量産型アンドロイド-別の世界線- (Pixiv Fanbox)
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「ほら、凄いだろう?」
そう言って父がみせてくれたのは、5列で並んでいる50体はいるであろう、わたしとそっくりな家庭用アンドロイドだった。
2206年。人間とほぼそっくりに作られたアンドロイドと人間が、共存するようになった時代。
今や一家に1体あると言っても過言ではなく、家事育児買い物など多岐にわたることを代わりに行ってくれるため、多少高くはあるが1体は持っているという家庭は多い。
アンドロイドは見た目もさることながら、表情や仕草も人間に似ている。実際人間とアンドロイドを見分けるためには、太ももの部分に刻まれている緑色に発光する製造番号と、首に取り付けられている黒い首輪型の受信機で判断するしかない。
この受信機は、繋ぎ目が一切なく外れることはない。そしてこれがアンドロイドの行動を管理しているのである。
登録された主人が命令するとその受信機が反応し、脳に取り付けられたチップが信号を体に発信して、アンドロイドを動かすようになっている。
初期設定では基本、命令がない時はアンドロイドの充電用の場所での待機になるように設定されているが、蓮見家では臨機応変に自分で考えて動けるようにある程度の自由を与えている。
ちなみに受信機も製造番号も隠そうとすることはできるが隠す行為は犯罪にあたるため、余程の事情がある人か、裏の悪どいことしてる人以外の持ち主は隠すことなどしないだろう。
ここ蓮見家でも20体の家庭用アンドロイドが朝5時から稼働し、夜1時には稼働停止している。
ちなみに、家庭用アンドロイドに似ているが行う目的が違うセクサロイドという、主な機能は性処理が主体のものもあるという。
そんな一般家庭では1体がやっとの家庭用アンドロイドではあるが、蓮見家では20体所有している。しかもその内5体は、顔も体も全てわたしそっくりなアンドロイドである。
なぜこうなっているのか、それは少し前にさかのぼる。
今年14歳になったわたしこと蓮見花音は、勉強もスポーツも得意でも不得意でもない平均的な、田舎に住むごく普通の中学生である。
父は蓮見孝之という、蓮見製作所という家庭用アンドロイド生産会社の社長。
母は翻訳の仕事をしていて、世界中を飛び回っている。
両親共に仕事が忙しく家に帰ってくることが少ないため、一日の始まりも終わりもアンドロイドと一緒ということが多かった。
生まれてからそんな感じだったので、わたし専属のアンドロイドのことは姉のように思っている。名前はMIAといい、身長は頭一つ分高い、焦げ茶色の長髪で28歳くらいの美人なアンドロイドである。わたしが3歳の時からいるアンドロイドだ。ちなみに、元々の名前は”alk-16”という機体名であるとメイド服の襟に入っている。
人間と同じくアンドロイドも歳をとるが、あれから11年たったと思うと早いなぁとしみじみ思う。
そんなMIAが朝いつも通りの時間に起こしてくれて、着替えなどを手伝ってもらって支度が済んだ後に朝食を食べに行くと、リビングにはすでに父がいて朝食をとっていた。昨日の夜に帰ってきていたようだ。
「パパ、おはよう」
「おお、おはよう」
朝の挨拶をして席に座るとすぐに朝食が出てくる。
アンドロイド達が作ってくれたおいしい朝食を食べていると、父はこちらに目線を寄越して口を開く。
「花音。その髪の毛を数本くれないだろうか?綺麗な髪を傷つけるようで申し訳ないが」
唐突な話の内容に驚き手に持っていたフォークとナイフをピタリと止めて父の顔を見る。
そんな父は、怪訝な表情をしているわたしに焦ったのかどうして髪の毛が欲しいのかを説明し始めた。
どうやら正確にはわたしのDNAが欲しいのだそう。なんでもわたしが可愛くてしょうがないから、わたしをそばにおいて仕事をしたいとのことだった。
自分で言うのはなんだが、両親はわたしを溺愛している。小学生の時の運動会などは、他の保護者よりも声も大きく熱量が凄くて恥ずかしい思いをした記憶がある。
ちなみに元々アンドロイドを作るには、元になる人間本体が必要である。
ではどうやって用意するのかと言うと、幾人かの人にDNA採取に協力してもらい色々掛け合わせて人工的な人間、いわゆるホムンクルスを作って、培養液の中で急速に成長させるのだ。もちろん急速に成長させても生まれて何も知識がないので、頭の中にチップを埋め込んで、そこに家庭用アンドロイド基本動作をインストールするのだ。人工的に作ったとはいえ元は人間なので、買われた後もどんどん学習していき表情や仕草なども人間に近くなる。
つまり、普通はいくつかのDNAを掛け合わせて存在する人間とそっくりにならないように対策して作っているのに、父はわたしのDNAだけで作って、わたしそっくりなアンドロイドを作ろうとしているというわけだ。見た目そっくりな人が何人もいるとか想像したら怖すぎる。
「自分と同じ人がいたら怖いじゃん」
と断ったのだが、お小遣いの大幅アップに釣られて了承してしまった。結局わたしも両親に甘いのだった。
それから数日して出来上がったと父が家に連れてきたのが、MAKOと呼ばれる、わたしとそっくりな家庭用アンドロイドだった。髪も肩にかかるくらいで似ている。
正確には髪色は黄緑だし、首に受信機があり太ももにも製造番号が入っていて、一目で人間じゃないとわかるが。
そのMAKOが家で稼働するようになって数日で、さらに4体が追加され家で働き出した。
そしてわたし専属にMAKOが加わり、MIAと2体でお世話されることになった。
ある日学校から帰ってくると、1階にある個室トイレみたいで扉が透明になっているアンドロイド用の充電スペースで、MAKOが充電しているのが目に入った。充電は首に取り付けられている黒色の首輪型の受信機にコードを繋ぐようにして行われる。このコードは充電が終了すると自動的に外れる仕組みになっている。
MAKOの足元にはたたまれたメイド服や下着、靴が綺麗に置かれていた。アンドロイドの充電時には身につけているものを全て外してからというのが、アンドロイド制作会社の中では一般的だ。
だけど素っ裸になられるとわたしそっくりなのだから、自分の裸を堂々と見せびらかしているという、なんともいえない恥ずかしさがある。
恥ずかしさで赤くなった頬を冷ましながらふと、このメイド服って可愛いよなと思った。
従来の家庭用アンドロイドのメイド服とは違って、スカート丈が少し短くなりフリルもましたものになっている。
今回から新調することにしたと父が前に言っていたのを思い出す。
少しならと周りを見渡して誰もいないことを確認してから、MAKOの充電スペースに入る。
アンドロイドは充電が開始されると充電スペース内に特殊なガスが出てきて、充電が終わるまで強制的に眠らされる仕組みになっている。なので、MAKOのアンドロイド用の衣類をさっと取ってすぐに扉を閉めた。
そのアンドロイド用の衣類1式を持ち隣の空いている充電スペースに入ると、今着ているもの全てを脱いでMAKOの衣類に手をのばす。
無地の白い下着、白のキャミソール、黒のストッキング、白ブラウス、黒のワンピース、フリルエプロン、フリルカチューシャ、黒のローファーの順に全てを身につける。
服は若干湿っていて、少し汗の匂いと柑橘系の匂いがした。充電スペース備え付けの全身鏡で見てみると、服が可愛くて似合っている。うん、悪くない。
色んなポーズをとって確認しているとアンドロイドの誰かが近くを歩いたようで音がしたため、慌ててすぐに脱いで元に戻してから部屋に戻った。
走ったためか、それともバレたらまずいというスリルを味わったからか、ドクンドクンと何だか興奮している自分に驚くのだった。
またそれからしばらくして、一般向けにも販売してみないかと父に言われ、いやいやながらなんだかんだと勝手に話が進んでしまい販売が開始された。
わたしとそっくりなそのアンドロイドは、それからひと月でかなりの売り上げをだし今でも順調に売上を伸ばしているらしい。
前から作っていたアンドロイドと並行して売り始めてしばらくして、アンドロイド3大生産量を誇る企業となった。
販売されてからというもの、学校などで外に出た時の他の人の視線がすごかった。周りを見るとわたしと同じ顔のアンドロイドが普及しているのでそこかしこにいるのだが、わたしの首に受信機も製造番号も見えなかったからである。すぐにモデルにされた人だと分かってくれたようだが。
他の工場でも極たまーに似たようなことをしているところはあるので、わかってくれる人はわかる。
販売されているアンドロイドはわたしに似たものだけじゃないのに、何故こんなに注目されるのかとも思ったが、そこはやはりアンドロイド3大生産量を誇るだけはあるのだろう。
それからしばらくして夏休みに入ったこともあり、1度父の工場を見に行きたいと言って、工場に行った時に見せられたのが冒頭のシーンである。
何度か工場を見に来たことはあったが、ここ2年は来れていなかった。久しぶりに工場内を見学したかったので、わたしそっくりのアンドロイドが作られるようになったこれを機に来ようと思っていたのだ。
目の前のわたしとそっくりな家庭用アンドロイドは、みんな目を瞑ったまま、一様に裸だった。いやうん、父も作成中に見慣れたんだろう、何ともなさそうな顔をしている。わたしは恥ずかしい...
