会社カルデアーー玄奘三蔵 (Patreon)
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大型案件のプレゼンは思うような結果にならなかった。
企画そのものを否定されたわけではない。
だが、クライアントとの認識には大きなズレがあった。
会議の終盤には修正点が次々と挙げられ、最終的には方向性そのものを見直すことになった。
提出期限は来週。残された時間は多くない。
会議が終わった後も、企画部の空気は重いままだった。
誰も余計なことは言わず、それぞれ自分の席へ戻っていく。
藤丸もまた、分厚い資料の束を抱えたまま自席へ戻った。
モニターには、何度も修正を重ねた企画書が開かれたままになっている。 一度だけ目を閉じ、小さく息を吐く。
もう一度やり直そう。 そう思ってマウスへ手を伸ばした時。 デスクの上へ影が落ちた。
顔を上げると、そこには玄奘三蔵が立っていた。
「んー……やっぱり気にしてる?」
「まあ、多少は」 「多少じゃないでしょう?」 三蔵はそう言いながら隣の席を引っ張ってくると、どっかり腰を下ろした。
「だってあんた、会議終わってからずーっと難しい顔してるもの。」
「仕事ですから」 「でもねえ。さっきのはお仕事とかお仕事じゃないとか、そういう話じゃないと思うのよね、あたし。」
藤丸が視線を向ける。 三蔵は珍しく笑っていなかった。
ただ真っ直ぐこちらを見ていた。
「企画を却下されるのは普通でしょう?」
「はい」
「ダメなところを指摘されるのも普通。」
「そうですね」
「でもね。」
三蔵は少しだけ眉をひそめた。
「あんな風に頑張ってる人を馬鹿みたいに言うのは、あたし好きじゃないわ。」
藤丸は苦笑する。
「三蔵ちゃん、企画なんて分からないでしょう。」 「分からない!」 即答だった。 しかも妙に胸を張っている。
「分からないんかい」
「分からないわよ?」 三蔵はけろりと言う。
「でもね、企画は分からなくても、誰が頑張ってるかくらいは分かるの。」 そ
う言って腕を組みながら天井を見上げた。
「前に夜遅く会社へ来たことがあったでしょう?」
「ああ……ありましたね。」
「企画部だけ電気がついてたの。」
「誰だろうと思って覗いたらあんただった。」
「先週も。」
「その前も。」
「そのまた前も。」
「もうね、この子ちゃんと寝てるのかなーって、本気で心配したんだから。」
藤丸は何も答えなかった。 答えようとしても言葉が出なかった。 三蔵はそんな彼の様子を見て、ふっと笑った。
「だからね。」 少しだけ声が柔らかくなる。 「その企画が良かったのか悪かったのか、あたしには分からない。」
「お客様が正しいのかも分からない。」
「でも。」 三蔵は手を伸ばした。 ぽん、と子供にするみたいに藤丸の頭を軽く叩く。
「頑張ってたのは知ってる。」
「……」
「手を抜いてなかったのも知ってる。」
「投げ出さなかったのも知ってる。」
「疲れても疲れても前に進もうとしてたのも知ってる。」
それから三蔵は得意げに笑った。 まるで自分のことのように。
「だからあたし、結構誇らしいのよ?」
「何がですか」
「えー?」 三蔵は不思議そうに目を丸くする。 そして次の瞬間には勢いよく立ち上がった。 「だってあんた、あたしの弟子だもの!」 企画部の何人かが思わずこちらを見た。 本人はまったく気にしない。
「弟子が頑張ってるのに、師匠が嬉しくないわけないでしょう!」
「今できなくたっていいの!」
「失敗したっていいの!」
「遠回りしたっていいのよ!」
「だいたいねえ、道なんて迷うためにあるようなものなんだから!」
「それは三蔵ちゃんだけでしょう。」
「違うわよ!」 びしっ、と指を差される。 「長安から天竺まで行くのに、どれだけ迷ったと思ってるの!」
「知らないですけど……」
「いっぱい!」
「説得力ないなぁ……」
「あるわよ!」 三蔵は胸を張る。 実に自信満々だった。
「でもちゃんと辿り着いたもの!」
「だったらあんただって大丈夫!」
「ちゃんと前を向いて歩いてるんだから、そのうち絶対に辿り着くわ!」 その笑顔を見ているうちに。 張り詰めていた何かが、少しだけほどけた気がした。 すると三蔵は満足そうに頷き、ぱんっと手を叩く。
「よし!決めた!」 「今日は師匠がご馳走してあげる!」
「元気のない弟子を放っておくわけにはいかないもの!」
藤丸は嫌な予感を覚えた。 「ちなみに。」
「ん?」
「財布は?」
「……」
「……」
「藤丸。」
「はい。」
「五千円貸して?」