帝陨 (Pixiv Fanbox)
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暗影初臨
双帝の戦いが終結し、天界の震動はようやく静まった。しかし、その余波は深く、勝利者の体内に刻み込まれている。蕭炎は重い足取りで蕭家の門をくぐった。胸の奥に渦巻く暗傷が、まるで毒蛇のように彼の源気を蝕み続けている。
「蕭炎哥哥!」
待ちかねたように、優しい声が響いた。蕭薫児だ。彼女は変わらず端正で、瞳には深い愛情と一抹の憂いを湛えている。その傍らには、冷艶な彩鱗が腕を組み、複雑な目で彼を見つめていた。小医仙は微笑みを浮かべているが、その笑顔の奥には疲れが滲む。納蘭嫣然はかつての鋭さを潜め、どこか影のある表情でうつむき加減に立っている。雲韻は宗主としての威厳を保ちつつも、その眼差しは蕭炎の顔色を案じて揺れていた。
「父様!」
鈴を転がすような声とともに、一人の少女が駆け寄ってきた。蕭瀟だ。背が高くすらりと伸びた肢体、あどけなさの残る美貌。彼女は無邪気に蕭炎の腕に飛びつき、爛漫たる笑顔を見せる。
「みんな……ただいま」
蕭炎はかすれた声で呟き、家族の顔を見渡した。これが自分の戦ってきた理由であり、守るべき全てだ。彼はそう信じて疑わなかった。しかし、その胸裏にわだかまる暗傷は、静かに彼の生命力を削り続けている。
「まずは療養に専念して。私達はずっと側にいるから」
蕭薫児がそっと彼の手を握る。その温もりに、蕭炎はわずかに安堵の息を漏らした。彼はすぐに閉関し、傷の治療に入ることを決める。今の自分に必要なのは、ただ静養だけだと信じて。
その頃、遠く離れた魂族の廃墟では、異変が起きていた。
崩れ落ちた石柱の下、瓦礫の山の中から、一本の青白い手が伸びる。魂風はゆっくりと身を起こし、全身に走る激痛に顔を歪めた。双帝の戦いで受けた傷は深い。だが、それ以上に彼を苛むのは、魂族の滅亡と、自らの敗北感だった。
「ちくしょう……蕭炎……!」
歯を食いしばり、憎悪を込めてその名を吐き出す。その瞬間、彼の脳裏に突如として無機質な声が響き渡った。
『女神攻略システム、起動。宿主:魂風。目標:蕭炎の周囲に存在する六名の絶世の美女。攻略成功ごとに、炎帝の残余源気を吸収可能』
魂風は目を見開き、その内容を反芻する。やがて、彼の口元が歪んだ笑みを形作った。
「女神攻略……システムだと?」
それは悪魔の囁きにも等しい誘惑だった。蕭炎の周囲の女たちを攻略し、あの忌々しい炎帝の源気を喰らい尽くす。ただの復讐ではない。あの男の誇りを、根底から打ち砕く愉悦が待っている。
「面白い……実に面白いじゃないか」
彼はゆっくりと立ち上がり、廃墟を見渡す。闇夜に包まれた魂界は、もはや何の価値もない。彼の新たな戦場は、あの蕭家にある。
数日後、ある夜のことだった。
魂風は漆黒の衣に身を包み、蕭家の領地を見下ろす丘に立っていた。遠くに見える屋敷の灯りは暖かく、家族の団欒を思わせる。その光景が、彼の胸中にどす黒い嫉妬と愉悦を掻き立てる。
「あれが……蕭炎の楽園か」
彼は冷ややかに呟き、その視線を屋敷の一角に向ける。そこには、小さな薬草園があった。小医仙が丹念に手入れをしている場所だ。彼女の優しい微笑みが、魂風の脳裏に焼き付いている。
「厄難毒体の小医仙……まずは彼女からいただこうか」
彼は低く笑う。毒体に苦しむ彼女にとって、それを解決できる存在は何よりも魅力的に映るはずだ。魂風は魂族の秘術を掌握しており、その知識は小医仙の心の隙間に入り込む鍵となる。
「毒を解く……か。人間とは、希望に縋りたがる生き物だ」
彼は掌をかざし、黒い霧のようなものを出現させる。それは、毒を中和する効能を持つ魂族の秘薬の一部だった。直接与えるのではない。まずは彼女の目に触れる場所に、さりげなく置く。好奇心を煽り、不安を植え付け、じわじわと追い詰める――それが彼のやり方だ。