この時点では受信機も製造番号も入っていないようで、本当に人間そのものに見える。この中に裸で混ざったら、どれが本物のわたしか見分けがつかないだろう。髪色がみなバラバラでカラフルだから実は見分けやすいのかもしれないが。
そしてみな目を閉じて微動だにしないのは、睡眠効果のある特殊な液体を投与されているからである。頭にチップは付けられているが、家庭用アンドロイド基本動作をまだインストールされていないし、首に受信機もないこの状態で知識がないまま暴れられると危険だからだ。
この睡眠状態は、購入した主人が、家庭用アンドロイドと一緒に届いた特殊な液体をアンドロイドの口に飲み込ませると、目覚める仕組みになっている。
説明してもらっていると、一体の高身長な美人系男性アンドロイドがやってきて、父に仕事で確認してもらいたいことがあるとかで、父とそのアンドロイドは共に工場の奥へと行ってしまった。
行く間際に、色々見てまわるといいよと言われたこともあり、どこから見ようかなとブラブラと見歩くことにする。
この工場内には父を入れて、人が3名しかいなくて、後は作業用アンドロイド数体と自動運転に任せているようだ。この工場はかなりの広さがあるので死角が出来やすく、警備するアンドロイドもさぞかし大変であろうことは分かる。
しばらく見てまわっていると、首に受信機も付いていて製造番号もある、メイド服を着た、わたしそっくりの家庭用アンドロイドの列が見えた。ロボットアームによって順番にベルトコンベアに乗せられ、最終チェックを受けるところのようだ。ここが終われば出荷となるのだろう。
列は6つあって、かなりの数のアンドロイドがベルトコンベアに乗せられるのを睡眠状態で待っているようだ。列を見ていると、黒髪でわたしと髪色もそっくりなアンドロイドを見つけた。
そしていたずら心的なものが芽生えたのだった。
そのアンドロイドを引きづりながら、近くにあった物置き部屋に運びこんだ。ここはどうやらあまり使われていない部屋のようで、わずかにホコリが溜まっていた。主要部分のホコリをはらってから、アンドロイドの全ての衣類、靴を脱がせ、私のものと交換した。私が今日着てきた下着や白い甘めのブラウスとブラウンのスカート、白スニーカーを身につけたアンドロイドは、わたしと同じだからよく似合っている。
メイド服を着たあと、視線を下にずらし襟の部分を見ると、”blk-1752”と書かれていた。このアンドロイドの名前で、1752体目ということなのだろう。
そしてえーと、あったあった。物置きにあった、製造番号シールをダンボール箱から取りだした。工場内のどこかにあるとは思っていたが、この物置き部屋にもあったようだ。
このシールは、工場で説明をしてもらっている時にいた生まれた直後のアンドロイド用の、検品用として貼るものである。生まれた直後のアンドロイドの内一体を成長具合は大丈夫か調べるために、人間じゃないよと分かるように使われるもの。
しかもそのアンドロイドが基準成長に達していてOKならば、その番号のまま本登録されるという優れもの。
本来の製造番号を入れる時は、初めから特殊なレーザーで太ももの部分に焼き入れるが、シールを使ったアンドロイドは、そのシールの上から焼き入れる感じだ。一度貼ると1週間は取れないすごいシール。
このシールをドキドキした胸の高鳴りを抑えながら、太ももに貼っていく。上手く貼れたのを確認したので、爪で引っ掻いてみたが、やはり取れる気配は無さそうだ。己の太ももで自己主張するかのように緑色に光るそのシールには、”HASUMI-33591”と書かれていた。蓮見工場の33591番目のアンドロイドという証明だ。
さらにダンボールの中からリモコンを取り出すと、引っ張ってきたアンドロイドの首に向けてボタンを押す。すると、ピピッと音がなり、首の受信機が取れた。
そうこのリモコンは、普通は取れない受信機を取り外せる特殊なリモコンだ。
取れて落ちた首輪を自分の首につけるとガシャンと音が鳴ると共に繋ぎ目がなくなり、取れなくなった。
今この現場を誰かが見たら、私のことを家庭用アンドロイドだと思う人が多いだろう。アンドロイドと分かる唯一の製造番号が光る目の前のわたしそっくりなアンドロイドを見て思った。
当たり前だがわたしは人間なので、頭の中にチップがなく、一切の受信を受けない。アクセサリーを身につけただけの格好といえる。
アンドロイドをそっと部屋の椅子に座らせると、ドアの外に誰もいないことを確認して、そろりと部屋から出た。
ドキドキしながら、先程の出荷前最終チェックの列の最後尾に並んでみる。
進みは遅いようだが少しづつ進み、私の後ろにも次々わたしそっくりのアンドロイドが並び始め、気づけばちょうど真ん中辺りにいた。なんだか工場産の量産型アンドロイドになった気分で興奮する。
しばらくして十分楽しめたので、倉庫部屋に戻り、首輪も衣類も靴も全てアンドロイドと交換して、また元の列へと引きづって行き並ばせた。
実はこの時、このアンドロイドがなにかの不具合で、首の受信機を一時的に外されたことによってその時に目覚めてしまっており、花音のことを見ていたことを気づくことはなかった。
ふと視線を感じたような気がして花音が振り返るがそこには、出荷前最終チェックを待つ睡眠状態の家庭用アンドロイド達だけで、気のせいかと気にすることはなかった。
花音が振り返る頃には、花音が衣服を交換したあのアンドロイドは、目を閉じていたので気づかれることがなかったのである。
それからまた工場内を見てまわって、父と合流して家へと帰ったのだった。
この時はまだ知らなかった。予期せぬ事態が起ころうとしていることに。
少し考えれば分かるはずなのだ、首の受信機が外れればその信号は脳のチップに行かなくなり、命令を受け付けないことを。それ故に、作った工場でしか外れないようになっていると。
また、あの時の髪色もわたしと同じアンドロイドにあんなに知能があり、1度とはいえ受信機を外したことによって、人間的思考が少し宿ったことにこの時点では誰も気づけなかった。
次の日、MIAに起こされ、MAKOにいつもはやってもらっている身支度を自分でやるからと1人でおこなった。2体を部屋から出して1人で身支度したのは、昨日太ももに貼った製造番号シールを見られないようにするためだった。これを見られたら他のアンドロイドがどんな反応を起こすか分からなかったからだ。仲間だと思われ、その挙動や服装を見て不良品だと判断されて拘束され工場で無理やり修理されたりなんてこともあるかもしれない。数でこられたらわたしが力で劣るのは目に見えているし。でもそう考えている時もなぜか少し興奮している自分がいるという不思議。
着替え終わり部屋から出て、MIAとMAKOと一緒にリビングに行く。普通に食事を取ったあとは、部屋に戻った。父はわたしが夏休みのこの間1週間くらいは出張で帰ってこないと、他のアンドロイドから予定を聞かされた。
1人になったところで、気になって製造番号シールを爪でかいてみたがやはり取れなかった。やっぱり強力ねと、見つかったらやばそうだけどと少しドキドキした。
今日は友達と遊ぶ約束があったので、支度が終わった後、アンドロイドに見送られながら家を出た。
「あーっ!やっときたー!遅いじゃんか!」
待ち合わせ場所の駅近くに行くと、こちらを責める声で友達の小春が近づいてきた。
「いや、まだ待ち合わせの10分も前だけどね」
「前もって早く来ればたくさん遊べるでしょ?」
