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この小説はパーソナルジムの続編になります。

そちらを先にお楽しみください。

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FANBOXでの先行公開はこちらになります。



ーーー


あれから、俺は真面目に『MIRAGE FIT』へと通い続けていた。


なかなかの高額な料金を支払っているという理由もあるが、それ以上に、ひなたちゃんに会うことが最大の目的になっていると言っても過言ではなかった。

彼女はいつも明るく元気で、そして相変わらず遠慮なく密着してくる。

本人にこれっぽっちも悪気はなく、ただ生まれ持った人との距離感が異常に近すぎるだけなのだろう。


不純な動機だとは分かっているが、トレーニングの最初と最後にあるストレッチは、俺にとって至高のご褒美タイムだった。

だからこそ、未経験の厳しい筋トレにも、毎日の過酷な食事制限にも耐えることができていた。

食事のたびにメニューの写真を撮って送らなければならないルールも、ひなたちゃんと堂々とメッセージのやり取りができると思えば、むしろ嬉しいことこの上ない。

……まぁ、送った写真に対して返ってくるのは、ダメ出しとアドバイスがほとんどなのだが。


「はーい、お兄さん。今日もトレーニングお疲れ様! 最後、しっかり伸ばしていこうね!」


今日もキツいメニューをすべて消化し、待ちに待ったお楽しみのストレッチの時間がやってきた。

マットの上で両足を大きく開き、開脚前屈の姿勢を取る。

すると、背後に回り込んだひなたちゃんが、俺の背中に自分の身体をギュッと押しつけるようにしてサポートに入った。


背中に伝わる、相変わらずの凶悪な柔らかさと温もり。

その極上の感触を全身で味わいながら、俺はゆっくりと身体を前に倒していった。


「お兄さん、始めた頃よりも全然身体が柔らかくなったよね!」


彼女の胸の圧迫感に耐えながら、俺は息を吐き出す。


「ひなたちゃんのおかげかな。」


ちなみに、ひなたちゃんとの間では敬語が全面的に禁止されている。

体験入会が終わって本契約を交わした際、「パートナーなのに敬語はおかしいんじゃないかな?」と彼女が主張したからだ。


「ふふふ、嬉しいこと言ってくれるね。でもね、それはお兄さんが毎日サボらずに頑張っているからだよ?」


そう言いながら、ひなたちゃんはさらに体重を預け、俺の身体をギューッと優しく、けれど確実に前へと押し込んでくる。

この密着感があるからこそ、俺はどんなに筋肉が悲鳴を上げても頑張れるのだ。


しかし、至福の時間を噛み締める一方で、最近の俺の脳裏にはある“黒い思考”が過るようになっていた。

ひなたちゃんは……俺以外の男性会員にも、やっぱりこんな風に密着してレッスンしてるんだろうか。そう想像した瞬間、胸の奥で小さな嫉妬の炎が、静かにくすぶり始める。

ーーー

鏡越しに、何やら神妙な表情をして黙り込んでいる俺の異変に、ひなたちゃんが気づいたようだ。


「あれ? どしたの? 何か悩みでもあるの?」


直接聞いてしまうべきか一瞬悩んだが、この先もずっとモヤモヤした気持ちを抱えたままトレーニングを続けるのは良くない。

ちょうど良いタイミングだし、思い切って聞いてしまうことにした。


「……ひなたちゃんって、他にも男性の会員さん、担当してたりするんだっけ。」


これくらいのトーンなら、世間話の延長として聞いてもおかしくないよな、きっと。


「あはは、そんなこと気にしてたの? 私はね、基本的に女性のお客様メインで担当してるから、男性の会員さんはお兄さんだけだよ?」


背中に体重を預け、ギュッ、ギュッと優しく押し込みながらあっさりと答えてくれる。

その言葉を聞いた瞬間、胸の奥にくすぶっていた嫉妬の炎が、一瞬で消え去るような安堵感を覚えていた。


「そうなんだ……。ほら、体験入会で俺が勃っちゃった時さ、たまにそういう人もいるって言ってたから、ちょっと気になっちゃって。」


「それは前に働いてたジムでのことだよ。そこは今みたいなパーソナルじゃなくて、普通の総合ジムだったんだけど……結構『ストレッチ手伝ってほしい』って指名してくる男性の会員さんがいてね。」


……それは100%、ひなたちゃんのこの密着ストレッチが目当てに決まっている。

そんな邪な気持ちでレッスンするなんて、男として本当に許せないな。

完全に自分のことを棚に上げまくって、俺は心の中でその見知らぬ男たちに憤りを覚えていた。


「でも、そのジムが潰れちゃってさ。路頭に迷ってたところを、阪木さんに拾ってもらったのよ。」


阪木さんとはあの受付でサイドチェストを決めてくれた、熱苦しくて頼れるマッチョな男性のことだ。

そう言えば本契約の時、俺が入会するって言ったら自分のことのようにもの凄く喜んでくれて、お土産に大量のプロテインをくれたっけ。

ありがたかったけど、家に持ち帰るにはさすがに重かったのを覚えている。


「だからさ、このジムで初めてマンツーマンで担当する男性が、お兄さんで本当に良かったよ。私は毎回、すごく楽しく指導できてるからね。――お兄さんも、そう思ってくれてると嬉しいな。」


