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「ありがとうございましたー!」


やっと最後のお客さんが店を出て行ってくれた。

僕は今、ラーメン屋でアルバイトをしている。


いつもならバイトは二人体制なのだが、今日はもう一人が急病で休みになってしまい、僕と店長の二人だけで店を回していた。

平日の夜だし、普段ならそれでも余裕を持ってこなせるはずだった。

しかし、今日に限ってなぜか客足が途絶えず、妙に混み合ってしまったのだ。

閉店時間は夜の11時。

それなのに、気がつけば時計の針はとうに日をまたいでしまっていた。


「おつかれさま。早く後片付けしちゃいましょう。」


そう声をかけてくれたのは、店長の亜季さんだ。

正直に言ってしまえば、僕がこの過酷なラーメン屋でバイトを続けている理由の9割はこの亜季さんの存在にある。


始まりは、友達とふらっと入ったこの店だった。

カウンターの向こう、湯気の中で汗をかきながら一生懸命にラーメンを作っている彼女の姿に、僕は一目惚れしてしまったのだ。

ちょうど店内に貼られていた「アルバイト募集」の貼り紙。

その日のうちに夢中で応募の電話をかけ、僕は無事、この店に“潜入”することに成功した。


いざ働いてみると想像以上に忙しかったが、それ以上に毎日が楽しかった。

学業ともうまく両立させながら、今では週に四日ほどシフトを入れてもらっている。

何より嬉しかったのは、亜季さんとの距離が縮まったことだ。

最近では仕事終わりに、よくご飯をごちそうになったりもしている。


今日も目が回るほど忙しかったけれど、心地いい充実感があった。

僕たちは残った体力を振り絞り、二人で急いで店の片付けを始めた。


暖簾をしまい、重いシャッターを下ろしてようやくすべての片付けが終了した。


「おわったー!お疲れ様でしたー!」


僕はそう叫びながら小上がりの座敷に寝転び、思いっきり体を伸ばした。

あとはもう、家に帰って寝るだけだ。幸いなことに明日は学校も休み。

どこかで適当にご飯を食べてのんびり帰ろうかな、なんて考えていた。


その時、座敷のテーブルにドカッと重い音が響いた。

何事かと思って慌てて起き上がると、そこには亜季さんが生ビールのジョッキを二つ並べていた。


「お疲れ様。一杯やっていく?」


季節はそろそろ夏。夜になっても店内には蒸し暑い空気が残っている。

そんな中で、キンキンに冷えて白く凍りついたジョッキ。

そこになみなみと注がれた黄金色の液体と、きめ細やかな白い泡。

――こんな暴力的な誘惑に、耐えられるわけがないじゃないか。


「ごちそうになります!」


僕は勢いよく返事をすると、亜季さんのジョッキにカチンと自分のそれを合わせ、乾杯の合図とともに一気に喉へと流し込んだ。

そういえば、ここでバイトを始めてからだったな、ビールを美味しいと思えるようになったのは。

そんなことを思い出しながら、気づけばジョッキの半分ほどをあっという間に飲み干していた。


「お、今日はいい飲みっぷりだね。本当に忙しかったもんね。」


そう言いながら、亜季さんは僕の目の前で、残っていたビールを一気に煽ってジョッキを空にした。

僕なんかよりも、よっぽど豪快でいい飲みっぷりだ。


「……ねえ悠人くん、明日って休みだっけ?」

「はい、明日は学校もありません」


僕が答えると、亜季さんはすっと立ち上がり、厨房のビールサーバーへと向かった。

そして、手際よくジョッキに生ビールを注ぎ直して戻ってくる。


「私も明日はお休みだ。今日は、ちょっと私につき合いなさい。」


こちらとしては、憧れの亜季さんと二人きりで飲めるのだ。

願ったり叶ったり、というやつだった。


「はい!喜んでお供します!」


僕が笑顔で応じると、亜季さんはにっこりと微笑み、さっそく二杯目のジョッキをグイッと空けた。

それから彼女は手際よく、刻んだネギと余ったチャーシューで特製のおつまみを作ってくれた。


「悠人くん、餃子を焼きなさい。」

「えっ、餃子焼き器、もう洗っちゃいましたよ?」

「いいの、私が許します。」


そんなやり取りを経て、テーブルの上にはこんがりと焼けた餃子まで並んだ。

深夜のラーメン屋の片隅で、気付けばなかなか豪勢なおつまみが揃っている。


時計の針は、深夜の一時を回ったところ。

