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「うへぇ、ただいまぁー」

今日は仕事が長引き、2時間の残業。くたくたに疲れた体は、お酒とご飯が欲しいと訴えかけてくる。

ドアを開けてリビングに入ると、モコモコのパジャマを着た妹がソファに座ってアイスを食べながらテレビを見ていた。

「あ、おかえりー。夕ご飯テーブルの上に置いてるよ」

「ありがとうー、お腹減ったから先に食べよっと」

今日の夕飯のメインはメンチカツのようだ。味噌汁を温め直している間に冷蔵庫から缶チューハイを取りだしてあける。

「んぐんぐっ、ぷはぁ、んー疲れた体に染みるねぇー」

「お姉ちゃんまた飲みすぎないでよ?その辺に寝て風邪ひいても知らないんだからね」

ちらりとこちらに視線をよこした妹は、まだ1杯目を飲み始めたわたしに言う。

「仕事終わりに飲むこのおいしさは、大人じゃないとわからんよね」

わっはっはと笑うわたしに妹はため息を着く。

「そりゃまだ高校生ですからね。お姉ちゃんと違って」

「おうおう、若さアピールかぁ?遥よ若さ分けておくれ」

わたしの頬を妹の頬にスリスリすると、すぐに引き剥がされた。

「お姉ちゃんだってまだ23じゃん。充分若いのに何言ってんの。てか味噌汁大丈夫?」

あ、やべっと、鍋を見るとぐつぐつに煮えていてめちゃくちゃ熱そうだった。


味噌汁をよそって、夕ご飯を食べる。まずは野菜からとメンチカツに添えてある千切りキャベツから食べた。何かで、野菜から先に食べると吸収が遅くなるだかなんだかを見た以来、野菜から先に食べることにしている。メンチカツを食べながら妹の遥に話しかける。

「そういえば遥さぁ、とりあえず卒業するまでうちから通うって言ってたけど、別に卒業してからも居ていいからね」

「んー、まぁ考えとくね。てかまだ1年だし先の話だけどね」

ずずずと味噌汁を飲みながら、ちらりとカレンダーを見る。

現在マンション一人暮らしのわたし田中愛莉は、遥が来た日を思い出していた。

中学を卒業した遥は、高校を地元ではなく憧れた都会に決めた。偏差値の高い高校だったが見事合格。努力が実ったのだろうそこまでは良かったのだが、実家は田舎にあって通えない。しかし学生の一人暮らしは危険と両親が判断して、都会に出て仕事している姉のわたしの所ならばと提案されたのだ。わたしも妹が初めての都会で、一人暮らしはどうかと心配していたので引き受けた。

そうして一緒に暮らし始めてからは、妹の方が早く家に帰ってくるため、今日のようにこうして料理を作ってくれている。


正直言えば、妹に負担をかけたくないので私もできることをして分担して家事とかをしているのだが、考えることは姉妹一緒だ。

食べ終わり、食器を片付けながらちらりとテレビを見ると、新しい家庭用アンドロイドのCMがやっていた。

「へー、新しいのまた出るんだ」

「だね、出る度にどんどん人間に近くなってるよね。今度のは見た目中学生くらいかー」

最近はやりの1家に1体家庭用アンドロイドって広告はよく街中でも見る。まあ、わざわざ広告を見なくてもあちこちにアンドロイドは歩いているが。

今や色々なところで活躍しているアンドロイドは、スーパーのレジやらバスの運転手やら人間に代わって働いている。もちろんそれは人手不足解消のために使っているのであって、人間もちゃんと働いている。

相性もそれぞれなので、人間と同じように接する人もいれば、アンドロイドに対して差別的な人間もいる。それこそ昔は全身機械のいかにもアンドロイドですの見た目だったらしいのだが、今は幾人かから採取したDNAを組み合わせて作っているからすごいものだ。人工的な人間?を作ってアンドロイドにしているらしい。難しいことはわからん。