ひなたちゃんは、鏡越しに俺の目を見つめながら、ニッコリとそれはそれは愛らしい笑顔を向けてきた。


モテない男にそんな意味深なセリフを言ってはいけない。

これでは完全に勘違いしてしまうではないか。

ーーー

「ひなたちゃんと、ご飯に行けたら楽しそうなのにな」


背中の温もりにあてられたせいか、あまり深く考えず、ぽろりと口からこぼれてしまった。

もちろん嘘偽りのない本心なのだが、口にした瞬間、急激に現実へと引き戻されて猛烈に恥ずかしくなってきた。


「え? それってデートのお誘い?」


ひなたちゃんはきょとんとした表情で、鏡越しに俺の顔を覗き込んできた。

みるみるうちに顔がカッと熱くなっていくのが自分でも分かる。


「いや、えと……そう出来たら、良いなーって、思っただけ……というか……」


なんとも煮え切らない、情けない返事をしてしまった。

当たって砕ける度胸すら出せないのか、俺は。

我ながら本当に情けない……。


「えーっとね、そういうのは一応、ジムのルールで禁止されてるんだ。変な話だけどさ、身体で仕事を取ったって周りに思われるのは、お互い良くないからって。」


それは、ぐうの音も出ないほど正論だった。

そもそも、俺みたいな男とプライベートで食事なんて、彼女だって行きたくはないだろう。

最初からクッションを心に敷いておいたはずなのに、いざ断られると心が見事に砕け散っていく。


落胆して俯きかけた俺の背中で、ひなたちゃんが言葉を続けた。


「ごめんね? ……でもね、お兄さんは3ヶ月のコースだけど、それが終わった時に目標の数値をしっかり達成できてたら、お祝いとして一緒にご飯行こっか?」


その言葉に、俺は勢いよく顔を上げた。 鏡の向こうでは、ひなたちゃんがいたずらっぽくニコニコと笑っている。

どうやら、首の皮一枚で繋がっていたようだった。


「え? 本当に……!?」


さっきまでの絶望が嘘のように、胸の中の霧が一気に晴れ渡っていくのを感じた。


「うん。会員期間中はダメだけど、コースが終わった後のことまでは特に禁止されてないからね。ふふ、お互いに楽しみが出来ちゃったね!」


ひなたちゃんは俺の両腕を掴むと、そのまま後ろからギューッと引っ張った。

凝り固まっていた上半身が心地よく伸びて、頭がスッキリとする。

ひなたちゃんとの毎回の密着レッスンというご褒美に加えて、今度は「3ヶ月後のプライベートな食事」という、これ以上ない極上の餌まで目の前にぶら下げられてしまった。


(これはもう、死に物狂いでダイエットもトレーニングも頑張るしかない……!)


