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荒唐な賭け

スマホの画面を二人で覗き込んでいた夜更け、リビングには動画の音声だけが軽く響いていた。ショート動画が自動再生で次々と流れ、画面の中の男が妙に自信ありげに語る。


「女なんて結局、肉棒でしか征服されないんだよ。心も体もな。どんなに愛してるって言っても、大きさとテクで簡単に心変わりするんだって」


林雪は陳浩の肩にもたれかかり、動画を指さして吹き出した。


「ねえ、これ見てよ。すごい自信なのに顔はモザイクって」


「声だけで勝ち組気分だな」陳浩もつられて笑い、コメント欄をスクロールしながら「こういうのってさ、広告の導線がうまいんだよ。不安を煽って商品を売るパターンだろ」


「じゃあ検証してみる?」


林雪がいたずらっぽく首をかしげて言うと、陳浩は彼女の鼻を指でつまんだ。


「おまえを実験台にするわけないだろ」


笑い声が重なったその時、画面の上部に見知らぬ通知が滑り込んでくる。アプリのプライベートメッセージだ。アイコンは初期設定のままで、青い背景に白い影。


「動画の主張、検証してみませんか」


差出人は趙磊と名乗っていた。短い文面の下に、口座に入金可能な報酬額が数字で示されている。


「十万って書いてある」


林雪が思わず声を潜めた。陳浩は眉をひそめ、差出人のプロフィールをタップする。投稿はゼロ。フォロワーもゼロ。アカウント作成からまだ数日しか経っていない。


「新手の詐欺か、変態か」


「でもさ、十万だよ」


林雪の声にほんの少しの迷いが混じった。それは欲望というより好奇心で、深夜の退屈をまぎらわす刺激を求める口調だった。


趙磊からの次のメッセージは簡潔だった。条件はこうだ――林雪が彼の住む街でひとり、まるまる一ヶ月を過ごすこと。その間、彼の指示に従い、日常を共にする。一ヶ月後に検証結果を報告する。報酬は契約成立時に全額前払い。


「まるで人体実験じゃないか」陳浩はスマホをソファに伏せて置いた。


「そうだけど」林雪は膝を抱えて笑った。「たかが一ヶ月だよ。ちゃんと写真と動画、毎日送れば問題ないでしょ。それに十万あれば、ずっと計画してた北欧旅行も行けるし、あんたのカメラのレンズも買えるよ」


「でも、相手がどんな人間かもわからないのに」


「正気の人間が十万も出すわけないじゃん」林雪はあっけらかんとしていた。「きっとお金があり余ってる暇な人だよ。変なことされたらすぐ帰ってくるから。飛行機で二時間だし」


陳浩は黙って彼女の横顔を見つめた。付き合い始めて十年以上、幼なじみで、恋人で、夫婦で。お互いの体の隅々まで知り尽くしていて、セックスに隠し事はなかった。そうしたオープンな関係を二人で楽しんできた自負もある。彼が信じているのは、体がどう動こうと、心だけは自分のそばにあるという確信だ。


むしろ、この確信は他人に証明させたいものではなかったか。


「毎日、動画送れよ」


陳浩がため息まじりに言うと、林雪はぱっと顔を輝かせた。


「やっぱりわかってるじゃん」


彼女はすぐに返信を打ち始めた。承諾の旨、到着予定日、一ヶ月という期限。趙磊からはすぐにフライトコードとホテルの予約確認が送られてきた。手配があまりに手際よく、しかも航空券はすでに発券済みだという。まるで最初から承諾を確信していたかのように。


林雪は翌日、小さなスーツケースひとつに衣類を詰めた。ジーンズにカットソー、下着は無難なものを選び、化粧品も最小限にまとめる。陳浩は彼女の後ろ姿を見ながら、何か言おうとしてやめた。