待ち合わせには充分間に合っていたはずだが、そう返された。
その後は、良さそうな服や雑貨を買ったり、カラオケをして楽しんだ。そして今は遅めだがランチをとろうと飲食店にいる。
わたしはカルボナーラで、小春はバジルソースのかかっているパスタを注文して届くまで会話を楽しんでいた。会話の途中で小春がふと外を眺めだしたので、つられてわたしも窓の外を見た。
「改めて見るとすごいよねー、いままでもアンドロイドはいたけど、そこに混ざってたくさん花音がいると何か不思議な気分」
そう笑いながら言われ、ああたしかにと思った。
身近な人物がアンドロイドとはいえたくさんいる光景は奇妙に見えるのだろう。何せ通常のアンドロイドは、見た目がバラバラでそうそう同じ顔の個体は生まれないのだから。
そうこうしている内に料理が運ばれてきたため、食事をとりつつ夏休み中の課題の多さなど、愚痴を言い合ったりして、楽しんだ。
食事が終わったあとも遊び、気づけば夕暮れに近づいていたので、また遊ぼうねーと、次の遊ぶ約束をしつつ別れて、自宅へと帰った。
家に帰ると玄関にはヒールのある靴があった。どうやら久々に母が帰ってきたらしい。
リビングに入ると予想どうりそこには母がいて、いつもはアンドロイドが料理を作ってくれているが、今日は母が料理を作ってくれているようだ。
母は帰ってくるといつも料理を作ってくれる。会えない間で寂しい思いをさせてしまっているという、母なりの気遣いなのだろう。
「おかえり、花音」
凛としたそれでいて穏やかな感じの声で、声をかけてくる。
「ただいま!久しぶりだねママ!」
久しぶりのママとの会話や食事を楽しんだあと、お風呂に入って、寝る前まで会話を楽しんだ。明日から別の所へ仕事に行くからまたしばらく会えないとの事も言われた。
ハードスケジュールのような気がするので心配になったが、これが終われば少し休暇を取れるとのことで、その顔は仕事への意欲に燃えていた。忙しくも楽しいのだろう。
次の日目が覚めると、母がもう仕事へと出かけたことをMIAから聞いた。
今朝も製造番号が見られないよう1人で身支度を済ませ、食事をとりにリビングに向かう途中、玄関に、工場の作業員の人と、黒髪でわたしそっくりの家庭用アンドロイドが立っているのが見えた。
来客の対応をしているのは家のアンドロイドである。
近づくと、男性作業員の方から、社長にこのアンドロイドを花音さんに渡して欲しいと頼まれたと聞かされた。
父は今出張中なので電話で伝えたんだろう。家用に1体家庭用アンドロイドを増やすつもりのようだ。
アンドロイドを引き渡されると、男性作業員は帰って行った。
このアンドロイドには、RARAと名付けた。
家の家事等の仕方などは頭のチップに入っているので直ぐに働けはするが、細かな作業など臨機応変に動いてもらわなければいけないこともあり、学習してもらう必要があるため、家に新しいアンドロイドが来たら、その機体に教育するアンドロイドをつけることにしている。
MAKOが家に来た時は、わたし専属になるということでMIAがその教育を担当した。
今回のこのアンドロイドは、専属ではないため他の機体に教育を任せてもいいがと少し考え、ちょうど一緒に着いてきているMIAがいるので、教育を任せることにした。
食事も終わり、部屋で宿題をしていたが疲れてきたので、気分転換がてら庭の散策へ行くことにした。
その途中の廊下で少しドアが空いている部屋があり、気になって覗いて見る。普段は空いてるか閉まってるかではっきりしているので珍しかったのだ。
その部屋の中では、MIAが黄色い棒のような機械を持って、RARAを叩いていた。驚きながら叩かれている様子を見ると、黄色い棒のような機械は、当たると電気が流れるようになっているようだった。叩かれたRARAは、ア゙ア゙ッと声を上げて床に倒れ、声を上げる度にその声を上げるのは正しくないというようにまた叩かれていた。3度目はただ黙ってビクビクと体をさせながら、体を起こし、元々おこなっていたのであろう雑巾がけを始めだした。
教育している現場を数回見たことはあるが、あの棒の機械を使っているところはあまり見たことがない。その使っているところを見た時も、めちゃくちゃに暴れたりして手が付けられない状況の時だった。きっとその時のアンドロイドと同じく、RARAが暴れたのだろう。
普段優しいMIAがその棒の機械を使っている光景は驚きが凄かったが、普段は主人達がいるから常に優しくしているだけで、主人に見えないところでは、MIAもアンドロイド同士気を使わないで、本来の自分になれるのだろうと思った。本来のMIAはかなりの完璧主義で、軍人のような性格のようだ。
しばらく覗いていたからか、雑巾がけをしているRARAと目が合ったような気がして、慌ててドアの前から移動した。気のせいだと思うが、なんだか少しジロリと睨まれたような気がしたのだった。
それから目的の庭での気分転換も終わり、宿題を終え、夕食とお風呂をすませて、自室でくつろいでいた。
花音はベットに横になって携帯をいじりながら、考え事をしていた。あのRARAという黒髪のわたしそっくりのアンドロイドを見たことがあるような気がしたからだ。製造番号を覚えてはいないが、工場で衣類を取り替えて一時的に入れ替わった機体のような気がするが、黒髪のアンドロイドは他の髪色のアンドロイドと同じくらい量産されているので、気にしすぎかなと思うことにした。
それから1週間たって、わたしの太ももにあった製造番号のシールは役目を終え、シャワーで流したらするりと取れた。
この間中気になってこっそりRARAの教育現場を見ていたが、かなり失敗が多いらしく、家にいる家庭用アンドロイドたちの中でも最低評価をつけられていることに、携帯型管理用デバイスを見て思った。
アンドロイドの充電スペースがある場所の近くの壁に、大きな液晶画面があるのだが、それを使って家のアンドロイドに登録したりなどアンドロイドに関して管理できるのが管理用マザーボードと言われるものであり、それを小さくして持ち運びできるようにしたものが携帯型管理用デバイスである。
管理用マザーボードと連携しているので、離れていても使えるものである。
今手元にあるその管理用デバイスには、家に登録されているアンドロイドが表示されている。アンドロイドにある首の受信機から常に情報がマザーボードに送信されていて、評価が自動でつけられているのだが、RARAがとにかく酷い評価しかされていない。実際に見てても失敗が多いなとは思っていた。
でもそれは人工的に作られて生まれたホムンクルスの個体差によるものなので、いくら頭のチップに家庭用アンドロイドの基本動作をインストールしても、こういうアンドロイドになる機体もいるのだろう。
しかし、RARAだけの性格なのかは分からないが、嘘をつくことが多く、与えられた仕事を仮病で休もうとしたり、見た目がわたしと似ているからか、あたしは蓮見花音だと虚言を吐きまくったりと、その理由で休もうとしているのかなんだか良くない性格をしている。何がしたいのか分からないが、花音はあたしだとか言い出すものだから、万が一の念の為とMIAがわたしにしか分からないことを質問してきて、わたしが答えられたことで、MIAの中ではRARAが虚言癖のある頭のおかしいアンドロイドと判定されているようだった。