広告の謳い文句の通り、いるとかなり生活にゆとりが生まれるらしい。同僚の実家にもいるらしくて、家族のように一緒に過ごしているとよく聞かされる。

わたしも家事が楽になるなら欲しいことは欲しいが、妹がなぁ。

「なんで皆アンドロイドなんかに頼ろうとするのかな。自分のことは自分でやった方が身のためになるのに」

そう妹はアンドロイド反対派だ。もっともらしい理由で反対しているが実の所、作られた存在なのに人間に似ているのが不気味で気持ち悪いのだそうだ。

分からなくもないが、結局は人間だって男女から生まれたDNAが合わさって生まれた存在だ。生まれ方は違えど、人間でいいのではとわたしは思ってしまう。

そんなことを思いながら、お風呂に入ってパジャマに着替える。その後も少し雑談して、おやすみーと、それぞれの部屋へと入って寝た。


次の日、ベーコンのいい香りが漂ってきたいつもと同じタイミングで起きて、顔を洗ってリビングに行く。

「おはよー」

「おはようお姉ちゃん。もうすぐでできるから、テレビでも見てて」

朝も料理を作ってくれている遥に挨拶をして、できあがるまでテレビを見ることにする。今日の天気は晴れだ。あとは特に重要なニュースは無いな。

「できたよー、食べよ」

作り終わった料理を並べながらこちらへ話しかけてくる。

「ありがとー、いただきます」

「いただきます」

朝食を食べながら先程見たテレビのたわいもない話をする。

「今日晴れだって。雨降んなくてよかったね」

「えー、晴れるとか最悪。今日の体育水泳なんだけど」

運動が苦手な上に、その中でも水泳が嫌いな遥は愚痴をこぼす。遥の通う高校は室内プールではないので、雨が降れば水泳はキャンセルになるのだが、あいにく今日は晴れだ。

それは残念だねと笑いながら、食べ終わった食器を2人分洗って、出勤の準備をする。準備が終わって玄関に行くと遥もちょうど靴を履いていた。いつもだいたい同じ時間くらいに出るので被ることが多い。

今日も一緒に歩いて、途中で行く方向が違うのでそこで別れた。


会社に着くと、席が隣の同僚の佐藤さんが来ていた。

「おはよー、今日早いね」

パソコンを立ち上げながら挨拶をする。

「おはよう。家のアンドロイドがね、今日めっちゃ早く起きちゃったみたいでさ。話しよって起こされちゃってね」

かわいいからいいんだけどねーと、メールをチェックしながら話す。

「やっぱり欲しいなー、アンドロイド」

「まあちょっと高いからね、でも買ってみる価値はあると思うよ。めっちゃくちゃ癒される」

幸せそうな同僚を見てると俄然欲しくなる。まあ、新しいのが出たばかりだから少ししたら、前の型が安く売られるかなと、その時買おうと思いながら、仕事を始めた。


仕事が終わって、今日の夜ご飯何かなと考えながら自宅へと歩いていると、路地の隅でうずくまっている人を発見した。いつも通るこの道は街灯が多い方なので、あたりは暗くなっていたが見つけることができた。