一方、蕭炎は自室に籠もり、深い瞑想に入っていた。体内の源気は乱れ、暗傷は想像以上に深い。彼は歯を食いしばり、必死にその修復に努める。
「早く治さねば……皆を心配させている」
彼は家族の顔を思い浮かべ、闘志を燃やす。しかし、その心配は裏切られることになる。彼が閉関している間に、すぐ側で、運命の歯車が軋みながら回り始めていることに、彼はまだ気づいていなかった。
翌朝、小医仙はいつものように薬草園の手入れをしていた。朝露に濡れた葉をそっと撫でながら、彼女は小さくため息をつく。
「蕭炎……まだ本調子じゃないみたいね」
彼女の胸中には、愛する人を助けられない無力感が渦巻いている。自身の毒体もまた、完全に制御できているわけではない。ふと、彼女の視線が地面に落ちている小さな黒い結晶に止まった。
「これは……?」
彼女は首をかしげ、それを拾い上げる。結晶は仄かに温かく、手のひらの中で微かに脈動しているようだった。それは、彼女の毒体に共鳴しているかのように、淡い光を放つ。小医仙の心臓が、期待に跳ねた。
「まさか……これを調べれば、何か手がかりが?」
彼女は周囲を見回すが、誰もいない。結晶は、まるで運命的に彼女を導くかのように、そこに落ちていた。その正体が、魂風によって仕組まれた罠とも知らずに。
遠くの丘で、魂風は口元に笑みを浮かべ、その様子を見守っていた。彼の目には、獲物が罠に足を踏み入れる瞬間が映っている。
「さあ、始めようか……お前の大切な女たちを、一人ずつ、この手で堕としていく快楽を」
彼の低い呟きは、風に乗って闇へと溶けていった。蕭家の平穏は、すでに終わりを告げていたのだ。
薬香の蠱惑
裏山の薬園は、夕暮れの淡い光に包まれ、ひっそりと静まり返っていた。小医仙は膝を折り、一株の紫葉蘭草の前に座り込み、白く細い指先でそっと土をほぐしていた。風が吹き抜けると、薬草の香りがかすかに漂い、彼女の眉間には解けぬ憂いの色が濃く浮かんでいた。厄難毒体の毒気は、ここ数日、またもや体内で静かに荒れ狂い、胸の奥に何かが詰まったような息苦しさが、彼女を夜ごと安眠させてはくれなかった。
突然、背後で軽やかな足音が響き、からかうような声が静寂を破った。「小医仙、相変わらず勤勉だね。だが、そんなに無理をしても、根本的な解決にはならないよ。」
小医仙は急に振り返り、警戒の色をありありと浮かべた。魂風がそこに立ち、口元に微かな笑みをたたえ、手には翡翠色の酒壺を提げていた。夕日が彼の影を長く引き伸ばし、その瞳の奥には読み取れない暗い光が揺らめいていた。
「魂風?なぜここに?」小医仙は立ち上がり、無意識に一歩後退した。袖の中の手は、ひそかに力を込めていた。魂族のこの天才は、手段が陰湿この上なく、彼女はもとより彼と深く関わるつもりは毛頭なかった。
「もちろん、君に朗報をもたらすためにね。」魂風は歩み寄り、薬壺を軽く揺らすと、芳醇な酒気がたちまち漂い、幾ばくかの薬の香りが混じり合った。「この数日、古書を調べてついに見つけたんだ。厄難毒体を解消する秘法をね。この壺の薬酒は、君のために特別に調合したものだ。」
小医仙の心臓はどきりと跳ねたが、表情はあくまで平静を保った。「あなたにそんなことをしてもらう理由なんてない。私は自分でどうにかするから。」
「自分で?」魂風は低く笑い、その声にはかすかな嘲りが込められていた。「君の体内の毒気はすでに心脈にまで達している。あと半月もすれば、霊力で抑えきれなくなるだろう。その時は、苦しむのは君だけじゃない。君が最も大切に思っている人たちも無関係ではいられない。」彼は一歩踏み出すと、突然手を伸ばし、小医仙の細い手首を素早く掴んだ。その動きは電光石火の如く速く、彼女が反応する間もなかった。