俺が心の中で新たな闘志を燃やしていると、ひなたちゃんはそれを見透かしたように、にこにこ顔からニヤニヤ顔へと表情を切り替えた。


「なに?もしかして、私のこと好きになっちゃった?」


あまりにも真っ直ぐすぎる、逃げ道のない質問。

俺は完全に照れくささに負けて、まともに言葉を返すことが出来なくなってしまった。


顔を真っ赤にして口をモゴモゴと動かすだけの俺の態度は、彼女からすれば、もう「YES」と答えているようなものだった。

ーーー

「よし、ストレッチ終わり! 最後に写真撮っちゃおうか!」


そう言って彼女がカメラを取り出す。

体験入会の時はあのとんでもない羞恥写真撮影だったが、2回目以降の本会員レッスンからは、普通に上半身だけ裸になっての健全な経過撮影だ。

「ああいうエッチなことはもうしないからね!」と彼女からも口酸っぱく釘を刺されている。

俺としても、高いお金を払っている以上はトレーニングを真面目にやりたいという気持ちが強かったので、変な期待は一切していなかった。

……まぁ、あの体験入会の時の記憶を思い出して、自宅のベッドで何度も自分を慰めたことはあるのだけれど。


「うん! 姿勢も良くなってるし、お腹も少しずつ引っ込んできたね。良い感じ、良い感じ!」


ひなたちゃんはパシャパシャとシャッターを切りながら褒めてくれる。

やっぱりひなたちゃんに認められると、それだけで現金なほどに気分が良くなってしまう。


撮影に応じながら、俺はふと、頭に浮かんだ疑問をそのまま口にしてしまった。


「……女性の会員さんも、やっぱり裸で写真撮ってたりするの?」


「ん? うん、上は脱いでもらってるよー。人によってはね、やる気満々でパンツ一枚で撮影する人もいるよ。」


カメラを構えたまま、ひなたちゃんはあっさりと答えてくれる。

そうか、この密室で、他の女性会員たちも同じように肌を晒しているのか……。


「ちなみに、ひなたちゃんの会員さんって、何歳くらいの女性が多いの?」


「……うーん、大体女子大生からOLさんくらいだから、18歳から26歳くらいの間だよ」


今思えば、この時の彼女の返答にかかった“わずかな間”に気づけなかったのは、完全に俺の落ち度だった。

それに気付いたのは、もう少し後のことだ。


「へー、若い人ばっかりなんだね。」


「そうだね。もうちょっと上の年齢層になると、私じゃなくて他の男性のトレーナーさんを指名する人が多いんだよね。」


彼女は少しだけ寂しそうなな表情をする。

それを見た俺は、他愛のない世間話のつもりで言葉を繋げた。


「そっか。じゃあ、そんな若い女性たちが、ここで服を脱いで写真撮ったり、汗を流したりしてるんだな。」


本当に、特に下心があったわけでもない。

ただ純粋に、パーソナルジムという空間の客層に納得して、そう思っただけだった。

だが、それが決定的に良くなかったらしい。


「……ちょっと、お兄さん?」


低く冷たい声にハッとしてひなたちゃんの顔を見ると、さっきまでニコニコと愛らしく動いていた彼女の表情が、一瞬で妙に不機嫌なものへと様変わりしていた。


「私に『好きだ』って告白しておいて、すぐ他の女の子たちに興味持つってどういうことですか?」


「え……っ?」


一気に部屋の空気が凍りつき、なんだか取り返しのつかないくらい不穏な雰囲気が漂い始める。

そもそも、デート……というか食事には誘ったけれど、まだ正式な告白はしていないはずだ。

さっきの「好きになっちゃった?」という質問にだって、俺は照れてまともに答えられなかったんだから。


「そうですか。もう浮気ですか。」


いつも人懐っこくて太陽のように明るいひなたちゃんからは、およそ想像もつかないほどの重苦しい「嫉妬の塊」。

さっきまで禁止されていたはずの、距離を突き放すような冷徹な「敬語」が、俺の心臓に凄まじい恐怖を植え付けてきた。

ーーー

「……これは、ちょっとお仕置きが必要ですね。」


お仕置きって……。

俺、そんなに悪いことを言ったのだろうか。

ただ客層についてほんの少し言葉を返しただけなのに。

だが、今の氷点下まで冷え切ったひなたちゃんに逆らうことだけは、絶対に得策ではない。

本能がそう告げていた。


「ハーフパンツとパンツ、両方とも脱いでください。」


表情一つ変えず、彼女は冷たく言い放った。


「ぱ、パンツですか……?」


あまりの威圧感に、ついこちらも釣られて敬語になってしまう。


「そうです。そもそも、溜まっているから、私の目の前で他の女のことなんて考えちゃうんですよね?」


言っていることの理屈は分かる。分かるが。

けれど、あまりの飛躍ぶりに脳が理解を拒んでいた。

ひなたちゃんって、もっと明るくてサバサバした女の子だと思い込んでいたけれど……もしかして、俺の想像を遥かに超えるレベルで「重い」女の子だったのだろうか。


しかし、そんな不機嫌さを隠そうともしないひなたちゃんの姿にすら、俺は心のどこかで「めちゃくちゃ可愛い」と思ってしまっていた。


「はい、脱ぎます……」


彼女に俺のすべてを晒すのは、これで2回目になる。

だが、一度見せたはずなのに、なんなら写真まで撮られて個人情報を握られているというのに、いざパンツに手をかけて下ろそうとすると、恥ずかしさで指先がピきりと止まってしまう。

確かに通い始めた頃よりは痩せた。お腹も凹んできた。

けれど、だからといってこの部分が急に大きく成長するわけでもないのだ。


躊躇する俺を見て、ひなたちゃんはさらに追い打ちをかけるように冷然と言い放った。


「……お兄さんのおちんちんが小さいことは、もう十分に分かっています。だから、今さら恥ずかしがらずに早く出してください。」


あんなに明るくて、親身になって俺のトレーニングを支えてくれていたひなたちゃんからの、容赦のない現実の宣告。

万が一、いや億が一にも、この先ひなたちゃんと付き合えるような未来が来たら、絶対に、何があっても浮気だけはしてはいけない。

それだけを深く、深く心に刻み込みながら、俺は覚悟を決めてパンツを一気に下ろし、ひなたちゃんの目の前にその情けないモノを晒した。


「んふッ」


晒された俺のそれを見た瞬間、ひなたちゃんが小さく鼻で笑った。

その拍子に、さっきまでの氷のように冷たかった不機嫌な顔が、ほんの少しだけ緩んでくれた。

……俺の男としてのプライドに、結構な傷跡をざっくりと残して。


「やっぱり、お兄さんのおちんちん小さいですね。写真で何度も見ましたけど、本物の方が断然かわいいです。」


(写真で何度も……って……!!)