二人だけの、特別な時間が始まった。

ーーー

ふと壁の時計に目をやると、いつの間にか深夜の三時を回っていた。

もう二人とも、自分たちが何杯目のジョッキを空けているのか分からない状態だった。

亜季さんの顔はリンゴのように真っ赤に染まっている。

鏡を見ていないけれど、当然僕も同じような顔をしているはずだ。


「……ねえ悠人くん、彼女いないのー?」


とろんとした酔った目で、亜季さんがそんなことを聞いてきた。


「いませんよ。」


僕は努めて平然を装いながら、ビールを一口飲み込んだ。


「そうなんだー。まあ、彼女いたら今のこの状況、ちょっとまずいもんね。」


確かに、夜中に職場の女性と二人きりで朝まで飲んでいるなんて、彼女がいたら大修羅場だろう。

そもそも、亜季さんには彼氏がいるのだろうか。

……いや、もしいたら、こんな時間までバイトの男と飲んだりせず、とっくに帰っているはずだ。


「じゃあさ、好きな女の子とかはいないの?」


その言葉に、心臓が跳ね上がる。

まさか「目の前にいるあなたです」なんて言えるわけがない。


「……一応、いますけどね。」


濁らせて答えると、亜季さんはガバッと顔を上げた。


「へえ、そうなんだ!今度お店に連れてきなよ。私、おごっちゃうから!」


ニコニコと嬉しそうに笑う亜季さん。

自分がどれほど残酷な提案をしているかも知らずに。


「……機会があれば、よろしくお願いします。」


僕は苦笑いを浮かべ、目の前のジョッキを一気に空けた。

どうやら亜季さんは、僕のテンションが急に下がったことに気づいたようだった。


「ん?悠人くん、何か悩みでもあるの?今なら店長の私が無料で相談に乗ってあげるよ?」


そう言って、なみなみとビールが満たされた新しいジョッキが、また僕の前に差し出された。

悩みなら目の前にある。まさに亜季さんとの関係そのものだ。

だけど、亜季さんは僕のことをこれっぽっちも男として見ていないのだろう。

だからこそ、こうして目の前で無防備な姿を晒して飲んでいるのだ。

一気に回ってきたアルコールのせいで、頭がクラクラとしてくる。

その勢いに任せて、僕は本音を少しだけこぼしてしまった。


「好きな女性がいるんですけど、その人、僕のことを全然男として見てくれないんですよね。」


亜季さんは「ふーん」とビールを一口煽った。


「なるほどねー。ってことは、相手は悠人くんより年上か。女ってさ、あんまり年下すぎると恋愛対象になりにくかったりするからねー。」


ズキリ、と胸の奥に鋭い痛みが走った。

やはり亜季さんも、ご多分に漏れずそういう考えなのだろう。

僕は今20歳で、亜季さんは確か29歳。

この9歳という年の差は、僕がどう足掻いても埋められない大きな壁だった。


「でもさ、もしかしたら相手も年下好きかもしれないじゃん?当たって砕けろでいっちゃいなよ!」


無責任に背中を押してくる。

だけど現状を考えれば、告白したところで100%振られる。

それどころか、今後のバイトが気まずくなるのは目に見えていた。

亜季さんの性格ならその後も普段通りに振る舞ってくれるかもしれないが、僕のメンタルが持たないだろう。

僕は諦めと情けなさから、テーブルに突っ伏して大きなため息をついた。


そんな僕の弱気な姿を見て、亜季さんもあきれたようにため息を漏らす。


「男らしくないなー。どこまで行ってもね、女ってのは男らしい男を求める生き物なのよ?」


亜季さんはさらにジョッキを煽って空にすると、すっかり座った目で、僕に容赦のない言葉を叩きつけてきた。


「悠人くんは本当に男らしくないなー。……ねえ、本当に金玉ついてるの?」


しらふの時の亜季さんは、下ネタの「し」の字も言わない人だ。

なのに、酔っ払うとこういう言葉がちょいちょい飛び出してくる。

さすがに男としてのプライドを刺激され、その挑発的な言葉にカッとなって反論した。


「ついてますよ、男なんですから。……なんなら、今ここで見せましょうか?」


売り言葉に買い言葉。完全にただの悪ノリだった。

だが、この時の僕たち二人は、自分たちが想像以上に泥酔し、理性のリミッターが完全に外れてしまっていることに、まだ気づいていなかった。

ーーー

「ふっ、男らしくない悠人くんが、金玉なんて見せられるわけないでしょ?」