「何をするの!」小医仙は怒鳴り、振り払おうとしたが、魂風の指先から一筋の冷たい霊力が伝わり、彼女の経絡にすっと流れ込んだ。その霊力はまるで生きているかのように、彼女の胸の下、肋骨の隙間、毒気が鬱結している場所を正確に突き止めた。長年彼女を苦しめてきた灼熱と息苦しさが、その霊力のなだめによって、まるで春風が凍土を溶かすかのように、少しずつ和らいでいくのが感じられた。彼女の体はわずかに震え、唇を開いたものの、非難の言葉は喉元で止まり、知らず知らずのうちに低く甘い吐息に変わっていた。
「どうだい、悪くないだろう?」魂風は小医仙の耳元に顔を近づけ、その声はささやくように、しかし抗いがたい魔力を帯びていた。「俺は君を救いたいだけだ。君が苦しむのを、じっと見ているわけにはいかない。」
小医仙は歯を食いしばり、残った理性で彼を睨みつけたが、身体は正直だった。久方ぶりの心地よさが彼女の抵抗を容赦なく蝕み、腕を振りほどく力さえも奪い去っていった。魂風が手を離すと、彼女は二歩よろめき、胸の奥の空虚感が突然、より深く、より強くなったように感じられた。
「今日はここまでにしておこう。」魂風は引き際をわきまえ、身を翻して立ち去ろうとしたが、その足取りは驚くほど悠然としていた。「もし必要なら、いつでも俺を訪ねてくるといい。この薬酒は、君に預けておく。」
小医仙は薬壺を手にしたまま、ぼんやりと彼が遠ざかる後ろ姿を見つめていた。胸の奥には言い知れぬ恐怖と、かすかな期待が同時に去来していた。
それからの数日間、魂風は毎日時間通りに裏山の薬園を訪れ、小医仙の治療と毒抜きを行った。最初のうち、彼の指はただ肩や背中を軽くもみほぐすだけで、霊力が注ぎ込まれるたびに、小医仙は全身の経絡が温かい流れに包まれるのを感じ、毒気が少しずつ溶けていくような感覚を覚えた。彼女の抵抗心は、この心地よさの中で音もなく崩れ去り、最初は警戒していた体も、次第に彼の指に慣れていった。
しかし、魂風の指はいつしか境界を越え始めていた。最初は腰のくびれに落ちただけだったが、やがて腹をゆっくりと撫で回し、さらに衣服の下へと忍び込み、太腿の内側、毒気が最も溜まりやすい場所へと近づいていった。小医仙は慌てて彼の手を押さえたが、その力はあまりにも弱々しかった。
「だめ…そこは…」彼女の声はかすかに震え、半ば拒みながらも半ば誘うようで、自分でもそれが拒絶なのか、それとも懇願なのか区別がつかなかった。
「治療のためだ。我慢してくれ。」魂風の声は低く落ち着いていたが、指先の動きはますます大胆になっていった。彼は小医仙の下腹部の最も敏感な場所をしっかりと押さえ、霊力を注ぎ込んだ。その刺激は小医仙の全身を震わせ、歯を食いしばっても、低いうめき声が漏れ出るのを抑えきれなかった。彼女は目を閉じ、睫毛はしっとりと濡れ、心の中では罪悪感と依存がもつれ合い、もはや抜け出せない泥沼のようだった。
ついに、ある夜更けのこと。小医仙は独り房に座り、手にした薬壺を握りしめ、ためらいながらも一口で飲み干した。酒液は喉を流れ落ち、まるで火の塊のように胸の奥で爆発し、すぐさま全身の血潮を沸騰させた。彼女の意識は急速に混濁し、目の前の灯火は幾重にも揺らめき、体は熱く火照り、言い知れぬ渇望が心の奥底から湧き上がり、彼女自身も恐れ慄いた。
その時、部屋の扉が静かに押し開けられ、魂風が月明かりを背に歩み入ってきた。その顔は影に隠れ、はっきりとは見えないが、その瞳は驚くほど明るく輝き、貪欲で熱い光を放っていた。彼は何も言わず、ただ腰をかがめて小医仙を横抱きにし、寝台へと歩いていった。
「離して…離してよ…」小医仙はかすかな声で呟いたが、両腕は知らず知らずのうちに彼の首に絡みついていた。体の火照りは彼女の理性を完全に焼き尽くし、残ったのは身を焦がすような渇きだけだった。
魂風は彼女を柔らかな寝台に横たえ、指で器用に彼女の衣服を一枚一枚はだけさせていった。まず外側の紗の上着が、次に奥の胸当てが取り去られ、最後にはスカートまでもが音を立てて床に滑り落ちた。月明かりが窓から格子状に差し込み、彼女の白くきめ細やかな肌に降り注ぎ、鎖骨から胸の膨らみ、そして滑らかな太腿に至るまで、すべてがありありと露わになった。小医仙は身をよじって隠そうとしたが、魂風に両手首を押さえつけられ、頭上でしっかりと固定されてしまった。
