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鏡の前に立つ白髪の美女が、自分の姿を眺めて薄く笑っている。ピンクのパーカーの裾をまくり上げ、紺色のスカートの下から艶やかな腿を覗かせながら、片手で重たげな胸を掴み上げる。その指先が柔らかな肉に沈み込む様は、まるで水を含んだ記憶枕のようにゆっくりと形を変えていく。

「うぉー、久しぶりの女の体か……♡ 思ってたよりずっといい感触だぜ」

声は明らかに男のものだ。低く濁った笑い声が、ラブホテルの薄暗い室内に響く。鏡の中の荻野奈央という女は、本人の意思ではなく、別の人格によって操られている。髪をかきあげる仕草も、舌で唇を舐める癖も、全てが憑依した男の思考の産物だった。

パーカーのジッパーを下ろすと、ベージュのブラが露わになる。指先で吊り紐を引っ張り、肌に食い込んだラインを緩める。普段は高速道路で男性ドライバーを幻惑するその谷間が、今は卑猥なほどに強調されて揺れる。無防備というよりも、積極的に晒しているという姿勢が伝わってくる。

「こりゃあ……たまんねえな。毎日揉みたいくらいだわ♡」

ベッドの端に腰掛けると、今度はスカートの下に手を伸ばした。艶やかな肌がさらりと露出する度に、部屋の空気が重くなるような錯覚を覚える。ストッキングを捲り上げる指先が、微妙に震えているのがわかる。初めての女体に、憑依している男ですら興奮を隠し切れていない証拠だ。

鏡に映る美少女の表情は、どこか歪んでいる。本来の持ち主なら絶対に見せないような、淫らな笑みを浮かべている。片手で胸を揉みほぐし、もう片方の手は腿の内側を撫で回す。まだ着衣ではあるが、その行為は完全に自慰に等しかった。

「なんで……女ってこんなに気持ちいいんだ……?♡ あんまり気持ちよすぎて、もう手が止まんねえ……」

吐息すらも甘く蕩けて、壁に跳ね返る。ベッドのシーツが皺になり始めた頃、彼女の動きはますます激しくなっていく。紺色のスカートが腿の付け根で押しつぶされ、ピンクのパーカーは乳房の形をくっきりと浮かび上がらせていた。

一連の動作は無軌道ながらも、どこか練習しているような隙がない流暢さがあった。自分の体を貪るように愛撫するその姿は、まさに男が夢見た理想のシチュエーションそのものだ。鏡の中の美女の目が、欲望で曇っていくのを確認できる。

「しまっ……たまんねえ……こいつ、もっと早く試しとけばよかった……♡ あぁ……指が……女ってこんなに……あついのか……?」

────そして、そのままベッドに倒れ込む美少女の体が、大きく弓なりに反り返った。

街灯の光が不規則に途切れる路地裏で、一人の白髪の女性がふらつくように歩いていた。荻野奈央の瞳孔は少しだけ開き気味で、焦点が定まらない。スニーカーの底がコンクリートに擦れるたび、小さな砂利が軋む音がしていたが、彼女にはもうそのような些事はどうでもよかった。

「ここを…曲がらなきゃ…」

声にならないつぶやきが、冷えた夜風に消えていく。頭の中は薄い霧で覆われたようで、思い出そうとするほどに記憶が手からこぼれ落ちていく。三十分前まで何をしていたのか、なぜこの道を歩いているのか、考えてもぼんやりとした輪郭しか浮かばない。ただ一つだけ、胸の奥に杭のように刺さっているのは「行かなければいけない」という強迫めいた衝動だった。

信号のない横断歩道で立ち止まり、左右を確認する動作はまだ社会生活の名残りだ。だがその視線には生気がなく、むしろ自動人形のような精度で首を左右に振っている。赤いパーカーの袖口が風に揺れ、肌にまとわりつく湿った空気が薄ら寒い。

ふと、携帯電話の着信音が聞こえたような気がした。けれどリュックサックに手を伸ばしても、取り出す動作に至らない。何か大事な約束をしていたかもしれない。でも今はそれより、「彼」の待つ場所へ急がねばならないという思いが全てを凌駕していた。

道端の水たまりに映った自分の顔がひどく歪んで見えた。波打つ水面が、白い肌と長い髪をぐにゃりと変形させ、まるで別人のようだ。でもそれを見て感じる違和感も、すぐに頭の隅へ押しやられてしまう。