亜季さんは鼻で笑いながら、挑発するようにそう言ってきた。

いくら大好きな相手とはいえ、ここまでコケにされては男のプライドが廃る。


「じゃあ、しっかり見ててくださいよ!」


半ばヤケクソ気味に叫びながら立ち上がり、僕はズボンとパンツを一気に膝まで引き下ろした。

ふるん、と深夜の店内に、僕の無防備なものが晒される。

いつも真面目に働いているはずのラーメン屋の客席で、下半身を丸出しにしているという強烈な背徳感が脳を痺れさせた。


「おー、男らしいじゃん!」


パチパチと、気の抜けた拍手を送ってくる亜季さん。

憧れの女性に自分のすべてを見せつけているという事実に、僕は得も言われぬ歪んだ優越感のようなものを抱いていた。


亜季さんは僕の股間をじっと見つめながら、手元のビールをグイッと煽った。

そして、口元をニヤリと緩めながら言った。


「悠人くん、おちんちん小さいね。」


普段のしらふの時なら、立ち直れないほどのショックを受ける言葉なはずだ。

だが、アルコールに五感を支配されたこの異常な空間では、ショックよりも先に怒りがフツフツと湧き上がってきた。


「まだ勃起してないからですー!勃ったらもっと大きいですー!」


必死に子供じみた反論する僕を、亜季さんはどこか楽しげに見下ろしている。


「はいはい。皮も被ってるお子ちゃまちんちんは、勃起したところで大して大きくなりませーん。」


さすがにその言葉は、男としての決定的な一線を越えていた。

完全にプライドをズタズタにされた僕は、我を忘れて叫んだ。


「ちょっと待っててください!」


そう言い放つと、僕は自分の手でそこを刺激し始めた。

冷静に考えれば、職場の店長の前で何をしているんだという話だ。

まともではない。

それを亜季さんは、まるで面白い見世物でも見るかのように、ビールをちびちびと飲みながら特等席で観覧している。


アルコールが回りすぎていて、うまく反応しないかもしれない――そんな不安が一瞬よぎったが、自分をじっと見つめる亜季さんの熱い視線が、最高の刺激になった。

ドクドクと血が巡り、僕のモノはみるみるうちに猛り狂い、ガチガチに反り立った。


「へえ、すごいじゃん。おちんちん、かっこいいよ。」


亜季さんは感心したように呟くと、いつの間にかポケットからスマホを取り出し、レンズをこちらに向けていた。


パシャ、パシャシャッ。


軽いシャッター音が、静かな店内に響いた。


本来なら、羞恥でどうにかなっていてもおかしくない状況。

なのに今の僕は、褒められたことの方が嬉しくて、妙に気分が高揚してしまっていた。


「でも、やっぱりお子ちゃまだ。言うほど大きくないし、皮も被ったままじゃん。」


無慈悲な追撃だった。

今の僕のモノは間違いなく人生で最高潮に大きく、硬くなっている。

これ以上、男としての証明を上書きする手段はどこにも残されていなかった。


「参りました……。僕は……お子ちゃまです……」


完全に心が折れ、僕は絶望に打ちひしがれてその場に膝をついた。

ズボンを下げたマヌケな姿でうなだれる僕を見て、亜季さんは満足そうに、くすくすと喉を鳴らして笑った。


「おいでおいで、こっちおいで。」


ひらひらと手招きをされ、僕は頭を垂れたまま、座敷に座る亜季さんの目の前へと這い寄った。

すると次の瞬間、亜季さんの細い指先が、僕の猛り立ったモノを容赦なくつまんだ。

熱い指の感触に、僕の身体はピクリと大きく跳ね上がる。


「おお、さすがに硬いね。若さ溢れるちんちんだ。」


少しだけ褒められたことで、脳内に一気に嬉しさが込み上げる。

アルコールのせいで、感情の乱高下が自分でも制御できなくなっていた。


「ねえ、剥いていい?」


そのあまりにストレートな要求に、僕は言葉を失った。

無言のまま固まる僕の顔を、亜季さんは下から覗き込み、首をかしげながら揺さぶりをかけてくる。


「……もしかして、剥いたことなかった?やっぱり、本当にお子ちゃまだったのかなぁ。」


その言葉に、またムカッと反応してしまう。


「む、剥けますー!大人のおちんちんですー!」


僕が必死に叫ぶと、亜季さんはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「じゃあ、私が剥いちゃうよ?お子ちゃまちんちんを認めるなら、ここで辞めてあげるけど……どうする?」