駅のホームは平日の昼下がりにしては人通りが少なかった。新幹線の改札を抜け、二人は柱のそばで立ち止まる。


「行ってくるね」


林雪は軽く手を振った。スーツケースの取っ手を握る手がほんの少し震えているように見えたのは、空調のせいかもしれない。


「ちゃんと飯食えよ。変なもの飲まされるなよ」


「はいはい」


彼女が背伸びをして、陳浩の頬にキスをする。いつもより少し長いキスだった。


「じゃあ、一ヶ月後に」


発車を知らせるメロディが流れ、林雪は振り返らずに車両へ乗り込んだ。ドアが閉まり、窓越しに小さく手を振る彼女の姿がゆっくりと遠ざかっていく。


陳浩はスマホを取り出し、メッセージアプリを開く。林雪とのトーク画面には、昨夜のうちに交わした約束が残っていた。


――毎日、写真と動画を送ること。

――何かあればすぐに連絡すること。

――一ヶ月後、必ず帰ってくること。


彼はポケットにスマホを戻し、改札を出るまでにもう一度だけ振り返った。


ホームにはもう人影はなかった。


初日の接触

新幹線を降りた瞬間、すでに秋の気配を帯びた風が林雪の髪をそっと持ち上げた。大きなキャリーバッグを引きずりながら、彼女は改札口の向こうに立つ男を見つけて、自然と口元がほころぶ。趙磊は濃紺のカシミアコートを肩にかけ、片手をポケットに突っ込んだまま、まるで映画のワンシーンのようにゆったりと微笑んでいた。


「よく来たね、雪。」


低く落ち着いた声が耳に届くと、林雪はなぜか胸の奥がかすかに震えるのを感じた。半年ぶりの再会だ。メッセージのやりとりは絶えなかったが、実際にこうして目の前に立つと、画面越しでは感じられない圧倒的な存在感が彼女を包み込む。


「わざわざ迎えに来てくれてありがとう、磊。」キャリーバッグのハンドルを握りしめたまま、彼女は少しだけ恥ずかしそうにうつむいた。


趙磊は大股で近づき、自然な動作で彼女の手からバッグを受け取ると、空いたほうの手をそっと背中に回した。それはあまりにもスムーズで、拒む隙すら与えない仕草だった。


「荷物は車に置いて、まずは腹ごしらえだ。いい店を見つけてある。その後、ゆっくり街を案内するよ。」


彼が運転する黒いセダンの助手席に座ると、高級なレザーの香りがふわりと漂った。林雪は窓の外を流れる見知らぬ街並みを眺めながら、心の中で小さな期待と緊張がせめぎ合うのを感じていた。陳浩には「友人の趙磊のところへ一ヶ月滞在する」としか伝えていない。本当の契約の内容は、夫には到底言えるものではなかった。


車は繁華街の地下駐車場に滑り込んだ。趙磊は「まずはウインドウショッピングでも」と言いながら、迷うことなく高級ブティックが並ぶ通りへと彼女を導いた。彼の歩調は常に半歩前で、それが不思議な安心感を林雪に与えた。まるで何も考えなくても、この男に従っていれば間違いがないという暗示のように。


店内に入ると、趙磊は店員に目配せするだけで、奥のVIPルームへ通された。ソファに座るよう促され、次々と運ばれてくるドレスや靴、アクセサリーの数々。林雪は戸惑いながらも、彼が真剣に選んでいる横顔を盗み見た。


「磊、こんなに買ってもらうわけには……。」


「遠慮は無用だ。契約期間中、君は俺のものだからな。」


さらりと言われたその言葉に、林雪の心臓がドクリと跳ねた。頭のどこかで「これはただのゲームだ」と自分に言い聞かせながら、それでも彼の差し出すシルクのワンピースを受け取る指先がかすかに震える。


結局、趙磊は気に入ったものを全て購入し、大きな紙袋を提げて店を出た。外はすでに午後の柔らかな光が街をオレンジ色に染め始めている。


「少し歩こうか。」


彼がそう言って、何気なく林雪の左手を取った。


突然のことに、林雪は歩みを止めそうになった。彼の大きな手のひらは乾いていて温かく、指がしっかりと彼女の指の間に絡まる。一瞬、頭が真っ白になり、身体が硬直するのを感じた。街中だ。誰かに見られているかもしれない。陳浩以外の男と手をつなぐなんて、結婚してから一度もなかった。