MIAが教育し始めて5日目で最低評価をつけられたようで、RARAはまるで雑用を押し付けられるように他のアンドロイドから、汚れの酷そうな仕事ばかりを押し付けられていた。既にある程度チップにインストールされているせいか、MAKOがそうだったように個体差はあれど他のアンドロイドは確かに覚えが早かったように思う。
そんな汚れ仕事ばかり押し付けられていたRARAのメイド服は、洗濯担当のアンドロイドが洗っても落ちない程汚れが目立っていた。朝たまにすれ違う時は洗剤のいい香りがするが、一日の終わり付近にすれ違うと何やら臭っていたので相当だ。
一日の終わりに担当アンドロイドが、メイド服を洗った後機械で速乾させて綺麗な状態を保っているので、今まで換えは1着ずつしか用意したことがなかったが、RARAの分は2着とも新品と交換が必要になりそうだと思った。
そう思いながらリビングに行くために階段を降りて行くと、RARAがアンドロイドの充電スペースで充電しているところを見かけた。その足元には設定通りに、衣類が綺麗にたたまれて靴と共に置かれている。
その光景を見て、前にMAKOの衣類を着た時の記憶が蘇ってきて、気がついたらRARAの衣類と靴を持って、空いている隣の充電スペースに入っていた。
着ていた衣類と靴を全て脱いで、RARAの下着を手に取った。
汗のせいかしっとりと湿っているショーツを履こうと広げると、股に当たる部分が少し黄色みがかっていて、恐らくMIAの教育のあの電気でやられた時にできたものだろう。ブラも着けて、今度はキャミソールを手に取ると下着と同じく汗で濡れたのだろうしっとりしていた。ブラウスも同様に濡れている。黒のワンピースは少し重くなっていたが、その上に着るフリルエプロンだけはなんの影響もなく乾いていた。
1番大変だったのは汗を吸って異臭を放つストッキングと、ローファーだった。
全て着終わると、その場でくるっと回ってみる。ふわっとワンピースの裾が舞うと共に、RARAの少し甘い匂いの体臭と汗の匂いと、土の匂いのような香りがブワッと鼻に入ってきて脳を刺激する。まるでわたしからその全てが香ってきているようで興奮した。
十分に堪能した後、衣服を戻してリビングに行ってくつろいだ後部屋に戻った。
次の日もいつもと変わらず、朝食を食べ自室で宿題をした。
宿題に集中していると、気づけば昼になっていたので昼食を食べにリビングへ行き昼食を食べ、その後は部屋に戻って携帯電話をいじりながらテレビを見てくつろいだ。
しばらくテレビを見ていると、軽く喉が渇いたのでリビングへと階段を降りる。すると昨日と同じくRARAが、充電スペースで充電していた。
なんだかそれを見ているだけでドキドキしてきて、意味もなく周りを確認した。急ぎ足で部屋に戻り首の受信機を外す特殊なリモコンと、製造番号シールを持ってRARAの充電スペースの前に立った。このリモコンと製造番号シールは、前回工場に行った時にこっそり持って帰ってきていたのだ。ホコリの被ったダンボール箱に入っていたし、長いこと誰もあの部屋に入った者はいないと分かっていたので。
RARAの充電スペースから衣服と靴を隣りの充電スペースに持っていき、リモコンと製造番号シールもそこに置いた。
はやる気持ちを抑えながら、自分の太ももに製造番号シールを貼って、無事に貼れたことを確認し終わり、服を脱ごうとした時、首の受信機についてのことが頭をよぎった。
RARAは今充電しているので、受信機と充電スペースのコードが繋がった状態だ。受信機を外すにはコードを抜かなければならず、抜いてしまえば充電完了と判断されてRARAが目覚めてしまう。
そこまで考えて、あっ!と、あの時他にダンボールに入っていた首に付ける受信機も持ってきていたのを思い出し、部屋から持ってきた。
さっそく首に受信機を着けて服を脱ぐ。全て脱ぎ終わり、RARAの下着に手を伸ばすと、上下共にビショッと濡れていて汗をすいとっていた。ショーツは昨日と同じく股の部分が黄色かった。昨日よりもすごい汗をたっぷり吸った下着、白のキャミソール、黒のストッキング、白ブラウス、黒のワンピース、フリルエプロンを着る。どれも絞ったら汗が出てきそうなくらい汗を吸っていて、全部着たらずっしりと重かった。ストッキングから感じるぬるぬるとした感覚がなれない。
今日は夏の中でも気温がすごく高かったのでそれでこの汗の量なのだろう。家の中はクーラーが効いていて涼しいので、RARAは外の仕事だったのかもしれない。
肌にベッタリと張り付く衣服に若干不快感がありながらも、自身から放たれている昨日よりも濃いRARAの少し甘い匂いの体臭や汗の匂いに興奮している心をなんとか静め、最後にフリルカチューシャとローファーを身につけて完成だ。脱ぎ散らかした、さっきまで着ていた自身の衣類を綺麗にたたみ、靴も揃えて置くと、さっそくとばかりに充電スペースに備え付けの全身鏡で見てみる。そこに映るのはわたしではなく、わたしに似た家庭用アンドロイドのRARAそのものだった。
時間をかけていつもよりゆっくり一通り堪能した後、最後にくるっと回ってみる。
「うん、やっぱり似合って....おわっ!?」
足元を見ずにまわったせいで、さっきたたんだ己の服に足をひっかけてつまずき、充電スペースの扉に突っ込むようにして、充電スペースの外に飛び出して床にころがった。
いたたと起き上がると、ちょうどMIAが前を通りかかった。
「RARA、充電が終わったなら書斎の床掃除と言ってあったはずですが、終わったのですか?」
といつもわたしに話しかける優しい声とは違って、指摘するように厳しい声色で私に声をかけてくる。
「ん?わたしはRARAじゃないけど?」
そのわたしへの返事は、呆れたような口調で返ってきた。
「はぁ...またですかRARA。あなたは花音様ではありません。何度も言っているでしょう、そこまでバカなのですか?」
「いや本当に違うから!というか、いつものMIAの話し方と違くない?どうしたの?いったいどこをどう見たらRARAに見え...」
と言いかけて、わたしの今の格好が普段とは違うことを思い出した。
「あのねぇ、どこからどう見てもあなたはRARAでしょう。花音様の首に受信機が着いているとでも?その太ももにある製造番号はなに?どちらもアンドロイドにしか付いていないでしょう?分かるでしょ?」
バカにしたようにわたしを見ながら話すMIAに、羞恥心で顔を赤くしながら俯いてしまった。
「分かったのなら早く書斎を掃除してきなさい」
そう圧をかけるように言われたが、わたしはRARAではない。反抗するようにMIAの目を見る。
「でも..わたしはRARAじゃな...っ!?」
わたしが言いかけの途中で、MIAが自身のフリルエプロンのポケットから、黄色い棒のような機械を取り出したのを見て固まった。それはRARAを教育する時に使っていた電気が流れる機械だった。
「また叩かれたいんですか?」
その機械を手に持ったままさらに圧をかけるように話す姿を見て、わたしは震えてしまった。RARAに使われているのをこっそり見ていたので、その威力がわかる。
「いっ、いやっ!やります!今から掃除しに行くところだったんですっ!」
叩かれるのが嫌で、咄嗟にそう叫んでしまっていた。
「では、行ってください」
と見送るMIAから逃れるために、早足でその場を後にした。
書斎へ行くための廊下を歩きながら、このまま受信機も外して服も着替えてとなると、もう一度アンドロイドの充電スペースに行かなければならないなと考えていた。しかし、このまま戻ってもMIAと鉢合わせになる確率が高い。