……答えることなんて、できるわけがなかった。

認めてプライドを捨てることも、自ら進んで「剥いてください」と言うこともできない。


「もしかして悠人くんって、都合が悪いと無言になっちゃうタイプ?でもね……大人の世界では、無言は『肯定』とみなすんだよ。」


亜季さんは妖しく微笑むと、僕の皮の先端を指でキュッとつまみ、一切の躊躇なく一気に根元へとギュッと引き下げた。

あまりにも遠慮のない力任せな行動に、僕は思わず情けない悲鳴を上げていた。


「痛いっ……!」


慌てて自分の股間に目を落とす。

そこには、亜季さんの白い手によって、完全に身ぐるみを剥がされた僕のモノがあった。

いつもは隠されている、赤くパンパンに充血した亀頭が、深夜のラーメン屋の灯りの下で、いやらしく輝いていた。

ーーー

もしかすると、アルコールのおかげで全身の力がいい具合に弛緩していたのかもしれない。

痛いと叫んでしまったものの、今までどうしても剥くに剥けなかったそこは、彼女の指先によってあっさりと剥き出しにされてしまった。


「ふふ、ちょっとだけ大人のおちんちんになったね。」


亜季さんの優しい手が、露わになったそこをそっと愛撫する。

生まれたてのように敏感な器官から、全身の神経へと甘美な快感が走り抜けた。

毎日のように厨房でラーメンを作っている逞しい手のはずなのに、僕のそこを撫で回す彼女の指は、思った以上に柔らかくて暖かかった。

この夢のような時間がずっと続けばいいのに――そう願った瞬間、そこをギュッと力強く握られた。


彼女と手を繋いだことすらない僕なのに。手よりも先に、僕のちんちんが大好きな女性の手と繋がってしまった。

押し寄せる快感の波に、もう我慢なんてできるわけがなかった。


「亜季さん……もう、出ちゃいます……っ!」


情けなく懇願すると、亜季さんはニヤリと妖しく笑い、冷酷にパッと手を離してしまった。

僕は完全にハシゴを外され、ひどく困惑した表情を浮かべていたと思う。


「流石に出すのはダメだよね。悠人くんには、ほら、好きな女の子がいるんだもんね?」


いたずらっぽい表情を浮かべながら、亜季さんはいつ暴発してもおかしくないほどパンパンに膨れ上がった亀頭を、人差し指でツンツンとつついた。

限界寸前の酔いと、生殺しの快感。

もう、明日からのことなんて、これっぽっちも考えられなかった。


「僕が好きなのは……亜季さんです!」


静まり返った店内に、僕の叫びが響き渡る。

その声が、いつまでも店内で反響している気がした。

カチリ、と二人の時間が止まる。

そして、亜季さんのどこか楽しげな声が、再び時間を動かした。


「そっか。私だったんだ。……ねえ、いつから好きだったの?」