だが、振りほどくことはしなかった。


「どうした?」


趙磊が振り返り、揺るぎない視線で彼女を見下ろす。その目はすべてを見透かしているようで、拒絶を許さない静かな圧力があった。林雪はかすかに首を振り、小さく息を吐き出すと、逆に自分の指にほんの少し力を込めた。


「……なんでもない。」


答えた声は、思ったよりも落ち着いていた。それどころか、手をつながれていること自体が、じわじわと背筋を這い上がってくるような昂揚感に変わっていく。陳浩とは違う、まったく異質な男の体温。禁じられたことをしているという背徳感が、逆に彼女の歩みを軽やかにさせた。


数十分歩き回り、小さなアクセサリーショップを覗いたり、カフェで一杯のコーヒーを飲んだりしている間も、趙磊は決して手を離さなかった。時折、彼の親指が彼女の手の甲をゆっくりとなぞる。そのたびに林雪は息を詰め、しかし決して不快ではなく、むしろもっと触れてほしいという欲が心の底でチリチリと燃え始めているのを自覚した。


夕闇が完全に街を包む頃、彼は予約していたフレンチレストランへと彼女を導いた。窓際の個室には、すでにキャンドルが灯され、磨かれたグラスが淡い光を反射している。コース料理が運ばれ、ワインが注がれる。趙磊はグラスを軽く掲げ、目を細めた。


「今日という日に乾杯。」


「……乾杯。」


林雪もグラスを合わせると、深紅の液体を口に含んだ。芳醇な香りが鼻腔を抜け、少しだけ頭の芯がふわふわする。趙磊は料理の説明をしながら、時折身を乗り出して彼女の顔にかかった髪を直す。その指先が耳の縁をかすめるたび、林雪は身体の奥がきゅうと疼くのを抑えられなかった。


デザートが運ばれてきたとき、趙磊は突然立ち上がり、彼女の隣の席に移動した。そして何の前触れもなく、右手を彼女の後ろ首に滑り込ませ、そっと引き寄せた。


リップ音が静かな部屋に響く。


頬に触れた彼の唇は、ワインの熱を持っていた。ほんの一瞬の接触だったが、林雪の全身を電流が駆け抜けたような衝撃。心臓が早鐘を打ち、目の前がチカチカした。彼女は反射的に趙磊の顔を見つめ返し、その瞳の奥に揺れる暗い炎に呑み込まれそうになる。


「……磊。」


名前を呼ぶ声が少し掠れた。頭は「いけない」と警鐘を鳴らすのに、身体はすでに次の接触を求めてしまう。陳浩への罪悪感は確かにある。しかしそれを上回る刺激が、彼女の理性をかき消そうとしていた。


趙磊は微笑んだまま、再び顔を近づけてきた。今度は、彼の手が彼女の顎をそっと持ち上げる。林雪は目を閉じることができなかった。自分からわずかに顔を傾け、唇の端が彼の唇をかすめるように動かす。


それは彼女からの同意だった。


「いい子だ。」


耳元で囁かれた低い声に、背筋がゾクリと震える。林雪ははっきりと自覚した。これはゲームなんかじゃない。自分は今、確かにこの男の支配下に置かれ始めているのだと。


一方、陳浩はワンルームのリビングで、スマートフォンを握りしめたままソファに沈み込んでいた。


届いたメッセージは数枚の写真。送り主は趙磊。開く指が震えた。


一枚目は、華やかな通りで手をつないで歩く二人の後ろ姿。見慣れた妻のシルエットが、まったく知らない男のすぐ隣にいる。陳浩は無意識に歯を食いしばり、画面を強く握った。


