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あの夜、私は見てはいけないものを見てしまった。忘れ物を取りに、誰もいないはずの校舎へ戻っただけだった。廊下の奥。普段ならもう真っ暗になっているはずの教室から、女の人の喘ぎ声が聞こえた。「え、なに?」何となく気になって、少しだけ中を覗いた。そこで見えたのは――朝比奈さんと、雫さんだった。でも、いつもの二人とは何かが違った。一緒にいるのは先生だ。SEXをしていた。二人の様子も。教室の空気も。そこにいた“誰か”も。全部が、見てはいけないものに思えた。胸の奥がざわついて、息が止まりそうになった。「……っ」気づかれる前に、私はその場から逃げた。家に帰ってからも、あの光景が頭から離れなかった。朝比奈先輩たちは、どうしてあそこにいたんだろう。どうして先生とSEXしていたんだろう。考えれば考えるほど、嫌な予感がした。――そして翌日。昼休み。突然、先生に呼び出された。昨日のことがバレたのかもしれない。そう思った瞬間、背中が冷たくなった。逃げた方がいい。行っちゃダメだ。そう思っていたのに。私は結局、先生に指定された場所まで来てしまった。「昨日の夜、見てたよね」そう言われた瞬間、心臓が大きく跳ねた。「……何のことでしょうか」誤魔化そうとした。でも、目の前にあのコインが出てきた瞬間。昨日の教室で感じた嫌な予感が、全部つながった。細い糸の先で、小さなコインが揺れる。右へ。左へ。右へ。左へ。「見なくていい」そう思った。「目を逸らさないと」そう思った。なのに。視線が離れない。音が遠くなっていく。頭の中にあった疑問も、不安も、恐怖も。一つずつ、どうでもよくなっていった。昨日見たことも。どうしてここにいるのかも。もう、考えなくていい。ただ言われたことを聞いていればいい。そう思うと、不思議なくらい安心した。「……はい」気がついた時には、自分からそう答えていた。それから少しして。私は朝比奈さんのところへ向かった。今までなら、こんなお願いをすることなんてなかったと思う。でも、その時の私には何の違和感もなかった。「朝比奈先輩、少しいいですか?」「どうしたの?星乃さん」「その……お願いがあるんですけど」少しだけ恥ずかしくなって、視線を逸らす。「今履いてる黒タイツを、貸していただけませんか?」朝比奈さんは一瞬だけ私を見つめた。驚いたようにも見えたけれど。すぐに、いつもの落ち着いた表情に戻った。「……うん。いいよ」「ありがとうございます、朝比奈先輩」その時の私はまだ気づいていなかった。昨日までなら絶対にしなかったはずのお願いを。どうしてこんなにも自然に口にできたのか。――その理由に。そうして放課後、夜の教室で先生は私を待ち構えていた。

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