そういえば体験入会の時、彼女は「個人的に楽しむ」とか何とか不穏なことを呟いていたっけ。

俺のあずかり知らぬところで、あの羞恥まみれのデータが好き勝手に何度も見返されていたのだ。


だが、その衝撃的な事実を突きつけられた瞬間、俺の脳内では羞恥心よりも、狂おしいほどの興奮が完全に上回ってしまった。

いくら仕事とはいえ、全く興味のない男のそんなモノを、プライベートで何度も見返したいはずがない。

ということは、少なくとも嫌われてはいない……それどころか、彼女の中で俺は特別な存在になっているはずだ。


そう都合よく解釈した瞬間、股間のそれはひなたちゃんの視線を浴びながら、ぐんぐんと血流を滾らせて猛烈に大きくなっていった。


「おおー、一体何に興奮したのか分かんないけど、一気に大きくなった!」


彼女は感心したように声を上げながら、容赦なくデジカメのシャッターを切る。


「お兄さんって、もしかして……ただ人に見られるだけで興奮しちゃう人なの?」


気づけば、彼女の口調から冷徹な敬語が消えていた。

そのことに気づいて、俺は内心ほっと胸をなでおろす。

少しだけ、俺のことを許してくれたのかもしれない。

……いや、そもそも俺は何も悪いことはしていないと思うのだけれど。


「ひなたちゃんに、見られているから興奮してるんだよ。」


俺が真っ直ぐにそう返すと、ひなたちゃんの顔に、ようやく笑顔が戻ってきた。

もしかしてこの子、ヤキモチの沸点は低いけど意外とチョロい子なのかもしれない。


「それで……もう、しまっても良いのかな?」


さすがに立ち尽くしたまま大きくし続けるのは恥ずかしくなってきて、おずおずと尋ねる。

だが、やはりその質問も、不正解だったらしい。


ひなたちゃんの顔から一瞬で笑顔が消え失せ、俺を睨みつけるように凄んできた。


「……お兄さん。お仕置きはまだ、始まってもいないですよね? なんで勝手にしまうんですか?」


「すいません……っ」


彼女は年齢で言えば、俺の2歳下だ。

それなのに、今の俺には彼女に逆らえる気がこれっぽっちも起きなかった。

これが世に言う「尻に敷かれる」というやつなのだろうか。

なんとなく、ひなたちゃんとの結婚生活を想像して口元が緩んでしまった。


「なんでこれからお仕置きされるのに、ニヤニヤしてるんですか?」


怪訝そうな、ジト目混じりの表情で見つめられる。

まずい、これ以上ひなたちゃんという名の油に火を注ぐわけにはいかない。

俺は慌てて引き締め、どうにかキリッと神妙な表情を作り直した。


「――では、はじめますか。」


ひなたちゃんはそう言うと、前回のトイレットペーパーだけでなく、今度は部屋の隅からボックスティッシュまで抱えて戻ってきた。


逃げ場のない密室で、大好きな年下のトレーナーから下されるお仕置き。

だが、俺はこれから行われるであろう行為に対して、むしろ期待しか抱いていなかった――。

ーーー

「お兄さんが浮気っぽいのは、溜まってるからですよね? 仕方ないから、私が今からその煩悩を全部出してあげます。」


浮気した覚えなんて微塵もないんだけどなぁ……。

そもそも、まだ付き合ってすらいないわけだし。

でも、彼女がここまで分かりやすく嫉妬してくれるのは素直に嬉しかったので、俺は余計な口を挟まず大人しく従っておくことにした。


そんなことを考えていると、ひなたちゃんの小さくて温かい手が、俺のそれに直接触れ、ギュッと優しく握りしめてきた。


「うっ……!」


人生で初めて、生身の女の子の手にそこを握られた衝撃。

あまりの電気的な快感に、俺は思わずビクッと腰を引いてしまった。

それにつられて、ひなたちゃんも驚いたようにバッと手を離す。


「あ、ごめんなさい! 痛かった?」


「いやいや、大丈夫! ……ただ、初めて他人に触られちゃったから、ちょっとびっくりしちゃって……」


男としてあまりにも情けない告白だった。

だが、その正直な返答は、どうやら彼女にとってこれ以上ない正解だったらしい。


「え……? お兄さんのおちんちん触るの、私が初めてなの?」


ひなたちゃんの表情が、パッと花が咲いたように明るくなった。

…… もしかしてひなたちゃん、本気で俺のこと……なんて甘い勘違いに走りそうになるが、慌てて理性を引き戻す。

いやいや、彼女はただ、体験入会の時にも言っていた通り「初めての人に一から教える」のが好きなだけなのだ。


「そうかそうかー、私が初めてかぁ。」


嬉しそうにブツブツと独り言を呟きながら、彼女は愛おしそうに、再度そこをしっかりと握り直した。

ダイレクトに伝わる手のひらの柔らかさはとんでもなく気持ち良かったが、今度は不格好に腰が逃げないよう、俺は必死に足を踏ん張って耐えた。


彼女は、俺のモノを握ったまま、グッと包皮を根元の方へと下げた。


「ふふ、やっぱり大きくなった時は、こうやって剥けてた方が断然かっこいいよ。」


完全に剥き出しにされた亀頭の先端から、とろりと我慢汁が溢れ出す。

もう、こちらの受け入れ準備は万端のようだった。


彼女はそのまま、ゆっくりと愛撫するように上下に扱き始めた。


「やば……っ! 気持ち良すぎる……!」


思わず本音が漏れ出ると、彼女は少し呆れたように、けれどどこか嬉しそうに言ってきた。


「もう! お仕置きなんだから、そんなに気持ち良くなっちゃダメでしょ?」


そうは言うものの、ひなたちゃんの手つきは容赦がなかった。

溢れ出てくる潤滑液と、剥かれた包皮の伸縮を巧みに使い、その可愛らしい顔立ちからは想像もつかないほどハイレベルなテクニックで扱いてくる。

そんな極上の刺激、童貞の俺に耐えられるわけがなかった。


「あ、ああ……! もう、出ちゃいます……っ!」


「え!? もう出るの!? お兄さん、もしかして早漏さん?」


ひなたちゃんの手が、意地悪にグンと加速する。

グチョグチョ、と部屋の中に淫猥な音が響き渡り、睾丸の奥から熱い精液がせり上がってくるような感覚が襲う。


そして――。