今度は亀頭を軽くこねくり回しながら、尋問するように聞いてくる。


「はじめて……ここに、ラーメンを食べに来た時です……うっ!」

「もしかして、バイトに応募してくれたのって、私が目当てだった?」

「はい……一目惚れ、でした……あぁっ!」


彼女の手は止まらない。

だけど、決して射精には至らせないギリギリのラインを、残酷に見極めて攻めてくる。

それはさながら、僕の心の中の秘密をすべて暴き立てるための拷問のようだった。


「私の、どこに一目惚れしたの?」

「汗をかきながら……ラーメンを作っている姿が、すごく綺麗だったから……くっ」


今までずっと胸の奥底に隠してきた恋心が、次々と強引に掘り返されていく。


「汗をかきながら、って……。もしかして悠人くんって、そういうマニアなの?」


どちらかと言えば、亜季さんによって僕の性癖が歪められてしまった気がしないでもない。

恥ずかしさのあまり、僕はまた口ごもってしまった。


「もう!黙るのはダメ!汗をかいている女の人が好きなら、そう言えばいいのに。」


やはり、想像以上にアルコールが回っているのだろう。

亜季さん自身も、かなり大胆で突拍子もないことを言っている自覚はあるのだろうか。


「……っ、汗をかいている、亜季さんが好きなんです!」


僕がやけくそ気味に本音を白状すると、亜季さんはまた愛おしそうにそこを優しく握り直してくれた。

そして、今まで見たこともないような、どこか母性すら感じさせる優しい表情で僕を見つめた。


「一回だけだよ?」


そう囁くと、彼女の手は一転して、滑らかな上下のストロークを始めた。

気がつけば、グチュ、グチュとした音が、深夜の店内のBGMとして静かに流れていた。

ずっと恋焦がれていた相手による、初めての手コキ。

一秒でも長くこの幸福を噛み締めていたかったが、身体はそれを許してくれなかった。


「あ、あぁ……っ、出ます、出ちゃいます……!」


僕の情けない声に合わせ、ラストスパートと言わんばかりに亜季さんの手の動きが急速にスピードアップする。

そして、ついにその瞬間が訪れた。


「うあ……っ!」


短い絶叫とともに、今日初めて世界にお目見えした亀頭から、熱い白濁液が勢いよく吐き出された。

それは、亜季さんがすかさず差し出した、テーブルの上のティッシュによって無事に受け止められた。


「うわぁ……すごい勢いだね。」


亜季さんが感心したような声を漏らす。

なんだかそれが、たまらなく照れ臭くて恥ずかしかった。

なおも動く亜季さんの手に合わせて、二度、三度とピュッと熱い塊が吐き出され、最後に尿道に残った精液をキュッと絞り出されて、ようやく僕の初めての他人による暴発は幕を閉じた。


