憑依変化 大学サークル後輩 西住佳奈 その1 (Patreon)
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薄明かりの窓から差し込む朝日が、俺のまぶたをくすぐる。昨日の夜更かしがたたって、体が鉛のように重い。大学へ向かう支度をしながら、時計を見ればまだ余裕がある。
廊下で物音がした。そっと扉を開ける音、そして――
「おはよ、先輩」
ちょうど襖を開けようとした瞬間だった。向こう側から現れたのは、ジャージ姿の西住佳奈だ。丸襟の白いシャツから鎖骨が見え、スクワットでもしたのか頬が少し赤らんでいる。彼女は俺の腕を掴んだ。手のひらが熱い。
「今日も一緒に過ごそうよ。大学なんて行かなくていいでしょ?」
三週間前から続いている光景だ。あの実験の後、佳奈はこうなってしまった。憑依を解除したのに、まるで別の人格が宿ったかのように、俺にまとわりつくようになった。
「駄目だよ、佳奈。昨日もサボっただろう」
「だって先輩と一緒にいたいんだもん」
彼女の指が俺のシャツの袖を弄ぶ。目を細めて笑うその表情は、本来の佳奈が持っていた小心さのかけらもない。あの日の憑依で、何かが上書きされてしまったのだ。
冷蔵庫を開けると、すでに朝食のサンドイッチが用意されている。佳奈の仕業だ。ここ数日、彼女は俺のアパートに勝手に入り浸っている。鍵を渡した覚えはないのに。
「ねえ、先輩。私の作ったもの、おいしい?」
「ああ、うん」
答えると、佳奈は嬉しそうに体を揺らした。まるで褒められた犬のようだ。本来の彼女なら、こんな風に無防備に俺に近寄ったりしない。後輩としての適度な距離感を保っていたはずなのに。
玄関で靴を履こうとすると、背後から抱きつかれる感触。佳奈の体温が背中に伝わってくる。
「行かないでって言ってるのに……ずるいよ、先輩」
彼女の吐息が首筋にかかる。まるで恋人同士のような甘えた口調。でも、これは狂った実験の産物にすぎない。少なくとも俺はそう信じたい。
「また後でな」
かろうじて振り払って扉を開けると、佳奈の失望した表情がちらりと視界に入った。きっと帰ってくれば、また同じようにべったりと寄ってくるんだろう。この奇妙な関係は、いつまで続くのだろうか。
帰り道、頭の中を整理した。そもそも「憑依」なんてものが本当にあるなんて、一年前の俺なら笑い飛ばしていただろう。
大学の講義はほとんど頭に入っていない。教授の話を聞きながら、机の上で指を組み、ぼんやりと空気中の埃を見つめる。周りの学生たちは普通にノートを取ったり、スマホをいじったりしている。俺だけが、この世界を知らない「何か」を抱えたまま、日常に戻ろうとしているのに苦労している。
分魂憑依──簡単に言えば、自分の魂の一部を切り離して、他人に憑依させる技術だ。
まず、憑依中に操られた相手は、その間の記憶が完全に消える。まるで眠っていたか、意識を失っていたかのように。佳奈も、あの夜、彼女のアパートで実験を行った後、すべてを覚えていないと言っていた。
問題は「解除後の影響」だ。
普通なら、憑依が解除されれば、相手は元通り。魂の接続も切れるし、ただの他人に戻る。だからこそ、バレないように使えるし、俺以外誰もこの技術を知らない…はずだった。というか、知ってるやつがいたら、とっくに世の中めちゃくちゃだ。
なのに、佳奈は違った。
解除したはずなのに、なぜか俺に対する態度が変わったままなんだ。
彼女は本来、真面目で、先輩である俺に対しても「すみません」とか「申し訳ないです」って感じで、適度に距離を取ってくれるタイプだった。それが今では……ああ、そう。今日の朝の甘えた態度がすべてを物語っている。
憑依の影響が完全に消えていないのか?
彼女の中で、俺の魂の一部が残留して、実際に「変わって」しまったのか?
それとも、単に……彼女が、俺に惚れただけ?(笑えない。いや、これが一番現実的か?)