「い、いく……っ!」


叫び声と同時に、ひなたちゃんの手によって、俺の欲のすべてが勢いよく絞り出された。

ビュビュッ! ビュッ! と、三回に分けて熱い塊が弾け飛ぶ。


しかし、その射精の勢いはひなたちゃんの想像を遥かに超えていた。

彼女の手元で待ち構えていたはずのティッシュの防壁をすり抜け、放たれた精液はストレッチ用のマットの上にビチャッと無残に飛び散ってしまった。


「あらら……」


ひなたちゃんは、まだ余韻でピクピクと跳ねている俺のモノをゆっくりと動かし続けながら、白く汚れてしまったマットの先を、どこか感心したような目で見つめていた。

ーーー

「もー、みんなが使うマットを汚しちゃダメでしょ。」


ひなたちゃんは呆れたように言いながら、トイレットペーパーをクルクルと多めに巻き取り、マットの上に落ちた俺の精液をきれいに拭き取った。


「ご、ごめん……」


一応謝ってはみたものの、そもそも俺の手を急加速させて無理やり出させたのは彼女だ。

俺が悪いのかは甚だ疑わしかったが、とにかく今は大人しく嵐が過ぎ去るのを待つしかなかった。


「それとも何? 他の女性会員さんも使う場所に、お兄さんの精子でマーキングでもしたかったのかな?」


なかなか面白いことを言う。

精子でマーキングなんて、これまでの人生で一度も考えたこともなかった。


「それにしてもさぁ……」


ひなたちゃんはそう呟きながら、俺の出したばかりで元気がなくなっているモノをチラッと見下ろした。


「やっぱり一回だけじゃ、お仕置きとしては足りないよね。よし、2回戦目行こうか!」


その不穏な言葉に、俺の股間が恐怖でピクリと反応する。

だが、いくらなんでも出した直後の2回目は肉体的にかなり厳しい。


「あ、あのさ……すぐに2回目は……ちょっと難しい、かな……と……」


恐る恐る彼女の反応を見ながら伝えてみる。

すると、ひなたちゃんの眉毛がピクリと不機嫌そうに跳ね上がった。

しまった、これも彼女の地雷だったか……。


「……お兄さんは、自分の手だと休まずに2回連続で出したのに、私の手じゃ2回目はダメってことですか? 私の手はお兄さんの手より気持ちよくなかったですか?」


スッと戻ってきた冷徹な敬語がめちゃくちゃ怖い。

もちろん、ひなたちゃんの手の方が何倍も気持ちよかった。

だが、それはそれ、これはこれだろう……。


「いえ! そんなことありません! ひなたちゃんの手の方が何倍も気持ちよかったです! お仕置き2回目、よろしくお願いします!」


俺は萎びたちんちんを晒したまま、ビシッと直立不動の姿勢を取った。

その必死な態度に、彼女はまた機嫌を直してくれたようだった。


「ふふ、お兄さんかわいい。」


ひなたちゃんはそう言って嬉しそうに微笑むと、完全に小さくなっているそれにそっと温かい手を添えた。

よくよく考えれば、大好きなひなたちゃんにこうして直接出してもらえる機会なんて、この先の人生でもう二度とないかもしれない。

だとしたら、彼女も楽しんでいることだし、俺もこのお仕置きを全力で楽しんでしまった方が得なのではなかろうか。


そんな風に開き直りかけた俺の前で、ひなたちゃんはおもむろに俺の包皮をスッと剥いた。


「へー、小さい時の亀頭ってこうなってるんだ。おっきい時しか見たことなかったから、なんか新鮮かも。」


彼女のそのセリフを聞いた瞬間、ざわッとした冷たい風が吹き抜けた。


よく考えたら、ひなたちゃんはちんちんに対して全く抵抗がないし、包茎の仕組みにも妙に詳しかった。

なにより、あの熟練の技と言わんばかりの手コキテクニック……。


(もしかして……ひなたちゃんって、彼氏がいるんじゃ……?)


最悪の想像が頭を支配した結果、彼女の手で触られて少し半立ちになりかけていたそれが、急速に元気を失って縮こまっていく。

目の前が真っ暗になっていくような絶望感に襲われた。


「あれ?小さくなっちゃった。お兄さん、どうしたの?」


ひなたちゃんは可愛い顔で首を傾げ、上目遣いにそんなことを聞いてくる。

さすがに、もし彼氏がいたらショックで立ち直れないかもしれない。

だが、ここで立ち止まるわけにはいかなかった。

彼女は、俺が初めて本気で好きになった人なのだ。すべてを受け入れよう。


「あ、あのさ……ひなたちゃん。一つだけ、聞いても良いかな?」


恐る恐る、質問をしてみる。

ひなたちゃんはキョトンとした表情でこちらを見つめている。


「ひなたちゃんってさ……もしかして、今、彼氏とかいたりする……?」


その質問を投げかけた瞬間、ひなたちゃんは突如として大爆笑し始めた。


「あはははは! なにそれ! そんなこと気にして小さくなっちゃったの!? 」


お腹を抱えて涙目になりながら笑い転げるひなたちゃんを前に、俺はただただ羞恥にまみれて立ち尽くすしかなかった。

一通り笑い、目元の涙を指で拭いながら、彼女は答えてくれた。


「彼氏なんていないよ。もしいたら、お兄さんとコースが終わった後にご飯行く約束なんてしないでしょ?」


その答えを聞いて、俺は心底ホッとし、胸をなでおろした。

恥ずかしい思いはしたが、勇気を出して聞いて本当に良かったのかもしれない。


……だとすると、あの知識や手コキのテクニックは、すべて元カレと積み上げてきた遺産なのだろうか。

それはそれで別の嫉妬にまみれそうだったが、仕方のないことだ。

そう自分を納得させようとした時、彼女がさらりと言った。


「というか、そもそも私、今まで彼氏いたことないよ?」


「え……っ!?」


俺は安堵を通り越して、純粋に驚愕してしまった。

こんなに可愛くて、明るくて魅力的なひなたちゃんに、これまでの人生で一度も彼氏がいたことがないなんて、絶対にあり得ない。


「え? そうなの!? 絶対いると思ってたよ。」


「うん、私もいまいち納得いってないんだけどね。なんかみんな、付き合う前に『重くて付き合うのは無理』って言って逃げてっちゃうのよね。私、こんなにさっぱりした性格なのに、本当おかしいよね?」


