『だぶる★☆きゃすと ~香苗ママと双子のやさしい日々~|ep.1 春風の中で 』 【後編】 (Patreon)
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『だぶる★☆きゃすと ~香苗ママと双子のやさしい日々~|ep.1 春風の中で 』
【後編】
### 特別なおやつタイム
香苗がテーブルに置いたのは、自作のいちごショートケーキだった。子どもたちの目が輝いた。
「わぁ、すごい!」悠人が声を上げる。
「ママが作ったの?」翔太も驚いている。
「そうよ。今日はとっても美味しいイチゴが手に入ったの」香苗は微笑んだ。
翔太がフォークでケーキを切り分けようとすると、クリームが彼の頬についた。
「しょーくん、こっち向いて」香苗がタオルハンカチを取り出した。
「自分でできるよお」翔太は照れくさそうに断ったが、香苗は優しく彼の頬に触れ、クリームを拭った。
「ほら、完璧ね」
翔太は恥ずかしそうにケーキに集中したが、その耳が赤くなっているのを香苗は見逃さなかった。
悠人も自分のケーキを慎重に食べながら、ふと香苗を見上げた。
「ママ、ボクもクリームついちゃったかも」
「見せてごらんなさい」香苗が近づくと、悠人は意図的に口の端を指さした。
香苗は指先でそっとクリームを拭い取って、それを無意識的に自分の口に運んだ。ほのかに甘い味が広がる。
「美味しい?」悠人が小首を傾げる。
「うん、美味しくできたわね」香苗は微笑んで、改めてフォークを手に取り、自分の分を食べ始めた。
### 夕食の準備
「ママ、手伝うよ!」
夕方になり、香苗がキッチンで夕食の準備をしていると、翔太が飛び込んできた。
「本当?助かるわ」香苗は喜んで小さなエプロンを渡した。
翔太は真剣な表情で野菜を洗い始めた。その隣で悠人もスープの材料を計量している。
「この玉ねぎ、すっごく辛そう……」翔太が皮を剥きながら言った。
「大丈夫よ、炒めれば甘くなるから」香苗はフライパンに油を注ぎながら答えた。
三人は時々会話を交わしながら料理を進めていった。コンロの熱と家族の温もりがキッチンに満ちている。
「しょーくん、こっちの包丁気をつけてね」香苗が注意すると、翔太は無邪気に包丁を高く掲げた。
「任せて!オレ、結構得意なんだよ」
その瞬間、翔太の手から包丁が滑り落ち、翔太の指をかすめた。
「痛っ!」
「大丈夫?!」香苗は慌てて翔太の手を取った。幸い、かすり傷程度だったが、血が滲んでいる。
「すぐ手当てするから待ってて……!」香苗は救急箱を取りに行った。
戻ってくると、翔太は不安そうな顔で椅子に座っていた。悠人も心配そうに寄り添っている。
「ママ、ごめんなさい……」翔太の声が震えていた。
香苗は彼の肩に手を置き、優しく微笑んだ。
「包丁が危ないのはわかったわね……次から気をつけましょうね……」
彼女は消毒液を塗り、絆創膏を貼った。その指先が翔太の手の甲に触れるたび、翔太はくすぐったそうに身を縮めた。
「ありがとう、ママ」翔太は感謝の言葉を述べたが、その瞳には少しの恐怖が浮かんでいた。香苗はその視線の意味を理解していた。それは血を見てしまったことへの本質的な怖れのようなものだ。
「さあ、もう大丈夫よ。お料理続けられる?」
翔太は力強く頷いた。「うん!」
### 入浴タイム
夜七時半。夕食を終えた名雪家では、双子が順番に入浴していた。翔太が湯船に浸かっている間に、香苗は先にあがった悠人の頭をタオルドライしていた。
「拭き残しはない?」香苗がサラサラの髪をとかしながら聞く。
「大丈夫。ママのふきふき気持ちいい」悠人は目を閉じてリラックスしていた。
洗いたてのパジャマに包まれた悠人の身体を見下ろしながら、香苗は複雑な思いに駆られた。つい先日までまだ幼さを残していると思っていたのに、日々着実に成長している。この子がいずれ自分より大きくなるのだろうと考えると不思議な感覚に囚われる。
「ねぇママ」悠人が突然口を開いた。「今日はしょーくんと一緒に寝たいな」