ひとまず、正解はわからない。だが、一つだけ確かなのは──
俺はこの技術を絶対に誰にも教えられないってことだ。
「……ん」
チャイムが鳴り、頭を上げると、もう講義が終わっていた。周りの学生がカバンをまとめ始める。俺も遅れて教科書を閉じ、席を立つ。今日は佳奈と会う気になれなかったので、彼女のメールも無視していた。
……そりゃ、普通の先輩・後輩関係が壊れてしまった今、大学内で会うのは気まずすぎる。
帰り道でコンビニに寄り、適当に弁当を買う。
マンションの階段を上りながら、「カナ、また来てたりしてな……」と半ば呆れ気味に思った。実際、ドアを開けた瞬間、その予感は的中した。
「おかえり、先輩♡」
ドアノブを回した瞬間、むわっとした甘い香りが鼻をくすぐった。灯りもついていない部屋なのに、カーテンの隙間から漏れる街灯の光で、玄関先に立つ佳奈のシルエットが浮かび上がっている。
震えるような声でそう言うと、佳奈は身をよじるようにしながら俺に抱きついてきた。パーカーのフードから零れた髪が俺の首筋にかかり、くすぐったい。正直、こんな時間に家にいてほしいものじゃないんだが──そう考える間もなく、彼女は震える指で俺のシャツの裾をつかむ。
「待ってたんです……ずっと……」
唇をかみしめながら、佳奈はぼそっとつぶやくと、自分の脇を締め付けるように腕で押さえた。まるで激しい何かを抑え込んでいるみたいだ。部屋を見回すと、テーブルの上には弁当の空き容器がきれいに並べられ、俺の洗濯物まで畳んであった。ここ数日で毎回こうだ。まるで……妻のように振る舞っている。
「今日も掃除とかしたのか……」
「はい! 先輩がいない間、ちゃんとお部屋のお世話しました……」
返事と同時に、佳奈がぎゅっと俺にしがみつく。それでいて、奇妙なことに、まるで飛び跳ねたいのを無理やり抑えているみたいに、膝をぴくぴくさせている。本当に何を考えてるんだこいつ。怖いほど溺愛してるわりに、素直に喜びも表現しない。
ドアを閉めると、佳奈は自分の手のひらを見つめて、小さく「あ……」と声を漏らした。汗で湿っているらしい。俺は思わず眉をひそめると、彼女は急に慌てた様子で、その手をパーカーの裾でごしごしと拭いた。
「ご、ごめんなさい……変ですよね……私……」
いや、そういう問題じゃないだろ。心の声が出かけたが、飲み込んだ。こいつの今の状態に対して、何を言っても無駄な気がする。この熱量は……確実に異常だ。普通なら「付き合ってください」レベルで済む話じゃないか?
「まあ……とりあえず、中に入ろうか」
「は、はい……!」
佳奈は明るい返事をしながら、頭をぺこりと下げたかと思うと、俺の袖をそっとつまんで、リビングへと先導し始めた。進むたびに、彼女の肩が小刻みに揺れているのが見える。
俺はカバンを床に下ろし、ゆっくり靴を脱ぐ。彼女が興奮を抑えきれずに玄関の壁に手をついて、身体を預ける様子が目に入る。袖から覗く腕が、嬉しさのあまりに、じっとしていられないみたいに微かに震えている。
(こいつ、俺が帰ってきただけでこんなに感じてんのか……)
怖いというか、申し訳ないというか。本来の佳奈なら、こんな風に俺の部屋に忍び込んだりしない。ましてや、恥ずかしげもなく甘えた口調で話しかけてくるはずがない。
「ところで自分の家にいなくていいのか?」
「ぜんぜん大丈夫! ただ……先輩の匂いがする場所にいたくて……」
佳奈はむにゃむにゃと言い訳しながらも、目がきらきらと輝いている。あからさまに浮かれているのがわかる。彼女はもうすっかり俺の存在だけで満たされてしまって、理性のブレーキが壊れているみたいだ。
(こんなの、ただの憑依の影響じゃないだろ……何かがおかしい)
俺は少し距離を取るようにしてリビングに進み、コートをハンガーにかける。しかし、すぐ後からついてくる足音。佳奈は俺の一歩後ろを、ちょうど影みたいにくっついて回る。まるで磁石に引き寄せられた鉄片みたいに。
「……なあ、佳奈。お前、マジで大丈夫か?」
「え? 何が?」
「いや……こんな風に俺んとこに来たりさ。普通じゃないだろ」
「だって私、先輩のこと好きじゃん」
即答だった。それも、恥ずかしそうに俯くでもなく、むしろ誇らしげに言い切る調子。こんなはずじゃないんだが。俺は一瞬、言葉に詰まってしまう。
佳奈はガタガタと小刻みに震えながらも、こちらへゆっくりと歩み寄ってきた。ピンクのパーカーの袖で、彼女は自分の身体をぎゅっと抱き締めている。その指先が生地に食い込み、関節が白くなるほどだった。
「…先輩、ホントに会いたかったんだよ。授業中も、ご飯食べてる時も、ずっと先輩のこと考えてた」
その声はどこか甘く、そして熱を帯びていた。佳奈は長い睫毛を震わせ、俺を見上げる。明らかに…興奮している。彼女の頬は赤く染まり、薄い唇が微かに震えている。ヤバい。完全にエスカレートしてる。
俺は思わず一歩下がる。冷たい壁が背中に当たった。
「ちょ、佳奈落ち着けよ。軽いノリじゃ済まないぞ」
「だって…」
彼女はもう一歩前へ出る。息遣いが荒く、か細い肩が上下している。「私、先輩のこと好き過ぎて…もうどうしようもないんだ。こんな気持ち、抑えられない…」
佳奈の両手がパッと開き、今度は俺の方へ伸びてきた。ぎりぎりのところで俺は体をよじり、かろうじて避ける。
(ちくしょう、ヤバすぎる…)
(でも、正直ちょっと…嬉しい…?)