ああ、そうか……。

ひなたちゃんは、自分が好意を向けた相手に対するその「愛の重さ」を、自分で全く自覚していなかったのだ。

普段がカラッと明るくてさっぱりしていそうな分、いざスイッチが入った時のその凄まじいギャップに、男たちは恐怖して逃げ出していたのだろう。

身を以てその重さを体感している俺には、彼女がフラれてきた理由が痛いほどよく分かった。


しかし、そうなると新たな謎が浮かび上がる。


「……だとしたらさ、包茎の知識とか、あの手コキのテクニックとか、一体どこで仕入れたの……?」


この際だ、気になったことは全てぶつけてしまおうと思った。

すると、その質問に対して、ひなたちゃんは急にピタッと口をつぐんでしまった。

そして、俯きながらボソボソと小さな声で口を開いた。


「……で。」


全く聞こえなかった。


「えっと、ごめん。なんて言ったの?」


「だから……で……」


肝心な部分がさっぱり聞き取れない。


「本当にごめん、何でって言ったの?」


俺が聞き返したその瞬間、ついに耐えかねたひなたちゃんが、顔を真っ赤にして大声で叫んだ。


「だから! エッチな動画で勉強したの!! いいでしょ別に! 私がそういうのに興味あっても!」


個室に響き渡った彼女の突然の大声に、俺はビクッと身体を震わせた。

だが、その叫びの内容は、あまりにも衝撃的で、そして愛おしすぎるものだった。

そうか……合点がいった。

俺のちんちんの写真を個人的に何度も見返して楽しんでいたことと言い、すべてのピースがカチリと繋がったような気がした。


「ひなたちゃんって……もしかして、相当なムッツリ?」


俺がニヤニヤしながらそう指摘すると、ひなたちゃんは目を限界まで見開き、耳の裏まで真っ赤に染め上げた。

どうやら、図星だったようだ。


もしかすると彼女は、自分の中に渦巻いている有り余る性欲やエネルギーを、すべてこの筋トレにぶつけて発散させていたのかもしれない。

図星を突かれて真っ赤になり、ふくれっ面で俺を睨みつけてくるひなたちゃんを見て、俺はどうしても口元がニマニマと緩んでしまうのを止められなかった。

ーーー

さっきまでの支配的な態度とは一転して、今はひなたちゃんのほうが顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。

いつも堂々としている彼女のこんな姿も新鮮でたまらなく愛おしかった。


……だが、そんな余裕をぶっこいている俺自身、今の姿は靴下だけを履いたほぼ完全な全裸だという事実には変わりなかった。


ひなたちゃんは真っ赤になった顔のまま、俺をキッと鋭く睨みつけると、おもむろに俺のちんちんをその小さな手でギュッと力任せに握ってきた。


「うおっ!?」


急すぎる強硬手段に慌てて腰を引こうとしたが、彼女はすかさず空いたもう片方の腕を俺の腰に回し、がっちりと組み付いてホールドしてきた。

完全に密着したせいで、ひなたちゃんの顔のすぐ目の前に、俺のモノが突き出されるような格好になってしまう。


「……えーえー、そうですよ! どうせ私は、今まで彼氏の一人もできたことがない、ムッツリ処女ですよ! もうバレちゃったんだから、今までの妄想全部ぶつけてやるんだから!」