「いやいや、射精に若さが溢れていたね。」


小さく萎んでいく僕のモノを、亜季さんは手際よくティッシュで拭き取りながらそう言った。

こうして、深夜のラーメン屋で繰り広げられた、あまりにも背徳的で情熱的な時間は、一旦の終わりを迎えたのだった。

ーーー

丁寧に拭き終わり、剥かれた包皮を元の位置へと優しく戻してから、亜季さんはそれまでの酔った笑顔を消し、急に真面目な表情を作った。


「えっとね……悠人くん。好きだって言ってくれたのは、本当に嬉しかったよ。」


そして、僕の手をきゅっと両手で握りしめ、静かに、だけど真っ直ぐに僕の目を見て答えた。


「……でも、ごめんなさい。悠人くんの気持ちには、応えられない。」


分かっていた。

最初から分かっていた結末だった。

だけど、僕が想像していたよりも遥かに深く、冷たく胸に突き刺さった。

目の前がすうっと暗くなるようなショックに、僕は立ち尽くす。


「悠人くんには、私みたいなもうすぐ三十路のおばちゃんじゃなくて、もっとお似合いの素敵な彼女が他にできるから。」


亜季さんは僕の頭をそっと撫でながら、そう言った。

それはきっと、彼女が僕を傷つけないために絞り出した、最大限の優しさなのだ。

その温かさが、かえって僕の涙腺を激しく刺激した。


涙をこらえて凹んでいる僕の顔を見て、亜季さんは「もう!」とわざとらしく声を上げた。

そして、僕の頬を両手でギュッと強く掴み、無理やり上を向かせる。


「男の子なんだから、もっと男らしくシャキッとしなさい!」


亜季さんは僕の目の前へ、思いっきりその顔を寄せてきた。

視界のすべてが、ずっと憧れ続けていた彼女の綺麗な顔で埋め尽くされる。

次の瞬間、僕の唇に、信じられないほど柔らかくて温かいものが押しつけられた。


それが亜季さんとの「キス」なのだと理解するまでに、数秒の時間を要してしまったと思う。

心臓が破裂しそうなほどの衝撃。

初めて経験するキスの味は、ほろ苦いアルコールの匂いがした。


呆然と固まっている僕の口内へ、さらにぬるりとした熱いものが滑り込んできた。

亜季さんの舌。

それが僕の不慣れな舌と、じっとりと淫らに絡み合う。

濃厚な大人の接吻に頭の芯まで痺れてしまい、気がつけば、さっき射精したばかりのはずの僕のモノは、信じられない早さで再びガチガチの硬度を取り戻していた。


やがて、そっと唇が離れる。

亜紀さんとの繋がりが、一本の線で見えていた。

そして、その繋がりは重力に負け、あっさりと切れてしまった。


「あら、悠人くん。またおっきくなっちゃったね。」


亜季さんは視線を僕の股間に落とすと、熱を帯びたそこへそっと手を触れた。


「これが本当に最後ね。……悠人くんの私への恋心は、全部私が飲み込んであげる。」


そう呟くと、亜季さんは僕の目の前で、静かに床へ膝をついた。

見上げる形になった彼女は、僕の猛り立つモノをじっと見つめながら、可愛らしく「あーん」と小さな口を開く。


そして、パクッと僕のすべてをその唇の中に咥え込んだ。


あの、ずっと憧れていた店長の亜季さんが、僕の前にひざまずき、僕のモノを咥えている。

そのあまりにも背徳的で官能的な光景に、僕の脳細胞は完全にキャパシティを越え、オーバーヒートを起こしていた。

ーーー

亜季さんは器用に唇と舌を使い、僕のモノを覆う皮をずるりと剥き上げた。

そして、ハムハムと露わになった亀頭を優しく、丁寧に愛撫し始める。


生まれて初めて体験する口内の圧倒的な熱量と未知の快感に、僕の腰は本能的にガクガクと暴れてしまった。


「ひょっと、おとなひくひて!」


僕のモノを咥えたまま、亜季さんが上目遣いに文句を言ってくる。

だが、こちらにそんな余裕なんてあるわけがないじゃないか。

亜季さんは「動いちゃダメ」と僕を嗜めるようにじっと僕を見つめながら、猛り立つ亀頭をさらに深く口の奥へと咥え込んだ。


温かい口腔に包まれ、彼女の柔軟な舌が亀頭を執拗に舐め回す。

さっきまで僕の口の中で絡み合っていたあの舌が、今は僕のそこを快感の絶頂へと導くための道具になっている。

口の中で暴れるように、裏筋から先端までをくまなく磨き上げられていく。

