベルに囁かれ、言いようのない歓喜がリューの体を抱きしめた。






 すぐにでも見つめてくるベルの唇を奪いたい衝動が湧いたが、それをリューは抑える。


 今は食事中だと、自重する。




 余談だがこのとき、リューの脳内では。


 輝夜にライラ、アリーゼといったおなじみの脳内アストレア・ファミリアの面々が。


「あーんよりもっと恥ずかしいことをしてるくせに」「毎度毎度あんあんイチャラブってるくせに」「リュー可愛い」等と、からかい談義でたいそう盛り上がっていたそうな。


 ――――――――


 ――――


 ――






 そうだ、イチャラブだ。


 途方もなく『ぜいたく』なイチャラブだ。


 時間と体力と性欲が許す限りのすべてで、愛し合う。


 そのためにリューとベルは互いの休暇を同日にして、割り勘で高い金を払ってまで、オラリオの外のログハウスまで来たのだ。




 誰の横槍も入らない場所で、突発的ではなく正式な休暇ゆえに知人に怪しまれる心配も無く、たっぷり時間を確保した上で。


 昼食に水、さらには避妊具と、持参品も万端に整えて。


 自然に囲まれたログハウスという、ロケーションにも拘って。






「んちゅっ♡♡♡♡♡ んんんっ♡♡♡♡♡ んむっ♡♡♡♡♡ ん♡♡♡♡♡」


「れるっ♡♡♡♡♡ はむっ♡♡♡♡♡ んちゅっ♡♡♡♡♡ ぢゅ~っ♡♡♡♡♡」


「ぷはっ♡♡♡♡♡ リューさん、大好きです♡♡♡♡♡♡♡ 大好きですっ!♡♡♡♡♡♡♡」


「ベルッ♡♡♡♡♡ 好き♡♡♡♡♡ 大好きっ、大好きいぃぃ!♡♡♡♡♡♡♡」


 どびゅうううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッッ!!!!!