コンビニの前を通り過ぎると、店内の明かりが眩しすぎて目を細めた。ふとガラス越しに陳列されているおにぎりやサンドイッチが見えた時、なぜか喉が渇いていることに気づいた。最後に飲食したのはいつだったっけ…。思考がよろめくと同時に、足元も少しふらついた。しかしその不安定さすら、前に進むための燃料に変えてしまう奇妙な熱が体を支配していた。

「あの…駅は…どちら…?」

すれ違った通行人に尋ねた自分の声が、ひどく遠く聞こえる。指さされた方向にお辞儀をして、また歩き出す。確かこの先のビルの…何階だったか。数字が頭の中でくるくる回って定まらない。エレベーターに乗るべきか階段を使うべきか、そういう些細な判断ですら、頭に浮かんではすぐに霧の中へ消えていった。

思考が霧に消えていくほどに、逆に胸の奥で熱い何かが沸き上がってくる。歩くたびに膝の裏がじんわりと温かくなり、なぜだかわからない喜びの波が全身を洗っていく。白いほつれ毛が頬に絡みつくのも、スカートの裾がもつれそうになるのも、全てが心地よい刺激に変わる。

「あ…っ」

道端に咲いた雑草の花に視線が止まり、ふと笑みが漏れる。黄色い小さな花びらが風に揺れているのを見つめて、膝を折る。指先で触れると、花弁がくすぐったいほど柔らかい。今まで気にも留めなかったこんな小さなものが、急に愛おしく思えてたまらない。胸の鼓動が早くなり、耳の奥で血液が騒ぐ音がする。

立ち上がると眩暈がして、一瞬視界が白む。それさえも快感にすり替わっていく。だんだんと道の勾配がきつくなってきたのに、足取りは逆に軽やかだ。階段の一段一段が、まるで雲を踏んでいるような浮遊感を運んでくる。裙袴のひだが踊り、一番上の踊り場でちらりと見える制服の短いスカートが、妙に艶めいて見える。

「はぁ…はぁ…」

息づかいが自然と甘くなっていく。エレベーターの鏡に映った自分の頬が、理由もなく赤らんでいる。リップグロスのついた唇を無意識になめると、金属味の中に甘い匂いが混じっている。この体がどこか他人のもののような感覚と、同時に強烈な所有欲が入り混じって、胸がきゅっと締め付けられる。

廊下のカーペットが足裏に柔らかく食い込み、まるで沼に飲み込まれていくような感覚が膝から上がってくる。ドアの番号を追いながら歩くたびに、腰のあたりがくにゃりと熱を帯びる。302号室が見えた瞬間、ぐらりとめまいがして壁に手をつく。冷たい壁面が火照った掌に気持ちよく、思わず頬ずりしたい衝動に駆られる。

鍵束を握りしめた手から汗がにじむ。鍵穴に差し込む指先が震えているのが見える。でもそれが怖いわけじゃない。今まで味わったことのない高揚感のせいだ。金属がこすれる音、カチリという小さな音、ドアノブが回る重み、全てが五感を鮮やかに刺激してくる。

「……っ!」

ドアを開けたとき、ふいに股間がじんわりと熱くなるのを感じた。何かたいせつなことを忘れているような、それでいてこれ以上ない満足感に包まれるような。頭の中が真っ白になりながらも、体の芯から湧き上がる期待感に押され、自然とドアへと足を踏み入れる。

廊下の明かりに照らされた室内の輪郭が、なぜかくっきりと目に焼きつく。ベッドのシワ一つ、カーテンの揺れぎわ、埃の舞う光の筋までもが、異常なまでに美しく感じられる。心臓が弾むように打ち、ひどく喉が渇いているのに、唾液がじゅわっと口の中に広がる。

最後にドアが閉まる音が、頭蓋骨の内側で長く響いて消えていく。

ベッドの端に腰掛けると、スカートの生地がぴんと張り返す感触が腰に伝わった。膝をそろえ、自然と背筋が伸びる。まるで人形のように正確な姿勢だ。窓から差し込む街灯の光が、パーカーのピンクを鈍く浮かび上がらせる。瞬きの速度が遅くなり、長い睫毛が視界をふわりと遮るたび、時間が少しずつ引き伸ばされるような錯覚に包まれる。

指先が勝手にスカートのひだを撫でている。縦じまのシワを一本ずつなぞっていく動作に、なぜか激しい喜びが宿っている。頭が軽くなって、十分間海に浮かんでいるみたいだ。耳の奥で潮騒のような音がして、体の芯から温かい液体が満ちていく気がする。