「そうね……。今日は特別ね」
香苗は優しく答えながら、タオルをハンガーに掛ける。
悠人がリビングへ向かうと、次は翔太が上がってきた。タオルで身体を拭きながら、彼は香苗を見つめた。
「ママ……明日の朝は何時起き?」
「いつも通り七時半でいいわよ」
「じゃあ……その前にオレがママを起こしにいく!」
翔太の宣言に香苗も悠人も疑いの眼差しを向ける。
いつだって、翔太が一番遅く起きてくるのだから。
「ありがとう、しょーくん。でも無理しなくていいのよ……」
翔太の顔が明るくなった。「大丈夫!」
彼が素早くパジャマを着て出て行こうとするのを引き留めて言う。
「こら、ちゃんと髪の毛乾かさないとダメよ……」
まだびしょ濡れの翔太の頭を見て、香苗は軽くため息をついた。
### 就寝前
夜九時。香苗の寝室では子どもたちがそれぞれの本棚からお気に入りの本を取り出して読んでいた。三人は一つのベッドに横たわり、香苗が真ん中にいた。
「じゃあ、これ読むよ」悠人が「かいけつゾロリ」の本を手に取った。
香苗は灯りを消し、枕元の小さなスタンドライトだけを点けた。三人は丸くなり、絵本を囲んだ。
「お、おれさまを知らない……? きみおとなのまま生まれてきたのか?」悠人の朗読が始まった。彼の声は小さくても力強さがあった。
翔太は興味津々にページを見つめている。そのうち、二人の息子の体重が徐々に香苗に寄りかかってきた。
「続きは?」翔太が急かす。
「ちょっと待って」悠人は次のページをめくった。
香苗は二人の頭を交互に撫でながら、懐かしいお話の世界に浸った。外では風が窓を優しく叩いている。春の夜は不思議なほど静かだった。
「あのね、ママ」朗読の途中で翔太が囁いた。
「オレも大きくなったらママを守れるように強くなるよ」
香苗はその言葉に胸が熱くなった。「ママを守ってくれるの?」
「うん!」翔太は力強く頷いた。
「ボクも!」悠人も負けじと言った。
香苗は涙ぐみそうになるのを堪えながら二人を抱き寄せた。
「二人とも……本当にありがとう。ママは世界一幸せなママね……」
### 次の朝
窓から差し込む朝日で香苗は目を覚ました。自室のカーテンを開けて、朝日を浴びると、今日は一緒に寝ているはずの翔太の部屋へ向かった。そこでは翔太と悠人が寄り添うように眠っていた。昨夜の出来事が夢のように思えるほど穏やかな光景だった。
香苗はその光景を微笑ましく眺めると、そっとドアを閉めて洗面所に向かった。鏡に映る自分の顔には笑みが浮かんでいる。
(あの子たち……本当に可愛いわ……)
香苗は水で顔を洗いながら、さらに顔が緩むのを禁じ得なかった—が、一方で先行きに微かな不安も感じていた。これから翔太も悠人もどんどん大きくなるだろう。ただ、それを寂しく思う気持ちもあるのは否定できない。
キッチンに戻って、すぐに朝食の準備を始める。香苗はトーストを焼き、スクランブルエッグを作りながら窓の外を見た。庭の桜の木にはまだ花びらが残っていて、風に乗って舞っていた。
「ママ……おはよう」背後から悠人の眠そうな声が聞こえた。
振り返ると、パジャマ姿の悠人が立っていた。「おはよう、ゆーくん。よく眠れた?」
「うん……でも喉渇いちゃった」
香苗は牛乳をグラスに注ぎながら微笑んだ。
「どうぞ。そろそろしょーくんも起こさないとね」
悠人は一気に牛乳を飲み干し、「ボクが起こしてくる!」と言って廊下を駆けていった。
その後ろ姿を見送りながら、香苗は思った。
この先何があろうと、この子たちを守り育てていく責任がある。それが母親の務めであり、誇りなのだ。
「ママー!しょーくんが起きない!」悠人の叫び声が響く。
「今行くわ!」香苗はフライパンの火を止めて、急いで翔太の部屋へと向かった。
春の朝は始まりの季節。名雪家の一日はまだまだ続く—二人の子どもたちと共に。
~Fin~
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