 最愛の異性を独占する、狂おしいほどに愛おしい時間をリューは堪能する。


 ベルと抱き合い、キスして、精を受け止める。




 何度も、何度も、たくさんたくさんたくさんたくさん。




 時間と体力と性欲が許す限り、何度でも――


 ――――――――


 ――――


 ――






 * * *






 誰もいない夜の森で、二人で永遠の愛を月に誓う。


 胸に秘めておく分には、素敵な恋の一場面。




 だけど、うっかり知人に口にしようものなら、やれロマンチストだの潔癖モンスターだの、笑いものにされるのを通り越して真顔で引かれる、脆い幻想。


 そんな乙女に過ぎる理想を、最初に心に秘め始めたのはいつの頃だったか。


 もうリューは思い出せない。






 夜になった。






 木々の隙間から落ちる太陽のまばゆい光はもう無く、淡い月の光に取って代わられている。




 薄闇の中、鞄の中を整理して、ポケットの中になにかを入れるベルの姿がリューの目に映った。


 帰り支度をしているのだろう。




 月明かりに照らされたベルの凛々しい横顔に、寝台で横になるリューは漠然と見惚れていた。




「――――」




 もうすぐ、『ぜいたく』は終わる。


 ベル・クラネルと二人きりで睦み合う、この最高に愛おしい時間が、終わる。




 それをしみじみと実感して、リューは柳眉を下げた。


 胸の中に、形容しがたい切なさが詰まっている。


 無論、いつまでもこんな時間が続くと思っていないし、いつか終わりを迎えるからこそ、リューはベルと全霊で愛し合った。悔いを残さないように。




 それでも、どうしても、心ある者のサガというやつなのか。


 名残惜しむ気持ちが、リューの中に否応なく湧いてしまう。




 こちらの目線に気づいて、ベルはにこっと微笑んでくれる。


 その笑顔の優しさが愛くるしくて、リューはしみじみと感じ入った。




「起こしてしまいましたか? リューさん」


「いいえ。……そろそろ帰りましょうか」






 薄緑色の髪をひと撫でして、リューは寝台から立ち上がる。


 布擦れの微音を鳴らしながら、衣服を着用していく。


 リューから帰宅を口にしたのは、未練を己の心にこれ以上湧かせまいとする、自分なりの気持ちの整理をつける目的があったのだが。




「その前に、リューさん。最後に軽く、歩きませんか」


 ベルは、すぐ帰ることに賛同しない提案を口にした。




「? ……はい」


 特に断る理由は無い。


 最後にほんの少しだけ、ベルと一緒にいられる時間を長引かせられるなら、リューにとってそれはそれで喜ばしいことだ。




 なのでリューは、僅かな違和感を覚えつつも、それを放置してベルと一緒にログハウスの外に。




 ……否、その違和感の正体に、扉を出る寸前でリューは気づいた。




「――――!」


 優しげに深紅の瞳を細めるベルの横顔が、一瞬、ある覚悟を決めたように表情を硬くしたのを、リューは見逃さなかった。






 ログハウスの外で、ベルはなにか大事なことを言うつもりだ。と予期し、


「――――っ」


 ベルの背後で、リューは表情を暗くしてしまう。






 * * *






 草地を踏みしめる足音が、心なしか、いつもより目立って聞こえる。




「月が綺麗ですね」


「……はい」




 軽いやりとりを交わして、夜の森を歩く。


 ベルの言葉につられて、リューは天を仰いだ。




「――――」


 本当に綺麗な夜空だ、とリューは素直な感想を抱く。




 今日は満月だ。


 加えて、夜天で美麗な輝きを発するのは月だけにとどまらず、星々も美しい。


 雲ひとつ無い夜空という真っ黒なキャンパスで、数多の星々が淡く光って自己主張している。瞳に入る光の一粒一粒がリューに高揚感と恍惚を与えてくれる、大空の宝石たちだった。


 風で木々が微動する大自然のざわめきと相まって、眺めと音の両面でリューは満たされる。


 照明の多すぎるオラリオの歓楽街ではこうはいかない、満天の星々。




 ――誰もいない夜の森で、二人で永遠の愛を月に誓う。




 ふとリューは、胸に秘めている己の理想が頭によぎる。




 ベルが傍にいるので表情にこそ出さないが、内心でリューは自嘲した。


 なんて皮肉な巡り合わせだろう、と。




 最愛の人と永遠の愛を誓い合う、と夢想してやまなかった理想の中で。


 理想と酷似している今の状況で――リューは、ベルと。






「リューさん……大事な話が、あります」


 来た。


 ベルに言われるその前に、リューは自分から切り出して機先を制する。






「わかっています」


「え?」


「ベルが、なにを言いたいのか。……私はわかっている」






 向かい合うベルの深紅の瞳に、こちらの緊張を見抜かれてはいけない。


 無意識に胸を抑えながら、リューは言うべき言葉を口にした。






「お別れを……言う、つもりでしょう?」


 ずしりと、リューは心臓が重くなった。






「ええっ!?」


「貴方も、重々承知しているとは思いますが」


 語調が早くなる。


 驚きに目を見開くベルに、こちらの悲痛な心境を見抜く材料を与えてはいけないのに。




「いつまでも、この関係を続けるわけにはいかない。私もベルも、嘘が下手だ。続ければ、どこかで綻びが出るのは目に見えている」




 つらい話はなるべく早く終わらせたい、という衝動をリューは抑えることができずにいた。


 心を襲う泣き出したくほどの悲しい重圧に、胸を抑えるリューの両手が震えていた。




「なし崩し的に体で繋がり合う、どう考えても不健全な、私とベルの今の関係は……」




 せめてもの意地で、リューは唇に笑顔を作った。


 語調も感情も取り繕えないなら、せめて上っ面だけでもベルの前で平常心でいたかった。


 なのに。




「いつか……どこかで…………お、終わらせなくては……………………」




 涙が溢れる。


 視界が滲む。


 月明かりに照らされたベルの心配そうな顔が、ぼやけていく。




 リューは自分を責めた。


 最愛の人に醜態を晒す、言うことを聞かない涙腺に怒りの感情が込み上げる。




(なんて無様。嗚咽なんてする資格、私には無いだろう!!)