二枚目は、レストランの薄暗い照明の下。趙磊が林雪の頬に唇を寄せている瞬間。彼女の目はうっすらと閉じられ、まるでそれを受け入れているかのように見えた。


三枚目。角度が変わっている。今度は林雪の横顔が、自分からわずかに唇を寄せているのが克明に写っている。


陳浩は息を呑み、スマホを取り落としそうになった。


「……雪。」


喉の奥から絞り出すような声が漏れる。胸の真ん中がギリギリと締め付けられる。裏切られた。そんなことは百も承知だ。これは自分たちが合意した契約で、彼女は今、他人のものになっている。なのに、想像と現実は違った。写真という形で目の前に突きつけられると、怒りと悲しみが混ざったどす黒い感情が胃の底からこみ上げてくる。


しかし、それと同時に。


陳浩は自分の身体に起きた異変に気づき、苦い笑いを漏らした。ズボンの前がきつくなっている。痛みと興奮が綱引きをするように脳内を掻き乱し、彼の手は無意識にベルトに伸びていた。


「くそ……。」


彼は乱暴にボタンを外し、写真をもう一度見つめながら、自らの欲望を扱き始めた。画面の中の妻は、別の男の唇を受け入れている。陳浩の知らない表情で。それは苦しくて、妬ましくて、なのにそれを想像すると、手の動きは止まらなかった。背徳の快楽が背筋を這い上がり、彼の息は次第に荒くなっていく。


「雪……雪……。」


愛する妻の名を呼びながら、陳浩は暗い部屋でひとり絶頂に達した。その瞬間、目の裏に浮かんだのは、最後に見た写真の林雪のうっとりとした横顔だった。


指を濡らした生温かい感触が、かえって彼を深い自己嫌悪の淵へと突き落とした。


舌先の陥落

夜が明ける頃には、林雪の心は既に奇妙な浮遊感に包まれていた。ベッドの中で目を覚ますと、隣にはまだ深い眠りに落ちている陳浩がいた。彼女は天井を見つめ、昨夜の、あの観覧車の一件が夢ではなかったことを確認していた。趙磊の唇の感触は、まだ消えずに残っている。ほんの少しの薄荷の香りと、彼独特の侵略的な舌が絡みつく感覚。それは陳浩と交わすキスとは全く違っていた。陳浩のキスはいつも慎重で優しく、まるで彼女の許しを請うかのようだった。しかし趙磊のキスは、彼女という存在そのものを一気に飲み込もうとするかのような、後戻りを一切許さない宣言だった。


洗面所に行き、冷水で顔を洗う。鏡の中の自分は、ほんのりと頬が上気しているように見えた。昨夜、遊園地から戻った後、彼女は趙磊に言われるまま、動画を撮影したのだ。たった30秒。観覧車のキスを再現するだけの動画。再び趙磊の舌が口内に侵入してきた時、彼女の体は抗うことも、拒否することも忘れていた。ただレンズ越しに、自分がだらしなく口を開け、男の舌を受け入れている痴態を眺めるしかなかった。撮り終えた動画を陳浩に送信した時、指先は微かに震えていたが、その震えは罪悪感からくるものなのか、それとも別の何かからくるものなのか、自分でもよく分からなかった。


リビングでは、陳浩がすでに起きていて、スマートフォンを手にソファに座っていた。画面の光が彼の顔に落ち、疲れ切った表情を浮かび上がらせている。目の下には深い隈ができ、髪もぼさぼさで、明らかに一晩中眠っていない様子だった。彼はその動画を、もう何度も繰り返し見ていたのだ。


林雪は何か言おうと口を開きかけたが、結局言葉が出なかった。彼女は陳浩の状態がおかしいとは感じていた。しかしそれは、自分を救い上げようとする手を差し伸べるべきか、それとも二度と戻れない場所へと沈んでいく恋人を見つめるかのような、複雑な感情だった。


「雪。」陳浩が口を開いた。声は少し掠れている。「これ、趙磊って奴がお前にキスしてるのか。」


林雪はただ静かに頷いた。


陳浩は動画をもう一度再生した。スピーカーからは唾液が絡み合う水音が流れ、林雪の小さな吐息もはっきりと聞き取れる。彼の指は画面をなぞり、そこに映る林雪のわずかに上気した頬や、趙磊の服の背中をぎゅっと掴む彼女の指先を拡大して見つめた。