他に周りには人がいないようだと、心配になって近づいてみる。

「あのー、大丈夫ですか?起き上がれますか?」

「はぁはぁ...うぅ..」

腕に触れた手が熱を感じ、風邪か何かで体温が上がっているようだった。

救急車を呼ぼうと携帯電話をだして番号を押そうとすると、その女性に手を掴まれてフルフルと首を横にふられた。どうやら呼ばれたくない事情か何かあるらしい。

そう考えると同時に、その顔がわたしの顔と似ているという事実に驚いた。まあそれはこの際置いておこう。

とりあえずこのままにしては置けないので、ここから家が近いので背負っていくことにした。

それには反対することなく、すんなり背に乗ってくれた。とはいえ同じ体格の女性を背負うのは大変で、その歩みは牛歩だったといっておこう。


家に着くとすぐに遥を呼んだ。

「ちょ、ちょっとどういう状態?!この人死にかけなのっ?」

「縁起でもないこと言わんでよ。後で説明するからリビングにお客様用布団敷いてくれる?寝かせるから」

布団を敷いて、お粥と風邪薬を飲ませると、その女性はぐっすりと眠りに入った。


「で、どういう状況でこの人を連れてくることになったの?」

眠るのを確認した後、こちらに視線を寄越す。

こうなった経緯を説明をするが、わたしもどういった状況であの場に倒れてたのかも、名前すらも分からない。

「えー!じゃあ素性のわからない人を勝手に連れてきたってこと?!無視して救急車呼んだら良かったんじゃないの?」

「いやー、なんか呼ばれたくない事情があるんでしょ。ほっとけないじゃんか」

だからって怪しい人連れ込まないでよと怒られたが、こんなに体調の悪そうな人をさすがに叩き起して追い出しはしなかった。

その日はわたしがその女性の近くで寝て、遥には自室で寝てもらうことにした。


翌朝いつもより早く目が覚めて隣を見ると、女性も目を覚ましたようだった。フローリングに布団を敷いただけじゃ中々寝付けなかったのかもしれない。

「えぇーと、おはようございます。昨日のこと覚えてます?」

「お、おはようございます!はい!...朧気ながらですけど..」

弱々しく感じるその声を聞きながら、布団を畳んで片付け始める。

どうしてあそこに倒れていたのかすぐに聞きたかったが、まずはご飯が先だ。ご飯を作り終わるタイミングで遥が起きてきたので、3人でご飯を食べた。まだ少し熱があるようなので薬も飲ませる。

「とりあえず、背格好わたしと同じくらいだし、お風呂上がったらこれに着替えてね」

部屋着と買ったばかりの下着を渡してお風呂手前の洗面所に案内した。

その間に、今日はお休みをいただく旨を会社に連絡する。突然の休みだったが、課長は笑いながら許可してくれた。優しい上司である。


そしてお風呂から上がってきた女性へ質問が始まった。

彼女の名前はYUKIといい、着ていた服である程度察していたが、彼女はアンドロイドだったようだ。しかもセクサロイドと呼ばれるタイプ。彼女いわく、キャバクラ務めでそういうことはしたこと無いのだそうだが。さっきまで着ていた服は胸元が見える大胆な赤色のドレスで、ドレスの一部に‪”‬kmr-13069‪”‬と入っていた。

そこの店の関係者が主人ではないらしく、無理やり連れていかれて働かされていたそうなのだ。働いているアンドロイドは皆強引に拉致されて連れてこられているようで、自ら望んで働いている者はいないそうだ。

おどおど話す彼女を見ているとなんだか、やるせない気持ちになった。

太ももにあるはずの製造番号が見えなかったのは、隠して逃げていたから仕方ないが、首の受信機はどうしたのかと聞くと、逃げ出す時に転んで壊れたのだそうだ。それくらいで壊れるなんて余程扱いが悪かったらしい。

そこまで言うとYUKIはまだ疲れが取れていないのか、うとうとし始めてきたので寝かせてあげることにした。


一緒に聞いていた遥は学校があるので、YUKIが寝ると学校へと向かった。

一方わたしは、全てを聞いた上で無視とかできるたちではないので、警察へと連絡することに決めた。だが番号を押している最中に、電話越しできちんと聞いてもらえるだろうかと不安になり、警察署に直接言って詳しい話をしようと考え直した。

出かける準備が終わると、小さな声でYUKIに行ってきますと言って外に出た。

近くの警察署は都内にあるだけあってかなりでかいので、遠くからでも目立つ。もうすぐでつきそうだと思ったところで、左の路地から伸びてきた手に掴まれて引きずり込まれ、ふわっと甘い香りがしたかと思ったら気を失ってしまった。


体をゆする感覚があって目を覚ますと、ロッカーが立ち並ぶ見覚えのない部屋でソファに寝かされていた。起き上がると目の前にわたしをゆすっていたであろう、サングラスをかけた高そうなスーツを着た男性がこちらを見下ろしていた。