「綺麗だよ、小医仙。」魂風は身を低くして彼女の耳元でささやき、その声は罠にかかった獲物をいたぶる毒蛇のようだった。「ずっとこうしたかったんだ。」
彼の指は彼女の肌の上をゆっくりと滑り、ついには彼女の最も秘められた場所へと達した。小医仙の体は弓のように跳ね上がり、口からは押し殺した悲鳴が漏れたが、それはすぐさま彼の唇に塞がれてしまった。彼の舌は器用に彼女の歯列をこじ開け、彼女の舌を絡め取り、酒気と欲望の味を彼女の口の中いっぱいに満たした。小医仙の頭は真っ白になり、残ったわずかな理性は情欲の波に完全に飲み込まれてしまった。
魂風の動きはますます激しさを増し、彼は小医仙の両脚を押し開き、身体を密着させた。侵入の瞬間、小医仙の全身は激しく震え、指先はシーツを握りしめて骨が白く浮き出るほどだった。しかし口はしっかりと塞がれ、声を出すことさえできず、ただ鼻腔から漏れる、泣いているのか訴えているのかわからない、あいまいなうめき声だけが響いた。寝台はリズムを刻んで揺れ、月明かりも羞恥に耐えかねて雲の裏へと隠れてしまったかのようだった。
どれほどの時間が経ったのかわからない。ようやく魂風が身を起こし、小医仙は力なく寝台の上に横たわり、髪は乱れ、目は虚ろで、涙の跡が頬に幾筋も乾かずに残っていた。彼女はぼんやりと天井を見つめ、唇はわずかに震え、声は枯れ果てていた。
「もう…もう戻れない…」
魂風は彼女の髪をそっと撫で、その指の動きは意外なほど優しかった。「戻らなくていい。これからは、俺がいる。」
小医仙はゆっくりと目を閉じ、涙が再びこぼれ落ち、枕元に染み込んでいった。彼女はわかっていた。自分の体も心も、この甘美な毒に完全に蝕まれ、もはや逃れられないのだと。
雲の頂の墜落
# 第三章 雲の頂の墜落
花宗の境内に、淡い花香が漂っていた。
魂風は白い衣を翻し、まるで旧友を訪ねるかのような悠然とした足取りで、奥庭へと続く石畳の小道を歩いていた。彼の手には精巧な翡翠の酒壺が握られ、壺口からは微かに薬草の香りが漏れている。
「宗主はいつもここで静養されているのか」
案内する花宗の弟子に、魂風は温和な笑みを浮かべて問いかけた。その笑顔は春風のように優しく、誰もが警戒心を解いてしまいそうなものだった。
「はい、宗主は毎日午後になると、必ずこの望月亭でしばらく過ごされます」
弟子が恭しく答え、魂風を庭園の奥へと導いた。
望月亭は花宗で最も高い場所にあり、ここからは花宗全体を見渡すことができ、遠くには雲海が広がっている。雲韻は白い雲紋の長袍をまとい、欄干にもたれて遠くを眺めていた。風が彼女の襟元の黒髪を撫で、その横顔には一抹の憂愁が浮かんでいる。
「雲宗主」
魂風の声が背後から響いた。
雲韻は振り返り、一瞬驚きの色を見せたが、すぐに宗主としての威厳ある表情を取り戻した。
「魂風公子、何かご用ですかな」
「無事だ。ただ、宗主と修行の道について語り合いたくてね」
魂風は自然に彼女の向かい側に座り、翡翠の酒壺を石卓の上に置いた。「これは魂族秘蔵の花酒で、数十種の珍しい薬草で醸造したものだ。修行者の経脈を整え、心身を養う効果がある」
雲韻は微かに眉を寄せたが、拒絶はしなかった。
「公子、わざわざご丁寧に」
「宗主はかつて蕭炎と並んで戦い、風凌遺跡で生死を共にしたと聞いている」
魂風は玉杯に酒を注ぎながら、何気なく口を開いた。その言葉に、雲韻の指先がわずかに震えた。
「それは...遠い昔のことだ」
雲韻の声には聞き取りにくい感情が込められていた。彼女は玉杯を受け取り、琥珀色の酒液が杯の中で揺らめき、甘美な香りを放っている。
「遠い昔のことでも、忘れ難いこともある」