「あ……」

唇が自然に開いて、吐息が踊る。エアコンの風が首筋を這うと、鳥肌が立つのが自分でもわかる。しかし寒さではなく、むしろ快感に近い。深く柔らかな安堵感が、子宮のあたりから波紋のように広がって、指先まで震わせている。まぶたが重くなっても、決して眠くはない。覚醒と陶酔の狭間で、体全体が微細に震える感触に没頭している。

腰掛けたまま体を前後にゆすり始める。ベッドスプリングのきしむ音が規則的で、何かの儀式のようだ。閉め切った室内にこもった自分の吐息の匂い、香水と汗が混ざった甘い匂いが鼻をくすぐる。うっすらと汗ばんだ胸の谷間がパーカーに張り付く感触を、熱心に観察している自分がいる。

その時、ベッドの影が不自然に伸びた。電気スタンドの光が作る角度からすれば、あんなに長く黒ずむはずがない。ゆらゆらと渦を巻くように床を伝い、スムースな絨毯の上をへびのように滑っていく。ネオンサインの光が窓から差し込む瞬間、影は明かりを避けるように壁沿いへ移動する。

断続的な雑音が壁の配管を伝って響く。隣室の笑い声か、水道管の振動か――いや、もっと鈍く重たい、喉の奥で詰まったようなうめき声に近い。天井の隅に黒いシミが現れ、じわじわと大きくなる。形が定まらず、時々人間の顔のように歪んだり、手のような突起がにゅっと伸びたりする。

荻野の背後の空気だけ、なぜかひんやりと淀んでいる。目に見えない寒気が彼女の白い首筋を撫でるように流れ、ピンクのパーカーに付いたほこりが静かに舞い上がる。枕元のマッチ箱がひとりでに開き、中のマッチがぴくりと跳ねる。

廊下からかすかに聞こえてきたエレベーターの音が、不意に止まる。フロア全体が深い呼吸をしているような圧迫感に包まれる。ドアの鍵穴から黒い煙のようなものがにじみ出し、床に垂れたかと思うと、見る見る彼女の影と混ざり合っていく。目を凝らすと、彼女の影だけが不自然に首を傾けている。

白髪の間をくぐる風がないのに、髪の毛がふわりと浮く瞬間があった。鏡台に映った彼女の横顔が、一瞬だけ別人のような険しい表情に変わった気がする。だが視線を移すと、いつも通りぼんやりとしたまどろみの表情に戻っている。

湯を沸かすポットの電源が突然入り、沸騰する音が部屋に響き渡る。でも誰もスイッチに触れていない。コンセントが壁から抜け落ちているのに、明かりは点いたままだった。

突然、背筋に冷たい棘が走った。

「……え?」

微かに開いた唇から、曖昧な息が零れる。得体の知れない重みが肩に乗り、首筋を這い上がる鈍い圧迫を感じた。まるで氷の塊が皮膚の下に滑り込んだような、鋭い冷たさが脊椎を貫く。眼球の裏側が痒くなり、まばたきが速くなる。でも、逃げようという意志は一切ない。むしろその冷たさが、体内を巡る熱を更に煽る。

不意に右手の人差し指が跳ねた。自分の意志ではない動きに、僅かに眉を寄せるけれど、拒否はしない。今度は左のふくらはぎが痙攣し、つま先が不自然に反り返る。布団の上に広げた掌から、じわじわと力が抜けていく感覚。神経が一本ずつ外部から操作されるのを、ただ感じている。

「あ……っ、ん……♡」

声が出る。自分でも驚くほど甘い声が、熱を帯びた吐息とともに溢れた。同時に、腹部の奥で何かが蠢く。内臓を撫で回す得体の知れない感触に、腰が浮いてしまう。胸の底から広がる快感が、恐怖の予感を簡単に飲み込む。喉の奥が締め付けられるような感覚とともに、口の中に鉄の味が広がった。血? いや、違う。もっと腐敗に近い、古びた銅のような匂いだ。

「ふ……え……」

耳の奥で、誰かが囁いた。言葉にはならないが、確かに存在を感じる低く濁った声。それに応えるように、自分の首がゆっくりと反り返る。天井を見上げた視界の端で、ベッドサイドの鏡が一瞬だけ歪む。映った自分が、ニヤリと笑っている――気がした次の瞬間、瞳孔が開き、視界が一気に色褪せる。