「おい、どこに逃げちまったかと思ったじゃねぇか。近くにいて助かったぜ」

はあっと、少しいらただしげに話す。

「こ、ここはどこですか?何の目的でわたしを...」

知らない所で危なそうな人が目の前にいるが、頭は冷静だった。

「ああ?逃げてる最中にでも頭ぶつけたか?いや受信機取れてたからそれのせいか?まあいい、まったくぶっ壊しやがって。新しいの付けたから、その分もきっちり働いてもらうからな!もう逃げ出そうと思うんじゃねぇぞ!」

受信機付けたってと首を触ると硬い感触がした。なんだか分からないが誰かと間違えているのだろうか。

「あ、あの、誰かと間違えていませんか?わたしアンドロイドじゃないんですけど..?」

「本当にイカレやがったのか?お前はYUKIだろうが。うちで働かせてやってるんだから、しっかりしろや!」

「うぐっ..!」

そう言うと、警棒みたいなものでお腹を強く叩かれた。

痛くて床にうずくまると、男はニヤリと笑った。

「逆らうとどうなるか思い出したか?もう仕事の時間だ。早く着替えてお客様のテーブルにいけ!」

お腹をおさえる手ごとお腹を蹴ると、部屋を出ていった。

「うぅ、はぁはぁ、なんなの本当に。わたしのことYUKIって言ってたけど」

脂汗を流しながら立ち上がると、一旦ソファに座って息を整える。心拍が収まってきたところで先程言われたことを考えた。

まずわたしのことをYUKIというアンドロイドと勘違いしていること。ここは何らかの働く場所であるということ。そして他に働いているアンドロイドがいるような感じがあるが、逆らうと暴力や暴言をはれるということ。

そこまで考えて、ここが今家にいるYUKIがいた所なのだと思い至った。あの感じからすると、他のアンドロイド達も皆暴力などで心が支配されてしまっているのだろう。

あの時YUKIが救急車を呼んでほしくなさそうにしていたのは、万が一見つかったら暴力を振るわれると思ったからではなかろうか。


とりあえずこの場所を逃げ出して周りの人に助けを求めたいが、ここがどこなのかすら分からない。下手に動くとまた暴力を振るわれる可能性もあるので、とりあえず着替えることにした。

周りを見渡すと1つのロッカーにYUKIと名前が入っているものを発見した。おそらくこのロッカーがそうだろう。

開けると香水の匂いがほのかに香る。中にはYUKIが着ていたあの赤いドレスとハイヒールとストッキング、そして何故か黒い下着も入っている。下着も身につけなければならないのだろうか?

このままじっとしていても仕方が無いので、今着ているものを全て脱いで、黒い下着に手をかける。

男があの態度だったからああと思ったが、アンドロイドの子達は寝る場所もぎゅうぎゅうで、おそらく毎日洗濯させてもらえるわけじゃないんだろう。履こうと手に取ったショーツは全体的に汚れていて、毛はついてるしアンモニア臭もする。ブラは毛玉だらけで若干湿っていた。ストッキングなんてそれはもう酷い匂いだった。

顔をしかめながら勢いで下着もストッキングもつけて、赤いドレスを着た。そして最後にハイヒールをはく。

他人の着ていたものを身につけているので、不快感しかないが仕方ない。着た衣類からふわっと十分香水が香ってくるので、ロッカーに入っていた香水はつけなくていいだろう。

全て身につけ終わったわたしは、ふぅっと息を吐いて覚悟を決めた。従ってるふりをして策を考えよう。


部屋を出るとたくさんの長い赤いソファや高そうなテーブル、シャンデリアなどの高級そうな内装と、そのソファに座って会話しているアンドロイド達と客が目に入った。

立ち止まって見まわしていると、先程とは違ういかつい男に顎でクイッとテーブルの1つをさされた。そこに行けということだろう。

さされたテーブルに向かうと、スーツを身にまとい、高そうな腕時計をした小太りの男性と、わたしが今着ているドレスと色違いの黄色のドレスを着たアンドロイドが座っていた。