「彼の舌…舐めるの、気持ちいい?」陳浩はぽつりと尋ねた。声のトーンは奇妙なほど落ち着いていたが、目は痛々しいほどに熱を帯びている。


林雪はその問いにどう答えていいか分からなかった。彼女はただ陳浩の隣に腰を下ろし、そっと彼の震える手を握った。謝罪の言葉を口にするべきか、それともこれは全てゲームの一部に過ぎないと言うべきか。どちらも適切ではない気がした。


「ゲームは、まだ続けるんだろ?」陳浩はまた言った。彼のもう片方の手は、いつの間にか自分の腿の間を探り、ズボンの上からゆっくりと擦り始めている。「俺、耐えられるよ。雪、お前が楽しんでるなら、それでいいんだ…これが俺の性癖なのかもな。」


その言葉を聞いた瞬間、林雪の胸の奥がぎゅっと締め付けられるように痛んだ。彼女は陳浩の苦しみを感じ取ったが、同時に彼女の心の奥底で何か別の感情が蠢いているのも感じていた。それは、この痛みを伴う被虐的な快感を、自分も共有し始めているという感覚だった。彼女は陳浩により一層寄り添い、その体を抱きしめた。彼女は分かっていた。今夜、自分は間違いなく、また別の動画を陳浩に送ることになるだろう。そしてそれは、昨日よりもさらに過激なものになるに違いない、と。


三日目の夜、趙磊は林雪を自分の高級マンションに連れて行った。そこは街の中心部に位置し、床から天井まである大きな窓からは、街のきらびやかな夜景が一望できる。前回のペントハウスとは趣が異なり、より個人的でプライベートな空間だった。壁の一画には、様々な年代物のワインが整然と並べられ、薄暗い照明が室内の輪郭を際立たせるだけの、独特な雰囲気を醸し出している。趙磊は蝶ネクタイを外し、だらりとソファに座ると、今日も美しく着飾った林雪を、遊び心のある目で見つめた。


林雪は彼の視線の意味を本能的に察した。今日一日中、彼女は動画のこと、キスのことを考えていた。しかし趙磊の命令は、彼女の想像をはるかに超えていた。


「靴を脱げ。」趙磊は赤ワインの入ったグラスを揺らしながら、まるで天気の話をするかのように言った。「それから靴下も脱いで、裸足になって。俺の足…舐めてくれ。」


林雪は一瞬息を呑み、無意識に一歩後退した。裸足。足。それを舐める。これまで趙磊のどんな要求にも応じてきた彼女だったが、この命令には言葉にできないほどの羞恥心が込み上げてきた。それは身を屈めること、頭を垂れること、そして彼女が最も隠しておきたい服従の欲望を、直接的に引きずり出す行為だった。


「どうした?やらないのか?」趙磊の声は依然として穏やかだったが、そこには断りを許さない威圧感があった。「契約書には、お前は俺の全ての要求に従うと書いてある。キスはよくて、足は嫌なのか?潔癖症か何かか?」


「いいえ…そんなことは…」林雪は自分の声が震えているのを感じた。彼女はゆっくりとしゃがみ込み、震える手でハイヒールの留め金を外し、絹のようなストッキングを脱いだ。素足が冷たい大理石の床に触れると、心臓の鼓動も一際大きくなる。彼女が躊躇っていると、趙磊は革靴を脱ぎ、黒い靴下を脱いで、裸足を彼女の前に無造作に差し出した。その足は手入れが行き届いており、爪は整えられ、ほんのりと男性用のムスクの香りが漂っている。しかしそれでも、それは足だった。人が歩くために地面を踏みしめる足だった。


林雪は跪き、腰を落として、趙磊の足の甲にゆっくりと顔を近づけた。彼女は目を閉じ、まるでそれがただのゲームの一部であり、特殊な儀式であるかのように、自分に言い聞かせた。そして彼女は舌を伸ばし、趙磊の足の親指の背にそっと触れた。ほんのわずかな塩味と、微かな革の匂い。それは受け入れがたい味ではなかったが、精神的な衝撃は計り知れなかった。彼女がこれから舐めようとしているのは、他人の足なのだ。