腿の裏にじんわりと汗が滲む。股間に流れ込む妙な熱と、背中を這う冷気が混ざり合って、体は熱病にかかったように震える。乳房の先端が衣服に擦れ、ピンと張った感覚が直撃するたび、膝が内側に折れそうになる。

「待って……誰か……が、いま……♡」

足首に巻きつく何か。見えない紐がぐいっと引き締まる幻覚。ベッドの上で体が仰け反り、スカートの下から覗く腿が不自然に開く。呼吸が浅く、早くなる。鼓動は耳朶で轟き、頭蓋の内側で液体が激しく揺れる音がした。指先から麻痺が広がり、体の末端が他人のものに変わっていく錯覚。

最後まで残っていた自我の一端が、ふわりと宙に浮かぶ。そう、まるで幽体離脱のように。

そして――

「お前の体、いただきだ。」

ドクン。

心臓が、一度だけ強く打った。

その拍動と共に、彼女の意識は深い闇の中へと沈んでいった。

意識の糸がゆるやかにつながり始めたとき、彼女の身体はベッドの上で不自然に折り曲げられた状態だった。片腕が身体の下に敷かれ、ひじから先がしびれるほどの無感覚に包まれている。ピンクのパーカーは乱れ、スカートは腰のあたりまでめくれ上がり、タイツの上から透ける肌が鈍い光を反射していた。

ぴくん、と左足の親指が痙攣する。次第に指先から感覚が戻り、マットレスの感触がじわじわと伝わってくる。睫毛が震え、ゆっくりと瞼が開かれた。瞳は最初焦点が定まらず、虚空を見つめている。唇が乾いてひび割れ、鈍い痛みを発していることにようやく気づく。

「……ふぅ」

深い、長いため息。それは彼女のものでありながら、どこか違う。

起き上がるときの動作が不自然なほど滑らかだった。床に足をつく様子は、まるで操り人形の糸が上から引かれるよう。立ち上がり、鏡の前に移動する歩調に、かつての彼女にはなかった威圧感が漂う。ピンクのパーカーの胸のあたりに手を当て、重みを確かめるように揉んでみる。

「やっぱりな……活きた女の体は違うぜ」

声のトーンは元の彼女と同じだが、言葉遣いと話し方は明らかに別人ものだ。鏡に映った自分の顔をじっと眺め、いやらしく舌なめずりする。指先で頬を撫で、首筋のラインをなぞり、鎖骨の窪みに爪を立ててみる。すべてが新鮮で、そしてどこか懐かしい感覚だった。

スカートの裾を両手でつかみ、静かに持ち上げる。紐で縛られたような細い腰から、スカートはするりと滑り落ちやすそうだ。タイツの上から透ける白い肌、その中央に埋め込まれた水色のレースのパンティ。微妙に汗ばんで光る太もも、形のよい膝、ふくらはぎの曲線。すべてを貪るような視線で観察する。

「こいつを毎日見てたんだからな……ようやく手に入れたぞ。ふふふ」

ぽつりと呟いた言葉の意味、それはこうだった―この地縛霊は生前から、この白髪の女性―荻野奈央のことを知っていた。駅前の交差点でよく見かける、いつも下を向いて歩く美人だった。スカートの裾が風に靡くたび、ちらりと見える腿のラインに心を奪われたものだ。

指がパンティのゴムに触れ、ぴんと弾いてみる。湿り気のある感触が伝わってくる。彼の指先はさらに大胆に、腿の内側へと進む。震えるような快楽が脊椎を駆け上がり、新たな支配者である霊の魂を熱くした。

地縛霊の腹の底には、積もり積もった欲望があった。ずっと見つめていたのに触れられなかったこの身体を、今や思うままに弄べる喜び。しかし同時に、心のどこかで時計の針が音を立てているのを感じる。この出会いは計画されたものじゃない。本来ならば別の男性の霊が憑依するはずの体を、隙を見て奪ってしまったのだ。

鏡に映った表情が一瞬曇る。いつ追い出されるかわからない不安が、欲望の裏を這っている。だからこそ、この瞬間を目一杯楽しんでやる。彼の意識は奈央の思考の隅々まで浸透し始め、記憶も感情も、甥も、全てが一つの箱に詰め替えられるように整理されていく。

-だがこれは、ほんの始まりに過ぎないのだ。

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