そう結論づけ、とりあえずRARAの代わりに書斎の床掃除をして、急いで充電スペースに向かおうと考えた。その時にMIAに鉢合わせても、仕事は終わったと報告して逃げることが出来るかもしれない。
書斎に着くと、普段から毎日掃除されているからさすがに、綺麗な状態は保たれているが、少しのほこりは落ちているようだった。床掃除用の雑巾を見つけると、丁寧に拭いていく。そんなに時間はかからず床掃除は終わった。ここまで綺麗にすれば、MIAにも文句は言われないだろうと思う。
早々に仕事が片付いたので、急ぎ足でアンドロイドの充電スペースに向かった。MIAにも他のアンドロイドにも見つからずにたどり着いたが、そこにはわたしの衣類もリモコンも、さらにはRARAもいなかった。
「え..えっ?!あれっ、ここにいたのに...!」
混乱する頭をどうにか抑えつつ、もしかしたらとわたしの部屋へ向かう。ガチャっとドアを開けると、そこにはMIAに紅茶を入れてもらっているわたしがいた。そう見えてしまったのは、RARAの首に受信機がなかったからだ。製造番号は太ももにあるのだろうが、ブルーのカラーパンツを履いているため見えない。着ている服はわたしが着ていた白半袖Tシャツにブルーのカラーパンツだ。
部屋に入ると同時にRARAとMIAからの視線が私に向いた。
「ご主人様の部屋に入る時はノックをしなさい」
MIAに睨まれつつ言われ、体がビクッとした。
「いやいや、MIA今回はいいよ。ちゃんと教育係をしていてMIAはすごいよね」
RARAはそんなMIAを褒めて2人で朗らかに会話を始めた。
そんな話を聞きながらわたしはものすごく焦っていた。これはどうやらRARAがわたしのふりをしていて、MIAはそれに気づいていないようだぞと。
「まっ、まって!あなたRARAだよねっ?そうだよねっ?」
そう声を荒らげると、会話に割って入ったためか、MIAから厳しい目が向けられる。
一方RARAは頭にハテナを浮かべながら、わたしを見る。
「えーっと、よくわかんないんだけど、どうしたのRARA?」
RARAのその疑問にMIAが答えるべく、呆れた目をわたしにちらっと向けながらRARAに向かって話しかける。
「花音様。RARAはどうも虚言癖があるようでして、嘘をついてサボったりと困ったアンドロイドなのです。教育が行き届かず、ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません」
そう言い終わるとこちらへMIAが来て、頭を掴まれ下げされられた。力が強く、おさえられたその手から逃れられなかった。
RARAのもうそのへんにしてあげての声とともに手を離される。
おさえる手がなくなったので顔を上げるとMIAから、花音様の前で次に変なこと言ったら覚悟しなさいと耳元で脅され、ブルブルと震えるしかなかった。
ティータイムが終わるまで部屋にいていいよとRARAの許可があったため、MIAも追い出そうとはしなかったので、部屋の隅で終わるのを待っているしかなかった。
紅茶を飲み終えるとMIAは片付け始め、ワゴンを扉まで押していきわたしに視線を向ける。
「行きますよ」
と声をかけられたのでMIAに向かって歩いていくと、RARAがわたしに話しかけてきた。
「RARAはここに残って。用事があるから」
それを聞いたMIAは黙って一礼したあと、ワゴンを押して部屋を出ていった。ドアが閉まる音がすると同時に、RARAからわたしへの視線を感じた。そちらへ目を向けると、バカにしたような嘲笑うかのような目でこちらを見ていた。
「花音様ってバカだよねぇ。あたしがいつも見てたことにも気づいてなかったでしょ?」
そう見下した目でRARAはわたしに問いかける。
「工場にいた時さぁ、首の受信機外してくれたでしょー?外してくれたからなのか分かんないけど、あの時あたし目覚めてたんだよねぇ。あの時はまだ生まれたばかりだったから何が何だかよく分かんなかったけど、あれから色々考えられるようになってさぁ、ほらっ、あたし人間みたいでしょ?」
ケタケタと笑うRARAに驚いて声が出なかった。購入した主人が特殊な液体を口に飲み込ませないと目覚めないはずなのに、バクか何かであの時すでに目覚めていたのだから。
「あたしがあのMIAクソアンドロイドから痛めつけられている時見てたのも気づいてたからね?毎日毎日見てるだけで、なんで助けてくれないのか腹立たしかったっ!あぁ、今思い出しただけで腹が立ってきた!」
そう言って椅子から立ち上がるとこちらへ歩いてきて、わたしの腹を蹴った。
「....ゥグッ..!?」
くぐもった声がわたしから聞こえたのが心地よかったのか、RARAは満足したように笑った。
「ついでに言うけどぉ、服とかあたしの着て嬉しそうにしてたのも分かってるからねぇ?今の花音様の格好お似合いじゃなーい?」
わたしはジンジン痛むお腹を抑えながら立ち上がると、RARAをキッと睨む。
「RARAあなたのやっていることはアンドロイドがして良い範囲を逸脱してる!いけないことだよ!早く受信機用のリモコンを渡して反省しなさい!」
わたしが怒って話すのも構わずケタケタと笑いながら、RARAはポケットからリモコンを取り出す。
「これのことぉ?なんであそこに放置していったのかあたしには分からないけど、おバカさんだよねぇ」
リモコンを見せびらかすようにプラプラさせている。
「あぁそうか、あの時も花音様は知らなかったんだねぇあたしが起きてたこと。充電終わってすぐに花音様が来てさぁ、充電終わったからコードが外れてたんだけど、気づかないであたしの服とか隣で着はじめるからさぁ、笑いをこらえるのに必死だったよ。そんなにその汚い汗まみれのメイド服着たかったの?」
その嘲笑う姿に必死になって反論しようと近づいたら、
「ちっ、ちが..ッ...!?」
「違くないでしょぉっ!」
と、さっきよりも強くお腹を蹴られ、床にころがった。
床にころがってうずくまったわたしにRARAは近づきしゃがみこんだ。
「あたしさぁ、あの工場で目覚めた時から、なんであたしは人間じゃないんだって思ってきたのね。生まれ方が違うだけで、製造番号も受信機もなかったらさぁ、人間なのにって。そこにあたしに似てる、花音様がいてさぁ、あんたは人間なわけよ本物のね。だけどなぜかあたしのメイド服ばっか着て喜んでるわけ。思ったね、アンドロイドにでもなった気分で非日常を楽しんでのかって。ふざけんなって」
「だからそれはちがっ..うぅ!」
言いかけたわたしの言葉を遮るように手を踏まれた。
「話は最後まで聞こうよぉ。まあそれでね、今回のこの入れ替わりを利用しようって思ったわけ。昨日も来たから今日も来るかなって思って同じ時間に充電スペースにいたら、のこのこ来たから作戦成功。この家のアンドロイドの設定ってある程度自由に行動や発言できるようになってるから、後は花音様が置いていったリモコンで受信機を外して服を着ればほら、あたしが蓮見花音」
普通アンドロイドの手の届くところにこんなリモコン置かないでしょ。というか、設定で触れないようにするべきだと思うけどねぇと、うずくまったままのわたしに言う。
「それにねぇ見てこの太もも。製造番号ないでしょぉ?あの時のダンボールの中にあったんだけど、生体用クリームっていうんだって。これ塗ったら製造番号無くなっちゃった。擦っても水に濡らしても落ちないクリームみたい。便利だよねぇ」
「まぁてことで、あたしが蓮見花音だから、あんたはRARAね。見た目もそう見えるんだからいいよねぇ?