俺は複雑な感情に苛まれる。元々佳奈は可愛いし、好みのタイプではあった。けどそれは、あくまで「普通の」彼女だった頃の話だ。今のは…何かが歪んでしまっている。明らかに歪んでいる。
「ねえ、先輩…」
佳奈は控えめに、でも情熱的に訴えかけてくる。「私のこと、少しでも…好きになってくれない?抱きしめて…くれない?」
その言葉に、俺は喉がカラカラになった。頬が熱いのを感じる。理性が「いや、ダメだ」と叫んでいるのに、体が反応しているのがわかる。佳奈の熱情は、こちらの理性を溶かしていく。
「…佳奈」
やっとの思いで言葉を絞り出す。「お前、本当にそれで…いいのか?俺が何をしたか、覚えてないだろ?こんな関係…」
「いいよ!」
彼女は即座に答えた。目は濁りなく、まっすぐに俺を見つめている。
「先輩のことが好きなの。理由なんていらない…」
言葉を探すように一瞬目を伏せ、再びまっすぐ見つめてきた。
「私、先輩がなにをしたかは覚えてない。でも、覚えてなくても…今のこの気持ちは全部本物なんだ」
彼女の指がパーカーの袖をギュッと握りしめた。
「目が覚めたら、胸が熱くて…先輩のことばかり考えてた。理由なんて…わかんない。でも、この想いだけは本当なの。そう言えるほど、確かなものなんだ」
佳奈の目尻が少し潤んでいた。その熱っぽいまなざしは、確かに本物の感情のように見えた。
「それに…」今度は少し表情が緩み、「先輩も…私のこと、嫌いじゃないでしょ?私が来たら、少し嬉しそうな顔するもん」
その真っ直ぐすぎる言葉に、俺はぐらりと膝が笑いそうになる。
(こんなの…ヤバい。でも…)
(もし、少しだけ…本当に少しだけなら…)
俺は頭を抱えそうになった。だめだ。ぜったいダメなんだ。これは間違ってる。でも、佳奈の熱い視線が、俺の決意を少しずつ溶かしていく…
佳奈は突然、ふざけた笑みを浮かべたかと思うと、両手で俺のシャツの裾を掴んだ。
「……もう一回、してよ」
冷や冷やとした手の感触が腹に触れる。瞬き一つせず、真っ直ぐに見つめてくるその瞳は、まるで夜の海みたいに深くて……気味が悪いくらいたくさんのものを、底に沈めているようだった。
「『気持ちいいこと』……覚えてる?」
彼女は俺の反応を待たず、指を這わせながら呟いた。
「先輩が中に入ってきた時……頭の奥が、ぎゅうってなって……」
「……佳奈」
逃げようにも背中は壁。丹念に、しかし確実に、彼女は言い含めるように続ける。
「最初は怖かった。でも、気がついたら……だって、私、先輩になら、全部支配されてもいいって思ってたの」
……悪寒が走った。これは、もはや恋だとか、惚れたとかのレベルじゃない。
彼女は澄ました顔で、病んだ微笑みを浮かべている。ほんのり赤らんだ頬。震えるまつ毛。全部本当の楽しさみたいに見えるのに……その目は、明らかに、俺の反応を「待って」いた。
「ほら、早く……」
すっと腕を伸ばし、冷たい指が俺の首筋に触れる。
「……私の中に、はいって? 全部、持ってって?」
誰がどう見ても、これはただの恋人同士の甘ったるい会話じゃない。
奥歯に力が入る。佳奈は――楽しんでいる。支配されること自体を、悦びとしている。
キスを求めるように頬を寄せてくる彼女の耳元で、俺はようやく悟った。
あの時、解除したつもりで……何かを、きちんと引き抜けていなかったんだ。
恐ろしいことに――
――彼女はそれを、望んでいる。
(指示を受けてこれを始めるなんて、初めてだ)
俺はぎこちなく佳奈に手を伸ばした。彼女の肩に触れた瞬間、肌の下で震えが走るのが分かった。