「おお!またかわいい子だね!おいでおいで!」

男性はそう言うと、わたしの手を掴んで引っぱり隣に座らせた。その手は汗ばんでいて気持ち悪い。よく見れば手だけではなく全身汗をかいているようだ。

目立った行動をすれば動きにくくなるので、今すぐにでも手を拭きたい気持ちを我慢して、とりあえずこの店から出られそうなところを目で見て探す。しかしこの店の実態を知らない男性は、そんなことお構いなしに普通に声をかけてくる。

「君、なんて言う名前なの?」

「え、えっと...YUKIです」

自分の名前を言うわけにもいかず、わたしが間違えられたYUKIの名前を言う。

本当はこの男性に助けを求めたいが、人間だと説明しようとしても、首輪型受信機もついているし、セクサロイド用のドレスも着ているしでアンドロイドに見えてしまい、冗談を言っているようにしか聞こえないだろう。

本来アンドロイドにある製造番号が太ももにないので、それを見せればまだ話は通じそうではあるが、店のいたる所にあの男達がいるので、迂闊にそんなことも出来ない。

そうわたしが考えていることを知らず、YUKIという名前を聞いた小太りの男性は嬉しそうに肩を組んできた。

「そうかYUKIちゃんか!かわいいから何か頼んでもいいよ」

そんなご機嫌そうな男性に苦笑いをしていると、男性を挟んだ反対側から声がする。

「えー、YUKIちゃんばっかりずるいよー!わたしもいいでしょー?ね?おねがーい」

「かわいいなぁ。もちろんいいよ!ほら、頼みな!」

「やったー!ありがとー!」

このテーブルにいるもう1体のアンドロイドが、媚びた声でおねだりをしていた。

その仕草や表情は、脅されて働かされているとは思えないほどのものだった。声も特に震えていたりすることもなく違和感などない。

おそらく、暴力などでこれ以上傷つけられないように、身を守るために身につけたものと思われた。


そうこうしていると、小太りの男性が肩にまわしていた手をどけるのと同時に、今度は太ももを触ってきた。

「っ!? や、やめてください!」

太ももを撫でまわす手が気持ち悪すぎて避けると、男性は怒った表情をした。

「あ"?アンドロイドのくせに避けんなよ!別にいいだろうが!こっちは金払ってんだぞ!」

突然の怒りの声にビクッとなり、体が強ばった。店の男達も騒ぎに気づいたようで、1人が近づいてくる。

しまった騒ぎを起こしてしまった。このままだと裏に連れていかれて暴力を受けることになるだろう。

その恐怖心がわき上がり、ぶるぶると震えていると、店にある1つのドア付近が騒がしくなった。そしてドアが勢いよく開くと大きな声が聞こえた。

「警察だ!全員指示があるまでその場を動くな!」

その声と共にアンドロイド達が動かなくなった。これは警察にある特例権限によるものだ。本来主人の命令しか聞かないアンドロイドだが、捜査上事件解決に協力してもらわなければいけないことがあるため、主人と同等の権限が警察になった時に渡される警察手帳に組み込まれるようになっている。

突然の出来事に周りは驚きと叫ぶ声が響き渡ったが、わたしは警察が来てくれたことに安堵して、座っているソファにぐでっと体を預けた。


この場で逃げ出そうと動いたのは、黒いスーツの男達と客と思われる一部の人達だが、直ぐに取り押さえられた。

「アンドロイド達、ちょっと集まって貰えるかな」

1人の警察官がそう言うと、皆立ち上がってそちらに集まる。

わたしはアンドロイドではないが、こちらにも目線がきているのでそちらへ歩いていく。

紙を持った警察官がその紙とアンドロイドを確認しながら、上司の人と話している。

「やはり間違いないですね」

「ああ、ここにいるアンドロイド達は皆行方不明になっていた者達で間違いなさそうだ」

そんな声が聞こえて、わたしは1人でほっとしていた。警察が来たからにはもうこれ以上不当にこのアンドロイド達が扱われることはない。こんなに直ぐに助けが来るとは思わなかったが、わたし自身も何もされなくてすんだ。