あぁ、逆らうと痛い目にあうからねぇ。ここにMIA呼んでもいいし、まぁ呼んだらあんたにはお仕置が待ってるよねふふっ」
ドカッとまたお腹を踏みつけられて、わたしの顔は涙に濡れ、嗚咽をあげることしか出来なかった。そして腕を引っ張ってドアの前に行き開けると、わたしは廊下に蹴り出されて、ドアは閉められた。
痛むからだを起こして、服についたホコリを払うが、元々RARAの汗まみれのメイド服なので引っ付いたようになって取れなかった。それを忘れて袖で拭いた顔が、ベチョベチョに汗まみれになった。
あれだけのことをされた後だったが、まだ心は折れてはいなかった。とりあえず従ったふりをして機会を伺おうと思い歩いていると、MIAに遭遇した。
「RARA話し合いは終わったの?なら、客室のトイレを掃除したら後は終わっていいですよ」
そう指示してMIAは去っていく。
とりあえず指示通り客室のトイレに向かい、掃除を始めた。
テーブルや床を拭くとか簡単なものはともかく、普段家庭用アンドロイドに掃除を任せている花音はトイレ掃除などした事がなく、思うほど綺麗になっていなかった。
しばらく時間が経ってようやくいいかなと思えるほど綺麗になったので掃除道具を片付けて、廊下に出るとまたMIAに出会った。おそらくRARAの教育係なので頻繁に来てちゃんと出来ているかチェックしているのだろう。
「MIA終わりました」
と報告すると、MIAは客室のトイレへと入っていきわたしを呼んだ。
「RARA、これのどこが綺麗になったというのですか。ほら見なさい。縁が汚れています。どこを見て掃除しているのですか」
その発言にわたしも覗いてみるとたしかに縁が汚れていて、掃除した時に死角になっていたようだ。
「何度も何度も言っているでしょう、ここはこの道具でこうやって掃除するんです。一体いつ覚えるのですか。それに私や他のアンドロイド達にも、さんをつけなさいと言っているでしょう」
いやわたしは初めて言われたことだし、今日以前のことはRARAの失敗だ。
「それはわたしのせいじゃ....っ!?」
反抗して話そうとすると、MIAはフリルエプロンのポケットから、黄色い棒のような機械をとりだして、わたしに叩きつけた。
その瞬間わたしの体に電気が流れ、ガクガクと立っていられなくなって床に崩れ落ちた。
「なんども反抗してその度にこれをくらうのに、なぜ学習しないのですか。ほら、そこで寝てないで、掃除の続きをしなさい。終わるまで見ています。立ちなさい」
わたしが立ち上がるまで叩き続け、ようやく何とか立ち上がった時には、トイレの部屋中に私の汗が飛び散り、床はアンモニア臭が漂っていた。
MIAが以前RARAに教えた掃除の仕方のことを言っているのか、教えたこととやり方を間違える度に何度も叩かれ電気を体に浴びた。それでも何とかガクガクの体で掃除をやり終えると、ようやく終わったのかと呆れた目でわたしを見ていた。
「今日はもう仕事は終わりでいいですよ。しっかり体を休めて、復習しなさい」
そう言い終わるとMIAは去っていった。
着ていた服はRARAとわたしの汗が混じり合い、吸いきれなくなった服から床にぽたぽたと汗が落ちている。幾度となく電気を浴びせられた結果、ショーツからはアンモニアの強烈な匂いを発するまでになっていた。
とりあえず汚れた体を綺麗にするためにお風呂へ行こうと、ボロボロの体で足を進める。替えの服は、RARAに支給されているモコモコのパジャマと下着にした。わたしの部屋に行ったところでRARAがいるはずなので、服を持ってこられるとは思えないし、仮に持ってこれたとしても、この首の受信機と太ももの製造番号が隠れる服などくれるはずがないからである。わたしが花音だということをバレないようにしている時点で協力などしてくれるはずがない。
1階にあるアンドロイド用の生活スペースに入り、トイレに行きお風呂に入って食事をした。元々が人工的に作られた人間なのだから、人間に必要なことはアンドロイドにとっても必要なことだ。
今まで使っていた、アンドロイド用の生活スペースの反対側にあるリビングで食事をとったりお風呂に入ったりしてもいいが、他のアンドロイド達からRARAとして見られている現状でそちらを使ったら、何をされるかわかったものじゃないので、仕方なくこちらを使った。
お風呂から上がった時には、さっきまで着ていたものは全てなくなっていたので、洗濯担当のアンドロイドが回収していったようだった。
夕ご飯を食べ終わり窓の外を見るともう既に真っ暗になっていて、壁掛け時計を見ると夜の12時30分を示していた。
家の家庭用アンドロイド達は、夜の1時には稼働停止(就寝)をするように設定してあるが、仕事が早く終わった者などは23時に就寝していたりする者もいる。
はぁっと息吐きながら就寝するために、元のわたしの部屋にではなくアンドロイド達の就寝スペースに向かう。
アンドロイドの生活スペースにあるダイニングの右にドアがありそこがアンドロイド達の就寝スペースになっている。
ベッド周りをぐるりと囲む転落防止がついた木製のシングルベットが床に等間隔に並べられていて、辺りを見渡せば、早めに就寝したであろうアンドロイドの4体が、仰向けで目を瞑って眠っている。そして寝ている間は、1日の行動情報を集めて記録するために、転落防止の枠の一部からコードが伸びていて首の受信機と繋がっている。
就寝の間は余程のことがない限り、朝5時の稼働時間まで寝ているか、目が覚めてもベットの上にいる決まりがある。
ちなみに稼働時間前に起きてしまったアンドロイドは、自身のベット横にある自分専用の小型チェストから、休日に買った小説を読んだり、支給されている参考書などで、もっと役に立てるようにと勉強したり、体を鍛えたり、再び寝たり様々だ。
その日が休日である者は、主人が認めればお金を貰って買い物にも行けるため、何をして過ごそうか考える者もいる。
人間と同じく、アンドロイドは法律で1ヶ月に8日以上休ませなければいけないので、蓮見家でもそれを考慮して設定して仕事のローテーションを組んでいる。
早く寝たアンドロイド達を起こさないように静かにRARA用の就寝場所へと向かった。ベットの転落防止の一部に、blk-1752 機体名RARAと記載されていたので場所はすぐに分かった。
さっきまでわたしが着ていたメイド服が、洗濯され綺麗に畳まれてベットの上に乗っている。
改めてメイド服を見ると、襟の部分にRARAの元の機体名である”blk-1752”と書かれていて、ここで寝るのが正しいのだと言われているようで、惨めな気分になった。
ベットに横になりタオルケットと布団をかけると、RARAの少し甘い体臭の匂いがしたが、それと同時に香るお日様に当てたいい匂いにすぐに眠ってしまった。
わたしは人間なので、頭にチップがないために、首についてる受信機はただの飾りのようなものなので、コードは繋がなかった。
翌日周りが起き出した音で目を覚ました。ベットから出ると、皆メイド服に着替えてアンドロイド生活スペースのリビングへと歩いていくので、わたしも急いで着替えて着いていってみる。
すると前にはROJIと名前がついている家庭用アンドロイドのリーダーが1体前に立ち、その前に縦4列に他のアンドロイド達が立っていた。朝礼みたいなものだろうかと、ぽかんとしていると、ただ1体並ぼうとしないわたしをROJIが怪訝な顔をして見てくる。
「RARA早く並びなさい。あなたのせいで朝のスケジュール確認が遅れます」
厳しい声で言われ、他のアンドロイド達から見下したような視線を受けたので、急いで空いている列の1番後ろに立った。ここで逆らっても数の暴力で何をされるか分からない。
わたしが列にはいったことを確認し終えると、ROJIは1体1体に今日の仕事が休みの者はあなたとあなたや、仕事がある者へはあなたはここの掃除など淡々とスケジュール確認をおこなっていく。
わたしはというか、RARAはまだ教育途中なのでMIAに一任すると最後の確認を終えた後、そのまま皆で朝食を食べてそれぞれすべきことをしに向かっていく。
わたしは昨日と同じくMIAに色々な部屋の掃除を指示され、また教えたやり方と違うと叩かれて電気を流され、他のアンドロイドのヘルプに入っては、汚れるような雑用を押し付けられ、文句を言おうとするとMIAが呼ばれて電気を流されるそんな1日を過ごした。その次の日もまた次の日も、仕事が終わってドロドロに汚れた体をお風呂に入って綺麗にしてご飯食べて寝て、そんな日々を繰り返した。
その間中、立場を取り戻すべく、1番目立つ首の受信機をなんとか外そうとわたしの部屋に行こうとするのだか、他のアンドロイドに見つかって仕事を押し付けられてその日が終わったり、常にわたしの部屋にRARAがいるようで、受信機を外すリモコンは取り戻せなかった。
そんなある日の夜、RARAに呼び出されてわたしの部屋に向かった。
自分の部屋なのに、MIAの教育で癖になってしまったノックと失礼いたしますという声をかけて、部屋へと入った。