「あ…っ」
佳奈の目がぱちりと見開かれた。普段はくすんだ茶色の瞳が、今は不気味なほどに光を帯びている。唇が震え、歯の隙間から小さな呻き声が漏れる。
「お…おかしいな…頭が…」
彼女の体が突然硬直した。両腕ががくんと垂れ下がり、首だけが不自然に後ろに反り返る。地面に接続された人形みたいに、全身の筋肉が一瞬で弛緩したと思ったら──
「お…おっ…お゛…!」
喉の奥から泡立つような声。佳奈の眼球が大きく揺れ、焦点が合わなくなっていく。涎がだらしなく垂れて、顎を伝って滴り落ちる。
「く…っ…な、る…」
俺の魂が佳奈の体中を駆け巡っている感じがする。彼女の内側は驚くほど暖かく、柔らかく、俺を迎え入れようとする。もうひとつの温かい鞘に、ゆっくりと沈んでいく感覚。
佳奈の膝ががくがくと震え始めた。脚全体がぶるぶると痙攣し、パンティの上からも分かるほど太腿の筋肉が蠢く。
「あ…あ゛…ふ、ぁっ…!」
突然、彼女の背筋が弓なりに反った。胸が大きく波打ち、鎖骨の窪みが深く影を落とす。ショーツの裾から、汗がしたたり落ちて床に吸い込まれていく。
そして最も気味が悪いのは──彼女が笑っていることだ。
「ひ…ひっ…う、ふ……んっ」
痙攣する口元が、明らかに嬉しそうな笑みを浮かべている。涙目になりながら、嬉しそうに震えている。
最後の障壁が破れる感触。泡立つように佳奈の意識が押し流されていくのが分かる。もうすぐ完全に──
指先から最後の一片の魂が流れ込んだ時、佳奈の体が「カタン」と小刻みに震えた。
硬直した手足。弛緩した指先。黒髪が羽根のように広がり、瞳は光を失って虚空を見つめている。唇が微かに開き、涎が糸を引く──まさに生き人形だ。
「……佳奈」
俺の声に、彼女の首だけがカクンと傾いた。受け入れるだけの空洞。染み込ませた俺の意志が、まだ彼女の内側を行き巡っている熱い感触。
(こんなに……簡単に)
指を一本、彼女の額につける。自動人形のように、佳奈はゆっくりと膝をついた。ぎこちなく、しかし忠実に。
「立って」
命令に反応するのに、0.5秒ほど遅れがあった。ふらつく足取りで立ち上がる佳奈の、乳房の形がシャツ越しにくっきりと浮かび上がる。
(望んだ……んだよな)
喉が熱くなる。いや──まさか、彼女自身がこんなふうになりたがるなんて。指先で首筋を撫でれば、震える吐息。
「触れていいか?」
応答はない。ただ、瞳のない目が俺を追う。許可など要らない支配の完遂。
(……これで、本当に俺のものか)
ズボンの前を押さえながら、ふと気付く。もはや警戒する必要がないということ。罠でも何でもなく、彼女は文字通り「提供品」なのだ。
指先に力を込め、佳奈の魂の奥底をかき混ぜるように触れる。深層意識──あえて眠らせていた本来の彼女を、ゆっくりと引きずり上げていく。
佳奈のまぶたがぴくぴくと震え始めた。
「ん……あ……?」
曇った瞳に、ゆっくりと光が戻ってくる。焦点が合い、俺の顔を認識した瞬間──
「……はぁああっ♥」
全身をビクンと痙攣させ、佳奈は歓喜に顔をくしゃくしゃにした。短パンの裾から零れそうな太ももが震え、Tシャツの生地が汗で張り付いている。
「あは、あはは……♥ 先輩……また、やっちゃったね♪」
普段のからかい調子なのに、声は淫らに震えている。唇をかみしめても止まらない笑み。両手で自分の頬を押さえ込みながら、体を前後に揺らす。
「だめ、やばい……私、この感じすっごく好き……♥」
彼女は自分の腕をぎゅっと抱きしめ、震える指先でTシャツの袖を引っ張る。黒い生地の下で、乳首が固くなっているのが見て取れた。