確認が済むと、男達と客は連行されて行った。


そうしてアンドロイド1体1体に事情を聞くと、聴き終わったアンドロイドは警察官とともに元の主人の所へと返されていった。そして最後にわたしの番がきた。

「えっと、君は”‬kmr-13069‪”‬の機体名YUKIで合ってるかな?」

手にした紙を見ながらわたしに問いかける。

「いえわたしは田中愛莉です。ちゃんと人間です。ここから逃げ出したそのYUKIというアンドロイドと間違われたみたいで、誘拐されてここに連れてこられました。この受信機もその時にはめられたみたいで...あ、太もも見てください。製造番号ないですよね?」

「あ、本当にないですね。田中愛莉さんですね分かりました。その首の受信機はアンドロイド生産工場でしか外れないので、後日別の者をつけますので外しに行ってください。こちらで連絡しておきます」

今度は、今質問してきた紙に情報を書いている警察官とは別の警察官が聞いてくる。

「田中さんはYUKIというアンドロイドに見覚えや聞き覚えなどはありませんか?」

「恐らくですけど、今うちで保護しているアンドロイドがYUKIという名前なのでそうなのではないかと思います。昨夜帰宅途中に路地で倒れているのを発見したので保護したんです。熱があったようなのですが救急車を呼ばれたくなかったようなので、家で看病しています」

そうですか、恐らく心の支配による恐怖で呼ぶのをためらったんでしょうねと頷いていた。

ふとYUKIのことで気になったので聞いてみる。

「YUKIも主人の元に帰れるんですよね?」

すると警察官はあーと、言って首を振った。

「情報を見ると、YUKIの主人だった方はご病気だったらしくて、亡くなってしまっているみたいですね。なので国の所有ということになりますね」

まさかの事実に、聞いてみてよかったと思った。

アンドロイドは主人が亡くなって相続されなかったり、手放したりした場合、国によって回収されて国の所有となり、公共事業などの仕事に従事してもらったりしている。

だがある噂によると、40歳をこえたアンドロイドは仕事が遅くなってくるだかで、密かに安楽死させられているというのを耳にしたことがある。

もっとも、主人と共に最期を迎えたいと自ら安楽死を望むケースや、歳をとり主人に手助けしてもらいながら生きる訳にはいかないと安楽死を望むケースが多いらしいが。


「YUKIをこのままわたしの家にいてもらうことってできないですか?」

1度知り合った中だ、最後まで仲良く面倒を見たい。

「そうですね....国の所有となってしまっているので、国から買うことになりますね」

少し考える素振りを見せながらも、笑顔で答えてくれた。

わたしが買う意思を見せると、明日工場に付き添う警察官に必要書類と入金先を記した紙を渡しておくので受け取ってくださいねと言われた。

その後わたしも解放されて店の外に出ると、前から走ってきた遥に抱きしめられた。

「よかった!なんともないよね?!心配かけないでよ!」

顔を赤らめて泣きそうな遥を見ながら、ごめんと謝って、同じく近くに近寄ってきていたYUKIも一緒に抱きしめた。


次の日、キッチンから香る味噌の匂いで目が覚めて、顔を洗ってリビングに行くと、遥とYUKIが仲良さそうに料理をしていた。

調べたところによると、家庭用アンドロイドとセクサロイドの違いは、頭のチップにインストールされているものが違うというだけらしい。早く使用したいという人に向けて目的に合わせて買えるようにしているだけで、基本的に人間と変わらずどちらのタイプも学習していくので、時間をかければ人間にできることは出来ちゃうらしい。