 だって、十分すぎるほどに、幸せをもらったから。


 ダンジョンの中で初めてベルと体を重ね合ってから、その後も折を見てベルと交わって、たくさん唇を重ねて、抱き合って。


 自分の体にベルが夢中になってくれるのがリューは嬉しくて、己の性欲をベルに受け止めてもらえるのも喜ばしくて。




 リューの頭に、ベルと共に過ごした時間が湯水のように蘇る。


 体を重ね合った時だけじゃない。


 初めてベルに手を握られて、水浴びを覗かれて、『戦争遊戯』で共に戦って、イケロス・ファミリアの奸計に巻き込まれたベルを助けて、殺人の疑惑をかけられたときベルは愚直にリューを信じてくれて、ダンジョン深層で自己犠牲に走ったリューをベルは身を挺して助けてくれて。


 もともと純真無垢で、今は冒険者として精悍な逞しさをも身に着け、成長したベル・クラネル。




(そんな彼を――私は、穢した)


 浅ましい性欲で、少年の価値観を汚染した。




 好きだと言ってくれた。


 大好きだと言ってくれた。


 愛している、とまで……言ってくれた。






「うぅ……うぅぅぅ……!」


 止まれ。止まれ。止まれ。


 必死に縋り付くリューの心に、しかし涙腺は背信し続ける。


 一向に、涙は止まってくれなかった。






 リューは顔を俯かせる。感情の収拾がつかない。


 存在してはいけない筈の未練に足をすくわれる醜態を、これ以上ベルに見られたくなくて。


 それでも、自分のせいで話が停滞している事に変わりはなくて、それがとてもみっともなくて。






「……あ」


 だけど、ベルにぎゅっと抱きしめられ、途端にリューは安堵する。


 背中にベルの腕が回され、ひだまりのような温もりがリューを包んだ。






 現金なものだ。こんなにもあっさり安心感を覚えてしまう自分の単純さを、リューは小憎らしく思った。




「ダンジョンでリューさんとひとつになってから、僕の中で変わったことが無いと言ったら……嘘になります」




 ベルの声だ。


 誰よりも愛おしい、少年の優しい声にリューは耳を傾ける。




「きっかけは、正しくないのかもしれない。それでも……リューさんと共に過ごす時間が、いつしか僕にとって、かけがえのない大事なものに変わっていったのも、本当なんです」




