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扉がバタンと閉まり、空気がほんの少し揺れた。

「ううっ、あっつ〜〜いっ!!!」

部屋に入った瞬間、彼女の叫び声が炸裂する。額には汗、頬は紅潮、肩で息をしている姿は、まさに“猛暑の被害者”そのものだった。

「冷房!冷房冷房冷房っ!!」

そう言いながら彼女はリモコンを掴み、迷いなく“最強”モードでスイッチオン。その勢いと声量に、私は思わず一歩後ずさる。──いや、後ずさりたいところだったが、つい目を奪われて動けなかった。

暑すぎてTシャツを脱ぎ捨てた彼女のタンクトップが、汗でぴたりと張りついている。

白い布地の下で、その柔らかそうな胸の曲線が、ありありと浮かび上がっていた。

(……これは、危険だ)

気温ではなく、別の意味で私の顔も熱を帯びていくのがわかった。

「しばらくは冷えないだろうから……アイス食べよっか!」

振り返った彼女が、無邪気な笑顔でそう言ってくる。まるで天使のようなその表情に、私は思わず頷いた。

「ええ……そうですね。……いただきましょう、アイスを」

本来であれば、私の霊基は暑さ程度で揺らぐものではない。だが、“彼女と過ごす夏”には、どうやら別の鍛錬が用意されているようだ。

ほどなくして、ソフトクリームを片手に再びリビングへ。

彼女はすでにソファに腰を下ろし、嬉しそうに食べ始めていた。

「ん〜〜、やっぱりアイスって最高〜っ。冷たくて甘くて……あっ、バニラ最高っ!」

頬を緩ませて微笑むその姿に、私の心もじんわりと温かくなる。いや、“温かい”などと油断してはいけない。これが後の災いとなる。

──事件は、数秒後に起きた。

「わっ……!? つ、つめた……っ!」

彼女がびくんと肩を震わせ、思わず身をよじった。スプーンを持つ手が空中で止まり、その視線は自分の胸元に。

その目線を追った私の視界に飛び込んできたのは──

(……落ちた!?)

彼女の谷間に、バニラソフトクリームが、ぽとりと滑り落ちていたのだ。

白く、柔らかく、つややかに滴るソフトクリーム。

それが彼女の谷間を伝い、肌のくぼみに沿ってゆっくりと──あまりにもゆっくりと──滑り落ちていく。

(っ……これは……試練ですか……!?)

「ふふっ、冷たくてびっくりしちゃった」

本人は、あくまで無自覚な笑顔。だが私の内心は、今まさに地割れ寸前である。

(いけない……! 目を逸らさなければ……いやしかし、それでは失礼に……いや、騎士としての──)

「……どしたの?」

「い、いえっ……! 決してっ、私はその……っ」

「へへっ、アルトリア、顔が真っ赤だよ?あっ。そうだよね、サーヴァントでもこれだけ猛暑だから暑いよね」

「そ、それは……貴女がその……っ、アイスを……いえ、違う……ちがっ……!」

言葉にならない言葉が喉元でつかえ、私はもはや騎士としての威厳を保てる状態ではなかった。

そのとき、彼女が胸元に手を伸ばして──落ちかけたアイスを指で拭う。

(やめてくださいその動作はあまりにも……!!)

そして、その指先をぺろりと舐め──

「ふふっ、溶けちゃうのもったいないもんね」

──笑った。

(これは……!!)

「なぜ……なぜ貴女は……そうして無防備に……っ」

私は額に手を当て、椅子に腰を下ろした。

これは戦いだ。

炎天下の外ではなく、彼女の無邪気な仕草という“拷問”との戦いなのだ。

「私は……騎士だ……。この程度の誘惑に……屈してはならない……」

「ん? アルトリア? なんか言った?」

「な、なんでもありませんっ!」

こうして今年の夏も、私はまた“理性”との戦いを繰り返す。

戦場では倒れぬ私の心を、いとも簡単にかき乱す、ひとりの少女。

(もしかして……私は夏という季節に、毎年試されているのでは……?)

拭ってもなお火照りが残る顔を押さえながら、私はふたたびソフトクリームを手にした。

少なくとも、溶けてしまう前に──この甘くて冷たい誘惑を、なんとか口に運ばなければならない。

「……負けません、私は……この試練にも……っ」

天の声:前回負けてましたよね?

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