あれだけ不気味だとか言っていた遥だが、YUKIのさすがの境遇に同情したのか、積極的に仲良くなろうとしている。

「YUKIさん、サラダ用にこれ切ってもらってもいい?」

「は、はい、分かりました」

「だから、敬語じゃなくていいの!もっとフレンドリーに!ほら、遥って呼んで?」

「は、はぃ..いや、うん。は、遥ちゃん」

うんうんと満足そうな遥と仲良くなろうと必死のYUKIを見ていると、2人ともこちらに気づいたようだ。

「おはよー、お姉ちゃん」

「お、おはようございます。愛莉さん」

「おはよー2人とも。YUKIちゃん。昨日夜話したけど、遥の言う通りもっとくだけていいからね。これから家族になるんだから」

そうあの後家に帰ってきてからたくさん話し合った。

まず、なぜあのタイミングで警察が来たかと言うと、遥が通報したかららしい。学校から帰ってきたら、リビングで泣きながらウロウロしてたYUKIを見つけた。なんで泣いてたのか聞いたら、起きた時に誰もいなくていつまで経っても誰も帰ってこなくて怖くなったと。

仕事を休んでまで看病に残ったはずのわたしが、そんな何時間も帰ってこないのはおかしいと携帯電話に連絡したが電源が入っておらず通じない。あれこれ嫌な予想をしている時にYUKIからもしかしたらとこの店のことを聞かされて通報にいたったと言うことだった。

警察もアンドロイド行方不明事件で捜査してたのもあって、怪しいとにらんでいた店と遥が通報した店が同じだったので踏み込んだところ当たったということである。


その次に、行く宛てがないならわたしたちと一緒に暮らさないか?ということをYUKIとしっかり話し合って、一緒に住むことに決めた。

アンドロイド扱いするのは嫌なので、家では首の受信機も太ももにある製造番号も隠すようなファッションをしても別に気にしない。今の所は、背格好が同じわたしの服を着てもらっているが、近々YUKIの洋服を買いに3人で出かけようと話してある。

わたしと妹は人間扱いすることにしているが、世間から見ればアンドロイドという区別なので、受信機が壊れて付けていない今の状況は法律違反になってしまう。なので、今日わたしが受信機を外してもらうのと同時にYUKIに受信機を付ける手はずになっている。今日が土曜日でよかった。2日連続でいきなり休みますは周りの目が痛いから。


3人で朝食を食べ終わったタイミングで、インターホンがなった。ちょうど予定通り家に来た警察官とYUKIと共に、工場へと向かった。

パトカーを降りて工場を見ると、高谷工業株式会社と書いてある。そして中からやって来た高谷社長に連れられて、受信機を外してもらい、YUKIにはつけてもらった。

家に着いたタイミングで一緒に同行してくれた警察官から、昨日話していた書類を渡されたので、その日のうちに全部記入して送付し、入金も行った。思ったよりも高かったが、事件被害者ということを考慮してくれたのか、インターネットで見た正規の値段よりかは安かったことだけは言っておこう。その2日後には正式に家族となった。


それから5ヶ月たって、今ではYUKIも今の生活に慣れていつも笑顔だ。

「愛莉ねぇ、あのいちごおいしそうだよ」

「おっ、いいねそれにしよっか」

「あれ?お姉ちゃん、生クリーム安い方でいいよね?」

「思い切って今日は高い方にしちゃう?」

「じゃあ、遥そっちカゴに入れてちょうだい」

「りょーかーい。あ、雪ねぇの好きなメロンパンも入れちゃえ」

YUKIは田中家の次女として収まり、わたしを愛莉ねぇと呼んでくれる。遥ともさらに仲良くなり、今では呼び捨てで名前を呼べる関係となった。遥も雪ねぇと呼んで姉として慕っているようだ。ちなみに雪という名前は人間としての名前だ。さすがに人間としての戸籍は作れないが、せめてわたし達の間ではとつけてあげた。

今日は雪の生まれた日。みんなで作るケーキに、渡すプレゼントも買っている。


実家にも電話で話したが、雪が家族となることに反対はなく、むしろかわいい娘がもう1人増えたと嬉しそうだった。

もうすぐ春休みになるので、近々実家に遊びに行こうと約束している。

まずは今日の誕生日、最高のものにしよう。

メロンパンいるいらないを言い合っている、2人の元に向かうのだった。


父、母、愛莉、雪、遥。田中家5人、わたしたちはずっと家族だ。





ーー[完]ーー


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