 ……話の方向性がおかしい。


 涙目になった空色の瞳を、リューは訝しげに歪めた。


 話の流れ的に、ベルが別れを切り出すつもりというのはリューの早合点だった、というのは分かる。分かるけれども。


 それなら、ベルの言おうとしていることは一体――






「僕は、リューさんが好きです」


「っ……それは、貴方が責任を取ろうとしているから」


「違います。責任とか義理とか、そういう話とはまた別にして、僕自身の気持ちとして、僕はリューさんが好きなんです」






 まっすぐな少年の声音が、リューの心の氷を溶かしていく。


 耳元で心を震わすベルの声は、彼が自分自身の気持ちに向き合い、迷い、悩み、その上で答えを出したものなのだとわかる。




 その真摯さを、しかしリューは受け入れることができない。


 本来ベルが好きになった筈の人への、あるいはベルを好いている莫逆の友への、途方もない罪悪感が足枷になっている。


 少年と結ばれるのに一番ふさわしい人物を差し置いて、自分がベルと結ばれることが、とてつもなく怖い。




 一方そんな心境とは裏腹に、リューの体は抱きしめてくるベルを、されるがままに抱かれっぱなしで、押しのけようともしない。


 安心できる少年の体温を手放したくない自分がいて、それ故にベルを拒絶することができない。


 ベルと結ばれるのにも、ベルと別れるのにも、どちらにもリューは覚悟が足りていなかった。




「これからも、僕はリューさんと一緒にいたいです。自分の一生を、リューさんとずっと一緒に歩いていきたい」




 ベルの声に、リューは絆されまいと目を閉じる。


 ベルの人生を自分などに縛らせてはいけないと、リューは心に砦を築き上げて、籠城する。


 今ならまだ無かったことにできると――




「その気持ちの証明として用意したものを、これからリューさんにお渡しします」


「……え?」




 頑なだったリューの心が、疑問符で満たされた。


 ベルが抱擁をやめ、リューから一歩離れて、リューは呆然とした。


 ここに来てベルがなんらかの物的な贈り物を渡してくるなんて、リューはまったく予想だにしていなかった。




 服のポケットをまさぐるベルの手が、リューの空色の瞳に映る。


 数刻前、鞄の中を整理していたベルの姿が、脳裏によぎる。


 当時のリューがてっきり帰り支度のためだと思っていた、ベルがポケットの中に入れたものが、ここで取り出されて――






「法律的には、まだ僕は結婚できる年齢じゃないですけど……婚約ならと思って」


「――――」






 世界が静止する。


 リューの目が見張られる。


 ごおっと、ひときわ強い風が、リューとベルの髪を揺らした。




 指輪だった。




 箱状の小さな入れ物をぱかっと開けて、ベルがリューに差し出したものは、指輪だった。


 銀色のリングに、透明感のある白い宝石を飾り付けた、素朴ながら美しい、約束の指輪。




 なにを約束する指輪なのか。


 さすがにその意味を知らないほど、リューの知識は幼稚ではなかった。




「……いいのですか、ベル」




 むしろ意味を知っているからこそ、確認がリューの口から出る。




「はい」


「っ……こんなにも……こんなにも、尊いものを……!」




 私なんかのために。


 とまで、リューは声にすることができなかった。




 涙が溢れる。今度は悲しみによるものではなく、大きすぎる喜びの涙がリューの頬を濡らした。


 胸が歓喜で高鳴り、嗚咽と喜悦で顔がしわくちゃになる。毅然とした振る舞いなんて、リューはまったくできないでいた。




 氷が、溶けていく。


 築かれた心の砦が、瓦解する。


 リューを頑なにさせていた、愛情へのリミッターが、全て霧散する。




「ベル……!」




 ベル。ベル。ベル。


 好き。大好き。愛してる。


 ベルと……ずっと、一緒にいたい。




 本心に素直になれば。


 ひとたび枷が解かれてしまえば。


 リューのベルに対する愛情はもはや未曾有の域にあり、プロポーズを断る理由など毛ほども存在していなくて。






 誰もいない夜の森で、二人で永遠の愛を月に誓う。




 心に秘めていたその理想を、ついに現実化させようと、リューは。




 左手の薬指を前に差し出して、まっすぐ見てくるベルの瞳に視線を合わせた。


 ……さすがに緊張する。






「ベル……その指輪を、つ、つけて、くれませんか」


「リュー、さんっ……!」






 ごくりと、ベルが喉を鳴らした。


