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召喚陣の赤い光が、冬木の地下室を照らし出す。

凛は詠唱を終えると同時に、額の汗を拭う間もなく、陣の中心に立ち上る霊子の渦を睨みつけた。

やがて、その中心から――一人の剣士が姿を現す。

白い着物に黒い羽織。和装の少女。

背には刀。その姿は凛の知る「沖田総司」のイメージとは、あまりにかけ離れていた。

「……サーヴァント、セイバー。沖田総司――召喚に応じました。

 これより、マスターの命に従いましょう」

静かに頭を垂れたその顔は、驚くほど整っていて、かすかに儚さを帯びている。

凛は思わず固まった。

「……ちょっと待って。

 あんたが――沖田総司?」

「はい。未熟者ですが……どうか、よろしくお願いします、マスター」

さらりとした声が返ってくる。

凛はこめかみに指を当て、大きくため息をついた。

「はぁ……話が違うじゃない。

 もっといかにも歴戦の武人、みたいなのを想定してたんだけど」

「ぅ、そ、それは……」

沖田は目を瞬かせ、困ったように笑う。

「性別については……その、よく驚かれるので……すみません」

「謝らなくていいわよ。

 ただ、想定と違いすぎて頭の切り替えが追いつかないだけ。……それにしても」

凛は一歩近づき、セイバーの顔を覗き込む。

思わず息を飲んだ。

「……あんた、可愛い顔してるわね?」

「えっ……か、可……っ……?」

今度は沖田が固まる番だった。

耳まで真っ赤に染まり、視線が泳ぐ。

凛はそんな反応に、胸の奥をくすぐられる。

(なによ、この反応……。剣士のくせに、こんなに分かりやすく照れるって……)

「ふふ。ますます興味が出てきたわね、セイバー。

 聖杯戦争でどれくらい戦えるかも大事だけど……」

そこでわざと間を置き、いたずらっぽく微笑む。

「サーヴァントとしての“耐久力”がどれくらいあるのか――

 じっくり試してあげるわ。覚悟しておきなさい?」

「た、耐久……? あの、それは戦闘訓練の話で……合ってます、よね……?」

不安げに問い返す彼女に、凛は笑って誤魔化した。

その夜が、ふたりの長い関係の始まりになることを――

この時のふたりは、まだ知らない。

  ◇  ◇  ◇

深夜。

間接照明だけが柔らかい影を落としている。

部屋に腰を下ろし、凛は腕を組んで目の前のセイバーを見上げた。

「……で。セイバー。

 さっきの訓練のことなんだけど」

「……うぅ……」

セイバー――沖田総司は、気まずそうに視線をそらす。

「すみません、最後の最後でへばってしまって……サーヴァントとして情けない……」

「情けない、ってほどじゃないけど。

 でも、マスターの制止を無視して突っ込んだのは事実でしょ?」

凛の鋭い指摘に、沖田は肩をすくめた。

「……はい。返す言葉もありません」

凛はため息をつき、立ち上がる。

「だから、少しだけ“お仕置き”をしておこうと思うの。」

「お、お仕置き……?」

首を傾げるその目は、不安と好奇心が入り混じった色をしている。

凛は、ベッドの端をぽんぽんと叩いた。

「こっち、来なさい」

「……マスター?」

「いいから。これはマスターとしての正当な権利よ」

そう言われては、逆らうわけにはいかない。

セイバーはおずおずと近づき、ベッドの前に立つ。

その手首を、凛は細い紐で軽く縛った。

逃げようと思えばいつでもほどける程度の、ゆるい拘束。

「……こ、これも“訓練”の一環……だったりしますか……?」

「そうね。

 “マスターの命令にはちゃんと従う練習”ってところかしら」

凛は赤いタートルネックを着たまま、黒いミニスカートの裾を少し直し、椅子代わりのベッドに腰を掛ける。

そして、セイバーの腰を取って、するりと膝の上へとうつ伏せに乗せた。

「ま、マスターっ!? ちょっ――」

パシン。

乾いた音が、部屋に響く。

凛の掌が、セイバーの丸みを帯びた尻を打ったのだ。

「悪い子には、お仕置きが必要でしょ?」

「ひゃっ……!? い、今のは、その……っ……!」

「今のは軽くよ。まだ挨拶みたいなもの。

 ほら、ちゃんとお尻を突き出して。サーヴァントなんだから、覚悟くらい見せなさい」

凛が腰を押し上げると、セイバーは恥ずかしそうに身をよじった。

「こ、こんなの……サーヴァントとして、形になって……っ……うう……」

言い訳をしかけたところで――

パシン、パシン。

二度、三度。凛の手が一定のリズムで降る。

押し当てられた布越しに、じわじわと熱が広がっていく。

「……んっ……! ま、マスター……っ……!

