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湯気がほんのり立ち昇る脱衣所。

一日の終わり、ようやく訪れた静けさに私は小さく伸びをする。シャツの裾をつまんで脱ぎかけたその瞬間。

「待ってください。そこから先は……私がご一緒します」

突然、背後からふわりと抱きすくめられた。

白い腕が私の素肌に絡みつくように回され、背中に触れた柔らかな感触にびくりと体が跳ねる。

「えっ、アルトリア……? い、いつの間に……っ」

「先ほどから見ていました。ずいぶんと無防備でしたね」

耳元で囁く声が低く、艶を帯びている。

あんなに穏やかだったはずの瞳が、今はまるで獲物を見つけた猫のように細められていた。

「お風呂に入るのでしょう? でしたら、私もご一緒に……」

「え、えぇと……でも、あの、今日はその……っ」

何を言い訳にしたらいいかわからないまま、頬が熱くなっていく。

恥ずかしさで言葉を詰まらせる私を見て、アルトリアはくすっと微笑んだ。

「それとも……裸を見られるのは、恥ずかしい?」

「そ、それは……っ」

「私は見慣れていますよ。むしろ、貴女の方がよく見ているのでは?」

言いながら、私の頬を指先で撫でてくる。

耳まで赤くなっているのが自分でもわかって、私は逃げるように浴室の方へ向かった。

だが、浴室のドアを開けた先——すでに湯は張られ、湯気がこもっている中で、ぴたりと背後に追いつかれてしまう。

「ふふ、逃がしませんよ。」

「に、逃げてないもん……!」

「では、観念していただきましょう。今夜は、私が貴女を洗って差し上げます

「えっ、ちょ、ちょっと待っ——!?」

振り返った瞬間、アルトリアの笑みが悪戯っぽく歪んでいた。

まるで獲物を追い詰めた獣のような視線で、私を見下ろしている。

「な、なんでそんな顔してるの……!?」

「意地悪な顔……でしょうか? ふふ、貴女が可愛すぎて、つい」

「じ、自分で洗えるもん……っ!」

必死に言い返す私の手を、するりと取って、指先を絡めてくる。

「でも、私が洗いたいのです。貴女の、全部を」

「ぜ、全部って……っ、あっ……や、ちょっと……!」

そのまま腕を取られ、バスタブの縁に座らされる。

顔を真っ赤にしたまま、私は俯いて足を縮こませるしかなかった。

「……そんなに、恥ずかしいのですか?」

「だって……アルトリア、今日はなんか……えっち……」

「私にそんな印象を持っていたとは。……ですが、否定はしません。今夜は意地悪になりたい気分ですから」

そう言って、彼女は私の肩に手を添え、指の腹でやさしくなぞるように洗い始めた。

ぬるま湯と泡の感触が心地よくて、でもそれ以上にアルトリアの指先が生々しくて。

「はぁ……くすぐったい……っ」

「くすぐったいだけ、ですか?」

わかってて聞くような声だった。

指先は肩から二の腕、そして背中のラインをなぞるように撫でながら、時折、指がわざとらしく滑る。

「ふふ、ここ……よく泡が流れませんね。仕方ありません、手で……」

「だ、だめ……っ、アルトリア、そんな……触り方……っ」

「お風呂とは、本来清めの場所。ですから、隅々まで……綺麗に、丁寧に」

「な、なんでそんなに真顔で言うの……っ」

「私が真剣になるのは、貴女に触れているときだけです」

耳元で囁かれ、ゾクリと背筋が震える。

この距離、この温度、何もかもが熱を孕んでいて、私の体温はどんどん上がっていく。

そして、アルトリアの手が背中から腰、そして太ももにまで降りてきたとき——。

「や、だ……っ、そこ……」

「洗い残しは、ありませんか?」

「……っ、もう、アルトリアの意地悪……」

「その声、とても可愛いです。もっと聞かせてほしいですね」

「そ、それってお風呂じゃなくなってる……っ」

「そうでしょうか? 私は、ただ愛しい人を丁寧に洗っているだけですよ」

そう言いながら、顔を近づけてくる。

湯気に包まれた視界の中、アルトリアの瞳だけが強く、深く輝いていた。

「全部、委ねてください。身体も、心も」

「……ん、負けた。今日は、洗ってもらう……」

「ふふ、よろしい。……では、今度は前を、洗わせてくださいね?」

「えっ!? ま、前は……っ、だ、だめ……っ」

「ふふふ、逃げても、ここは浴室。どこにも行けませんよ」

そう言って、彼女は泡のついた指先を、胸元へとゆっくり伸ばしてきた。

その時、私はもう抵抗の言葉を失っていた。

この夜がどこまで続くかを思うと、湯よりも先に、心も体も、溶けてしまいそうだった——。

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