【宮本武蔵】濡れそぼる夜に、二人きりの境界を【サンプル】 (Patreon)
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外は容赦のない大雨だった。特異点の調査中に突如として空が暗転し、激しい豪雨に見舞われたマスターと宮本武蔵は、互いの服をぐっしょりと濡らしながら、山あいにひっそりと佇む古い温泉宿へと滑り込むようにして逃げ込んだ。
「すっごい大雨! まさかこんなに降るなんて思わなかったなぁ。ほらマスター、中に入って入って!」
宿の主人が親切にもすぐに二人を部屋へと案内し、乾いたタオルと内風呂を勧めてくれた。冷えた身体を温泉で温め、宿の用意してくれたシンプルな浴衣に袖を通したことで、ようやく二人は一息つくことができた。
古い和室の中には、低く、途切れることのない雨音がガラス窓を叩く音だけが響いている。障子越しに差し込む光はひどく薄暗く、畳の青い香りが、雨で湿った空気に乗って部屋を優しく満たしていた。
温泉から上がった武蔵は、部屋の隅にある障子にそっと背を預け、畳の上に腰を下ろした。いつもなら活動的に高く結ばれているライトブラウンの豊かな髪は、今は宿の細い紐でゆるいポニーテールにまとめられ、うなじにいくつかの後れ毛を落としている。それが、普段の戦う彼女とは違う、しっとりと水分を含んだ大人の女性の色香を醸し出していた。
「……ねえ、マスター」
武蔵は、じっとこちらを見つめるマスターへと視線を向けた。
その澄んだ青い瞳には、いつもの快活な剣豪の厳しさはなく、どこか潤んだ、悪戯っぽくも妖艶な光が宿っている。少しだけ開かれた唇から漏れる息は、温泉の熱の名残や雨の湿気のせいだけではなく、どこか明確な熱を帯びているように見えた。微笑む彼女の頬が、薄い朱に染まっていく。
外の雨が、霧雨から本格的な濡れそぼる激しい雨へと変わっていく。それに呼応するように、閉ざされた部屋の中の空気もまた、静かに、だが確実に密度を増していった。
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