 こんな、場所……叩く必要、ありますか……っ」

「もちろんあるわよ。

 命令を無視して突っ込むセイバーには、身体で覚えてもらわないとね」

凛は腰のラインを撫でるように確認しながら、

時々、少し強めに打ち込む。

パチンッ。

「ぁ……っ!」

短い悲鳴が漏れる。

それでもセイバーは逃げようとしない。

むしろ無意識に、凛の膝に体重を預けるようにしている。

(……ふうん。嫌がってるだけって感じでもないわね)

凛はその反応に、無自覚な笑みを浮かべた。

「どう? セイバー。

 マスターにお尻叩かれるの、そんなに嫌じゃなさそうじゃない」

「そ、そんなこと……っ……! わ、私は……ただ、その……」

顔を見られたくないのか、セイバーは必死に首を振った。

耳まで赤くなっているのが、後ろからでもわかる。

凛は、そっと耳元に顔を寄せた。

「可愛いわよ、セイバー。

 泣きそうな声出しながら、ちゃんと命令どおりお尻を突き出してるところとか、特にね」

「~~っ……! マ、マスター、意地悪です……!」

言いつつ、腰は逃げない。

凛は太ももの付け根を撫でる指にわざと力を込める。

「ねぇ。

 もっと強くしてほしいって、少しは思ってるでしょ?」

「そ、そんなこと――」

否定の言葉を、凛の手のひらが遮る。

パチンッ。

「っ……!」

声にならない息が漏れた。

凛はセイバーの反応を眺めながら、

自分の胸の高鳴りもはっきり自覚する。

(……こうしてると、本当に“私のサーヴァント”って感じがするわね)

掌に伝わる弾力も、震えも、全部がくせになる。

もう少しだけ、続けたくなった。

そう思って、手を振りかぶった、その時だった。

  ◇  ◇  ◇

「マスター」

呼びかける声が、さっきまでと違っていた。

掠れているのに、どこか落ち着いている。

凛が眉を寄せた瞬間――

膝の上のセイバーの指先が、きゅっと彼女の太ももを掴む。

その力は、さっきまでの頼りないものではなかった。

(……あれ? この気配――)

凛が違和感に気づいた瞬間。

ぱん、と音を立てて、軽い縄がほどけた。

次の瞬間には、凛の身体がふわりと持ち上げられていた。

「ちょ、ちょっとセイバー!? え、ちょっと待ちなさいって――きゃっ!?」

体勢が一気にひっくり返る。

今度は、凛がベッドの上にうつ伏せになる番だった。

背中から覆いかぶさる影。

耳元に、柔らかな息がかかる。

「……マスター。

 サーヴァントの力を、少し見くびりすぎではありませんか?」

くすりと笑う声が、妙に甘く響いた。

「ま、待ってセイバー、それは――」

言い終える前に、

今度は凛のスカートの裾が、器用な手つきでたくし上げられる。

ひやりとした空気が、露わになった脚に触れた。

「先ほど、私のお尻を叩きましたよね、マスター。

 でしたら……同じくらい返さないと、不公平です」

「ちょ、ちょっと……! 話せばわかるわよね!? セイバー、やめ――」

パチンッ。

鋭い音が、部屋に響いた。

「ひゃあっ!?」

自分の口から出た声に、凛は一瞬固まった。

頬に熱が集まり、耳まで一気に焼けるように熱くなる。

(な、なに今の声……!)

背後から、セイバーのくすくす笑いが落ちてくる。

「……マスター。

 今の、とても可愛かったですよ」

「か、可愛いとか言わないでっ……!」

そう言いつつ、凛はベッドの端をぎゅっと掴んだ。

逃げようと腰を動かしても、セイバーの手がしっかりと押さえ込んでいる。

パチン、パチン。

先ほどより少しだけ強いリズムで、手のひらが降る。

そのたびに、凛の身体が小さく跳ねた。

「ふふ……マスターのお尻も、とても……いい感触です」

「な、何その感想!? 変なこと言わないでよっ……!」

「いえ、本心ですから。

 さっき私が叩かれた分は……きちんと返さないと」

耳元で囁かれ、凛の呼吸が乱れていく。

自分が散々セイバーをからかっていたことを思い出し、

同じようにされているのだと気づいた時――

(……負けてる、なんて言いたくないけど)

身体は、正直だった。

「マスター。だめですよ?まだまだこれからです」

「っ……もう……ごめんなさいって、言ってるじゃない……!」

「そうですね……謝罪の言葉は、確かに頂きました。

 ですが、私の気が済むまでは――」

パチンッ。

ひときわ強い一撃に、凛の視界がかすかに滲んだ。

「ひゃ……っ……もう、だめ……お尻、熱い……っ」

セイバーはその様子を見つめ、ゆるく息を吐く。

「……マスターが、こうして乱れるところを見るのは……ちょっと、ずるいですね」

「な、何がずるいのよ……っ」

「私ばかり恥ずかしい思いをしていると、思っていたので。

 こうして、おあいこになった気がして……少し、嬉しいです」

その言葉に、凛は返す言葉を失った。

しばらくして、セイバーの手の力がゆるむ。

背中にのしかかっていた重みが抜け、代わりにそっと腕が回される。

「……マスター。痛み、残っていませんか?」

「残ってるに決まってるでしょ……。

 あんた、本気で叩いてたでしょ、途中から」

「途中から、です。最初は控えめでしたから」

「そういう話じゃないのよ……」

文句を言いながらも、凛はセイバーの腕を払いのけなかった。

むしろ、自分からもそっと抱き寄せる。

ふたりの身体が寄り添い、

まだ少し熱の残る腰と腰が、触れ合う。

「……ねぇ、セイバー」

「はい?」

「次は――もう少し優しくしなさい。

 ……私が“マスター”で、あんたが“サーヴァント”なんだから」

「ふふ。それは、交渉次第ですね」

「交渉って何よ……」

fin.

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