 ベルも緊張しているようだ。


 少年とエルフの頬が、かあっと瞬時に赤くなる。




 この指輪をベルがリューの左手の薬指につけたら、その瞬間。


 この指輪をリューがベルに嵌めてもらったら、その瞬間。


 正真正銘、ベルはリューのもので、リューはベルのもの。


 絶対的な愛の証が、今ここに成立しようとしている。




 震える指先で、ベルは指輪を手に取った。


 リューは左手の薬指を、指輪の輪の部分の前に出した。






「リューさん……!」


「ベル……!」






 名前を呼ぶ互いの声も、莫大な緊張で震える。


 互いの息遣いが、視線の熱が、より敏感に感じられる。


 永遠と思えるぐらいに凝縮された体感時間の中で、今のリューとベルは、互いの姿以外が目に入らなかった。


 ベルとリュー以外の世界のすべてが、認識から取り除かれていて。


 それほどまでに、互いの存在に集中していて。






 なので。











「ダメええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーっ!!!」


「そのプロポーズ、異議ありーーーっ!!!」


「!!!!!!!!????????」


「!?!?!?!?!?!?!?!?」






 第三者の絶叫が響き渡ったとき、リューとベルは飛び上がるぐらいびっくりしたのだった。


 実際、飛び上がった。


 大慌てしながら、リューとベルが声のした方角を見ると。






「ふーっ、ふーっ、ふーっ……!!」






 まず最初にリューの目に入ったのは、金髪金眼の少女だった。


 整った顔立ち、綺麗な白い肌、月に照らされた小振りな唇。


 その全てが――興奮した猫のように息を荒らげながら、黒い邪気を纏っているように見えて……なんか怖い。とてつもなく怖い。




 アイズ・ヴァレンシュタイン。


 都市最強の冒険者の一角である、その少女は。


 女神にも劣らないその美貌を――怒りと涙で、くしゃくしゃに歪めていた。






「ベル様ぁっ……!!」






 アイズの隣。


 今にもベルのもとに飛びかからんとするアイズに裾を引いて自制を促すのは、こじんまりとした、パルゥムの少女だ。


 可愛らしい小振りな顔立ちに栗色の髪を揺らしながら、その視線はまっすぐとベルに向けられていた。




 リリルカ・アーデ。リリ。ベルのファミリアの仲間。


 アイズよりかは、彼女はまだ理知の光を目に宿している。


 だが、そのパルゥムの表情もまた、険しいものだった。ふるふると瞳を震わせて、アイズにも劣らぬ激情を漂わせている。




 察するに、「ダメ」と叫んだのがアイズで、プロポーズに異議をとなえたのがリリという事なのだろう。




「あ、アイズさん!? リリ!?」


「――――」




 まったく予期していなかった二人の登場に、ただただ愕然とするベル。


 その横でリューもまた同様に驚愕し、身動きを凍結させていた。




 ここはオラリオの外で、このログハウスは貸し切りで、ベルと二人きりの場所で。


 旅行自体、誰にも内緒にしていて、念入りに念を入れて隠し通していて。




 まさか知人がここまで追いかけてくるだなんてリューは夢にも思っていなかった、ので。






「――――シル?」






「まさか、まさか、本当にまさか、貴方が抜け駆けするなんてね……リュー?」






 三人目。


 真ん中のアイズを挟んで、リリの向かい側。


 木の陰からヌッと現れた少女は、リューにとって、莫逆の友の姿だった。


 それもそのはず。張本人なのだから。




 薄鈍色の髪を後頭部でお団子にまとめ、そこからポニーテールの亜種のように一本の尻尾を垂らす少女。


 髪と同色の瞳も、白いブラウスと若葉色のジャンパースカートも、見覚えがある。ありすぎる。


 唯一、見覚えが無いのは――






「貴方のしたことなら、たいていの事は笑って許すつもりでいたけれど」






 今までに類を見ないほどの怒気が、笑顔の裏に。


 楽しげな声と裏腹に、おどろおどろしい影が目元に。


 目と唇だけを笑みの形にして、額に青筋を立てて、とんでもなく怒っているのを静かに示していて――






「さすがに、今回ばかりは許せないかな~♡ 怒っちゃうな~♡」






 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けてうわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!