魂風は杯を掲げ、自ら一口含んだ。「宗主は花宗に身を置きながら、心は常に過去のどこかに留まっている。長年修行してきた私には、それがありありと見える」
雲韻は答えず、ただ杯の中の酒を見つめていた。そしてゆっくりとそれを口に含んだ。酒液は喉を滑り落ち、確かに温かい流れが五臓六腑に広がり、全身を包み込むような心地よさがあった。
「これは...確かに珍しい美酒だ」
雲韻は思わず賞賛の声を漏らした。
「宗主が気に入ってくれて何よりだ」
魂風は再び彼女の杯に酒を注いだ。彼の瞳の奥には、ほとんど気づかれないほどの暗い光が一瞬走った。
二人はこうして向かい合って座り、修行の道や過去の出来事について語り合った。魂風は博識で、語る言葉の一つひとつが的を射ており、雲韻の心に響いた。彼女は次第に警戒心を解いていった。この若者は確かに非凡な見識を持っていると感じたのだ。
酒が三巡した頃、雲韻はようやく異変に気づいた。
ある種の痺れが四肢から広がり、闘気がこれまでにないほど緩慢に流れ始めたのだ。彼女は立ち上がろうとしたが、足がまるで自分のものではないかのようにかすかに震えた。
「この酒...」
「宗主、ご心配なく」
魂風も立ち上がり、その口元には相変わらず温和な笑みを浮かべていた。「ただ、あなたの闘気を一時的に封じるだけで、体に害はない。それに...」
彼は一歩前に進み、突然雲韻の手首を掴んだ。
「宗主は闘宗の強者でありながら、ここ数年は修行が停滞し、心に解けない結び目がある。私は今夜、あなたのためにその結び目を解いて差し上げよう」
「離して!」
雲韻は振りほどこうとしたが、全身の力が徐々に失われ、魂風の腕は鋼の箍のように彼女を締め付けていた。
「蕭炎はあなたに何を与えた?」
魂風は身をかがめ、彼女の耳元で低くささやいた。その声には魅惑的な魔力が宿っている。「彼はあなたに宗主の地位を与えたが、本当に必要なものを与えられなかった。孤独な夜更けに、あなたは何度彼の名前を呼んだだろうか?けれど彼は、自分の世界にしか目を向けていない」
「黙れ!」
雲韻の声は震えていた。それは怒りからなのか、それとも心の奥底の何かを突かれたからなのか。
魂風はそれ以上言葉を発さず、彼女を横抱きにして望月亭の奥にある密室へと歩を進めた。
密室の中は薄暗く、壁に掛けられた夜明珠がほのかな光を放っているだけだった。魂風は雲韻を柔らかな獣皮の敷物の上に置き、手を伸ばして彼女の頬を撫でた。
「宗主、あなたはとても美しい。こんなにも美しいのに、なぜ独りでいることを選ぶのか」
「私を...放して...」
雲韻は必死に闘気を巡らせようとしたが、体内の薬効が彼女のすべての努力を無に帰した。彼女は涙が目に溜まっていくのを感じた。この無力感は、かつて風凌遺跡で重傷を負った時の感覚を思い出させた。
魂風の指は彼女の襟元に滑り、ゆっくりと雲紋の長袍の帯を解いた。
「違う!」
雲韻は最後の力を振り絞って抵抗したが、その動きは魂風の前ではまったく無力だった。長袍がはだけられ、白い肌が空気に晒される。魂風の眼差しは彼女の体の上を這うように動き、まるで獲物を弄ぶ毒蛇のようだった。
「斗宗の強者、花宗の宗主...」
魂風は身をかがめ、彼女の耳元でささやいた。その声には侮蔑と興奮が入り混じっている。「今はただ、私の下で震えるしかない女だ」
雲韻は涙を流し、足をしっかりと閉じた。しかし魂風の手は彼女の膝を力強く押し広げ、その力は彼女の抵抗をまったく許さなかった。
「なぜ...なぜこんなことを...」
雲韻の声はすでに嗚咽に変わっていた。
「なぜか?」
魂風は低く笑った。「蕭炎がかつて敬愛した人だからだ。彼の目の前で、一輪の高嶺の花を摘み取る。これこそが、最も彼を打ちのめす方法だ」
彼の言葉が終わると同時に、雲韻は耐え難い痛みを感じ、思わず低くうめき声を漏らした。彼女は唇を強く噛みしめ、血の味が口中に広がった。