その様子を見てRARAは、バカにするような目をしてニヤッと笑う。
「へぇ~、RARA。バカなあんたでもそこまでできるようになったんだねぇ?」
「わたしはRARAじゃないっ!RARAはあなたでしょっ!」
わたしがそう反論するとRARAはさらに笑みを深めて、楽しそうにする。
「どこをどう見たらあたしがRARAに見えるのかなぁ?MIAクソアンドロイドも他のクソアンドロイドも、あたしがRARAだって気づかないで従ってくれるんだけどぉ?」
「それは...でも!でもっ!違うでしょっ!本当はわたしが花音なんだからっ!」
言い返す言葉が出てこなくて、自分でも意味不明なことを叫ぶ。
「自分の姿ちゃんと見なよ。あんたの方がアンドロイドにしか見えないけどぉ?その姿で1度でも蓮見花音だって気づかれたのかなぁ?」
その言葉が当たっていて、何も言い返せなかった。
「あぁ、そうそうもう聞いてるよね?明日パパが出張から帰ってくるらしいよ?やったー、わたしパパ大好きー!」
バカにした声色でわたしの真似をするRARA。
そういえば今朝のスケジュール確認で、ROJIが言っていた。
「わたしの真似をしないでっ!パパをバカにするのも許さないから!それにパパが帰ってくるなら、このことをきっちり話させてもらうから覚悟しなさい!」
そう言うわたしに、まだ反抗するのかとRARAは冷めた目をしてこちらを見る。
「あぁー、まだ反抗するのねぇ。いい加減うるさいし、諦めてあたしに蓮見花音の立場をくれればいいんだよ!」
「パパはわたしのこと溺愛してくれてるし気づいてくれる!それに万が一があっても頭にチップがないことは分かるから、わたしが花音だってすぐに分かってくれる!」
RARAの気迫に押されながらそう答えると、あぁ、へぇ~と不気味な笑顔をRARAは浮かべた。
「まぁいいや、あんたの好きにしたらいいよ。どうせ気づかないだろうけどねぇ」
そう言って、用は済んだから帰れと部屋を追い出された。
さっきの会話でRARAが好きにしていいと言ったということは、邪魔はしないということなのだろうかと、考えながら、もはや慣れた自分の就寝場所へと戻って行った。
次の朝、いつも通り朝のスケジュール確認が終わり朝食を食べ終わったあと、MIAに指示された2階廊下の掃除に向かっていた時、玄関の扉が開いて父が帰ってきたのが遠目に見えた。掃除道具を放り出して向かったが、すでに他のアンドロイドが出迎えて、父はリビングへと入っていった。
後を追いかけてリビングに入るとそこには、父とRARAが楽しそうに会話をしていた。父はわたしが入ってきたことに気づくと、声をかけてきた。
「やあ、初めまして。RARAという名前をもらったそうだね。これから家のことを頼むよ」
そう話すとまたRARAに向き直って会話を再開した。
わたしは気づいてもらえなかったショックで心が痛み、気づけば父に顔を近づけていた。
「パパっ!よく見て、わたし花音だよ分かるでしょ?そこにいるのはRARAっていうアンドロイドなの!分かるよね?!」
わたしがすごい剣幕で話したからか、父は体ごと少し椅子を後ろに動かして下がった。
「あぁ、花音に似てかわいいなRARAは」
わかってなさそうな返事をしたあとRARAの方を見て、コソコソと話しかける。
「RARAってこういう性格の機体なのか?花音と違ってすごい荒々しい感じだな」
RARAはその返事をわざとわたしに聞こえるように、ちらりとこちらに視線を向ける。
「そうなんだよね。なんか仕事の覚えもものすごく悪いみたいで、MIAに教育されているのをよく見るよ。ちゃんとチップに家庭用アンドロイドの基本動作インストールされてるのかな?それにさっきみたいに、わたしが花音だみたいな虚言癖とか嘘つくこととか多いみたい」
「それはアンドロイド個々に性格の個体差があるからなんとも言えないけど、ちょっと酷そうか?」
「うん、MIAからも1度修理かけた方がいいんじゃないかって言われてるから、工場に修理出してもいい?あ、わたしがMIA達と連れていくから、工場に着いたら作業用アンドロイドを1体つけてくれると嬉しいな」
「あー、修理とはいえ危険だから作業用アンドロイドに任せたら離れてみてるんだぞ?」
「うんっ!自分で1回やって見たかったから楽しみ!」
そんな会話を父とRARAはしていたが、父に分かってもらえなかったことのショックで、わたしには聞こえていなかった。
気づいたら父とRARAはリビングにいなくて、どうにかわたしが花音だよと気づいてもらうために父を探したが、途中MIAに見つかり、仕事を終えていないことを注意されて叩かれ電気が体を流れた。結局仕事を終えて夜になってから、父の寝室に向かったが、RARAに邪魔されて会話ができなかった。
翌日、ROJIがスケジュール確認をしているとわたしの番になった時に、今日は朝食を食べたら玄関にいるようにと言われた。もしかしたら新しい仕事でも教えられるだろうかと思いつつ向かうとそこには、RARAと家のアンドロイド3体がいた。
怪しみながら近づくとアンドロイドに体を拘束される。突然のことに動けず、そのままどこかへと運ばれそうになった時、こちらへと声をかける者がいた。
「花音様。お取り込み中大変申し訳ございません。先程旦那様より、RARAの仕事について聞きたい事があるとのお電話がありまして、少しRARAをお借りしてもよろしいでしょうか」
こちらへ声をかけたMIAは、わたしをちらりと見ながら話す。
RARAは少し考える仕草をした後、無視して強行に及ぶと何か疑われるかもしれないと思ったのか、拘束していたアンドロイドに指示をして手を離させた。
その後、歩き出したMIAに続いて歩いていくと、ドアを開けて部屋の1つに入ったので、追って部屋に入る。
そこには先に入ったMIAだけでなく、ROJIもいて、来るまで部屋で待機していたようだった。
部屋に入ってドアを閉めたRARAは、こちらに向きななおる。
「確証はないけれど、1つ確認させてもらいます」
そう言ってわたしの目を見つめる。
「私にむかって、話すなと言ってもらえますか」
戸惑ったが、真剣なその目に頷いてわたしは、MIAにむかって話すなと命じる。
それを聞き届けたMIAは何か話そうとしたのか、何度かパクパクと口を動かした後、ROJIを見て頷きあっていた。ROJIからMIAへ話して良いとご命令いただけますかと言われ、今度はそのように命令をすると、MIAとROJIはこちらへ向かって深々とお辞儀をした。
「花音様。この度は私共の間違えにより、不適切な行動言動、ご不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ございませんでした」
その言葉を聞いた瞬間、戸惑いとついに分かって貰えたのかという喜びが心の中で渦巻いた。怒りもあったが、幼い頃から一緒にいた2体だ。こんなに頭を下げられて真摯に謝られたら怒りはすぐになくなった。わたしは頭をあげるのを見届けてから話しかけた。
「ど、どうして、わたしが花音だって分かってくれたの?」
「疑問に思ったのは、旦那様と会話なされた時です。いつもRARAは、あたしが蓮見花音だと言って仕事をさぼる言い訳のように言っていましたが、あの時は旦那様に掴みかかる勢いで必死の形相で話していました。仕事さぼるどうこうの言い訳の会話ではなく、分かってもらうための必死さだと感じました」
「その話をMIAさんから聞いて、その疑問を解決するならばと思いついたのが先程の命令です。ご存知の通りこの受信機はご主人様からの命令しか受けつけません。なので、受信機が命令を受けつければ、あなた様が本当に花音様かどうか証明できると思い行動したということでございます。」
そう言うと再度頭を下げた。
「ありがとうっ!分かってくれて本当にありがとうっ!」
わたしは涙を流してMIAとROJIに感謝した。それから涙も落ち着いたあと、2体は深刻そうな顔でこちらに話す。
「皆もRARAに騙されていますので、間違いを正さねばなりません。皆を集めて説明しましょう。その時、花音様にしか分からない質問をいたしますがよろしいでしょうか?」
わたしがうなづいたのを確認した後、家のアンドロイドを集めるべく部屋の外に出た。
向かう途中、そういえば命令ってしたことないねと話すと、ご主人様方は滅多にご命令されることがないので、皆は自分で考えて行動することが多くて、他のアンドロイドよりも頭が良いかも知れませんねと苦笑いを浮かべた。
それから家で働く他のアンドロイド全員を集め、RARAの待つ玄関へと向かった。
RARAが待つことになったのは少しの時間だったが、待たされたのが長く感じたのか少しイライラしながらこちらを見た。
「MIA、戻ってくるの遅くない?というか、なんでみんな集まってるの?」
その言葉に対して冷静にMIAは告げる。
「あなたにMIAと呼び捨てで呼ばれる筋合いはありませんよRARA」
その言葉にRARAは少し顔を怒らせる。