どうやら、からかいすぎてしまったらしい。

振り解こうと身悶えしてみるが、腰にしがみついたひなたちゃんのパワーは凄まじく、ビクとも離れる気配がなかった。

彼女はそのまま、右手をせわしなく動かして、俺のそれをグニグニと力強く刺激し始める。


客観的に見れば、かわいいい女の子が俺の下半身にしがみついているようにしか見えない。

さっき一度激しく出したばかりだというのに、俺のそれは彼女の手の中でまたしても勃起を始めてしまった。


「あ、ちょっと、ひなたちゃ――わ、わっ!?」


そして、気がつけばマットの上に尻餅をついていた。

特に痛みとかは感じず、ふわっと転がさせられていた。


さっきまで見下ろしていたはずの彼女の顔を、今は完全に床に寝転んだ状態で見上げている。


状況が掴めず混乱する俺を余所に、ひなたちゃんはニヤッと笑った。

そして、俺に背中を向けるような形で、俺の腹部にどかっとのしかかってきたのだ。


「ぐふっ……!?」


俺のお腹の上に、ひなたちゃんの引き締まった、でも女の子特有の信じられないほど柔らかそうなお尻の質量が、ダイレクトにのしかかってくる。


身動きの取れない俺は、ただただ部屋の天井をぼんやりと見つめるしかなかった。

大好きな女の子にこうして馬乗りになられるなんて、よくよく考えたら幼稚園の時以来じゃないだろうか……。

そんなあまりにも情けない記憶が頭の中を巡っていた。

ーーー

ひなたちゃんは細身で体重が重いわけでもないのに、俺がどれだけ逃げようとしてもピクリとも動かなかった。

体幹がもの凄く強いのか、それとも逃がさないための絶妙な体重移動が上手いのか。

とにかく床に組み伏せられた状態でもがいてみても、どうにもならなかった。

もしかしたらレスリングか何かの格闘技も嗜んでいるのかもしれない……。

さすがにそれは怖くて本人に訊くことはできなかったが。


「お兄さん、もう逃げられないよ? 諦めてお仕置きを受けるんだね。」


背中越しにこちらをくるりと振り向きながら、ひなたちゃんがそんなことを言ってきた。

俺はもう、降参と言わんばかりに全身の力を抜いた。

これ以上抵抗したって無駄だ。

もう、ひなたちゃんに好きにしてもらって、気持ちよさだけを大人しく受け取ろう。

諦めと、それ以上の期待で、俺はすべてを受け入れた。


「うんうん、良い子だね。これはご褒美だよ。」


ひなたちゃんの身体に遮られて直接見ることのできない俺のちんちんに、ぽつりと温かいものが垂らされた。

恐らく、彼女の口から唾液が落とされたのだろう。

……正直な話をすると、そんなところに垂らすんじゃなくて、直接俺の口の中に欲しかった。

いや、さすがにそれは気持ち悪いと思われるか……。


「うーん、よく考えたらお仕置きなのにご褒美っておかしいか。ま、いっか!」


そんな本末転倒な呟きと共に、恐ろしい2回目の手コキが始まった。

彼女は右手の親指で亀頭をギュッと力強く押すように動かし、人差し指の爪で裏すじをカリカリとピンポイントでひっかく。

それと同時に、今度は空いている左手で睾丸を愛おしそうに揉むように刺激してきた。

本当にエロ動画だけで勉強したのかと疑いたくなるような、熟練の手練れのような無駄のない動き。


「ひ、ひなたちゃん……本当に彼氏とかいなかったの……っ?」


味わったことのない複数の性感帯の同時攻めを喰らい、床の上で悶絶しながらどうにか質問を絞り出す。


「……いませんよ。すいませんね、モテなくて。」


少し拗ねたような、トゲのある声が返ってきた。

そして、さっきまでの繊細なイタズラのような愛撫が嘘のように、彼女の手つきは一気に大胆な、激しいストロークへと変わった。

ひなたちゃんの唾液と、先端から溢れ出る我慢汁が混ざり合い、静かな個室の中にグチョグチョと淫猥な音が激しく響き渡る。


「あ! ひなたちゃん、もう出ちゃう……出ちゃうよ!」


焦る俺の声を浴びて、彼女の手のスピードがさらに加速した。


「お仕置きなんだから、出さないと終わらないでしょ?」


背中越しなので顔は見えないが、その声にはいつになく熱がこもっているように聞こえた。

もしかすると、ひなたちゃん自身も今この状況に興奮しているのかもしれない。


「い、いく……っ!」


睾丸がキュッと震え、精液が尿道を駆け抜けていく。

ビクンビクンと身体が勝手に痙攣を始めた。その激しい痙攣の波に合わせて、俺の身体は精液を吐き出していく。


「おおお! いっぱい出た!」


ひなたちゃんが素直に驚いている。

しかし、驚きつつも彼女の手は一切止まらなかった。


「ちょちょ、待って! 射精したって、出したばっかりだから……っ!」


限界を訴えると、彼女はまた顔だけをこちらに振り向き、ゾクッとするような悪魔の笑顔で言い放った。


「知ってるよ? 射精したばっかのときって、触られるとすごく辛いんだよね? ――でも、お仕置きだから仕方ないよね。」


彼女は容赦なく手を動かし、溢れ出た精液そのものを陰茎全体にねっとりと擦り込んでいっている。


「れろー。」


そんな声と共に、さらに上から唾液が追加されたようだった。

あまりの過剰な刺激に身体を激しく揺すり、どうにか逃げようとしたが、やはり馬乗りになったひなたちゃんを撥ね除けることは出来なかった。

ひなたちゃんを本気で怒らせると絶対に勝ち目がないということを、俺の肉体は骨の髄まで教え込まれてしまったようだ。


「ふふ、もう一回出したら、ちゃんとお仕置きは終わりにしてあげるから。頑張ってね?」


天使のような声で紡がれる、悪魔の言葉。

あまりにも敏感になりすぎたちんちんは一刻も早く小さくなりたがっているのに、ひなたちゃんの容赦ない手のひらによって、無理矢理にカチカチへと勃たされているような奇妙な感覚だった。

こんな限界の状態で、3回目なんかイケるわけがない――心ではそう絶望していたが、俺の身体は彼女のテクニックに屈して早くも次の射精を受け入れ始めていた。


チャッ、チャッ、チャッ、とリズミカルに水気を帯びた音が耳に届く。


「ほらほら、がんばって。ちゃんとお兄さんが、私に『ごめんなさい』の射精をするんだよ?」


もはや、自分が何に対してそこまで謝罪しなければいけないのか、朦朧とする頭では分からなくなっていた。

浮気だっけ? それとも、彼女をムッツリだと笑ってしまったことだっけ?