そのあまりにも熟練したテクニックに、一瞬、亜季さんのこれまでの男性遍歴が脳裏をよぎった。

けれど、不思議とショックはなかった。

それどころか、その大人の余裕と経験値が、僕の興奮をさらに限界まで押し上げる燃料になった。


一通り亀頭を舐め回すと、亜季さんは息を整える間もなく、口を使った激しいピストン運動を開始した。

僕の股間で、ずっと憧れていた女性の頭が忙しなく上下する。

何度も、何度も、亜季さんの狭い口の中へと僕の硬い塊が突き刺さっていく。

――もう、耐えられるわけないじゃないか。


「あ、あぁ……っ、出ちゃいます……っ!」


男らしくしなきゃいけないのに、またしても情けない悲鳴のような声が漏れる。

その瞬間、亜季さんと視線が完全に交差した。

彼女の瞳は、「本当に仕方のない子ね」とでも言うような、深い慈愛に満ち溢れていた。

気がつけば、激しい愛撫のせいで、亜季さんの口元からは溢れた涎が顎へと伝い落ちていた。


ジュブ、ジュブと店内に響く淫らな音のボリュームが一段と大きくなる。

亜季さんの口が奏でる背徳の音楽は、いよいよフィナーレを迎えようとしていた。


「亜季さん、大好きです!ありがとうございました……っ!」


極限の快感の最中、僕の口から漏れたのは、格好つけた言葉ではなく、剥き出しの感謝の叫びだった。

そしてその声と同時に、僕は二度目とは思えないほど濃密で熱い想いを、亜季さんの口内へと勢いよく吐き出していた。


ドクドクと溢れ出る想像以上の量に、亜季さんは一瞬だけ驚いたように目を見開いた。

けれど彼女は決して口を離さず、僕のモノからすべての熱い液体が搾り出されるその瞬間まで、喉を鳴らしながら優しく包み込み、舐め続けてくれた。


やがて、短くもあまりに幸せだった時間が終わりを迎える。

亜季さんの唇が、ちゅぽん、というどこか切ない音を立てて、僕のモノから離れた。


そして彼女は、僕のすべてを溜め込んだ口内を、ゴクリ……と、妖艶に喉を鳴らして飲み干してくれた。

約束通りに。

僕の、すべての恋心と一緒に。


僕の恋は、熱い精液とともに、彼女の身体の奥深くへと溶け込んで消えていった。

ーーー

一連の処理を終え、僕は脱ぎ散らかしていた服をすべて着直した。


「気持ちよかった?」


そう聞いてくる亜季さんは、先ほどまでの激しさが嘘のようにすっかり酔いも冷め、いつも通りの頼れる店長の顔に戻っていた。


「今日のことは、他のみんなには絶対に内緒だからね。」


悪戯っぽく、だけど綺麗な笑顔で釘を刺される。

ああ、やっぱりこの人を好きになったことは間違いじゃなかったな――心からそう思わせてくれるような、温かい笑顔だった。


「もちろんです。」


僕も、少しだけ胸のつかえが取れて吹っ切れたような気がした。


「でもさぁ、あんなにいっぱい出るとは思わなかったよ。」


亜季さんは僕の股間に視線をやりながら、ふと、何かを閃いたような表情を浮かべた。


「ラーメン屋だけに、ザ――」

「やめてください。今の一言で、亜季さんのことが少し嫌いになりました。」


すかさず遮ると、彼女は「冗談じゃない!」と笑いながら、僕の肩をバンバンと楽しそうに叩いてきた。

やはり、まだアルコールが抜けきっていないのだろう。

年上の大人の女性なのに、そんな姿がたまらなくかわいかった。


二人きりの宴会は終わりを告げ、亜季さんが厨房で洗い物を、僕が座敷のテーブルを拭くという、いつもの居残り作業が始まった。

食器が触れ合う静かな音の中、亜季さんがぽつりと呟いた。


「なんか……悠人くんに勇気をもらっちゃったな。私も、ちょっと頑張ってみようかな。」


その言葉に、僕の心臓へまたズキリと鋭い痛みが走った。

……知っていた。

時折、この店に一人で食べにやってくる、30代くらいの落ち着いた雰囲気の男性の存在を。

その人が来ると、亜季さんは決まってカウンターの前に立ち、二人で本当に楽しそうに話し込んでいた。

僕はいつも、それを見て見ぬ振りをしていた。

亜季さんが見せる「女の顔」を、どうしても直視したくなくて。


さっきまでの騒々しさが嘘のように、静かに、淡々と後片付けが終わりを迎えた。