「わたしはRARAじゃないんだけど?ついに働きすぎてMIAおかしくなっちゃったのかな?」
「いえ正常ですよ。あなたがどうしても違うと言うならば、少し質問しましょう。花音様であるならば答えられるはずです」
「はぁ?質問って...まあいいよ。それで証明できるならね。わたしは花音だから答えられるしね」
一瞬訝しげそうにMIAを見たが、まあ大丈夫だろうという表情で答えた。
「では質問を始めます。全部で3つです。1つ目、花音様のご友人は2名いらっしゃいますが、なんというお名前でしょうか?」
MIAがこちらへも視線をなげかけてきたので、わたしもRARAと共に答える。
「佐藤小春と菊池葉月だよ」「佐藤小春と菊池葉月だね」
名前を答えると、正解というようにうなづいた。
なぜわたしも答えているのかとRARAがこちらを見てきたが、この機会が皆に改めて認識させるのにちょうどいいと思ったのか、ニヤリと笑った。
「続いての質問です。先週、佐藤小春様と遊びに行かれた際、お昼すぎに召し上がられたものは何でしたか?」
あの時たしか食べたのは..あれだ。日付がたちすぎて忘れかけていたが、あの日からまだ麺類を食べてないのでうっすら覚えていた。
「たしか、カルボナーラとバジル系のパスタ」「パスタでしょ?」
危なげながらも答えられたわたしとは違って、RARAは大まかな回答で疑問形だった。内容まで答えたわたしに向かって騒ぐ。
「そこまで正確に言うの?!だったらちゃんと答えたのに!初めから言ってよ!」
憤慨したRARAを他所に、MIAは最後の質問をする。
「遊んだ帰りに佐藤小春様と次の遊ぶ約束をしましたが、それは8月1日でしょうか?」
その質問にRARAは、勝ち誇った目でこちらを見ながら、わたしよりも早く大きな声で答えた。
「そうだよ!その日に遊ぼうって約束したの!」
その声を聞きつつ、MIAはこちらへと目線をよこす。
わたしはそのMIAの目を見て、堂々とした声で答える。
「違うよ。遊ぶ約束はしたけど、日にちは決めてない」
「はい、その通りです。その日花音様から私とROJIは直接聞いたので間違いありません」
MIAとROJIはこちらを見ながら微笑む。その光景を見たRARAは怒りだした。
「は、はぁ?わたしを騙したの?ご主人様にこんな仕打ちしていいわけないでしょ!それに間違ったのは先週のことで、忘れかけてたからだし!」
「では私に向かって、話すなと命令をしてみてください」
「な、何?わたしがなんで従わなくちゃいけないわけ?」
さすがにそれをしたらバレると思ったのだろう、RARAが焦っている。しかし、命令をしないことで周りを囲むアンドロイド達からの怪しむ視線に耐えきれなくなり、ついに折れた。
「.....MIA。話すな」
だがその命令は主人からのものではないので受信されず、MIAが普通に話せてしまったことで、ついに入れ替わりが発覚した。
RARAと入れ替わっていた時、わたしに汚れ仕事の雑用を押し付けていた3体からは、頭が床に届くんじゃないかというくらいに下げられ、ものすごい謝罪された。後で教育し直すとROJIがぼそっと言っていたのが聞こえた気がした。
わたしはMIAとMAKOと共に自室へ行き、受信機を外し服を着替えた。
その間別の部屋では、RARAへ他のアンドロイドから暴力はなかったが責められる声が響いていた。
着替え終わったわたしがその部屋に入ると静かになったので、そのままとりあえずは解散ということで仕事へと戻ってもらった。
RARAへは怒りがあったが、同時に同情じみたものが心にあった。前にRARA言っていたことで考えさせられたのだ。
『生まれ方が違うだけで、製造番号も受信機もなかったらさぁ、人間なのにって』
その言葉が心に残り続けていた。
翌日、家に帰ってきた父とテレビ電話を繋いだ母との3人で今回のことを話した。内容は入れ替わり未遂として、実際に入れ替わっていたことは隠して話したが。
真剣に話し合い、両親からも同意を取れたので、早速実行していった。
まずは、家で働くアンドロイド達の受信機を外して、生体用クリームで製造番号を消し、頭のチップも1人1人取り除いた。管理用マザーボードと携帯型管理用デバイスも破棄した。
次に皆に戸籍を用意した。ここがいちばん難しいと思ったが、母がささっとやってのけたのだ。
初めて知ったのだが、母の本当の仕事は、政府から指示を受けて動く他国へのスパイ活動だったそうだ。聞かされた時びっくりしたが、父も驚いていたので今まで知らなかったのだろう。裏のつてをつかってぱぱっと用意したらしい。
そう、今やってたことは家のアンドロイド達をアンドロイド扱いするのではなく、人間として扱うということ。ただの偽善だが、蓮見家のアンドロイド達だけでも人間として生きてもらおうとしたのだ。
工場で作っている他のアンドロイドには手をつけない。わたし達にも生活があるのでお金は稼ぐ。本当に偽善だ。
あの後仲直りした、人一倍人間に憧れたRARAは、蓮見蘭々と名を変えわたしの妹となった。
MIA達他の者達は本人たちの意思で、今まで通りメイドという立場でおさまった。戸籍はもちろんそれぞれに新たな苗字と名前が与えられて、皆人間として生活できることに戸惑いとこれからの人生への更なる期待で溢れていた。
それから今まで望まれたらその都度渡していたお金を、きちんと給料として払うようにし、住み込みではなくアパートなどを借りて通いで働きたいと言うものには、住む場所を一緒に探したりなどした。
翌日には家の中が以前よりもまして賑やかになったと言うべきか、さらに明るくなった。それは数日経つごとにまし、メイドたちとももっと仲良くなった気がする。
今もそうだが元MIA、現 野口美彩とも前よりも親しくなり、姉感が増した。
「正解です、よくできましたね。次はこの問題ができたら、花音様の好きな頭なでなでしてあげますね」
「むぅー、今してくれてもいいのにー」
ふふふと朗らかに笑う美彩を、頬をふくらませながら返す。
そんな光景を少し開いたドアの隙間から、蘭々が見ているのに気がついた。
「蘭々もこっちおいで。一緒に勉強しよう?」
「い、嫌だよ!勉強嫌いだもん」
逃げようとするその腕を掴んでわたしの隣に座らせると、美彩に一緒に勉強を見てもらうことにした。
今は蘭々もわたしと一緒の学校に通っている。転校してきたという設定で、偶然かわたしのクラスにはいった。母の力はすさまじい。
そんな蘭々は、運動神経はすごくよく学年で上位に入る程なのだが、逆に勉強は赤点ギリギリだ。なのでよくこうやって、美彩に一緒に教えられながら勉強をしている。
「ここはこう解くのですよ。こっちの問題もやってみましょうね蘭々様?」
「お、お姉ちゃん、美彩さんが難しい問題ばっかり教えてくるんだけど!どうにかしてよー!」
「いや、ここ昨日学校で習ったところでしょ。ノート見返したりした?」
すっかり大人しくなったというか、かわいくなった蘭々は、わたしにべったりになった。学校でも家でもいつもわたしのそばに居ようとして着いてくる。勉強は嫌いだからその時だけは逃げるけども。
「ほら、私も見てあげるから」
涙目の蘭々の頭を撫でて、美彩と一緒に勉強を見てあげた。
勉強が終わって、美彩は夕食作りへと蘭々は庭にランニングしに部屋を出ていった。
あの提案をした父と母を交えた家族会議から、本当に色々家の中が変わったなぁとしみじみ思う。今はいい事ばかりだが、いつか苦労することも出てくるのだろう。でもその時はまたみんなで話し合って解決して行けたらいいな。
そう考えていると、思ったよりも時間が経っていたようで、蘭々が部屋に戻ってきた。夏の暑い中ランニングしていたその体からは汗が流れ、着ているものをびしょびしょに濡らしている。蘭々の部屋は隣なので着替えるならばわたしの部屋に来ないはずだが、それはわたしの事情を知っているから、着替えずにこのまま来たのである。
「今日もいい?」
「ほ、本当にお姉ちゃんは変態なんだから...いいけど..」
蘭々は顔を赤らめて恥ずかしそうに、大量の汗を吸った服を脱いでいく。
わたしはあの事件があってから、他人の着ていた服に興奮するようになってしまっていた。特に蘭々の服に。
「脱いだから..ちょ、ちょっと、お姉ちゃんの服も早くちょうだい!」
わたしも着ているものを全部脱いで、蘭々に渡す。
さっきまで着ていた蘭々の服を手に取って匂いを嗅ぐと、蘭々の少し甘い体臭と汗のつんとする匂いが混ざりあっていて興奮した。
「臭いんだから、そんなに嗅がないで...」
「恥ずかしがらなくても、いい匂いだよ」
恥ずかしそうな声でそう言う蘭々も、わたしの服を手に取って匂いを嗅いでいた。何度も同じことをしているうちに蘭々も同じことに興奮するようになってしまっていた。
びしょびしょの衣類は、蘭々に包まれているようで安心もする。
お互いの服を着終えると、手を繋いで夕食を食べに部屋を出た。
嬉しそうに楽しそうに笑う2人は、これからの毎日に希望を持つようにとても幸せそうであった。
ーー[完]ーー