現実の四






 心臓を鷲掴みされるような恐怖が、リューの意識を叩きつけた。




「うわああああぁぁぁーーーっ!!?」




 弾かれたように上体を起こす。


 呼吸を荒らげて、胸に手を当てて、恐ろしく高まっている心臓の鼓動を自覚して顔を引きつらせながら、リューは周囲を見渡した。




 薄着を着た自分の体、寝汗が染みたベッド、窓から差し込む朝の日差しに青空と山々の景色。


 ここはバベルの治療施設の一室だ。




 自分が睡眠から目覚めたとわかって、ひとまずリューはホッと息を吐いた。


 しかし直後――違和感を抱き、安心を撤回する。




(夢の内容が思い出せない……?)




 いや、本来ならそのほうが普通なのだが。




 一説によると、睡眠中に見た夢の内容は一部分だけを思い出せても、全て記憶することまではできないらしい。


 これには、夢をすべて思い出せてしまったら夢と現実の区別がつかない危険性が出てくる、という理由が根底にあるという。




 その理由の帳尻合わせ、とでも言うように。


 リューの記憶領域は、つい先ほど見た夢のみならず、きのうから今日にかけて見た夢すべてを丸ごと忘却してしまっていた。




 夢で最後に見た……とても怖いシルの笑顔、を除いて。




「…………っ」




 ぞっ。と、リューは背筋に軽い悪寒を錯覚した。


 錯覚、のはずだ。ただの夢のはずだ。


 あの笑顔に深い意味など無いと、邪推してはいけないと、リューは加速する動悸に叱咤する。




 しかし――先に言ってしまうと、それは錯覚でも気のせいでもなく。






「リュー、どうしたの? うなされてたけど」


「っっ!!? うわあああぁぁぁぁっ!!?」






 耳元の囁きの急襲に、リューは寝台から飛び跳ねた。


 シルがいた! すぐ隣にいた! ベッドの横にシルが!


 薄鈍色の髪を揺らしながら、その白く可愛らしい顔を不思議そうに斜め横にかたむけている。




 加速する動悸はリューの気のせいではなく、警告だった。


 現時点のリューにとって最大級の恐怖をもたらす人物がそばにいると、寝起きで鈍っていたリューに伝える、本能の警告。




 しかし警告もむなしく、リューは真横のシルに気づくのが致命的に遅れた。


 心の準備が欠けた状態でシルの顔を正視してしまい――






現実:

「もう、リューったら。そんなに驚かなくてもいいじゃない。……あ、もしかして、怖い夢でも見ちゃったの?」←背景に朝日


リューのイメージ:

「人様の想い人と、ずいぶんお楽しみだったみたいじゃない? いいご身分ね、リュー。貴方にはきついお仕置きが必要みたい♡」←背景に般若






「ひぃやああぁぁぁぁぁ~~~っ!!」




 悲鳴を上げ、リューはベッドを飛び降りた。


 すぐ逃げる。必死に走る。薄着のまま、恥も外聞もなく。






「ちょっ、リュー!?」




 恐ろしい幽霊でも見たかのような友人の逃走に、とっさにシルは手を伸ばすも、指先はリューに届かず空振りに終わる。


 室内はリューが走り去った余波で軽く風が起こり、ドタドタとした足音が徐々に小さくなっていったのを最後に。


 リューの存在を感じられるものは、部屋から消失した。




「うわぁっ! リューさん、服! 服!」


「また君か、エルフくん! あれか、わざとか!? わざとなのか!?」


「ああぁぁ、ベル! これは、その、違うんです! 違うんです!」




 前言撤回。


 廊下からも聞こえるリューの慌てふためく声からして、しばらく部屋の中からリューの存在を感じるのに困ることは無さそうだ。


 ベルとヘスティア、そして薄着のままベルの部屋に特攻してしまったリューのやりとりにおかしみを感じ、クスッと笑みを零したシルは。




「でも、リューったら。どうして私を見て逃げ出したのかなぁ」


 そう独り呟きながら、不思議そうに首をかしげたのだった。


◆END

Files

Previews only

Comments

No comments found for this post.