密室の中に、衣擦れの音と荒い息遣いが響いた。
雲韻は目を閉じた。涙がこめかみを伝って落ち、獣皮の敷物を濡らしていく。彼女は考えないように努めた。蕭炎のことも、過去のことも、今自分の身に起こっているすべてのことも。しかし、身体の反応を裏切ることはできなかった。魂風の巧みな愛撫の下で、彼女の身体は徐々に応え始めていた。その感覚は彼女を深い恥辱に陥れた。
どれほどの時間が経ったのか、雲韻にはわからなかった。
魂風がようやく彼女から離れた時、彼女は敷物の上で丸まり、体はわずかに震えていた。長袍は破れ、肌には赤紫色の痕が無数に残っていた。
「宗主、今夜の論道は実に有意義だった」
魂風は衣を整え、何事もなかったかのように振る舞った。「またの機会に、ぜひ再びお相手願いたい」
彼は密室を出て行き、雲韻だけが暗闇の中に取り残された。
翌日、雲韻は新しい長袍に着替え、厚く白粉を塗り、何事もなかったかのように花宗の弟子たちの前に現れた。彼女は背筋を伸ばし、表情は平然として、宗主としての威厳を保っていた。
しかし、蕭炎が花宗を訪ねてきた時、すべての偽りは一瞬で崩れ去った。
「宗主、お久しぶりです」
蕭炎は庭園に立ち、相変わらず温和な笑みを浮かべていた。彼は何も知らず、ただ旧友を訪ねてきただけだった。
雲韻は彼を見つめ、唇をわずかに開いたが、何も言えなかった。彼女の瞳の奥には、言い知れぬ潤んだ光が浮かび、それは見る者を哀れませるほどだった。
「宗主?」
蕭炎は彼女の異変に気づいた。
「...大丈夫だ」
雲韻は無理に笑みを浮かべ、声はかすかに震えていた。「ただ、昨夜はよく眠れなかっただけだ」
彼女は背を向け、蕭炎に自分の失態を見られないようにした。袖の中の指が拳を握りしめ、爪が手のひらに深く食い込んだが、その痛みは心の苦しみに比べれば何でもなかった。
風が吹き抜け、花びらが舞い散った。
この花宗の境内で、雲韻はついに涙がこぼれ落ちるのを止められなかった。しかし彼女は声を殺し、蕭炎に気づかれないようにした。なぜなら彼女は、昨夜のあの悪夢が決して終わってはいないことを知っていたからだ。
それは、始まりに過ぎなかったのだ。
旧盟の新たな傷跡
蕭家の客殿には、ほのかに清茶の香りが漂っていた。納蘭嫣然は背筋を伸ばして座り、雲嵐宗の使者として今後の同盟の細則を協議していた。かつての鋭さは今や内に秘められ、挙措の端々には洗練された落ち着きが感じられる。対面に座る蕭炎は、柔和な笑みを浮かべて彼女の提案に耳を傾け、時折うなずきながら茶を口にした。
「嫣然、そなたの考えはよくわかった。雲嵐宗と蕭家の同盟はもはや形だけのものではない。細かい点は私が手配しよう」蕭炎の声音は平穏で、かつてのわだかまりはとうに消え去ったかのようだった。
納蘭嫣然はかすかにうなずき、目を伏せて湯呑みの縁をなぞった。心の奥底で何かがかすかに動いたが、それでも平静を装って言葉を交わした。しばらくして議事が終わると、蕭炎は立ち上がり、庭の闘気の陣を調整しに向かった。彼の背中が視界から消えると、客殿にはただ彼女だけが取り残された。
窓の外の陽光が格子を通して斑に落ち、彼女の白い長髪に降り注ぎ、絹のような柔らかな光沢を帯びていた。彼女は軽く息を吐き、立ち上がって立ち去ろうとしたその時、背後から聞き慣れた、しかし背筋の凍るような声が響いた。
「嫣然仙子は相変わらず風采が変わらぬな。ただ……その眉間の憂いの色は、以前よりもずっと濃くなったようだ」
納蘭嫣然は急に振り返り、魂風が扉口に斜めにもたれて、口元に淡い、しかしどこか冷たい笑みを浮かべているのを見た。彼の目は深く、まるで彼女の最も柔らかい場所を一瞬で見透かすかのようだ。
「魂風……何をしに来た」納蘭嫣然の声音は平静を保っていたが、指先はわずかに袖口を握りしめた。
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