よく分からないけれど、とにかくひなたちゃんに謝らないといけないな、ということだけが頭を占める。

身体は恐ろしい速度で絶頂に向けて開発されているのに、思考だけがどこか現実から遠く離れていくような、不思議な感覚だった。


そして、ついに最後の絶頂が訪れた。


「うわわ!」


3度目の凄まじい射精の瞬間、上に乗っていたひなたちゃんを力任せに撥ね除けていたようだ。

身体がビクンと大きく跳ね、ひなたちゃんは驚きながらも、さすがの運動神経で上手いことマットの上へ受け身を取って転がった。


出し切ってようやく解放され、久しぶりに自分の目で確認することのできた俺のそれは、先端からダラリと白い涙を流しているようにさえ見えた。


「びっくりしたー! 何も言わずにいきなりイッちゃうんだもん。でも……油断していたとは言え、この私を撥ね除けるなんて、すごいよお兄さん。」


床に転がったまま、彼女は何故か嬉しそうに俺の成長を褒めてくれた。


「……ひなたちゃん、ごめん。俺、絶対に……絶対に浮気しないから……」


通常のトレーニングの何倍もくたくたになった身体で、俺は床に大の字になりながら、掠れた声でそれだけを呟いた。

そんな俺の姿を、ひなたちゃんはまん丸な目で見つめた後、ふっといつもの笑顔に戻っていった。


「うん、お兄さんのこと、信用しているよ。」


ひなたちゃんは自分の手をティッシュできれいに拭いた後、俺の手をギュッと握って床から引き起こしてくれた。


「さ、シャワー行こっか。……今日だけは特別に洗ってあげるね。」


そう言って微笑む太陽のような笑顔に、俺はもう、心の底まで惚れ込んでいることを思い知らされてしまった。

エピローグ

ひなたちゃんに優しくシャワーで全身を洗い流してもらい、着替えを済ませて、これでようやく今日のすべてのメニューが終わった。

いつも以上に、文字通り身体はくたくたで一歩も動けないほどだった。

でも、不思議と気分はどこまでも晴れやかで満ち足りていた。


しかし、受付へ戻るためにハーフパンツの紐を結び直していると、冷静になった俺の脳裏に一抹の不安が過った。


「変なこと聞くけどさ。この個室って、監視カメラとかないよね?」


俺の質問に、ひなたちゃんは不思議そうに頭の上にハテナを浮かべながら首を傾げた。


「え? うん、一応うちのジムは各部屋の運営をトレーナーにお任せしてるから、監視カメラとかは無いよ? ――なんで?」


その答えを聞いて、俺はホッと胸をなでおろし、ひなたちゃんに真っ直ぐ向き直った。


「えっとさ、今日やった事ってさ、多分外でご飯食べるよりアウトだよね?」


それを聞いて少し考え込んだ後、わかりやすく顔面が蒼白になっていった。


「ど、どどど、どうしよう! バレたら私、クビになっちゃう! また路頭に迷っちゃう!!」


あわあわと落ち着きなく手を動かし、パニックに陥っている。

そして、藁にもすがるような勢いで、俺の両手をぎゅっと握りしめてきた。


「お願い! 阪木さんには絶対、絶対に言わないで……! 私、なんでもするから!」


……なんでも?


ひなたちゃんは上目遣いで、うるうるした瞳で俺をじっと見つめてくる。

その瞬間、俺の視線は彼女の柔らかそうな唇へと吸い寄せられた。


「えっと……じゃあ、ちゅーしてくれたら黙っていようかな。……なんてね。」


こんな絶好のシチュエーションでさえ、冗談っぽく濁して逃げ腰になってしまう自分が心の底から情けない。

俺の言葉を聞いたひなたちゃんは、きょとんとした顔で固まっている。

これは……完全に引かれたか。


「うそうそ! 言うわけないでしょ。まだひなたちゃんと一緒にトレーニング続けたいからね。」


表面上は平静を装いながら、俺は心の中で血の涙を流していた。

今思えば、力強く押せばキスくらいはさせてくれたかもしれないのになぁ……。


そうやって激しく気を落とした、まさにその瞬間だった。


信じられないほど柔らかくて温かいモノが、正面から俺の唇に、強い勢いで押しつけられた。


「っ……!?」


驚愕して目を見開くと、目の前にはひなたちゃんの整った顔が、ドアップで存在していた。

あまりに突然の出来事に、脳の理解が完全に追いつかない。

それが「キス」なのだと頭が理解できたのは、ひなたちゃんがゆっくりと唇を離した後のことだった。


「――これで、ちゃんと内緒にしてくれるよね?」


ひなたちゃんは、顔を赤らめながら、愛らしい笑顔でそう言った。


もう、俺の目にはひなたちゃん以外の何も映らなくなっていた。

今すぐにでも告白してしまいたかったが、ぐっと堪えて今はやめておくことにした。


三ヶ月後、トレーニングが完遂したときに正式にデートに誘おう。

それまでにトレーニングとデートのイメージトレーニングを頑張ろう。


そして、ひなたちゃんと目が合った。


「私、重いらしいから気をつけてね?」


END


完結編よろしくです!



後書き

今回は書きたいように書いたので、結構だらだらしてしまった部分もあると思います。

でも、書いた本人は楽しかったのでヨシ。

こっちの続編はもう少し短くする予定ではあったのですがね。

書きたいことが増えてしまいましたね。

次はもうちょいコンパクトに行きたいですね。

楽しんで貰えたら幸いです。

うむ。


Comments

すーぱーわか

本編、続編と長編の執筆お疲れ様でした。 楽しませていただきました。 最後のセリフの「重い」ですが、馬乗りになられて動けなくなった場面を思い出して、両方の意味がかかっているのかもと思いました。