「ねえ、もっと見て……私、こんなふうになっちゃって……全部先輩のせいだよ……♥」
佳奈はわざとらしく突然猫背になり、下から覗き込むように視線を投げかけてくる。その瞳は完全にトロけきっていて、どこまでも甘ったるい笑みを浮かべている。
「あーあ、もう……私の脳みそ、先輩色になっちゃってる~♥」
腕をぶらぶらさせながら不自然に首を傾げ、頬を赤く染めて見せる。その仕草は明らかに普段の「佳奈」なのに、根本に流れる感情が完全に歪んでしまっている。
「はぁ……ふふ、私バカだな。また先輩に憑依されてるのわかってて、嬉しくなっちゃうんだもん……♪」
汗で透ける黒Tシャツ越しに、彼女の過呼吸気味の胸の上下がはっきり見える。短パンの裾からはもぞもぞと足をすり合わせる音。完全に興奮しているのに、それを隠そうとさえしない。
「ね、先輩……私、感動しちゃって……ちょっと泣きそう……どうしよ……♥」
涙目になりながら、舌をちょこんと出して見せる。その表情は、本当に深い感動に震える少女のようだった──ただ、その感動の源がまったく異常なのだ。
支配を解いた瞬間、佳奈の体がふわりと動き出した。
「……んっ」
自分の手のひらを眺めるような仕草を一度して──そのままぎゅっと握り、にやっと笑う。そうして、まるで水の中で泳ぐみたいに、ゆっくりと身を翻した。
首を傾げ、肩をすくめて。短パンのポケットに指を引っ掛けながら、ゆっくりと腰を下ろしていく。膝を折り曲げて、おしりを突き出した姿は、まるで……
(……マジか)
俺は思わず喉を鳴らした。佳奈は絶対にこっちを見ない。ただひたすらに、そっぽを向いたまま、ゆっくりと左右に腰を振っているだけだ。黒いTシャツの裾がたるみ、短パンとの境目の肌がちらり。
「ん~……疲れたなぁ……」
わざとらしく伸びをする。腕を上げた拍子にTシャツがさらにめくれ、へそのくぼみがくっきり。背中のラインが強調されて、肩甲骨がきゅっと締まる……いや、締めているんだ。自分でわざと。
「……先輩、何してんの~?」
振り返った顔は無邪気そのもの。目尻を下げて、唇を少し尖らせている。それなのに腰の動きだけは止めないから、たまらない。
(このクソガキ……)
むっとして頬が熱くなる。こいつは確信犯だ。わかっててやってる。つまり、据え膳だ。食べろと言わんばかりに、美味しそうに料理を並べている料理人の如く、自分の身体を差し出してきやがる。
「ほら、先輩も座ろよ~。せっかくゆっくりしてるのに」
そう言いながら、ぽんっと自分のすぐ横の床を叩く。……いつもなら、こっちから近づいてくるところだ。差し出せるものは全部差し出して、自ら俺に近づいてくるくせに。
(わざと……だよな)
距離を取らせて、引きつけて。どうせなら俺をてなずけてやる、みたいな。そんな上から目線の甘え方。支配した直後なのに、もう完全に立場が逆転しそうな勢いで俺を翻弄してくる。
ふと佳奈の後ろ姿に目をやる。空中に浮かんだ足首がふらふらと揺れ、そのたびに短パンの裾がもっとも危ういラインでひらひらする。
最も卑怯なのは──
「……ん?」
振り向いた佳奈の目が、完全に「待ってる」ということだ。
何を待っているかは言わない。口が裂けても言わないだろう。でも目ははっきりと「早く気付けよ」と訴えている。
(……くそっ)
俺は思わず前傾姿勢になった自分に気づく。いつの間にか、たまらなくて、体が勝手に動いていた────
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