「口を開けて、全部含め。そうだ、そうやって…隅々まで丁寧に舐めるんだ。」趙磊は彼女の髪を撫でながら、根気よく指示を出した。「歯を立てるな。リラックスして、ただのアイスクリームだと思え。口に含めば、自然とできるようになる。」


林雪は彼の言葉に従い、口を開けて趙磊の親指を咥えた。趙磊のもう片方の足の指が、ゆっくりと彼女の頬を撫で、目じりをつつき、最後に彼女の唇の間に無理やり押し込まれた。涙が林雪の目に溜まり、羞恥と屈辱が彼女を完全に飲み込んだが、不思議なことに、彼女の体の奥底から言いようのない震えが湧き上がってくるのも感じていた。それは彼女が初めて観覧車でキスをした時に感じた感覚とよく似ていたが、何倍も強烈だった。彼女は自分の尊厳が、趙磊の足の指の下で、一枚一枚剥がされ、粉々に踏みにじられていくのを感じた。しかし、まさにこの徹底的な破壊と征服こそが、彼女に陶酔にも似た奇妙な安堵感をもたらしていた。


(もう何も考えなくていいんだ。抵抗しなくていい。先生の命令に従うことだけを考えればいい。これが私のあるべき姿なんだ…。)


林雪の目つきは次第にぼんやりとし、舌の動きは機械的でありながらも熱を帯びていった。彼女は趙磊の足の指を隅々まで丁寧に舐め、その間の薄い皮の部分さえも忘れずに舐めた。リビングには彼女が舐める小さな水音と、趙磊が時折発する満足げなため息だけが響いた。彼女の意識はもうろうとし、自分が誰なのか、ここがどこなのか、ほとんど分からなくなっていた。ただ目の前にある、この自分を支配する足だけが、彼女の世界の全てだった。


「よし、よくやった。」趙磊が長い時間をかけてようやく満足そうに言った。彼は足を引っ込め、林雪の涙で濡れた顔を、足の裏でぽんぽんと軽く叩いた。「本当にいい子だ。陳浩がこんな宝物を俺にくれるなんてな。よし、今日はここまでだ。家に帰って、この可愛い姿をあいつにちゃんと伝えるんだな。もちろん、動画は必須だ。」


林雪は茫然としながらも、言われた通りにした。彼女はだらしなく開いた自分の唇や、趙磊の足の指が口の中で出し入れされる様子、自分がまるでこの上ない美味しいものを味わっているかのような、トロンとした恍惚の表情を、全て動画に収めた。


マンションを出た瞬間、夜風が彼女の意識をいくらか呼び戻した。しかし自己嫌悪の念が湧き上がると同時に、むしろ彼女の足取りは軽くなっていた。彼女は無理やり連れて行かれたわけでも、無理強いされたわけでもないと確信していた。全ては自分の意志で選んだのだ。選んだ結果がこれであり、全身全霊で足を舐めたことが何よりの証拠だった。この感覚は陳浩の前では決して味わえないものだった。陳浩の前では、彼女は常に愛されるべきで、守られるべき女神だった。しかし趙磊の前でだけ、彼女は女神の仮面を脱ぎ捨て、ただの雌犬になることができた。何もかもを考えず、ただ男の命令を実行するだけの雌犬に。


自宅マンションの下に着く頃には、林雪は既に気持ちを立て直し、動画を陳浩に送信してあった。エレベーターが上がっていく間、彼女は何度も自分の唇を拭った。足を舐めた後の匂いはもうなかったが、あの精神的な痕跡は決して消えることはなかった。ドアを開けると、陳浩はちょうど彼女が送った動画を見終えたところで、青白い顔をして玄関に立っていた。