「よし、片付けもバッチリ!早く帰ろっか。急に眠くなってきちゃった。」


亜季さんが店の扉を開けると、外の景色はすっかり明るくなっていた。

朝の新鮮な空気が店内に流れ込んでくる。

僕たちが思っている以上に、夜の時間は早く流れていたようだ。


「亜季さん。今日は本当にありがとうございました。亜季さんのこと、好きになってよかったです。」


僕がまっすぐに感謝を伝えると、亜季さんは少しだけ驚いたように目を見張り、それから笑顔で僕を見つめた。


「悠人くん、なんだか少し、男らしく……大人の顔になったんじゃない?」


そう言うと、彼女は僕の唇に、ちゅ、と軽く自分の唇を合わせた。

今度はアルコールの匂いではなく、朝の光に溶けるような、優しくて切ないキスだった。

僕の片想いは、この最後の口づけをもって、本当の終わりを迎えた。


並んで歩き出そうとした、その時だった。

亜季さんが思い出したように僕の方を振り返った。


「ところでさ、悠人くんがシフトに入るとき、いつも時間を合わせて食べにきてる女の子がいるんだけど……気づいてる?」


「え……?」

エピローグ

どうやら僕は、本当に亜季さんしか見えていなかったらしい。

確かに、いつも同じような時間帯にやってくる常連の女の子の存在は知っていた。

だが、まさかその子が僕のシフトに合わせて店に食べにきていたなんて、これっぽっちも気づかなかった。


そして今日も、その子は店にやってきていた。

いつも通り、お気に入りのつけ麺をゆっくりと口に運んでいる。


時間帯のせいか、今、店内にその子以外のお客さんはいない。

広々とした店内のどこに座ってもいいはずなのに、彼女はわざわざ、僕が作業している目の前のカウンター席に座っていた。

バックヤードにいる亜季さんの話によると、僕が仕事に集中している時、彼女は時折、箸を止めて僕の姿をじっと見つめているらしい。


どうしたものかと考えていると、亜季さんがニヤニヤとした満面の笑みで「行け行け!」と何度も彼女の方を指差してジェスチャーを送ってくる。


改めて、ラーメンを啜っている彼女の顔を盗み見てみる。

年齢は僕と同年代くらいだろうか。

そして、驚くほど可愛い。

こんなに魅力的な子がすぐ近くにいたというのに、本当に僕の目は節穴だったのだと痛感する。


その時、彼女がパッと顔を上げた。

タイミング悪く、僕たちは真正面からバッチリと目が合ってしまった。


啜りきる前の麺が口元から数本はみ出たまま、彼女の時間は完全に停止した。

数秒のフリーズの後、彼女の顔はみるみるうちに、驚くほど真っ赤に染まっていく。

慌ててズズッと麺を啜り、ガバッと下を向き、手元のつけ麺と向き合い始めてしまった。


(これは……本当に、僕に気があるのかも……)


背後では、相変わらず亜季さんが「ほら、いきなさい!」と両手で背中を押すようなジェスチャーを続けている。

お店の立場からすれば、店員がお客様に手を出すなんて本来は御法度のはずだ。

だけど、今は他ならぬ店長の許可が出ている。


亜季さんとのあの夜、僕は「男らしくない」と言われ、大人の階段を一段上らせてもらった。

だったら、ここは男らしく、僕の方から声をかけるべきだ。


大きく一つ深呼吸をして、僕は覚悟を決めて彼女の前に立った。

ちょうど、彼女も顔を上げたところだった。

このタイミングを逃したら、次はない。


一歩、踏み出そう。


「「あの!」」


二人の声が、静かな店内に同時に響き渡った。


END

ーーー

後書き

久しぶりに本更新用の作品を書き上げました。

なかなか楽しく書けた作品です。

ラストの女の子は、最初は出すつもりありませんでした。

オチとしては良い感じの役目をしてくれたんじゃ無いですかね。


このところ年上女性を良く書いている気がしますが、やはりCFNMと言えば年上女性が書きやすいですよね。

逆に年下は書くのが難しい。

そちらも開拓していきたいですね。

うむ。



Comments

すーぱーわか

「ラーメン屋だけに、ザ――」は一瞬意味がわからなくて、ん?ってなったのですが、すぐにわかって噴き出しました。 でももしかすると、ん?のままの方もいらっしゃるかもしれませんね。