二人は廊下で見つめ合った。陳浩の目は真っ赤に充血し、唇は何かを言おうとして震えていたが、結局何も言葉にできなかった。彼はスマートフォンを握りしめ、一歩前に出ると、林雪を乱暴に抱きしめ、まるで彼女を自分の骨肉にめり込ませようとするかのように強く抱きしめた。そして彼女の耳元で、押し殺したような声で尋ねた。「心は…まだ俺のところにあるんだよな?雪、心は俺のものなんだよな?」


林雪は彼の震えを感じ、彼女も手を伸ばして陳浩の震える背中をそっと抱きしめた。しかし頭の中では、趙磊の言葉が何度も繰り返し響いていた――「雌犬には、自分の心を持つ資格すらないんだ。」


「うん…」彼女は陳浩の背中を軽く叩きながら、声を潜めて言った。「もちろん、あなたのものよ。まだゲームは続いているんだから。私たちは契約を結んだのよ、忘れたの?」


その言葉は陳浩にとって、最後の一縷の望みをつなぎとめる救命綱のように思えた。彼は何度もうなずき、林雪の手を握りしめて寝室へと歩いていった。しかし彼には見えていなかった。彼に背を向けた林雪の目には、疲れと虚脱以外に、ほんの一瞬、奇妙な安堵の色がよぎったのを。彼女は知っていた。明日、また趙磊の呼び出しに応じて、さらに命令を実行するだろう。心の中のある部分は陳浩の元に残っていると信じたかったが、体は正直だった。趙磊に跪き、屈服したあの瞬間、彼女は初めて本当の自分を見つけたような、そんな気がしていたのだ。


寝室では、陳浩が動画を繰り返し再生していた。音を最大にして、林雪が懸命に足の指を舐める恥ずかしい水音を聞きながら、彼は猛烈に自慰を始めた。林雪は背を向けて横たわり、耳をふさぎたかったが、全身の力が抜けてしまい、手を動かすことすらできなかった。彼女は目を閉じ、観覧車やマンションでありったけの羞恥を与えられた時のことを思い返していた。そして、陳浩の苦痛に満ちた喘ぎ声に合わせて、彼女の尻の奥が無意識にきゅっと収縮するのを感じた。もう、趙磊の支配を渇望し始めている自分を自覚しながら…。


足先とヒップライン

四日目の夜、届いた動画ファイルを開いた瞬間、陳浩は息を呑んだ。画面には、薄暗いホテルの一室が映し出され、柔らかな間接照明が肌色を艶めかしく浮かび上がらせている。中央のキングサイズベッドに、趙磊がゆったりと腰掛けていた。上はカジュアルなシャツを着崩し、下はスラックスを脱ぎ捨て、ボクサーブリーフだけの姿だ。そして、彼の足元に跪く林雪。彼女は黒いレースのキャミソールとショートパンツ姿で、俯き加減に趙磊の両足を見つめている。


「さあ、始めてくれ」趙磊の低い声がスピーカーから漏れる。林雪は小さく頷き、両手を伸ばして彼の右足をそっと持ち上げた。指先が、土踏まずから踵へ、そして足の甲へと這う。最初は恐る恐るだったが、趙磊が満足そうに目を細めると、彼女の動きに徐々に熱が籠もり始めた。指圧するように親指でグッと押し込み、手のひら全体で包み込むようにマッサージする。その仕草は、まるで奉仕すること自体に快感を見出しているかのようで、陳浩の胸はざわついた。


「足の指も、ちゃんと愛撫しろ」趙磊が命じる。林雪は顔を上げ、ほんの一瞬カメラをちらりと見た。かつてなら羞恥に歪めていたであろう視線が、今はどこか、とろりと溶けたような熱を帯びている。彼女は趙磊の足指を一本一本、自分の指でなぞり、やがて顔を近づけて、そっと唇で触れた。趙磊が微かに息を漏らす。その声が合図だったかのように、林雪は彼の足の親指を口に含んだ。唾液が光り、濡れた音がマイクに拾われる。陳浩は無意識に拳を握りしめていた。昨夜の夢とも現ともつかぬ映像が脳裏をよぎるが、これは現実だ。林雪が他の男の足をしゃぶっている。


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